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LIVE REPORT

Japanese

シナリオアート

Skream! マガジン 2016年04月号掲載

2016.03.10 @赤坂BLITZ

Writer 石角 友香

KANA-BOONとのスプリット・シングル『talking / ナナヒツジ』リリース時に各々のインタビューで、シナリオアートはKANA-BOONの無敵のバンド感を、KANA-BOONはシナリオアートの無二の世界観を称賛していたのだが、それ以上に印象に残っているのはお互いの存在に救われているということだった。シナリオアートはこのライヴの前日にニュー・ミニ・アルバム『dumping swimmer』をリリースしたばかり。新曲をライヴで披露する意味合いも大きいが、東京公演のみとなったこの2マンは、彼らの深いところでの繋がりを実感させ、観る者をも励ます力のある共演になった。
 
エレクトロニックで浮遊感のある開場BGMには羊の鳴き声も混ざり、BLITZにいる筆者自身に"ハグレヒツジ"のような気持ちを起こさせる。しかし、フロアは盟友同士の2マンという意味合いを十分理解しているように見える熱気と和やかさ。そこへ登場SEもなく、素な感じでKANA-BOONがステージに登場。性急なフレーズをこれまでの何倍も鮮やかに響かせる古賀隼斗(Gt/Cho)を筆頭に、4人の真剣勝負にかける顔つきが目に飛び込んできた「シルエット」からライヴはスタート。"いや、この曲もっとふんわりしたイメージだったんじゃ?"と、冒頭から嬉しい驚きと共にライヴ・バンドKANA-BOONの新たなフェイズを全身に受けとめた。
"呼んでくれてありがとう"と言いつつ、"キューン(Ki/oon Music)のオーディションではシナリオを蹴落として優勝したわけやけど"と、さっそく谷口鮪(Vo/Gt)の愛あるライバル・トーク(?)が。シナリオのメンバー3人の個性をいじったあと、この日ならではの2曲、「talking」、「PUZZLE」を続けてプレイ。特に飯田祐馬(Ba/Cho)の指弾きのフレーズから曲に入る「talking」が醸すちょっとダークなグルーヴ、そしてディレイや空間系のエフェクトやフュージョンっぽいアレンジすら顔を出す「PUZZLE」の迷宮感。メロディやメッセージだけじゃない今のKANA-BOONのアンサンブルの進化を1番感じたブロックだった。
新鮮さで言えば終盤にはニュー・アルバム『Origin』から、特に彼らのアザー・サイドを際立たせた「anger in the mind」、「机上、綴る、思想」をプレイ。ハードで冷静な怒りも感じる楽曲だが、サウンド面では小泉貴裕(Dr)のパワーや手数よりモダンでクールに聴こえるアレンジが冴え渡っていた。あまり洋楽の影響や分析について訊く機会はないのだが、この日はKANA-BOONにどこかロックンロール・リバイバル期の冴えたバンドを思い起こすようなバランスがあったのはたしかだ。いい意味で、今、新たなアンサンブルを模索しつつ、手応えも感じている4人の姿勢そのものが、盟友・シナリオアートとの2マンにおいて1番、誠実なKANA-BOONの在り方だし、ライヴだったんだと思う。それにしても新曲でもグイグイとフロアを惹きつける鮪の歌が持つ潜在的なキャッチーさ、フロントを張る覚悟は胸に迫るものがあった。
 
KANA-BOONの進化したステージに触発された部分もあるのか、満員のフロアに手を振り、笑顔で登場したシナリオアート。1曲目はこの"夜の遊園地"に誘うようにやさしく切ない「ワンダーボックス」、続いてギアアップするようにハットリクミコ(Dr/Vo)の"行くぞー!"のひと声、ヤマシタタカヒサ(Ba/Cho)がステージ最前まで出てきてのプレイでフロアを揺らす「スペイシー」。そして「アオイコドク」でのハヤシコウスケ(Gt/Vo/Prog)とハットリのツイン・ヴォーカルが描く、物語の切実さとサビの"ラル ラル ラル ラル"の上昇するメロディのある種の胸苦しさが力強く迫ってくるのも、嘘偽りのない心情を吐露した新作『dumping swimmer』を完成した今だからこそなんじゃないだろうか。それにしても、もともとテクニカルな3人ではあるが、ヤマシタの存在感のあるベース・ラインを筆頭にこのトライアングルが想起させたのは、大先輩クラムボン。もちろん、今回の対バン・ツアーで共演したPeople In The Boxの無駄のないトリオ感にも通じる部分はあるのだが、女性ヴォーカル且つトリオ、そして求道的な部分も含めて彼らの名前が思い浮かんだ。前半は一気に5曲をシームレス且つ有機的に繋ぎ、その心意気と前進するスピード感に大きな拍手が贈られる。
ハットリが先のKANA-BOONの愛あるディスに対して"なんか私らが、おかしな人と、自分のことクミコ、クミコ言う人と、パッとせん人みたいな言われ方やったけど"と笑いを誘いつつ、"ここにいる人全員ハグしたいぐらい嬉しい"というオーディエンスに向けた言葉と、今回のツアーの対バンであるPeople In The Box、ねごと、そしてKANA-BOONに対する尊敬と感謝を述べ、気持ちが溢れすぎた感じの早口のMCには笑いながらあたたかなものが込み上げる。
そして急転直下、新作の実質的な1曲目である「シニカルデトックス」の幾何学的なアンサンブルをドラム、ベースのみならずハヤシのリフも一丸になった凄まじさでたたみかける。後半のヘヴィ・ロックも真っ青なパートから再びヒートアップするサビまで駆け抜ける3人の抜き差しに瞬きもできない。最上級の褒め言葉として"変態プログレッシヴ・ポップ・バンド"という形容を献上したいと思った。同様に、すでにイベントで一度演奏を体験していたものの「ナナヒツジ」のアグレッシヴなプレイもジェットコースター級のスリルをさらに研ぎ澄まし、複雑な溢れる激情も削がれることがない演奏に驚く。今の3人が"ハグレヒツジよ、時代を変えていけ"と歌うと――自身に向けて歌っている部分は大きいにせよ、リスナーを腹の底から鼓舞できることを確信した。また、ハヤシが故郷・滋賀で同級生と会ったときの気持ちをもとに書いたという「トワノマチ」に滲んだリリカルな美しさったらなかった。3人が距離のある位置どりで、各々孤島のように見えるライティングが施されたことも、今いる場所と故郷、もしくは大人になっていくことへの痛みと覚悟を演出しているようで素晴らしいリンクを見せてくれた。
めくるめく新生面も見せながら進んできた本編のラストは、激情ののちに演奏されたからこそさらに染みる、訥々と、そして刻み込まれるような「フユウ」だった。痛みをすべて吐き出して眠ろう、その"眠ろう"を飲み込むように歌い締めくくったハヤシは、笑顔だった。不安や怖さがなくなるわけじゃないとしても、進んでいく姿勢を新作でより明確にした今のシナリオアートが鳴らすのが「フユウ」だったからだろう。すでに跳躍する3人を本編で十二分に感じさせてくれたが、アンコールではこのタイミングならではの選曲があった。「トウキョウメランコリー」のあと、ハットリひとりが残ったステージにキーボードがセットされ、最後のMC。去年、心身のバランスを崩してスタジオにも行けず、電車にも乗れず、実家に篭っていた時期があったことを話し、"曲も全然書けなくなっていたときに、唯一書けたのが「ホシドケイ」という曲で"と、音源とはまた違い、シンプルな弾き語りで彼女にとってSOSだったその歌をしっかり歌いきったのだった。3人の中でも外交的で、持ち前の元気でシナリオアートに意外性をもたらす彼女が抱えていた苦しみ。しかし、ここで歌いきったことで3人はさらに先に進めるだろう。

自分に嘘がつけなくて、悩みの種類は違っても前進するために苦悩を抱えた2015年という時期を互いに過ごした2組――"ハグレヒツジハトウキョウニ"は、まさにシナリオアートとKANA-BOONのことだった。

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