DISC REVIEW
A
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ASH DA HERO
Beast Mode / オクターヴ
"劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-"の劇中歌を掲げたダブルAサイド・シングルには、自身の中の"怪物"を解き放てと、シリアス且つ獰猛なバンド・サウンドを高鳴らす「Beast Mode」、初期衝動を抱えながら未来へ向けて加速していく姿を描いた「オクターヴ」の2曲に加え、両楽曲のエンドロールとしても、そこから続いていく物語としても胸に響く、壮大なスケール感を誇る「Light my fire」を収録。アニメ"ブルーロック"とのタッグはTVシリーズから引き続きということもあり、作品との相性や親和性はさることながら、ASH DA HEROというロック・バンドだからこそ放つことができるメッセージが刻まれていて、彼らのスタンスを明確に提示したものになっている。
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ASH DA HERO
Judgement
漲りまくりの初期衝動を閉じ込めた現体制初アルバムから、約半年で到着したメジャー1stシングル。TVアニメ"ブルーロック"2クール目オープニング主題歌のタイトル・トラックは、ヒリヒリとした高速ギターとスクラッチが高揚感を激しく煽るなか、"この世は2つに1つ"とシンプル且つ強靭な言葉を叩き込むスリリングなアップテンポ・ナンバーだ。強烈なグルーヴと爆発力たっぷりなバンド・サウンドの上でASHがラップを畳み掛ける「自分革命」(ADH盤収録)も、凄まじい熱に溢れていて血が騒ぐが、バンド結成までの道のりと5人が目指すものを刻みつけたような「最強のエンドロール」(ブルーロック盤収録)が、とにかくドラマチック。これから先彼らがこの曲を大会場で高鳴らす瞬間を想像するだけで心が震える、端的に言えば超激エモ曲!
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ASH DA HERO
Genesis
昨年9月、ソロ・プロジェクトとしての活動を完結させ、バンドとして歩み始めたASH DA HEROによる、現体制での初アルバムであり、メジャー・デビュー作。グルーヴィ且つ重量感のある強靭なバンド・サウンドで戦争、疫病、差別、同調圧力などといった、この世界を覆うネガティヴを痛快なまでに切り裂いていく全12曲を収録している。ヴォーカル ASHの武器のひとつでもあるラップも非常に鋭利で、凍ってしまった、もしくは日和った心を突き動かす熱いメッセージが込められているが、それはリリックの節々に表れているように、とても冷静に、場合によっては冷酷なまでに現代を見据えているからこそ生まれてくるのだろう。圧倒的なまでにヒロイックなサウンドを現場で、しかもスタジアム・クラスの大会場で味わいたい。
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ASHNIKKO
Weedkiller
ヴィヴィットなブルー・ヘアーに、過激なリリックやダーク・ファンタジーなアートワーク、グロテスクなMVと、強烈なインパクトを放つエキセントリックな魅力で注目を集める新世代のポップ・アイコン ASHNIKKO。性的差別や男性優位な世の中への怒りを音楽を通しぶつけてきた彼女が、"環境破壊とテクノロジー"をテーマにデビュー・アルバムをリリースした。"Weedkiller(除草剤)"というワードはこのテーマを直接的に表しながらも、一方的に傷つけられた心が枯れ果てていくようなイメージも含ませ、彼女のパーソナルな怒りの根源を同時に表現。多くのゲストも参加しジャンルの枠にとどまらない自由さはあるが、荒廃した世界を想起させるダークな世界観は一貫され、作品全体でひとつの物語、ディストピアを描いている。
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ASIAN DUB FOUNDATION
The Signal And The Noise
今年結成20年目を迎えるASIAN DUB FOUNDATION。この記念すべき年に、創設メンバーであるDr.Dasなどオリジナル・メンバーが復帰したアルバムが完成した。ヘヴィなベース、アグレッシヴなバングラ・ビート、そこにノイジーで印象的なギター・フレーズやテンションの高いヴォーカルがのっている。90年代、彼らが登場したときの衝撃や高揚感にもう一度触れる感覚を味わいながら、よりグルーヴィーに、音楽地図を広げ深化を遂げた、ノリの気持ちよさを体感するアルバムだ。言わばADFによる、もっともADFらしいアルバム。曲のフックはもちろん、メンバーのバックボーンや精神、情熱を、音楽のなかで共存させる無二のサウンドを極めている。ステージへの期待が否が応でも高まる1枚だ。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
Single Collection
全33曲の歴代シングルが紡がれ、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが日本のロック史に残してきた功績を改めて体感することができる、メジャー・デビュー20周年記念盤。再録された「遥か彼方」で幕を開け、地を這うようなイントロのベース・ラインがノスタルジアと高揚感を運んでくる。20年経っても歌い続けるバンドの熱量が確かな軌跡として反映されている一方で、リスナーは各楽曲の歌詞に登場する"君"に当時の自分や大切な人を投影させ、懐かしさに浸るだろう。暗いムードが漂う情勢や、やるせない日常からも目を逸らさず、今を生きて、愛を鳴らし続けてきたアジカン。これからも変わらない4人だけの音を世界中に響かせてほしい。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
宿縁
アジカン×アニメ"NARUTO-ナルト-"シリーズとしては、「ブラッドサーキュレーター」に続く3弾目。ここで"前世からの因縁"を意味する"宿縁"というキーワードを挙げたのは、今の自分の行動があとの世代に与える影響や人間のいい意味での変化について、後藤正文(Vo/Gt)が懲りずに希望を託しているからだと思う。王道ギター・ロック・チューンだが、コードがロング・トーンであることで降りしきる雨=現在の世界を思わせるのはリアルだ。また、後藤&喜多建介(Gt/Vo)の共作で喜多Voの「ウェザーリポート」は、近さを感じるミックスが離れていくふたりという珍しいテーマを自然に聴かせ、『サーフ ブンガク カマクラ』の続編という「日坂ダウンヒル」は、ローファイ・ヒップホップ調。各々今年のアジカンの動向を示唆しているのかも。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
出町柳パラレルユニバース
すでに後藤正文(Vo/Gt)がポッドキャストなどで開陳しているのでサブテキストとして書くが、このシングルの4曲目「柳小路パラレルユニバース」は、『サーフ ブンガク カマクラ』の"続きの駅"として作られていた曲だ。アジカンの青春を想起させる力みのないパワー・ポップが、森見登美彦作品の舞台である京都に移植されたのが、今回の表題曲「出町柳パラレルユニバース」というわけだ。こちらにはアウトロにサイケデリックなギター・フレーズが追加され、アニメ"四畳半タイムマシンブルース"の世界観も。WEEZERのカバーにはAAAMYYY(Tempalay)が参加、喜多建介(Gt/Vo)とのツイン・ヴォーカル(!)の「追浜フィーリンダウン」と、肩の力が抜けたアジカンの素が楽しい。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
プラネットフォークス
進化を続けるアジカンの10thアルバム。三船雅也(ROTH BART BARON)とのハーモニーが圧倒的な爽快感を生むリード曲や、切なくも温かいサウンドに乗せた美しい言葉が沁みる「フラワーズ」、ラップとの融合が新しい「星の夜、ひかりの街(feat. Rachel & OMSB)」、"胸の奥で歌ってよ"という言葉とともに壮大なコーラスが響く今のライヴ・シーンを映したような1曲「Be Alright」など、青春を彷彿させる初期楽曲の青さと、近年の洗練された円熟味が合わさった14曲が収録。アジカンらしさを核としながらも、多彩なアレンジやコラボで新たな広がりを見せている。また多様性やネット社会に切り込む歌詞も奥深い。この惑星に生きるすべての人にとっての明るい未来を祈る1枚。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
ダイアローグ / 触れたい 確かめたい
1年2ヶ月ぶりの新作は、両A面シングル。「ダイアローグ」も「触れたい 確かめたい」も、このコロナ禍による社会を映したような曲で、今改めて大事なものを突きつけられる感覚があるが、実は昨年行った欧州ツアーの際に、ロンドンでレコーディングをした曲だという。ダイアローグ=対話や、人や社会の礎になるものを童話のように、また詩的に描いた「ダイアローグ」。シンプルなメッセージが、細やかなディテールを含んだふくよかなギター・サウンドで織り成され、普遍的なダイナミズムを放つ。また「触れたい 確かめたい」では、塩塚モエカ(羊文学)がゲストVoで参加。後藤正文との歌のアンサンブルで、センチメンタルな記憶や残像を刺激する曲になった。またCD版のみリモート制作による「ネクスト」を収録。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
ホームタウン
3年半ぶりのオリジナル・アルバムは、シンプルなバンド・アンサンブルの魅力と底力が発揮されたパワー・ポップが満載。驚くのは、バンドのルーツのひとつでもあるWEEZERのRivers Cuomo(Vo/Gt)が2曲作曲していること。だが、Riversの曲も消化し、むしろバンドのDNAを感じさせながら、全体的にグッとBPMを落とし、各楽器の音の鳴りや音場の豊かさで全編に一貫性を持たせていることが、アルバムであることの意義を実感させる。表題曲や「ボーイズ&ガールズ」に代表される、ここからもう一度歩き出そうとする意志とそれを表現するサウンドの親和性を存分に味わいたい。ホリエアツシ(ストレイテナー/Vo/Gt/Pf)らが手掛けた曲を含むEPも合わせた15曲すべてをぜひ聴いてほしい。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
ボーイズ&ガールズ
「生者のマーチ」もそうだったが、今回の「ボーイズ&ガールズ」も徹底して、4人の音しか鳴っていない。それは立ち止まるとか振り返るとかではなく、歩きながら自分の中身を見つめるよう背中を押してくれる。情報量過多で"衝撃"という引っかき傷を作る音楽の真逆にあるのではなく、アジカンの新曲は自発的な発電を促しているのだ。サウンドはWEEZERなど初期の影響源を再解釈しているようでもあり、でも曖昧さはなく、ビートもグルーヴもリフもしっかり地に足をつけているのが新鮮。2曲目の「祝日」はシャッフルのリズムが珍しくアジカンを"男っぽいバンド"という形容で表したくなった。それはギター・アンサンブルの特異性にある。深呼吸して、しぶとく生きよう。そんな後藤正文(Vo/Gt)の声が聴こえるようだ。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
Re:Re:
2ndアルバム『ソルファ』収録時から12年。この再レコーディング版のイントロが鳴った瞬間、蘇ったのは"Wonder Future"ツアーの国際フォーラムでのライヴだった。そして、さらにそのあと、ヨーロッパや南米ツアーで確信した"楽曲は届くところには届いている"という思いの反映。細部のアレンジが更新されたことも、楽器の録り音ひとつひとつも、音が鳴る空間が著しくワイド・オープンになったことも、すべてが経験から得た気持ちを反映しているのだ。リスナーの年齢やアジカンと出会った時期によってこの曲の捉え方も違うだろう。個人的には、いよいよ閉塞感のどん詰まりにあった日本において、『ソルファ』は音楽で"それでも行くんだよ"というベクトルを指し示す作品だった。思えばアジカンは言い続けているのだ、そのことを。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
Right Now
行定勲監督の映画"ピンクとグレー"のために『Wonder Future』のツアー中という、多忙さの中で書き下ろされたのが今回の「Right Now」。一聴でアジカンとわかるリフと8ビート。映画の世界観にも通じる東京・渋谷界隈の情景や匂い、自分と他者の境界線の曖昧さと裏返しの自意識過剰。後半にガラッと曲調もテンポもキーも飛翔するように変化する展開が窓を大きく開けるような印象も。そしてこの構成も映画の内容とリンクしている。カップリングには『Wonder Future』のツアーからライヴ音源として「Eternal Sunshine / 永遠の陽光」、「深呼吸」、「Wonder Future / ワンダーフューチャー」の3曲を収録。2015年の経験を血肉にして2016年を走り出すアジカンが、新たな代表曲になり得る大きな一打を繰り出した。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
Wonder Future
ゴッチがブログに"震災後、2度目の人生を生きている心持ち"という意味のことをときどき書いているが、現実の音像、そして作品に昇華されたのが今作なのだと思う。シングル『Easter』同様、FOO FIGHTERSのプライベート・スタジオで全曲レコーディングされたこのアルバムの重量とソリッドさが矛盾なく存在するどでかい音像は、イヤフォンで聴いてもつま先まで痺れるようだ。まず肉体に訴えかけてくる。そしてもはや対岸の火事ではなくなった人間同士の断絶などの現実を冷静に描く歌詞の多さ。しかしアルバム・タイトルが示唆するように未来は"ワンダー・フューチャー"なのだ。楽観も絶望もない、励ましもセンチメントもない。ただ生きる意思を鳴らしたらこうなんだ、そんな潔さに満ちている。
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V.A.
NANO-MUGEN COMPILATION 2014
このコンピの充実度は毎年計り知れないが、今回はASIANKUNG-FU GENERATIONの新曲「スタンダード」を聴くだけでも相当、価値ある1枚。ゴッチ自身が"これは先の都知事選についての歌"と明言しているが、何も変わらないと諦めたら非難の対象と同化してしまう。愚直なまでに続けること、そしてバンドのイメージを引き受けるとはどういうことか?まで応えた1曲だ。文字数の半分をAKG新曲に費やしてしまったが、今年はユニコーンやスカパラなどベテランから、KANA-BOON、グッドモーニングアメリカら新鋭、くるりやストレイテナーらAKG同世代まで縦横無尽な出演者が揃うわけで、このコンピも自ずとその厚みや充実感を体感できる。お得感で言えばくるりの未音源化楽曲や、ストレイテナーの新曲収録も嬉しい。
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V.A.
Yes,We Love butchers〜Tribute to bloodthirsty butchers〜"The Last Match"
吉村秀樹が亡くなってから1年と1日目にリリースされるトリビュート盤第4弾。あがた森魚(ブッチャーズの射守矢や小松も参加)、the 原爆オナニーズらベテラン、ASIAN KUNG-FU GENERATIONやTHE BACK HORNといったシーンの中核を担う存在、+/−ら海外の盟友、それでも世界が続くならといった若手まで顔を揃えた今回は、シリーズの中でも最も吉村の影響の広範さを証明。ギター・サウンドとフィードバックだけで胸に熱いものがこみ上げるAKGやenvy、合成ボイスや読経のようなリズム感で再構築したASA-CHANG&巡礼や、ピアノをフィーチャーし、生死の狭間を行くようなサイケデリックな祈りの歌へ昇華したGREAT3など、バンド/アーティストがリスペクトの姿勢を究極まで研ぎ澄ましている。
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Gotch
Can't Be Forever Young
全曲メジャー・キー、生ドラムを使わない圧の少ないサウンド・プロダクションが、まず聴き手の構えた気分を解きほぐす。"まぁ座りなよ"とでも言われてる気分とでも言おうか。スクラッチが90sのUSインディーやローファイ感を想起させる「Wonderland/不思議の国」もあればオーソドックスなR&Rが新鮮なタイトル・チューンもあるし、ホリエアツシがギター、ピアノ、コーラスで参加した「Great Escape from Reality/偉大なる逃避行」はエクスペリメンタルでありつつ、潔く音を引いた聴感が心地よい。そしてアルバムのラストに配置された「Lost/喪失」が、アルバムの中にあることで、また違う聴こえ方をするのも興味深い。日常の中にある旅もどうしようもない諦念も怒りも、声高じゃない分、より細胞に染みわたる。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
フィードバックファイル2
シングルのカップリングやアルバム未収録曲の編集盤である『フィードバックファイル』第2弾。アルバムやシングルの表題が音楽的なイノベーションを前向きに背負う位置づけにあるとすれば、このシリーズは必然的に普遍的で無防備な楽曲が揃うことになるのではないだろうか。中でも今回、胸に深く刻まれるのは震災直後、やむにやまれぬ心情でゴッチが命を削りだして書いた曲。記号にしてはいけない3.11、アーカイヴできないあの頃の気持ちが否応なしに思い出される「ひかり」や、この2年のライヴの重要曲「夜を越えて」の存在感。また、昨年のハマスタ・ライヴ日に配信された新曲「ローリングストーン」「スローダウン」に窺える11年目への姿勢。移ろう日々の中でも常に携えていたい気持ちを呼び起こす名盤だ。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
ザ・レコーディング at NHK CR-509 Studio
1曲目の「遙か彼方」での太いベース・ラインが鳴った瞬間の臨場感たるや!メンバー4人での緊張感のあるテイクには、初期のナンバーが持つ心の底から奮い立つようなアジカンならではの音楽の駆動力が、今のアレンジで鳴らされている。また、三原重夫(Perc)、上田禎(Key/Gt)、岩崎愛(Cho)を迎えた7人編成での「新世紀のラブソング」など、オリジナル録音の再現ではない新たな解釈は、合奏の歓びが(もちろん、シビアさも含めて)横溢。奇しくも最新曲「今を生きて」のタイトルが象徴的だが、ライヴ・レコーディングとはまさにそれ。そしてその臨場感を削がず、美化せず、ただクオリティの高い音像として定着してくれたことに感謝したい。メンバーはもちろん、楽器やアンプやエフェクターの息遣いが聴こえる。
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V.A.
NANO-MUGEN COMPILATION 2013
ASIAN KUNG-FU GENERATIONが主催するNANO-MUGEN CIRCUIT 2013に出演する全アーティストの楽曲を収録したコンピレーション・アルバムがリリース。アジカンの楽曲「Loser」は、BECKの同名曲の日本語カヴァーだ。歌詞は日本語訳ではなく、原曲が綴る"負け犬"を、後藤正文が2012年の日本版として新たに描いている。その中には"海辺で燃え続ける夢の切り札""膨張する正義"など、最初から最後まで意味深なワードが並ぶ。後藤のポエトリー・リーディング風のラップはそれを軽やかに届けるが、内にこもる怒りはBECKのそれを彷彿させる。全15アーティストの提示したい色が明瞭に出た楽曲たち。現代の日本に鳴り響く芯のある音楽を、この1枚で楽しめるはずだ。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
今を生きて
アルバム『ランドマーク』から約半年のインターバルでリリースされたシングルは、映画『横道世之介』の書き下ろし主題歌。長崎から上京したばかりのお人よしの大学生である主人公とそれを取り巻く青春物語である『横道世之介』ワールドに寄り添うあたたかいナンバーだ。喜びや哀しみが漂う日常的な風景が描かれた歌詞と、気張らず軽やかに鳴り響くサウンドは、人間が持っている自然体の力強さを感じさせる。後藤正文のファルセットは大切な人に優しく手を振るようなやわらかさで、聴いているこちらも自然と笑顔になっていた。"生きている"という事実を素直に喜びたくなる。タップ・ダンスのようにたくましく躍動的に耳を刺激するピアノの音色が印象的なc/w「ケモノノケモノ」も必聴。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
ランドマーク
3.11以降、社会的な発言や行動をとってきた後藤正文が放つ言語、そしてバンド・サウンドの現在が注目される本作は、まさにこの間、彼らが体験してきた逡巡や希望や疑問が、シンプルで純度の高い表現で結晶した力強い内容。浮遊感とトライヴァルなビートが交錯する「AとZ」、アジカンらしさを2012年にアップ・デートしたような「それでは、また明日」、後藤のスポークン・ワーズが諦観と希望を行き来する樣がリアルな「マシンガンと形容詞」後戻りできない事実を認めつつ、だからこそ日常の愛おしさが際立つ「アネモネの咲く春に」など全12曲。表現に正解も不正解もないが、今年発表される作品として、何かしらの感銘や反応をリスナーに起こす作品。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
マーチングバンド
鳴らす足音。息を吹き込み、力強く叩きながら、鳴らされる沢山の楽器。一歩ずつ前進する、前へ前へと突き進む姿を、行進する吹奏楽団と形容した本作は、迷ったけれど、苦しいけれど、それでも前へ進んでいこうと強く決意し歩み出した者の歌だ。そして今、後藤正文(Vo&Gt)が、どうあろうとしているのかがよく分かる。"希望を掲げよう""ささやかな光を"というように、希望を灯そうという想いが能動的な言葉たちから読み取れる。歩みを止め、躊躇することはいくらでも出来る、その迷いや弱さを消せぬことは認めた上で、"それでも僕らは息をしよう"と歌う。そうやって前進していく言葉たちは、一度も振り返らず、一度も後退しないまま、最後まで"行け"と想いを貫き通す。後藤の言葉、その伝えようとする想いは、僕らの心目がけて一歩踏み出した。
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V.A.
ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN COMPILATION 2011
アジカン企画&主催の夏フェス"NANO-MUGEN FES."も今回で9回目(ツアー形式だった「NANO-MUGEN CIRCUIT2010」を含めると10回目)。WEEZERやMANIC STREET PREACHERSをヘッドライナーに、BOOM BOOM SATELLITES、the HIATUS、若手注目バンドねごと、モーモールルギャバンなど、洋邦共に相変わらずの豪華ラインナップ。出演バンドの楽曲が1曲ずつ収録されているコンピレーション・アルバムは、今作で5作目。そして、今回収録されているアジカンの新曲は2曲。チャットモンチーの橋本絵莉子(Vo&Gt)を迎えた「All right part2」は、後藤と橋本の気だるい歌い方と熱が迸る歌詞のコントラストが鮮やかで、高揚感に溢れたギター・リフとメロディも力強く鳴り響く。ユーモラスなあいうえお作文、男性の言葉で歌う橋本の艶とレア感も思わずニヤついてしまう。東日本大震災時の東京を描いた「ひかり」は、人間の醜い部分や絶望感にも目を逸らさず、物語が淡々と綴られている。言葉をなぞる後藤の歌に込められた優しさと強さは、当時の東京を克明に呼び起こしてゆく。生きることが困難な時もあるだろう。だが"オーライ"と口ずさめば、ほんの少し救われる気がする。音楽の持つ力を信じたい――改めて強くそう思った。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
マジックディスク
Track.1「新世紀のラブソング」、Track.2「マジックディスク」で幕を開けるこのアルバムは、新しい時代をポップにしていこうという意志によって貫かれている。「新世紀のラブソング」や「迷子犬と雨のビート」でみせたように様々な新機軸がありながらも、従来のアジカン・サウンドがまた新たな次元に到達している。これまで以上に軽やかなフィーリングがとても新鮮だ。2000年代の閉塞感から抜け出し、新たな10年をどう塗り替えていくか。それは結局、個々の生活の中に、個々の思いの中にしかない。その意志の強さが徹頭徹尾貫かれる『マジックディスク』。音楽が持つ魔法の力をもう一度信じよう。きっと10年後にこのアルバムが2010年代の日本のポップ・ミュージックにとってターニング・ポイントのひとつになっているはずだ。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
ソラニン
4月に公開される映画『ソラニン』の主題歌となるニュー・シングル。昨年リリースされたシングル「新世紀のラブソング」は、これまでのアジカンの言語感覚をもう一歩推し進める形で新たなスタンダードを提示する挑戦的な曲だったが、今回はこれぞまさにアジカンと言うべき王道のスタイル。起承転結のはっきりした展開で、アジカンらしいフックの効いたメロディがドライヴしていく。今回は、『ソラニン』の原作者浅野いにおが手がけた歌詞にメロディをつけるというコラボレーションという形態をとっている。新機軸に挑むことと王道と呼べるスタイルで楽曲を更新していくことが両輪となって、アジカンというバンドをさらに前進させ続けるという事実を示す一曲。カップリングには、映画用に新たにミックスされた「ムスタング」を収録。
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ASIAN KUNG-FU GENERATION
新世紀のラブソング
1年2ヶ月の創作活動を経た後にリリースされるアジカンのニュー・シングルは、二つのメイン・メロディが交錯し、歌うというよりは呟きを発する前半から、1オクターブを自在に操りながらも、朗々と力強いメッセージを発する後藤の歌が、曲を聴いた何時間後も頭に残って離れることがない。これまでのアジカンらしさは決して失われていないながらも、確実に新機軸を打ち出しており、まだまだ音楽に対する意欲が彼らの中で漲っていることを感じる。そしてそこには、様々なバンドが通過する迷走感は微塵もなく、ファンの期待に応えながらも新しい感動を投げかける、とっても素晴らしい曲なのだ。カップリングの「白に染めろ」も、力強さに満ち溢れたナンバーだ。12月からは全国ツアーが始まるが、新世紀を迎えた彼らの勇姿を、とくとこの目に焼き付けたい。
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ASOBI SEKSU
Fluorescence
『Fluorescence』=蛍光。目を劈くような刺激の強い奇抜な蛍光色と言うよりは、漢字をそのまま訓読みにした“ホタルビカリ”の方がこのアルバムのイメージによく合致する。メンバーも自分達の音楽を“シューゲイザーというよりスカイゲイザー”と語っている通り、晴れやかな光を感じさせる空から煌びやかな音の滴が降り注ぐようである。浮遊感と力強さのあるYuki Chikudateの歌声と美しいメロディは、聴く者の意識を夢の世界へ颯爽と連れ去っていく。気持ち良いのにそこはかとなく狂気的。川の流れのように心地の良い英語詞と躍動感のある日本語詞のコントラストは他では味わえないインパクトに溢れている。極上のひねくれドリーム・ポップ・ワールドに酔いしれて溺れるのも悪くない。
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ASP
Hyper Cracker
BiSHらが所属するWACKの7人組グループ ASPがメジャー・デビュー。これまでパンクやガレージ・ロックを軸にしてきた彼女たちだが、本作の表題曲は、ハイパーポップを踏襲して新境地で魅せる楽曲だ。プロデューサー/DJのYohji Igarashiが楽曲プロデュース/サウンドメイクを務め、作詞作曲はODD Foot WorksのPecori(Rap)が担当し、新たなASP像を創造。心地よくグルーヴィなサウンドと、これまでの楽曲で培ってきたエモーショナルな歌唱の融合を個性として光らせた。オルタナティヴ・ロック調の「Why don't you KiLL me??」、再録曲「A Song of Punk 2022」で"らしさ"を失っていないことを提示しているのも好印象だ。次回作にも期待。
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THE ASPHODELLS
Ruled By Passion, Destroyed By Lust
DJ/プロデューサーのAndrew Weatherallの最新プロジェクトがこのTHE ASPHODELLS。インディー・ダンス・ユニット、BATTANTに所属し、ロンドンやドイツの名門クラブを筆頭にヨーロッパ中でプレイする予定のTimothy J. Fairplayを今回のパートナーに選び、原点回帰とも言える純粋なエレクトロニック・サウンドを作り上げた。重いビートにしなやかなで妖艶なメロディが乗っかり、時折ヘヴィ且つサイケデリックに鳴り響くギター・サウンドも実に印象的だ。ロックとダンス・ミュージックのクロスオーバーを実現してきた彼だからこそ行き着いた、エレクトロニックとサイケデリックの見事な融合。飽和状態のダンス・ミュージックに新たな始まりを予感させる1枚だ。
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A SUNNY DAY IN GLASGOW
Ashes Grammar
USはフィラデルフィア出身のASDIG。ファースト・アルバム『Scribble Mural Comic Journal』を発表すると、Pitchforkなどで高い評価を得た。その後、3人だったメンバーが倍増(!)し6 人編成に。そして完成された本作は、煌くようなサウンドスケープと、打込みのビート、幾重にも折り重なるヴォーカル、コーラスワークが美しい、ドリーミーなシューゲイザー・サウンド。M83にも通じるその美しいフィードバック・ノイズとエレクトロの融合が生み出すその音は、踊りながら昇天してしまいそうな心地よさを持っている。また、アルバムとしても、22 曲収録ながら、1分台の曲も多数あるという、リズム良く聴き通せる構成になっているところも素晴らしい。
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ATARI TEENAGE RIOT
Reset
パンクとテクノを荒々しく引っ掴んでフロアに投下、爆発させ、ミニマムだが凶暴性抜群のサウンドを背負い、鬼の形相で世相を斬り、時に実力行使のゲリラ・パフォーマンスを繰り広げ90年代を疾走したATR。2011年に復活を遂げた彼らが、この『Reset』でさらなる進化を遂げている。Alec Empire、Nic Endoに、ロンドン出身のRowdy Superstarが加わった新体制で、掲げた拳をますます高く振るっている。丸くなんてなりゃしない。やっぱり怒っている。"お前の人生を生きてるか"とエネルギー過多にぶちあげて、目を見開かせるようなパンチあるサウンドで耳をつんざき、激しいビートで体を突き動かす。Alecは言う、音楽は憎しみよりも早く広まる。それをここまで直球で音にするバンドは、やっぱり他にいない。
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Marmalade butcher / ATLANTIS AIRPORT
Rembrandt Rays
リーダーのにえぬによる宅録音源をベースに、超絶テクニックで立体化した音楽を聴かせるインスト・バンドMarmalade butcherと、リーダーのy0denを中心に実験的音楽をキャッチーなポップスに変換して表現するバンドATLANTIS AIRPORTによるスプリットCD。他アーティストと交わることがなさそうな孤高な印象のコンポーザーふたりによる、相手のバンドをビンビンに意識しているような研ぎ澄まされた楽曲は、1曲1曲がお互いへのメッセージであり、挑戦状。「降下する都市」ではATLANTIS AIRPORTのsonezaki(Vo)がマ肉サウンドの中で普段と違う歌声を聴かせている。ただ単に両バンドの曲を持ち寄っただけではないクオリティで表現されたこの1枚は、結果的に異才同士の邂逅へと繋がったようだ。
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ATLAS SOUND
Logos
DEERHUNTERのヴォーカル、Bradford Coxによるソロ・プロジェクトATLAS SOUNDの新作『Logos』。DEERHUNTER来日公演時に観たATLAS SOUNDのライヴは、美しさと同時に、刹那的な危うさすら漂うものだった。ループを多用した、溶けてなくなりそうなサウンド・スケープと、Bradfordの儚い歌声が生み出す、無垢なポップネス。ライヴの印象と本作が大きく異なるのは、穏やかなメロディとドリーミーな音に眩い煌きが溢れていること。「ここではないどこか」ではなく、「ここでしかない」風景に寄り添いながら、イマジネーションのさらに奥へと導かれるような、ピュアなベッドルーム・ポップ。DEERHUNTERとはまた違う魔法がここにはある。
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ATMOSPHERE
Mi Vida Local
USのアンダーグラウンド・ヒップホップ・デュオの新作を聴いて、ジャンルに拘泥せず、むしろ哀愁に満ち、ハードボイルドで洗練された普遍的な作品なので広く聴かれてほしいと感じた。1989年結成というキャリアを持ち、メロウ・グルーヴな「Sunshine」など、曲の良さで日本にもファンを持つMCのSlugとDJ/プロデューサー Antのふたり組。今作は"Mi Vida Local=俺たちの現地生活"と題され、決して明るく緩いムードはない作風から、彼らの地元ミネアポリスのサウスサイドもアメリカの混沌の中にあることが察せる。ユニークなのは、今やラップ・ミュージックでほぼ聴けないギター・サウンドをブルージーな感覚で多用していること。ピュアに音楽に対峙する彼ららしい。
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ATOM TM
HD
細野晴臣とのコラボレーション経験も持つドイツの電子音楽家、Uwe Schmidtの、ATOM TM名義での新作。2月に新作をリリースしたばかりのJamie LidellもTrack.3にヴォーカルとしてゲスト参加。音楽的には実験性の高いエレクトロニック・ミュージックなのだが、耳障りはかなりポップ……というか、キュート。ビートも、上音も、基本的には極端に上がったり下がったりもせず、アルバム全体的に一貫したトーンを保っているが、時折、パワフルな衝動性や人を食ったようなユーモアが顔を出す。Track.4などはノイジーでロッキンなアグレッシヴさがあるし、THE WHOの名曲「My Generation」をエレクトロに再構築したTrack.8なんて、かなりの飛び道具的な面白さ。こういうアルバムは、何度聴いても飽きが来ない。
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Attractions
POST PULP
16年結成の福岡の4人組がいよいよメジャー・デビュー。いきなり全11曲(初回盤はボーナス・トラックを1曲追加)のアルバムというところが頼もしい。しかし、配信も含め精力的にリリースを重ねてきたバンドだ。彼らに言わせれば、曲ならいくらでもあるぜということなのだろう。R&Bやヒップホップをバックボーンとしながら、そのダンサブルなロック・サウンドからは、音楽の聴き方や作り方がジャンルという縛りから解放され、なんでもありになった90年代のシーンの匂いがぷんぷんする。英語の歌にいつの間にか日本語が交じる歌をはじめ、そのミクスチャー感覚は現代のバンドらしい洗練も感じさせるが、バンドの根っこにはタフさやガッツも窺える。バンド・シーンで大暴れしてくれるんじゃないかと期待している。
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Aureole
Spinal Reflex
歴史上に名を残す音楽作品には共通することがある。それは、THE VELVET UNDERGROUNDの1stアルバムや、近いところでいうならRADIOHEADの『Kid A』、THE STROKESの『Is This It』のように聴く者の、そしてその時代における価値観を大きく変えてしまう力があるという点だ。この大きな命題に6人の音楽家集団Aureoleは4枚目のアルバム『Spinal Reflex』で挑んだ。これまでのポスト・ロック/エレクトロニカという画一的なカテゴライズと内向的な世界観から1歩踏み出し、ファンクやベース・ミュージックのビートにある肉体性を追求した。そのうえで、今作は"歌モノ"としての完成を目指している。ここで鳴らされるのはまだ見ぬ音楽の未来か? あらゆるジャンルをクロスオーバーする意欲作。
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AUSTRA
Hirudin
カナダはトロントのヴォーカリスト兼プロデューサー、Katie Austra Stelmanisによるプロジェクトの4thアルバム。タイトルはヒルが吸血の際に分泌する抗凝固剤を指していて、中毒的な関係のメタファーになっているのだとか。Katieのオペラ歌唱を用いた歌声と、ポップ~エレクトロニカを横断するサウンドが織り成すサウンドスケープは神秘的な美を構築していて、誰かのもとを離れる恐怖を歌ったTrack.1から、不思議な作品世界へと聴き手を引きずり込んでいく。揺蕩うようなビートが心地よいTrack.5、子供の合唱がイノセントな雰囲気を醸し出すTrack.8などを経て、シンセとコーラスで浄化されるようなTrack.11でクライマックスを迎える流れも見事。
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