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LIVE REPORT

Japanese

挫・人間

Skream! マガジン 2023年03月号掲載

2023.02.20 @渋谷CLUB QUATTRO

Writer 稲垣 遥 Photographer:森 好弘

9年間在籍した前ギタリスト、夏目創太が脱退してから初めてとなる挫・人間のワンマン・ライヴが渋谷CLUB QUATTROで行われた。果たしてどんなライヴになるのか? 以前よりインタビューでもフロントマン、下川リヲ(Vo/Gt)はバンドの変化を恐れるどころか前向きに考えている旨の発言をしていたため、ネガティヴな気持ちは特段なかったが、予想がつかないというのが正直なところだった。だが、SEに合わせサポートのキョウスケ(ex-爆弾ジョニー/Gt)、キモツ(THE 抱きしめるズ/Dr)を引き連れて登場した下川リヲとマジル声児(Ba/Cho)が中央でポーズを決めて歓声に包まれ、下川が「天使と人工衛星」のギターをかき鳴らし光に照らされた、その堂々たる光景を観たとき、挫・人間が久々にワンマンで彼らの音を鳴らす、それ以外のことはまったく気にすることなどないのだと思わされたのだった。手拍子をし、飛び跳ねるオーディエンスを包む胸がキュンとするメロディと甘い歌声、"ギター、キョウスケ!"の下川のひと声で前に出てソロを高らかに鳴らしたキョウスケ。下川も声児も笑顔がこぼれていて、1曲目から最高と言いたくなる幕開けだった。

そこからはディスコ・チューン「人類終了のおしらせ」、高速ギターや下川がバチバチの照明を浴びながら早口で捲し立てる様がかっこいいダークなロック・ナンバー「人間やめますか?」を続け、ヒート・アップしていくフロアを受けてどんどんグルーヴ感を増していく、これぞライヴの醍醐味! と言いたくなるステージ。

"今日はロックだからあんま喋んないようにする"と宣言し、さらに上げていくかと思いきや下川がアコースティック・ギターを掛けて、最新シングル「このままでいたい」をどこまでも温かな演奏と歌声で奏でる。イロモノ的なイメージも持たれることが多いであろう挫・人間だが、こんなに素直なポップ・ソングもやれてしまうところがニクい。そしてそのムードは、渋谷系チックで軽快且つキュートな「オタルの光」、フォーキーでノスタルジックに"あなた無しでも歩けるさ"と歌う「大バカもののうた」と続き、出会いと別れを繰り返してきたバンドの歩みとも重なる、愛の詰まった惜別の歌たちに胸が温まった。このあとのMCで明かされたが、下川がライヴでアコギを演奏したのは初めてだったようで、このタイミングで新たな魅せ方をさらりとやってしまったりもするのが彼らなのだ。

キョウスケのカッティング・ギターからスタートした「おしゃれメロス」では、洒脱でいてファンキーなダンス・チューンに声児お得意のスラップ・ベースがはじけ、下川はマラカスを振りながら歌い、ミラーボールに照らされダンスホールと化したフロア。しかし、会場はそこから一気に挫・人間の真骨頂とも言えるディープな世界に堕ちていくことに。1stアルバムからの下川の怒りの咆哮が響き渡るロックンロールなショート・チューン「人類」で会場を真っ赤に染め上げると、"大きな声で意味のない言葉を叫んでみましょうか! 念力が欲しいー!!"とさらに速度を上げ、カオティックなポスト・ロック「念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ~」を投下し、"念力念力念力"の掛け声(?)と共にはちゃめちゃな盛り上がりを見せ大歓声が起きた。

"よう来たな!"と平日、しかも月曜から集まった多くのオーディエンスを労う下川。フロントの3人はこの日の前日、レッチリ(RED HOT CHILI PEPPERS)の来日公演を観に行ったらしく、冒頭から"ロックだから"と繰り返す理由は、そこでモロにレッチリの生演奏に衝撃を受けたからのようだ。そして実際、この日の挫・人間のロック・バンド感は凄まじかった。それはレッチリの影響でロック・バンドに憧れる少年心が沸き立っているのに加え、声出しが可能になり大盛り上がりするフロアの熱も吸収してのものだっただろう。さらに、この日初めて挫・人間のライヴに来ている知人の息子がいるという話から"童貞に捧げます!"と「明日、俺はAxSxEになる......」、「ゲームボーイズメモリー」を披露し、パンキッシュな「恋の奴隷」では拳が一斉に上がった。

"もう後半です"と下川が告げると"えー!"の声が飛び、"「えー!」って久々じゃない!? もう1回!"と興奮気味の下川。"「えー!」とか「下川死ね!」とか言えるようになって良かったです"と言うと、"下川死ね!"のヤジも飛び、"うわぁあぁー!"と下川が大げさに倒れるという茶番が誕生。上手、下手、真ん中、と繰り返して笑いを起こし(今日はロックだからMCは短くするんじゃなかったのか)、"じゃあ、またお会いしましょう! 挫・人間でした!"と「絶望シネマで臨死」からラスト・パートへ。横に長いクアトロ(渋谷CLUB QUATTRO)の端から端まで腕が大きく振られる景色に思わず笑顔になってしまう。抜けのあるポップなメロディからヘドバン必至のヘヴィな極悪サウンドへ、カオティックな展開で振り回す「セルアウト禅問答」で"アイラブユー"を叫び、グッド・メロディの名曲「さよならベイベー」、そして最後の最後は「クズとリンゴ」で再び"アイラブユー"を畳み掛け、レアな選曲ながら、寧ろラストに相応しい感動的な締めくくりとなった。下川と声児の掛け合いがあったり、下川とキョウスケが向かい合ってユニゾンでギター・ソロを奏でたり、キモツも時に立ち上がって前のめりにドラムを叩いたり、とにかく4人共楽しくて仕方がないような様子で、最高潮の盛り上がりで本編を終え、拍手を受け再び現れた彼らは、「下川最強伝説」で恒例の"除霊"をして去っていった。

アンコールでは次回のワンマン"挫・人間 (新)メンバー募集2023-バンドやんない?-"を発表し、新曲のレコーディングも行っていることを明かした下川。充実のパフォーマンスを見せつけたあとの"やっとるから! 任せろ!"の言葉が頼もしかった。"「ずっとメンバーを募集してるバンド」って言われてます"なんて自虐も挟んでいたが、下川がライヴ前のブログで"挫・人間、良い感じである"と綴っていた通り、立ち止まるどころかどんどんパワーをつけ温まっているかの如く、今が最高と体現するようなライヴだった。


[Setlist]
1. 天使と人工衛星
2. 人類終了のおしらせ
3. 人間やめますか?
4. このままでいたい
5. オタルの光
6. 大バカもののうた
7. ソモサン・セッパ
8. おしゃれメロス
9. 人類
10. 念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ~
11. 明日、俺はAxSxEになる......
12. ゲームボーイズメモリー
13. 恋の奴隷
14. 絶望シネマで臨死
15. セルアウト禅問答
16. さよならベイベー
17. クズとリンゴ
En. 下川最強伝説

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