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DISC REVIEW

The Present

静カニ潜ム日々

The Present

2007年に横浜で結成された3ピース・バンドの1stアルバム。ポスト・ロックの影響を感じるシンプルなフレーズ、叙情的なメロディ、透明感のある声。ありきたりな表現しか並べられず恐縮だが、それは真意でもある。目新しさや奇抜さからは無縁。しかし、古臭いわけではなく、きちんと現代に合わせて練られている。誰もが素直に良いと感じるサウンドのアンサンブル。そのバランスは絶妙だ。そして、時折混じるエモーショナルなヴォーカルが心を揺さぶる。頭をからっぽにして彼らの調べに浸ってみれば、音楽ってこんなにも美しかったのだと今更ながらに思い出して涙腺が緩む。沢山の音楽を聴き続けているリスナーであればあるほど、オーソドックスな今作は初心に戻って楽しむことができるのではないだろうか。

EVER SICK

シナリオアート

EVER SICK

"持病"という意味の造語を冠した3年ぶりのフル・アルバム。この世界で生きづらさを抱える人、それをカモフラージュしつつ"普通に"生きる人を指すという。つまり、多くの人にとって感じるものがある作品なのではないだろうか。しかしながら、押しつけがましくはなく、むやみに刺々しいわけでもない。だからこそ、言葉にできない思いにそっと寄り添ってくれる。この3年の間に独立し、自由になったシナリオアートだからこそ描ける、パワフルにもシリアスにも振り切れる豊かな音像。そこに誠実に日々と向き合って生まれたであろう嘘偽りのない言葉が乗り、それをあくまでも平熱の歌声で届ける。曲順の妙も含め、聴き手の気持ちの整理を見守ってくれるような、音楽とリスナーへの愛情たっぷりの力作。

アダハダエイリアン

シナリオアート

アダハダエイリアン

今のシナリオアートのチャレンジングな部分が曲構成にも現れた2曲(「アダハダエイリアン」と「オンリーヒーロー」)、「ホワイトレインコートマン」にも似た、バンドにもファンにとってもこれぞシナリオアートな「アカシアホーム」という、3曲が現状報告の意味も担っている独立後初のシングル。ポスト・ロックと物語的な楽曲の両面を感じさせる構成の多彩さが自由で、6分近い大曲「アダハダエイリアン」。ロックンロール・リヴァイヴァル調でありつつ、ベースはドラマチックという彼ららしさが加味された「オンリーヒーロー」。柔らかなハヤシコウスケのヴォーカル表現や透明感のあるギター・サウンドが、まさに"ホーム感"満載の「アカシアホーム」。驚きと安心感の両方を封じ込め、バンドの状況の良さを伝える好盤。

サヨナラムーンタウン

シナリオアート

サヨナラムーンタウン

アルバム『Faction World』での壮大な音楽の旅を経たシナリオアートのニュー・シングルは、ワクワクするような地メロの助走からサビでパッと解放され、後半にはテクニカルでカオティックなセクションも登場するという、まさに彼らの王道が今の力量で発揮されたナンバー。失うつらさが、ただ切ないだけではなく、そこにそれでも人を愛する力強さが溢れる歌詞も新しい。また、2曲目の「ハローグッバイ」は珍しくギター・ロック色の強いストレートなナンバーでありつつ、そこにお馴染みCHRYSANTHEMUM BRIDGEのドリーミー且つスペイシーなエレクトロ・サウンドが融合しているのも新鮮な聴感をもたらす。加えて、表題曲のハヤシコウスケ、ハットリクミコとの男女ヴォーカル気分が味わえるインスト2トラックも収録している。

Faction World

シナリオアート

Faction World

楽器やブランケット、双眼鏡やランタン......それらすべてが"地球柄"で彩られたジャケット写真のアートワークが示唆しているように、生身の3人が旅をしながら空想も現実の世界も力強く表現していく、そんな頼もしい新境地を開拓した2ndフル・アルバム。世界に合わせて命を落とすぐらいなら、こっちから見限ってやる! と言わんばかりの内容でありながら、曲調は限りなく明るい「ジャーニー」。チャイルド・コーラスが祝祭感を盛り上げる「サンライトハーモニー」、「パペットダンス」のあとには、どこか世界と隔絶されたムードが漂うSF的な「コールドプラネット」に現代のリアリティを感じる。全編が旅の途中のような移動感と、時折覗く無国籍感であっという間にラストの「エポックパレード」へ。時間や気持ちの変化を体験できるアルバムだ。

エポックパレード

シナリオアート

エポックパレード

イントロが鳴った瞬間、これまでのファンタジックなシナリオアートとも、内省的なシナリオアートとも違う人肌感が響き、まず驚かされる。さらに、セカンド・ラインの陽気なビートにも驚かされる。そして新しい旅立ちを彩るような生の管楽器やストリングスは、彼ら3人だけじゃなく、関わる人を楽しく巻き込んでいく"パレード"を表現。しかもそのパレードはむしろ特別な日だけのものじゃなく、些細な喜びを発見し続ける日常こそ、新鮮なものとして祝福しようと歌われるのだ。去年のシナリオアートからはまったく想像できないオピニオン! 加えてチャイニーズ風のメロディと響きの楽しさがループする歌詞がこれまた意表を突くカップリングの「ジンギスカンフー」も、今のバンドのタフさを印象づける。

dumping swimmer

シナリオアート

dumping swimmer

自身の精神世界への"潜水"。プロローグとなるエレクトロニックな「シンカイへ」からコンセプチュアルな作品性に引き込まれる。実質的な1曲目である「シニカルデトックス」は3人の演奏が目に見えるほど削ぎ落とされた音像、タイトだがテクニカルなアンサンブル、そしてゴスかラウドか?と思しき後半の展開まで、どす黒い感情が完成度の高いアレンジで表現される凄みがある。また、生身のファンクネスとシナリオアート流グランジが一体化した「プライドモンスター」も凄まじい。怒涛の展開を経て、ハヤシのモノローグに乗せて訥々と歌われるアウトロの「センカイへ」のあたたかさがアルバム全体を光の差す方向へ束ねていく。タフさと繊細さを同居させた、今のシナリオアートの必然が鳴っている。

talking / ナナヒツジ

KANA-BOONシナリオアート

talking / ナナヒツジ

CDの形態が複数あるのを承知で、できればこのスプリットに収録されているトータル6曲すべて聴いて欲しい。それぐらい両バンドとも楽曲クオリティと新たな挑戦を体感できる。KANA-BOONの「talking」はファンクネスすら感じる16のグルーヴやラップ部分にロック・バンドのケレン味を感じるし、アニメのエンディングにそのヒリヒリした世界観がハマる。シナリオアートの「ナナヒツジ」で聴けるソリッドで急展開する構成も新しい。また2曲目(KANA-BOON「ぬけがら」/シナリオアート「トワノマチ」)にどちらも各々の色合いでセンチメンタリズムを喚起する楽曲を配しているのも聴き比べてみると面白い。そして"すべてがFになる"裏メイン・テーマとも言えそうなKANA-BOONの「PUZZLE」での楽器隊の豊富なアイディアとテクニカルなプレイは嬉しい驚きの連続だ。

Happy Umbrella

シナリオアート

Happy Umbrella

遂に完成された1stフル・アルバム。幽玄且つ煌びやかなアトモスフィアを産むエレクトロ・サウンドに、あたたかみとチャームを加える生楽器の音色、男女混成ハーモニー、さらにはファンキーなほどに肉体的なバンド・グルーヴが組み合わさることで産まれる、聴き手を現実と切り離された夢の中へと誘うような音世界は、もはや圧倒的な完成度。そして本作のタイトルがインディーズ時代からの代表曲「ホワイトレインコートマン」の歌詞から取られていることは、彼らが一貫して掲げ続ける変わらない理想を示している。哀しみの雨からあなたを守る"幸せの傘"――いつだって、彼らは目の前にいるあなたに手を差し伸べる。本作最大の魅力は、雨の止んだあとにあなたが踏み出す最初の1歩を見届けようとする、その優しく大らかな視線にこそある。

Tokyomelancholy -トウキョウメランコリー-

シナリオアート

Tokyomelancholy -トウキョウメランコリー-

シナリオアートの音楽には常に"記憶"というモチーフがある。本作においてそれは"死"、あるいは"子供時代への憧憬"という形で表れている。SEKAI NO OWARIを手掛ける制作チーム"CHRYSANTHEMUM BRIDGE"をプロデューサーに迎え、煌びやかなエレクトロ・サウンドや疾走感のあるシューゲイズ・ギター、そして躍動感のあるダンス・ビートをも飲み込んだサウンドは、彼らの描かんとする"痛みの伴う幻想"を、格段に上がった明度で聴き手の前に映し出す。生きることとは醜く老いること。生きることとは孤独と共にあること。しかしその中で、かつて出会った人やかつていた場所に思いを馳せることは生きるうえでの力になりうる。だって僕らは常に記憶と共にあるから。たまには思い出して、そしてまた戻ってこればいい。

night walking

シナリオアート

night walking

関西出身、男女ツイン・ヴォーカルを擁する3Pバンド、シナリオアートのメジャー・デビュー・ミニ・アルバム。冒頭を飾る「ブレーメンドリームオーケストラ」で歌われる"ここじゃない どこかへ すばらしい 世界へ ぼくと 抜け出そう"というライン。これが本作を、ひいてはシナリオアートというバンドのステートメントを端的に表していると言っていい。何かを振り払うように加速するビート。ギターだけでなく、シンセやストリングスなども多用したサウンドスケープ。すべてが甘美で幻想的。だが、これは単なる逃避主義の音楽ではない。この世界は哀しみに満ちているというシビアな現実認識が根底にあるからこそ、このバンドは想像力と創造力で現実を超えようとする。理想主義で現実に抗う、痛快な新世代の登場だ。

YELLING

柴山一幸

YELLING

アルバムのオープニングは、パワフルでいて洒脱な杉浦琢雄(東京60WATTS)のピアノで幕を開ける「Headway」。柴山一幸の歌とともに、グルーヴィなバンド・アンサンブルがスタートし、眠りについていた物語が目覚めたように動き出し始める。ぶるっとエンジンがかかって、世界がポップに色づき始めるような感覚が味わえるアルバムだ。ゼロからイチを生みだす作業が楽しいと語る、その柴山の頭の中に詰まっているポップ・ワールド、懐かしくも奇想天外な世界観を立体的に仕立て上げたのは、昔からの仲間であるミュージシャンたち。そして、音楽家として互いのツボをくすぐり、刺激し合いながらバンドとしてサウンドを練り上げていくダイナミズムや迫力も、曲のアクセントになった。無邪気さと円熟味があわさったポップ・アルバム。

二歳

渋谷すばる

二歳

ソロ・アーティストとしての活動をスタートした渋谷すばるが、全12曲の作詞作曲、編曲を手掛けた1stアルバムをリリース。フォーク・ロック調の「ぼくのうた」、日本語パンクの影響を色濃く感じさせる「ワレワレハニンゲンダ」、初期衝動の迸るサウンドが気持ちいい「爆音」など、本作には渋谷すばるというひとりの人間の音楽遍歴、そして今の彼が表現したいことが余すところなく詰め込まれた印象だ。音楽と向き合い、やってみたいことを学びながら表現していったのであろうこの1枚。アルバム・タイトル"二歳"を、物事への興味が高まり、なんでも自分でやってみようとする2歳児になぞらえていることも頷けた。なお、作詞センスを感じさせた「来ないで」のショートショート的な展開は、歌詞カードを片手に楽しんでもらいたい。

TAKE CARE

シャムキャッツ

TAKE CARE

Mac DeMarcoやDEERHOOFといった海外アクトとの共演を重ね、日本のインディー・シーンで多くの支持を集める4人組、シャムキャッツ。昨年リリースされた3rdアルバム『AFTER HOURS』は傑作と呼ぶに相応しい作品であった。相変わらずな僕らの何事もない日常を、日々の退屈と憂鬱を、描き出した10篇の愛すべき物語がそこでは綴られていた。ミニ・アルバム『TAKE CARE』はそんな前作の地続きにある作品だ。小沢健二のように詩的な歌詞は一層美しく、アンサンブルは緻密で暖かく、なにより優しく、BELLE AND SEBASTIANを思い起こさせる。特筆すべきは短編小説のようなTrack.1とメロウなTrack.3。何気ない日常と情景が愛おしくて抱きしめたくなってしまう。

ハイパー005

終活クラブ

ハイパー005

前作『終活新布教盤』でメジャー・シーンへの布教を開始した終活クラブが、早くもメジャー2nd EPを発表。掛け声にクラップとライヴ映え要素満載の表題曲「ハイパー005」は、MVもライヴ映像で構成されオーディエンスとの一体感まで映像化、またスラップ・ベースが効いた中毒性抜群の「マイ魔法陣を囲むダンス」はSNSに振付動画をアップする等、踊れるロックを提示する。そんななか「君だったら」では、淡い恋心を思い出すピュアさとロマンチックな美メロが際立つ。そしてラストの「せいのく」は"こんな転調も大嫌いだ"と言い放ちながら転調する大サビのハマり具合が痛快だ。癖のある意味深い歌詞とライヴにフォーカスしたキャッチーさがバンドの"らしさ"として確立されている。

終活新布教盤

終活クラブ

終活新布教盤

"音楽を終わらせる為の音楽"を始めるために結成された終活クラブがメジャー・デビュー。これを機にさらに広く布教していくべく"新"布教盤がリリースとなる。終活クラブらしい痛いところを突く尖った歌詞をキャッチーなダンス・ロックに乗せた「しょうもないなあ」、音数の増減によるコントラストで轟音を際立たせた挑戦的な1曲「詠唱」、ディレイの効いたギター・リフに"2000年代のJROCK"が色濃く薫る「六畳にて」、ピアノの淡々と繰り返す旋律が洗練された雰囲気を纏うミディアム・ナンバー「めぐる」と、振り幅を見せつける全4曲。正体を隠しアイコニックなキャラクターを前面に出すネット・カルチャー的側面を持ちながら、ライヴを意識した踊れるロックを鳴らす、新時代のネクスト・ブレイク筆頭候補のメジャー・デビュー作に注目だ。

終活大布教盤

終活クラブ

終活大布教盤

目を引く意味深なバンド名にポップなキャラクター、少年あああああ(Vo/Gt)の個性的な脱力系ヴォーカルに少しひねくれた歌詞。それでいて夏フェス映えしそうなJ-ROCKを鳴らし、独自の世界観を構築している5人組バンド 終活クラブ。"終活"という一見重たく映る言葉に"悔いを残さないように音楽を最後までやり切る"という熱い思いを込めるひねりの効いたワード・センスは、歌の中でもいいスパイスになっている。チャイナ感漂うサウンドが耳に残るミディアム・チューン「嘘マフィア大暴走」、手拍子や合いの手を盛り込んだキャッチーなダンス・ロック・ナンバー「ハチェットダンス」、ライヴでの大合唱が浮かぶアグレッシヴな1曲「感情とマキシマイザー」に、最後のメロウな横ノリ曲「環状線」では新たな一面も覗かせた1st EP。

NEW POP

シュノーケル

NEW POP

前作『popcorn labyrinth』はアンサンブルにおけるピアノの役割が大きかった作品だが、今回はジャケットにもあるとおり、ギターをフィーチャー。心地よいギターのコード感で聴かせる曲、これまで以上にメロディアスなギター・フレーズやリフを中心にした曲、曲の1/4くらいを占めるギター・ソロ満載のアウトロのセッションなど、70年代のオーセンティックなロックから、サイケな浮遊感や捻れたグルーヴを生むインディー・ロック的アプローチもあり、グッド・メロディとラップでキャッチーに響かせる。このラップ・パートは、よほどハマりのいい楽しさがあったのか、今回一気に4曲で披露。制作初期から様々な変遷を経たというアルバムだが、ハプニングもアイディアもどんどん栄養にした遊びが満載だ。

popcorn labyrinth

シュノーケル

popcorn labyrinth

ソングライターとしての充実感と、プレイヤー、バンドとしての成熟。この、"やりたいこと"と"できること"の両軸が高い位置でシンクロした幸福なアルバムだろう。日本語詞で歌っているバンドではあるけれど、アルバムを聴いて思い浮かべるのは、THE BEATLESや70年代の王道ロック・バンド、JERRYFISH、VELVET CRUSHといった、スタンダードさと捻くれたポップさを持ったバンドたち。ちょっといなたいイメージも残しつつ、創意工夫とポップ・センスで虹色の音世界を紡ぎ出すバンドたちだ。シュノーケルはこのアルバムで、日常と非日常をシームレスに行き来する迷宮的なポップさを、存分に楽しませてくれる。人の心や頭の中を解明するくらい複雑怪奇で、だからこそ面白い。そういうポップスの魅力が詰まっていて、飽きることがない。

EYE

シュノーケル

EYE

2010年に活動を休止し、2014年末のライヴで活動再開を宣言。今年5月にシングル『RESTART/FIND』を発表して、完全復活を果たした3ピース・バンド、シュノーケル。これからへの期待が滲むオープニング曲の、美しく視界が開けていく昂揚感のあるサウンドと、多重コーラスの祝祭的な歌でまず掴まれる。そこからは、グッド・メロディと爽快なギター・サウンドというシュノーケルらしさを踏襲しつつ、大人のビター&スウィートとも言うべき、趣きや奥深さが加わった歌を聴かせる。西村晋弥(Vo/Gt)のソングライティングは磨きがかかり、さりげないセンチメンタルを帯びたメロディと、ふと記憶に触れて感情を呼び起こすポップ性の高いアレンジで、ぐんぐん心に踏み込んでくる。

Night Wander

しゅーず

Night Wander

働きながらシンガーとして10年以上のキャリアを重ねてきたしゅーず。2021年、初めて全曲オリジナルのアルバム『Velvet Night』をリリースし、都会的且つ刹那的な女性目線の歌を、くどさのない声でセクシーに表現できるアーティストとして確かな立ち位置を確立。1stシングルとなる今回は、タイトル・チューンの作曲をGARNiDELiAのtoku(Composer)、作詞はしゅーず自身が手掛け、ダークなエレクトロニックR&Bサウンドに乗せて、挑発的な女性像を歌ってきた彼のレパートリーの中でも、振り切った表現を発揮。他にもポリスピカデリー作詞作曲の洒脱な「Little Rain」、ahamoのオンライン・ライヴ"つながる詩の日"に八王子Pと組んで届けられた「モノクローム//ディストピア」も収録。

COSODOROKITSUNE

少女スキップ

COSODOROKITSUNE

2002年に結成以来、コンスタントに活動を続け、“死んだ僕の彼女”などと、日本のシューゲイザー・シーンの第2世代と呼ばれている少女スキップの1stフル・アルバム。キャリアのあるバンドの最初の音源だが決して気張らず、バンドの淡く儚いノイズと郷愁感溢れるメロディに包まれた世界観を存分に表現している。絶え間なく続くノイズの先におぼろげに見える光と影のサウンドスケープ。緻密さと大胆さの両面を持ち合わせたギター、そしてその音と音の合間をたゆたう神秘的とも言えるヴォーカル。日本のシューゲイザー・シーンは音のクオリティに比例せずアンダーグラウンドな動きが目に付くことが多いが、その閉塞感を充分打開できるほどの完成度だ。

bootmilc

少年がミルク

bootmilc

少年がミルクの約1年ぶりの新作となる1stシングルは、前作『トーキョー・ネコダマシー』で描いたお洒落な空気感をさらに強め、ギラギラしたシンセサイザーを抑えた大人っぽいサウンドと、チャイルディッシュな歌声の対比が際立った作品となっている。曲タイトルもさながら懊悩煩悶する様を毒々しく切り取った「嘔吐」で幕明けし、孤独な都会の夜を思い浮かばせるクリアでダークなピアノ・ロック「アタシッテレコード」、生活感のある風景を描きながら、男女それぞれの目線から生々しく恋人への想いを歌う「ちゅうして」、"孤独なんだよ姑息なんだよ ハッシュタグばっか連なって"など現代への皮肉めいた歌詞が鋭い「イツツノツノ」で締めくくる。4曲それぞれに表情の違う歌声と才筆をふるう彼女の魅力が溢れ出す。

トーキョー・ネコダマシー

少年がミルク

トーキョー・ネコダマシー

アルバムを幕開ける「トーキョー・ブルーガール」は、少年がミルクとして思い切りポップに振り切った、洒落たシティ・ポップに仕上がった。街にうまいこと溶け込んで生きられない子たちがシュールに、そして愛を持って描かれ、歌われているのはなんともアイロニカルだけれども、その裏腹さは少年がミルクらしいところでもある。この初のフル・アルバムは、少年がミルクというアーティストの、不条理な世界観や、心を鮮血で染めるような激しい筆致で書かれる詞、また、ドリーミーだが痛みの海をたゆたうような痺れる歌を、とてもチャーミングに切り取っている。ミニ・アルバム3作を重ね、作曲を手掛ける水谷和樹との感性の掛け算の値が大きくなってスケール感が増し、独自のポップ・ワールドを生んだ。

空砲一揆アノニマス

少年がミルク

空砲一揆アノニマス

少年がミルクいわく、ラヴ・ソングばかり詰め込んだアルバムだということだが、ここには愛や恋、それにまつわる切なさや愛しさ、憎しみや困惑みたいなものとは違った、ヒリヒリとした情感がある。不条理な「I love you」(Track.1)、心が背中合わせなことをわかっているふたりを描く「qualia」(Track.2)、ふんわりと甘ったるい恋の歌を蹴散らす「アンチラブソングヒーロー」(Track.3)、琴線を共有するふたりを綴る儚く美しい映画のような「聴こえないくにのくちづけ」(Track.4)。物語的で想像力をかき立てながら、鋭利なナイフで秘めた思いやエゴを切り出される感覚を味わう曲が揃う。3作目にして、作曲を手掛ける水谷和樹(Gauche.)との共犯関係も深まり、激しくもエレガントに心を射抜くサウンドで暴れまわっている。

GYUNYU革命

少年がミルク

GYUNYU革命

『KYOKUTO参番地セピア座』に続くミニ・アルバムは、"GYUNYU革命"というポップなタイトルやアートワークに反し、頭から終わりまでヒリヒリとして、さかむけた心を赤裸々に晒し、聴き手の心も剥いていく感覚だ。エモーショナルなヴォーカルになったが、泣いたり喚いたりで共鳴させるよりも、研ぎ澄ました攻撃性で、ここは痛いはずだと的確に深く切り込むスピードが凄まじい。とても耳当たりのいい歌声で、そんなことをやってしまう。作曲を手掛ける水谷和樹(Gauche.)のサウンドは自由で、ポスト・ロック的な「CURTAIN CALL」や、ギター・ポップ、ロックなどを彼女にぶつける。少年がミルクはその音から美しい映像を浮かべ、そこから深層にある泥臭くも鋭利で、時に容赦なく壮絶な言葉を産み落とす。だからこその、痛みだろう。

KYOKUTO参番地セピア座

少年がミルク

KYOKUTO参番地セピア座

連想ゲームのような言葉の連なりだったり、目に入ったものすべてにシャッターを切っていくようなスピード感であったり、現実と想像とが曖昧に混じり合ったようなどこでもない街の風景だったり、あるいはカットアップ的に脈絡のないフレーズが織りなされ不思議な情感を生んだり。少年がミルクの歌の世界、感触や匂いは、とても独特だ。彼女特有の言語感や言葉のリズムを持ったその歌は、心をきゅっと掴んで揺さぶるものがある。淡くチャイルディッシュなヴォーカルとサウンドで、ポップでファンタジックに、きらきらとセンチメンタルに響く。音のタッチは愛らしくすらある。でも、その余韻は、美しいばかりでも、悲しいばかりでもない。デジャヴに似た、これは何だろうと鼓動が逸るような、甘みも苦みもあるような感覚がじわりと広がる。

FREE TIME

少年ナイフ

FREE TIME

少年ナイフの15枚目となるフル・アルバム。その力みのない佇まいと人を食ったようなポップ・センス。少年ナイフというバンドは、例えばグラスゴーの良質で自由な気質を持ち続けるポップ・バンドのようでもある。この姿勢とセンスをキープし続けることって、結構タイトなことだろうと勝手に思う。シンプルでありながら、温もりに満ちたポップ・ソング「ロックンロールケーキ」や軽やかなガレージ・ロック「Do You Happen To Know」。力強いオルタナティヴ・ロック「Monster Jellyfish」など、彼女達は今回も独自のセンスを見せつけながらも、しなやかに今を捉えてみせる。キュートなポップ・ソングの裏に驚くほど尖った意志が漲っているからこそ、彼女達は世界中から愛される。

超電磁砲

シリカ

超電磁砲

神戸発の3ピース・バンド、シリカの2ndアルバム。「SPSPSP」では、“現実が取り巻いて 現状が取り巻いて 離れない”と言いながら必死に現実を振り切ろうとし、「携帯を折るにあたって」では、“繋がり”そのものをぶっ壊してみせる。携帯電話、タイムライン、RT、フォローミー……。歌詞に出てくる言葉からも、現代社会は繋がることができるツールが発達したことが分かるが、結局はそんなもん全部見せかけだと彼らは吐き捨てる。そんな全8曲は、全てが“むき出し”。そのむき出しの“青さ”には目が覚めるような感覚さえ覚えた。“青かった日々”、自分があの頃見ていた世界はどういうものだったのか。繰り返される日常の中で沸き上がる虚しさ、無常感、そして焦燥……。シリカは、そこへ真っ向からロックをぶつけていく。

トーキョーズ・ウェイ!

私立恵比寿中学

トーキョーズ・ウェイ!

TVアニメ"マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編"のEDテーマに起用された表題曲「トーキョーズ・ウェイ!」は、新宿、原宿、渋谷、グループのお膝元である恵比寿など、東京の地名が散りばめられた歌詞がスタイリッシュなサウンドに良くマッチした楽曲だ。あらゆる人種、性別、年齢の人々がカオスに行き交う東京で、自分だけの道をマイペースに探していこうと歌う少女たちの姿は、明確な応援歌ではなくとも背中を押される感覚がある。カップリングは、フランス出身のプロデューサー/DJとして活躍するMoe Shopによる表題曲のリミックス・バージョン。クラブ・シーンに合う形で楽曲の新たな魅力が引き出された。オリジナルでもリミックスでも合いの手で叫ぶ心の"ウェイ!"の声が止まらない。ウェイ!

kyo-do?

私立恵比寿中学

kyo-do?

新メンバー 桜井えま、仲村悠菜が加入し新体制となった私立恵比寿中学が、グループとしては約4年ぶりのCDシングルを完成させた。表題曲「kyo-do?」は、"世界一かわいい音楽"を作る音楽プロデューサー ヤマモトショウ提供のハッピーな極上ポップ・ソング。楽曲のテーマになっている"キョウドウ"の言葉遊びがふんだんに盛り込まれた歌詞は、読んでいるだけでも楽しめる。CDの形態によって収録されるカップリング曲は異なるが、いずれも個性溢れる10人の歌声を堪能できる仕上がりに。その中でも、昨年エビ中を卒業した柏木ひなたの卒業前ラスト新曲を"New style ver."として収録した「ボイジャー (New style ver.)」は、新体制の門出を感じさせる必聴の1曲だ。

中吉

私立恵比寿中学

中吉

メジャー・デビュー10周年を記念するアルバムが完成。ファン投票をベースにメンバー/スタッフで構成したCD1では、メジャー・デビュー曲「仮契約のシンデレラ」から始まり、メンバーの変遷も含めた10年の軌跡を振り返りながら、いかにエビ中の幅が広がっていったのかを改めて感じることができる。CD2は、2022年の新曲4曲や、リレコーディング曲、新たに制作された「エビ中出席番号の歌 その3」などが収録され、最新のエビ中を表現。さらに初回生産限定盤には、CD3として約80分にわたる「エビ中 中吉ノンストップミックス by DJ和」、Blu-rayにはエビ中10年の歴史を綴ったドキュメント・ムービーが収録された。エビ中をたっぷり詰め込んだ、エビざんまいな作品だ。

私立恵比寿中学

私立恵比寿中学

私立恵比寿中学

メジャー・デビュー10周年を迎えるエビ中の新体制初アルバム。本作には、石原慎也(Saucy Dog/Vo/Gt)、大橋ちっぽけ、キタニタツヤら旬のアーティストからの初提供曲や、田村歩美(たむらぱん)らお馴染みの作家陣が手掛けた楽曲といった、エビ中らしく多様性のある全10曲が収められた。彩り豊かな楽曲に染まり、同時にエビ中カラーに染め上げることができる彼女たちの確固たる実力とアイデンティティには舌を巻くばかり。完全生産限定盤A/Bにそれぞれ収録された「なないろ - from THE FIRST TAKE」、「ジャンプ - from THE FIRST TAKE」(私立恵比寿中学 with 石崎ひゅーい)も必聴だ。2022年のシーンを代表するであろう名盤だと太鼓判を押したい。

エビ中 秋声と螻蛄と音楽の輝き 題して「ちゅうおん」2021

私立恵比寿中学

エビ中 秋声と螻蛄と音楽の輝き 題して「ちゅうおん」2021

当初予定されていた新体制お披露目ステージが中止になり、現9人体制での初ワンマン・ライヴとなったエビ中秋の恒例イベント"ちゅうおん"を収めたライヴ・アルバム。バンドの生演奏をバックに、純粋に歌を楽しむイベントということで、既存メンバーの声色もいつもよりしっとりと大人びている印象を受ける。桜木心菜、小久保柚乃、風見和香の新メンバー3人の歌声は先輩メンバーのそれに溶け込み、新たなエビ中のユニゾンを堪能することができる。個人的にグッと来たのは「大人はわかってくれない」。この名曲を、少女から大人になったメンバーと、まだ幼い新メンバーとで歌い上げる様が感慨深い。DISC 2には各メンバーのソロでの名曲カバー・パートも収録され、9人の声の成分をそれぞれじっくりと味わえる。

FAMIEN'21 L.P.

私立恵比寿中学

FAMIEN'21 L.P.

7年ぶりに新メンバー3名(桜木心菜、小久保柚乃、風見和香)が加入し、休養中だった安本彩花が復帰。新たな9人体制となった私立恵比寿中学が、その初作品として夏の恒例イベント"ファミえん"のベスト曲集をリリースした。新メンバーがレコーディングに参加したことはもちろん、「ご存知! エビ中音頭」をはじめとする初期、中期の曲は再レコーディングされており、新メンバーが吹かせる新しい風と、既存メンバーの成長を存分に堪能することができる。新曲は「イヤフォン・ライオット」。何かとフラストレーションが溜まりやすいこの時勢に、イヤホンで聴いて心の中で暴動を引き起こす、そんな1曲だ。残念ながら今年2021年の"ファミえん"は中止になってしまったが、本作を聴き倒して次回の開催を待ちたい。

playlist

私立恵比寿中学

playlist

"永遠に中学生"を掲げる、"エビ中"こと私立恵比寿中学の結成10周年イヤーのクライマックスを飾る記念碑的アルバム。川谷絵音(ゲスの極み乙女。/indigo la End/ジェニーハイ etc)、ポルカドットスティングレイ、マカロニえんぴつといった豪華でフレッシュな作家陣が参加した曲たちや、初めてグループとして作詞を行った「HISTORY」など、本作からは"攻め"や"チャレンジ"といった姿勢が強く感じられる。アコースティック・ギターやストリングスが彩る、壮大でエモーショナルなリード曲「ジャンプ」は、石崎ひゅーいによる作詞作曲。ファンならずとも必聴の名曲だ。10周年とは言っても決して守りには入らず、すでに11年目を見据えているエビ中の目線が窺えるような1枚に仕上がった。

みなみ

知る権利

みなみ

オリジナル・メンバーの脱退を受け2018年元日に"知る権利"からバンド名を変更した郡山発の3ピースが、改名後初の全国流通盤をリリース。タイトルの"みなみ"に掛けて、郡山から見て南に位置する"東京"や、激動ながら実りや気づきのあった1年間を美しい波に喩えた"美波"など、様々な"みなみ"にまつわる楽曲が揃う。どの楽曲も楽器ひとつひとつのフレーズや音色を生かしたアプローチが多く、わかりやすい言葉でありながら余韻を残した歌詞も含め、奥行きのある世界観に浸ることができる。知る権利時代の楽曲の歌詞を引用しながら現在の萬屋樹太郎(Vo/Ba)が持つ人生哲学を綴った「Beautiful」の説得力の強さはひとしお。シンプルなフレーズを優しくも堂々と鳴らすサウンドも心地いい。

ファンタスティックヒューマン

シンガロンパレード

ファンタスティックヒューマン

"ライヴが多すぎてアルバムを作る余裕がなかった"というシンガロンパレードの初アルバムは、その言葉も頷ける、ライヴの光景が目に浮かぶものとなった。音を詰め込まずに隙間を効果的に使って歌を聴かせており、自分たちの3ピース・サウンドに自信を掴んだことが窺える。そんな自分たちを鼓舞するような「Have a nice day」も印象的だが、表題曲でみっちー(Vo/Gt)が叫んでいるとおり、"ラブシーンがもっと必要です"が今作のテーマ。とはいえ、カッコつけて好きな人を見守りたい想いと、素直な自分を曝け出したい思いとの葛藤が渦巻く甘くはないシーンばかり。それでも明るく力強く歌われる曲たちは、もがきながらも前を向こうとする人こそ"ファンタスティック"だという、3人からの賛歌なのだろう。

素敵な不摂生

シンガロンパレード

素敵な不摂生

"SUMMER SONIC 2016"への出演も話題となったシンガロンパレードの"Soul Mate Record"から2作目のリリースとなる今作は、ノリの良い演奏とキャッチーなメロディが際立った7曲を収録。1曲目の「Babyカステラ」はバンドの特徴であるコーラスを存分に発揮、間奏の展開も最高に気持ちいいポップスで、この曲を聴くだけでも3人の個性が掴めるはず。「ステキな不摂生」では気合いの入ったギター・リフとラップ調のAメロ、ディスコ調のサビが耳を惹く。「親のセンス子知らず」のムード歌謡的なギャグ路線で思いっきり笑わせておいてからグッとくる「退屈を殺したら」を聴かせるところが心憎い。曲ごとに歌いたいテーマをしっかり持っているところが、バンドの個性を印象づけている理由のひとつではないだろうか。

ベッドタイムガールズミュージック

シンガロンパレード

ベッドタイムガールズミュージック

京都を拠点に活動する3ピース・バンドの4thミニ・アルバム。彼らが敬愛するバンド、鶴の自主レーベル"Soul Mate Record"からの初リリースとなる。鶴からの影響もあるようで、Track.1「アンフォーカス」、Track.4「人事異動」を始め、アカペラでも面白い曲を聴かせてくれそうなほど、コーラス・ワークがとても印象的なアルバムだ。「アンフォーカス」の意味深な歌詞や、ディレイをかけたギターのイントロから始まるマイナーなダンス・ロック・ナンバーTrack.3「丑三つ、穴二つ」の情念込み上げるメロディなど、決してただのパーティー・バンドではないことがわかる6曲が並んでいる。なかでも"雅じゃないのよ"とファンキー且つスマートに京都への偏見払拭を図るTrack.2「KYOTO-JINPEOPLE!!」が最高。