DISC REVIEW
S
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SEBASTIAN X
イェーイ
この仕事をしていると、"音楽を言語化なんてできるの?"と訊かれることがあるけど、音楽批評は"音楽の言語化"とはまったく別物だよ。そもそも、音楽は音符ですら説明しきれないものなのだよ。でも、今の僕らは音楽を言語化/可視化できると思い込んでいるフシがある。SEBASTIAN Xの記念すべきメジャー・デビュー作は、その名も『イェーイ』。たとえ"イェーイ"と歌ったところで、それを歌詞カードに載せるミュージシャンは少ない。でも、SEBASTIAN Xは"イェーイ"と言葉にしなければならなかった。きっと永原真夏にとっては、この"イェーイ"という言葉すらもどかしいのだろう。言語化/可視化できない音楽の"根っこ"に掴みかかる。それをメジャーというフィールドでやろうとしている。SEBASTIAN X、この先も断固支持。
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音沙汰
SUPER GOOD+
太陽は人を照らすが、では太陽を誰が照らしてくれるのだろうか。人は母なる海へと帰っていくが、では海はどこへ帰ればいいのか。星空は僕らの哀しみを癒すが、星々の涙は誰が拭うのか。大きいものはそれだけで優しくて、だからこそ孤独でもある。SEBASTIAN Xの永原真夏という人は、そんな大きなものの孤独と哀しみを知っているからこそ、ステージの上であれだけ強く美しく輝いていられるのかもしれないと、この工藤歩里とのユニット=音沙汰の初音源を聴いていると思う。ここには、歌とピアノというシンプルな編成によって紡がれた、まるで太陽や海や星空のように大きくて優しくて孤独な曲が並んでいる。帰る場所を持たない子供たちと、届くことのない"I love you"のための音楽。「ホームレス銀河」とSuiseiNoboAzの名曲「64」のカバーが特に素晴らしい。
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SEBASTIAN X
POWER OF NOISE
初期SEBASTIAN Xにあった向こう見ずな多幸感、パワフルさは、"今、この瞬間を謳歌しよう"という刹那性によるものだった。故に、当時の彼らの表現は、自分たちもいつかは"過去"となり消え去ってしまうという切迫感を孕んでいたのも事実だ。しかし、DAFT PUNKの新作が証明してみせたように、未来とは過去があるからこそ作られる。記憶は、人が未来へと歩むための最も大きな武器だ。『POWER OF NOISE』は、とても真摯に永原真夏が過去を肯定したアルバムだ。彼女は、パンク少女だった頃の自分を見つめながら、過ぎ去る時間の中で、それでも残るものを未来へ繋げようとする。「DNA」で彼女は歌う。"友達よ 恋人よ 同じ気持ちでいられるなら 血は必ず繋がっていく"――このアルバムは、音楽という魂の連帯と連鎖を強く祝福する。
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SEBASTIAN X
ヒバリオペラ
SEBASTIAN X初のフィジカル・シングル・リリースとなる本作。タイトル曲「ヒバリオペラ」の主人公は、男の子に恋に落ち、まだ恋人関係になる前にもかかわらずベッドを共にし、<本気になるつもりじゃなかったの>と心の中で呟いてみせる、どこにでもいるような女の子だ。しかし、そんな女の子の中に、SEBASTIAN Xは生命の輝きを見出してみせる。机上の空論よりも、若者たちのリアルな生活の中にある喜びと悲しみを何よりも敏感に感知し、そこに向けて歌ってきたバンドだからこその説得力。去年のミニ・アルバム『ひなぎくと怪獣』を経て、SEBASTIAN Xは自分たちの届けるべき音と言葉を見定め始めたのだろう。自分の輝き方は自分自身で決めることができるのだということを、この曲はとても鮮やかに伝えている。
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SEBASTIAN X
ひなぎくと怪獣 (初回限定盤のみDVD付2枚組仕様)
今までのSEBASTIAN Xの音楽に常に根付いていた感覚―それは、"私たちはいつか死ぬ"という、人間が唯一知ることのできる真理に他ならない。彼女たちは、その圧倒的な事実に絶望し、だからこそ、"今"を何よりも謳歌するための音楽を鳴らしてきた。だが、このミニ・アルバム『ひなぎくと怪獣』は、今までの作品とは少しばかり様相が異なる。本作において、彼女たちは"衝動"という普遍的なテーマを掲げることで、"死"や"過去"といった自らを捕らえて離さなかった呪縛を解き放つことに成功している。その結果、今までのどの作品よりも聴き手に対する訴求力を持つメッセージ・アルバムになった本作は、SEBASTIAN Xの今後を左右するターニング・ポイントとなる1枚だろう。
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SEBASTIAN X
僕らのファンタジー
08年結成の男女4人組 SEBASTIAN Xの2ndミニ・アルバム。"ぼくらのファンタジー"とは、あくまでも永原真夏(Vo)の"ぼくら"であり、このファンタジーに足を踏み入れることは、彼女の世界に触れることを意味する。それほどに、作中の彼女の存在は圧倒的だ。笛とアコーディオンの音が印象的なアイリッシュ調の冒頭曲「フェスティバル」で、"音楽は続くだろう" と高らかに歌い上げ、冒険の幕開けを告げる。船出したその先にあるのは、アコーディオン、ホーン隊、バイオリン、スティールパン、多くの楽器を鳴らした、まるでカーニバルのような賑やかな世界。その中心にはやはり彼女がいる。自由気ままに、踊るように歌いながら、ひとつひとつの音に命を与えてまわっていくその姿、音と言葉を解放していくその様は、まさにファンタジーだ。
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SECONDWALL
OVER
紅一点ヴォーカルYUKAを擁する5ピース・バンドの約1年3ヶ月ぶりの新作。中川翔子やSCANDAL、伊東歌詞太郎などを手掛けたことでも知られるnishi-kenをサウンド・プロデューサーに迎え制作された3rdミニ・アルバムは、彼女たちが元来持つ海外のポップ・パンクやエモに通ずる音楽性を残しつつ、ポップス感のあるメロディをフィーチャーしたものになった。J-POPさながらの和メロが切なく爽快なTrack.1、ヘヴィなギターとデジタル・サウンドの交錯がスリリングなTrack.2、マーチングのドラムが印象的なアンビエント感のあるTrack.4など、nishi-kenの力で様々なウワモノが入ることでさらにエネルギッシュなサウンドスケープになっている。
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Seebirds
Lossphilia
mol-74のベーシストでもあるRyoma Takahashiがヴォーカルを務める、Toshitaka Nikiとのふたり組バンド、Seebirdsがおよそ3年半ぶりにリリースする。エレクトロニカ、シューゲイザーの要素を感じるサウンドと柔らかく繊細なヴォーカル。ギター、ベース、ドラムによるバンド・サウンドが基軸となっているが、メンバーの編成や楽器の種類に捉われないようなトラックメイク。浮遊感のあるサウンドが時折生っぽくなり、牙を剥く瞬間にドキッとさせられる。本作は"失うこと"をテーマに据えた作品とのこと。とはいえ、喪失に伴う悲しみや苦みそのものよりも、記憶の断片が乱反射する様子が音や曲として表現されている。輝けば輝くほど切なく感じられる音楽。
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SEEKER LOVER KEEPER
Seeker Lover Keeper
iPod のTVCM 曲「1,2,3,4」で世界的に有名なソング・ライターのSally Seltmann、昨年日本でも大ヒットしたSarah Blasko、そしてSpunk Recordsの歌姫Holly Throsbyというオーストラリアを代表する女性ソング・ライター3人がコラボしたスペシャルなアコースティック・トリオがついにデビュー。P.J. HarveyやNick Caveを手掛けた名プロデューサーを迎えており、美しいハーモニーの溢れる作品となった。可愛らしい3人の声で代わる代わる紡がれるアンニュイな旋律は極上の癒し系ポップ・ソング。アルバムの後半になればなるほどメルヘンな世界が広がり、日常の喧騒を忘れさせてくれる。
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SEENA SHEEP SKIN
FAKE FUR
バンド・スタイルと弾き語りの両軸で活動するシンガー・ソングライターの1stミニ・アルバム。ハイトーンの中に危うさを秘めたヴォーカルが、バラエティに富む楽曲のテイストを束ねている印象だ。ストレートなギター・ロック調の「光はどっちだ」や、ポップな「ハウリンガール」、アコースティック・バージョンも存在する「巡りの月」は、淡々と進むミディアム・テンポを経て、悲しみに満ちたノイジーなギターが登場する構成に心を揺さぶられる。リード・トラックの「ラピスラズリ」は、四つ打ちというよりポスト・パンク的なビート感とエロティックにも取れる歌詞のバランスがクール。ラストの「キャラメル」はメロディの素朴さとサウンドのラウドさの対比が印象的だ。表裏を感じる1枚。
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SEKAI NO OWARI
スノーマジックファンタジー
SEKAI NO OWARIの2014年第1弾シングル。タイトル・トラックは、"ぜんぶ雪のせいだ。"というキャッチ・コピーとともに、DJ LOVEがティーザー広告に登場したことでも話題となった"JR SKISKI"キャンペーンのCMソング。重厚なマーチにのせて歌われるキラキラした甘くファンタジックな世界観が存分にインサレートされた歌詞には、"君"に恋焦がれる"僕"の感情がギュッと詰め込まれている。カップリング曲「銀河街の悪夢」は足音や踏切の音などの効果音が情景を想像させ、現実を乗り越えようとする主人公の様子が目に浮かぶようである。総制作費5億円という破格のスケールで開催された"炎と森のカーニバル"の映像が収録される初回盤DVDも楽しみだ。
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SEKAI NO OWARI
2010.12.23 SHIBUYA C.C.Lemon Hall
世界の終わり、初の映像作品は、昨年末に行われた渋谷C.C.Lemonホール公演の模様を収めたもの。いやはや、映像として見ると、凄まじいとさえ思う―。そして、"何故、今、世界の終わりはこれほど求められているのか"ということが良く分かる。今の子供たちが求めているのは、共感でも、励ましでもなくでもなく、世界を丸ごと作り変えてくれる新たな創造主なのだ。"清い"オーラが眩しく乱反射するような彼らのステージには、その楽曲同様に、全てを白く塗りつぶしてしまおうとでもいうようなパワーがある。世界の疎ましさを打ち消すため、自らを欺くために彼らが作った"白い世界"は、ライヴという生身の空間を通すと、今のこの現実の世界を必死で生き抜こうとする生々しい想いが浮かび上がってくる。そして分かるのだ、このバンドから目を背けてはいけないと。
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Self-Portrait
未来マテリアル
ベスト盤的な側面を持った初全国流通盤から1年経たずに放たれるミニ・アルバム。バンドを熱く彩ってきた「コントラスト」をはじめ、エモさ溢れる「シルエット」や、遠く離れた大切な人を想ったロック・バラード「灯火」といった、彼らが得意としている曲調もありつつ、瑞々しさや力強さはありながらも包容力のあるバンド・サウンドを高鳴らす「シスター」や、カッティング・ギターや跳ねるビートがクールな印象も与える「星の無い夜」、軽快なシャッフル・ビートに男心を乗せた「下心」など、バンドの新機軸となるものにも挑戦している。新たな表情を見せつつも、それが散漫にならず、らしさが滲み出ているのは16年という月日が積み上げてきたものがあってこそ。リスナーの日常で湧き起こる喜怒哀楽に寄り添う全6曲だ。
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Self-Portrait
AT FIRST
大阪を拠点に活動する4人組ロック・バンド、Self-Portraitがバンド活動15年という節目の年にリリースする初の全国流通盤。「ライブハウスで逢えたら」や「此処に居たいと願うこと」など、自分たちを生み、育てたライヴハウスという場所への想いをリアルな言葉で綴る楽曲では、Self-Portraitというバンドの愚直な生き様を生々しく伝える。15年のキャリアを総括する内容でありながら、バンドの初期曲「掌」から新曲「青い春」、「極彩モノクローム」まで、初期衝動を忘れないバンド・サウンドとグッド・メロディを貫き続ける芯の強さに、このバンドの美学を感じた。正解が見つからずに悩む日もあるけれど、誰もがハッピーエンドのために人生を謳歌している、そんな晴れやかなメッセージがいい。
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serial TV drama
パワースポット
昨年春のメジャー・デビュー以降巷を賑わせ、先月リリースされたシングル「桃源郷エイリアン」も記憶に新しいserial TV drama。ヴォーカル鴇崎智史が加入して約1年という節目に当たる8月に、とうとうメジャー1stフル・アルバムがリリースされる。Winkのカヴァー「愛が止まらない-Turn It Into Love-」などのシングル曲も収録した全13曲は、とにかく1曲1曲のパワーが凄まじく、良い意味でなかなかリラックスさせてくれない。最初から最後までハイ・テンションで突っ走って行く。パッション漲る鴇崎の歌声に触発されるように踊り狂うポップでキャッチーなバンド・サウンドは、灼熱の夏にも負けないアツさだ。ラップにも挑戦したりと、チャレンジ精神旺盛の1枚。新生シリアル本格始動!
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SEVEN SATURDAYS
The Shallow End
本作はこれまで発表した2枚のEPを組み合わせ、リミックスや未発表曲を加え編集した日本独自企画盤である。プロデューサーはSt.Vincentのデビュー作を手掛けたDaniel Farris。さらにレコーディング・メンバーにはMorgan Grace Kibby(M83)、Wesley Precour(t Jenny Lewis)、Mike Garson(David Bowieの数々のアルバムに銀盤で参加)など、錚々たるメンバーが名を連ねる。あらゆる要素を視覚的な音像に構築した驚くべきセンスには、やはり豪華なバックの影響も大きいだろう。その雄大で荘厳な音響空間は、ALBUM LEAFの叙情性、SIGUR ROSの抱擁力、M83の轟音美、そしてBrian Eno の優美なトーンまで漂うもの。瞬時に心を染め上げる音のマジックに彩られた本作で沸き起こるのは、希望?愛?絶対的な答えのないインストゥルメンタルは、あなたの解釈をもって燦然と輝くはずだ。
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SHAKALABBITS
18 Years
活動休止前のツアー"What Time Is It !?"最終日、新木場STUDIO COAST公演を丸ごと収録したライヴDVD。メンバー&オーディエンス&スタッフの、笑顔と汗と涙と世界一の歌声がギッチリ詰まった全37曲計180分である。バンドの歴史を網羅した選曲により、音楽的実験と研究と挑戦を繰り返しながらも、そのすべてをポピュラリティ・ミュージックに昇華、歌モノとして響かせる稀有な才能に、アンバランスなバランス、さらにアバンギャルドな音楽性に改めて驚愕。そして休止するバンドとは思えぬグルーヴに圧倒される。間違いなく結成18年のSHAKALABBITSの現在地であり、愛してくれるみんなへの感謝の気持ちが目一杯詰まった1枚なのだ。
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SHAKALABBITS
Her
結成18年目を迎えるSHAKALABBITSのアルバムは、このバンドらしく、様々なタッチのサウンドによる、カラフルでラウドで、ポップで、エモーショナルな1枚となった。1曲1曲、物語を編むように、そのサウンドは細やかなディテールを積み重ねて、緩急や奇想天外なドラマを生み出す。ロック・ミュージックとして新鮮で、力のあるものを描き出していこうという高い鼓動が聞こえる。のっけからバンドの高いテンションが伝わってくるが、まだクライマックスはこれからだと言わんばかりで、万華鏡のように変化しながら、リスナーをまばゆく、そして濃厚で色鮮やかなサウンド世界に連れていく。2017年内で無期限の活動休止期間に入ることを発表し、その最後のアルバムとなる今作。彼らの、醒めない夢を封じ込めた内容だろう。
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SHAKALABBITS
神ノ街シアター
16周年を迎えたSHAKALABBITSの2015年5月にリリースされた前作シングル『Climax』からわずか4ヶ月で届けられるマキシ・シングル。UKIのキュート且つ巻き舌で音符に放り込む独特な言葉遣いによるヴォーカルと緩急をつけたアレンジが楽しい表題曲「神ノ街シアター」は2007年にリリースされた2ndビデオ・クリップ集と同タイトル。架空の映画館に迷い込んだかのような物語が描かれている。同梱のDVDにはUKIが初監督を務めた同曲のMVが収録されているので、頭の中で想像した世界が実際の映像とどう重なるか考えるのも面白い。「Climax」「I'll miss havin' ya'round tonight」の息遣いまで聴こえるライヴ音源は彼らのタフな音楽が多くのリスナーの生きる糧になっているであろうエネルギーが伝わってくる。
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SHAKALABBITS
Climax
今年1月に実験演劇"新宿版 千一夜物語"に出演して話題を呼んだSHAKALABBITSが、シングルというフォーマットでは久々の3曲入り音源を完成。表題曲は冒頭からUKIの軽やかなヴォーカルで幕を開ける疾走感溢れる曲調だ。とはいえ、リズミックなギター、深みのあるベースの音色も印象的で緩急をつけた表情豊かなサウンドに仕上がっている。「I'll miss havin' ya 'round tonight」は、穏やかに歌い上げるヴォーカルと繊細なアレンジがうまく融合されたナンバー。中盤過ぎにはハーモニカ、曲のアウトロには印象的なコーラスも導入し、最後まで飽きさせない作りでニクい。また、Rei Mastrogiovanniがリミックスを手がけた表題曲もカラフルなダンス・チューンで最高だ。
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Sharon Van Etten
Are We There
ねっとりした歌声で歌うメランコリックな歌の数々に充満する息が詰まるような緊張感を考えると、誰が聴いても楽しめる作品ではない。しかし、その存在感は圧倒的。いや、この4作目のアルバムでさらにスケール・アップしていると言ってもいい。USインディーのミューズと謳われるブルックリン出身の女性シンガー・ソングライター。ざっくりとした質感のサウンドを求めながら、アンビエント調からピアノの弾き語りまで、曲ごとに趣向を変える多彩なアレンジが作品全体に作りだした起伏のある流れもスケール・アップを印象づける理由の1つだろう。ゆったりとしたグルーヴを描きながらバンドがダイナミックな演奏を繰り広げるTrack.3「Your Love Is Killing Me」は、往年のPatti Smithを彷彿とさせる。
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the audio pool
Escape from the World
3年半ぶりの新作にして新体制初作品。活き活き弾むストリングスにギターのカッティングが重なりバンドの音が溢れる----というTrack.1「SCARLET」のワクワク感からしてもう完全に大正解。たくさんの種類の音を重ねまくっているにもかかわらず、互いが一切打ち消し合わず、みずみずしく生命力を放つ。彼らが掲げる"5PiecePower POP Orchestra"とは何なのか、ほんの数十秒で体感させられてしまった。この圧倒的な即効性こそが、長きにわたったスタジオ・ワークや国内外でのツアーの賜物であろう。使えるものを全部取り入れて表現を拡張することがそのまま個性に繋がるタイプのバンドだと自覚し始めた今、きっと怖いものなんてないはず。新章、突き進むのみ。
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she9
ハイファイハハイファイ / Dolly
5月の「最強★ピース」、「BPM」、8月の『トライミライ / どうだっていいよ』に続き、立て続けにドラマの主題歌を担当して注目を集めている4人組Z世代ガールズ・バンド、she9のニュー・シングル。ライヴへの片道切符とも言えるような「ハイファイハハイファイ」は、バンドの代名詞でもあるキャッチーさを突き詰めたナンバー。軽快でキュートなコーラスワークを取り入れつつも、重心の低い骨太なバンド・サウンドというギャップも冴える。「Dolly」はジャジーなエッセンスを取り入れたバンドの新機軸。恋愛におけるヒリヒリとした痛さや危うさを、なみだじゅり(Vo)の歌詞が生々しく炙り出す。明と暗に別れたまったく曲調が異なる2曲。そこにジャンルの枠にとらわれないバンドの強みを感じた。
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She Her Her Hers
Sense of Wonder
She Her Her Hersにとって初めてとなるシングル曲のリリースはTOWER RECORDS限定のワンコイン・シングル。表題曲「Sense of Wonder」は、無機質に淡々と刻まれるリズム隊とギターのアルペジオのリフレインがやがて熱を帯びてくるのだが、曲の表情は変わらずに徐々に温度を上げてくるところが彼らの特徴だ。表面上はどこまでもクールでいながらも中身は熱で充満しているという、爆発寸前の狂気のようなものすら感じさせる。イントロのショートディレイをかけたギターが初期U2を思わせる「made」は後半になるにつれ粘っこくグルーヴを生み出す演奏が見事。"かの高名なる狂言師 見舞う 栄えある栄冠も偲ぶ 鶏冠"といった歌詞に作詞を担当した坂本夏樹(Gt)のヒップホップ好きが見え隠れして面白い。
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She Her Her Hers
Rollercoaster
元PLINGMINのタカハシヒロヤス(Vo/Gt/Syn)、元オトナモードのとまそん(Ba/Cho)、チリヌルヲワカの坂本夏樹(Gt/Cho)の3人が2011年に結成した3ピース・バンドShe Her Her Hersが、1stフル・アルバムをリリース。メンバー全員が詞を手掛け、チャットモンチーの福岡晃子も3曲担当している同作は、ライヴでの定番とも言えるバンドの代表曲8曲を収録している。淡々と刻まれるタカハシの歌やサウンドスケープは、クリアなのにどことなくローファイ的な気だるい空気が漂う。だがその空気が突如ふわりと変わり、一気に大空へと飛び出していくような高揚感が湧き上がる瞬間があり、それが非常に心地よい。聴き手の隣に佇む、自然体の優しさや包容力に溢れた楽曲が集まっている。
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She, in the haze
ALIVE
ライヴにフォーカスしたという2ndミニ・アルバム。つまり、それは1stミニ・アルバム『Mama said』をリリースしてから意欲的に取り組んできたライヴ活動に大きな手応えを感じると同時に、そこにバンドが前進するきっかけを見いだしたということだろう。幻想的且つ耽美的なサウンドを通奏低音としながら多彩な楽曲を奏でるという意味では、She, in the hazeは変わらない。しかし、シンガロング・パートを加えた「Soldier」、疾走感が印象的なギター・ロックの「Alive」、ダンサブルな「Saint」というライヴ映え必至の曲が加わったことで、息が詰まるほど緊張感に満ちていたその世界は一気に広がり始めた。そしてyu-ki(Vo/Gt)が言うとおり、この作品がライヴで完成させられたとき、バンドにさらなる転機が訪れる!
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She, in the haze
Mirror
楽曲/映像制作のみならず、レコーディングからステージ演出、デザインなどすべてを自ら行うShe, in the haze。そんな彼らの約1年ぶりのリリースとなる2曲入りのニュー・シングル『Mirror』は、これまで以上にその才能とこだわりが色濃く反映され、歌詞と音とのリンクがしっかりと施された1枚だ。表題曲「Mirror」は、初の日本語詞による"人間の心に棲む狂気や二面性"がテーマで、それをメロウなパートとヘヴィなパート、クリーン・ヴォーカルとシャウトで表現。歪んだ愛情を持ち、身勝手な男の心中を描いた「Last dance」は、ダンサブルなリズムとドリーム・ポップなサウンドが溶け合いシンフォニックに奏でられる。自ら企画制作を手掛けた「Mirror」のMVも見逃せない。
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She, in the haze
Mama said
架空の物語のBGMを、相応しいサウンドで奏でる3人組が満を持してリリースする1stミニ・アルバム。すでにライヴでも披露している楽曲の中から代表曲を選んだという今回の6曲は、アンビエントを意識したシンセやギターが鳴る幻想的且つ耽美的なサウンドを通奏低音としながら、メタル風のブレイクダウン、ダンス・ビート、オールディーズ調のメロディなどを曲ごとに取り入れた結果、彼らが持つ幅広い魅力を楽しめるものに。実在の連続殺人鬼を題材にしたという表題曲を始め、美しい歌声で歌う内容が"強烈な執着心"というギャップもなかなかインパクトがあるが、そんな執着心が世界との決別を歌ったラスト・ナンバー「Teddy」でついに解き放たれる(とも受け取れる)展開もドラマチックだ。
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SHE IS SUMMER
Swimming in the Love E.P.
ふぇのたす解散後に始動したMICOのソロ・プロジェクト、SHE IS SUMMERによる約10ヶ月ぶりの新作。収録曲はこれまでライヴで披露してきた曲が主だが、元ふぇのたすのヤマモトショウ他、フレンズのひろせひろせ、ORESAMAの小島英也、高橋 海(LUCKY TAPES)ら気鋭のミュージシャンが作詞/作曲/編曲として参加することにより、それぞれの曲に新たな命が吹き込まれた。付き合いたての時期、別れ際、一夜の恋に身を落とす瞬間など、恋愛における様々なシチュエーションにスポットを当てつつ、どの場面でもトキメキを求めている女の子の描写は、鏡の前でいろいろな服を試着するかのように様々な曲調にトライするMICO自身の姿と重なる部分も多い。
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shepherd
Mirror
透きとおるような美しい歌声による歌が洗練されているせいか、全体の印象はポップに聴こえるものの、BUMP OF CHICKEN以降の日本のギター・ロックの流れやポスト・ロックおよびシューゲイザーといったオルタナ以降の感性が入り混じったサウンドはかなり聴きごたえあり。2007年結成の4人組、shepherdが満を持して完成させた1stフル・アルバム。アートワークを含め、メランコリックな世界観を打ち出しながら、アップテンポのロック・ナンバーからバラードまで曲ごとに趣向を凝らしたアレンジが最後まで飽きさせない。中にはモータウン・サウンドを思わせるバウンシーなポップ・ナンバーやストリングスも使い、壮大なスケール感をアピールした曲もある。邦楽と洋楽の影響が入り混じるそのバランスが新しいと思わせるバンドは、このshepherdをはじめ、これから増えていくような気がする。
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SHERBETS
CRASHED SEDAN DRIVE
アルバムに先駆け、リリースしたシングル「Stealth」を始め、持ち前のアグレッシヴさが前作のときよりも戻ってきたとはいえ、そこはSHERBETS。サーフ風味もあるサイコビリー・ナンバーの「Crashed Sedan Drive」、ブルース・ロック調の「JAKE」などで熱狂を作り出しながらクールなニュー・ウェイヴ・ナンバーやサイケ・フォーク・ナンバーも織り交ぜ、圧倒的な世界観をアピール。リスナーをぶっ壊れたセダンで旅に連れ出すようなところはベンジーが言う通りだ。レゲエのリズムが利いている自伝的な「COWBOY」、愛の世界を信じる「A BABY」、「Practice Hand」に心を揺さぶられる一方で、幸福な風景を歌いながら緊張感を漂わせる「Kinshasa」、「Canberra Zombies Food Court」の2曲にシビれる。
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SHERBETS
Stealth
12月12日の渋谷CLUB QUATTRO公演から発売開始される会場限定シングル。凍えるほどのクールネスとその中で熱を放つ緊張感に満ちた演奏はSHERBETSならでは。しかし、より具体的に目の前の世界に言及した表題曲を始め、3曲に共通する不穏な空気は、あえて美しいものだけを求め、それを愛した『きれいな血』からは感じられなかったものだ。これはたしかに"衝撃"かも。「Stealth」の歌の世界観をダイナミックに広げるシンセの音色やラップを思わせる早口のヴォーカルが新境地を印象づけ、『きれいな血』以降、また新しい風が吹き始めたことを思わせる。ダークなポスト・パンク/ニュー・ウェイヴ・サウンドの「Abbey」、ギターがサーフ・サウンドっぽいロックンロールの「Jackleen」もかっこいい。
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SHERBETS
きれいな血
3年ぶりに冬眠から覚めたSHERBETSが完成させたニュー・アルバム。それぞれに違う物語と曲調を持ちながら、どれもSHERBETSとしか言えない曲になっているが、浅井健一以外のメンバーがアイディアを提供した曲が加わったせいか、新しい風が吹き始めた印象もある。ともあれ、醜いものもあるこの世界で美しいものだけを集めたらこういう作品になるに違いない。鮮やかな筆致で描き出す幸せな風景や、この世界にまだ美しいものがあることを信じる想いに救われるリスナーは少なくないはず。ひんやりしているからこそ感じられるぬくもりにずっと浸っていたい。ヒップホップっぽいビートとレゲエのリズムが心地いいSHERBETS流の陽気なサーフ・ロック、Track.9「ワナフィー」がゴキゲンすぎる。
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SHERBETS
STRIPE PANTHER
前作『FREE』から約1年ぶり、通算8枚目のニュー・アルバム。孤独な生き物を連想させる「STRIPE PANTHER」から、中毒性の高いサビを持ったフラジャイルな「Michelle」、架空の森に迷い込むようなファンタジーと、現実世界への危機感を二重写しにするような「Another World」の流れは白眉。また、初の福士久美子ヴォーカルによる「GREEN」の浮遊感、終盤の「Happy Birthday」での誰しもの生命の輝きへの優しい眼差し、「Moon Light River」の、多くを語らないけれど傷ついた同じ魂を持つ者への献花のような美しさ。音像のクールさと表現の奥にある温かさが高い次元で結合し、音楽のピュアネスとは何かを実現した傑作。
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SHERBETS
FREE
PONTIACSとしての活動や他アーティストのプロデュース等で活躍中の、ベンジーこと浅井健一率いるSHERBETS待望のフル・アルバム。前作『MAD DISCO』は緻密なサウンド構造が織り成す張り詰めた緊張感が印象的なクールな作品だったが、今作は一転、非常に自然体でリラックスした音が特徴的だ。淡々と丁寧に唱えられていく言葉は、優しい吐息のようなウェット感がある。それは、日常にちょっと不思議な魔法を掛ける呪文のようで、音の隙間も心地良い。オリジナル・フル・アルバムとしては7作目になるが、SHERBETSの表現の幅広さには毎度感服だ。この仲間と一緒ならばベンジーはどんな世界にでも行くことが出来るのではないだろうか。改めてSHERBETSというバンドの存在の大きさを確信した。
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THE SHERLOCKS
World I Understand
UKシェフィールド出身の4人組インディー・ロック・バンド THE SHERLOCKSが、ニュー・アルバムをリリース。3枚目となる今作でも変わらず、見た目もサウンドも"これぞまさにUKのバンド"という教科書的なスタイルを貫いている(バンド名もコテコテでいいね(笑)!)。ブリットポップおじさん/おばさんたちが、"ほんと、こういうのでいいんだよ!"と、うんうん頷いちゃう感じ。一曲一曲がキャッチーで親しみやすく、90年代リスペクト的な、少しノスタルジックな響きもいい。捨て曲というか、地味な曲がひとつもなく、丁寧に作られている感じも好印象。奇をてらうでもなく、自分たちの好きなやり方でロックを追求する彼らが、本国でも愛されているのはすごく理解できる。
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THE SHERLOCKS
Under Your Sky
Crook、Davidsonの2組の兄弟で構成されたUKシェフィールド発の4人組バンドが、2ndアルバムをリリース。同郷ARCTIC MONKEYSの後継者とも目されたデビュー作から約2年、プロデューサーにJames Skelly(THE CORAL/Vo/Gt)を迎えた今作では、前作の衝動こそ薄れているものの、そのぶん一歩成熟したサウンドを展開している。歌メロに寄り添うようなフレーズのTrack.2、スリリングなリフが印象的なTrack.4など、直球のギター・ロックがベースだが、ソフトな空気感が心地いいTrack.5や、壮大なサウンドスケープを描くTrack.11など、持ち味であるグッド・メロディをさらに生かすアレンジが秀逸。着実なスケール・アップを感じさせる。
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SHE'S
Shepherd
SHE'Sが1年7ヶ月ぶり、6枚目のフル・アルバム『Shepherd』をリリース。本アルバムには、バンドにとって初のアニメーション映画への書き下ろしとなった楽曲「Blue Thermal」をはじめ、TBS系"王様のブランチ"テーマ・ソング(2022年4~9月)「Grow Old With Me」、軽快なカントリー調に仕上げたリード曲「Boat on a Lake」、打ち込みと生音が絡み合うアグレッシヴなピアノ・ロック「Raided」など、全11曲が収録される。また本作に収められた新曲は、全楽曲のソングライティングを担う井上竜馬(Vo/Key)がパウロ・コエーリョによる小説"アルケミスト 夢を旅した少年"から着想を得て制作されたようで、コンセプト・アルバムの趣もある意欲作になっている。
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SHE'S
SHE'S in BUDOKAN
'22年2月の日本武道館公演の模様を収めた、SHE'S初のライヴ映像作品。SHE'S 10年の軌跡と言うべき音楽的に豊かな楽曲群を表現する心のこもったバンドの演奏、そしてメンバーに"声を出してないはずやのに一緒に歌っているような感覚です。聞こえてくる。そんな感じがする"と言わしめた観客がともに作り上げたあの日の温かな空気が、純度高くパッケージングされている。メンバーが終始いい表情をしているのがたまらない。弦楽カルテット+ホーン隊含む11名編成で届けた22曲をMC含めノーカットで収録。結成10周年の集大成と呼ぶに相応しいライヴの模様をしっかりと記録したファン必携のアイテムだ。完全数量限定盤にはドキュメンタリー映像や全31曲のMVも収録。
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SHE'S
Blue Thermal
"ブルーサーマル"とは上昇気流の意味。航空部をテーマにしたアニメ映画"ブルーサーマル"の主題歌&挿入歌を収録した、2022年第1弾シングルだ。主題歌「Blue Thermal」は、まさに青く澄み切る大空が似合うブラス・バンドに乗せて、痛みを抱えながらも夢に向かう熱い想いが綴られる。"パーフェクトブルー"、"雲"、"気流"などアニメの世界観に寄り添ったワードを散りばめながら、そこにはバンド自身の在り方もくっきりと重なる。一方、挿入歌「Beautiful Bird」はホーリーなハーモニーで紡ぐ静謐なバラード。"君"の存在が"僕"を未来へと導くという歌詞は、これまでSHE'Sが多くの楽曲で歌ってきたテーマにも通じる。初の武道館ワンマンを経たSHE'Sの11周年の幕開けとなる1枚。
LIVE INFO
- 2025.01.20
- 2025.01.21
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