Skream! | 邦楽ロック・洋楽ロック ポータルサイト

Skream! 公式X Skream! 公式YouTube Skream! 公式アプリ

DISC REVIEW

B

THE END

アイナ・ジ・エンド

THE END

天性のハスキーな声質、感情の表現力、歌唱技術の高さ。その唯一無二の歌声で、ここ最近はフィーチャリングやトリビュート作品に引っ張りだこのアイナ・ジ・エンド(BiSH)が、全曲本人による作詞作曲、サウンド・プロデュースを亀田誠治が手掛けた(「死にたい夜にかぎって」は除く)ソロ1stアルバムを完成させた。このアーティストが只者ではないことはBiSHの活動でもわかっていたことだが、この作品で感じさせた詩世界の奥行きと深み、メロディ・センスの高さは、本作を機に彼女が遥かな高みへと羽ばたいていく予感を抱くには十分すぎる。Disc2は、これまでに外仕事として参加してきた曲を1枚にまとめた"AiNA WORKS"。多様なジャンルや曲調に乗せた名楽器"アイナ・ジ・エンド"の響きを堪能すべし。

LETTERS

BiSH

LETTERS

当初はシングルのリリースを予定していたが、コロナ禍による現状を見据えて新たに曲を制作したというメジャー3.5thアルバム。壮大なストリングスで幕を開ける「LETTERS」は、そんな現状をメンバーと共に耐え忍んでいる清掃員(※BiSHファン)に向けて"あなたいるこの世界守りたいと叫ぶ"とストレートに想いを綴ったまさに手紙のような1曲に。「I'm waiting for my dawn」では、暗い話題の多い日々の夜明けをじっと待ちわびている心を歌った歌詞と、メンバーの歌唱をじっくりと受け取ってほしい。東京スカパラダイスオーケストラのホーン隊を招いた「ロケンロー」では、スカパラとの化学反応と彼女たちの新境地を堪能することができる。こんな時代だからこそ生まれた、こんな時代に必要な1枚。

FOR LiVE -BiSH BEST-

BiSH

FOR LiVE -BiSH BEST-

BiSH初のベスト・アルバムには、「BiSH -星が瞬く夜に-」、「オーケストラ」、「プロミスザスター」といった代表曲から、「MONSTERS」、「OTNK」、「GiANT KiLLERS」を始めとするキラーチューン、そして最新シングルの「KiND PEOPLE」、「リズム」まで全27曲が収録された。本作の配信は行われずCDショップとそのECサイトのみで販売されるのだが、エイベックスおよびWACKの収益全額は、デビュー以来BiSHがワンマンや自主企画を開催してきた全国のライヴハウスに全額が寄付されるという。今や飛ぶ鳥を落とす勢いとなった、楽器を持たないパンク・バンドのその姿勢と生き様に、そしてそんな彼女たちのエネルギーがぎっしりと詰め込まれた作品に改めて痺れた。

CARROTS and STiCKS

BiSH

CARROTS and STiCKS

タイトルの"CARROTS and STiCKS"は日本語で"飴と鞭"の意。本作では、第1の先行配信EP『STiCKS』の持つ凶悪さと、第2の先行配信EP『CARROTS』の持つ爽快さを1枚に収めることで、アルバムの中に赤と青のような強いコントラストが生まれ、BiSHの持つ二面性を見事に表現している。この1枚を聴くことで、清掃員(※BiSHファン)の中でも意見が分かれる"BiSHらしさとは何か"という核心に近づくことができるかも。さらに、ライヴの新たな定番となることを予感させる曲や、どことなく1stアルバム時代の匂いを感じさせる曲など、EP収録曲以外にも粒ぞろいの新曲が揃う。ボーナス・ディスクには2018年のシングル曲などが収録されており、今の彼女たちのすべてが詰まった作品と言える。

stereo future

BiSH

stereo future

BiSHのメジャー5thシングル表題曲「stereo future」は、PlayStation®4/STEAM®用ゲームソフト"GOD EATER 3"のOPテーマ。壮大で疾走感のあるこの曲は、ゲームの世界観に沿いつつも、孤独を感じているというBiSH自身のことを歌ったようでもあり、さらには日々何かと戦っている聴き手を奮い立たせるようにも感じさせる。なお、実際のゲームでは一部の歌詞とアレンジが異なることで印象の変わった"GOD EATER 3 Ver."を使用しており、こちらは初回生産限定盤にも収録されている。c/wは表題曲から一転して激しくアグレッシヴなナンバーの「S・H・i・T」。アユニ・Dがツアー中にBiSHをテーマに作詞した歌詞は、"今この瞬間"の彼女たちを切り取った、BiSHへの想いを詰め込んだ1曲だ。

BiSH Documentary Movie "SHAPE OF LOVE"

BiSH

BiSH Documentary Movie "SHAPE OF LOVE"

全12ヶ所の全国ツアー"BiSH pUBLic imAGE LiMiTEd TOUR"から、5月の横浜アリーナ公演[BiSH "TO THE END"]までの舞台裏に完全密着したドキュメンタリー作品。ライヴ前後の楽屋や打ち上げといった場で覗かせる、ステージやオフィシャルな場での表情とはまた違った面が見られるのは、ファンにとって嬉しいところだろう。それも垣間見えるのは、いわゆる普通の女の子に戻る瞬間というより、悩み、葛藤したり、メンバーを慮ったり、時に真っ向からぶつかる、それぞれが徹頭徹尾BiSHである姿。とにかく真面目、でもって全然器用じゃないし、それを言い訳にしない。そんな彼女たちの在り方が記録されている。BiSHの歌が持つ肯定感や、ある種のパンクイズム的なものの説得力は、彼女たち自身によるものだとわかる内容だろう。

BiSH "TO THE END"

BiSH

BiSH "TO THE END"

2018年1月から全国12ヶ所で開催した"BiSH pUBLic imAGE LiMiTEd TOUR"を経て、5月22日、自身最大規模となる横浜アリーナでのワンマン[BiSH "TO THE END"]を行ったBiSH。チケットは即日完売し1万2,000人の観客と迎えた大舞台は、BiSHが立たなければならない舞台であり、通過点のひとつだったという。今回は、生バンドの演奏を取り入れたり、アリーナ会場ならではの舞台セットや舞台装置を用いたりすることはせず、6人だけでステージを作り上げた。アンコール含め、全22曲。全力で走り、会場をしっかりと掌握しつつ、また観客の圧倒的な熱量と化学変化を起こしながら、ソリッドで、リアルで、現在のBiSHの等身大をぶつけるステージとなった。新たな始まりへの余韻とイントロを感じさせる濃厚な一夜が収録されている。

NON TiE-UP

BiSH

NON TiE-UP

『Life is beautiful / HiDE the BLUE』の発売日同日にゲリラ・リリースされた2曲入りシングル。攻めに攻めたタイトル、曲調、歌詞に、型破りなパフォーマンスを続けてきた初期BiSHの姿を思い出す人も多いのでは。だが当時と違うのは、彼女たちのヴォーカルが、必死に食らいつくというより堂々としていること。ダーク且つヘヴィでシンフォニックな楽曲でありながら爽快感が生まれているところに、BiSHのポップ・アイコンとしての才も垣間見る。変拍子や難易度の高いフレーズが多数組み込まれたポスト・ロック的アプローチのカップリングは、サウンド的にも新機軸。声を素材的に使う場面もあれば、妖艶にメロディをなぞるシーンもある。単なるイロモノ盤で終わらせないところにプロデュース・チームの手腕が光る。

Life is beautiful / HiDE the BLUE

BiSH

Life is beautiful / HiDE the BLUE

前作『PAiNT it BLACK』から3ヶ月というインターバルでリリースされる、タイアップ曲2曲が収録された両A面シングル。「HiDE the BLUE」は、若者ならではの葛藤や悩み、青春が綴られた、ストリングスも鮮やかなロック・ナンバー。歌詞の内容やタイトル性など、「PAiNT it BLACK」と双子的存在の楽曲とも言える。「Life is beautiful」は、"愛してるよダーリン"や"幸せ感じたいの"という慈しみに満ちた言葉も印象的なミディアム・ナンバー。切なく温かい空気感のなかで、普段は見せない素朴で柔らかい表情を見せる6人のヴォーカルが際立つ。淡々としつつも叙情的なギターのリフレインも楽曲の大きなアクセントだ。タイアップ作品とのコラボ効果で、BiSHの持つ清純性を楽しめる。

PAiNT it BLACK

BiSH

PAiNT it BLACK

昨年11月にメジャー2ndアルバムをリリース、"ミュージックステーション"や"スッキリ"などの地上波番組に出演し、所属事務所WACKでのシャッフル・ユニットやメンバーのソロ活動など、精力的な動きを見せるBiSHのニュー・シングルは、TVアニメ"ブラッククローバー"のOPテーマ。作品と親和性の高い正統派J-ROCKと6人が次々に入れ替わるヴォーカル・ワークが特徴的で、さらに向上した6人の歌唱力と表現力が堪能できる。c/wは「オーケストラ」と近い方向性の華やかで壮大なロック・ナンバー。メンバー全員が挑戦する曲中の台詞朗読にも注目だ。2曲とも若者の青春感が主題になっており、葛藤や陰の要素も孕んでいる。楽曲の強度が高いのは等身大の彼女たちが反映されているからだろう。

THE GUERRiLLA BiSH

BiSH

THE GUERRiLLA BiSH

現メンバーになり2枚目となるフル・アルバム。特筆すべきは前作『GiANT KiLLERS』で見せた各メンバーの個性や人間性をさらに色濃く見せ、BiSHというグループの強度を高めているということ。各メンバーの表現力や歌唱力の成長に加え、ハーモニーやユニゾン、耳を劈くシャウトなども随所で用いられており、ヴォーカル・ワークの華やかさが増した。メンバー全員が個々で書いた歌詞からも、2017年の等身大の彼女たちとひとりひとりの成長を感じることができるだろう。バンド・サウンドを主体としたロックやメロコア、パンク、オルタナ、ストリングス・アレンジを施した壮大な楽曲、センチメンタルでポップなミディアム・ナンバーなど、過去作と同様に振れ幅の広い楽曲が揃っている。

GiANT KiLLERS

BiSH

GiANT KiLLERS

年明けから精力的なライヴ活動を続けているBiSHのモードをそのまま封じ込めた作品と言っていい。『プロミスザスター』もメンバーの個性が生かされていたが、今作はそれに磨きがかかっている。表題曲は楽曲自体もアグレッシヴなストリングスもインパクト大で、かなりパンチが効いたパンク・ナンバー。曲以上に6人のヴォーカルの存在感が大きく、遊び心のある飛び道具的なヴォーカルは瞬発力も増している。現在の6人で場数を踏んできたからこそのクオリティだ。5曲中4曲がメンバー作詞曲で、特にモモコグミカンパニーによる、BiSHやWACK(所属音楽会社)の未来を綴ったTrack.3は「オーケストラ」、「プロミスザスター」に並ぶ名曲になるのでは。昨年夏に加入したアユニ・Dの成長も目覚ましく、6人の進化を存分に感じられる。

プロミスザスター

BiSH

プロミスザスター

前作のメジャー1stフル・アルバム『KiLLER BiSH』のリード曲「オーケストラ」を超える名曲が誕生したと言ってもいいのではないだろうか。昨年8月に現在のメンバー編成となり、10月にはツアー・ファイナルの日比谷野外大音楽堂公演を成功させ、ひと回り成長し結束を強めた6人。ストリングスの美しい疾走感のあるバンド・サウンドは、等身大で希望へ向かって突き進んでいく彼女たちを後押しする追い風のような力強さと爽やかさを持つ。個々の歌声を活かした歌にもそれぞれの意志が通い、ヴォーカリストとしてのスキルアップも感じられる楽曲だ。リンリンとアイナ・ジ・エンドの詞をブレンドさせたカップリングは憂さ晴らしにもぴったりのいたずら心溢れるアッパー・チューン。両極端のBiSHの真髄を味わえる。

DEADMAN

BiSH

DEADMAN

ツアーやライヴを次々とソールド・アウトさせている女子6人組のメジャー・デビュー・シングル。表題曲は99秒のパンク・ナンバーで、ハスキー・ヴォイスのシャウトで畳み掛ける箇所や、力強く爽快感のあるユニゾンやハーモニーが心地よいサビなど、短尺ながら彼女たちの様々なヴォーカリゼーションが楽しめる。メジャーにフィールドを移しても勢いを止めるどころか"さらに加速していくぞ"と言わんばかりの気迫が非常にフレッシュだ。Track.2「earth」は小室哲哉が作曲を担当。高いキーに乗りリフレインする歌詞が狂気的で、表題曲とは異なる表情を見せる。2曲とも強烈なバンド・サウンドにもかかわらず、歌が音に飲み込まれていない。"楽器を持たないパンク・バンド"としての意志が着々と芽生えているのでは。

ポケットにブルース

THE BITE

ポケットにブルース

良い意味で時代錯誤なサウンドを奏でる4人組、THE BITE。ラジオ風疑似ライヴ盤など、ユニークな作品で話題を集めてきた彼らが遂にファースト・アルバムをリリースする。彼らがかき鳴らす60~70'sを彷彿させる重厚なロックンロールはどこまでもストレートでエネルギッシュ。と、こう書くとどこまでもワイルドで泥臭い作品に仕上がっているようであるが、音の基盤になっているのはあくまでポップ。懐かしさが混じるキャッチーなメロディは、“頼れる兄貴”的な安心感を与えてくれる。そんなハイテンションな楽曲の中で異彩を放つのは「雨の中」。ミディアムテンポの音に乗る酒井大明のしゃがれ声が、物悲しいながらに力強く歌を刻む。この渋さこそ日本男子の持つ色気、哀愁漂うハーモニカにも思わずくらり。

Fossora

Björk

Fossora

10作目のアルバムでBjörkが示したのは、母なる自然に溶け込むような透明感、そしてパワフルな生命力を感じさせるサウンドだ。幸福感や不安な気持ちなど様々な感情を呼び起こす多彩なコーラスのハーモニー、そして大地への畏敬と共に人の営みにも優しい眼差しを向ける美しく調和した電子音、厳かな響きのアイスランド語、管楽器の楽し気な音が散りばめられた楽曲、舞台演出のように示唆的に鳴るストリングスの響き。ミュージカルみたいにシアトリカルでありながら、答えのないアブストラクティヴな今作は、まさに彼女の神秘性と独創性がひとつの空間に結実したような作品だ。複雑で厄介なこの時代に、プリミティヴな生命の賛歌を紡ぎ、ひとつの表現として世に生み出したBjörkの偉大さを感じる。

Utopia

Björk

Utopia

Björkは今作について英国の新聞"The Guardian"紙で、自身が考えるユートピアとは"環境破壊の末に生まれた、新たな生命に満ち溢れた島なのかもしれない"と語っており、ジャケットなどのアート・ワークに関してはその言説も腑に落ちる。アーティスト写真も示唆しているように、素朴な笛から、オーケストラでのフルートのアンサンブル、鳥の鳴き声のようなSEなど、声に近い呼吸から生まれる音が印象的だ。今回もトラック・メイキングのほとんどを手掛けたARCAのサウンドは、人間の肉体の躍動や軋轢を音やビートに変換してるようで、そのアブストラクトな質感とヴァーチャルな自然の質感が融合したサウンド・デザインは幸福なだけではない。聴感は明るいがBjörkが描く未来は一筋縄でいかない。

Mount Wittenberg Orca

DIRTY PROJECTORS+BJöRK

Mount Wittenberg Orca

特設サイトにてデジタル配信のみでリリースされていたアルバムが完全生産限定で待望のCD化。DIRTY PROJECTORSとしては2009年の『Bitte Orca』以来のリリースとなる。Björkを招いて制作された今作だが、楽曲は全てリーダーのDave Longstrethが手掛けたものだ。ドラムとギターが一切使用されていない楽曲群を彩るのは、圧倒的なヴォーカル・ハーモニー。感情を揺さぶるBjörkの歌声と甘く優しいDaveの歌声、妖精のように無邪気で煌びやかな女性メンバーのコーラス。肉声だからこそ出せるしなやかさとアンサンブルは、シンプルで力強く、一点の曇りも無い純粋さに溢れている。Daveのハーモニーへの探究心の結晶と言うべきだろう。前人未踏のファンタジーがここにある。

Phosphene Dream

THE BLACK ANGELS

Phosphene Dream

そのバンド名はTHE VELVET UNDERGROUNDの曲名から取られたという、USのサイケデリック・ロック・バンドTHE BLACK ANGELSの3rdアルバム。USのサイケ、そしてフォーク・シーンを含めれば注目すべきバンドは沢山いるが、ALL TOMORROW'S PARTIESを始め数多くのフェスでの圧倒的なパフォーマンス、そして本国では昨年秋にリリースされたこのアルバムで彼らは一つ飛び抜けた存在となっている。LOVEを彷彿とさせる様なメロディアスでブルージーなサイケデリック・サウンドは伝統的なものも受け継ぎながら、近年のTHE HORRORSと共振するようなダークでコズミックな雰囲気も持ち合わせている。サウンド・プロダクションも含めとても完成度の高い作品だ。

Boracay Planet +

BLACKBIRD BLACKBIRD

Boracay Planet +

2011年にリリースした『Summer Heart』がロング・セラーとなった、ドリーム・ポップ・ワンダーキッド、Mikey Maramag こと、BLACKBIRD BLACKBIRDの新作、元々はEPの作品をにボーナス・トラックを加え、日本のみアルバム仕様のボリュームにてリリース。このアーティストの魅力はなんといっても楽曲によって次々と色を変えるメロディと縦横無尽に脈を打つビートだ。個人的にはTrack.4の「Keep It Up」のリフレインするヴォーカルと心臓の音のように規則的に刻み続けるビートの絡みがシンプルながらこのアーティストのポテンシャルを表しているように思う。今作でWashed OutやJames Blakeの文脈から頭1つ抜け出ることができる存在になるだろう。

Silver Threats

THE BLACK BOX REVELATION

Silver Threats

ベルギーに拠点を置くベースレスの二人組ガレージ・バンドTHE BLACK BOX REVELATION。猛々しいサイケデリック・ブルースを詰め込んだセカンド・アルバム。基本的には、同じ編成のWHITE STRIPESと同じ流れにある。2007年に発表されたデビュー・アルバムの国内盤が発売されたばかりだが、このアルバムではそのガレージ・サウンドはそのままにサイケデリック・ブルースに真っ向から挑んでいる。その手法はあくまでシンプルかつストレート。力強いドラムと歪みながらも意外とキャッチーなギター・リフが絡み合う、ダークで荒々しい、まさに原初的なブルース・ロックと言うべき音像には、余計な添加物がない分、そこに込められたパッションが噴出している。ガレージ・ロックの肉体性が持つ魅力を再認識させられる。

Croweology

THE BLACK CROWES

Croweology

年を重ねるごとに味わいを増す上質なワインのように、奥深きロックンロールのロマンを奏で続けるTHE BLACK CROWES。本作はデビュー20周年を迎えたメモリアル・アルバムであり、そのキャリアを網羅し人気曲で纏めた、全編アコースティック・リメイク作となっている。セット・リストを眺めるだけでもファン悶絶のチョイスだが、今年いっぱいで無期限活動休止を宣言した彼らからの、ささやかだが愛情をいっぱいに詰め込んだアルバムだ。グルーヴィでソウルフルな楽曲がアコースティック作として浮き彫りになるのは、ロックンロールに対する真摯、というか良い意味での頑固な姿勢。それは純粋と表裏一体だが、紆余曲折を経た半生を噛み締めるようで感動的である。最後にこんなプレゼントを贈るなんて、かっこよすぎるよ。

Mr. Impossible

BLACK DICE

Mr. Impossible

“Chaos!”と叫ばずにはいられない。BLACK DICEの通算6作目となるアルバムだ。結成から15年が経つ彼らだが、何を貪り食ってきたらこんな音像に辿り着けるのだろうか。不穏なノイズ、歪みまくったギターに、左右上下から飛んでくる細切れにされたパーカッションの数々。「Pigs」のMVからも一目瞭然、音楽が雑多に放り込まれた大鍋を思い切りひっくり返すような凶暴性と、その先の景色への探究心が爆発している。しかし、多種多様にミックスされたサンプル音やデジタルなノイズの向こうで顔を覗かせるのはロック。彼らの根本であり、この音像の屋台骨なのだろう。聴き進めるうちに、呼吸のリズムにピッタリと重なる楽曲が多いことに気付く。……意外と、最も原始的な音とはこういうものなのかも? 混沌から生まれた人間のリズムを乗せた1枚。

Nonstoperotik

BLACK FRANCIS

Nonstoperotik

ロックは若さだ。彼らは歳をとったら、どうやって生きていくのだろう。90年代半ば、余計なお世話でしかないそんなことを僕は考えていた。そこで、このPIXESのフロントマン、Black Francis名義の第3作である。僕は歳を重ねていく偉大なアーティストの成熟を耳にする。往年のロック・スターが何十年と同じパフォーマンスを繰り返す、愛すべきマンネリズムとは全く異なる、Black Francisの現在。ヘロヘロの歌声を前面に、掻き鳴らされるギター、時にはキーボードの音もフィーチャーされるこの朴訥とした作品が持つ、無駄がそぎ落ちていったような透明感。それは、若さではない。だが、若さと同じく言い知れぬ魅力に溢れている。オルタナ世代のブルースとでも呼ぶべき味わい深さを湛えた作品である。

Ohio Players

THE BLACK KEYS

Ohio Players

古き良きブルージーなロックンロール/ソウルで人気を博してきたオハイオ州出身の2人組、THE BLACK KEYS。彼らの最新アルバムは、泥まみれの仕事着から着替えて盛り場へと繰り出すような、ひと味違った華やかさを纏ったカラフルなアルバムに仕上がった。BECKやNoel Gallagherといったゲスト・ミュージシャンを迎えた楽曲はまさに豪華絢爛で、Track.2を筆頭に、自ずと気分がアガるピースフルな内容に。Track.10ではメンフィスの大物ラッパー JUICY Jもフィーチャーし、パーティーに彩りを添えている。音楽面での多大なる拡張が図られた作品だが、あくまでも主役は俺たちだと言わんばかりにどっしりと構えたふたりのプレイも素晴らしい。

Dropout Boogie

THE BLACK KEYS

Dropout Boogie

現行アメリカン・ロックの代表格として名を馳せるTHE BLACK KEYSが、通算11作目となるスタジオ・アルバムを発表した。バンドの音楽的ルーツである楽曲をカバーした前作『Delta Kream』を経た本アルバムでは、グッと渋さを増したブルージーなロックンロールを披露。ザラついた泥臭いギター・リフに、どっしりと響くドラムが生み出すうねるようなグルーヴは極めてシンプルながら痛快で、ファンキーなリフで初っ端から派手にかますTrack.1(遊び心に満ちたMVもクール)、ZZ TOPのフロントマン Billy F Gibbonsも参加したTrack.5、メロウなパートから疾走感溢れるサウンドになだれ込むTrack.9と、普遍的なロックの魅力を詰め込んだ快作に仕上がっている。

Delta Kream

THE BLACK KEYS

Delta Kream

2019年の前作『Let's Rock』も好調なセールスを記録し、名実ともに現行のアメリカン・ロックの代表格に君臨するTHE BLACK KEYS。彼らの10作目となるアルバムでは、音楽的ルーツである"ヒル・カントリー・ブルース"のナンバーを大御所ミュージシャンたちとカバー。反復しながらジワジワとコードを展開していくギターと、ビートを強調したパーカッションが織りなすグルーヴが特徴のスタイルだが、それをTHE BLACK KEYS印の骨太なロック・サウンドで鳴らすことで、サイケデリックな感覚を湛えた、心地よい泥沼へとゆっくり引き込まれるような陶酔的な作品に仕上がっている。脱力感と緊張が同居した、生々しいジャム・セッションを余すところなく伝える音像も秀逸。

Let's Rock

THE BLACK KEYS

Let's Rock

ロックは流行らないと言われて久しいアメリカの音楽シーンにおいて、爆発的ヒットを飛ばし続ける稀有な存在、THE BLACK KEYS。アメリカの田舎によくいそうなくたびれたおじさんふたり組なのに、ぶっ飛んだロック魂とセンスの持ち主で、そのギャップもまたいい。今作は、ブルージー且つ軽やかなギター・サウンドで、古き良きロックに回帰した趣を前面に出しつつ、独特のウィットに富んだポップネスも混ぜてタイムレスな作品に仕上げている。簡潔で遊び心があり、飽きの来ないサウンドというのは、主義主張が強すぎてもなさすぎても作れない。そんな絶妙なバランス感覚でシーンを俯瞰する現代のロック・スターは、人々に忘れ去られた音楽の楽しみを"Let's Rock"と言って無造作に投げて寄こすのだ。

El Camino

THE BLACK KEYS

El Camino

WHITE STRIPES亡き後は彼らに託すしかない。まるでシーンを黒く塗りつぶせ!なんて気概が満ちているようだからさ。あのRobert PlantにLiam Gallagherも大絶賛した前作『Brothers』では最優秀ロック・パフォーマンスはじめグラミー賞3部門獲得&ミリオン・セールス突破、実質的なブレイクを果たしたTHE BLACK KEYSの勢いが止まらない!早くも7枚目となる『El Camino』が完成した。土臭いブルージーなリフに濃密なサザン・ソウルのグルーヴと、ロックの古典を生々しくもモダンに甦らせるさまは比類なき王者の風格。再びタッグを組んだプロデューサーDANGER MOUSEの手腕も素晴らしいです。Dan Auerbach(Vo&Gt)は語る――"レコーディングの前に練習はしない。その場のノリでやってしまうんだ。このアルバムはライヴで演奏するときに輝くだろうね"――痺れる、かっこよすぎるぜ!

Good Bad Not Evil

BLACK LIPS

Good Bad Not Evil

何故に今頃?と思ったら、映画とのタイアップなんですね。でも、何にしてもいいアルバムにスポットが当たるのはいいことだ。USインディのガレージ番長BLACK LIPS が2007年に放った『Good Bad Not Evil』がようやく日本盤化。ジャンクでサイケ、そしてグッド・メロディ満載のゴキゲンなガレージ・ロックンロール。危うさを漂わせる詩的な感覚もこのバンドの大きな魅力だ。THE VELVET UNDERGROUNDとTHE BEATLESとTHE DOORSが喧嘩しながらも、賑やかに音を鳴らしてみた。そんな感じ。時代感覚なんて超越しながら、今を捉えまくるBLACK LIPS。2009年リリースの『2000 Million Thousand』も素晴らしいので、こちらも是非。

St. Vincent Decor

BLACKMARKET

St. Vincent Decor

2008年のFUJI ROCK FESTIVALに出演し、新たなポスト・エモ・ロックの旗手としてここ日本でも人気を集めBLACKMARKET から2ndアルバムが届けられた。前作から約2年のインターバルを経て届けられた本作は、ダークな世界観はそのままに、よりソリッドに研ぎすまされた印象だ。オープニングを飾る「Tongue Twister Typo」はそれをまさに象徴しており、走り出したドラムを追う様にギターが絡み合い疾走するパワフルなトラック。そしてアルバム全体を通してもヴォーカルDarylの存在感は大きく、特に中盤のミドル・テンポのナンバーでは彼の歌声に圧倒される。メンバーが1人抜け3ピースになっても彼らの目指す所は変わってない。

Wilderness Heart

BLACK MOUNTAIN

Wilderness Heart

サイケデリックでいてヘヴィ・ロック。メタル要素もあってフォーキーなサウンド。気だるさと緊張感を合わせ持つStephenとAmberのツイン・ヴォーカル。発することを自由に楽しんでいるメンバーの心が音の隅々にまで染み渡っている。自国カナダを飛び出て、シアトルとロサンゼルスという、まったくタイプの違う2箇所でレコーディングされた今作。LAの持つライトな感触や、シアトルの持つダークな雰囲気など、現地の空気をそのままパッケージしたようだ。だがどの曲にも一貫して軽やかな開放感がある。2人のプロデューサーを起用したことにより、更に彼らの持つ世界が広がったのだろう。今まで気付くことのなかった扉を開け、更なる高みへと進んだ5人は、どこまでも自然体。心地良い安心感に包まれた渾身の1作だ。

Wrong Creatures

BLACK REBEL MOTORCYCLE CLUB

Wrong Creatures

先行配信されていた中でも珍しくアッパーでマンチェ・ビートを思わせるグルーヴ・チューン「Little Thing Gone Wild」が新鮮だが、5年ぶりの新作でも漆黒のロックンロールは健在だ。だが、ノイジーなギターとリズム・セクションが醸す重量感と、ディレイが醸す浮遊感が同時に存在しており、どこか白日夢めいたナンバーが多いのは、作品のテーマによるものなのかも。THE VELVET UNDERGROUNDにエレクトロな要素を加味したような不思議な酩酊感のある「Echo」で、いったん開かれた印象になりつつ、ラストでは錆びた遊具のようなSEが滅んだあとの世界を想起させたりと、"間違った生き物は、我々人間なのか?"と思わせる、彼らならではのサイケなディストピアが味わえる"らしい"アルバムだ。

Beat The Devil's Tattoo

BLACK REBEL MOTORCYCLE CLUB

Beat The Devil's Tattoo

ドラマーが変わって最初となる5枚目のアルバムだが、サード・アルバム『Howl』以降の土着的でブルースを感じさせるアメリカン・ロックンロールが、BRMCの個性と最高の形ではまったアルバムとなった。これまで個人的にはファーストの印象が強すぎて、『Howl』以降の変化に「いいんだけど、何かしっくり来ない」という自分勝手な思いもあったのだが、このバンドとしての成熟には一安心。彼らが得意とするミドル・テンポの楽曲を主体に、耽美的でサイケデリックなフィードバック・ギターとブルージーなロックンロールを融合させるバンドの本質が絶妙なバランスで表現されている、これぞBRMCというアルバム。新ドラマーのLeah ShapiroがTHE REVONETTSのツアー・ドラマーだったっていうのもいいですね。

Buy The Ticket,Take The Ride

THE BLACK RYDER

Buy The Ticket,Take The Ride

オーストラリア発の男女デュオ。BLACK RABEL MOTORCYCLE CLUBからTHE BRIAN JONESTOWN MASSACRE、SWERVEDRIVERまで、一癖あるアーティストがゲスト参加している(現時点では、クレジット詳細は不明)。プリミティヴなフィードバック・ギターと、Aimee Nashのアンニュイなウィスパー・ヴォイス。基本的には、これぞシューゲイザーという音なのだが、そこにブルースの薫りが漂うところがこのバンドの面白いところ。先に書いたゲスト・バンドを全部足した感じと言えば、分かりやすいかも。何か新しさを感じさせるわけではなく、かなりオリジナル・シューゲイザーに忠実なその音楽性には、はっきりとあの時代の音への憧憬と初期衝動が滲み出ている。

reincarnation

BLAUER MONDAY

reincarnation

渋谷eggmanを拠点に活動するBLAUER MONDAYの初の全国流通盤。結成からここまでの間にはバンドにとってヘヴィな時期があり、解散の危機もあったようだ。再び息を吹き返したという"再生"の意味も込めて、この"reincarnation"というタイトルがつけられた。サウンドは海外のエモやメロコア直系だが、メロディは海外のそれというよりは繊細なJ-POPの妙がある。この混じり気のないグッド・メロディはロック・リスナー以外も魅了するだろう。激情を抱え、ひたすら一点に向かって突っ走り、まっすぐな言葉をまっすぐ届ける、彼らの音楽は澄んだ青だ。一面に広がるその青の中に、BLAUER MONDAYだからこその何かが生まれたとき、バンドは大きく飛躍を遂げるだろう。

Bleachers

BLEACHERS

Bleachers

FUN.のギタリストで、近年はTaylor Swiftなどの作品を手掛け、グラミー賞計10度の受賞経歴を持つソングライター/プロデューサーとしても活動するJack Antonoff。彼のソロ・プロジェクト BLEACHERSが、Dirty Hit移籍作として発表したのが本アルバムだ。同郷のBruce Springsteenへの敬慕を忍ばせつつ、切なくも明るくソウルフルにまとめ上げられたサウンドは彼の過去/現在/未来を反映しており、セルフタイトルを掲げるに相応しい仕上がりに。LANA DEL REY、CLAIROなどのゲストも深みを与えている。出演が決定している"SUMMER SONIC 2024"でも、本作の楽曲が観客と一体となる瞬間を生み出してくれそうだ。

Feature EP

blgtz

Feature EP

01年1月、田村昭太(Vo/Gt/Key)を中心に結成。以来、彼のソロ・ユニットとバンド・スタイルを行ったり来たりしながら活動してきたblgtz(ビルゲイツ)が、前作から9年ぶりにリリースするCDは、4人の正式メンバーとレコーディングした全5曲を収録。ポエトリー・リーディングでいきなり意表を突く「Feature」以下、曲ごとに変化をつけながら、根底に80年代のUKニュー・ウェーヴを感じてしまうのは、筆者の世代ゆえか。「カタルシスは突然に」のポスト・パンクなサウンドは時代を意識しているのかしないのか。聴きながらあれこれと考えさせるようなところが心地いい。ラストを飾る「ファミレス天使」は本作中最も穏やかな曲だが、田村の奔放な歌の魅力が一番出ていると思う。

同時に消える一日

blgtz

同時に消える一日

容赦無く耳を劈く、鋭く優しい音と言葉――。長い間沈黙を貫いていたblgtz/田村昭太がロック・シーンに還って来た。6年振りのフル・アルバムとなる今作は、彼が抱えている感情が洪水のように溢れ、尋常ではない気魄が襲い掛かる。緻密に入り組むソリッドなバンド・アンサンブルの上で響くのは、何度も繰り返される明瞭な日本語。おかしいことを“おかしい”と指摘する。そんな当たり前のことが行われなくなっている世の中や、自分への苦しみ、痛み、怒り、悲しみ、優しさ、希望。音楽を介し“目を覚ませ”と咆える彼の感情は、朝日のように強く、爽やかに我々を包む。今の世の中に欠けていて、必要な音が詰まった全10曲。心に空いていた穴に入り込む。こんな勇敢な音楽を、ずっと待ち焦がれていた。

モノリス

BlieAN

モノリス

パンクで、デジタルで、激しさの中に絶妙のキャッチーさも……。2人編成になって初のアルバムは、2010年は年間で100本以上のライヴ・ステージを踏んだ彼ららしい“ライヴ感”が全編に漂う超アッパーな仕上がり!そう、1曲1曲にそれぞれ異なる個性はありながら、“まったり感”は一切無しなのはどの曲も共通。様々な問題が日々渦巻く現代社会で、その中で生きる苦しみを癒すような優しい音楽も今の時代は本当に多い。が、この人たちの場合は、そんなfuckな時代で目にするものをリアルに歌い、自分らしく生きていこうとする思いを聴き手に真っ直ぐに突き刺すような感覚が。ダンサブルでアツいこのノリは、個人的には、THE MAD CAPSULE MARKETSがニューウェイヴ系に思いっきり振り切ったらこうなるかもなんてイメージが沸いた。