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DISC REVIEW

A

Mi Vida Local

ATMOSPHERE

Mi Vida Local

USのアンダーグラウンド・ヒップホップ・デュオの新作を聴いて、ジャンルに拘泥せず、むしろ哀愁に満ち、ハードボイルドで洗練された普遍的な作品なので広く聴かれてほしいと感じた。1989年結成というキャリアを持ち、メロウ・グルーヴな「Sunshine」など、曲の良さで日本にもファンを持つMCのSlugとDJ/プロデューサー Antのふたり組。今作は"Mi Vida Local=俺たちの現地生活"と題され、決して明るく緩いムードはない作風から、彼らの地元ミネアポリスのサウスサイドもアメリカの混沌の中にあることが察せる。ユニークなのは、今やラップ・ミュージックでほぼ聴けないギター・サウンドをブルージーな感覚で多用していること。ピュアに音楽に対峙する彼ららしい。

HD

ATOM TM

HD

細野晴臣とのコラボレーション経験も持つドイツの電子音楽家、Uwe Schmidtの、ATOM TM名義での新作。2月に新作をリリースしたばかりのJamie LidellもTrack.3にヴォーカルとしてゲスト参加。音楽的には実験性の高いエレクトロニック・ミュージックなのだが、耳障りはかなりポップ……というか、キュート。ビートも、上音も、基本的には極端に上がったり下がったりもせず、アルバム全体的に一貫したトーンを保っているが、時折、パワフルな衝動性や人を食ったようなユーモアが顔を出す。Track.4などはノイジーでロッキンなアグレッシヴさがあるし、THE WHOの名曲「My Generation」をエレクトロに再構築したTrack.8なんて、かなりの飛び道具的な面白さ。こういうアルバムは、何度聴いても飽きが来ない。

POST PULP

Attractions

POST PULP

16年結成の福岡の4人組がいよいよメジャー・デビュー。いきなり全11曲(初回盤はボーナス・トラックを1曲追加)のアルバムというところが頼もしい。しかし、配信も含め精力的にリリースを重ねてきたバンドだ。彼らに言わせれば、曲ならいくらでもあるぜということなのだろう。R&Bやヒップホップをバックボーンとしながら、そのダンサブルなロック・サウンドからは、音楽の聴き方や作り方がジャンルという縛りから解放され、なんでもありになった90年代のシーンの匂いがぷんぷんする。英語の歌にいつの間にか日本語が交じる歌をはじめ、そのミクスチャー感覚は現代のバンドらしい洗練も感じさせるが、バンドの根っこにはタフさやガッツも窺える。バンド・シーンで大暴れしてくれるんじゃないかと期待している。

Spinal Reflex

Aureole

Spinal Reflex

歴史上に名を残す音楽作品には共通することがある。それは、THE VELVET UNDERGROUNDの1stアルバムや、近いところでいうならRADIOHEADの『Kid A』、THE STROKESの『Is This It』のように聴く者の、そしてその時代における価値観を大きく変えてしまう力があるという点だ。この大きな命題に6人の音楽家集団Aureoleは4枚目のアルバム『Spinal Reflex』で挑んだ。これまでのポスト・ロック/エレクトロニカという画一的なカテゴライズと内向的な世界観から1歩踏み出し、ファンクやベース・ミュージックのビートにある肉体性を追求した。そのうえで、今作は"歌モノ"としての完成を目指している。ここで鳴らされるのはまだ見ぬ音楽の未来か? あらゆるジャンルをクロスオーバーする意欲作。

Hirudin

AUSTRA

Hirudin

カナダはトロントのヴォーカリスト兼プロデューサー、Katie Austra Stelmanisによるプロジェクトの4thアルバム。タイトルはヒルが吸血の際に分泌する抗凝固剤を指していて、中毒的な関係のメタファーになっているのだとか。Katieのオペラ歌唱を用いた歌声と、ポップ~エレクトロニカを横断するサウンドが織り成すサウンドスケープは神秘的な美を構築していて、誰かのもとを離れる恐怖を歌ったTrack.1から、不思議な作品世界へと聴き手を引きずり込んでいく。揺蕩うようなビートが心地よいTrack.5、子供の合唱がイノセントな雰囲気を醸し出すTrack.8などを経て、シンセとコーラスで浄化されるようなTrack.11でクライマックスを迎える流れも見事。

Oversteps

AUTECHRE

Oversteps

90年代、00年代において、常に飽くなき実験精神を実践してきたテクノ・ユニットAUTECHREによる最新作。僕は、賛否両論が分かれた2000年代に発表されたアルバムについては、正直あまりよく分からなかった人間だ。聴いていて、逃げ場がないような気分になってしまった記憶がある。その頃のAUTECHREのストイックな実験精神が辿り着いた無機質で抽象的な音はここにはない。この新作では、アンビエント的な要素も感じられる音の美しさが何よりも重要なポイントとなっている。一音一音、そして広く使われる空間に温もりと艶が満ちている。(僕が知る中では)これまでのAUTECHREの中で最も美しいアルバム。当時の彼らについていけなかった僕のような人には、是非聴いてもらいたい。

Self Help for Beginners

AUTOKRATZ

Self Help for Beginners

1stアルバム『Animal』で世界中のダンス・フロアに新たな風を巻き起こしたロンドン発シティ派エレクトロデュオ、autoKratzの2ndアルバム。しかも今作はPRIMAL SCREAMのAndrew Innesが参加し、ギター・サウンドが切れ味抜群なビートと融合し問答無用にアガれる仕上がりになった。ソリッドな電子音が突き刺さるダンス・アンセムだけれど度肝を抜かれる展開も見せる曲構成からは、既存のものをぶっ壊したいというエネルギーが伝わり、その根底にはロック・スピリッツも感じる。初期衝動が詰まったデビュー・アルバムで注目されるアーティストは多いが、続く2ndで1stを上回り、更なる進化を遂げて想像をはるかに超えるような作品を世に出すことは難しい。しかし、彼らはそれをやってのけた。

Animal

AUTOKRATZ

Animal

KITSUNEが送り出すUKのエレクトロ・ユニットAUTOCRATZ。既に、PRIMAL SCREAM「Swastica Eyes」のカヴァーやシングル群が話題を集めていたAUTOCRATZが、いよいよアルバム・デビューを果たした。秀逸なシンセ使いが光るアッパーなロッキン・エレクトロが並ぶが、アルバム発表前のシングルに較べると、ヴォーカル・トラックも多く、キャッチーになった印象。ハードなトラックとDavidDのどこか憂いのあるヴォーカルの対比も面白い。日本盤には「Stay The Same」の80kidz Remixも収録。それにしても、NEW ORDERがKISSをカヴァーしたような「Always More」のメロディ・ラインはギャグなのか、マジなのか。気になる。

Truth Or Dare

AUTOMATIC LOVELETTER

Truth Or Dare

2007年フロリダ州にて結成されたAUTOMATIC LOVELETTERのデビュー・アルバム。ライヴの度にその注目度を高めている彼ら、ヴォーカルJulietはその圧倒的な存在感から、既に多くのバンドからの熱いラヴ・コールを受けているという。日本ではPUNKSPRING 2011への出演も決定するなど、勢いづいているこのバンドは、やはり紅一点のJulietにつきる。強くも伸びやかな声には迫力と女性的なしなやかさがあり、彼女が歌うその先には広く壮大な景色が広がっていく。そして、少しかすれるハスキーヴォイスが最高にセクシー。正面きってロックする潔さと風格はCourtney Loveのようでもあり、現在のガールズ・ロック・アイコンの中にはいない新たなヒロインの誕生だ。

Ice level

AVA LUNA

Ice level

ブルックリンを拠点に活動する男女混合バンドAVA LUNA。ロック、R&B、ヒップホップ、ファンクなど様々なジャンルを混ぜ合わせたサウンドは、一度聴いたら病み付きになること間違いなし。女性3人のコーラス・ワークは、DIRTY PROJECTORSを思い起こさせる。複雑に刻まれたビートと透明感のあるコーラスが絶妙に組み合わさり、異空間へと連れて行ってくれるが、どこか現実の汚さを感じされる、なんとも不思議な感覚に陥る。リズムに合わせ体を揺らすというより、メンタルに訴えかけ感情的な部分を掴まれることにより、身動きが取れないほど集中してしまう。一曲ずつバンドの色を変えてくるので、飽きることのない長く聴ける一枚である。

Dune

avengers in sci-fi

Dune

前作『Unknown Tokyo Blues』より約2年ぶりにリリースされるフル・アルバムの舞台は情報社会の果てに荒廃した近未来の世界だが、それは空想でもなく何でもなく、私が生きる現代の成れの果てだ。実は中身は空洞なのに上っ面だけで繋がる人と人との関係性に警鐘を鳴らす、いや、怒りをぶつけるように鳴らされる全10曲。それらは、一時の快楽ばかりを求め即時性と瞬発力だけが強くなるエンターテイメントへのアンチテーゼと言えるだろう。あなたはこれをどう受け取るだろうか。Czecho No Republicのタカハシマイがゲスト・ヴォーカルとして参加したTrack6.「Still In A Dream (feat. Mai Takahashi)」も収録。

Disc 4 The Seasons

avengers in sci-fi

Disc 4 The Seasons

前作『dynamo』から約1年半振りとなるニュー・アルバム。彼らの持ち味でもあるアッパーでハイテンションなグルーヴはさらに磨きがかかり、先行シングル『Sonic Fireworks』でみせたドラマティックな世界感を押し広げたメロディアスでとても美しい作品でもある。特に今作は四季をテーマに制作され、楽曲それぞれ変化を持ちながらミッド・テンポの曲もエネルギッシュなナンバーもアルバムとしてひとつの世界感に統一されている。独特のダイナミズムに満ちたソング・ライティングも健在で、急速なダンス・ビートとソリッドなギター・サウンドのバランスも今まで以上にしなやか印象。新たなアベンズのSeasonsを感じさせる充実の傑作。

Sonic Fireworks

avengers in sci-fi

Sonic Fireworks

avengers in sci-fi――不思議なバンドだ。無数のエフェクターを駆使し、有象無象を飲み込んできらびやかな世界を見せてくれる。昨年リリースされたシングル『Delight Slight Lightspeed』やアルバム『dynamo』は、アップテンポでまばゆい探究心にあふれており、音に触れたものを一瞬で違うステージへ連れ出すような、弾けるポップ性があった。しかし、約1年2カ月ぶりにリリースされる本作は、順序立ててメロディを見せることでゆっくりと新しい世界が体の中に満ち、3人が進む道を一歩一歩踏みしめることができる。爽快なメロディに見え隠れする焦燥、絶望と希望が、今まで以上に輝きを放つのだ。そして、いつか訪れる"エンディング"の存在を認めながら、永遠を求める矛盾が形なきものの強さを思わせてくれる。avengers in sci-fiという宇宙に連れ出すための新たな道標だ。

dynamo

avengers in sci-fi

dynamo

メジャー第一弾となる今作で彼らの新章が幕明ける。よくよく考えてみると、この複雑で四方八方から放たれる様々なエフェクターを駆使した、サウンドを3 人で鳴らしていることがすごいのだ。機械的な音のなかにも確かに魂が宿っていて物語がある。リアルでありヴァーチャル、そのへんの感覚が実に現代的。今作は、よりリズムが重く、壮大なスケールを感じさせる。その強烈すぎる独特のサウンド故に、あまり注目されない歌詞は意外に切なかったり......。宇宙空間をさまよっているような未来型サウンド。dynamo=発電機というアルバム・タイトルが意味する通り、エンジン全開にスピードをグングンあげて空までぶっ飛ぶ勢い。これからのavengers in sci-fi はますますおもしろくなると思う。

Delight Slight Lightspeed

avengers in sci-fi

Delight Slight Lightspeed

ちょっと尋常じゃない数のエフェクター。まるで踊っているかのように音が創られていく。重力を感じさせないスピード感が、テンポよく聴く者を現実から自分たちの次元へと引き上げる。3人で創りだしているとは思えないほどに、様々な形の音が飛び交っている。そして、あたかも音が目に見えるように、ぐるぐると回転し、大きくなったり小さくなったり伸縮を繰り返す。全方向から音に襲われるような不思議な感覚を覚えるのはそのためだろう。一度その音に体を貫かれれば、体が彼らの音を覚えてしまう。そして、無機質なキラメキに溺れ、高速で表情を変えるポップさの中に恍惚とするのだ。超速で世界を書き変えていくavengers in sci-fi。その高速な音に乗れば、近未来を垣間見ることさえも可能になるのだ。

True

Avicii

True

R&Bシンガー、Aloe Blaccの歌声をフィーチャーした「Wake Me Up」の大ヒットによって、EDMの範疇を越えた注目を集めているAvicii。現在24歳というスウェーデンのDJ/プロデューサーは、このデビュー・アルバムをきっかけに、より多くの、そしてさらに幅広いリスナーにアピールするに違いない。ポップな歌を聴かせるアーティストが多いEDM界において、Aviciiがここで目指したのは単にポップなだけではない、より味わい深い歌の追求。Aloe Blaccの他、Audra Mae、Dan Tyminskiといったルーツ・ミュージック界隈のヴォーカリストの起用からも彼の狙いは明らかだろう。これがEDMの最進化系か?いや、ここでは敢えて現代のソウル・ミュージックと紹介してみたい。

Love Sux

Avril Lavigne

Love Sux

みんなこのAvril Lavigneを待っていたんでしょ? というような、パンク・ロック・プリンセスの帰還を高らかに告げる最高の1枚ができあがった。これぞ、まさに私たちのAvril! それにしても、相変わらずかわいくて本当にビックリ。昨年のポップ・パンク・ド直球なWILLOWとのコラボレーションも話題となった彼女だが、今作でもそのパワフルなスタイルは継続中。前作は、闘病からの復帰ということもあり、ロックにとらわれない表現力が光る作品ではあったが、やっぱりロック・ファッションに身を包んだAvrilが元気にステージを跳ね回る姿が見たかった。Z世代のY2K懐古ブームも盛り上がる今、2000年代ポップ・パンク・ブームの再燃もじわじわと広がってくる予感。

Head Above Water

Avril Lavigne

Head Above Water

言わずと知れたポップ・ロック・シーンの歌姫 Avril Lavigneが、約5年ぶりとなる新作をリリースする。音楽シーンの表舞台から遠ざかっていた間、難病と闘っていたことを告白した彼女だが、今作にはそんな彼女の生命力が満ち溢れており、復活シングルともなった「Head Above Water」をはじめ、生きるためにもがき闘う姿が力強く描き出されている。また、「Tell Me It's Over」のようなソウルフルな楽曲や、ポップに振り切った「Dumb Blonde」などでは、ロックやバラードにとどまらない表現力の豊かさや、幅広い歌唱アプローチといったテクニックも発揮。キュートなロック・プリンセスは、人生の荒波を乗り越え、貫禄たっぷりの女王へと進化を遂げたようだ。

Get Set

Awesome City Club

Get Set

「勿忘」のロング・ヒットに始まり、"NHK紅白歌合戦"初出場や日本レコード大賞"優秀作品賞"のほか、多くの音楽賞を受賞したAwesome City Clubの2021年。3rdアルバムのリリース後も、ドラマOPとなった爽快なまでにポップな「夏の午後はコバルト」などシングルを発表、11月より「you」など7作連続で楽曲配信するというアウトプットが続いた。そのいずれもがバンドの芳醇な季節を物語っている。深みを帯びながら、常にフレッシュなオーサム像を見せるひとつのパッケージが、このニュー・アルバム。atagi、PORINの声や歌のグルーヴでオーサム印になるからこその、Track.1でのダイナミズムや和的なTrack.9など、音楽的に自由度高く、クリエイティヴに遊んでいる印象で楽しい。

Grower

Awesome City Club

Grower

前作『Grow apart』そして今作『Grower』と、オーサムは軽やかに音と戯れ、曲が芽生え構築していく過程を慈しみ、自分たちの音楽の可能性や、自由度の高さを楽しんでいる。生まれた曲が求めるままに、そしてその曲が美しく、高らかな音で闊歩していけるように育てている感覚だ。もちろん、3人が培ったセンスを生かしての子育てならぬ曲育てだから、都会的で様々なカルチャーを吸収したミクスチャー感があり、また同時にタッグを組んだアレンジャー陣の多彩なアイディアも備わっている。自由奔放だが、こだわりや奥行きは相当に深い。そんな贅沢なアルバムだ。映画のインスパイア・ソングとして広がりを見せる「勿忘」も、叙情的なメロディや歌が際立つが、繊細且つトリッキーなトラックとのマッチングの妙がある。

Grow apart

Awesome City Club

Grow apart

デビュー5周年を迎えた新生Awesome City Clubのアルバム。連続配信された「アンビバレンス」、「ブルージー」、「バイタルサイン」で提示されたように、アルバムは新たな試みに満ち、同時に気負うことなく洗練された極上のポップスを生み出した。バンドだからできることよりも、この4人が想像し紡ぎ出す物語や音の世界観を大事に、自由度の高いアプローチで音楽と戯れている。エレクトロなら徹底してその手法でと、曲が持つプリミティヴな輝きを捉えた。音像的な変化はあるが、耳を刺激し、且つ肌になじむエアリーなポップさは不変。久保田真悟(Jazzin'park)、トオミヨウ、永野 亮(APOGEE)などの編曲者や、作詞のプロデュースでいしわたり淳治が参加し、贅を尽くしたアルバムだ。

TORSO

Awesome City Club

TORSO

ベスト・アルバムを挟んで、男女ツイン・ヴォーカル擁する5人組が初めてリリースする全5曲収録のEP。"不完全でもいい、真ん中の熱いものを失わないで。忘れないで"というメッセージを、"胴体"を意味するタイトルに込めたという。そこにはテン年代のシティ・ポップを奏でる自分たちの"これがド真ん中!"という想いもあるのだろう。90年代のJ-POPに対するリスペクト(というか、再発見?)で、その他のシティ・ポップ勢に差をつけるACCサウンドは、より濃いものになると同時に70'sソウルの影響が窺えるTrack.4「燃える星」でさらなる広がりもアピールしている。新たなる展開の布石。スタジオ・ライヴを収録したメロウ且つムーディなバラード「エイリアンズ」が締めくくるラストもいい感じだ。

Awesome City Tracks 4

Awesome City Club

Awesome City Tracks 4

"Awesome City Tracks"シリーズの最終作である本作では、メンバー全員が作詞もしくは作曲を担当。その結果、2010年代のデュエット・ソング決定版=Track.1「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」を始め、"新しい、でもたしかにこの人たちにしかできない"挑戦が多い。明確なコンセプトを持つがゆえに他のバンドとはまた違う難しさを味わってきた彼らがこの境地に至ったことが嬉しいし、ラストの"ぶつかりあって 傷つけ合って それでも求め合って/未来は百花繚乱"(Track.7「Action!」)というフレーズには感動させられた。5人が手繰り寄せた"自由に生きろ"というメッセージは、日々の見えない鎖からあなたを解放してくれるはず。

Awesome City Tracks 3

Awesome City Club

Awesome City Tracks 3

メンバーのセルフ・プロデュース曲の他、作詞にいしわたり淳治や高橋久美子、LEO今井、サウンド・プロデュースにOvallのShingo Suzukiとmabanuaが参加した曲を収録することにより、かゆいところに手が届くような、"ああ、たしかにこういうの聴いてみたかった!"と唸らされる曲ばかりが集結。共作曲には作家からこのバンドへの敬意がよく表れていて、大胆な革命が起きているというよりかは、もともとあったバンドの素質が他者との関わり合いによって目覚めたという印象だ。自らの音楽を"架空の街、Awesome Cityのサウンド・トラック"と位置づけてきた彼らが、その街を拡張し、人を巻き込み始めたイメージ。こうなると夢は膨らむばかりだろう。今後への期待も高まる。

Awesome City Tracks 2

Awesome City Club

Awesome City Tracks 2

4月の1stアルバムに続き早くも2作目をリリース。"来るべきタイミングで来るべき種類の音が来る"というシーンが連続し、全7曲でなだらかな山を描くような展開に惚れぼれ。"Awesome City Clubとは?"という説明的役割が大きかった前作に対して、飛躍的に自由度が上がった印象である。そしてサウンドだけではなく、例えば「アウトサイダー」ではSNSをテーマに扱うなど、今まで語感重視だった詞のセレクトにも変化が垣間見えた。好奇心で以って変化を楽しむ彼らの姿勢がよく表れたオープンな作品。そのラストを飾る曲の名は「Lullaby ForTOKYO CITY」。5人が生み出した音楽は架空の街を飛び出して、私たちの街にもキラキラと舞い降りる。

Awesome City Tracks

Awesome City Club

Awesome City Tracks

DEERHOOFやTAHITI 80といった海外アーティストとの共演を果たし、各所で注目を集めている5人組、Awesome City Club。これまでSoundCloudやYouTubeを使ってWEB上に音源を公開してきた彼らの、初のフィジカル作品とあって、聴く前から期待が膨らむばかり。わくわくしながら再生ボタンを押すと、洋楽的な譜割りに日本語を語呂よく織り交ぜた、スタイリッシュなシティ・ポップが流れ出す。かと思えば、これでもかというほどにキャッチーなJ-POPがひょこっと現れる。近年のシティ・ポップ・リバイバルとは一括りにできない、洗練されたアレンジ・センスは期待を裏切らないどころか、それ以上だ。架空の街"Awesome City"へと誘われるこの感覚を、ぜひ味わって欲しい。

Few Steps To Heaven (and then...)

AYANO

Few Steps To Heaven (and then...)

Yj(Vo/Gt)を中心に2006年に結成され、メンバー・チェンジを重ねながらも"Art Your Life"を標榜し、プラネタリウムでのVJを迎えたコンサートやヴァイオリニストを2名を招いてのクラシカルな公演、また芸術栄養学士を迎えての"食と映像と音楽の融合"を表現する公演をおこなうなど、比類なき独自性を持って活動を続ける3人組バンドの1stアルバム。バイオリンを加えた編成で綴られている楽曲達はインストゥルメンタルを中心としたもので、メタリックなギターがバイオリンと主旋律を二分している。いわゆる様式美系HR/HM的なテイストが強いが、「heavenly」の様な牧歌的かつ幻想的・壮大なサウンドが本当に表現したい世界なのだろう。全編を通して否が応でも脳内に映像が浮かんできてしまう、想像力を喚起するアルバムだ。

I know, right?

ayutthaya

I know, right?

2年ぶりとなるEPは、藤谷真吾(Gt/1inamillion/SLEEPLESS)、菱谷"ビッツ"昌弘(Dr/HINTO)と作りあげた。名うてのと紹介したい参加メンバーのバックグラウンドというか、活動している界隈は主にオルタナ、エモであるにもかかわらず、収録されている全5曲がロックンロールに聴こえるのは、タイトながらも、閃きに満ちたバンド・サウンドが持つ生々しさと、そこに感じられる歌心によるところが大きい。なげやりにもリラックスしているようにも聴こえる太田美音の歌声の心地よさは、ナルシシスティックな歌が溢れている昨今だからこそ、余計に稀有に感じられる。そんな歌に時に寄り添い、時に掛け合いながら、もうひとつのメロディ・ラインを担うリード・ギターがあまりにも印象的だ。

dejavu

ayutthaya

dejavu

ほな・いこか(ゲスの極み乙女。/Dr)との2ピース・バンド"マイクロコズム"のメンバー、太田美音(Vo/Gt)率いるayutthayaの2nd EPは、静と動が緊張感や感情の変化を感じさせるリード曲「mottainai」をはじめ、オルタナティヴ・ロックとして聴き応え十分な作品に仕上がっている。そこへ、全曲の作詞作曲を手掛ける太田のエモーショナルで伸びのある歌声や、流れるようなメロディがポップス的要素として加えられて仕上がったのが、今作で彼らが掲げた"ネオ・オルタナティヴ・ポップス"なのだろう。磨きが掛かった彼女のポップ・センスが生み出した本作は、疾走感のある「my bad」、胸を締めつけるような歌詞の「chu-ni」など、バラエティに富んだ飽きの来ない1枚だ。

without U

AZKi

without U

VTuber/Vsingerとして、2018年11月に活動開始したAZKi。AZKi WHiTEとしてポップ・チューンを、AZKi BLaCKとしてロック・チューンを発表し、バーチャル音楽ユニットや新世代クリエイターが曲提供&プロデュースをし、AZKi BLaCKではBiSH等の曲を手掛けてきたSCRAMBLES内のユニット、T.S.Iが担うなど、幅広い楽曲を歌ってきた。今作では、さらにバラエティに富んだ曲が並ぶ。シンガーとしての挑戦があり、クリエイター側も音楽的な可能性を広げるようにして、ポップスとしてもゴリゴリのロック且つオルタナティヴな曲でも、いいものを作ろうという相乗効果がある作品。歌唱力の高さプラス、初の作詞作曲に挑戦もした意欲的なアルバムだ。

Steal your heart

a子

Steal your heart

生きることがしんどそうなのは誰より常識に違和感を抱いているからで、そのことを自分なりの言葉とメロディと声で表現すると必然的に歪なポップになる。しかもa子はリスナーとして70年代プログレから椎名林檎から、Billie Eilish、MEN I TRUSTなど、いい意味で雑食。それらのエレメントがこの3rd EPではひとまとまりのニュアンスを生んでいる。初のドラマ・タイアップ曲「あたしの全部を愛せない」に始まり、コラボも実現した佐藤千亜妃が"関ジャム 完全燃SHOW"で取り上げた「太陽」まで全5曲を収録した本作は全編で、よりコケティッシュでセンシュアルな側面を加味した独特のウィスパーとエキゾチックなメロディが、淡いイメージであるにもかかわらず挑発的。生音が混じりながら密室的な音像もユニークだ。