DISC REVIEW
ア
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赤色のグリッター
存在証明
湧き上がる感情や興奮がそのまま音楽になったようだ。無防備なくらいに純粋で飾り気がない、底知れぬパワーに満ちている。「海より」という曲はその最たる例で、4人が鳴らす大きな音を通じて佐藤リョウスケ(Vo/Gt)の見た景色や感情が鮮明に自分にトレースされていくような感覚もあった。2ndミニ・アルバム『世界は赤色』から配信含むシングル2作をリリースして届けられた1stアルバムは、音楽を楽しむというシンプルな感情が隅々まで鳴り響く快作だ。精力的なライヴ活動で個々の音の説得力が前作よりも段違いに増したことに加え、今作は浅田信一をプロデューサーに迎えているがゆえに録音状況や音作りも非常に良く、曲の威力がさらに増している。走る想いに突き動かされるように鳴る音と歌が眩しい。
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赤色のグリッター
未来飛行機/1.2.3
登下校の道、チャイムの音、冷たい廊下、友達の顔。何度も繰りかえされる"大人になってから"という未来に向けられたフレーズを聴きながら自分の学生時代が走馬灯のように頭の中を巡った。昨年高校を卒業したばかりという赤色のグリッターが歌うからこそ、こんなに滲んでいくのだろう。ファンの間ではすでに話題となっていたという「未来飛行機」が1stシングルとしてリリースされる。すぐにでも口ずさめてしまえるようなキャッチーでどっしりとしたメロディが学生生活を切り取った切ない歌詞を助長していて、1度聴いたら忘れられない楽曲に仕上がっている。一方、もうひとつの表題曲「1.2.3.」はガラリと曲調の違う、ダンス・チューン。"この世界は手のひらサイズさ"というこれからの赤色のグリッターにとって頼もしい歌詞が印象的だ。
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赤色のグリッター
世界は赤色
当時現役高校生にしてRO69 JACK 13/14のグランプリを獲得し、一気に知名度を上げた千葉県柏発、平均年齢19歳の赤色のグリッター。6月にリリースした初の全国流通盤『傘から見た景色』から約5ヶ月というインターバルでリリースされる2ndミニ・アルバムは、世界を赤色=自分たちで染めたいという強い意志が込められている。佐藤リョウスケの実体験やそのときに感じた混じり気のない気持ちが詰め込まれた歌と、演奏者の手元が見えるほどに生々しい音色が刻む6つのドラマ。佐藤は自分自身の抱いた感情を、我々に向かってひたすらまっすぐ、対話するように歌う。もちろんまだまだ粗削りではあるのだが、その切実さは青く、その熱情は赤い。この青と赤がこの先どうなるのか、注目したい。
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アカシック
オレンジに塩コショウ
TVドラマ"ラブホの上野さん"の主題歌を表題曲にした前シングル『愛×Happy×クレイジー』が好評を博したアカシックの2ndシングル。意味深なタイトルは"普段だったら絶対しないことをしてしまうくらい混乱している様子"を喩えたもので、心情を具体的な行動に置き換えて表現する理姫(Vo)の手腕に改めて恐れ入った。甘酸っぱいヴォーカルとミドル・テンポでダイナミックなバンド・サウンドはセンチメンタルさと力強さを兼ね揃え、ひとりの女性が夏の失恋を乗り越えようと奮闘するという楽曲の世界を丁寧に描き出している。ピアノとストリングスをふんだんに含んだドラマチックでゴージャスなTrack.2、跳ねるリズムがポップでキュートなTrack.3と、全曲がリード曲級に華やかで濃厚だ。
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アカシック
愛×Happy×クレイジー
約1年ぶりとなるリリース作品は、TVドラマ"ラブホの上野さん"の主題歌を表題にしたシングル。理姫(Vo)ならではとも言える凛とした女心を綴った歌詞、ストリングスやホーンなどを用いたゴージャスで豊潤なサウンド、ロック・バンドの鋭さと躍動感が三位一体となった、まさしくアカシックとも言うべき楽曲に仕上がっている。甘酸っぱくセンチメンタルなメロディに漂うハッピー感は、悲しみを乗り越えた人間の前向きさ。"愛してる"と歌う言葉の華やかさに胸が焦がれた。カップリングには初の全国流通盤『コンサバティブ』に収録された「幸せじゃないから死ねない」のリアレンジ・バージョン、90年代初期を彷彿とさせるユーモラスなデュエット・ソング「平成へゴー!」、初回盤のみ新曲「福富朝陽」を収録している。
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アカシック
凛々フルーツ
壮大で濃厚。ボリュームも満点。長編の恋愛映画を見ているようだ。バンド初のフル・アルバムは彼らの原点でもある、世代を問わず響くいい曲を作るというポリシーが遺憾なく発揮された作品になった。楽曲ごとに趣向が凝らされ、言葉を効果的に響かせる理姫のヴォーカルもヒロインとしての華がある。全員が主役として存在する均一性がとれたアンサンブルも俯瞰で見るときれいな1枚の絵だが、ひとつひとつに着目するとひとクセふたクセあるところも面白い。ストリングスを用いた感動的なバラードも完成度が高く、ヴォーカルとコーラスとピアノで展開されるTrack.7、シューゲイザー的アプローチのTrack.8など、バンドの表現方法も格段に増した。思春期を過ぎたアカシックに、大人の魅力が香り立つ。
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アカシック
DANGEROUS くノ一
再生ボタンを押して、ど頭、スタイリッシュなベースのワン・フレーズを聴いただけで聴覚を鷲掴まれた。擬音で表すならばまさに"ビビッ"ときた。5人組男女混合ロック・バンド、アカシックのメジャー・デビュー・ミニ・アルバムとなる今作は、"女=くノ一"がテーマ。女という生き物が抱く生々しくも少女的な感情を、理姫(Vo)がギャルチックな歌声でシニカルに歌い上げる。時にサイケデリックに、時に切なげに奏でられるキーボードの音色が、一筋縄ではいかない女心を表しているようでなんとも痛快だ。見た目が派手だろうが地味だろうが、恋愛のドツボにはまればみんな同じ。女子の味方、アカシック。女心の教科書的存在になるであろう期待の1枚。
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アカシック
コンサバティブ
PUNPEE、禁断の多数決などのMVを手がけるAVレーベル"性格良し子ちゃん"がアートワークを担当していることも話題な3人組ロック・バンドの初の全国流通盤。2012年に会場限定で発売された音源から人気曲「終電」「ツイニーヨコハマ」が再録されている。エキセントリックに都会の生活を綴った歌詞を聴くと、日本のロック・ポップスに登場する女の子は椎名林檎とやくしまるえつこに大別されてしまうような気がして、どうしてもイメージがどちらかに引っ張られてしまう。それでも魅力的な声だし、過剰な装飾がないかわりにピリリとスパイスの効いた小気味良いアレンジの演奏との相性が抜群に良い。中でもワウ・ギターが牽引するガレージ昭和歌謡ディスコとでも呼びたくなる「有楽」の無理矢理な展開が面白くて何度も聴いてしまった。
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赤丸
狂ウ夏集
都内のライヴハウスを中心に"超現場主義"で活動をする4人組ロック・バンド、赤丸。初の全国流通盤『he said,she said』から約1年ぶりとなる3rdミニ・アルバム『狂ウ夏集』は、これまで赤丸がライヴで大切に育ててきた楽曲をブラッシュアップした自信作だ。初めてアレンジにストリングスを加えたアグレッシヴな「紫陽花」で始まり、和テイストのメロディが東京に生きる孤独を描き出すバラード曲「ゆらり」に至るまで、激しさのなかに見え隠れする抒情的なニュアンスがバンドの個性として光る。こじらせた感情を前作以上にリアルに綴る歌詞の中で、"生きてる証を見つけるよ/それをキミと一緒に探そうか?"と歌う「キャラバン」は、ライヴを基盤にする彼らならではの新たなアンセム。
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赤丸
he said,she said
悔しさをバネにバンドの存在を広く届けていくのだという決意を込めた赤丸のニュー・ミニ・アルバム。これまで頑なに会場限定にこだわっていた生粋のライヴ・バンドが、ついに初の全国流通盤に踏み切った。あえてライヴの盛り上がりは意識せずに、試行錯誤しながらも丁寧なアレンジで仕上げた今作は、怒りや混乱、過去の記憶や諦め切れない未来への想いなど、様々な感情が混沌と渦巻いている。前作ミニ・アルバム『the world is mine』の流れを汲んだ「絶叫トランスミッター」に始まり、新たなチャレンジとなったダークなダンス・ロック「ぼくらの」から、追憶のミディアム・バラード「九月の詩」に至るまで、心の中で熟成された言葉にできない感情は、泥臭いロック・サウンドによく似合う。
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赤丸
the world is mine
広島で結成された4人組ロック・バンド、赤丸。ライヴハウスに足を運んでもらうことを意識してライヴハウス&通販限定でリリースする1stミニ・アルバムが到着。"世界は俺のもの"だと堂々と宣言している今作は、25分のライヴ・セットを丸ごと収録したかのような1枚。疾走感ある四つ打ちの曲あり、レゲエのリズムを取り入れた変り種あり、コブシを突きあげたくなる曲や、男泣きのミディアム・バラードなど緩急ある音に仕上がっている。自分で立てた目標になかなか辿り着けずもがき苦しむ現状をそのまま歌詞に落とし込み、リアルな"自分の世界"を繰り広げている。大きな目標があるからこそ、成し遂げられない自分に苛立つ気持ちは誰もが抱えることで、そこに共感できる人はたくさんいるはず。"赤丸成長中"の彼らをぜひライヴハウスで目撃してほしい。
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秋山黄色
SKETCH
TVアニメ"僕のヒーローアカデミア"第6期のEDを飾る表題曲「SKETCH」。ピアノを基調とした温かみのある旋律が印象深く、計り知れない痛みすらも容易く癒してしまいそうな包容力を備えたミディアム・ナンバーだ。叫ぶように発するファルセット、セクションごとに様相を変えるビートなど彼らしいトリッキー且つ攻めの要素も満載で、1秒たりとも聴き逃せない。"ヒロアカ"の物語がシリアスな展開に突入し、よりヴィヴィッドに描かれるようになった各登場人物の心情に歌詞を重ね合わせられる点は、タイアップ楽曲ならではの特徴。全"ヒロアカ"ファンを唸らせる傑作の誕生を祝したい。カップリングの「年始のTwilight」では、皮肉を交えた痛快なワードを続けざまに放り込む策士な一面が炸裂。噛めば噛むほど味の出る1枚となった。
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秋山黄色
アイデンティティ
"生命"を肯定する音楽はいくらでも見つけられるが、秋山黄色のそれは傷だらけの必死な"生命"を誇る歌だ。TVアニメ"約束のネバーランド"第2期のOPを飾る表題曲は、物語の幕開けを感じさせる爽快感あるサビや歌メロはもちろんだが、イントロの硬質で刺すようなギター・サウンドと、感情を噛み締めるように続く歌がとにかく胸に迫る。見えない檻に囲まれているかのような閉塞感の中で過ごす日常では、心を殺し痛みから目を逸らしていたほうが楽に生きられるだろう。しかし、そんな生き方をしている自分は"歩く死人"に過ぎないのかもしれない。地べたを這うような惨めさも、どうにも消えない息苦しさも、どんな痛みや癒えない傷跡でさえも自分自身のアイデンティティであると、彼の歌は思い出させてくれる。
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秋山黄色
From DROPOUT
シンガー・ソングライター、秋山黄色のメジャー1stフル・アルバム。一躍彼の代表曲となった「やさぐれカイドー」や、自身初のドラマ主題歌「モノローグ」をはじめ、強靭な求心力を秘めたギター・リフやフック満載のサウンドを内包した楽曲が肩を並べる。それらに胸を掴まれるまま身を委ねるうちに見えてくるのは、大人になりきれず、地べたをのたうち回りながら生きる男の姿だ。大人と少年の狭間を揺れ動きながら周囲を拒絶し、孤独に悦楽すら感じていた男が、いつしか自分自身の心もとなさを受け入れてゆく。そんな切実な感情を、時に狂おしく、時に朗々と歌い上げる秋山の歌心には目を見張るものがある。名刺代わりと言うにはあまりに生々しく鋭利な、秋山黄色という歌い手の血肉を感じる快作だ。
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秋山黄色
Hello my shoes
2017年末に活動を開始した22歳のソロ・アーティスト、秋山黄色。今作はとにかく「やさぐれカイドー」が凄まじい。秋山によるハーモニクスがアクセントとなるギター・リフにZAZEN BOYSの"柔道二段"松下 敦のパワフルなドラム、井上陽水のツアー・ベーシスト なかむらしょーこのグルーヴィなベース。それだけで重厚且つキャッチーな旋律を生み出しているのだが、そこに"やさぐれ"感のある剛毅な歌声、突如まくしたてる言葉が相まって、耳にこびりつくキラー・チューンとなった。と思えば、シンプルなバンド・サウンドに乗せて、"専門学校中退のフリーター"と謳う彼らしい、夢と現実との乖離を嘆き叫ぶ曲「とうこうのはて」なども収録。宅録部屋から大きな一歩を踏み出す作品になった。
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秋山璃月
DAWN TO YOUTH
今年8月に開催された"未確認フェスティバル2017"のファイナル・ステージで、シンガー・ソングライターとして初めてグランプリに輝いたリツキの1st EP。そのステージで披露された「偏見」のほか、グランプリ獲得後に書き下ろした新曲も含めて全4曲が初の音源化となる。アコースティック・ギターとリツキの歌のみという必要最低限のシンプルな弾き語りによる研ぎ澄まされた音像には、言葉にすることはできない焦燥や葛藤、孤独のようなものがざらついた質感のままパッケージされている。新たに書き下ろした「スコットランド・ダンス」が放つ陽性のアプローチにリツキの底知れない可能性を感じつつ、わずか4曲に作品としての奥行きまで意識したバランス感覚も含めて、やはり逸材だ。
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アグリオン
ロックロマンティック
バンド結成10年以上のキャリアを持つ彼らが満を持して発表する初の全国流通盤にして1stフル・アルバム。川崎雅(Vo/Gt)が作ったデモをメンバーで再構築していくという手法で制作されており、約2年間の月日を費やしたというところに強いこだわりを感じさせる。ノイジーなサウンドを炸裂させても耳が痛くならないのは丁寧なサウンド・プロダクションの賜物ではないだろうか。男臭くも透明感を兼ね合わせた川崎のヴォーカルがとても良い。特に「14歳」「ハッピーナイトメア」「おばけのまち」と続き"朝がこのまま来なけりゃいいのに"と叫ぶ「夜の魔法」に至るまでのエモさは特筆もの。ぜひライヴで爆発するところが観たい。
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アゲハ
UPPER SCHOOL 2
好みの問題と言えばそれまでかもしれないが、今作のリード曲「Reverb」は実に秀逸なものだと感じた。4人のメンバーがひたすらに歌い、ただただ奏でる。かなりシンプルな要素で構成されたこの楽曲は、それでいて圧倒的な訴求力をもって聴き手の耳と心へじわじわと浸潤してくるのだ。聴きようによっては、こちらがリード・チューンであってもいいくらいにメロディが強い存在感を持っている「EDEN」、揺紗(Vo/Gt)の持つ独特のポップ・センスが色鮮やかに花開いている「TN8」、いちギター・ロック・バンドとしての実力が音からしかと窺える「Ulysses」とデモ・バージョンで収録されたc/wたちにももちろん隙はない。始動からまだ半年足らずとはとても思えない、アゲハの確かな羽音がここにある。
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アゲハ
UPPER SCHOOL
サナギが変態を経て成虫となっていくプロセスは、実に驚異的だ。甲殻類の脱皮とは違い、虫はサナギになった段階で自らの分泌する酵素により中枢器官以外の組織を破壊し、その後たんぱく質を組成してメタモルフォーゼを果たしていくことになる。アゲハというバンドの生い立ちにはまさにそれと重なるところが多々あり、4人のメンバーはこれまでの経験値や培ってきたスキルをコアに持ちながらも、この期にバンドとしての新たな生命を誕生させることとなったのではなかろうか。ぶっちゃけ筆者がこの文を書いている段階では、リード・チューン「NORMCORE?」を含めた全4曲しか手元に届いてはいないが、現在制作中であるという新曲たちにもまた、彼らの未来へ向けた可能性が込められることになると確信している。
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亜沙
令和イデオロギー
時の移ろいと共に変化してゆくものと、時がいくら移ろいゆこうとも変わらないもの。亜沙が今作で体現しているのはその両方だろう。日本の伝統楽器を取り入れた和楽器バンドのベーシストであると同時に、時代の最先端をいくボカロPとしての顔も持つ亜沙にとって、それらとはまた別のチャンネルで展開されるソロ・ワークスはより自由な場であるに違いない。しかも、今作においては本人が新しいことに挑戦したいと意識していたとのこと。EDMの手法を導入した「Moonwalker-月の踊り手-」は中でも出色の仕上がりだが、個人的にはかつてのKagrra,を彷彿とさせるような「茜色フッテージ」の美旋律も堪らない。大胆な「TOKIO」のカバーぶりや、朴訥とした「just close to you」での弾き語りも沁みる。
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亜沙
1987
名うてのベーシストであるだけでなく、亜沙には優れたコンポーザーとしての才覚も存分に備わっており、そればかりか近年はソロ・ヴォーカリストとしての実力さえ研鑽してきた。そんな彼にとっての今作は、まさに文字どおりのセルフ・カバー・ベスト・アルバムとして仕上がっている。大名曲「吉原ラメント」を筆頭に、いわゆるボカロ曲として世に出たものたちを亜沙がここで改めて歌うことにより、それぞれの楽曲がより色濃く鮮やかに描き出されていく様は圧巻だ。そして、わびさびやノスタルジーを湛えた旋律に漂う機微は、繊細にしてどこまでも美しい。母艦である和楽器バンドでの表現方法とは一線を画する、亜沙ならではのモダニズムとセンスが光る純度100パーセントのソロ・ワークス世界を、みなさまどうぞ召しませ。
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浅井健一
METALLIC MERCEDES
浅井健一の、ソロのフィジカル・リリースとしては約5年ぶりのタイトル。曲ごとにジャストなミュージシャンと制作するスタイルで、表題曲ではSHERBETSでもお馴染みの仲田憲市(Ba)、以前のソロでも組んでいた岡屋心平(Dr)、キルズ(浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS)の小林 瞳はコーラスで参加している。ブルースやサイケデリック、少しGSのニュアンスも含んだいぶし銀のアンサンブルの上を、ベンジーのピュアなヴォーカルが響き、静かにまっすぐ前を向かせてくれる。「INDY ANN」はキルズのメンバーで、静謐な表現でもぴったり息の合った演奏を堪能。「Freedom」はベンジーの語るような歌とアコギ、美央のヴァイオリンのみの音像が心を揺さぶる。
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浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS
Sugar
2017年3月に1stアルバム『METEO』をリリースし、年間3本のツアーで、中尾憲太郎(Ba)、小林 瞳(Dr)とのバンド感をさらに増した3ピース。小林のロカビリーをルーツに持つシンプルながら躍動感のある若いビートと、中尾の重いのに速いベースは、浅井健一の疾走するR&Rと独自の瑞々しいリリシズムを際立たせる。トルネードのように駆け抜ける「Vinegar」や「Turkey」、愛嬌と才能が入り混じる、でも生きるのが不器用な主人公を見守る視点の温かさに、浅井ならではのひらめきを感じる名曲「Fried Tomato」、ピアノやフルートを効果的に配置した懐かしい匂いのする「水滴」など、オールド・ファンはもちろん、若いリスナーにもこの厳しくも美しい人生を感じる作品を聴いてほしい。
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浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS
METEO
"ロックンロールなの、これ? 俺は(呼び名は)何でもいいよ"とベンジーは言った。ギター、ベース、ドラムのトリオによる演奏がたまたまそうなったということだから、ことさらにそこにこだわる必要はないと思う。しかし、Track.2「朝の4時」のようなサイコビリー・ナンバーは、このアルバムの聴きどころだと思うし、ガレージ・ロック風のリフを奏でてもロックンロール以上の何かを表現してしまう才能は今回、そういう作風だからこそ際立っている。ロカビリー・サウンドに乗せ、マス釣りをこんなにかっこよく歌えるミュージシャンを、僕は知らない(作家ならヘミングウェイがいるが)。悲哀に満ちたメロディとともに25年前の思い出に世界の真理を見いだしたTrack.3「細い杖」を聴き、また1曲、名曲が生まれたと思うファンは多いはず。
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浅井健一&THE INTERCHANGE KILLS
Messenger Boy
『きれいな血』と『CRASHED SEDAN DRIVE』という素晴らしいアルバムをわずか7ヶ月というインターバルでリリースしたSHERBETSの精力的な活動を経て、浅井健一が約2年ぶりに取り組むソロ・プロジェクトは、トリオ編成のバンドとなった。メンバーは元NUMBER GIRLの中尾憲太郎(Ba)と無名のドラマー 小林瞳。挨拶代わりにリリースするこのシングルは、ロカビリーやガレージの影響が色濃い4曲のロックンロール・ナンバーがTHE BLANKEY JET CITY時代からのファンを狂喜させるものになっている。ラストを飾る「Rat Party」は軽快なモータウン・ビートと明るい曲調を裏切る歌詞の世界がベンジーならでは。残酷なファンタジーとも言えるその深さが、すでに完成しているアルバムの伏線になっているようだ。
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浅井健一
FRIED RICE - Pocky in Leatherboots Tour FINAL at SHIBUYA-AX -
浅井健一名義で1月にリリースされたアルバム『PIL』を引っ提げて開催された全国ツアーのファイナル公演である、2013年3月4日のSHIBUYA-AXの模様を完全収録したDVD。ベンジーのキャリアを総括するようなセットリストも然ることながら、素晴らしいのはこの4人のグルーヴだ。4人の音の交錯はカー・チェイスさながらにスリリングでありながらも、圧倒的な多幸感がある。弦楽器隊の3人が同じ動きでキメる「MORRIS SACRAMENT」、4人のソロを織り込み魅せる「MAD SURFER」など遊び心も満載。2本のギターによる音のふくよかさにも高揚する。フロアの歓声やシンガロングも情熱的で、浅井健一というアーティストの魅力を再確認。非常に純度が高く、肉体的でダイナミックな120分を堪能出来る。
TOWERamazon
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浅井健一
PIL
ソロとしては前作「Sphinx Rose」以来、3年4ヶ月ぶりとなる新作。茂木欣一(Dr)、岡屋心平(Dr)、渡部圭一(Ba)、マーリン(Ba)とのバンド・セッションをベースにしたハードでノワールなロックンロール・ナンバー、そしてドラム・ループに乗せて他の楽器やシンセを浅井ひとりで重ねていった繊細で神聖なイメージのナンバーの両方が収録された、まさにソロならではの表現が詰まった意欲作。インタビューにもあるように、1人でヴォーカルやコーラスを重ねた楽曲の(「青いチョコ」「Mona Lisa」「エーデルワイス」など)メロディやファルセットの美しさ、声の近さが醸す映像や温度を感じさせるような世界観は、ジャンルを問わずあらゆる音楽ファンの琴線を震わせるはず。
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浅井健一
OLD PUNX VIDEO
今年はSHERBETSとしての活動が盛んだったベンジーこと浅井健一がソロ活動を再スタート。来年1月にはソロとして3年半振りのオリジナル・アルバム『PIL』をリリースすることも決定しており、このシングルには同アルバムにも収録される楽曲を含む新曲4曲で構成されている。表題曲「OLD PUNX VIDEO」はキャッチーなロック・ナンバー。気負わずもひりっとしたアンサンブル、ラフなベンジーのヴォーカルのバランスが非常に小気味良い。「MORRIS SACRAMENT」はメランコリックなアルペジオとコーラス、クールな低音の効いたビートが交錯し、「PLAY」「HOT ROD No.1」はパーソナルな感傷を繊細に表現。より深みと広がりを増すベンジーの曲世界に、アルバムへの好奇心が煽られる。
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浅井健一
Sphinx Rose
浅井健一ソロ名義としては、4 枚目のアルバムが完成した。それぞれ全く違うモードを見せた2ヶ月連続シングル「FRIENDLY」「Mad Surfer」を始め、様々なスタイルを持つ楽曲が収められている。「FRIENDLY」や「Your Smile」のように、素朴で穏やかなアコースティック・ナンバーから、ベンジーらしいどこか妖艶で危険な雰囲気を醸し出す「Mad Surfer」や「スケルトン」。そして、「Bad Strawberries」のようなストレートなロック。ヴァイオリンをフィーチャーした荘厳なバラード「大きな木」。今のベンジーがさらけ出すように紡ぐ言葉は、シンプルで優しい。ラストの「SPRING SNOW」の愛に満ちた日常のファンタジーまで、まるで一つの物語のような、美しく力強いアルバムだ。
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浅井健一
Friendly
浅井健一ソロ名義としては、約2年ぶりのリリースとなるシングル。驚くほど穏やかな空気に満ちた4曲が収録されている。ヴァイオリンをフィーチャーした「Friendly」や「Spring Snow」では、ベンジーが見出す美しさと優しさを穏やかに語りかけてくる。ピュアなものに対する憧れはベンジーの物語には欠かせないが、この飾り気のなさはどうだろう。ここにあるのは、素の浅井健一の視線だ。ソリッドな「Bad Strawberries」や比較的へヴィな「Sensational Attack」でも、ベンジーはこの世界に向けて愛を振りまく。これまでにはないベンジーの表情に驚かされるが、ここには確かな説得力がある。初回生産限定盤(「Sensational Attack」は未収録)には、何と自身初のフィギュア(!)がついてくる。
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杏沙子
ノーメイク、ストーリー
次世代ポップ・シンガー・ソングライター、杏沙子が"素顔"をテーマに自身がこれまで出していなかった部分を表現した意欲作。爽やかで明るくて衒いのない彼女だが、その裏にある繊細な想いや意志があぶり出され、今作を聴くとその存在を近くに感じることができる。揺れ動く傷んだ心を描く言葉選びが見事なリード曲「見る目ないなぁ」、大人の女性ならではの視点で恋のときめきを綴る「クレンジング」、強気なファンク・ナンバー「Look At Me!!」、諦めや怒りも孕んだクールな印象の「東京一時停止ボタン」、負の感情をポジティヴに変換する「ファーストフライト」と、収録曲それぞれで表現される豊かな表情がとても人間らしい。素顔を曝け出して様々な曲に挑戦したことで、より彼女の魅力が拡張していきそうだ。
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アシガルユース
Like or LoveStory
大阪発、アシガルユースのメジャー・デビュー・シングル。メタボリックなルックス、最高級にスウィートな“実体験ゼロ”のラヴ・ソング…色々と反則な要素の多いバンドだ(笑)。中でも特筆すべきは、大袈裟にデコレーションされたJ-POPであるという点。カタカナ英語を盛り込み、まるでアイドルのキャッチ・フレーズのようにポップでロマンティックな歌詞に、サビに向けて盛り上がっていくメロ・ドラマのような曲展開。実生活上のリアリティが全くないからこそ、潔癖すぎるほどにキラキラしているからこそ痛快なのだ。「こんなのただの嘘臭いラヴ・ソングじゃん!」とかは言いっこなし。何度も言うが、“実体験はゼロ”なのだから。これって健全? 不健全? どっちでもいいじゃん。ポップ・ソングとしてはこれもまた楽しい正解だよ。
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梓川
Shifter
2020年4月に音楽活動を開始し、SNSに"歌ってみた"を投稿。2022年からはオリジナル曲を発表してきた梓川が、待望の1stアルバムをリリースした。牛肉、雄之助、tokiwa、SHOW、wotaku、higma、水槽、是、ポリスピカデリーといった、錚々たるクリエイターが参加。楽曲もバラエティに富んでいるが、ラップも歌謡曲もダンス・ミュージックも梓川は艶やかに歌い上げている。注目は、梓川自身が作詞/作曲に携わった「ナーヴ」と「パラノイア」(「ナーヴ」編曲はbnbnと共作。「パラノイア」編曲は雄之助)。様々な楽曲に向き合う器用さの一方で、"逃げんな/もう理想なんて要らない"と叫ぶように歌う「ナーヴ」と、"明日も塗り替えて/考えないで 振り返らないで!"と軽やかに言い切る「パラノイア」からは、一本気な性格が見えてくる。
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新しい学校のリーダーズ×H ZETTRIO
狼の詩
メジャー・デビュー時からH ZETTRIOのピアニスト、H ZETT Mが楽曲プロデュースを手掛けている、ダンス・パフォーマンス・ユニット 新しい学校のリーダーズ。今作は、作曲をH ZETT M、作詞は昭和の時代から数々の名曲を生み出してきた阿久 悠、そしてH ZETTRIOの演奏で、新しい学校のリーダーズが歌うコラボとなった。昭和を知らない彼女たちが歌う、昭和の香り漂う歌謡ジャズは新鮮だが、青春やその葛藤や孤独といったテーマは普遍的だ。ハードボイルド・タッチの、孤高の姿を捉えた歌詞は、男性の歌手や、自然と哀愁が滲み出るもう少し大人の歌い手が似合いそうだが、意外にも4人にうまく(背伸びせずとも)ハマっている。クールで飄々とした歌とシュールなパフォーマンス、洒落たサウンドが心掴むシングルだ。
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あたらよ
極夜において月は語らず
"THE FIRST TAKE"でも披露され話題の代表曲「10月無口な君を忘れる」や「夏霞」を始め、忘れられない"君"の残像を探す「交差点」、「極夜」、"君"への思いを日記のようにストレートに綴る「悲しいラブソング」、「嘘つき」など、"悲しみをたべて育つバンド"を象徴する"別れ"を歌った楽曲が並ぶ1stアルバム。ひとみ(Vo/Gt)が紡ぐ、素直な感情を吐露した人間味溢れる"生きた言葉"たちは、儚くも体温のような温かさをもって聴く者の心に溶け込む。そんな彼女の繊細な歌声を引き立て、エモーショナルに盛り上げるバンド・サウンドもまた、多彩なアレンジにより様々な角度から悲しみや孤独を表現。そのどれもが痛いほど胸に突き刺さり、そして寄り添うように心に残っていく。
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あたらよ
夜明け前
どんなに時間を重ねても脳裏から消えない"無口な君"の顔。そんな忘れられない思い出を切々と歌い上げる「10月無口な君を忘れる」が、バンド初のオリジナル曲ながら、2,500万回再生(※2021年9月現在)を記録している4人組バンド、あたらよ。初の7曲入りEPは、"悲しみをたべて育つバンド。"を標榜するバンドのアイデンティティが深く刻まれた1枚だ。ヴォーカル、ひとみが手掛ける繊細なメロディに寄り添い、起伏に富んだアレンジ。ストレートなギター・ロックを主体に、艶やかなピアノにのせて"あの夏"に散った恋心を描いた「夏霞」など、楽曲ごとに異なるアプローチで完成された全7曲からは、2021年下半期に登場した大型新人バンドの"この先"への期待も高まる。
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アップル斎藤と愉快なヘラクレスたち
The radical boys
セルフ・タイトルの1stミニ・アルバムから2年、宇都宮の若き4人組が精力的なライヴ活動を経て、ついに完成させた1stフル・アルバム。ニューヨーク・ドールズを意識したに違いないジャケットにピンと来た人は絶対、聴いた方がいい。しかし、ガレージ・パンクからフォークまで思った以上に多彩な全11曲はRAMONESからTHE BEATLESに遡るだけでは絶対作りえないものだ。そこがこの4人組の末恐ろしさ。青春の叫び声と刺々しい爆音を奏でる演奏の向こうに21歳という若さには不釣合いな幅広いバックグラウンドを持ったバンドの姿が浮かび上がるところが興味深い。ラストを飾る「DeeDee RAMONE」ではレーベルメイトであるSpecialThanksのMisaki(Vo/Gt)が見事な歌声を披露して、アルバムに花を添えている。
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アナ
イメージと出来事
2011年にドラムが脱退し2人体制となったアナから、3年ぶりに届けられた5thアルバム。バンド至上最もポップに仕上がった今作をじっくりと聴いていると、邦楽の素晴らしさにはたと気付かされる。大久保の豊富な語彙、日本人らしい表現、短編映画の世界に引き込まれるような歌詞世界には感銘を受ける。ゲスト参加している3人の女性ヴォーカルとのハーモニーも聴きどころだ。90年代、渋谷系と呼ばれたスチャダラパーや電気グルーヴから影響を受けたという彼らの楽曲には、そのルーツとなる70年代ソウルの片鱗も見え隠れする。柔軟なメロディは老若男女どの世代の心をも掴むだろう。堂島孝平やカヒミ・カリィのファンにもおすすめしたい。
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アバランチ
彼岸花と置手紙
山梨発の4人組ロック・バンド、アバランチの初の全国流通盤。新旧楽曲を網羅した本作は、彼らにとって現時点でのベスト・アルバムと言えるような作品だ。陰と陽、マイナー・コードとメジャー・コード、激情のアッパー・チューンと穏やかなミディアム・バラード――両極を行き来するサウンド、その渦中にある振り絞るようなヴォーカルが映し出すのは、愛し愛されたいと願い、それゆえに足掻きまくる主人公の姿。氾濫寸前の濁流のような全13曲(ボーナス・トラック含む)はあなたの心に深い爪痕を残すだろう。いわゆるギター・ロックものではあるが、変拍子や特徴的なリズムの取り入れ方など、アレンジ面における工夫がどのパートからも読み取れる。漲る気合がそのまま表れた意欲作だ。
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あふりらんぽ
NEVER ENDING AFRIRAMPO
初めて彼女達を見て、その迫力とパワーに圧倒されたのがついこの前のようである。歴史を語るにはあまりにも短い。10年6月に突如解散を発表したあふりらんぽから、ライヴCD+2枚のDVDという、3枚組の大ボリューム作品が届いた。CDには梅田Shangri-raで行われた3時間半に渡るファイナル・ライヴのベスト・テイクが収録されている。ソリッドでありながらキャッチーなドラムとギターのアンサンブルと、腹から声を張り上げるオニとピカのツイン・ヴォーカルは、鬱蒼としたものを全て薙ぎ払うド迫力。解散ライヴというと感傷に浸ることが多いが、気持ち良いくらいに普段のあふりらんぽ通りなのが音だけでも伝わってくる。彼女達が別々の道で気持ち良くリスタートを切れたのは、このライヴの賜物だろう。
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