DISC REVIEW
J
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jizue
story
今年結成10周年を迎えるインスト・バンド、jizue。2015年はインドネシアの大型フェス"International Kampoeng Jazz"へ出演し、中国でのツアーを行うなど、海外での活動も目覚ましい彼らの2年ぶり通算5枚目のフル・アルバム。エレクトロな「prologue」に続くドラマチックな「atom」、情熱的なリズムとギター、ピアノの絶品ソロが楽しめるタイトルもズバリな「habana」など、前半から高揚感たっぷり。洒落た楽曲が並ぶ中盤を経て「lost night」で再び燃え上がりエピローグへと向かうストーリーは、現代の日本に想いを馳せずにはいられない。なお、CDのボーナス・トラックにはディズニーの「星に願いを」のカバー、配信のボーナス・トラックには、7インチのみでリリースされた「惑青 feat. Shing02」を収録している。
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jizue
journal
京都発4ピース・インストゥルメンタル・バンドの3枚目。2012年5月に2ndアルバム『novel』を発表しFUJI ROCK FESTIVAL 2012への出演も果たした彼ら。その充実ぶりが窺える約1年という短いタームでの発表となる新作は、ジャケットから受けるアンビエントな“静”の印象とは真逆の、血肉沸き踊るような躍動感に満ちた“動”の作品。「intro」に続き放たれる「rossa」の導火線を駆け上がる炎のようなピアノの連打に導かれて爆発する情熱的な旋律に早くも興奮させられる。激しくも妖しい「buzz」は都会のデカダンスを連想させる映画のようなスケール感。さらに「life feat. YeYe」ではゲスト・ヴォーカルのYeYeによる英詞の歌が感動的だ。同じくゲストの山本哲(Nabowa)が弾く優しい調べに心穏やかになる「holiday」から、そっと目を閉じるような「lamp」まで、インストながらもあまりにも人間味豊かなアルバム。
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JJ
n° 3
音楽メディアPitchforkのBest New Musicに選ばれ、THE XXとのUKツアーも決定している、スウェーデンはヨーテポリのミステリアス・デュオJJ の2ndアルバム。本作は、空気のような音が詰まった作品だ。“空気感” ではなく、空気そのもの。音が、声が、全て水蒸気のように空気中に撒かれていくのだ。まるで、本国スウェーデンの空気がそのまま音となり、流れてきたような。雪が深々と降る夜、吐く息は白く、それが見る間に空気に混ざっていくような。ピュアで純真な美しい音が、全てなめらかに混ざり合い、そこにある空気を真っ白な冬にしていく。それも体の芯まで凍りつくような寒さ。しかし、だからこそ、その中で響く暖色の声はとびきり美しく、優しくも時にポップなメロディは暖かみと安心感を与える。静かに、息を吸い込むように聴いて欲しい1枚。
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J Mascis
Tied To A Star
DINOSAUR JR.のJが2011年の初ソロ名義アルバム『Several Shades Of Why』以来となる2ndをリリースする。前作同様、ほぼ全編アコースティック・サウンドで構成された繊細なプロダクションが印象的だが、なんと言ってもこのアメリカならではの午前中の光の感じというか、だだっぴろい国道に誰もいない感じを醸し出せるのは、先達のNeil Youngか盟友James Ihaぐらいなんじゃないだろうか。しかし耳を澄ますとアコギのアルペジオの背景にお馴染みのファズ・ギターがうっすら鳴っているリード・トラックの「Every Morning」や「Come Down」の"J印"なこと!また、Track.1「Me Again」のナチュラルなアコギのフォーク感の中に配されたオルガンのゴスペル的な美しさ。どんな時も気持ちをフラットにしてくれる。
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J Mascis
Several Shades Of Why
09年に9thアルバム『Farm』リリースでの華々しい復活が衝撃を呼んだDINOSAUR Jr.。THE ROLLING STONESを彷彿とさせるブルースを根底とした、ドラムとギターの昂ぶりがずしりと重なり合うへヴィなサウンドが印象的だ。そのフロントマンとしてバンドの核を成しているJ Mascisが、実に15年ぶりにソロ・アルバムをリリースする。バンドでの骨太なサウンドとは裏腹に、非常にしっとりと落ち着いたアコースティックなサウンドが展開されている。アルバムとしての起伏はしっかりと押さえながらも、全体的流れるようなゆったりとした大きなうねりを感じることができる。凛と響くメロディと、味わいと温かみの感じられるMascisの歌声が哀愁を漂わせているのだ。パンクやハード・コアを好んで聴いているという彼自身の姿は楽曲の根底に沈み込み、美しい音像を描き出すことに成功している。その情景は周囲の空気をゆっくりと色褪せさせていくにも関わらず、不思議と心地がよいのだ。
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JOAN
Superglue
80年代エレポップを基調とした楽曲が本国のみならずアジア圏でも話題を集め、2022年11月には初来日公演を開催したUSオルタナティヴ・ポップ・デュオのJOAN。彼らの初となるアルバムは、親しみやすいソフトなメロディという持ち味はそのままに、進化と成熟も垣間見える作品になっている。サウンドもさらなる広がりを見せ、00年代のポップ・パンクを思わせる「Loner」や、アコギとストリングスのアレンジが沁みる「Monsters」、甘酸っぱく切ない「Flowers」など粒揃いの楽曲を収録している。メンバーそれぞれが父親になった経験を反映した、壮大なラスト・ナンバー「Superglue」は白眉だ。この普遍的なポップ・サウンドは、洋楽ボーイズ・グループをよく聴いていたという人にもおすすめしたい。
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JOAN AS POLICE WOMAN
The Classic
90年代からNYの音楽シーンで活動し、Lou ReedやNick Caveの作品にも参加してきたシンガー・ソングライター、JOAN AS POLICE WOMANことJohn Wasser。3年ぶりとなる今作は、馴染みのバンド・メンバーと共に、街のさまざまなスタジオを転々をしながら、街の空気やインスピレーションを封じ込めた。ヒューマン・ビートボックスによるビートとコーラス、そして彼女の歌で聴かせる肉体的な曲から、バンド・グルーヴとサウンドの一部と化し、またリズムや曲のエンジンとして機能するコーラスが活きた曲など、濃密に練り込まれた構成によるサウンドで、荘厳な響きをも持っている。同時に、いずれもの曲は生々しく官能的に、五感に訴えかける。彼女がクラシックな曲を作りたかったと語る、そのソウルを肌で感じてほしい作品。
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JOAN AS POLICE WOMAN
The Deep Field
しなやかなエモーショナルで描く探究遊泳。Lou ReedやRufus Wainwrightなど、数々のツワモノを虜にしてきたJOAN AS POLICE WOMANことJoan Wasserのオリジナルとしては3年振りの3rdアルバムが届けられた。R&Bやジャズのエッセンスにファンクやゴスペルなどさまざまなアレンジを施し、ムードあるアダルト・コンテンポラリーなサウンドは心地良いが、「Flash」や「Human Condition」に顕著なパーカッションやホーン・セクション、コーラスなど細やかな配置の妙が奥深い音響空間、そして不思議な重力までも感じさせ、まさにアルバム・タイトルを想起する。“Deep Field”――それは最も若く、そして人知の限り最も遠くにある銀河。無限の宇宙を探るように、生への渇望を歌う。その美しさ、力強さ、自由さが素晴らしい。故Jeff Buckley最後の恋人だけに、とても意味深に響く。
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Joe Robinson
Let Me Introduce You
ポストJohn Clayton Mayerと名高い、オーストラリアの21歳の少年がメジャー・デビュー。ベテラン・ギタリストTommy Emmanuelの愛弟子であり、世界中のギター・プロが太鼓判を押す彼の魅力はなんといっても、歌心満載のメロディ。いきなり超絶技連発の極上フュージョンで始まったかと思えば、アコギのタッピングを駆使した爽やかな楽曲へと展開。晴天の朝日のような暖かく包容力のある歌声は、のんびりとそよ風を浴びて聴きたい、デトックス効果のある代物。ただ、ギターのテクニックを披露しているだけじゃなく、フル・バンドで骨太な演奏もあれば、繊細な一面もしっかりと見せる驚異の幅広さは、多くのギター・ファンだけでなく、ジャズやロック・ファンも虜になること間違いなし。
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johann
ZASHIKI-WARASHI fanfare
ドラマーとパーカッションのツイン・ドラム、ツイン・ギター、ベースという編成によるインスト・ロック・バンド、johann。トライバルな祭りのビートにも、ストイックに引き締まったタイトなビートにも振れる、多彩なリズムを活かしてステップを踏ませるバンドだ。日本の民謡や音頭にも近い祝祭感や、郷愁感。また、ダンス・ミュージックの持つフィジカルな快楽性、高揚感。そんなリズムのダイナミズムに、わびさびの余韻があるメロディアスなギターやコーラスが映えて、johann独自の情緒や風情ある音の景色を生み出している。「虹色商店街」(Track.1)や「鬼泣峠」(Track.4)など、どこかにひっそりとありそうな、架空の土地の名前もまた、音の世界を色づける。豪快なアンサンブルで、えも言われぬノスタルジーを誘ってくるバンドだ。
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John Frusciante
Enclosure
天才ギタリストがギターをシンセに持ち替え、音響も含め、新たな可能性を追求した一連のプロジェクトが遂に完結?!John自ら集大成と語る最新アルバムが登場。シンセとエキセントリックなビートの組み合わせを軸にしているという意味では『PBX Funicular Intaglio Zone』の延長と言えるものの、決定的な違いはJohnがこれまで内に秘めていたと思しき歌心を思う存分、オープンにしていることだ。00年代前半のRED HOT CHILI PEPPERSの快進撃はJohnが支えていたんだと改めて実感。ファルセットを交え、Johnが歌い上げる美しいメロディに心が洗われる。トラック・メイキングが若干いびつに感じられるのは、僕らが凡人だからだ。天才である彼の目の前にはこの世で1番美しい世界が広がっているにちがいない。
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John Frusciante
Outsides
元RED HOT CHILI PEPPERSのギタリストであり、シンガー・ソングライターでもあるJohn Fruscianteの3曲入り高音質Blu-spec CD2が日本先行リリース。日本盤はボーナス・トラックが1曲収録され、メディアの取材を一切受けない彼のロング・インタビューを読むことが出来る。Track.1「Same」は、ギター・ソロを全面にフィーチャーした10分を超える大曲。決して派手ではなく淡々としたバック・トラックと、Johnの奏でる緊張感のあるギター。その音色は恍惚としつつもどこか物悲しく、獲物を探すようなはりつめた空気を纏う。深層心理の奥の奥まで突き進むような感覚は、ただの爆音では行き着くことの出来ない境地だ。前衛的な姿勢と独創的な世界。Johnの非凡な才能を目の当たりにする。
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John Frusciante
Letur-Lefr
元RED HOT CHILI PEPPERSの天才ギタリスト、John Fruscianteからソロ名義の新作EPがリリースされる。非常に多作で知られ、レッチリ以降は己のクリエイティヴィティを爆発させてきたが、これは"天才ギタリスト"という冠を葬り去る/ゆえに天才なんだ!という問題作だろう。Johnのコメントから引用すると"この音楽をプログレッシブ・シンセ・ポップと捉えている。5年前から実験的アシッド・ハウス・ミュージックを作り始めたんだけど、徐々にそれを僕のソングライティングやギター・プレイに取り入れるようになった"、と。ヒップ・ホップ、エレクトロニカ、ドラムンベースなど打ち込みを基本とした本作。ANTICONのアーティストにも通じる実験的な音響だ。9月にはフル・アルバムがお目見えするが今作は先行シングルではないので、必聴。
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John Grant
Grey Tickles, Black Pressure
前2作が様々なメディアで年間ベストとなり、2014年にはASGEIRの英訳を手掛けたことで一躍注目を集めた、アイスランド在住SSWによる3作目。エレクトロ・ポップと叙情的なフォーク・サウンドの融合は従来を引き継ぐものだが、新境地のラップを核とした「Voodoo Doll」や Tracey Thornが参加した「Disappointing」などでファンク色を強めている。また、ゲイであることや、HIVポジティヴであることはこれまでも公言し楽曲に反映させてきたが、本作では社会問題的に提起するでも愛を追い求めるでもなく、アイデンティティとしてポジティヴ且つウィッ トにひとクセ与えている。ポップ・ソングにおけるそのエディット・センスは手法は違えどBECKを彷彿させるような、頭の切れる働くおじさんだ。
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Johnnivan
Students
日本/韓国/アメリカの多国籍メンバーで結成された5人組USインディー・ダンス・ロック・バンド、Johnnivanの1stフル・アルバム。音楽的なバックグラウンドという意味でも多国籍な5人で創造するサウンドは、レトロでありつつも現代的で、オンリーワンの音楽性を確立している。一音一音までこだわり抜かれ、緻密で無駄がないながらも、堅苦しさは決してなく、彼らの音楽にただただ身を委ねるのが気持ちいいというのも本作の大きなポイントだろう。個人的には、まずはひとり静かにヘッドフォンで聴き込んでほしい1枚。作品とライヴのクオリティでアジアNo.1を目指すと語る彼らは、今後のアジア音楽シーンにおいての台風の目になる可能性を秘めている。2020年以降要注目。
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JOHNNY FOREIGNER
Grace and the Bigger Picture
思春期性を帯びた“蒼い衝動”で駆け抜けたのがデビュー作であれば、本作の緩急をつけた疾走感は“ 第二次性微の葛藤” がもたらしたものだろうか。性急なビートにフックの効いたメロディーで90年代USオルタナティヴの憧憬を描く3ピース、JOHNNY FOREIGNERが帰ってきた。約1年という短いインターバルでのリリースが物語っているのは、ブレーキ知らずな勢いとPIXIESを彷彿としたギター・リフ+絶叫の嵐!愚直な姿勢は微笑ましいが、エレクトロを薄めより直球なバンド・アンサンブルで勝負した音響構築には確かな成長を感じます。しかし最大の飛躍は、紅一点ベーシストKellyの容姿だったりして!? アダルティーな匂いにドキリとしちゃいましたよ。12月のBRITISH ANTHEMSでの来日が俄然楽しみになってしまった訳です。
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Johnny Marr
Playland
前作からわずか1年で新作をリリースしてしまうところに絶好調が窺える。THE SMITHS解散後、数々のプロジェクトやバンドに参加してきたUKロックが誇るカリスマ・ギタリスト。ソロ名義としては2作目となるこのアルバムには前作の延長上でツアーの熱気を反映させたロックンロールが満載。全編アップ・テンポで押し通したところが潔い。曲の出来とツアーを共にしてきたバンドのコンディションに自信があるから、あれこれやる必要がなかったんだろう。ポスト・パンク調のサウンドも彼の血肉となっているものだ。最も得意としていることをやっているだけにそこに迷いは微塵もない。ギタリストのソロと言うと、歌にオヤ?となることが多いが、Marrの溌剌としたヴォーカルも大きな聴きどころだ。
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Jo Mango
Murmuration
David Byrne、Devendra Banhart、TEENAGE FANCLUBなどとのコラボレーション経験や音楽学の博士号を持つ、グラスゴーを拠点に活動中のSSW、Jo Mangoの2ndアルバム。ギター、ピアノ、カリンバ、オムニコード、グロッケンなど様々な楽器を用いた今作は、もともと4曲入りEPの予定だったが、アイディアが収まり切らずフル・アルバムになったとのことだ。プロデューサーのAdem Llhanと共に3年掛けて熟成されたサウンドは、留まることなく流れる川のせせらぎのような心地良さと美しさ。彼女の唇の動きまでも近くに感じられる歌声を聴いているときだけは、日常の喧騒や世の中に蔓延る不条理さえも忘れられる。淡い音色の中に飛び込み、夢うつつの旅に出かけよう。
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Jonas Bjerre
Skyscraper
この季節に、心温まるクリスマス・プレゼントのようなアルバムである。MEWのフロントマン、Jonas Bjerreから初となるソロ作が届けられた。田舎暮らしに飽き飽きしている17歳の少年と、美しくも盲目の靴屋の少女との物語を描いたデンマーク映画“SKYSCRAPER”のサウンドトラックとして制作されている本作。イマジネイティヴな音響絵巻は、そんなストーリーの起伏を予感させる叙情詩だ。MEWの新作と呼んで差し支えないほど壮大かつ繊細で美しいものだが、ピアノやグロッケンシュピールにホーン・セクションといった細やかなアレンジが活き、そして北欧然とした冷たさもある。活動休止中のSIGUR RÓSに嘆く人がいたら迷わずオススメしたいこの世界観。さしずめJonasとはJónsiの如く覚醒した脳内ピュアリスト、なんて想像しちゃうから。
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JONNY
Jonny
昨年の来日公演も記憶に新しいTEENAGE FAN CLUBのフロントマンNorman Blakeによる新プロジェクト。TEENAGE FAN CLUBの様なシンプルなギター・サウンドと、グッとくるメロディ。そして、ユーモラスでポップなサウンド。期待通りのじつに素晴らしいアルバムに仕上がった近作を聴くと、憂鬱な気分が一気に晴れるよう。今作でNorman Blakeの相方を務めるのは、ウェールズのサイケ・ポップ・バンドGORKY'S ZYGOTIC MYNCIのEuros Childs。お互いの良さがケンカする事なく見事に調和している、この美しいハーモニーと遊び心溢れるマジカルなサウンドは、きっと彼らしか描き出すことができないはず。両バンドのファンはもちろん、すべてのギター・ポップ・ファンにお進めしたい一枚。
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Jónsi
Shiver
アイスランドが誇るポスト・ロック・バンド SIGUR RÓSのフロントマン、Jónsiによる10年ぶり2枚目のソロ・アルバム。CHARLI XCXのクリエイティヴ・ディレクターを務めるA. G. Cookとタッグを組んだ本作では、Jónsiがこれまで築いてきた有機的な音像とは正反対とも言える、硬質でノイジーなエレクトロニカを大々的にフィーチャー。だが、それが彼の繊細な歌声と絶妙にマッチしているし、楽曲の根幹に流麗な歌メロが据えられていることで、混沌の中でどこか安らぎと幸福感を覚えるようなサウンドスケープを生み出している。Elizabeth Fraser(COCTEAU TWINS)やスウェーデンのシンガー ROBYNというゲストVoとのハーモニーも聴きどころ。
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Jónsi
We Bought A Zoo / 幸せへのキセキ
SIGUR RÓSのフロントマンJONSIが映画「幸せへのキセキ」のために手掛けたサウンド・トラック・アルバム。主題歌として書き下ろされた「Gathering Stories」を含む2曲の新曲に加えて、2010年に発表したソロ・アルバム『Go』の収録曲とSIGUR RÓSからの既発曲をバランス良く揃えた内容となっており、まるで彼自身のベスト盤のような仕上がりだ。作品は劇中で使用されているシリアスな響きを持つインスト曲がポップで賛美歌のように歌い上げる曲への良い繋ぎを果たしながら、自然と聴く者を温かくもドラマチックな世界観へと深く誘っていく。そしてエンディングを迎えた後には清々しいまでの独特な心地よさを覚えることだろう。ぜひ映画とあわせて楽しんでもらいたい良作。
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JONSI & ALEX
Riceboy Sleeps
Sigur Ros のフロントマン、Jonsi Birgisson がAlexSomersと組んだ別プロジェクトが本格的に始動、デビュー・アルバムを完成させた。初期Sigur Rosを髣髴とさせるような、幽玄へと誘うサウンド・トリップ。絹のように繊細なインストゥルメンタルとコーラスが織り成す美しい抽象的な風景。体感温度が数度下がったように感じられる、ひんやりとした心地よさを持つアンビエント・ミュージック。ゆっくりと流れて行く音の波が、ここではないどこかへ連れて行ってくれる。日々のスピードとは別の速度で流れる時間軸へと一瞬で連れて行ってくれる開放の音楽だ。音の向こうから薄っすらと浮かび上がってくる、何もないが故に美しい風景。その儚くも豊かな風景を包み込む、オーロラのような作品。
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JON SPENCER & THE HITMAKERS
Spencer Gets It Lit
アグレッシヴでグルーヴィで革新的な、唯一無二のロックンロール・サウンドを鳴らし続けるJon Spencer。彼が2018年リリースのソロ作を経て、ついにJON SPENCER & THE HITMAKERSとして本格始動。THE JON SPENCER BLUES EXPLOSIONとはまた違った激しさ、そして初期衝動を感じるよりプリミティヴな、いい感じに汚しの効いたサウンドは、ただただカッコいいのひと言につきる。PUSSY GALOREでも一緒に活動していたBob Bert(Dr)に、QUASIのメンバーでもあるマルチ・プレイヤーのSam Coomesなど、実力と情熱を兼ね備えたメンバーとの化学反応もバッチリ。ライヴ感のあるヒリヒリしたサウンドは、ぜひ爆音で楽しみたいところだ。
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Jon Spencer
Spencer Sings The Hits
Jon Spencerがついにソロ・アルバムをリリース。このタイトルだが、もちろん全曲がオリジナル。しかしながら、ここにはWilson Pickettがヒットさせた「Land Of 1000 Dances」を連想させるTrack.3「Overload」や、THE STOOGESからTHE KINGSMENに遡ることができるTrack.8「Wilderness」をはじめ、60年代のガレージ・ロックや、ガレージ・ロック・バンドが影響を受けたリズム&ブルースへのオマージュが溢れている。Track.12「Cape」なんてJonのTHE CRAMPSへの愛でいっぱいだ。レコーディングはシンセ担当のSam Coomes(QUASI etc)、ドラム担当のM.SORDを迎えて敢行。Jon自らメタル・パーカッションを叩いたジャンクなサウンドは、かつてのバンド、PUSSY GALOREも彷彿させる。
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THE JON SPENCER BLUES EXPLOSION
Freedom Tower - No Wave Dance Party 2015
8年ぶりにリリースした前作『Meat And Bone』を原点回帰と絶賛する人たちも少なくないが、原点回帰というなら、ルーツなロックンロール路線だった前作よりも断然、R&B/ファンク/ヒップホップに改めて取り組んだこちらだろう。ジャンクなロック・サウンドとブルース/R&B/ファンク/ヒップホップの組み合わせこそがJSBXの真骨頂。そこに20年のキャリアに相応しい円熟と老獪さが加わった現在のJSBXはまさに無敵と言ってもいい。Amy Winehouseの『Back To Black』他、多くの名作を生んできたニューヨークのハウス・オブ・ソウルことDaptone Studiosでレコーディングを行い、最高のサウンドとともにとらえた3人のケミストリーを聴けば、誰もが再始動後の彼らが絶好調だと確信するはずだ。
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V.A.
THE JON SPENCER BLUES EXPLOSION vs ギターウルフ
アリストテレスの言葉を引用する――友情とは2つの肉体に宿れる1つの魂である。THE JON SPENCER BLUES EXPLOSIONとギターウルフとは、まさにそんな関係に思える。ルーツに対する憧憬または純粋な愛情、そして先鋭性を持ってモダナイズしたロックンロールを描き続けてきた両者は、ブルースとガレージの相違はあっても根幹は同じなのだ。"それぞれに影響を受けたバンドのカヴァー曲とここぞの勝負曲"をテーマに選曲された4曲は、1つの魂を追求する上で最良のアイテムと言えるだろう。さらにボーナスDVDには昨年11月下北沢SHELTERで行われた対バンを完全収録。チケット即完でプレミア化しただけに泣く泣く見逃したファンは必見だ。あの伝説の夜が蘇る......。
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THE JON SPENCER BLUES EXPLOSION
Meat And Bone
ジョンスペ、8年振りの新作となる『Meat And Bone』。シンプルなタイトルそのままに、ギミックのないストレートなブルース愛とプリミティヴな衝動に溢れている。過去にはBECKやCHUCK Dをフィーチャリングするなど多彩なゲストを招いていたが、本作はゲストなし。特別な絆で結ばれた3人ががっぷりと組み合い制作されたものだ。キャッチーでヘヴィなギター・リフに彩られた「Black Mold」のオープニングから一気に駆け巡るジョンスペ・ワールド。「Boot Cut」や「Danger」のパンキッシュな熱情、「Ice Cream Killer」や「Strange Baby」のファンキーなジャムと、数多いハイライトと彼らの多彩な引出しに舌を巻く。ブルースをパンクのように壊し、またはヒップホップのように組み立ててきたルーツを辿り見つめた新たな原点。オッサン侮るなかれ!
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José González
Vestiges & Claws
デビュー・アルバム収録の「Heartbeats」が2005年、SONY BRAVIAのCMに使われ、世界中で知られるようになったスウェーデンのシンガー・ソングライターが8年ぶりにリリースする3作目のアルバム。フォークとブルースの影響が色濃い曲の数々を、アンビエントなサウンドとともに聴かせるという意味では、彼らしい作品と言えるが、力強いビートを始め、若干、楽器や音色の数が増したことで、これまでになかった躍動感が息づきはじめた。初のセルフ・プロデュース作品。中には6分を超えるブルース・ナンバーもある。聴きごたえがあるのはやはりTrack.3の「Stories We Build, Stories We Tell」を始め、フォークとブルースの影響に彼のルーツである南米の音楽のエキゾチシズムが加わった曲だ。
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JOY
ソラリゼーション
“ソラリゼーション=モノクロ写真の白と黒が反転する現象”――JOYの世界では、モノクロな感情をカラフルな感情が圧倒し塗り替えて行く、一種のソラリゼーションを見ることが出来る。Yukoの透き通るような透明度の高い歌声が広がる童話のような世界。まるでおとぎ話だ。おとぎ話同様にほんのりと香る不安や哀しみといったトゲさえも、暖かい陽だまりのような温もりが悲しみも全てを飲み込む。影に覆われた世界であっても、その膜を払拭し、大きなステップへと向かって行くような前向きな姿勢が感じられる。そして、力強さと同時にそっと身を潜めている脆さの存在にも気付くだろう。“キミに気付いて欲しいだけなのにな” ―ふと、見せる表情にはっとさせられる。弱さを受け入れてこその強さなのだ。無限に広がる物語は、誰にも微笑みかけるのだ。
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JOYCE MANOR
Million Dollars To Kill Me
CONVERGEのKurt Ballou(Gt)によるプロデュースで制作された、JOYCE MANORの5枚目のアルバムとなる今作は、レコーディング中メンバーが合宿のように集まって寝泊まりしていたというだけあって、アットホームな雰囲気の温かいメロディに包まれた作品となった。パンク/ハードコア畑とも関係は深いが、全体的にミドル・テンポでポップでシンプル、それでもってエモいインディー・ロックを鳴らしているあたりは、WEEZERとも通じる部分がある。思わず口ずさみたくなるようなコーラス・ワークなど、USインディー好きはもちろん、UKパンクや90s'エモ好きにも刺さる音楽性。派手さはないが、近年のEpitaphを支えるバンドのひとつであることは間違いないだろう。
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JOYCE MANOR
Cody
カリフォルニアを拠点に活動するインディー・ロック・バンドの4枚目のフル・アルバム。ほぼ2年おきにコンスタントにアルバムをリリースしている。パンク・バンドと紹介されることの多い彼らだが、ミディアムのシャッフル・ナンバー「Angel In The Snow」(Track.3)や続く美しい旋律のバラード「Do You Really Want To Not Get Better?」(Track.4/※タイトルの長さに反して曲は1分半以下)といった豊かな表現力を持った曲たちが収録されている。キラキラしたギターから始まるTrack.7「Over Before It Began」の叙情性溢れるメロディは日本のギター・ロック好きにも広く受け入れられそう。パンキッシュなTrack.10「This Song Is A Mess But So Am I」まで全10曲、元気がもらえる充実作。ツアーでの再来日に期待したい。
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Juana Molina
Wed 21
来月1日に実現する久々の来日公演(Hostess Club Weekender)に合わせ、アルゼンチンの女性アーティストによる最新アルバムがリリースされることに。約5年ぶりとなる今回はブエノスアイレス郊外にある自前のスタジオで、たった1人で完成させたという完全セルフ・プロデュース作。ふわふわと漂うウィスパー・ヴォイスの歌を聴けば、(アシッド・)フォークにも聴こえるが、それがギター、パーカッション、シンセ、電子ビートを使った音響効果的なトラックメイキングと1つになると、(インディー・)ダンス・ミュージックにも民俗音楽にも聴こえるところがおもしろい。その歌心と閃きに満ちた音作りは、アルゼンチン音響派の歌姫が同時に最も現代的なシンガー・ソングライターの1人であることを物語る。
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juJoe
juJoe
2018年に解散した元QOOLANDの平井拓郎(Vo/Gt)と菅 ひであき(Ba/Cho)に、佐藤ユウスケ(Dr/Cho)を加えたjuJoeによる1stフル・アルバム。誰かに聞かせるつもりもなく、バランスをとることもせずに完成させたという衝動的な全7曲には、"生きたい"と"死にたい"の狭間で揺れる不安定な感情が、えぐるような言葉で綴られている。"人間に慣れないまま三十路になっていく"と、自身の生きづらさを吐露する「三十路」や、"お前はそんなに立派で清潔なのか"と、何かと物申したい社会の風潮への怒りをぶちまける「石」。それらは共感すら求めず、ただ生み落とされただけの無骨で歪な歌ばかり。だが、だからこそ同じような苦しさを抱える誰かの救いになるのではないだろうか。
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Julian Casablancas
Phrzes For The Young
THE STROKESのメンバーそれぞれが本隊とは別に素晴らしい作品を発表する中、沈黙を守ってきたフロントマン、Julian Casablancasが遂にソロ・アルバムを発表した。ソング・ライティングはTHE STROKESのそれなのだが、ドラム・マシーンやキーボードを多用した洗練されたトラックに乗ると、楽曲がまた違った輝きを放つ。Julianの声も穏やかでありながら色気があり、気張っている様子など微塵もない。フォーキーな楽曲もメロウな曲も挟みながら、憎らしいほどに洗練されたロックンロールを鳴らす。Julian Casablancasの才能に改めて感服させられる、極上のポップ・ミュージック。こんな作品を聴かされると、THE STROKESの新作が待ち遠しくなる。
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JUNIOR BREATH
ザ・リビングシングス
今、ロック・バンドが歌うべきことは? リアルな現実か、儚い夢か、ロマンチックな恋愛か。JUNIOR BREATHが3rdフル・アルバムのテーマとして歌うのは、それらすべてを包み込んだ"生活"。しみったれたところは微塵もなく、そこから抜け出そうというプロパガンダでもなく、かと言って楽天的でもない。フォーキーなサウンドに乗せてじっくりと歌われるTrack.1「ザ・リビングシングス」からラストのメッセージ・ソングTrack.13「シーユーレター」まで、今を生きる自分たちの身の周りを歌いながら、聴く者に心地よく力強く響く全13曲。始まっては終わりまた始まる、まさに生活をそのまま詰め込んだ1枚だ。
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JUNIOR BREATH
ROCK BLESS YOU e.p
大阪を拠点に活動し、2016年に結成10周年を迎えた4人組ロック・バンド JUNIOR BREATHが初めてリリースするEP。「ロックブレスユー」の演奏と歌の内容には、キャリアを重ねてきたバンドだからこそ、今改めてロックへと向かうフレッシュな情熱を感じることができる。「サマーマーチ」、「サーティーエイジラスト」とストレートなギター・ロックが続く中、ビール愛を表した「ビアイズジャスティス」は前半後半のハチャメチャな疾走ぶりと一杯飲み干したあとに酔いしれているような中盤のまったりとしたレゲエ調のアレンジが楽しい。7月18日には服部緑地野外音楽堂にて主催の野外フェス"ROCK BLESS FESTA 2016"を開催することにも注目だ。
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JUSTICE
Hyperdrama
フレンチ・ハウスの革命児、JUSTICEが前作『Woman』(2016年)から約8年の歳月を経て本格的にシーンにカムバック。今作は、TAME IMPALAやTHUNDERCAT、MIGUELなど、幅広いアーティストをフィーチャーし、多彩な音楽表現に挑戦した意欲作。クラシカルなディスコ風のプリミティヴな楽曲が目立った前作とは一変して、今作はよりモダンで重厚感のあるサウンド、曲調はエモーショナル、それでいてファンキーという、より自由度の高い作品となった。3年前にGaspard Augéがソロ作をリリースしていることもあり、この数年の間、JUSTICEが停滞していたのではなく、本作に向けて様々な挑戦と成熟の期間が持たれていたということだろう。改めて彼らの創造性に驚かされるアルバムだ。
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JUSTICE
Woman Worldwide
フレンチ・エレクトロ・シーンを代表するJUSTICEが、新作のライヴ・スタジオ・アルバム『Woman Worldwide』をリリース。会場の空気感をそのままパッケージした前2作のライヴ・アルバムとは異なり、今作では彼らの持ち味であるエネルギッシュなライヴ・パフォーマンスを、パリのスタジオでの緻密なレコーディングで再現。1stアルバム『†(Cross)』に収録のアンセム「D.A.N.C.E.」から前作アルバム『Woman』収録の「Safe And Sound」まで、ほぼベスト・アルバムと言うべき楽曲を大胆にアレンジ/リミックスし、無駄を削ぎ落として根底に存在するロック・スピリットの純度を高めたようなストイックな音像でまとめ上げている。長年のファンは新たな発見があるだろうし、初めて彼らの作品に触れる方にもおすすめしたい1枚だ。
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JUSTICE
Audio, Video, Disco
フランスのエレクトロ・デュオJUSTICEが4年振りに新作をリリース! 前作同様、今作も全ての制作をセルフで行っている。3人のヴォーカリストを招き、インスト曲とヴォーカル曲どちらも収録。曲によって、美しくセクシーなヴォーカルが入り、メタルのようなギター・リフが入り、80'sを彷彿させるポップ感もあり、シンプルでありつつも複雑なプログレ感もあり......二人の持つ音楽に対するいい意味でのやりたい放題感に終始翻弄されっぱなしだ。それと同時に、音楽は自由であるべきものなのだと痛感した。全体的にスロー・テンポな楽曲が多く、それがまた楽曲の持つ華と彼らの自信を際立たせている。音楽に強い愛情を持ち、小細工無しで真っ向勝負を挑んだ、非常にエネルギッシュな1枚。
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