挫・人間 下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第34回】

挫・人間下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第34回】

2023年12月号掲載

挫・人間

クリスマスが近づいてくると「Skream!コラムの〆切が近いな......」と思うようになった。クリスマスについて書くのは6回目になる。そういう罰ですか？

おれが高校時代の話だが、某ネット掲示板ではクリスマスになると、「性の6時間」と呼ばれる時間に街へ出て、ぶっ通しで正拳突きをする風習があった。

当時、ネットではオタクがとにかく踊り狂っており、歌い狂ってもいたのだが、そのお陰もあって正拳突きをするオタクを見てもすんなり受け入れられたというか、「クリスマスが楽しそうでいいなあ」と思うほかなかった。

時は流れ、上京したおれはバンドをやるも特に売れず、特にモテず、特に世界を恨んでおり、クリスマスに「ミーティング」と言い、非モテの友人で集まっていた。

しかし段々と皆恋人などを作るようになり、ある年突然ロンリークリスマスを過ごすことになってしまった。去年までは皆、雪山のロッジで救助がくるまで裸で温めあっていたのに......。

せめてケーキでも食べようとコンビニに向かうと、気付いたら電車に乗って秋葉原に到着していた。心のどこかで、誰かが正拳突きを繰り出しているのではないかと期待していたのかもしれない。

しかし、どこまで歩いても正拳突きを繰り出している者は居ない。ゲーマーズではでじこがクリスマスをぶっとばそうとしており、コトブキヤではダンボーがサンタ帽を被っていても、皆がその前を足早に去って行く。

まあ、そういうものかとも思い、ビキニ姿でサンタ帽を被っている美少女イラストを眺めていると、声が聞こえて来た。

「聖夜（セイヤッ）！」「聖夜（セイヤッ）！」

えっ？！と思い振り返ると友達同士であろうオタクふたりがじゃれあうように正拳突きをしていた。

「正拳突きするノリあったよな〜オレらもやっちゃう？！」
みたいなノリで始めたのかもしれないが、そこに他のオタクの集団がやってきて、何故か円になり10分程正拳突きをして解散していった。一瞬の夢である。

THE BLUE HEARTSが『街』という曲で歌っていた。
「いつか見るだろう同じこぶしをにぎりしめて立つ人をきっと見るだろう」

まさか、こんな悲しいこぶしだったとは。確かに、おれはこぶしを握りしめたまま眺めていた。ヒロトは真実を歌っているなあ。

おれたちは知っている。恋人もおらず、男同士、もしくは1人で秋葉原の街なんかに行き、幸せそうな顔を尻目に思いっきり不幸らしく振舞う快感を。好きな人と食べるケーキより、牛角のカルビご飯が甘い日がある。それがクリスマスなのである。

家族や恋人と過ごすだけがクリスマスじゃない。正拳突きをしたっていい。VTuberの配信を待ち続けたっていい。酒に飲まれてしまってもいい。

何をするにしても、すべての人が幸せなクリスマスを過ごしてくれることを祈っている。

祈るので、サンタさん、お願いです。クリスマスの予定をください。ミニスカサンタが3人くらい居たら、幸せに過ごせると思います！お願いします！みんなで正拳突き、させてください！

挫・人間

2008年、熊本で結成。"閃光ライオット2009"の決勝大会に進出し、同大会のキャンペーン・ガール、夏未エレナが選出する"夏未エレナ賞"を受賞。2013年に1stアルバム『苺苺苺苺苺』を発表。2021年3月にUSEN STUDIO COASTにて単独公演を実施した。昨年9月に2ndシングル『このままでいたい』、2023年7月に「夏・天使」、10月に「セイント・ギロチン」を配信リリース。11月には新体制初となる東名阪ワンマン・ツアー"バンドやろうぜ東名阪～ゾクゾク♡（続々）メン募ツアー～"を開催した。

前のコラム

次のコラム