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LIVE REPORT

Japanese

"夏の魔物2017 in KAWASAKI"

2017.09.10 @川崎市東扇島東公園

Writer 稲垣 遥

昨年まで青森で行われていた、THE 夏の魔物主催のロック・フェス"夏の魔物"。昨年、10周年の節目を迎え、11年目の今年は場所を関東へ移し"夏の魔物2017 in KAWASAKI"として開催された。
初めての関東開催となったが夏の魔物ならではの、ビビッドに振り切ったクロス・カルチャーと目まぐるしくあちこち(※全7ステージ)で個性を爆発させた音が鳴る空間というのは川崎でもまったく変わらず健在。愛すべき唯一無二の異端ロック・フェスである。

11時20分、雲ひとつない晴天の下、THE 夏の魔物 アントーニオ本多(エモーショナル担当)らによる、ハルク・ホーガン体操(※往年のレスラー ハルク・ホーガンのコスチュームに扮し、ラジオ体操第一に合わせて彼の動きをコピーするというもの)でイベントは開幕。移動中に覗いたグリーン・ステージでは"電話1本で出れるフェス"と一部の界隈では人気の"フェスボルタ"企画が開始。岡村靖幸ならぬ"岡田靖幸"が岡村ちゃん独特のダンスやクセを完コピするなど、足を止めてニヤニヤする人続出のオープニングを繰り広げていた。そして会場はずれの掘っ立て小屋のようなテント"MAMONO HOUSE"ではプロレスやゲームなどのディープなトークが繰り広げられてゆく。

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そんな滑稽で混沌とした空気のすぐ傍でヒリヒリしたステージが展開されるのが魔物の面白いところ。レッドの魔物ステージではTHE 夏の魔物が登場。"俺たちがTHE 夏の魔物だー!"という成田の叫びが響き渡り、そのまま「魔物BOM-BA-YE ~魂ノ覚醒編~」で一気にボルテージを上げる。アントーニオ本多も1曲目から客席へ飛び込んでオーディエンスを巻き込む。昨年とは気合が違う......! 彼らはもう"夏の魔物というフェスのために結成したユニット"ではなく、場数を踏んで、フェスを代表するひと組のバンドとしてメイン・ステージでロックしていた。アンプに脚を掛けて前のめりで歌う成田のフロントマンとしての貫禄や声量もパワーアップしているうえに、キュートなルックスと裏腹、頭上まで脚を蹴り上げたり、西(越川和磨/Gt)と向かい合い煽るように力強く歌ったりするチャン(泉 茉里/Vo)の存在感がかなりのパンチ力で目を奪われる。ペンライトと拳が入り混じって突き上げられる景色も彼らならでは。全員が同じ方向を向いた初期衝動のようなものを感じた凄まじいライヴだった。

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ブルーの魔物ステージでは、青森のゆるキャラ、にゃんごすたーがX JAPANの楽曲などを全然ゆるくない超絶高度なドラム・テクニックで演奏し大盛り上がりさせたあと、病みかわいいアイドル"ぜんぶ君のせいだ。"のパフォーマンスが始まった。ドクン、ドクンという心臓の鼓動音とともに、メンバーが"ぜんぶ君のせいだ。ぜんぶ君のせいだ......"と俯いて呟きながらステージへ現れ、その言葉のループに、一瞬背筋が凍るような彼女たち独自の空気を作ってゆく。"ぜんぶ君のせいだ!!"という悲鳴のような叫びのあと、一十三四が"死ぬ気で暴れろよー!"と声をあげ攻撃的な「キミ君シンドロームX」でスタート。アイドルの現場では掛け声や合いの手は当たり前ではあるが、この曲のなかで"キミの世界にわたし......「いないんだよね?」"という歌に対し"いるよー!"と彼女たちのファン=患いが返すシーンはなんとも胸アツだった。

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ピンクの魔物ステージで、音合わせからオーディエンスを躍らせていたのはSCOOBIE DO。メジャー時代の事務所の先輩、山下達郎の「RIDE ON TIME」をファンク・チューンにカバーするなど存分にあたためたあと、改めて4人が登場し、"帰ってきたぜ夏の魔物ー!"とディスコ・ナンバー「アウェイ」で幕開け。設置されたミラーボールも回り続け、昼間からフロアをダンスホール化し当たり前のように初見の者も取り込んでいく。コヤマシュウ(Vo)は"キミは誰だ! どこにいるんだ!"と屋根のない炎天下のステージ際まで来て汗まみれになりながら目の前の"キミ"に問う。新曲「Cold Dancer」は打ち込みのダンサブルなサウンドに3人の生バンドの鋭さが重なり、問答無用に腰が疼き身体が動いてしまう、彼らの新たな一面も感じられるグルーヴィな1曲。今目の前で起こる煌めく事実に生かされている感覚を燃やし尽くし、"音楽がないと生きてけねぇって奴、声を聞かせてくれ!"とマイクを向けるとフロアから各々が言葉にならない声をあげる。コヤマは頷き、次はライヴハウスで会おうと"LIVE CHAMP"として大きく手を振った。

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夏の魔物名物の360度全方向をオーディエンスに囲まれたプロレスリング型のイエローの魔物ステージ。ここでこの日最も激しい盛り上がりを見せたのはPassCodeだった。彼女たちは登場するや否や、リングのロープから身を乗り出して観る者を煽る。それに呼応するようにリングの下は揉みくちゃ、あちこちで次々にリフトやクラウド・サーフが巻き起こったのだ。今田夢菜のデス・ヴォイスが要所要所に挟まれることで、近年増えつつあるラウド系アイドルの中でも圧倒的に本格派のハード・ロック・アイドルであることを感じさせる。最新アルバムのリード曲「ONE STEP BEYOND」は途中今田のデス・ヴォイスから曲のBPMがガラリと変わる展開で、熱狂は渦を巻いて増した。南 菜生が"まだまだまだまだ上にアガっていきたい、いこうぜ夏の魔物―!"と叫ぶのを合図に「Club Kids never die」が披露され、ステージとフロアの境界線がなくなったかのような大合唱。縦横無尽にリングを駆け回る4人の大迫力のステージングだった。

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荒々しいバンドが多いなか、ホワイトの魔物ステージに麦藁帽子を被ってゆるく登場した中村一義。"20年前のデビュー曲やりまーす!"とさらりと名曲「犬と猫」を始め、歓声が上がった。ピンクの照明の下、一気に爽やかな風が吹き、(カオスな顔ぶれのおかげで忘れていたが)雲ひとつない空と、西日に輝く海の目の前というロケーションになんともぴったりだ。MCでは3年ほど前から本イベントに熱烈に誘われていたことを明かし、改めてルーキーから20年選手まで、ロック少年(成田)の好きなものをこれだけジャンルレスに集めたイベントは他にないなと思わされた。疾走感溢れる瑞々しい「スカイライン」は"たまんねぇな! おもしれぇな!"という歌詞のまま底抜けにハッピーで「1,2,3」ではフェスならではの雑多な観客の自由な反応を面白がって何度もマイクを向け、"なんだ、夏の魔物最高じゃないか!"と満足げに笑ったのだった。

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そしてさらには、結成36年目となるパンク・バンド、ラフィンノーズがとてつもないステージを繰り広げていた。"今夜は最後までハッピーにいこう!"と「戦争反対」を叩きつけ、まさに現代の日本で我々が叫ばなければならない台詞を大声で叫ばせてくれた。パンクとはいえ誰でもすぐに入り込めるほどポップで、シンプルだからこそ、ライヴというピストルで弾丸のように爆音でぶっ放されればマッハで衝撃が走る。"愛のないパンクなんかいらないんですよ"そうCHARMY(Vo)が語り、「Crash St. Rules」で夢だけをがむしゃらに追う、まさに彼らの生き様を歌い上げた。ラストに演奏した、様々なアーティストへ影響を与えた往年のパンクのアンセム「GET THE GLORY」では、彼らの同志、SAのNAOKI(Gt)がサプライズ登場し、ライヴの熱はさらにヒートアップ。赤々とした夕陽へ向かって目を見開き、拳を挙げて燃えるメンバーの姿に心底グッときてしまった。

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MCとギターのラップ・グループMOROHA。リング・ステージが似合うと言われたことに対し"ナメんな。俺がマイクを握ればいつだってリングなんだよ"とかますアフロ(MC)。バックの音が鬼気迫る想いを掻き立てるギター1本であるがゆえに、リリック自体がハッキリと刺さりすぎる。胸が痛いなどとよく言うが、そのレベルを超えて痛く、痺れてその場から動けない。そのうえ、時事ネタにも触れつつその場の状況などアドリブを交えてどんどん熱量を増し襲い掛かってくる様はもはや事件。なぜそこまで直接的に響くのか、それは、誰しもが経験しつつ目を逸らしがちな生き方への問いを、彼ら自身が目の前で闘う姿を見せることで投げ掛けてくるからだ。その姿勢を表すかのように"俺達は君たちと同じく凡人だから、地を這って立ち向かうしかないんだ。どうか負けないで。どうかみなさん、命を懸けて......!"そんな言葉を残して去っていった。思わず泣き出してしまいそうな容赦なしの緊迫したステージに多くの人が拍手をすることを一瞬忘れ、圧倒されていた。

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"MATSURI STUDIOからやってまいりましたZAZEN BOYSです"という向井秀徳(Vo/Gt/Key)の台詞でZAZENのステージは幕開け。1stアルバムの1曲目であり己への自問自答を破裂しそうな緊迫感で奏でる「Fender Telecaster」からライヴがスタートし、次いで「HIMITSU GIRL'S TOP SECRET」と、尖った刃を突き立ててくる。"川崎CITY!"時折向井はオーディエンスに投げかける。それは決して一体感を求めてのものではなく、お前も闘っているのか! という苛立ちともとれる攻撃だ。そしてメロウなナンバー「KIMOCHI」ではロマンチックさも感じられる詞に、スピードを増し殺傷能力を高めてゆく松下 敦のドラムが重なり、ギシギシと心が軋む。"ZAZEN BOYSここに在り"と言わんばかりのとめどない変態的楽曲の数々にため息が出る。"乾杯"向井はいつものようにこう締めくくり余韻を残していった。

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革ジャン革パンにサングラス。ギターウルフの3人の登場だ。リズムとか譜面とか関係ない。理屈ではなく、アンプをフルテンにしてバーン! と鳴らせばそれでいい、といったような魂が剝き出しの3人のステージは痛快なくらいに潔かった。戦略やアレンジ、小賢しいものは一切いらないと言わんばかりのシンプルでキャッチーなギター・ロック・ナンバー、「ジェット ジェネレーション」を好き勝手に演奏し、自身も島根出身の"田舎もん"であるがゆえに田舎で開催していた夏の魔物が関東に進出してきて鳴らしていることが嬉しいと語るセイジ(Vo/Gt)。"みんなゼロなんだよ、でもただのゼロじゃない!"と自分をも鼓舞するかのような言葉を発した。

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ここまであちこちで鳴らされてきた音楽が止み静寂を迎え、暗闇で白く照らされたリング。ステージ向かいの海の方から"超魔物"と筆で大胆に書いた旗を振り回し真っ白な衣装で人の上を歩いて大森靖子が登場。フェスのヘッドライナーを務めるのは初という彼女だが、この日はバンド・セットではなくギター1本のみを持ち、ひとりで挑むことを選んだようだ。肌寒くなり緊張感も張り詰めるなか、大きく息を吸い「マジックミラー」を歌った。"どうして女の子がロックをしてはいけないの?"そんなリリックにも表れる、他人の目に敏感でありながらもそれをはねのけたい者の意志を、投影される対象であり本人を映し返すもの=マジックミラーとして力強く歌う大森の決意表明の曲である。聴く者の想いを引き受ける覚悟を見せた大森は、ラストにステージを降り、オーディエンスの最も近くで、力を振り絞るようにアカペラで「さようなら」を歌い上げた。これ以上ないくらい締めくくりに相応しく、美しかった。

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最後は、主催のTHE 夏の魔物のリーダー成田大致から、改めて夏の魔物に来てくれた観客と、開催にあたって共に走り続けてくれたスタッフへの感謝の気持ちがしっかりと伝えられ、過去最高動員を記録したことも発表された。"10年でひと区切りと思ってたし、今回も先のことは考えてなかったけど、またやりたくなってしまいました"そう話した成田にあたたかく大きな拍手が贈られた。そして、最後は曽我部恵一が作曲したTHE 夏の魔物のアンセム「東京妄想フォーエバーヤング」を出演者全員で歌い幕を閉じた。 成田自身がロックを感じたものだけに想いを伝え、実現したロック・フェス。来年の開催を今から待ち望むばかりだ。

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