DISC REVIEW
カ
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グループ魂
だだだ
シングル「べろべろ」、アルバム『1!2!3!4!』、そして今年2月には日本武道館公演も決定と、昨年末からさらに勢力的に活動しているグループ魂の今年1発目のリリースは、小2レベルのおバカ・ソング(笑)。野球かサッカー、それに音楽としょうもない下ネタ。あとは毎週のジャンプか。そんなもんしかつまってない歌です。何しろ歌詞の大半が「だだだ」ですから。皆様も歌詞が分からなくなったら「だだだ」で歌っていいそうですよ。そんでもって、歌いだしが「なにさまだ お子さまだ」ですから。港カオル的に言えば「僕たちはいくつになってもママのおっぱい恋しいのだ!」とかそんなところでしょう?おバカな少年ソングとおバカな赤ちゃんソングを歌うオッサン・バンドは、こういうことやらせたらやはり日本一チャーミングです。
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グループ魂
べろべろ
宮藤官九郎脚本の作品って、とことん笑いを追及したものではなく、シュールになりすぎず、ストーリーにハートフルな要素が入っているというのが一つの特徴でもある。笑って笑って、ほろりと泣ける、「日曜の夕食時もいけるぞ」みたいな温かさがあるのだ。そして、初のバラードにして、ついにグループ魂でもその側面を持った作品が登場した。舞台は夢の中。もじゃもじゃの毛の謎の生き物が泣いていて、なんとか笑わせようと奮闘する。ようやく笑うと、"行こう おもしろい明日" と声をかける。"おもしろの彼方"だとか"おもしろい明日" だとか、希望や人間愛を"おもしろい" というキーワードのみで描けるのも、笑わせるという行為の愛おしさと人間臭さを知っている笑いのエキスパートならでは。ひょっとして"おもしろい"って至極の愛の言葉なのかも。
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毛皮のマリーズ
Mary Lou
メロディ、サウンドともに、その響きのなんと甘酸っぱいことか......(感涙)。聴けば一発で"この人だ!"と分かる、志磨遼平のちょっと鼻にかかったクセのある声で歌い上げる、"Mary Lou" への純粋無垢な愛情。それを包み込むのは、池田貴史(100s)のオルガンとともに鳴らす、優しくて夢見心地な雰囲気のサウンド・アンサンブル。軽快なリズムに、広がりのあるサウンドとキャッチーなメロディを重ねて作り上げている楽曲の仕上がりは、60~70年代のフィル・スペクター作品をほうふつとさせる。そして、Track.3「デュマフィスの恋人」は、そんな「Mary Lou」へのアンサー・ソングとして作られたという。ピアノが悲しげなムードを演出する1曲は、少女から大人になり、人生の終焉を迎えた"Mary Lou"への鎮魂歌のよう......。たまらなくドラマチック!
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毛皮のマリーズ
毛皮のマリーズ
THE BAWDIESとは違う方法論で、ロックンロールを今に蘇らせる毛皮のマリーズが、遂にメジャー・デビュー。こういう参照点の分かりやすいロックンロールの手法をやる若いバンドって、考えてみると確かにいない。ロックンロールへの愛情が出まくっているが故のデフォルメ感とでもいいましょうか。RCサクセションや奥田民生などと同じ系譜にいるバンドだ。前作『Gloomy』でのサイケデリックでディープな世界観から「憑き物が落ちたように」(志磨 遼平)ゴキゲンなロックンロールを取り戻したこのアルバム。これまで通り、ここには新しい音はない。だけど、ロックンロールの楽しさがそれだけの訳もない。彼らはそういう価値基準とは別の場所で彼らにしかできないロックンロールを鳴らしている。
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Magic, Drums & Love
Love De Lux
住所不定無職のユリナ、℃-want you、ザ・ゾンビーズ子に、撃鉄の田代タツヤ、ヴォーカリストのWhite Fire Shirohiの5人が"魔法とドラムと愛"の名のもとに結成した通称"マジドラ"。キュートなキャラメル・ヴォイスと力強いソウルフルな歌声を響かせる今作は、EARTH, WIND & FIREを彷彿とさせるバンド名どおり、ファンキーでグルーヴィなサウンドが最高にドープな1枚。THE CLASHのカバー、住所不定無職の(ある意味)セルフ・カバーも収録し、フロアを踊らせるマジック・ナン バーが出揃っている。昨年アナログでリリースされていた「"Fushigi" Tonight」をラスト曲に、カーテンコールのような大騒ぎするコール&レスポンスで終演する。これはライヴも体感してみたい。
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撃鉄
撃と鉄
2007年結成、FUJI ROCK FESTIVALのROOKIE A GO-GO出演をきっかけに注目を集め、近年ではROCKS TOKYO、RISING SUNなどのフェスに出演、昨年末には渋谷CLUB QUATTROのワンマンを成功させるなど、圧倒的なライヴ・パフォーマンスと名前負けしない存在感で異彩を放ち続ける撃鉄。彼らから届いた新作は、元NUMBER GIRLの中尾憲太郎をプロデューサーに迎え制作されたミニ・アルバム『撃』『鉄』収録曲に、ライヴの人気曲を加えた全14曲。ラウドで攻撃的でありながらキャッチーなサウンド、そこから響いてくるヴォーカル、そして飾り気のないむき出しの歌詞も魅力的だ。全曲リマスタリングされており、初めて撃鉄の世界に触れるあなたにも撃ファンのあなたにも必須の1枚だ。
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撃鉄
撃
2007年結成の4ピース・バンド撃鉄のデビュー・ミニ・アルバム。危険な空気とグルーヴを漂わせるベース。ヒリヒリとした手触りは火花のようで、衝突と爆発を繰り返すように鋭い攻撃的なギター。その演奏の躍動感と興奮を、生身の身体を使って表現するのはフロントマンのAMANO JOJI。彼の肉体的なヴォーカルは、フラストレーションのみを吐き出すようなひどくナーバスな空気の中で、鋭く暴力的な音にまみれながら歌い踊る様が圧巻だ。スリルと閉鎖感の中で、唾を吐き、汗をまき散らしながらフロアをめちゃくちゃにするように暴れ踊る姿は、本能的な衝動に駆り立てられているとしか言いようがない。聴いていると、まるで窮地で断崖絶壁を走っているような感覚を覚えるような......。迫りくる危険へのプレッシャーやスリルという窮地に聴き手を立たせるような、強烈にフィジカルなアルバム!
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ゲスの極み乙女
ディスコの卵
約4年ぶりのフル・アルバムは、ディスコ="踊る"ことがテーマ。彼らの曲は以前から踊れるものだったが、改めてそこに向き合って生んだナンバーたちは、実に洗練されている。それでいてチルなだけでもクラブ音楽でもなく、バンドの持ついい意味の違和感も毒っ気も失わず、彼らにしか作れないディスコ・チューンを届けてくれた。程良く力が抜けた「Funky Night」("Baby I love youの歌メロで/くるりと回った"の詞も嬉しい)、切なく胸を締めつけるメロが美しい「シアラ」、初期の彼らの香りも感じさせつつ今の演奏技術に唸る「歌舞伎乙女」、また「晩春」での"あと何年歌えますか"や「ハードモード」のリリックなど川谷絵音(Vo/Gt)の独白のような言葉も印象的。メンバーそれぞれ活躍の場を広げながらも新作を作り上げた、その熱量に乾杯。
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ゲスの極み乙女
丸
すでにアナウンスされている通り、結成10周年記念のベスト・アルバムは、ゲスの極み乙女。を象徴する名曲25曲のトラックを解体、再構築した35分51秒の1トラック。ちゃんMARI(Key)を中心にこの大工事を行ったそうだが、ほぼ一定のBPMで踊り続けられるダンス・ミックスのようでもあり、四つ打ちにジャズ、ファンク要素を導入したこのバンドの革新性を見せたり、歌メロとは異なる伴奏にあたるトラックを切り貼りしても新たにらしさが生まれたりして、完全にベスト・アルバムの概念自体を転覆させてくれるのだ。加えて、ダークなニュアンスの「青い裸」、アグレッシヴな「発生中」と通常尺のベスト選曲29曲と、mabanuaやSTUTS、PARKGOLFらのリミックスからなるベスト・アルバム『丸』も同時配信。
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ゲスの極み乙女
ストリーミング、CD、レコード
"ここから新しいゲスの極み乙女。が始まります"。今作から「人生の針」を先行公開した際、川谷絵音(Vo/Gt)はこう宣言。そして、またも唸らせられるほど鮮烈な1枚が到着した。「私以外も私」、「キラーボールをもう一度」という代表曲をセルフ・オマージュした曲もだが、音の面ではロック然とした部分が減り、ストリングスを取り入れたり、曲ごとにジャズ、ヒップホップをフィーチャーしたりして、バンドを塗り替えている。それは複数のバンドを同時に動かす川谷ならではのギアの入れ方で、川谷、ほな・いこか(Dr)の歌の表現力、ベース・マエストロとでも言うべき休日課長の豊かなベース・ライン、そしてちゃんMARI(Key)のラップ(!)を含め、4人の音がより研ぎ澄まされたものに。聴き応えしかない。
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ゲスの極み乙女
戦ってしまうよ
天晴、お見事と言うべき完成度。表題曲はアクション・ゲーム"クラッシュ・ロワイヤル"CMソング。歌詞の"3分間"はゲームのルールから引用されたもので、楽曲自体も3分で終結するだけでなく、その間に各メンバーの個性がフィーチャーされた怒濤の展開が詰め込まれている。これだけのアンサンブルをJ-POPとして成立させるという大胆で鮮やかな手腕、メロディと歌詞の相乗効果が生むセンス、これぞ"ゲス乙女の凄み"だと見せつけられるようでもあった。ポップだが緊迫感が漂うTrack.2、シンセと打ち込みのビートが効いたシックなトラックメーカー的サウンド・アプローチのTrack.3、Spotifyでの投稿を機に世界から注目を集める覆面の日本人アーティストAmPmによるリミックスと、c/wも充実。
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ゲスの極み乙女
達磨林檎
達磨は男性、林檎は女性を示すのだろうか。漢字3文字"両成敗"の次は"達磨"と"林檎"を繋ぎ合わせた漢字4文字のタイトル。アルバム全体で東京を舞台にしたラヴ・ストーリーを様々な角度から照射するような作りで、達磨と林檎の共通点である"赤"を彷彿とさせる言葉を始め、"アルコール"と"酒"や"マンション"と"物件"など異なる曲同士にリンクするワードも多く登場する。情景と心情描写に長けたサウンドスケープはさらに艶やかに、プレイはより繊細でテクニカルに。不可思議なパズルのようなアンサンブルは気品高く、川谷絵音(Vo/Gt)+4人の女性によるヴォーカル・ワークも効果的だ。その場の匂いまで立ち込めるような生々しさと、洗練された画角と鮮やかな色味の長編映画を観ているような感覚の両方を味わえる。
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ゲスの極み乙女
両成敗
前作『魅力がすごいよ』が大きな音楽的進化を遂げたアルバムならば、今作『両成敗』はゲスの極み乙女。が元来持っていた遊び心やユーモアを取り戻した作品とも言える。だがそのユーモアの表現方法は『魅力がすごいよ』で得た方法論。プレイヤーとしてのフレージングのパターンも増えてアンサンブルの強度は増し、耳に残る印象的な言葉を抜群の譜割りで乗せるというシングル3作でも立証されていた彼らの個性を磨き上げた楽曲が揃う。ギター弾き語りを基盤にした曲や余韻の残る歌が印象的な曲など一筋縄ではいかないミディアム・テンポ系の楽曲も充実。それは全17曲という曲数だからできることでもあるが、このボリュームでも中だるみを感じさせず聴き心地の良さもある。彼らの音楽性の集大成でもありながら、新たな工夫も散見する意欲作だ。
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ゲスの極み乙女
ロマンスがありあまる
2ndシングルを今年4月にリリースしたばかりのゲスの極み乙女。が早くも3曲入りの3rdシングルを発表。前作も個々のスキル向上やバンドのアレンジ力に驚いたが、今作もそれを凌駕する勢いだ。今作はそれに加えて、ソングライターである川谷絵音の等身大の姿が今までで最も歌詞に投影されている。Track.1は心の内に潜む彼の素直な部分をそのまま音にしたような繊細なメロディと、焦燥感とロマンティックさが混在するバンド・サウンドと合わさり、涙が零れ落ちる瞬間のような美を作り出す。Track.3はシリアスで緊張感のあるギターと鋭いラップが前面に躍り出たスリリングな楽曲。だがサビはトンネルを抜けた瞬間に見える青空のような爽快なポップ感があり、そのユーモア・センスには舌を巻くばかりだ。
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ゲスの極み乙女
私以外私じゃないの
2014年10月にリリースされた『魅力がすごいよ』に続き、バンドの急成長に面食らった。バンドのアンサンブルの強度の上昇はもちろん、各プレイヤーの表現力と音色の拡張が目覚ましい。表題曲は美しいピアノとストリングス、ゴスペル調のコーラスで幕を開けて4人の音が入る瞬間の華やぎ具合は新しい価値観以外の何物でもないのだ。難解で、ある種屈折した展開がこれだけポップに響くのは、プレイヤーのスキルとメロディとサウンドの歯車が噛み合っていることが絶対条件。これをやりこなしてしまう、やはり彼らはとんでもないバンドだ。大きなうねりを見せる流麗なTrack.2、過去曲のリアレンジというよりは別曲とも言えるTrack.3、打ち込みと生ピアノが織りなす幻想的なTrack.4はヴォーカルも新しい。全曲が圧倒的である。
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ゲスの極み乙女
魅力がすごいよ
ゴールデン・タイムに放送された地上波のTV番組で、ゲスの極み乙女。について紹介しているVTRが流れた。そのTVはこう言っていた。"このバンドの最大の魅力は毒っ気の強い歌詞"。世間が評価した"魅力"を磨き続けることを選択する者が多い中、このバンドは更なる高みを求めるために、自身の思う"完璧"なフル・アルバムを作るために、新たな場所へと飛び立った。そしてこの皮肉めいたタイトルを証明し、凌駕する作品を完成させたのだ。等身大の川谷絵音の心情が映し出された歌詞と、初夏のそよ風のように頬を撫でるメロディ、そして4人それぞれの持ち味やキャラクターを爆発させた、それこそロックがもたらす化学反応と衝撃――この作品にはそれらが溢れている。ジャンルを超越した彼らの音楽は、まさしく芸術だ。
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ゲスの極み乙女
みんなノーマル
ゲスの極み乙女。というバンドのバズの起こり方は、他者の力を強く感じるものだった。ネットや実際の口コミにより、たちまち彼らの名前はロック・シーンへ拡散。四つ打ちを取り入れたダンス・ビートという"主流"に、ラップ、ジャズやクラシックのテイストを感じさせるピアノの音色、4人のキャラクターなど、主流からの"ズレ"を次々投入した彼らの音楽は間違いなく新感覚だった。そしてバンド3作目となる今作は、ロック・シーンという狭い枠を飛び抜けるポップ・センスが炸裂。緩急と音の隙間を巧みに操るサウンド・メイクも、4人の顔が浮かぶような人間味のあるそれぞれの音色も、シュールでひりついた川谷絵音のラップも、全てに自信とより羽ばたこうとする覚悟が漲る。これからのバズは彼ら自らが起こしていくのだ。
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ゲスの極み乙女
踊れないなら、ゲスになってしまえよ
今年は彼らの名前をよく聞いた。ゲスの極み乙女。最近は日本語のバンド名が増えているとはいえ、"ん?"と一瞬耳を疑うネーミングセンス。しかも、これがindigo la Endのヴォーカルの別ユニットと聞いてもっと驚いた。本作は、前作『ドレスの脱ぎ方』から9ヶ月ぶりの2ndミニ・アルバム。レーベル資料には"ヒップホッププログレバンド"という言葉が書かれているが、正直、このバンドの音楽性はそれだけではちょっと言い表せない。ヒップホップ、プログレ、パンク、ニュー・ウェーヴ、J-POP、もちろん最近の国産ロック的な要素も入っている。様々な音楽的アイデアが、まるで大喜利でもするかのように無邪気な遊び心で噛み砕かれ、編集され、完成度の高いポップスとして再構築される。まさに新世代的なセンスの塊。脱帽です。
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ゲスの極み乙女
ドレスの脱ぎ方
なんとも救いようがない名前のバンド“ゲスの極み乙女。”indigo la Endの川谷絵音ことMC.Kを中心に休日課長(Ba)、ちゃんMARI(Key)、ほな・いこか(Dr)で結成されたバンドなのだが、音はindigo la Endのそれとは完全に別物。ファンクやヒップホップなどを通過した硬質なグルーヴと、柔らかなメロディが同居した唯一無二の“ヒップホップ・プログレ”なサウンドに仕上がっている。全パート自由度の高いアプローチを一聴すると好き勝手にぶつけているようにも感じるが、しっかりとまとめあげるセンスに脱帽。踊らせるだけのダンス・ミュージックとも、共有するためだけの作為的なフックに満ちたロックとも一線を画したただただ遊び心に溢れた最高に“ゲス”な作品。
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月蝕會議
月夜のタクト
声優やアイドル、はたまたアニメや舞台など、様々なジャンルへの楽曲提供が話題の月蝕會議が、TVアニメ"最強陰陽師の異世界転生記"第3話エンディング・テーマとして人気歌い手、Souへ提供した「月夜のタクト」をセルフ・カバー。Souバージョンで感じさせる緻密で洒脱でありつつアグレッシヴなサウンドは、より迫力を増した小箱のライヴハウスで鳴らすようなバンド感で聴かせ、原曲のクールな印象から一転、女性ヴォーカル キリンの突き抜けた熱く力強い歌唱(しかも一発録り!)で魅せるナンバーへと変化した。今回の楽曲を筆頭に連続配信企画を始動する彼ら。リアルタイムで続々とコラボなどが決まっているようで、変幻自在な音楽クリエイター・ギルドによる今後の発表も必見だ。
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月蝕會議
月蝕會議2019・2020年度議事録
全員が作詞/作曲/編曲家であり、アーティストとしても活動する音楽クリエイター・ギルド・バンド、月蝕會議の約2年ぶりとなる通算3枚目のアルバム。ゲーム"Death end re;Quest2"の「BUG FIXER」や「夜光蟲」といったオリジナル曲に加えて、ももいろクローバーZへの提供曲「ロードショー」に大胆なアレンジを加え、女性Vo キリンの歌唱によるセルフ・カバーで収録するなど、月蝕會議の2019年以降の仕事をコンパイルする1枚。自身のオンラインサロンで会員と共作したダーク・ファンタジー風ロック・ナンバー「眞夜中サロン」や爽やかなポップ・ソング「シュワーガール」といった振り幅の広い楽曲からは、プロの音楽職人であり、ロック・バンドであるという彼らの特性が強く浮き彫りになる。
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原因は自分にある。
無限の終わり
ロック・バンドのサウンド、ボカロP楽曲の複雑さ、哲学的で深読みできる歌詞で群雄割拠ののダンス・ヴォーカル・グループ・シーンで異彩を放つ"げんじぶ"の3rdアルバム。相変わらず複雑で言葉数の多い歌詞やラップを見事に7人で繋げ、超絶的なトラックと組み合わさるカタルシス満載の「無限シニシズム」や、四つ打ちの邦ロック的アプローチの「原因は君にもある。」、ハード・ロック×デジ・ロックな「Lion」などや、デビュー時からの持ち味であるピアノ・ロックに青春時代の情景を投影する「青、その他」や10代トラックメーカー、izkiとの出会いの曲であり素直な歌詞が刺さる「キミヲナクシテ」、モーツァルトのピアノ・ソナタを下敷きにした「545」など"げんじぶ三部作"も収録している。グループのスケール・アップを印象づける多彩な14曲。
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恋する円盤
Her Favorites
勇猛果敢に打ちつけられるキックの音と覚醒感のあるメロディに、バンドが本来的に持つスケールの大きさを感じさせる円盤流ダンス・ポップ「ELMER」。紅一点の城明日香(Gl/Cho)がメイン・ヴォーカルをとるメロウで端正なミディアム・チューン「言えないよ」。モータウン風の軽快に跳ねるビートに胸が躍る「リトルシンガー」など、前作『PASTEL』の瑞々しさと無邪気さはそのままに、より普遍的なソングライティングの妙と音楽的含蓄の深さを見せつける2ndミニ・アルバム。歌詞に自身の内面や音楽そのものに対する言及が多いのは、この先も音楽と共に生きる、その覚悟の表れだろう。ただのインディー・ロック・バンドでは終わらない、"あの娘のお気に入り"の座を虎視眈々と狙う若き6人組のポップ革命宣言。その狼煙。
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恋する円盤
PASTEL
仲間たちと音を鳴らす、その瞬間の喜びが詰まっている。しかし、その喜びは長くは続かない。夜が明けたら僕らは、それぞれがひとりぼっちのベッドルームへと戻っていく。その切なさも刻まれている。歌詞に描かれるのは出会い、すれ違う僕らの毎日。曲の主人公は常に他者への想いに駆られながら、ハートブレイクし続ける日々を、それでも愛おしく抱きしめる。これはまるで、LOS CAMPESINOS!をバックに歌う小沢健二。ガチャガチャしたオルタナ・サウンドはキュートで、楽しげで、時にサイケデリック。聴くだけで自分の生をすべて肯定してやりたくなるような音楽があるが、この20代前半の6人組が鳴らすのは、まさにそんな音楽だ。ここにあるのは、終わらない手紙を書き続けるような、祈り。2014年最後にして最高の出会い。
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恋は魔物
他に好きな人ができた
"やさしくて危うくて、絶望的で、恋は魔物です。"のキャッチフレーズどおり、恋という魔物に取り憑かれた『他に好きな人ができた』。初の全国流通盤となる今作は、後ろで奏でられるギターのシンプルな旋律が、いづみさとー(Vo/Gt)のちょっと高くて甘い声とうまくシンクロしている1枚だ。そのかわいらしい声からはまったく想像できない辛辣なタイトルが目を引くTrack.1「美しくってばかみたい!」では、出会ったことを後悔している男に"ばかじゃない"と言い放った女の強がりが、美しいものにですら当たる自分の弱い部分にも向けられている。穏やかで優しい音色の中に、出会いと別れを繰り返しながら、強くなったり、弱くなったりする女性の赤裸々な心の内を溶け込ませる作品となった。
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ザ・コインロッカーズ
青春とバンドは、楽しくてメンドクサイ
"青春とバンドは、楽しくてメンドクサイ"、プロデューサーである秋元 康節が前面に出たように感じるタイトルだが、彼女たちがザ・コインロッカーズで送ってきた時間と本作を象徴する言い得て妙の言葉だ。リード曲「泣かせてくれないか?」は、昭和のフォーク・ソングのムードが香り立つ1曲。哀愁漂う歌唱とサウンドは、彼女たちのヒストリーとも重なってリアリティがあり、胸を締めつけられる。なお本作は13曲目が形態によって異なり、初回限定盤にはシリアスなバラード「永遠の記憶」、通常盤には"タイムカプセル"をテーマに時の経過を切なく歌うミドル・チューン「その日」を収録。明るい曲も、強気な曲も、切ない曲も入り混じる。あぁ......やっぱり"青春とバンドは、楽しくてメンドクサイ"。
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ザ・コインロッカーズ
僕はしあわせなのか?
昨年、目標としてきたZepp Tokyoワンマン公演のソールド・アウトを惜しくも達成できず、38人→13人へと再編成して新たなスタートを切ったザ・コインロッカーズの2ndシングル。表題曲「僕はしあわせなのか?」は、軽快でフレッシュなバンド・サウンドに乗せた、切なく揺れる恋心が投影されたかのようなメロディ・ラインが聴き手の胸に響く1曲に。歌声に込めた感情をさらに増幅させるかのようなサビのコーラスも聴きどころだ。飾らない言葉で綴られた歌詞は、広く長くリスナーのもとへ届いていきそうで、早くも新生ザ・コインロッカーズの代表曲が誕生した予感。なお、本作では3形態でカップリング曲が異なり、それぞれで表題曲とは異なるバンドの表情を堪能することができる。
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ザ・コインロッカーズ
憂鬱な空が好きなんだ
秋元 康によってプロデュースされた、曲の世界観に合わせて各パートのメンバーが選抜されるという39人組ガールズ・バンド、ザ・コインロッカーズ。初ライヴを幕張メッセで行い、初ツアーは約150公演と、人数以外も規格外な彼女たちのデビュー・シングルが到着した。ドラマ"俺のスカート、どこ行った?"の主題歌に大抜擢された表題曲は、一度聴いたらすぐに口ずさめてしまうようなキャッチーで耳なじみのいいメロディを、疾走感のあるバンド・サウンドに乗せたポップ・ロック・ナンバー。同世代の共感を得られそうな歌詞を歌う松本璃奈の芯の太い歌声は、選抜メンバーというだけあって、この曲にバチっとハマっており、曲によってメンバーが変わるこのバンドならではの魅力や可能性を感じ取ることができる。
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こうなったのは誰のせい
さよならノスタルジア
自暴自棄になっていたときに、それでも世界が続くならの曲に出会って、ソングライターのカイト(Vo/Gt)は大きく変わったという。そして、心に収まりきらず、柔らかく溶けてもくれないような思いや傷を、音楽や歌に刻んでこのアルバムに残した。時には遺書のように、自分の思いを曲に置いていっている率直さもある。その歌を、時にバンド・サウンドが引き立て、また呑み込んだぶんの言葉を表現する爆発的な音や美しい音を奏でる。コードをかき鳴らして疾走するようなギター・ロックとはまた違った、ポスト・ロック的なアプローチであったり、エフェクティヴに詩的に、歌のエモーションをアンサンブルで伝えている。たくさんの人のアンセムにはなり得ないかもしれないが、カイトがそうだったように、必要な人の元に届いたらいいなと思う。
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ココロオークション
CANVAS
関西を中心に活動している正統派の歌ものバンド、ココロオークションが遂にメジャー・デビュー。嬉しさの反面、怖さもあるけど"終わりの来ない旅を続けよう"と突き進むことを決めたTrack.1からスタートする今作。"はじまりのうた"を奏でるTrack.2や、夢の世界へ連れて行ってほしいと歌うTrack.3、そして、自分が選んだ道は間違いないんだと訴えるTrack.5など全体を通して、メジャー・デビューをきっかけにバンドが決意した思いを表しているように聴こえる。プロデューサーにBUMP OF CHICKENやTRICERATOPSなどを手掛けた木崎賢治を迎え制作されたメジャー1作目。今後の活躍が楽しみで仕方がない。
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ココロオークション
Relight
今年5月にリリースされた生産限定盤シングルが好評の、大阪発の3人組。"Relight(=再び点火する)"というタイトルの通り、光を思わせるワードや、それを表現するに不可欠な闇を表す言葉が歌詞に並び、サウンドもまた楽曲ごとにタイプの違う輝きを表現している。ほのかにハスキーな粟子真行(Vo/Gt)のヴォーカルもより強いパワーを放つようになった。それは歌い方のギミックの影響もあるが、自身のメンタリティも大きい。彼は今作で"なぜ音楽を続けているのかがわかった"という。彼の歌は人を求め、そのために人の心に寄り添おうと努める。なくしてから大切さに気づくという後悔が、彼をそこに動かしているのだ。耳馴染みのいいバラエティに富んだ音楽。ここに圧倒的な個性が加わればさらに強くなる。
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小島麻由美
渚にて
夏って不思議な季節だ。海とかプールとか夏休みとか、弾けるような楽しみがたくさんあるはずなのだけど、思い浮かべようと思うといつもぐにゃりとイメージが歪む。倦怠的というか、ノスタルジックというか、モラトリアムというか......この夏のイメージ、伝わるだろうか? 個人的に、こんな夏のモラトリアムを最も体現しているアルバムはNeil Youngの『渚にて』だと思っているが、この小島麻由美の『渚にて』も相当だ。音楽的には60年代ポップスや昭和歌謡を咀嚼した、レトロ、だけどモダンなポップ・サウンド。可愛らしいけどちょっと歪なそのサウンドに乗せて、暑さに溶け出すアイスクリームのように甘くてドロッとしたひとりの女の心象風景が歌われていく。暑すぎて何もしたくない日にひとりでぼーっと聴きたいな。
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琴音
成長記 ~Now&Best(2018-2024)~
高校生でデビューを果たしたシンガー・ソングライター 琴音が活動5周年を機に、これまでの代表曲と新曲で構成したアルバムを完成させた。前半の新曲群にはダーク・ポップな新機軸「Heaven」やR&B調で多声感がモダンなアレンジの「多面体」、彼女自身の音楽への向き合い方が投影された、作品の軸になりそうな「image」等が並ぶ。既発曲では映画"金の国 水の国"劇中歌として広く知られるようになった「Brand New World」やデビューEP収録の「ここにいること」、ライヴでは稀に歌っていたものの長らく音源化されていなかった「成長記」の新録バージョン等全16曲を収録。まっすぐな歌声を軸に持ちつつ、多彩なジャンルや声の表現に挑む"Now&Best"。
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琴音
君にEP
SSW、琴音の約1年7ヶ月ぶりとなるオリジナルのフィジカル作品には、"資生堂アネッサ ドラえもんデザインCM"楽曲となる表題曲「君に」に新曲2曲をプラスし、さらには今年1月公開の映画"金の国 水の国"の劇中歌として話題を呼ぶ3曲の全6曲が収録された。光のような暖かさで力を与える「君に」、彼女の故郷である新潟県長岡市の景色が浮かぶような郷愁漂う「ライト」、彼女そのものを表しているかのように神秘的な「波と海」。透明でありながらも意思の強い歌声で、ひとつひとつの言葉に命を宿らせている。劇中歌の「優しい予感」、「Brand New World」、「Love Birds」の力もあいまってかまるで1本の映画のような仕上がりに。それは間違いなく彼女の歌唱力と表現力の賜物。繊細さとたくましさを併せ持つ不思議な魅力を存分に感じてほしい。
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琴音
キョウソウカ
この春高校を卒業したシンガー・ソングライター、琴音の1stアルバムには、既発のシングルを含む全12曲を収録。なんといってもその歌唱力は絶大で、シンプルなピアノ伴奏に乗せ歌い上げる表題曲や、手嶌 葵の名曲「明日への手紙」のカバーは鳥肌もの。それでいて、ご機嫌に身体を揺らしたくなるリズミカルなナンバーもあり、サックスの音色が印象的な「The moon is beautiful」では、グッとムーディな雰囲気を漂わせるなど、この3年間で広がった自身の音楽性を注ぎ込んだラインナップは、まさに高校時代の音楽活動の総括と呼ぶに相応しい。歌詞からは落ち着いた人物像を想像させる彼女だが、今作の多彩さには、その静けさの奥にある弾けんばかりの好奇心の気配を感じる。
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琴音
願い
TV番組"今夜、誕生!音楽チャンプ"で話題を集めた女子高生シンガー・ソングライター、琴音の"ワン!チャン!!~ビクターロック祭り2018への挑戦~"グランプリ獲得を記念した初の全国流通盤。表題曲「願い」をはじめ、"「こんな自分」をなめんなよ"という強い言葉が印象的な応援ソング「音色」、彼女が初めて書いた楽曲「大切なあなたへ」など、彼女の代表曲と言える全5曲が再録バージョンで収録される。丁寧に紡がれた歌詞と落ち着いた歌声が相乗し、具体的な情景が浮かび上がるが、その受け取り方に対する押しつけがましさはなく、ただ寄り添ってくれるような印象。明るいストリングスやバンド・アレンジにより、透明感溢れる歌声がさらに引き立つ本作で、ぜひ彼女の新たな魅力に出会ってほしい。
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小林太郎
合法
フル・アルバムとしては2015年の『URBANO』以来となり、またコロナ禍の世界で生活をしていくなかで、改めて自身の音楽、ロック・ミュージックを奏でる意味合いと向き合ったという最新アルバム。今作の方向性を意識するなかで最初に完成したのが1曲目「骨伝導」だったという。踏み出す一歩をくじく不安や怯えを断ち切るように、鋭いギターのカッティングとビート、これぞ小林太郎という熱くパワフルなヴォーカルを響かせる曲で始まり、アルバムは苛立ちをぶちまけるラウドでミクスチャーな曲や、あるいは心に深く潜って孤独を彷徨うエモーショナルな曲、再び誰かの存在と通じ合う温かな曲と、心情豊かに綴られる。自分自身の心を整えるのはもちろん、曲の向こうにいる人とより密にコミュニケーションを図る作品だ。
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小林太郎 × Academic BANANA
ESCAPE
レーベル・メイトである小林太郎とAcademic BANANAによるスプリットEP。先行発売されていた本作のライヴ会場限定版とは異なるデザインで、収録曲もボリューム・アップした全国流通版がリリースされる。小林太郎の力強いロックな歌声と聴き手が包み込まれるような優しい歌声、Academic BANANAの"ネオ歌謡曲バンド"節が炸裂したノスタルジックな世界観を堪能することができる楽曲をそれぞれ4曲ずつ収録。ラストを飾る共作曲「Escape」での息ピッタリのデュエットやメロディからは、お互いの音楽をリスペクトしている姿勢も窺える。まるで異なるジャンルの音楽性を持つ2アーティストだが、"らしさ"を全力でぶつけ合うことでお互いの良さを引き出す、絶妙なコラボが実現した。
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小林太郎
SQUEEZE
事務所やメジャー・レーベルを離れ、2年半ぶりとなる作品を完成させた小林太郎。この間1年ほどはライヴ活動もしていなかったとのこと。ミュージシャンとしては大きなプレッシャーを感じる時間だろう。その思いを今作収録の5曲で爆発させている。復帰作ということで、これまでの小林太郎像をもう一度強く打ち出す、ダイナミックなロックや、熱いヴォーカルが冴えるバラードを作り上げた。10代のころ同じバンドで活動したエンジニアや、プライベートで親交のあるアレンジャーなど、彼自身をよく知る人とのタッグで、のびのびとギターを奏で、パワフルな声を遠くまで飛ばしている姿が目に浮かぶ。今作を通して、改めて自分の音楽の形も見えたと言う。彼のその先を感じさせる1枚だ。
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小林太郎
URBANO
小林太郎の持ち味である重厚なロック、グランジ、ハード・ロックなサウンドから伸びやかな歌声に加え、前作で見せつけてくれたダンス・ロック、これらすべてを昇華させた熱量の高い渾身の2ndフル・アルバムが完成。ヒトリエのゆーまお(Dr)がレコーディングに参加したというTrack.3「伽藍堂」は、映画"復讐したい"の挿入歌となっており、冒頭からスリリングで躍動感溢れる展開。少しだけ何かが入っていればいいんだと安心させてくれる"カラッポな僕ら"を肯定的に捉えた1曲だ。また、Track.4「花音」では儚い一生を綴る"花"の声を表現したロック・バラード。どの楽曲をとっても研ぎ澄まされた今の小林太郎のベスト盤と言える1枚となっている。脳を揺さぶられるような楽曲に震撼して欲しい。
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