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DISC REVIEW

A

くるり鶏びゅ~と

V.A.

くるり鶏びゅ~と

錚々たるメンバーが集結し、くるりの名曲をカヴァーした鶏びゅ~と・アルバム。それぞれが趣向をこらしたカヴァーを披露しているが、その中でも別次元の名演を披露しているのが松任谷由実「春風」。いっそのこと、シングル・カットしたらいいのに。トラディショナルなメロディ解釈が新鮮なハンバート・ハンバート「虹」も素晴らしい。9mm Parabellum Bullet の「青い空」は、原曲を知らなければ彼らのオリジナルだと言われても納得してしまいそうな出来映えだし、Andymori「 ロックンロール」もカッコイイ。曽我部恵一「さよならストレンジャー」の渋いフォーク・カヴァーも流石の味わい。あと、「言葉はさんかく こころは四角」での木村カエラの素朴な歌声が好きです。

Andymori

ANDYMORI

Andymori

才能のカタマリのようなデビュー・アルバム。まったく未整理でやけっぱちの感情をそのまま鳴らし、舌っ足らずで空回り気味に転がるANDYMORIのロックンロールは、なぜか聴いた者を圧倒的な勝利の感覚に酔いしれさせる。 まごうことなきTHE LIBERTINES直系のガレージ・パンク・サウンドは、凡百のフォロワー・バンドを蹴散らすに十分な天性のセンスで、目も眩むほどの輝きを放っている。手数の多いグルーヴィーなドラミング、軽やかなギター・リフ。何よりヴォーカル小山田の、一点の曇りもない歌声が、ANDYMORIを特別なものにしている。安いウィスキーを空けるだけで丸一日無駄にするような、どうしようもない日常を歌っているのに、それが小山田の声に乗るだけで負け犬気分は消え失せ、勝者の高揚感に満たされるのだ。新たなヒーローの誕生に、今はワクワクするばかりである。

Lost Songs

...AND YOU WILL KNOW US BY THE TRAIL OF DEAD

Lost Songs

昨年は実に11年振りの来日を果たしその存在を知らしめた...AND YOU WILL KNOW US BY THE TRAIL OF DEADの新作が待望の国内盤化である。スタジオ作としては通算8枚目、プログレ、ポスト・ロック、ハードにサイケと持ち前のジャンルレスな感性そのままに、強靭なアート・ロックとして貫かれた世界観。本作は政府の圧力やメイン・ストリーム・カルチャーに蔓延した情熱に対する無関心という抑圧に、クリエイティヴィティで抵抗しているあらゆるアーティストたちに贈るものとして、PUSSY RIOTに捧げられている。漲る緊張感と力強さの理由も納得、インディペンデントな歩みこその重みもある。『Madonna』『Source Tags & Codes』と並ぶ重要作だ。

Madonna

...AND YOU WILL KNOW US BY THE TRAIL OF DEAD

Madonna

11年ぶりの来日を"Hostess Club Weekender"で果たし、予定通りであればこの1999年作の名盤『Madonna』全曲セットでフロアを湧かせてくれるであろうテキサスの至宝。今回は来日を記念してその傑作がBlu-spec CDとして再発。ノイジーなものからメロディアスなものまでイマジネーション溢れるギター・リフとカッティングのアンサンブル、タイトでありつつシンプルにも呪術的にも展開するリズム、エモの括りに押し込められないどこか冷静で鋭利なアプローチは、発表から10年以上を経た作品とは思えないセンスに貫かれている。最近のバンドならCLOUD NOTHINGSを想起させるむき出しの衝動とも共振するし、形式を越えたポスト・ロックとも言える創造的な音響など、どこを切っても刺激的な1枚。

異日常

anew

異日常

始動1周年を目前に、待望の1stフル・アルバムが完成。幻想的でサイケデリックな空気を纏ったタイトル曲「異日常」や、骨太なリフを擁したダンス・チューン「ぼくたちに明日はない」、叙情系ハードコアな「偶像依存SHOW」に、タイトルからしてインパクト抜群なエモ・ナンバー「どうせ馬鹿にしてるだろ?」など、英国のJ-POPチャートで首位を叩き出した1stミニ・アルバムからさらに振り幅を広げつつ、より強烈な個性を放つ全10曲が収録された。また、ポップ・パンク的な解釈を施した"伝説のミュージシャン"ノリアキのカバー曲「Debut」や、TOKYO PINK所属のシンガー・ソングライター はる陽。が手掛けた、感傷的でドリーミーな「しゃぼん」など、とにかく良曲目白押し! さらに支持を集めそうな大充実作だ。

位置情報なし / デキルカナ?

anew

位置情報なし / デキルカナ?

昨年12月、デビューと同時に発表した初音源『世界ヲ染めていく』が、英国チャートJ-POP部門で首位を獲得した、山形在住の4人組アイドルによる1st両A面シングル。本作には、孤独や焦燥を感じさせるバンド・サウンドの上で、語感のいい言葉たちを軽やかに弾ませながら駆け抜けていく「位置情報なし」と、パッと聴いた感じでは意味不明でユニークさはありながらも、グループとして走り始めた現在の状況を物語るようにも感じさせる歌詞や、パンチの効いたノイジーなギターに、後ろで鳴り響くパーカッションが躍動感を強く与えるアップテンポなロック・ナンバー「デキルカナ?」を収録。個性は大きく異なりながらも、どちらも強烈なまでの中毒性を持ちつつ、ライヴの興奮を激しく駆り立てるものになっている。

anew

anewhite

anew

1st MVになり、瑞々しいギター・サウンドと心の機微を詩的に映像的に描写する歌で、anewhiteの存在を印象づけた「カヤ」。3rd EPはその「カヤ」での衝撃を追体験する「どうでもよくなれ」で幕開ける。EPのリードとなるこの曲は、鮮やかな音楽世界で聴き手の心を動かす。ギターや鍵盤が切なさの琴線に触れ、一方リズムはラテン的なタッチもあり躍動感が高く、そこに佐藤佑樹の詩情的な歌声が乗る。歪でいてひとつに収まっているアンサンブルは、主人公の複雑な情緒を表すかのようだ。アルバム『2000's』発売後の昨年は挑戦的な制作を続けた。エレクトロを導入した攻撃的な「キンセンカ」や、佐藤が中学時代に書いた「ライムライト」は経験値を増したからこその表現が冴える。丁寧に磨いてきた先で出会う新しさがあるEPだ。

2000's

anewhite

2000's

2000年生まれのメンバーを中心とした ロック・バンド、anewhiteの1stフル・アルバム。"年上の彼の煙草"に徹底的にスポットを当てながらふたりの関係を描く「カヤ」、幽霊になってしまった恋人の物語「バケトナ」など着眼点が面白く、同音異義語を多用しながらの歌詞表現も特徴的。今作では多彩な楽曲が並んでいて、何を歌っても下品にならないヴォーカルの声質も今後武器にしていけそうだ。2010年代の邦楽ロックがルーツらしく、ピアノも取り入れた4ピース・サウンドから感じるのは、好きな音楽を衒いなく鳴らす純粋さと次を担っていこうという意気。「2000's」で歌われる"憧れは追えないままでいるけど/憧れは終えないままでいるよと"のラインは特に切実だ。

My Woman

Angel Olsen

My Woman

米シカゴを拠点に活動するアシッド・フォーク系女性SSWの3rdアルバム。前作収録の「Hi-Five」のようなサウンドですらラウドに聞こえるほど、今作ではドラムやベースが最低限しか鳴っていないうえに、ギター・サウンドもどこかサイケデリックでメランコリックだ。そこに彼女独特の舌足らずで不思議な声の伸ばし方をするヴォーカルが乗ると、さらに幻惑的な世界が広がる。今回はCHARLI XCXやSky Ferreiraなど、時代を映す女性アーティストを手掛けてきたJustin Raisenがプロデュースしていることも、そんなサウンドの一因かも。銀髪姿も披露するなど"シルバー"が印象的なMVが制作された「Intern」のようなビートレスのシンセ・サウンドはこの曲だけだが、たとえギター・サウンドでもミニマルで極私的な空間を作り上げているのが肝。

Lifeforms

ANGELS AND AIRWAVES

Lifeforms

元BLINK-182のTom DeLongeがフロントマンを務めるバンド、ANGELS AND AIRWAVESの約7年ぶり(=BLINK-182脱退後初)、6作目となるスタジオ・アルバム。UFO研究家でもあるTomの宇宙への憧憬がそのまま音になったような、浮遊感あるスペーシーなオルタナ・ロックを鳴らしてきた彼らだが、今作でもその方向性は健在で、シンセとヴォコーダーを巧みに使ったTrack.1から作品世界へと引き込まれる。重厚なサウンドのTrack.2、軽快なポップ・パンクを奏でるTrack.4、宇宙時代の甘酸っぱいラヴ・ソングなTrack.8など、爽快感のある音像でまとめられたアルバムだ。ポップ・パンクはあんまり......というロック・ファンにもぜひおすすめしたい。

Afterglow.

Anger Jully The Sun

Afterglow.

The Floorを輩出した"Yumechika Records"から、その名をじわじわと全国へ轟かせるギター・ロック・バンドがついに全国流通盤をリリース。全国デビュー盤なのに"afterglow(=夕焼け)"と名付けるところにも彼らの哀愁が見え隠れし、荒々しく、ライヴハウスの生音を閉じ込めたようなサウンドが彼らの熱量を際立たせている。サビの繰り返すフレーズや耳馴染みのいいメロディがキャッチーなインパクトをもたらす「君の影は」。要所要所に挟んでくる王道セオリーからハズしたギターの音が印象的な「枯れた花びらを見て」。そして、小竹森敬太(Vo/Gt)の低くて太いながらもクセのないヴォーカルが、ひりついた音に乗る様も新鮮。まずは自己紹介として、そして今後の彼らへの期待もさせてくれる1枚だ。

Isn't It Now?

ANIMAL COLLECTIVE

Isn't It Now?

USインディーの中でも特に個性の塊といったサウンドを発信し続けるANIMAL COLLECTIVEが、水を得た魚のようにクリエイティヴィティを開放したニュー・アルバム。前作『Time Skiffs』は、コロナ禍もあってリモートでのレコーディングとなり、ある意味パッケージとしてきれいにまとまった感のある作品になっていたが、今作はその間くすぶっていたアイディアが一気に放出されたのだろう、64分(※輸入盤)という大作でありながらたった12日で完成したというのだから驚きだ。トロピカルでポップな楽曲と、対照的にアンビエントで実験的要素が満載の楽曲があったり、聴く者をザワつかせるニクい演出も彼ららしい。さらに約22分という長さに驚かされる「Defeat」が、意外にも聴きやすいというのも意外性だらけで面白い。

Time Skiffs

ANIMAL COLLECTIVE

Time Skiffs

ANIMAL COLLECTIVEってこんなに聴きやすかったっけ。00年代後半のUSインディーを席捲したフォークとサイケの折衷ブーム、およびボルチモア結成のバンドが拠点としたブルックリン・シーンを代表する4人組の6年ぶりとなるアルバムは、そんな印象にちょっとびっくりだ。評価を勝ち得るなかで推し進めてきた実験的なアプローチではなく、フォークとサイケの折衷をメロディの心地よさとともに追求したところ、冒頭の印象に繋がったようだ。そこに絶妙な割合で入り交じるエスニックなサウンド、ラテンのリズム、ジャズ/フュージョンのエッセンスが彼ららしい。プログレ・サイケなTrack.3の宇宙的なサウンドとTrack.4の生々しいバンド・サウンドのコントラストもダイナミックだ。

Merriweather Post Pavilion

ANIMAL COLLECTIVE

Merriweather Post Pavilion

常に斬新なサイケデリックミュージックを奏で続けるANIMAL COLLECTIVEから届けられた新作は、もう誰も辿り着けないところへ彼らが到達していることをはっきりと示す傑作となった。実験精神を追求する彼らの音楽は、これまでも新しいもの好きな音楽愛好家には高い評価を受けながら、決して一般性を持つものではなかった。前作『Strawberry Jam』も以前に比べれば、格段にポップな作品だったが、彼らはこの作品で、その扉を全ての人に完全に開いてしまった。天上に住む人々の囁きのようなVOと、天から降ってくるような眩い音が、柔らかくしなやかなビートの上で舞い踊る、極上のサイケポップ。決して実験精神を失うことなく、聴く者をカラフルな桃源郷へ導いてくれる、至高の作品。

EMERGENCY

Anly

EMERGENCY

表題曲「EMERGENCY」はドラマ"僕のヤバイ妻"のオープニング・テーマ。19歳という若さで不倫ドラマの主題歌をどう歌うのかと思っていたが、ヴィンテージ・ロックのサウンド(※サウンド・プロデューサーは根岸孝旨、ギターはThe Birthdayの藤井謙二!)を背に"それでも希望を信じたい"という普遍的な願いを歌うことにより、そこに自身の感情を宿らせることも、多くの共感を呼ぶことも可能にさせた。カップリングには、気持ちいい風が吹き抜けるようなテンションのTrack.2「虹」、アコースティック・ギター1本でLED ZEPPELINをカバーしたTrack.3「STAIRWAY TO HEAVEN」を収録。多彩な3曲で魅せる3rdシングルだ。

Anna Calvi

ANNA CALVI

Anna Calvi

挑発的な真っ赤な唇が一段と目を引くジャケット。そのミステリアスさに、この唇から零れる声は、歌は、一体どういうものだろう? と激しい探究心をくすぐられた。英ロンドン出身のソロ・シンガーANNA CALVIのデビュー・アルバム。ARCTIC MONKEYSのメンバーが自らオープニング・アクトに指名したりと、デビュー前から話題の絶えない彼女の実態が明らかになった。彼女の歌もギターも、官能的なだけではなく、過剰なほどの強い愛情が込められている。その愛情は時に人を傷付けてしまうかもしれない。でもそのくらいの激しさがなければ、想いは届かないのだ。悲しさ、妖しさ、優しさが、緻密に描かれている油絵の世界に飛び込んだようだった。彼女の音楽にジャンルは不要。人生を捧げた10つの世界がここには存在する。

泣いてもいいやん

Anny

泣いてもいいやん

いやあ、面白い。"神戸から日本に元気を!"をコンセプトに活動するメロディック・パンク・バンドの2ndアルバム――そう聞いて抱いた印象は痛快に蹴散らされた。たとえば、女性ヴォーカルのキュートな歌声。聞きとりやすく親しみやすい日本語(ときどき関西弁)の歌詞。メンバーのJ-POP好きが想像できる起承転結のハッキリした展開。甘酸っぱくてキュンとするメロディック・パンク。疾走感はありつつも、多くのパンク・バンドが持っている無骨さとか、汗だくになりながら全力疾走していく感じとはまた別の魅力を持つバンドだ。"MINAMI WHEEL"や"COMIN'KOBE"、アルカラ主催の"ネコフェス"への出演を通して関西圏を中心に知名度を上昇させている彼ら。要注目。

S.T.E.P.

Another Life

S.T.E.P.

東京を拠点に活動するポジティヴ系アグレッシヴ・ロック・バンド Another Life、初の全国流通盤ミニ・アルバム。ギターのyusuke Kobaが作曲を、ヴォーカルのれいゆうが作詞を中心に手掛けて作り上げた全4曲はライヴで盛り上がること間違いなしのアップ・ナンバーばかり。疾走感のあるビートにのせて、ツイン・ギターがめまぐるしく重なり合う楽曲には、どれも"ここで爆発しましょう"というわかりやすいサビが用意されている。リード曲の「感エモ」では支えてくれた人への感謝を込めたほか、別れの悲しみを滲ませた「ハナレバナレ」も、心の中で嫌いな奴を"制裁制裁制裁"と連呼する「サイコパス」でさえも、あらゆる感情をポジティヴに笑い飛ばすようなスタンスが、このバンドの持ち味だ。

OPEN WORLD

another sunnyday

OPEN WORLD

伊藤文暁(Vo/ex.serial TV drama)、大山純(Gt/ストレイテナー)、ナカヤマシンペイ(Dr/ストレイテナー)、美登一(Ba/THE RODS)によるバンドの1年ぶりの新作。どちらかというとラフな、ロックのカッコよさと楽しさをストレートに表現したサウンド。これだけ手練れのミュージシャンが集まっているのに複雑で緻密なアンサンブルを繰り広げはしないこと、そしてそれを"世界を開け"と名付けていることに大きな意味を感じる。Track.1「ヘブン!」は初っ端から"ど派手な希望ふらし やるだけやればいい/終わりにビビったら進化へまっしぐら"と歌う。情報過多の時代だからって考えすぎてばかりだと頭が石になっちまうぞ、と言われている気分だ。

Memoraphonica

Anrietta

Memoraphonica

暗闇から沸き出でる一筋の光とその残像。平均年齢23歳、5人組のドリーム・ポップ・バンドAnriettaのデビュー・アルバム。Track.1の「Aqua」から7分を越す大作。レーベル・メイトのmatryoshkaを若干彷彿させるような吐息交じりの女性ヴォーカルに、緻密に編みこまれた音と音が静かに寄り添っていき1つの物語を紡ぎだす。そしてTrack.2の「Lost seasons」でバーストさせたシューゲイズ・ライクなギター・サウンドを披露。そしてリード曲の1つである「On the way across the rainbow」ではピアノとストリングスの音がヴォーカルを引き立たせ、特にこのバンドのメロディ・センスの良さを感じさせる。全編に言えることだが非常に神経質な音の作りこみをしている、しかしその楽曲群を窮屈ではなくむしろ生活に寄り添うサウンドトラックのように聴き手に溶け込ませることが出来ているのは流石。

あさやけ

アンテナ

あさやけ

配信シングル「未来を待てない」、「花空」を含むANTENAの3rdミニ・アルバム『あさやけ』。インスト曲を経てオープニングを飾るのは"東京はやばいんです"のフレーズが癖になる「Jibunmakase」。夜から朝になるように、アーバンなサウンドは時間経過とともに温かみを増し、アコースティック・ギターやピアノの音色、バンドの有機的なアンサンブルも表出。開けたところへと向かっていく。歌詞には自分自身や身近にいる人を大切に思う気持ちが表れており、昨年から続くコロナ禍における渡辺 諒(Vo/Gt)の心情が色濃く落とし込まれている印象。夏場ぼーっとしている瞬間からふと始まる考え事、無常観までを滑らかに描いた「みんみん」のさりげないすごさにも注目したい。

風吹く方へ

アンテナ

風吹く方へ

讃美歌のように神秘的な「光」で幕を開ける、ANTENAのメジャー1stフル・アルバム。渡辺 諒のファルセット・ヴォイスと、キーボードの浮遊感には、ふわふわとした心地よさがあるが、彼らが提唱しているコンセプトは"ライフソング"。つまり、私たちの生活やリアルを感じられる芯が貫かれているのだ。"酔っ払って寄っかかって 傾いた電車で"というフレーズを、これ以上ないほど美しく歌う「あなたが眠るまで」は、彼らならではだと思う。また、「ごきげんよう」や「入道雲」で、今の時代にかつてのシティ・ポップ感を真っ正面から鳴らしているところも興味深い。さらに、大人になる切なさを"ラララララ"と力強くシンガロングする「風吹く方へ」には、今の彼らの意志が表れていると思う。

深い 深い 青

アンテナ

深い 深い 青

渡辺 諒(Vo/Gt/Key)の療養のため2018年4月より活動休止していたアンテナが、無事復活し、ミニ・アルバムをリリース。無理に希望を目指すでもなく、かといってやたら斜めに構えるわけでもなくフラットで素直な作品だ。平熱に近い楽曲たちを聴いて、休止期間中に彼らは有意義な時間を過ごすことができたのだろうと思った。まずそれが嬉しい。ビートの打ち方や洋邦のミックス感など、前作『モーンガータ』で見られた方向性も踏襲しつつ、コーラス・ワークなどに新たな要素を取り入れ、浮遊感と透明感のあるサウンドを実現。それがヴォーカルの声質、人生の光と影を見つめる歌詞の筆致にもよく合っている。新鮮さと恐ろしさを纏った冬の朝に散歩しながら聴くのがおすすめ。

モーンガータ

アンテナ

モーンガータ

仙台の4ピース・バンド、アンテナがメジャー・デビュー。前作からバンド・サウンドにシンセサイザーを取り入れ始めたこと、そして本作ではBUMP OF CHICKENやTRICERATOPSなどを手掛けた木崎賢治氏をプロデューサーに迎えたことが影響し、サウンドは洋楽からの影響を吸収したテイストに変貌。それでも7曲すべてがアンテナの曲として響いているのは、自問自答に苦しむ人の姿を時間軸に沿って描く"夜"の物語と、"自分たちらしさ"を探し、紆余曲折の道を歩んできたこのバンドの歴史がピッタリと重なっているからだろう。回り道と思っていた日々だって、かけがえのない財産に変えることができる。身をもってそれを実感した彼らが、"似た者同士"なあなたへ贈る歌。

天国なんて全部嘘さ

アンテナ

天国なんて全部嘘さ

Track.1「おはよう」、Track.4「ピザ取るから」など収録曲のタイトルを見ただけでも察せられるように、歌の内容はこれまでよりも生活に寄り添ったものに。さらにシンセ・サウンドを大胆に取り入れたTrack.5「天国なんて全部嘘さ」が象徴するように、4人で鳴らすサウンドの幅もグッと広がった。つまり、端的に言うと変化作。それでもむしろ"やっと出会えた"と感じてしまうのは、いい意味で欲深くなったというか、自分の人生にも相手の人生にももっと踏み込んでいきたいんだ、という彼らなりの覚悟が読み取れるからだ。波乱の1年を乗り越えた先で本作を作り上げたことに拍手を送りたい。ここからもっといいバンドになっていきそうだ。

底なしの愛

アンテナ

底なしの愛

もしもあなたの心の中に音楽にしか洗い流せない部分があるのならば、一度聴いてみて欲しい。私も実際そういう人間なんだけど、このバンドの音楽が自分の内側から離れてくれなくて困っている最中だからだ。言うならば、あたたかな痛みを残されたような感覚。困っていると言いながら正直嬉しかったりするんだけど。様々な形の"愛"をコンセプトにしたミニ・アルバム――とはいっても、そこにファンタジックな甘さはない。少々ひねくれた視点で人間の喜怒哀楽を捉える歌詞と、"正統派"を自ら掲げるサウンドはネガもポジも飾らずに鳴らす。自らの性格をそのまま落とし込んだ全7曲。ある意味残酷だがこの上なく人間臭くピュアな行為がどうしても憎めないし、それこそが彼らの等身大の魅力だ。

バースデー

アンテナ

バースデー

2010年に仙台で結成された4人組バンド、アンテナ。TOWER RECORDS限定でリリースされた1stミニ・アルバムが仙台店ウィークリー・ランキング1位を獲得したり、"ARABAKI ROCK FEST.12"ではメイン・ステージにも立った経験を持つ彼らが3年ぶりに新作をリリースする。渡辺諒(Gt/Vo)の甘い歌声で歌われるどこか懐かしいメロディは心地よく、親しみやすさに溢れている。流れる日常に思いを馳せるような優しい気持ちになれる「バースデー」、力強いビートが印象的な「サニーデイ」、これまでライヴでも披露されており、彼らのアンセムとも言えそうな「ブックメーカー」など、多彩な全6曲を収録。彼らの可能性を示す名刺代わりの1枚になることは間違いない。

view

anthology three chord

view

2011年に北海道札幌市で結成された4人組ロック・バンドのデビュー・アルバム。札幌を拠点に活動し全国区となった大先輩、bloodthirsty butchersの影響を受けているのはサウンドからも明白。乾いたドラムの音に乗せて2つのギターが単音で絡み合い、骨太なベース・ラインが曲全体をビシっと締める「future」など、黙々と奏でられる硬派な楽曲は無骨な4人の職人が演奏しているような印象を受ける。ただ、それを"エモい"という言葉で切り取ってしまえないほど飾りのない歌声は、まるで友人が部屋に来て目の前で歌を披露しているような生々しさがある。その朴訥さがバンド小僧って感じでとても良い。居心地の悪さや孤独、コンプレックスを感じさせる「海の向こう」の一体感や力の入り具合がこのバンドの個性を表している。

Swanlights

ANTONY AND THE JOHNSONS

Swanlights

ANTONY AND THE JOHNSONSの世界は、あまりにも独自に突き抜けており、安易な気持ちでは触れられない気がする。そう感じたのは彼が敬愛する日本舞踏界の至宝、大野一雄をジャケットに配した前作『THE CRYING LIGHT』でのこと。壮大なサウンド・スケープに唯一無二の歌声は、強固なまでの美意識を醸し、まるでSIGUR ROSなど幼く感じてしまうほどの張りつめた緊張感があった。その孤高の世界観がビルボードのヨーロッパ・チャートで1位を獲得したのは当然な結果か。そして、待望の新作である。前作と比較するとラフな質感を活かし、さまざまなアプローチでこれまで以上に大衆的間口の開かれた印象を受けるが、美意識の芯は揺るがない。歌姫BJORKとのデュエット曲は早くも話題になっているが、個人的にはラスト「Christina's Farm」の壮美な流れに感動した。

未来展望

anzu

未来展望

少女性を残したウィスパー、ブレス成分多めの距離の近いヴォーカルが、有機的なアンサンブルと相まって情景を拡張してくれる聴き心地のいい7曲。エヴァーグリーンなアメリカン・ポップス調の「オルリーの丘」に始まり、舞台を想定した観客の拍手や環境音がユニークな「ガルニエ」、CARPENTERSやBurt Bacharachにも通じるメロディを持つ「ロンポワン」、ストリングスとピアノが静かに緊張と解放を表現する「彼女の静謐」、UFOを意味する「OVNI」での懐かしい印象のピアノとエレクトロ・サウンドのバランスも印象的。フランスの映画音楽の主題歌めいた「saravah!」を経て、カラスの鳴き声など日常のサウンドも混じる「ある晴れた朝に」まで、自然且つモダンな聴感が残る。

空の無い世界

Ao

空の無い世界

冒頭から"報われることの無い努力も/生きていればたくさんあるし/仕方ないって 当たり前だって/少しずつ諦めて"(Track.1「サクリファイスタウン」)と歌っているように、独白のような歌詞は健在。これで嘘なわけないよな、みたいな内容が焦燥感すら覚えるギター・ロック・サウンドに乗ることにより、こちらの胸に容赦なく刺さりまくる。raison d'etre時代の曲も収録したというエピソードからもわかるように、何周か回って原点に戻ってきた、だから濃度が高くアクも強い、という温度感の作品。それはつまり、このバンドにしかできないことばかりが詰まっているアルバムだということだ。結成13年目でこの境地に辿り着いたことを、素直に祝福したい。

it’s you

aoki laska

it’s you

OWENやHER SPACE HOLIDAY、最近ではRyo Hamamotoやfolk squatといった良質な作品を発信し続けている&records。本作はレーベル初となる日本人女性シンガーのaoki laskaの1stフル・アルバムである。昨年12月にEP『about me』でデビューして以来、フェスの出演などで、瞬く間に話題となった強力新人だが、まずは何と言っても、その天性とも言える歌声。儚げで美しく、優しく包みこむような母性を感じさせる――それはつまり親密な繋がりを吐息ひとつからも感じさせるもので、時に空気のようにふわふわと、時に水のように染み渡る。そしてこの歌声をこれ以上なく魅力あるものにしているのは、その零れ落ちそうなメロディと可愛らしい楽曲群。大事に聴きたい。

Summer spit!/ゴールデンタイム

Appare!

Summer spit!/ゴールデンタイム

Appare!が夏の目玉のひとつとしてリリースしたニュー・シングルは、作家陣がとにかく豪華だ。SNSで大バズりした「ぱ ぴ ぷ ぺ POP!」をグループへ提供した玉屋2060%(Wienners/Vo/Gt)による「Summer spit!」は、暑くて熱い夏を超特急で駆け抜けるアッパーチューン。楽曲から放出される情報量の多さが凄まじく、終始圧倒された。谷口 鮪(KANA-BOON/Vo/Gt)提供の「ゴールデンタイム」は、アイドルの刹那的な美しさと青春感を音楽に昇華したロック・ナンバーで、楽曲に触発されてエモーショナルな歌唱で魅せる7人の歌声がいい。さらにナナホシ管弦楽団によるカラフルなポップ・ソング「なんとかなーれファンファーレ」も収められ、粒揃いな1枚に仕上がった。

いいかんじっ!/ 破天荒シンデレラ

Appare!

いいかんじっ!/ 破天荒シンデレラ

昨年11月発売のアルバム『Appare!Future』で首藤義勝(KEYTALK/Vo/Ba)が曲提供したり、玉屋2060%(Wienners/Vo/Gt)が提供した「ぱ ぴ ぷ ぺ POP!」がTikTokで大バズりしたりと、バンド提供曲との抜群の相性の良さを見せるAppare!。最新シングルは、THE イナズマ戦隊とオメでたい頭でなによりの提供曲による両A面シングル。イナ戦のタイトで軽快なバンド・サウンドと、Appare!の底抜けな明るさと元気さが見事なケミストリーを生んだ「いいかんじっ!」。和風のイントロと威勢のいい掛け声で始まり、仕掛け満載の楽しいオメでたサウンドがAppare!メンバーの新たな魅力を引き出した「破天荒シンデレラ」。どちらもAppare!の可能性や振り幅を広げ、ここからの進化や成長を期待させてくれる曲となった。

Varckii

Aqilla

Varckii

ソロ・シンガー Aqillaの2ndフル・アルバムは、1stフル・アルバム『shave off』で見せた独特の音世界をさらに追求したうえで、余分なものをすべて削ぎ落としたストイックな1枚に。1曲目「CELL」から炸裂するその独自の世界は、映画を観るかのようにめまぐるしくフィルムを変え、ラストの「夢幻泡影」までその場所から決して逃してはくれない。これでもかというほど凝りに凝った音作りではあるが、それが子供の無邪気な遊びのようにも感じられるのは、Aqillaとバンド・メンバーがとことん音楽を楽しんでいる証拠で、聴くたびに新たな発見があるのも、まるで宝探しをしているかのような気分。ただかっこいいもの、好きなもの、やりたいことを詰め込んだ1枚。Aqillaという表現者の深化と、これからの可能性が発揮された作品となった。

shave off

Aqilla

shave off

"ロック"という言葉だけでは到底言い表せない緻密な構成とアレンジ、独特なニュアンスによって展開される12曲――それでもこれだけまっすぐなロックに聴こえてしまうのは、彼女の覚悟や想いがすべての曲に刻まれているからなのだろう。デビューから2年の軌跡をつめ込んだ1stアルバムは、彼女のスタートとも言える1枚となった。どの曲もリード曲になり得るほどのポテンシャルを持ち、"shave off"(削ぎ落とす)というタイトル通り、ブラッシュアップされた彼女がその曲たちを行き来する。極限まで振り切った歌声には嘘偽りがなく、だからこそとても愛おしい。自信と覚悟がみなぎる今作には、Aqillaの本質そのものが表れた。恐れなくただひたすらに楽しむ様子も印象的。ここからまた彼女のロック人生が始まる。

マーニの秘密

aquarifa

マーニの秘密

月の運行や満ち欠け司りながらも常に狼に追いかけられているというリスクを抱えている、兎の姿をした北欧神話の美しき月の神"マーニ"をタイトルに選んだ4ピース・バンド、aquarifaの3rdミニ・アルバム。バンドのキー・ヴィジュアルに"月"を掲げる彼女たちにぴったりだ。ONE OK ROCKやMAN WITH A MISSIONを手がけるakkin、堂島孝平や吉澤嘉代子を手がける石崎光というカラーの違うふたりをサウンド・プロデューサーに迎えた今作は、捕まえようとすると笑いながらするりと逃げてしまうような軽やかさを見せつける「崩壊リカバリー」やリリカルな演奏が胸を打つ「溶けない嘘」、ライヴではすでに定番曲となっている「321」など、どの曲も遠くまで届いていきそうな可能性が込められている。

月明かりのせいにして

aquarifa

月明かりのせいにして

昨年はSUMMER SONICやMINAMI WHEELへも出演し、ファンを増やしているバンド、aquarifa(アカリファ)の2作目のミニ・アルバム。紅一点Vo.岩田真知のチャイルディッシュで、メランコリーを帯びた不思議なトーンの歌声と、アグレッシヴで、重厚なギター・サウンドとの組み合わせは、デコボコでトゥー・マッチな感覚がある。どっと押し寄せてくる感情の荒波や、激しく複雑にせめぎ合った感情の渦にも、すっと身を委ねて、淡い夢のなかをふわりとたゆたうように歌う。歌に宿る、その静けさや凛とした佇まいが、深く心を揺さぶる。そしてリスナーの心をとらえた声に続くようにして、ノイジーで力強いサウンドが、余計な思いを洗い流していく。甘美な余韻と、いつ引っかかれたのか少しばかり痛みや切なさといった傷跡も残す、静謐で鋭いアルバムだ。

Xen

ARCA

Xen

プロデューサーとしてKanye WestやFKA TWIGSの曲を手掛け、自主リリースしたミックス・テープ『&&&&&』で何者!?とエレクトロ・ファンの心をざわめかせた、ARCA。ベネズエラ出身で現在はロンドンを拠点とする24歳、Alejandro GhersiによるARCAがMUTEよりデビュー・アルバム『Xen』をリリース。ベースには、『&&&&&』での抽象的で、インダストリアル風のひんやりとした感覚がある。一方で、眠っていた記憶を掘り返された後味もある。うっとりと触れたくなる美しさと、居心地の悪さが同時に襲ってくる、その得も言われない感覚は何かともう1度この音世界に分け入っていく。そんな"今の何?"という音の奇妙な影にとりつかれてしまう。どこか"見るなのタブー"にも似た、解き明かしたら2度と味わえない何かを持った音楽。

We

ARCADE FIRE

We

RADIOHEADとの長年のコラボレーションで知られるNigel Godrichを共同プロデューサーに迎えた、約5年ぶりのニュー・アルバム。"I"と"We"の2部構成からなり、前半ではソーシャル・メディアや政治的対立、パンデミックなどによって生じた孤立への恐れや寂しさを、内省的でどこか冷ややかなサウンドで表現する。後半では他者との繋がりによって広がる、希望に満ちた世界をドラマチックに奏でていて、強烈なカタルシスを生む「The Lightning I, II」は圧巻。「Unconditional II (Race And Religion)」での、バンドの影響元のひとつと言えるPeter Gabrielの客演も絶妙だ。彼らなりのロック・オペラで現代を描き出す傑作。