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DISC REVIEW

Tensegrity

Nornis

Tensegrity

豪華クリエイター陣が楽曲を提供し、VTuberという枠を飛び越えて広がっていきそうなクオリティとなった。壮大なストリングスをバックに戌亥とこ、町田ちまそれぞれの実力と個性が光る表題曲の1曲目から、強烈なインパクトを発揮。亀田誠治が作詞作曲、さらに演奏にも参加しているポップなメッセージ・ソング「Deep Forest」、言葉遊びのような呪文のような歌詞と曲調の中で、"ジョハリの窓"――自己分析が行われる「ジョハリ」、和楽器バンドの山葵(Dr)が作詞作曲した、Nornis史上最高に明るい「innocent flowers」、そして、戌亥と町田が作詞を手掛けた「Min-night」。幅広い音楽性に挑戦しながら、豊かな表現力を手に入れたふたりの軌跡が感じられる。

Telescope

戌亥とこ

Telescope

OSTER projectやmajikoなど、VTuberの世界に詳しくない人にも知られているような名だたるクリエイターが楽曲を提供。すでにVTuberとして多大な人気を博しているとは言え、1stミニ・アルバムとしてはプレッシャーでは......という心配を飄々と跳ね除けるように、多彩な全5曲を魅力的なロー・ヴォイスでのびのびと歌い上げている。特にシティ・ポップのエッセンスの乗りこなし方がしなやかで、VTuberの世界を飛び越えるだけではなく、海外の注目度も高めていきそうな予感がする。ゆったりと聴けるかと思いきや、"腹を空かせた赤鬼が言う「どちらまで?」"と、戌亥とこが見せるひとつの個性=地獄の風景が描かれている「六道伍感さんぽ」など、どの楽曲も聴き応えたっぷりだ。

路地裏午前6時

イヌガヨ

路地裏午前6時

約5年という空白の月日を塗り潰すように新旧に及ぶ楽曲を収録した2ndフル・アルバム。これをロックンロールと呼ばずに何と呼ぼうか、という話である。メール・インタビューの文面でさえ(笑)を多用して照れ隠しする彼らも楽器を持てば感情駄々漏れ。自分の情けなさにため息ついても、他人の言動にイライラしても、仲間との別れに涙しても、最後には"明日もまた頑張ろう"と大声で笑い飛ばす――そんな姿が、2度の活動休止や相次ぐメンバーの脱退、不慮の事故などを経験しながらも転がり続けるバンドの生き様そのものと重なって見えた。"失うモンなんて今更無ぇ!"と叫び続ける全10曲。胸に焼きつくようなこの凄味は、"バンドすること=生きること"であり続けたからこそに違いない。

恋愛

入江 陽

恋愛

映画音楽家やメディアでの文筆業、プロデューサーなど多方面でマルチな才能を発揮するシンガー・ソングライター 入江 陽が、7年ぶりとなるオリジナル・アルバム『恋愛』を発表した。アルバム名の通り"恋愛"をテーマにしたという本作は、ドラマ/映画への提供楽曲のオリジナル・バージョンをはじめ、Mario Caldato Jr.、ラブリーサマーちゃん、sugar meらをゲストに迎えたナンバーなど全11曲を収録。今の寒い季節にぴったりのメロウ・ナンバー「ごめんね」や、少しメランコリックな男女のヴォーカルと打ち込みのビートが心地よく絡み合う「海に来たのに feat.ラブリーサマーちゃん」など聴き応えは十分。故意なのか偶然なのかは定かでないが、本作のリリース日がバレンタイン・デーという点も実に粋。

360°SOUNDS

イルリメ

360°SOUNDS

イルリメの最新EP。2004年の『www.illreme.com』に収録されていた名曲「トリミング」の再録で幕を開ける本作は、HIP HOPをとことんポップに拡大解釈するイルリメ印のパーティ・チューンが満載。そのエンターテイメント性はやはり抜群だ。音楽への愛情をこちらが気恥ずかしさを感じてしまうほど過剰に詰め込んだダンス・ビートの高揚感は尋常ではない。いや、恥ずかしがっている場合ではなくて、その気恥ずかしさを吹き飛ばしたところにこそ、真の高揚感がある。そこで僕達と音楽は一つになれる。それが音楽の素晴らしさだ。イルリメはそう宣言している。イルリメのラップと自由奔放なビートに身を任せていけば、どこまでも、どこへでも飛んでいける。そんな気分にさせてくれるイルリメの愛情表現にノックダウン、泣き笑い必至。

ちゃんとつけるから

イロムク

ちゃんとつけるから

1曲目「ひあそび」はこれまでのイロムクを踏襲したような曲調。終わった(もしかしたら始まってすらいなかった)恋に対する悲哀を語る歌詞には、同音異義語によるトリックも使用されているため、歌詞カードを見ながら楽しんでほしい。曲間を途切れさせることなくテンポ・アップして突入する「生(きてる)ゴミ」はどうしようもないバンドマンが主人公で、演奏も歌詞もかなり振り切れている。ちなみに"ちゃんとつけるから"とはこの曲で繰り返される一節である。TOWER RECORDS限定ワンコイン2ndシングルである本作は、店舗流通盤としては約1年半ぶりのリリース。いもしない誰かの顔色を窺ってしまいがちな人も多い現代社会に、これがぶち込まれるのかと思うとなかなか痛快だ。

チラシみたいな

イロムク

チラシみたいな

これまでに発表した楽曲のミュージック・ビデオはいずれも、擦れ違う男女の関係をドラマ仕立てにして描くという作風で届けてきた"女々しい系"ギター・ロック・バンド、イロムク。作詞作曲を手掛けるフロントマン 藤沼 健(Vo/Gt)の綴る歌詞は、ラヴ・ソングと呼ぶには生々しく、例えばクリープハイプを彷彿とさせるトゲトゲしさがある。2ndミニ・アルバムとなる『チラシみたいな』もまた誰かを狂おしいほどに想う偏愛が詰まった全6曲。"死ねないくせに死にたいとかいうのは あなたの気をひきたいの"。そんなふうに歌う「口癖」が痛い。タイトルの"チラシみたいな"が表すとおり、ともすると一瞥して捨てられるような些末な感情を拾い集めるイロムクの歌は、ときに凶器のような鋭さを持っている。

アパートメント

イロムク

アパートメント

2013年に東京で結成した4ピース、イロムクの初のミニ・アルバム。全5曲、いずれもイントロからフックたっぷりのギター・フレーズで始まり、本当は大事な人に伝えたい思いや、本音のあれやこれやを、独り言のようにつぶやき、または叫び、歌にする。何かメッセージを伝えたいということではなく、劇的でも、ポジティヴでもネガティヴでもない。例えば、ぽつんとしたひとりの時間に、ふと湧き上がる寂しさや切なさ、今までもそこにあったけれど見えてなかったものやざわめきが急に存在感を増してくるような、そんな時間や感覚を物語にして、疾走感のあるギター・サウンドで編み上げていくバンドだ。相手に振り回されがちだったり、ほんのりと明るい希望とあきらめとがないまぜの、あいまいな気分を抱えている人には、ちくっと痛い作品かもしれない。

メリーゴールド

岩ヰフミト

メリーゴールド

元Galileo Galileiのメンバーによるバンド FOLKSのヴォーカル 岩井郁人がソロ・プロジェクトを始動して"岩ヰフミト"名義でリリースする初シングル。表題曲の「メリーゴールド」はJ-POPアレンジのバラード・バージョンと洋楽テイストのアップテンポ・バージョンの2種類が収録される。これまでのバンド活動のなかで自身の中にある邦楽と洋楽というふたつの音楽的アプローチを行き来することに限界を抱いた岩ヰは、このプロジェクトによって新たな表現の可能性を模索する。親友の結婚式を祝うために書いたというウェディング・ソングが見せるふたつの表情に注目してほしい。またカップリングにはスタイリッシュなポップ・ナンバー「星が降る夜に」を収録。軽やかなリズムに乗せたセンチメンタルなメロディが性急に過ぎていく夏の余韻を描く。

AQ

印象派

AQ

大阪産ガールズ・ユニット、印象派。彼女らにとって1年2ヶ月ぶりの音源となるミニ・アルバム『AQ』は、声に出して読んだら気づく"永久"という意味と"A級"のダブル・ミーニングな作品となっている。今作では、配信シングルとして先行リリースされていたTrack.2「綺麗」とTrack.3「Miss Flashback」を2本柱にした、インパクトあるユニット名からも充分伝わってくる個性を存分に発揮しているメランコリックな1枚だ。普段はOL生活を送っているというMICAとMIUが生み出す歌声は無表情。しかし、歌詞は常に感情むき出しの全7曲となっている。今回もアートワークはスピッツや椎名林檎などのジャケットをデザインしているCentral67の木村豊氏が担当。木村の手によって、またひと味違う印象派が確認できるはず。

(not)NUCLEAR LOVE(or affection) ※かくれんぼ

印象派

(not)NUCLEAR LOVE(or affection) ※かくれんぼ

大阪発の"OL兼ツイン・ヴォーカル・デュオ"印象派が1年ぶりにミニ・アルバムをリリースする。昨年冬にTOWER RECORDS限定でリリースされたANATAKIKOU提供のラップ「MABATAKIしないDOLLのような私」含む全7曲を収録した今作のタイトルの読み方は、"かくれんぼ"。ヒップホップにネオアコにハード・ロックに......トラックごとにコロコロとジャンルを変え、相変わらずの多彩性が彼女たちのミステリアスな雰囲気を増幅させている。しかし、機械的であった前作『Nietzsche』と比べ、今回は情味のあるバンド・サウンドで"人間"がそこに存在しているのを感じさせる作品に。謎の多い彼女たちがいよいよベールを脱ぐのか、はたまたこれも彼女たちの"振り幅"の1つに過ぎないのか、今後の活動に注目せざるを得ない。

MABATAKIしないDOLLのような私

印象派

MABATAKIしないDOLLのような私

ポップ、トランス、サイケデリックと様々なアプローチが展開され、濃密な彩りを魅せた前作『Nietzsche』がいきなりタワレコメンに選ばれるなど、注目を集める大阪発ガールズ・ユニット、印象派の最新シングル。ANATAKIKOUが提供したラップ調の歌詞は"イマドキの女の子"らしさを醸しつつ、哀歌的な要素も含んでおり、現役OLという彼女たちらしい歌詞と言えるだろう。そんな歌詞と、思わずリズムを取って踊りだしたくなるようなヒップホップなメロディが耳に残り、ついつい口ずさみたくなる。前作でも感じられるように、ジャンルレスと言えるほど多彩な音楽を鳴らす彼女たちだが、今作でさらに新たなジャンルをぶつけてきた。まさに"彼女たちはまだまだ進化し続ける"と確信できる作品だ。

Nietzsche

印象派

Nietzsche

これまでにTOWER RECORDS限定発売CDを2作品リリースし、一部のリスナーの間で話題を呼んでいる大阪発ガールズ・ユニット、印象派。この1stミニ・アルバムはポップ、トランス、サイケデリックと様々なアプローチが展開され、濃密な彩りを魅せる作品に仕上がっている。そして、美しく透き通った彼女たちの歌声も魅力的。強い意志や主張を表に出すわけでもなく、淡々と歌い上げる2人の発する温度は、極めて低く感じる。だがmiu(Vo/Gt)の独創的な歌詞に込められた毒に触れたとき、聴き手の心と体は熱を帯びていく。この相反する関係性がたまらないのだ。彼女の色気あるダークな言葉1つ1つに触発されながら、うねる音の波に呑み込まれていく感覚は、聴き手に強烈な印象を与えるに違いない。

はごろも

インナージャーニー

はごろも

"イメージを超えてフレームの外へ"――「きらめき」の歌詞が象徴するようにEP収録曲のいずれもがこれまでのインナージャーニーのイメージからいい意味ではみ出していく新鮮さに溢れた4th EP。SF的な世界観が垣間見え、少しガレージ・ロックのニュアンスもある「Mary」で痛快に幕を開け、多様性がテーマの一端にあるNHK土曜ドラマ"%(パーセント)"に書き下ろした「きらめき」のアッパーなトーンに接続。ビートを抑え、アコギとヴァイオリンのアレンジに特化した映画"とりつくしま"主題歌の「陽だまりの夢」。前ドラマー Kaitoの演奏が聴ける「予感がしている」やライヴが楽しみになるスケール感を持った「トーチソング」の全5曲。

いい気分さ

インナージャーニー

いい気分さ

ギミックなしの4ピース・バンドの大らかさはそのままに、様々な時代のロックのエッセンスを曲作りやアレンジに投影した新章を感じさせる3rd EP。ソウルフルなギターカッティングやビートにモータウン・ポップを感じさせる「PIP」は面倒なことから目を背ける"君"は自分でもあるのでは? という歌詞の鋭さとの掛け合わせが新鮮。本多 秀(Gt)初作曲楽曲「ステップ」ではカモシタサラ(Vo/Gt)の第三者目線の歌詞も楽しめる。代表曲「グッバイ来世でまた会おう」にカモシタ自ら異議もしくは違う視点で生きる姿勢を書いた「手の鳴る方へ」も興味深い。大きなグルーヴで進んでいく旅の匂いのある「夜が明けたら私たち」、UKロック的なメロディも聴こえてくる「ラストソング」と多彩な全5曲。1曲ごとに異なる情景が立ち上がる歌唱もじっくり聴きたい。

インナージャーニー

インナージャーニー

インナージャーニー

自分の心情を率直に切り取り、時に情景に重ね合わせるカモシタサラの濁りのないまっすぐな歌を飾らず、かといって伴奏になることなくバンドの肉体性で推進する、インナージャーニーの1stアルバムが完成。大きなグルーヴのハチロクのリズムで、価値観の異なる人も認めて生きようとする「わかりあえたなら」での力強いスタート、アルバム・ミックスでグランジ感が増した「エンドロール」の自分だけは自分を肯定してあげたい気持ちのリアルさ、珍しく荒涼としたイメージのマイナー・コードで始まり、異国の少女から身近な存在まで、悲しみを抱えたまま自分であれと歌う「少女」、バンドの代表曲とも言える「グッバイ来世でまた会おう」、myeahnsの逸見亮太(Vo)の提供曲「とがるぺん」など、バンドの現在がわかる全10曲。

風の匂い

インナージャーニー

風の匂い

心の奥にある譲れない想いを柔らかな歌で紡ぎ出すカモシタサラ(Gt/Vo)を中心に、インディー・ロックへのピュアな憧れを音へと投影する4人組バンド、インナージャーニー。先行配信シングル「グッバイ来世でまた会おう」を含む今作は、バンドのアンサンブルが豊かに花開く1枚になった。性急にかき鳴らすアコースティック・ギターに、言葉数の多いメロディが駆け抜ける「夕暮れのシンガー」、もう会えない世界にいってしまった人を思う不思議なポップ・ソング「深海列車」、重たいサウンドに乗せて湿り気を帯びた雨上がりの決意を描いた「ペトリコール」。ベース、ギター、ドラムという3種の楽器が生き生きと共鳴する全5曲には、大切なものを忘れないために歌うという、バンドの信念が力強く刻まれていた。

ニュアンス

いゔどっと

ニュアンス

昨年YouTubeに公開したオリジナル曲「余薫」、「累累」が合わせて90万再生を記録。歌い手としてのみならず、シンガー・ソングライターとしても注目を集めるいゔどっと初のフル・アルバムだ。儚くも熱い衝動を秘めた透明感のある歌声が、癒えることのない別れや、23歳の青年が抱く等身大の葛藤を丹念に歌い上げる。書き下ろし曲にはコレサワ、Sori Sawadaらによる切ないラヴ・ソングをはじめ、鋭利なメッセージを放つ100回嘔吐の「続く青」、syudouによる狂騒のロック・ナンバー「着火」などを収録。様々な色が溶け合う個性豊かな楽曲たちがいゔどっとの多面的な魅力を引き出す。珠玉は、自身が作詞作曲編曲を手掛けた「夜半の雨」。言葉にできない感情こそ音楽に昇華する、という彼の信念が滲む。

Euphoria

植田真梨恵

Euphoria

他アーティストからの多彩な提供曲を含むシンガーとして振り切れた前作『ハートブレイカー』とは真逆な手触りとテーマを持つ本作。何しろ2011年から作りため、死ぬまでに完成したかった作品なのだという。たしかに。日々の暮らし、歳月の経過、それでも変わらないもの、そこで得たからこそ今自分の足で歩いていること、忘れているようでしっかり記憶していること。それらを瑞々しいまま、もしくはしっかり消化したうえで、素に近い歌とアコギ、風通しのいいバンド・サウンドに着地させた植田真梨恵の超スタンダードだ。印象として、『The Bends』の頃までのRADIOHEADのような必然的なオルタナティヴなギター・サウンドやアンサンブルに共通する潔癖さ、高度に洗練されたDIY感も風通しがいい。ぜひ多くの人に聴かれるべき。

W.A.H.

植田真梨恵

W.A.H.

前作『F.A.R.』でも、いわゆるJ-POPの女性SSWの音作りから自由になり、彼女のアーティスティックな側面が顕在化していたが、今回はテーマがより音楽的な"和風のチルアウト"であることから、各曲でその打ち出しが明確に。桜をテーマにした「Bloomin'」は力強いピアノ・リフとシンセが新鮮なAメロから覚えやすいサビへの展開が新鮮。また、ミニ・アルバム2作の傾向の発端になったという「勿忘にくちづけ」はアコギ、ピアノ、アップライト・ベースの選び抜かれた音で編まれるアンサンブルが、「長い夜」では"Lazward Piano"でお馴染みの西村広文の雨音のようなピアノが印象的だ。アートとポップスを高い地平で融合し始めた『W.A.H.』と『F.A.R.』は新たなリスナーにリーチするに違いない。

F.A.R.

植田真梨恵

F.A.R.

2作連続でリリースするミニ・アルバムの第1弾『F.A.R.』のコンセプトは、"大人の成長"。わかっているけどわかりたくない、初めての感情を書き残した「FAR」、心の奥の"キラキラ"を詰め込んだ「ロマンティカ」、愛猫の温もりを歌う「softly」、思い出の余韻から現実世界にちゃんと連れ帰ってくれるインスト曲「EXIT」など、同じ空気感ながらもそれぞれの表情を見せ、不思議な後味を残す全7曲を収録。夢と原点、過去と現在――対極とも言える景色が目まぐるしく展開され、その慌ただしさが大人と子供の狭間のようで懐かしい。"聴き込みたくなる"だけでなく、丁寧に作られた音たちを"ただ流しておきたくなる"植田真梨恵の新境地を、メジャー・デビュー5周年の節目に感じられる意味は大きい。

ロンリーナイト マジックスペル

植田真梨恵

ロンリーナイト マジックスペル

「わかんないのはいやだ」、「スペクタクル」、「ふれたら消えてしまう」、「夢のパレード」という、気持ちを前進させるアップ・チューンのシングル4曲の意味をアルバムという単位で再び認識できる構造の強さ。これは彼女が常に自身の日常や心象をドキュメントしてきたことの証だろう。希望や目標としての夢、寝ているときに見る夢、願いとしての夢など、様々な夢を軸に動き出す13の物語。なかでも家族の誰かの不在と、それを超えた繋がりの物語を描くバラード「ダイニング」や、過去に描いた夢と現在の自分の対峙を思わせるピアノと歌の真剣勝負な「僕の夢」は、植田真梨恵の深淵が窺える。と、同時に遊び心とロマンチックが同居する肩の力が抜けた「パエリア」、「I was Dreamin' C U Darlin'」と多様な楽曲が並ぶ。

夢のパレード

植田真梨恵

夢のパレード

前作の表題曲「ふれたら消えてしまう」でも実体がないからこそ獲得したその感覚を大切に生きていきたいと思わせてくれたが、Track.1「夢のパレード」も、具体性やポジティヴィティは描かれていない。ただひたすら疾走する素のコード・ストロークが季節の変わり目の風のようにリスナーの背中を押し、リフレインするメロディと植田のまっすぐな歌声が心を舞い上げる揚力として作用する。すごく音楽的だ。Track.2「サイハロー -autumn ver.-」はピアノとヴァイオリンと道路を行く車のフィールド音が寂しさと自由を描き出す。初期曲の音源化ということでファンにとっては嬉しい収録だ。今回、最もストレートなギター・ポップなのはTrack.3「210号線」。故郷を題材にしつつ懐かしささえ力にする、ある種フラットな彼女の強さを感じる曲。

ふれたら消えてしまう

植田真梨恵

ふれたら消えてしまう

音楽そのものには形はないし、触れない。だけどいつでも脳内で再生できて心が躍ったり涙したりする瞬間が蘇る。とても大事で儚い想いをラフで軽快なバンド・サウンドに乗せて、遠くまで飛ばすように描かれる「ふれたら消えてしまう」。ギター・リフのカッコよさと繊細に重ねられたコーラスが単純にストレートなギター・ロックに留まらないSSW植田真梨恵の個性を浮かび上がらせるあたりも聴きどころ。もう1曲のアップ・チューン「ルーキー」は、さらにラウド且つエモっぽいクランチなギターが痛快。ピンチの場面で勝負に出る"ルーキー"の心情が、ジェットコースターのようなスピード感を転調することで表現されている。そしてラストはアコギの弾き語り曲「まわりくるもの」。叶えたい何か、故郷にいる大事な人......成長の痛みと輝きが静かに刺さる。

スペクタクル

植田真梨恵

スペクタクル

"つまりは それでも 信じる それだけのことで"という、モノローグ的な歌始まりに決意が窺えるTrack.1「スペクタクル」。ツアーをともにしているバンド"いっせーのーせ"と一緒に、グルーヴ重視でアレンジされたエモーショナルなギター・ロック・サウンドが痛快で、特にコロコロ変わる天気のようにコードがメジャーとマイナーを行き来する最後のサビは聴き応え十分。そしてTrack.2「カレンダーの13月」は打って変わってピアノと歌のみの冬のバラード。Track.3「ソロジー」はなんと18歳のころすでに書かれていた曲で、レコーディングは20歳のときのままのテイクを遂に収録。自然発生的なヴォーカルにありのままの当時の彼女が見えるよう。トータルで冬の厳しさも暖かさも感じられる1枚。

わかんないのはいやだ

植田真梨恵

わかんないのはいやだ

3分にも満たないアッパーなピアノ・ポップに、最初は"え? え?何が歌われてるの?"と、先に走っていく植田真梨恵を追いかけてるような気持ちになる。ということは大成功なのだ。リピートしているうちにこの曲で歌われる、友達だけども、大事にしたい人間関係において軽々しく声をかけられないときの気持ちってたしかにこんな感じだなと思う。しかも"わからない"のはどんな言葉を選ぶかだけじゃなく、未来だってそうだ。Track.2の「クリア」はオルビス化粧品のCMでもおなじみの1曲だが、フルで聴くと、静かに自分の中に降りて上を向く気持ちになれるはず。Track.3はこの季節の匂いすらしそうな「夏の日」。アコギのシンプルなアレンジに彼女のシンガー・ソングライターとしての力量と素顔が見える。

Empathy

上田麗奈

Empathy

声優でアーティストの上田麗奈がアルバム『Empathy』を完成。2016年のデビュー・ミニ・アルバムでは、繊細に丁寧に物語を紡いでいく印象が強かったが、今回は躍動的な曲、ポップで晴れやかな曲も増え、カラフルさが増した。Kai Takahashi(LUCKY TAPES)が作曲/編曲をしたポップ・チューン「アイオライト」は、上田がLUCKY TAPESを聴き、曲を書いてもらいたいという思いが実現したもの。またORESAMAによる「あまい夢」では、スウィートな歌声が抜群に映える。ストリングス基調のクラシカルな曲やファンタジックな曲など、それぞれの曲や感情表現で声色も細やかなグラデーションを描くのは、声優業で培ってきたものも反映されている。作品の彩りをその歌で表現した1枚だ。

エアガール

Minmin

エアガール

メロディック・パンクをベースにした楽曲で海外からも熱い支持を受けているCHOCOLATE CHIP COOKIESのヴォーカル・ギターであるMinminがソロ活動をスタート。満を持してソロ・デビュー・アルバム『エアガール』をリリースする。CHOCOLATE CHIP COOKIESでは少し男っぽいカッコよさが目立っていたが、ソロ作ではメロディック・パンクにエレクトロの要素を取り入れ、キュート且つダンサブルなガールズ・ロックを奏でている。リード曲のTrack.1「エアガール」ではAvril Lavigneのパンク・ロックな部分を抽出して"Minmin"というフィルターを通したような楽曲となっており、ミュージック・ビデオではどこか恥ずかしそうに踊る彼女も必見だ。全8曲すべて4分以内の楽曲で、一緒に歌って踊りたくなるアンセムや、パンキッシュなロックもたっぷり収録されている爽快感溢れる1枚。

JUGEM

嘘とカメレオン

JUGEM

息つく暇もないほどスリリングな展開で魅せる、これぞ嘘とカメレオン流高速ミクスチャー「さらばウォルポール」に始まり、ARCTIC MONKEYS「Brianstorm」を彷彿とさせるリフとビートが炸裂する「0」、オーセンティックなポップスに急接近した「タイムラプス」、90年代のオルタナティヴ・ロックやラップ・メタルの風を感じる「秒針」、BPM130から強引に200台にまで持っていく「リトル・ジャーニー」など、ユーモアとセンスが爆発したキラーチューンが満載。"You can choose fake or truth..."で締めるチャム(.△)(Vo)の歌詞もまた、いつにも増して豊かで核心を突く強さもより磨かれた、キャリア史上最高到達点と言っていいアルバムだ。

ヲトシアナ

嘘とカメレオン

ヲトシアナ

バンド初のMV「されど奇術師は賽を振る」がバズったことをきっかけに、大迫力のライヴ・パフォーマンスも注目を浴びて人気に火がついた、嘘とカメレオンのメジャー・デビュー・アルバム『ヲトシアナ』。当初アナウンスされていたデビュー日が、交通事故により延期するという事態を乗り越えてのリリースとなった。変幻自在に表情を変えるバンド・サウンドに乗せて、チャム(.△)(Vo)が巧みな言葉遊びを楽しみながら、バンドの意志を刻んでいる。威勢良く鳴り響く銅鑼の音を合図に魑魅魍魎たちと戯れ、幽霊船あるいは海辺の街を越えて、聖者たちと目指してゆく、まだ見ぬ未来。どこまでも深読みができるように編み込まれた歌は、入口こそ広いが一度入ると抜け出せない奥深さがある。才気を放つデビュー作。

こんなバンド名だけどいいんですか

打首獄門同好会

こんなバンド名だけどいいんですか

色の濃いタイアップ曲が集結した打首のニュー・シングル。元極道の専業主夫の日常を描くギャグ・コメディ"極主夫道"OP曲「シュフノミチ」は、主夫/主婦の奮闘を歌っており、まさに"生活密着型ラウドロック"バンドと相性抜群の1曲だ。一方「カンガルーはどこに行ったのか」では、子どもの大人気キャラクター"しまじろう"とのタイアップというだけでも強烈なのに、"かんがえることを"と何度も繰り返される言葉が、より大きなインパクトを放つ。さらに、その"かんがえる"という歌詞の中に"カンガルー"が実は交ざっているんだから、笑わずにはいられないし、その裏で鳴るベース・ラインもクセになる。疾走感溢れる「それだけがネック」の、メロディにぴったりとハマる語感も良い。

2020

打首獄門同好会

2020

ミニ・アルバムそのものや"新型コロナウイルスが憎い"といった、どストレートなタイトルからもわかる通りに今年を象徴する1枚が完成。本作には、ステイホームで筋トレしながら、アニメを観る前後に、はたまた風呂上がりに腰に手を当て牛乳を飲みながら――そうして聴くことで灰色の日常を鮮やかに彩ってくれる曲が詰まった。"マスクしながらの ジョギングヤバイ"(「足の筋肉の衰えヤバイ」歌詞)など、打首らしく生活に密着した2020年のあるあるには思わずニヤリとさせられ、コロナ禍から平穏を取り戻したときに何をしようかと希望を歌う「明日の計画」で泣かせてくるのもニクい。日常が変わってしまったからこそ、今の日常を歌う打首の音楽がとても愛おしい。なんて書いたけど、頭を空っぽにして楽しむのもやっぱりいいのだ。

内村イタル & musasaviband

内村イタル & musasaviband

内村イタル & musasaviband

"閃光ライオット 2012"にて"審査員特別賞"を受賞した19歳の内村イタル少年がayU tokiOとの出会いをきっかけに結成した"内村イタル & musasaviband"。とんでもない19歳がいたものだと思わずにはいられない、ハイクオリティの楽曲の数々。中村一義やフジファブリックを思い起こさせるが、そんなことはどうでもよくなるくらいの完成度に溜め息が出る、お手上げだ。口ずさみたくなるメロディ・ラインが印象的なTrack.1「電話」を始め、Track.3「朝になるまで」の遊び心溢れるエレピのフレーズに思わずキーボードを叩く指が止まってしまった。こんな若気の至りも初期衝動もないデビュー・アルバムを作り上げてしまうのだから、これからが楽しみでしかたない。

月の反射でみてた

宇宙コンビニ

月の反射でみてた

京都発、3ピース・プログレッシヴ・ポップ・バンド宇宙コンビニの2ndミニ・アルバム。今作にはかねてよりライヴで披露されていた「光の加減で話した」「origin」を含む全7曲が収録されている。うねるような5弦ベース、繊細でありながら大胆なギター、ダイナミックに鳴らされるドラム。平均年齢21歳とは思えないテクニカルな演奏が、絶妙なバランスで宇宙コンビニ独特の浮遊感漂う不可思議な世界観を創り上げている。更に、えみちょこ(Vo/Ba)の透き通るような歌声がその世界観をより広げていて、スケールの大きさに思わず飲み込まれてしまう。前作『染まる音を確認したら』が世界各国から絶賛の声を浴び、注目の的となった彼らだが、今作もまた各所から感嘆の声が上がることだろう。

じじい

宇宙人

じじい

まず、『じじい』というタイトルがおもしろい。"おじいちゃん"でも"おじいさん"でも"祖父"でもなく、『じじい』。この乱暴でいて親密な距離感こそ、宇宙人がこのニュー・シングルの"物語"に対してとっている距離感である。「じじい-導かれし宇宙(コスモ)-」、「じじい-おわりのはじまり-」、「じじい-そして伝説へ-」という3曲によって、祖父を失った哀しみと、そこから祖父と天国で一時的再会を果たし、哀しみから脱却していくまでの物語を綴った生と死を巡る一大絵巻。異形のニュー・ウェイヴ・ポップも壮大なバラードもミュージカル・ポップも取り入れながら紡がれるこの物語は、宇宙人というバンドの、ひいては、しのさきあさこという個人の想いやパーソナリティが滲むのをギリギリで回避している分、感情が純化されて伝わってくる。突き抜けた新機軸だ。

惡の花譜

V.A.

惡の花譜

アニメ『惡の華』の主題歌を完全収録したコンセプトEP。宇宙人によるOP曲「惡の華」は、しのさきあさこ、後藤まりこ、の子(神聖かまってちゃん)、南波志帆をそれぞれヴォーカルにフィーチャーした全4種類が収録され、ED曲であるASA-CHANG & 巡礼の「花 -a last flower-」も収録。物語の不穏な空気感、歪さを表現するため、ロトスコープと呼ばれる実写を元にした映像作成も話題を呼んだアニメだけあって、音楽においてもアニメならではの世界観を生み出そうとしていることが、本作を聴けばよくわかる。出口の見えない陰鬱な青春が、それぞれの楽曲に見事に表現されている。その中でボーナス・トラックとして収録されたBase Ball Bearの「光蘇」は、暗闇の中、かすれた瞼に映る微かな光のようで、美しい。

惡の華

宇宙人

惡の華

宇宙人の初となるシングルは、押見修造原作のアニメ『惡の華』のOP曲。実際のOPは、それぞれしのさきあきこ(宇宙人)、の子(神聖かまってちゃん)、後藤まりこ、南波志帆がヴォーカルをとった4ヴァージョンが存在するが、本作では、その4曲を組曲として再構築し、全編しのさきがヴォーカルをとった新ヴァージョンが表題曲として収録されている。そもそも、アニメの世界観と、そのキャラクターに合わせた楽曲をそれぞれ違うヴォーカルで制作するという宇宙人のプロデュース能力には舌を巻くが、それを組み合わせた時、正統と異端を行き来する宇宙人ならではのポップ・センスが全開となった、非常に聴き応えのある組曲に仕上がっているところが面白い。このバンドの底知れないセンスのよさを感じさせる。

珊瑚

宇宙人

珊瑚

高知から突如として現れた“謎”のバンド宇宙人の、デビュー2作目となるミニ・アルバム。今作がどんな作品かと一言で述べるとしたら“面白い作品”としか言えないんじゃないかと言えないくらいヴァラエティ豊かな楽曲が詰まっている。Track.1の「ものすごい関係」ではホーンも取り入れたグラマラスなロック・サウンドを展開し、Track.4の「楽日」はストレートなオルタナ・ポップな楽曲。かと思えばTrack.5の「ヤノコージ」では長尺のギター・ソロで聴かせ、プログレもあればポップもあって極めつけはTrack.7の「アウトレイジ」で聴かせる宇宙人流“祭り”サウンド。“なんのこっちゃい!”と感じた方、私も同じ気持ちですが最早“宇宙人”の中毒性の虜です。

永遠のロストモーメント

宇宙まお

永遠のロストモーメント

アーティスト名から音楽性を想像しづらかったが、本ミニ・アルバムから判断するに、彼女はニュートラルに時代のトレンドもオーセンティックなサウンドも選び取り、人間が追い求めながらも知ることに躊躇する誠実な思いや、日常的(彼女の場合食べ物が多い!)なことの中に含まれるある種の真理を表現していることがわかる。本作では前作でも付き合いのある久保田光太郎(PERIDOTS/Gt)と全面的にタッグを組んだことで、ストレートなギター・サウンドもグルーヴィなファンク調も、オルタナティヴで生音のアンサンブルの豊かさを堪能できる仕上がりに。"JAPAN COUNTDOWN"12月度EDテーマになった「東京」では、街を擬人化した歌詞がリアルでいい。様々な"ある瞬間"を歌と音で立体化する。

つま先/哀しみの帆

宇宙まお

つま先/哀しみの帆

前身バンドThe宇宙人sの解散後、精力的にソロ活動を続けてきた宇宙まおの1stシングル。どこか懐かしいメロディが癖になる「つま先」と、少年のような歌声が胸に沁みるバラード「哀しみの帆」、どちらも幼げで屈託のないヴォーカルが生きている。彼女の個性がこれまで以上に引き出されているのも、亀田誠治のプロデュースと聞くと合点がいく。また、昨年リリースのミニ・アルバム『ワンダーポップ』の収録曲の別ヴァージョンとなる「あの子がすき(lovely version)」は、斉藤和義の「君の顔が好きだ」などを彷彿とさせるジャジーなピアノ・アレンジが、ストレートな歌詞と絶妙にマッチしていて、以前のヴァージョンよりも軽やかな印象。3曲とも全く別の雰囲気を持ちながら、共通してこれ以上ない純粋さを持ち合わせている。ワンコインでリリースするには勿体ない程の良作。