DISC REVIEW
S
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Saucy Dog
サニーボトル
着実にステップ・アップし続け、前作『レイジーサンデー』収録の「シンデレラボーイ」がTikTok世代を中心にヒット。安定感のある成熟した演奏に乗せた柔らかな歌声が世間の心を掴み、今作には5曲ものタイアップ作が収録された。男女の別れ際を描いた「404.NOT FOR ME」、片思い中の姿に共感必至の「あぁ、もう。」、ふたりの素朴なやりとりを映す「魔法にかけられて」など、恋愛模様を細かく描写するリアルな歌詞の秀逸さはもはや語るまでもないが、いわゆる"ラヴ・ソング"ではなく、日常を描く楽曲にもふいに"君"が登場し生活の一部として描かれているところに、よりリアルさがある。仕事も恋愛も同時進行で進んでいく日々を懸命に生きるリスナーの日常に、サウシーが優しく寄り添う1枚。
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Saucy Dog
ブルーピリオド
2019年4月に行われた大阪城音楽堂、日比谷野外音楽堂でのワンマンは両日ソールドし、来春には初の単独ホール・ツアーの開催も決定するなど、ライヴ動員を着実に増やし続けているSaucy Dog。彼らの約1年半ぶりのミニ・アルバムは、そんなバンドの"成長"と"今"を描いた作品となった。楽曲に纏う切なくも優しい空気や、迷いを払拭しようともがく姿、その芯の強さを見せる言葉と声、3人それぞれの感情が乗ったサウンドなど、彼ららしさはそのままに、一曲一曲のクオリティがより高くなったと感じられる。大人になることへの葛藤を綴った「スタンド・バイ・ミー」をはじめ、自身の"青さ"にピリオドを打ち、バンドとしても人間としてもさらに大きくなりたいという意志が窺える1枚。
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Saucy Dog
サラダデイズ
2017年に初の全国流通盤をリリースした3ピースが1年ぶりに世に放つ2ndミニ・アルバム。彼らの持ち味でもあるセンチメンタルなバラードやラヴ・ソングはもちろん、バンドが2016年に"MASH A&R"グランプリを獲得し転機を迎える前後がリアルに刻まれた楽曲も多い。歌詞もひとりの青年として、バンドマンとして、現代を生きる人間としての視点など、様々な観点で綴られている。美しいうねりを丁寧に描くメロディ、ファルセットを巧みに用いた歌声、そこに寄り添う女声コーラス、優しくもどこか焦燥感を帯びた音色、すべてに余韻があり、それはまるで情景描写や心情描写に長けた映画のよう。だからこそ聴き手も彼らの音楽に心を重ねられるのだろう。葛藤と希望が溶け合う「メトロノウム」の音像は圧巻だ。
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Saucy Dog
カントリーロード
THE ORAL CIGARETTES、フレデリックらを輩出した"MASH A&R"の2016年度グランプリを獲得、MVのYouTube再生回数も急増中という注目の3ピースによる初の全国流通盤。他のバンドに例えるのは好きじゃないが、歌や曲の温度感など、どこかplentyの面影がある。しかし、このバンドは良い意味でそれよりもっと不安定だ。少年性のある歌声を素朴に聴かせたかと思えば、いきなり心の堰が切れたかのように感情的になったりする。しかも、歌詞に描かれているのは女々しい感情や鬱屈した日々。ライティング・センスの高さが窺える、印象を残す情景描写も相まって、センチメンタルな気持ちを強く掻き立てる。なかでも、逃げてばかりいた自分に別れを告げるラスト「グッバイ」は、そんな感傷を一蹴するパワーがあるし、多くの人に勇気を与える1曲になるだろう。
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Saunash
Bounds Away
90年代半ばのグランジ終焉後、世界の若者たちの心を最も強く捉え、癒したのは、メロコアを始めとするパンクと、ハードコアの土壌から生まれたエモだった。JIMMY EAT WORLDや、日本だとHi-STANDARDなどが当時の若者たちに与えた影響は計り知れない。この都内を拠点に活動する3ピース・バンドSaunashも、そんなカルチャーをルーツに持ち生まれたバンドだ。だが、この4年ぶりの音源となる1stフル・アルバム『Bounds Away』に収められた、ふくよかな音楽性を持った多彩な楽曲、そして何よりアルバム全体を覆う、まるで孤独な景色の中でも他者の幸せを願うような、どこか穏やかで凛とした空気感は、90年代~00年代のパンクやエモにあったパッションや内省とは一線を画すものがある。時代と共に成熟したパンクの新たな価値観が、ここにはある。
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SAVAGES
Adore Life
色彩を排したモノトーンのポスト・パンク/オルタナティヴ・サウンドで鮮烈な世界デビューを果たしてから早3年。"獰猛"をその名に掲げるライオット・ガールによる2作目となる今作。基本的には前作にあったシンプルで硬派なサウンドに磨きがかかった作品と言えるが、何かをひたすらに渇望するような狂おしさやストイックさは減退。ソリッドで鋭利というよりも、どこかグラマラスで妖しい響きがある。作品名に付せられた"Adore"という言葉や、作中で頻出する"Love"という単語、「When In Love」なんて曲まであることからも、何やらバンドにラディカルな変化があったことを窺わせてならない。そして2015年、傑作というべき2ndアルバムを生み落としたALABAMA SHAKESとの共振性を滲ませるのも気になるポイントだ。だがしかし、頑固一徹に前だけを鋭く見据えるその姿勢にはやはり痺れるほかない。
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SAVAGES
Silence Yourself
ダークで、タイトな血の匂いのするサウンド。眼差しは鋭く、挑発的。ロンドンの4人組女性ポスト・パンク・バンド、SAVAGES。Pitchforkなど多くの音楽メディアからデビュー前にも関わらず既に手放しの賞賛を獲得した彼女たちが、遂に待望の1stアルバムをリリースする。彼女たちがこのアルバムでポスト・パンクという形式をとりながら対峙しているものは、"他者"そのものである。「Husband」において、それは"男(him)"という象徴的な形をとる。彼女たちはそれを手に入れることを強く望んでいる。そして、その欲望が楽曲のエネルギーとなりドライヴ感を生んでいる。しかし、彼女たちの乾きは恐らく癒えることはない。なぜならば、渇望こそがSAVAGESの音楽そのものであるからだ。
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Sawagi
Starts to think?
エレクトロニカ要素のある踊れるインスト・バンドという印象が強いSawagiの2年半ぶりにリリースされるニュー・アルバム。強烈なアジテーションをギターで表現したようなオープニング「fuss uppers」から、シンセとギターがユニゾンになりその中をうねって進んでいくベースがドラムにたどり着いて終わるような展開を聴かせる「Thonis」、さながらスパイ映画のサントラのような「Kryptos」、そしてラストを飾る「Trophy」で聴かせる感動的なエンディングまで、粒揃いの楽曲たち。耳馴染みの良い柔らかく人間味のあるサウンドが、ただライヴの現場で踊って忘れてしまう音楽ではないトータルでじっくり聴ける作品に仕上げている。繰り返し何度も聴ける傑作。
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Sawagi
Punch Games
前作『hi hop』でシーンに颯爽に登場しコンスタントに活動を続けていたものの、CD音源としては1100日ぶりのリリースとなった今作はダンス・ミュージックや、インスト・バンドなどそういった細かいカテゴリの根源にあるポップ・ミュージックとしての輝きに満ちている。ダンス、テクノ、ジャズ、クラシック、ロック、ポップス、ヒップホップを縦横無尽に飛び回り、全ての曲を別のバンドが演奏しましたと言われたら信じてしまうほどに広いふり幅を見せながらもSawagiの音として確立されているセンスは流石。踊らせるダンス・ミュージックに辟易している方はこのフィジカルなポップ・ミュージックに身を任せてみては?
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SCANDAL
LUMINOUS
前作から約2年ぶり、11枚目のオリジナル・アルバムは、シングル曲「Line of sight」、「Vision」、「ハイライトの中で僕らずっと」に加え、TVアニメ"HIGHSPEED Étoile"のEDテーマ「ファンファーレ」、Rhythmic Toy WorldやEOWとの共作曲含む全11曲を収録、バンドの特徴のひとつでもある多彩な音楽性を描くことで、彼女たちのこれからを描く1枚となった。現実をしっかりと見つめ、弱さもちゃんと抱きしめたからこそ生まれた自信と、包み隠すことなく本音を歌い、自身の人生と重なる歌が増えたからこその誇りしかここにはない。共作という他者と交わることでしかわからない自分たちらしさが曲に落とし込まれているのも、曲ごとに軽やかに変化するHARUNAの歌声も素晴らしい。しなやかさとたくましさがより鮮やかになり、まばゆいほどの光を放っている。
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SCANDAL
ハイライトの中で僕らずっと
8月21日に結成17周年を迎え、"同一メンバーによる女性最長活動ロックバンド"としてギネス世界記録に認定されたSCANDALの29枚目のシングル。MAMI(Gt/Vo)作詞作曲の表題曲は、バンドの成熟した姿がそのまま反映されたかのようなクールなサウンドで、シンプルながら凝ったアレンジが印象的。SCANDALならではの構成で楽しませる。バンド人生の数々のハイライトをリスナーと共に過ごしてきた誇り、この先もともにハイライトを迎えたいという想い。その想いが色濃く表れた"いつか いつか命果てるまで/何度 何度でも分かち合おう"というフレーズには17年のすべてと新たな覚悟が込められているかのようで感慨深い。TOMOMI(Ba/Vo)作詞作曲の「CANDY」で見せるまた違う表情も頼もしい。さらに軽やかに、さらにたくましく。4人の強い意思を感じる1枚。
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SCANDAL
Line of sight
カード・ゲーム"機動戦士ガンダム アーセナルベースLINXTAGE"の主題歌となる表題曲は久しぶりの直球ロック・チューン。歌詞はその世界に寄り添いつつもバンドの想いもしっかり重ね、強い意思を感じることができる。ストレートながらも凝りに凝ったアレンジも印象的。一方カップリングの「Vision」は、クールでタイトな踊れるナンバー。リズムがなんとも気持ちいい。作品ごとに様々な表情を見せ、なおかつここ最近は自身の人生と楽曲がより密接な関係となり、ただひたすらにリアルな想いをリアルな姿で届け続けるSCANDAL。今年結成17年というバンド・キャリアがありながらもいつも新鮮な音に聴こえるのは、何より自身が自分たちの音楽に心躍らせているからだろう。今が鮮やかに凝縮された2曲。まだまだ可能性だらけだ。
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SCANDAL
SCANDAL "Documentary film MIRROR"
昨年1月リリースのアルバム『MIRROR』を引っ提げ、日本、北米、欧州をまわる自身2度目のワールド・ツアー[SCANDAL WORLD TOUR 2022 "MIRROR"]を同年3月から9月にかけて開催したSCANDAL。その北米および欧州公演を巡る日々にフォーカスし、最終公演のライヴ映像も一部収めたドキュメンタリー・フィルムが完成した。2020年に開催予定だったワールド・ツアーの中止から2年、コロナ禍でメンバー各々が感じた素直な想いがかたちとなった楽曲が連なる『MIRROR』を携え行われた今回のツアーは、過去最高にタフなものだ。メンバーの新型コロナウイルス感染による複数公演の中止という苦節もありながら、"チームSCANDAL"として国内外のファンの想いを背負い駆け抜けた様子を詰め込んだ、いわば青春日記のような作品に。
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SCANDAL
マスターピース / まばたき
SCANDALが、プライベート・レーベル"her"からの第1弾リリースとなるバンド初の両A面シングルを完成させた。「マスターピース」はMAMI(Gt/Vo)が作曲、RINA(Dr/Vo)が作詞を手掛けた疾走感のあるロック・ナンバー。前向きで希望に溢れる歌詞から、ここから新たなスタートを切ろうという彼女たちの意志が窺える。また、新生活を始める人たちの背中を押してくれるような、春にぴったりの応援ソングとも言えそうだ。対して作詞作曲をRINA、アレンジをMAMIが担当した「まばたき」は、ガーリーな雰囲気の漂うシティ・ポップ風のサウンドが印象的な楽曲。"濡れたまつげが乾く前に..."など女性らしいワードを並べ、ガールズ・バンドならではの世界観を作り上げている。
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SCANDAL
SCANDAL
ファン投票上位の曲を収録したベスト・アルバム。以前誰かが"アーティストの姿勢が最もわかりやすく表れるのがベスト・アルバムだ"と言っていたのだが、聴き手ありきの本作にセルフ・タイトルをつけるところがたまらなく彼女たちらしいし、その温度感は初収録の新曲にも共通している。「FREEDOM FIGHTERS」の"変えたいのは時代じゃなくて明日"という言葉は00年代ガールズ・バンドの定番を築いたSCANDALがド真ん中のサウンドとともに歌うからこそ意味が宿るし、「HELLO」はファンとともにまっさらな未来へ駆け出すための宣言といえるだろう。王道を切り拓いてきた人たちであるにもかかわらず、ここまで"自分語り"をしないのは本当にすごいことだと思う。
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SCANDAL
YELLOW
SCANDALは人一倍ショーマンシップが強いというか、自分たちの弱みを相手に見せることによって共感を得るというスタイルを安易に選ばずに戦ってきたストイックなバンドである。そのスピリットは自身最大規模の世界9ヶ国41公演のワールド・ツアーを経ても変わらず、というかむしろ一層強くなったからこそ、ポジティヴィティ溢れる本作が生まれたのだろう。4人全員が歌える/曲を作れるという長所を活かした様々なタイプの曲が並んでいるにもかかわらず、全曲王道だと感じさせられるのは、そこにこのバンドの血が通っているからだ。Track.12「ちいさなほのお」で"上手く進めないあなたを/誰も責めたりしないから"と歌う慈愛に満ちたバラードが格別の輝きを放つ。
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Scars Borough
Nineteen Percent
約1年の制作期間を経てリリースされるScars Boroughの3rdアルバム。歪みまくったギター&ベースの音が耳にゴリゴリとぶつかってくる。それだけ聴いてしまえばずっしりと骨太な印象だが、音の嵐の中で踊るようなKYOKO (Vo)の声が楽曲の印象をガラリと変える。今作を聴いた第一印象はポップでちょっとパンキッシュ。だが、それはヴォーカルが勝ち過ぎているというわけではない。キュートな彼女の声は唸り響く弦楽器隊と絡み合うことによって格段に艶やかさを増している。理想的な相乗効果。特に印象に残るのは「torico」「nux」と続く疾走系のナンバーだ。まるでSFの世界でスカイカーをぶっ飛ばしているようなハイな気分になる。背中がゾクゾクする。ヤバい。この快感は癖になる。
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Scars Borough
which one?
ELLEGARDENの高橋宏貴(Dr)を中心に2008年に結成された4人組バンドScars Boroughが2ndアルバムをリリース。Kyoko(Vo)の表情豊かでキュートな声が、繊細でスピード感のあるサウンドに乗るとこうもキッチュに響くのか。今作は、今までの手癖を排除し制作されたそう。そうしたことであらためて見えてきたのはScars Boroughというバンドの面白さ、そして、極限まで削ぎ落としたことで生まれた洗練された楽曲。フランス語詞(語感がKyokoの声とものすごくマッチ!)を取り入れたりと、新しい挑戦を試みたこと進化を果たした今作。アルバム・タイトルの『which one?』のように、常に選択を迫られる人生の中で、まずこのCDを手に取るという選択は正解。どんどん加速していくグルーヴが突き刺さる!
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Schloder
C mental graffiti
新世代ロック・バンドと言われて登場するバンドは数多くいるが、彼らの感性はとりわけ独特で面白い。『C mental graffiti』と名付けられた彼らの1stフル・アルバムは90年代のロック・サウンドを基本としながら、ポップ・パンクやエレ・ポップ、時にはサルサやジャズまで取り込む。“アニソンとパンクの融合”という彼らの示す音楽のカタチは、時にやり過ぎ感もありつつも、泣きと笑いを目一杯詰め込んだ新世代のサウンドトラックだ。しかしそんな事を考えずとも素直に楽しめてしまう音楽性の高さを持ち合わせているのだから、彼らの今後がとても楽しみで仕方ない。まずはこの爽快感と甘酸っぱいメロディが溢れたデビュー・アルバムを是非手に取ってみて欲しい。
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SCHOOL OF SEVEN BELLS
SVIIB
元ON!AIR!LIBRARY!のAlejandraとClaudiaの美人双子姉妹とSECRET MACHINESの元メンバーであるBenjamin Curtisによるドリーム・ポップ・グループ。2010年、2ndアルバムをリリースしたあと、双子の片割れClaudiaが突如脱退。そして、2012年より新作の録音を進めていた中、BenjaminはT細胞性リンパ芽球性リンパ腫を患い2013年、逝去。彼が残した最後の音源を元に完成。"始めから終わりまでラヴ・レター"だという今作は、美しいヴォーカルと浮遊感ただようドリーミーなサウンドが溶け込み、まるで白昼夢を見ているよう。持ち味でもある見事なコーラス・ワークはもちろん、シューゲイザー、エレクトロニックなどを飲み込むSCHOOL OF SEVEN BELLSの集大成となっている。まさにベスト盤だ。
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SCHOOL OF SEVEN BELLS
Ghostory
US/UK問わず、ここ最近のインディー・ロック界隈、特にエレクトロニカに接近しているような音楽は80年代のディスコ・ビートに回帰しているような印象を受けるが、このSCHOOL OF SEVEN BELLSの新作も同様に爽快なディスコ・ビートが鳴り響く快作だ。しかし、彼らの強みはそのダンサンブルなトラックの上に乗せられた、確かな歌心であろう。浮遊感のあるシンセのドローンと、時に小気味良く時にノイジーなギター・サウンドが作り上げるある種不安定な音世界の中、幾重にも重ねられながらも力強さを失っていないAlejandraの歌は、確かなメロディ・センスとポップネスの両方を持ち合わせている。内省的なまま立ち止まることなく、彼らの音楽は力強く外を向いている、そんな風に思わせてくれる良作だ。
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SCOOBIE DO
Tough Layer
2006年以降は自主レーベルを立ち上げ活動してきているスクービーが、古巣ビクターと組んでメジャー・デビュー20周年記念盤を発表。コロナ禍前の2019年以来3年ぶり待望のオリジナル・アルバムでもあるわけだが、その内容が美しく明快で、快哉を叫びたくなった。耳馴染み良く洗練されたギター、ベース、ドラムの音の上に重なる、文字として見ずともまっすぐ飛び込んでくるコヤマシュウの歌。そのメッセージはこれまで以上に研ぎ澄まされており、今音源を聴いている、共にこの時代を生きている"君"に届ける気満々の言葉たちが涙腺を刺激する。そんな胸がうずくポップ・ナンバーから、歩みを重ねてきた4人だからこその渋さ全開の巧みのロック&ファンクまで、音楽への愛情も遊び心も詰め込んだ、説得力しかない至極の10曲だ。
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SCOOBIE DO
Have A Nice Day!
近作では女性コーラスや打ち込みを活用してきた彼らが、4人だけの音で作り上げたアルバム。古巣ビクターと約13年ぶりにタッグを組んだ今作は、一見爽やかな夏盤だが、不穏なコードや変拍子を巧みに挟むことで大人なムードも醸し出している。表題曲はキメとカッティング・ギターが心地いいナンバー。サビは同じメロディを反復させつつ、終盤に向けての展開が、転がりながら光へ向かう様を表すよう。"切なくて 儚い自分のままでいいさ"という一節も沁みる。作品を通して"前進"、"塗り替える"などの言葉が多いのも今のモードなのだろう。手放しの楽観主義ではないが希望が滲むサウンドが、現実を戦う術を教えてくれるように感じた。各パートの輪郭もくっきりとし、立体感が増したグルーヴの波に身を任せていたい。
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SCOOBIE DO
CRACKLACK
13年ぶりのシングル『ensemble』で新たな制作方法にチャレンジしたSCOOBIE DO。その方法とはリーダーのマツキタイジロウ(Gt)が打ち込みでデモを作り、それにある程度沿ってメンバーがアレンジしていくというもので、今作も同様に作られている。オープニングの「Love Song」で聴こえてくる佐々木詩織のコーラスに象徴されるようなアルバム全体を覆うクールで洒落た雰囲気は、つまり今のマツキの頭に鳴っているサウンドということなのだろう。とはいえ決してラウンジ・ミュージックではなくて、あくまでも腰が疼くダンス・ミュージック。バンド本来の得意技、土着的でスペーシーなファンク「愛はもう死んだ」、疾走するロック・チューン「MI.RA.I.」はこのアルバムの中では異色にすら感じられるがやっぱり最高。
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SCOOBIE DO
ensemble
SCOOBIE DOの新作は、2004年にリリースした『パレード』以来実に13年ぶり、自主レーベル"CHAMP RECORDS"を立ち上げてからは初めてとなるシングルCD。キメの多いリズムとどこかノスタルジックな気分にさせられるメロディによるタイトル曲「ensemble」はFujikochan'sとしても活躍する女性シンガー、佐々木詩織をフィーチャー。コヤマシュウ(Vo)とほぼデュエットといっていいくらい折り重なる歌声を聴かせて楽曲に大きな貢献を果たしている。対照的にアッパーな「Funki"S"t Drummer」では"MOBYさまのお仕置きタイム"(?)に注目。ラスト「Last Night」で歌われる"ここは目的地だよ/始まり以外何も無い"という歌詞にはバンドマンの生き様を感じてハッとさせられる。
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SCOOBIE DO
FILM DANCEHALL YAON
2015年10月4日(日)に行われた日比谷野外大音楽堂での20周年記念ライヴ"ダンスホール野音"の模様を収録したDVD。満員の客席の盛り上がりぶりがよくわかる、様々な角度で"LIVE CHAMP"のステージを捉えた映像となっており、20周年のお祝いにかこつけてバカ騒ぎしたいという"PLUS ONEMORE"のひとりとなってライヴを存分に楽しむことができる。日が暮れた日比谷野音に浮かぶミラーボールの下で「真夜中のダンスホール」から新曲「LIVE CHAMP」へと続くコール&レスポンスの流れは初めて彼らのライヴを観た人でも思わず身体が疼くはず。バンドも観客も(おそらくスタッフも)、すべての人が音楽のもとにひとつになっている幸福な瞬間がパッケージされている。
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SCOOBIE DO
アウェイ
2015年10月4日(日)に行われた日比谷野外大音楽堂での20周年記念ライヴ"ダンスホール野音"の成功も記憶に新しいSCOOBIE DOの21年目のスタートを飾る12枚目のオリジナル・フル・アルバム。バンドの異名そのままにタイトルがつけられたTrack.1「LIVE CHAMP」("人間じゃないぜバンドマン!"という歌詞がスゴい)を始め一貫してファンキーなサウンドは、決して暑苦しくなくクールで心地良い。表題曲のTrack.3「アウェイ」は観念的のようでいて、決してあきらめることなく自分を貫いて生きていこうというメッセージを感じるポジティヴな楽曲。かといって押しつけがましさがないのがイイ。洒落た男らしさに溢れた1枚。
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SCOOBIE DO
Extra Funk-a-lismo! -Covers & Rarities-
4月に出たベスト盤以上にとんでもないブツである。過去20年間のカバー曲15曲に加え、バンドの未発表曲4曲を収録したスペシャル盤。まず、カバーの対象がすごい。フラカンにスピッツにヤマタツ、THE BEATLESにAC/DC、果てはマッチにアッコ......その他にもArtBlakeyのようなジャズもある。ロックもソウルもジャズも、それぞれの個性を捉えながら、しかし、すべてをスクービー独自のサウンドに昇華する"解釈力"は圧倒的。ひとつのバンドの歴史に触れるということは、その奥にある様々な音楽の存在と、その歴史に触れることと同義だ。本作は、スクービーの20年間の音楽道がどれほど豊潤なものであったかを示す作品とも言えるだろう。コヤマシュウの、性別すら越境する歌声の凄まじさに改めて気づかされる1枚でもある。
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SCOOBIE DO
4×20 ~ 20 YEARS ALL TIME BEST
結成20周年を記念した、CD3枚とDVD1枚から成る大容量のオールタイム・ベスト。結成当初のデモからスカパラホーンズを招いた新曲「新しい夜明け」まで、レーベルをまたいだ決定版的内容だ。SCOOBIE DOが結成されたのが1996年。ファンクやソウルに昭和歌謡まで参照するその雑食性の高い音楽性は、当時のトレンドだった"渋谷系"との共振を感じさせる部分があり、同時にメジャー・デビューした2002年ごろには、当時世界的ブームだった"ロックンロール・リバイバル"との共振を感じさせる部分もありながら、しかし時代に左右されることなく、あくまで唯一無二のファンク・ロックを探究し続けてきたSCOOBIE。その誇り高き音楽道は、それ自体が、私たち音楽を愛する者にとってのひとつの指針であり、希望だ。
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SCOOBIE DO
結晶
優しさとは強さ。そう考えるなら、このSCOOBIE DOの新作『結晶』はとても優しい作品であり、とても強い作品である。ソウルフルで躍動感のあるメロディとリズム、そして前のめりなパッションを感じさせる歌声が、19年のキャリアを経た今なお、このバンドが前進する力に満ちていることを伝えるアルバム前半。そして、吹きすさぶ嵐の中に佇むように、自らの孤独と痛みを抱きしめながら、それでも、同じく孤独を抱えているであろう聴き手にとっての居場所としての自分たちを強く歌う、優しさと慈愛に満ちたアルバム後半。ソウルもロックもファンクも飲み込んだ、他の何とも形容できないメロウで激しいSCOOBIEサウンドに乗せて、唯一無二、孤立無援の道の果てに掴み取ったメッセージを突き刺す、19年目の結晶。
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Scott Walker
Bish Bosch
1960年代にTHE WALKER BROTHERSとしてデビューし、UKを中心に様々なアーティストに影響を与え続けるシンガー・ソングライター、Scott Walkerの約6年振り通算14作目となるニュー・アルバム。イギリスに2つしかないチューバ・サックスを始めとし、淡水平巻貝といった古代の天然楽器など、世にも珍しい楽器が多く使用されているという長尺の楽曲たちは、かなり前衛的で只者ではない空気を醸し出している。迫り来るリリックとヴォーカル、怪しげに響くリズムと不思議な音色は、どれも異次元的なスケールを放ち、それらが持つ“違和感”が全身にまとわりついてくるようだ。常に一歩先をゆく彼の感性の豊かさを感じられる非常に濃密な作品。終始漂う緊張感に息を呑む。
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Any
記憶喪失
昨年12月にリリースされたフル・アルバム『宿り木』の記憶も新しい、現役大学生スリー・ピース・バンドAnyが約9ヶ月振りの新作発表。今回もプロデューサーに片寄明人を迎えている。全5曲だがトータル・タイムは約30分という大ヴォリュームだ。ポップで軽やかなギター・ロックに乗る工藤成永の歌詞はどことなく切なげ。まっすぐな歌声から零れるひねくれた感性が妙に耳に残る。どんどん風景描写を変えてゆく「エヴリィ」、コーラス・ワークとワルツのリズムが印象的な「万華鏡」、雨粒のようにきらめくギター・アルペジオと力強いドラムのコントラストが美しい「息が止まりそうになる」など、現在形Any流グッド・ミュージックが凝縮されている。10月10日には渋谷LUSHでレコ初ライヴを開催!
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Any
宿り木
1年前初めてAnyのライヴを見たとき、演奏力の高さからまさかこんなに若いバンドだとは思わず、後から年齢を聞いて大層びっくりした記憶がある。メンバーは全員21歳。メジャー・ファースト・アルバムである今作はプロデューサーとしてGREAT3の片寄明人を迎え、サウンド面で新たなる側面を作り出した。柔らかいギター・ロックと煌びやかなメロディで彩られた全10曲には、工藤成永の“変化への願望”と“生への執着”が強く綴られている。その葛藤はどこまでも人間臭く、若者らしい。まさしく等身大の音楽と言っていいだろう。誰もが抱えた純粋な気持ちを呼び起こしてくれる、非常にあたたかみに溢れるアルバムだ。結成4年を迎え、ここからがAnyの再スタート。彼らの歩む道の先に広がる未来に思いを馳せる。
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Any
落雷
平均年齢21歳という若さながらもデビュー・シングル「優しい人」でその存在を世に知らしめたAnyから、待望のセカンド・シングルが到着。みずみずしさのなかに初々しさが残る前作より、ドシッと構えた落ち着いた印象を受ける。表題曲の「落雷」はハードなイメージのタイトルとは裏腹に優しさが広がるミディアム・ナンバー。なによりも工藤成永(Vo&Gt)の描く歌詞世界の振り幅がすごい。男子の素直な本音が凝縮された言葉のチョイス、ノスタルジックな情景、丁寧に言葉を紡ぐ様子に育ちの良さを感じる。ゆったりと空気を含んだ深みのある歌声に思わず微笑んでしまいそう。100%の純真な温かみあるサウンドが透明でキャッチーに響く。心がぽかぽか、そんな感じ。
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Any
優しい人
表題曲「優しい人」の大きく弧を描くようなメロディに乗せ、ノスタルジックでドリーミーな音楽が広がる。工藤成永(Vo&Gt)の描くファンタジーは、羽のように軽やかであると同時に、未来へ向けての力強い包容力によって支えられている。そして、Anyの3人により、童話のように暖かく彩り鮮やかに語られる。毎日に挫けたとしても、明日に、君に対して、まっすぐな想いを投げかけることで、光を掴み取り孤独に立ち向かう強さを獲得しているのだ。大切なものとは何か, そんなことを思い出させてくれる。3曲が終わる頃には、いつもよりちょっとだけ世界が優しく感じられるかもしれない。若き3人によって語られる想いが、純粋なファンタジーを閉じ込めたまま、より大きく成長することを願う。
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Seagull Screaming Kiss Her Kiss Her
ETERNAL ADOLESCENCE
2002年の活動休止以降、ソロも含め、精力的に音楽活動を続けてきた日暮愛葉(Vo/Gt)が中尾憲太郎(Ba/Cho)に口説き落とされ、ついに伝説のバンドを復活させた。参加メンバーは中尾の他、彼が集めた若いミュージシャンばかりだが、SeagullをSeagullたらしめている90'sオルタナ・ロック・サウンドは健在。それをもう1度、鳴らすことが今回1番大変な作業だったそうだが、苦労した甲斐あって、ギターを爆音で鳴らす痛快さとともに轟音のギター・ロックという形に硬直してしまう以前のオルタナ・ロックが持っていた閃きや奔放さをシンセ、ストリングス、ブレイクビーツも使いながら見事、蘇らせている。そこに独特のキュートな魅力が加わるところもSeagullならでは。"永遠の思春期"という意味のタイトルも作風を見事言い当てている。
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S. Carey
Range Of Light
Justin Vernon率いるアメリカのフォーク・ロック・バンド、BON IVERでDrとVoを担当しているS.CareyことSean Careyの4年振りとなるフル・アルバム。19世紀の"自然と人間との共生"を説いたナチュラリストの草分け的存在John Muirから取られたアルバム・タイトルが示す通り、楽曲の隅々にまで風通しの良い空気感が漂っている。弦が入った「Crown The Pines」やピアノを中心にした「Alpenglow」など、穏やかな旋律に寄りそう美しい楽器の演奏、呟くようなヴォーカルに心癒される。深夜に聴きたくなる1人用ラウンジ・ミュージック的な楽曲は轟音のライヴ帰り等、耳がお疲れの時におすすめ。
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SEAWAY
Big Vibe
カナダはオンタリオ州出身、2017年には初来日を果たしたSEAWAYの3年ぶり4thアルバム。これまで、ハードコアに出自を持つポップ・パンク・バンドらしいカラッとした質感のエネルギッシュなサウンドを鳴らしていた彼らだが、今作ではWEEZERチックなオルタナ/パワー・ポップ要素が増加。粘り気のあるギター・サウンドと哀愁を感じるエモーショナルな旋律が組み合わさって、一歩成熟した印象を受ける1枚に仕上がった。明るい歌メロとミッドテンポのビートが爽快なTrack.2、熱量と切なさを併せ持ったTrack.6、ヒップホップ調のラフな譜割りが心地よいTrack.9など、持ち前のグッド・メロディを生かした楽曲群は、これまでよりもさらに幅広い層へと刺さりそうな予感。
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SEBADOH
Bakesale
DINOSAUR JR.のベーシストLou Barlowが中心となって活動していたSEBADOHの最高傑作である『Bakesale』がなんとボーナス・ディスク付きの完全リマスターで登場。DINOSAUR JR.の復活、そして昨年のPAVEMENTの再結成ツアーとロウ・ファイの再評価が高まってきている時期と言えるかもしれない。SEBADOHも今年はツアーなどの活動もしていくそうだ。今作を改めて聴き返すと凄くポップなアルバムでありながら、持ち前のヘロヘロな脱力感もたっぷりでとにかく心地よい。特に4曲目以降の切なくて胸が締め付けられるようなメロディとLou Barlowのヴォーカルが素晴らしい。40分強という長さも含めストレートなナンバーが多いので入門編には持って来いだろう。
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SEBASTIAN X
こころ
僕らが愛を感じるとき。それは決して"愛してる"という言葉を交わし合う瞬間などではなく、家族と食卓を囲むような日常の些細な出来事の中だったりする。僕らが言葉にできないほどの豊かな想いに満たされるとき。それは何気ない言葉を交わし合う会話の中だったりする。"心"は形のないものではない。"心"は、"生きること"によって立派に形作られるものだ。SEBASTIAN Xは、それを証明するために「こころ」という名曲を作り、「たばこをプカプカ」や「感受性に直行」という素晴らしい曲たちを作り、そして、ひとまずの終焉を迎えるのだろう。だが、営みは人々が言葉や肌を重ね合わせることで生まれ、音楽もリズムやメロディやハーモニーが重ね合わさることで生まれる。それが続く限り、"心"は生み出され続ける。
LIVE INFO
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