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DISC REVIEW

S

CHAOS TAPE

(sic)boy, KM

CHAOS TAPE

ヒップホップとJ-ROCKを融合するトラックメーカー (sic)boyと、ヒップホップに根差しながら多ジャンルとのクロスオーバーを試みるプロデューサー KMが"ジャンル東京"をテーマに作り上げた1stアルバム。JUBEE(Creative Drug Store)、vividboooy、LEX、Only Uら、東京のヒップホップ・シーンの次世代を担うゲストを迎えた楽曲群が印象づけるのは、新たなミクスチャー・ロック・サウンドと彼らが求める魂の解放だ。その意味では、90年代以降のラウドロックとドープなヒップホップに加え、そのふたつを繋ぐゴスペルの要素も聴き逃せない。すでに書いたように彼らが求めているのは魂の救済ではなく、あくまでも解放。そこには彼らなりのアンチテーゼもあるようだ。

How To Let Go(Japan Edition)

SIGRID

How To Let Go(Japan Edition)

世界を魅了するモダン・ポップスの潮流がノルウェーから日本へ。ヒット曲をふんだんに詰め込んだ今作で、SIGRIDがついに日本デビューを果たした。本国ノルウェーはもちろん、UKを中心にヨーロッパで高く評価されている、キャッチーな音楽性と清涼感のあるヴォーカル。ワンフレーズ聴けば一瞬で"これは好きなやつ!"と即答できそうなくらいに心地よい。普遍性のある都会的なポップスでありながら、北欧の大自然の空気を感じる、この爽やかさ。さらにBRING ME THE HORIZONとコラボしたエモーショナルな楽曲も。飾らないひとりの女性の等身大の気持ちが描かれたリリックもあいまって、肩肘張らずにリラックスして聴くことができる。よく晴れた日にビール片手に聴くのに最適な1枚。

Odin's Raven Magic

SIGUR RÓS

Odin's Raven Magic

SIGUR RÓSが2002年にオーケストラとコラボレートした演奏が、実に18年の歳月を経てアルバムとなった。今作は、古エッダの形式で書かれたアイスランド語の詩"オージンのワタリガラスの呪文歌"を題材としているのだが、北欧神話の世界は、詩的でアンビエントなサウンドを紡ぎだすSIGUR RÓSにぴったりの題材と言えるだろう。オーケストラの重厚な響きと物悲しいメロディは、ラグナロク(神々の滅亡)を描きながら、美しいアイスランドの自然に迫る環境破壊の危機を示唆する。伝統歌謡の歌い手 Steindór Andersenの語り部的な滔々とした歌唱と、神話に登場する神々を思わせる神秘的なJónsiのファルセットの対比も素晴らしい。壮大で儚い美しさに満ちた至極のアルバム。

Inni

SIGUR RÓS

Inni

シンプルに伝えたい。とにかく聴いて、見て、心の深い部分で感じて欲しい。アイスランド語で"inni"とは英語の"inside"を指すのだ。圧倒的な音響も、モノクロで統一されたノスタルジックな映像美も、音楽のマジカルな幸福が宿る場所へインナー・トリップさせるから。世界最高峰の音響叙情派バンドといって過言ではない、SIGUR RÓSから活動休止直前に行われたロンドンはアレクサンドラ・パレスの2公演を収めた音源&映像集が届けられた。そのパフォーマンスは、この上なく繊細で美しい綴れ織りから壮大で壮絶なアンサンブル・カオスまで、まるで何かを掴まんとする叙情性に溢れ、感動的で、神秘的で、深意に唯一無二の世界である。いよいよ、これは来るべき活動再開のシグナルとなるのだろうか?今後の動向にも注目だ。

Siip

Siip

Siip

固有の精神と肉体を持って生まれた人間が神の視座で表現物を作ることは無理だ。だがSiipには"どこの誰でもない生命体"になりきってでも発したい音と言葉があったのだろう。昨年のクリスマス・イヴに突如「Cuz I」を配信。この初アルバムでは人類創世を思わせるインストの最後に声の入った「saga」で幕を開け、地球に落ちてきた男のごとく、人間の感情の名前をアップデート、もしくはリセットしようとする。広義の意味ではポップ・ミュージックだが、ジャンルを限定されないために生音もエレクトロニクスも、ヴォーカルのミックスも歪な聴こえ方が意図されているようだ。偶像崇拝、悪しき父性、らしさの強要などが断罪されているが、一方で人間の美しさも諦めきれない。物事の見方が刷新される可能性を秘めた作品だ。

SILENT

SILENT SIREN

SILENT

年内をもって活動休止することを発表したSILENT SIRENが、初のオール・タイム・ベスト・アルバムを2作同時(合計64曲!)リリース。"POPなサイサイ"をパッケージ化した『SILENT』は、インディーズ時代の「ランジェリー」から幕を開け、ライヴ定番曲中の定番曲「チェリボム」や、彼女たちが"ポップ"と"キャッチー"を追求した「恋のエスパー」ほか、聴いているだけで心が踊ったり軽くなったりする曲たちが収められた。リリース年代順に収録されているため、アルバムが進むごとにすぅの声質が徐々に大人びていく"オール・タイム"ならではのグラデーションも堪能することができる。ガールズ・バンドだからこそ表現できる"かわいさ"の結晶のような1枚だ。ボートラとして未発表新曲もあり。

SIREN

SILENT SIREN

SIREN

2作同時リリースされるオール・タイム・ベスト・アルバムのうち"ROCKなサイサイ"をセレクトしたのが本作。デビュー時から"読モバンド"であることを揶揄されてきた経験のある彼女たちには、それらに対する熱い反骨精神、気高いロック・スピリッツが宿る――そう思わせてくれる全32曲が収録された。音楽性やテーマ性としては、ダンス・ロックの「フジヤマディスコ」、メロコア・チューン「HERO」、まさかのコラボレーションで驚かせた「天下一品のテーマ」など、11年の活動で培ってきた幅の広さを誇示している。"POPなサイサイ"を表現した『SILENT』と併せて聴くことで、サイサイの魅力とは二面性こそにありと気づくはずだ。なお、こちらには『SILENT』とは異なる未発表新曲が収められている。

SILENT SIREN 年末スペシャルライブ2019『HERO』@ 横浜文化体育館 2019.12.30

SILENT SIREN

SILENT SIREN 年末スペシャルライブ2019『HERO』@ 横浜文化体育館 2019.12.30

スペシャルな企画で行っている年末恒例ワンマン・ライヴを映像化。2019年末のテーマは"HERO"。ライヴ直前には同タイトルのEPが配信リリースされたが、"誰もが誰かのヒーロー!"をコンセプトにパワフルでエモーショナルな一夜を作り上げたライヴだ。ビルを模したポップで巨大なセットが組まれたステージを、目にするだけでも高揚感があって、2020年が結成10周年となったサイサイのプレアニバーサリーのようである。特に2020年はコロナ禍でライヴが開催できない、観客も以前のようにライヴに参加できない状況になってしまったこともあって、ここにある多幸感、会場の一体感は格別なものに見える。「HERO」、「OVER DRIVE」など、のちにアルバム『mix10th』に収録された曲も初披露された。

mix10th

SILENT SIREN

mix10th

今年2020年にバンド結成10周年を迎えるSILENT SIRENの10周年記念アルバム。本作は、ゴールデンボンバーの鬼龍院 翔(Vo-karu)が提供した、ライヴで盛り上がること間違いなしの「聞かせてwow wowを」、彼女たちにとって初めてアーティストを招いた1曲「Up To You feat. 愛美 from Poppin'Party」など、いろいろな味の曲が入ったまさに"mix10th"="ミックスジュース"な1枚に。"自分たちにとってバンドとは、メンバーとはどういう存在なのか"という問いへの答えが歌われたリード曲「Answer」は、今後のバンドの歩む道を祝福しているかのよう。ガールズ・バンドの象徴的な存在として走り続けてきたバンドの未来はこれからも明るいと確信した作品。

31313

SILENT SIREN

31313

SILENT SIRENが平成最後の"サイサイの日"である平成31年3月13日にリリースする6thアルバム。リード曲である「恋のエスパー」は、彼女たちが本作で"ポップとは?"、"キャッチーとは?"と突き詰めた末に完成したアップ・チューン。底抜けに明るいサウンドとすぅから放たれるエネルギー溢れる歌声は、聴いているだけで活力が満ちていくようだ。掛け声を入れる部分や振付も用意されており、ライヴ映えも間違いなし。そのほか神泉系バンド、フレンズのひろせひろせ(MC/Key)が手掛けたシティ・ポップ「Letter」でサイサイの新しい表情を見せたり、「ALC.Monster」や「Attack」ではアグレッシヴな演奏も見せたりと、彼女たちの魅力を多角的に捉えた作品に仕上がった。

19 summer note.

SILENT SIREN

19 summer note.

ほのかに切なさが宿るイントロの印象的なギター・フレーズと、ブルージーで疾走感があるビートに乗るポップな"nineteen nineteen"のコーラスをアクセントに、眩しい夏のシーンが浮かび上がるサイサイの新しい夏曲。日が沈む前に、夏が終わる前に、あの子に想いを伝えなきゃとソワソワ、ドキドキとしている臨場感をメロディとサウンドで紡ぎ出す「19 summer note.」は、いつも共に曲制作を行っているクボナオキだけのアレンジでなく、メンバーそれぞれもアレンジを手掛けた。現在、3月から続く全国ツアーの真っ最中であり(早くも現ツアーからのライヴ音源も収録)、高いモチベーションとバンド・グルーヴが、このアレンジに存分に発揮された。これからのライヴ、フェスに映える1曲に、c/w曲「天下一品のテーマ」も必聴。

GIRLS POWER

SILENT SIREN

GIRLS POWER

レーベルを移籍して初のフル・アルバム。2017年は『フジヤマディスコ』を始めとする3枚のシングルをリリース、メジャー・デビュー5周年を記念するツアーを国内外で行い、初の武道館公演2デイズも大成功に終わらせるなど、タフなガールズ・バンド・ライフを思いっきり体現してくれた。そうした活動の集大成であり、新たな一歩となる力強さがタイトルに表された1枚。デビュー以来の魅力であるポップ・チューンがアップデートされた印象の「パパヤパヤパ」の明るさや楽しさと、緊張感漂う「KNiFE」のエッジの効いたサウンドの両面にバンドの魅力を感じることができる。新たなアンセムになること間違いなしの「ODOREmotion」など、ライヴでの再現が楽しみな、とてつもないエネルギーに満ちた作品だ。

ジャストミート

SILENT SIREN

ジャストミート

ポップさやパンキッシュな曲、切ないバラードからキュートでちょっとシニカルな曲など多くのサイサイ・サウンドがあるなかでも、"サイサイの代表曲を作る"というテーマで完成した表題曲「ジャストミート」。イントロのキラー・フレーズで心を掴んで、スピード感に溢れ、キメもふんだんに盛り込んだロック・サウンドをかっ飛ばしており、会心の一撃と言うに相応しい。移籍を経て、楽曲的な新しいチャレンジと、これまでの持ち味をより深化させることを同時に加速させる、今の4人の一体感や勢いというものが落とし込まれている。カップリング曲「フユメグ」は、凛とした透明感のある冬の空に映えそうなキラキラとした多幸感のある曲。こちらもサイサイ印が凝縮された、濃い1枚だ。

AKANE/あわあわ

SILENT SIREN

AKANE/あわあわ

EMI Records移籍第2弾の両A面シングル。前作リード曲「フジヤマディスコ」とは好対照なミディアム・バラード「AKANE」は親への感謝、家族愛が歌い上げられており、タメの効いた演奏が高揚しながらエンディングへ向かう様がドラマチック。「あわあわ」はカラフルでキュートなポップ・ソングながら、サウンド自体は結構ラウドなところが面白い。この2曲は共にTV番組のテーマ・ソングということもあり、ある程度テーマに沿ったものになったようだが、カップリングの「Kaleidoscope」は意外性のあるアレンジが聴きどころ。鋭いキメを多用してポスト・ロック的な演奏を聴かせる序盤から、ダンサブルにリズム・チェンジして開放感を感じさせるサビ、3拍子を挟んで間奏に入っていく展開まで、緊張と緩和が実に巧みで、サイサイの新しい魅力を発見できる曲だ。

フジヤマディスコ

SILENT SIREN

フジヤマディスコ

昨年12月30日に行われた東京体育館でのワンマン・ライヴで、ユニバーサルミュージック内のレーベル"EMI Records"に移籍、バンド・ロゴも変わることを発表したSILENT SIRENの移籍第1弾シングル。"フジヤマディスコ"というタイトルからはちょっとユーモラスな曲なのかな? という第一印象を受けるかもしれないが、とんでもない。冒頭のギターのカッティング、ベースのスラップを聴けばグッと身体が前のめりになるはず。演奏からも歌詞からも"ガールズ・バンドの頂点を目指す"という彼女たちの意気込みがこれでもかと伝わってくる楽曲になっている。CD初収録の「ワカモノコトバ」を含むメンバー・セレクションによるベスト・アルバム『Silent Siren Selection』も同時リリース。

Frogstomp: 20th Anniversary Deluxe Edition

SILVERCHAIR

Frogstomp: 20th Anniversary Deluxe Edition

オーストラリア出身のオルタナティヴ・ロック・バンド、SILVERCHAIRが1995年に発表したデビュー・アルバム『Frogstomp』の発売20周年を記念した最新リマスター盤とライヴ音源等収録のボーナス・ディスク付き完全生産限定盤。今作発表時、弱冠15歳という年齢からアイドル的な扱いをされる向きもあった彼ら。極限まで歪ませたヘヴィなギターが演奏の粗さをカバーしていなくもないが、ライヴ音源を聴けばグランジ・ムーヴメントの終焉と共に変わっていった彼らの、その瞬間にしか出せない瑞々しい感性の爆発に心動かされるはず。爆音インスト・ナンバー「Madman」のヴォーカル・バージョンなどレア曲も収録。

Swoon

SILVERSUN PICKUPS

Swoon

USオルタナを担う可能性を示したデビュー・アルバム『Carnavas』から2年。SMASHING PUMPKINS直系のオルタナティヴとシューゲイザーを合わせたようなディストーション・サウンド、クセのないシンプルなメロディとBraian Aubertの物憂げだが、鼓膜を優しく刺激するヴォーカル。そして、控えめながら、ツボを押さえたストリングスも効果的に絡む。『Swoon』(脳貧血による意識喪失)というタイトルが示すように、どこか危うく、今にも崩れ落ちそうな儚さが漂う。彼らの特徴が十分に出ている良盤だが、聴きやすさが仇となっている面もある。そこが彼らの良さでもあるのだが、もう一歩、アクの強さが欲しいのも事実。何か決定的な個性が出てくれば、とんでもない作品を作りそうなのだが。

Age without rock star

SILVERTREE

Age without rock star

仙台出身の4ピース・バンドがリリースする初の全国流通盤。"ロック・スターのいない時代"と名づけられた本作にはふたつの意味が込められている。ひとつは、こんな時代だからこそ自分たちがこのバンド・シーンの中で旗を揚げ、ムーヴメントを起こしていきたいんだというバンド側の意志。そしてもうひとつは、能動的な行動でもって自分だけの道を切り拓いていく人が減った世の中全体に対しての警鐘。平均年齢19歳の彼らが背負うにしては、どちらも重すぎるテーマだが、しかし、というかだからこそ、自分たちの主張をまっすぐ鳴らしきる姿には熱いものが宿るのだろう。青春時代をこのバンドと共に過ごせる若い世代をうらやましく思うと同時に、大人も負けてらんねぇぞと思わず奮い立った。

Monaural

SILYUS

Monaural

何にも悩むことなく、無邪気に生きていられる人間はそう多くない。そして、SILYUSは自らを"リアルに音楽があったからこそ生き延びることができた人間"だと言い切る。つらい暗黒時代を経験した彼が生み出す作品には、繊細にして確かな音楽へのピュアな愛情と、ひしひしと伝わってくるような深い意味性を持ったコトバたちが託されているように感じてならない。例えば、表題曲となる「Monaural」に関しては、闇を知るSILYUSが描く葛藤であり、懊悩であり、焦燥感から生まれる光への切望そのものだと言えよう。本来、高い英語力を持つ彼があえて日本語を軸とした歌詞を書いている理由は"自分の感情を伝わりやすい言葉に換えて強くぶつけたい"という想いに端を発しているという。それだけに、今作はとても切実で美しい。

Infinite Traffic Everywhere

SIMIAN GHOST

Infinite Traffic Everywhere

OWL CITY やJames Yuill 等の活躍により細やかで優しいエレクトロとアコースティックなサウンドが融合されたドリーミーなポップ・ミュージックが少しずつ注目を集める今、期待のニュー・カマーが登場。スウェーデンのポスト・バンドAERIALのヴォーカリストであるSebastian Arnstrom のソロ・プロジェクトのデビュー作である今作は、彼の繊細な歌声に中心に一曲目から透明感溢れる世界感が広がる。北欧系らしいメランコリックなメロディには、インディ・ポップ然としたギター・ポップもあり聴き手を飽きさせない。でもやはり一番惹かれるのは、楽曲ごとに様々な魅力をみせる彼の歌声だろう。

Murmurations

SIMIAN MOBILE DISCO

Murmurations

ソリッドなニュアンスもアンビエントな作風も打ち出してきたSMDが、デビューから10年の節目の先に提示した本作。エレクトロ・アーティストがデジタル・クワイアなど、人間の声のレイヤーに意識的なのは昨今の潮流だが、SMDは今作の軸に、イギリスのハックニーを拠点に活動する女性ヴォーカル・コレクティヴのDEEP THROAT CHOIRを起用。シンセのような女性の合唱、いや、逆に合唱がヒントでシンセが発明されたのでは? という、根源的な問いがリスナーの心の内に発生しそうな、先鋭的と原初的が対立しない音像。ともあれムクドリの大群の集団行動にヒントを得たというタイトルよろしく、動物の行動や自然現象にも似たクワイアと必要最低限のエレクトロが溶け合う新しい音楽体験に身を委ねてほしい。

Unpatterns

SIMIAN MOBILE DISCO

Unpatterns

James FordとJas ShawからなるSIMIAN MOBILE DISCOが帰って来た。かつてはJUSTICEやDIGITALISM、BLACK STROBE等とエレクトロ・ロック・ブームの立役者となり、片割れJamesはARCTIC MONKEYSやKLAXONSなど00年代インディ・ロックの重要作を司るプロデューサーともなった。その動向はいつでも注目を集めるが、約3年振りの3rdアルバム『Unpatterns』もまた期待を裏切らない快作である。上述したエレクトロ・バンドが新作ごとにフロアをいっそう揺らすべく、BPMを上げより激しくアグレッシヴに変貌していくならば、こちらはストイックな内省感を強めるように、緩やかで心地良い、洗練されたサウンドが広がっている。例えるなら、アーバン・アンビエント・ミニマル・ダンス?FATBOY SLIMことNorman Cookが“新鮮で他にはない!”と太鼓判をおしているが、唯一無二のSMD節がフロアを揺さ振る光景が目に浮かぶ。

Temporary Pleasure

SIMIAN MOBILE DISCO

Temporary Pleasure

2007年にJUSTICE、DIGITALISMと共に一世を風靡したSIMIAN MOBILE DISCOの2年ぶりのセカンド・アルバム。この作品ではSUPER FURRY ANIMALSのGruff Rhys、HOT CHIPのAlexis tailor、GOSSIPのBeth Ditto、Jamie Lidellなどなど、錚々たるメンツがゲスト・ヴォーカルとして参加しており、全10曲の内6曲がヴォーカル入りとなっている。所謂エレクトロ・ミュージックが、ロック、ポップスと共鳴し、さらなる大衆性を獲得したことは近年のシーンを見れば言うまでもないが、この作品はそんな方向性をさらに決定付けるアルバムだ。MSTRKRFTの『Fist Of God』と共にぜひ手にとってみてください。絶対損はしないから。

CIY

SIRUP

CIY

昨年、Honda"VEZEL TOURING"のCMにアルバム『FEEL GOOD』収録の「Do Well」が起用。一気にヒップホップ/R&Bシーンのトップに躍り出たSIRUP。今作は"Choice is Yours=CIY"をテーマに、人間関係や表現、仕事、恋愛など様々な場面において自分自身が持つ"愛"が盾にも武器になり得ると歌っている。インディーR&B以降、生音のジャズやゴスペル的なエレメントを導入するアーティストは多いが、SIRUPのサウンド・プロダクションの洗練された空気感は頭ひとつ出ている印象。トラック・プロデュースにはSTUTSやロンドンの人気DJ/プロデューサーのJoe Hertzも参加、先鋭とノスタルジーが融合しているのも納得の布陣。少しシリアス且つソリッドに問題提起しつつ、極上のラヴ・ソングも存在するのが魅力だ。

FEEL GOOD

SIRUP

FEEL GOOD

Tom Misch大阪公演のゲスト・アクトも務めた、Sing & Rap="SIRUP"という名が示すように、両方の境目を感じさせないスムースなアルト・ヴォイスが魅力の彼の初アルバム。自身も在籍する地元大阪のクルー、Soulflexのトラックメイカー Mori Zentaroと共作の、Honda"ヴェゼル"CM曲でクラブ・ジャズ調の「Do Well」、DJ/トラックメイカー Chocoholicとのエレクトロニックなナンバー、ラッパー BIMとの共作曲、小袋成彬率いるTokyo Recordingsプロデュースの「Synapse」、ライヴでも共演しているTENDREが作詞作曲、プロデュース、ヴォーカル参加の「PLAY」と、圧倒的なセンスとサウンドの良さで2019年を代表する1枚になりそう。

X X X

SISTERJET

X X X

まさに完全復活と言っていいだろう。2012年のメンバー脱退後しばらくは2人体制で活動していたが、去年12月に新メンバー、オオナリヤスシが加入。再び3ピースに戻っての2年ぶり通算4作目となるフル・アルバム。アルバム全編通して、過去最高にプリミティヴな3ピースのバンド感を前面に打ち出したロックンロールが並んでいる。この屈強なサウンドを聴けばSISTERJETというバンドが持つ"ロックンロール"という1本の芯の太さを痛感させられる。だが、同時に、その奥にある色鮮やかさ――メロディの美しさ、リズムの多彩さ、そして歌詞における雄弁さ――も際立って聴こえてくる。ロック・バンドがユース・カルチャーにおける力を失ったと言われて久しいが、本物のロックンロールは時代を問わず凛然と輝く。そう強く感じさせる傑作だ。

3-1=2 / No Limit e.p.

SISTERJET

3-1=2 / No Limit e.p.

去年、ベースのSKB脱退という報に衝撃が走ったSISTER JETの、2人体制になって初のEP。『3-1=2 / No Limit』という、あまりに直接的に宣誓を告げるタイトルは、リスナーにも、そして自分たちに対しても、その強気な姿勢を言い聞かせる意味合いを込めてだろう。楽曲に関しても、よりプリミティヴに、衝動的になっている。特にリード・トラックの「リバティーシティ マシンガン」が凄い。聴いてるこちらにも電流が走りそうなほどに激しく掻きむしられるギターと、暴力的なまでに力強く打ちつけられるドラムが生み出すカタルシスがたまらない、強烈なブルーズ・ロックンロール。これはもう、Jack Whiteも真っ青でしょう。もちろん、ジェット特有の甘く切ないメロディも健在。この上ないリスタートを飾るEPである。

YOUNG BLUE

SISTERJET

YOUNG BLUE

若い。青い。タイトルに用いたこの2つの言葉そのままの音が聴こえてくる。若者らしい勢いがある。あるいは、若者にしかできない音楽。そう言っていいだろう。2度とやってこない、今しかないこの瞬間を切り取ってみせる。そんな感じだろうか。ギターとベース、ドラムが絡み合いながら坂道を転がっていくような、疾走感のある演奏を展開する。この演奏から弾き出されるのは、ブリティッシュ・ビートを下敷きにした、どこまでも瑞々しいギター・ロック/ポップ。SISTER JETの3作目のアルバムだ。4月と5月の2ヶ月連続でリリースされた、『17(SEVENTEEN)』と『しろくま』という2枚のシングルを経てのリリースとなる。このアルバムにはその2枚のシングルの答えがあるという。

ロックンロール発電所

SISTERJET

ロックンロール発電所

SISTER JETが何かを巻き起こそうとするとこうなります。SISTER JETがパワーをビートに換算するとこうなります。感電するほどエネルギッシュであり、勇ましいほど骨太。まさに理屈じゃないエネルギーが、メーターを振り切るほどのハイ・ヴォルテージで放出されている。地震と同時に始まった"LONELY PLANET BOY TOUR"を終え、またワタルS自身も計画停電等を経験した中で、彼らが発進するメッセージは、"ロックンロールで発電せよ!"という、実に彼ららしいシンプルでポジティヴな言葉。ビートを刻み続ける向こう側には何かがある、どんな時も"YES"と言い続ければきっと届くと信じている彼らならでは。パワーをポップに、パワーをビートに詰め込んで、とことんポジティヴにぶちかます!

LONELY PLANET BOY

SISTERJET

LONELY PLANET BOY

思うんだ。何度何回だって僕らの心を更新する彼らのビート、何度何回だって僕らの心を震わせキュンとさせる彼らのビートはますます力強くなっていると。どしどしと胸を突き、心のドアをノックせんと、こじあけようと、強く訴えかけてくる。スピーディでスウィートなメロディは、目にもとまらぬ速さで、あっとう間に涙線をぐしゃぐしゃに踏みつけていく。最初から最後まで、決して"寂しさ"を置いてきぼりしない、底抜けに明るいポップ・ソングは、もはや彼らだけの武器だ。センチメンタルとハッピーと愛嬌を振りまくキュートな3人組は、どこまでも甘い、ぶれないポップ・センスを武器に、本作でもって、遂にその強い求心力を証明してみせた。もう、全てのロンリーたちはSISTER JETにハグされろ!全てがシングル曲と言っても過言ではない、キャッチーな愛すべきナンバーが勢ぞろいした、最強のボーイズ・ロックンロール・アルバムが完成した。

キャラメルフレーバー

SISTERJET

キャラメルフレーバー

スマッシュヒットとなった前作『Mr. Lonely』に続いて待望のニュー・シングル『キャラメルフレーバー』はメランコリックで甘酸っぱいムードが漂うサウンドで聴き手の胸を締めつける。以前からずっとライヴで温めてきた曲だそうだ。それにしても、やっぱり男の子の方がロマンチストだよねって思ってしまうほど絶妙にエモーショナル。そしてカップリングには、CHEAP TRICKのヒット曲「Surrender」の日本語カバーとライヴ音源「All You Need Is Live Pt.3」が収録されているが、まずはライヴ音源に注目して聴いて欲しい。甘くて切ないだけでは収まらない、油断して近づいたらガブリと噛みつかれたような気分にさせられた。

JET BOY JET GIRL

SISTERJET

JET BOY JET GIRL

2006年の「FUJI ROCK FESTIVAL」の「ROOKIE A GO-GO」に出演を果たし、ダンサブルなサウンドと抜群のメロディ・センスでニュー・ビート・バンドとして注目を集めてきた彼ら。1stアルバムから間もない今回のEPでも彼らのハチャメチャでキュートな魅力が詰まってます。オルガンの音をフィーチャーした「恋してクレイジー」からBAY CIYT ROLLERS のカヴァー「Saturday Night」まで。走り出したら止まらない暴走気味なドラム、そしてグルーヴィーなリフと、最後まで一気に駆け抜ける。THE WHOを目標にスタートした彼らは日本語の歌詞を乗せ、舌足らずで荒削りながら今しか出来ない事をスタートさせている。

「NEW QUAD」2×2=4 / very well L.P.

SISTERJET with DOTS+BORDERS

「NEW QUAD」2×2=4 / very well L.P.

10代の頃からロックと呼ばれる音楽を聴き始めたが、20代半ばを過ぎた今、あの頃と同じ感じでロックを聴いている自分に驚いている。人って大人にはなれないものだなぁ、なんて。でも、それも別に悪くないかと思ったのは、2人体制になったSISTERJETと、堀江博久とカジヒデキによる伝説のユニット、DOTS+BORDERSによるコラボ・アルバムを聴いたからで。跳ねるビート、乾いたギター、レトロな質感のキーボード、胸にピリッとくる歌。JETS印の疾走感のあるロックンロールに、堀江とカジの絶妙なポップネスが注入されたこの8曲には、演奏は屈強であるにも関わらず、全体に瑞々しくて軽やかなフィーリングが漂っている。この2組が世代を超えても繋がれるのは、どちらもきっと、まだロックの虜の子供のままだからだ。

Six60

SIX60

Six60

母国ニュージーランドでのシングル・セールスがこれまでに100万枚を超え、全世界での総ストリーミング数は2億を突破している、まさに同国を代表するロック・バンドによる3rdアルバム。R&Bやポップ、エレクトロ、レゲエなど多彩なジャンルを飲み込んだバンド・アンサンブルに乗せ、フロントマン Matiu Waltersが親しみやすいグッド・メロディをソウルフルに歌い上げる楽曲は、即効性抜群の普遍的な心地よさで、年代や国境を超えた幅広い層に支持されるのも納得。現行音楽シーンのトレンドをキャッチアップしつつ、マオリの民族楽器をモダナイズして用いた、洗練されたアレンジも印象的。アルバム全体でチルな雰囲気を湛えつつも、世界に自らのルーツを知らしめるような野心的な1枚だ。

3

SIX LOUNGE

3

昨年、多くのライヴ・バンドと同様に苦難の中に置かれたであろうSIX LOUNGEが、これまでライヴの場でぶつけてきた途方もない熱量を、ぎゅっと結晶化させたようなアルバムだ。ロックンロールの様々な系譜を彼ららしく再構築した楽曲たちは、男臭い色気を狂おしく放つときもあれば、びっくりするほどロマンチシズムをもって響くときもあるし、不思議な愛嬌を感じるときもある。そのすべてはSIX LOUNGEというバンドの人間臭さや愛おしさに帰結するようで、聴けば聴くほどライヴで生の音に触れ、その情熱や美学を全身で体感してみたくなる曲ばかりだ。苦悩の時を経て、より普遍的な優しさや頼もしさを身につけたロックンロール・バンドの"今"の姿に、グッと胸を掴まれ、心救われる。

THE BULB

SIX LOUNGE

THE BULB

3年半ぶりとなる待望のフル・アルバム。昨今では希少となった荒削りなロックンロール・バンドであり、だからこそ人気を集めている――SIX LOUNGEに対してそんな印象を抱いていたのだが、今作を聴いて彼らの魅力はそこにとどまっていないことに気づかされた。まずは、ヤマグチユウモリ(Gt/Vo)の圧倒的な存在感。どんな楽曲も色っぽく質を高められる天性の歌唱力がさらに引き出されているのだ。アコースティックの「窓を開けて」で見せる優しさも心地いいアクセント。そして、現在も地元大分在住というところが関わっているのだろうか、演奏にも楽曲にも雑念が混じらないピュアな勢いや発想を感じることができる。もっと名と音を広めそうな3人のキャラクターが映し出された1枚だ。

幻影列車

SIX LOUNGE

幻影列車

昨年はミニ・アルバムを2枚、今年は5月にシングル1枚をリリースし、自身最大規模のワンマンを開催するなど、精力的な活動を行う大分発のロックンロール・バンドによる、約4ヶ月ぶりのニュー・シングル。表題曲は、ヤマグチユウモリ(Gt/Vo)が最近感動するようになったというオルタナ/ハードコア/エモの要素が取り入れられたミドル・ナンバー。落ち着いたトーンで鳴らされる熱がじりじりと迫りつつも、情や温かみや一抹の寂しさを匂わすという、深い感情表現が実現している。c/wにはポップでオープン・マインドな空気感があるロマンチックな「星とメロディ」と、ヤマグチのルーツのひとつである井上陽水の「氷の世界」のカバーを収録。バンドの新たな可能性を感じさせる3曲が揃った。

天使のスーツケース

SIX LOUNGE

天使のスーツケース

2019年、大きく飛躍することを目標に掲げ、楽曲ヒットを目指す若きトリオ、SIX LOUNGEが世に問うニュー・シングル。ロックンロール・バンドであることを言い訳にせず、メイン・ストリームに食い込もうという心意気はあっぱれだ。曲が持つ疾走感があまりにも痛快な「天使のスーツケース」、サビの展開がキャッチーなガレージ・パンクの「DO DO IN THE BOOM BOOM」、そして音の響かせ方が面白い「Lonely Lovely Man」。ニヒルでクールな風情を漂わせながら、3人が取っ組み合うような演奏という意味では、どの曲も熱度は満点。さぁ、シーンに風穴を空けられるか。このあとも強力な曲がラインナップされているという。SIX LOUNGEのここからに注目していきたい。

ヴィーナス

SIX LOUNGE

ヴィーナス

半年前にリリースされた前作と比べて、作品としての物語性が飛躍的に増した印象。音の強弱、メロディの展開、テンポ、1曲の尺などで緩急をつけることにより、全体的としてメリハリのある構成に。また、歌詞の言葉選びもいっそう洗練され、"青(ブルー)"、"夢"という単語はロック・バンドの象徴であり、夜明けを待つ主人公はロック・バンドに憧れを抱く彼らや私たちそのもの。最終曲に待ち受ける"輝け憂鬱なブルースよ"というフレーズにはどうしたってグッときてしまうものだ。若き3人が鳴らす泥臭くもセンチメンタルなサウンドにロマンを感じている人も少なくないと思うが、心技体が噛み合った今、それはかつてなく大きく膨れ上がっているよう。このバンドには、衝動のその先へ進む力がある。

地獄盤

ircle×SIX LOUNGE

地獄盤

ともにライヴハウス・シーンで人気を伸ばしている大分県別府市出身の先輩後輩バンドによるスプリットCDが、後輩であるSIX LOUNGEから話を持ち掛け、実現したそうだ。それぞれに新曲を2曲ずつ提供している。そのSIX LOUNGEはともにストレートなロックンロールの「STARSHIP」、「STRAWBERRY」で爽やかさと向こう意気が入り混じる個性をアピール。一方、ircleは「瞬」、「HUMANisM」の2曲で、それぞれ2ビートと言葉を畳み掛ける歌という新境地にチャレンジ。なぜ自分は歌うのか、何を歌うべきなのかというテーマと改めて向き合った歌詞が胸を打つ。別府の観光名所、地獄めぐりに由来するおどろおどろしいタイトルとは裏腹に、激しい演奏と詩情が交差する美しい1枚だ。