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LIVE REPORT

Japanese

挫・人間

Skream! マガジン 2018年08月号掲載

2018.06.24 @LIQUIDROOM ebisu

Writer 沖 さやこ

正統派ロック・バンドとは、いったい何をもってして正統派と言うのだろうか。ロックの歴史とは......とひもといていくとそれはそれは長くなってしまうが、挫・人間初のワンマン・ツアーのファイナル公演は正統派ロック・バンドだと思うシーンばかりだった。インタビューでフロントマンの下川リヲは"言ってることだけは正統派ロック・バンドですよね"と笑っていたが、根幹が正統派ならば、どれだけ突飛であってもそれは"突飛な正統派"になるのではないか? 言葉だけだと矛盾とも言えるが、そんな矛盾を成立させてしまうマンパワーが挫・人間にはある。そして元来ロックとは歪さを伴うものだ。

「チャーハンたべたい」でスタートしたライヴは、サポート・メンバー菅 大智の迫力あるドラミングも聴きどころの「多重星」、下川がピン・ヴォーカルで絶叫するポップ・ソング「お兄ちゃんだぁいすき」、初期曲「人類」と、序盤から獰猛さと包容力が交錯。はち切れんばかりのエネルギーを炸裂させていく。その後MCタイムに入ると、ギターの夏目創太が突如涙を流し始めた。これだけの観客が集まってくれたということに感動し"足がガタガタ"と言う夏目。彼がバンドと音楽に対する熱い想いを語り、"ここから先も俺たち本気でやるから、もし行き着く先が地獄だったとしても全員ついて来れるか! お前らのことを必ずもっとデカいところに連れていく!"と叫ぶと、メタル色強めの「人生地獄絵図」へとなだれ込んだ。

菅がドラム・ソロの最後、スティックで切腹し倒れると、会場全員で復活の呪文"ザオリク"(※ゲーム"ドラゴンクエスト"より)を唱えるという寸劇から、間髪いれずにベースのアベマコトによるソロ・パフォーマンス、そして「念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ~」へ。その後も彼らは止まることを知らない。挫・人間はもともと楽曲そのものが異常なほどの熱量を持っているが、それを演奏する彼らは、過去の自分たちが作った楽曲を全身全霊かけてバージョン・アップしようと、さらに高カロリーを吹っかけてくる。それは自分たちの出す音と観客の声や想いにより生まれる高揚だろう。ステージ上の4人はとにかく楽しそうで、そうであればあるほど殺気や禍々しさは増し、それに伴ってどんどん暑苦しくもなり、ゆえに極上の爽快感を作り上げていった。下川がギターを抱えた「セルアウト禅問答」、「絶望シネマで臨死」の畳み掛けはまさに灼熱。まだ8曲目だというのにラストのようなクライマックス感だった。

夏目の"ウォール・オブ・デスをやりたい"という要望で制作された「ダンス・スタンス・レボリューション」では、さすがに挫・人間のライヴでウォール・オブ・デスはハードルが高いだろうということで夏目が考案した、下手と上手に分かれた観客が次々とハイタッチをしていく"ウォーク・オブ・ハイタッチ"を実践。なかなか異様な光景であったが、ファニーでピースフルな様子はまさに最後の歌詞のとおり"愉快痛快逆転ホームラン劇"であり"ファビュラスMAX"だった。

全員が楽器を置いてパフォーマンスする「☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆」のあとは、ミディアム・ナンバー「天国」で一気に空気を変える。少しずつじっくりとスケールを増していくサウンドスケープはとてもドラマチックで、アウトロの夏目のギター・ソロとメンバー全員が楽器を高く掲げるシーンも美しかった。「ピカデリーナ受精」ではひりついた空気感のなか下川がハンドマイクで狂ったように暴力的に言葉をまくしたてる。初期の彼らならこの曲を怒りの成分で満たして聴き手を捻じ伏せただろうが、この日はメンバーの友人であるオタク、梶原 笙(So Sorry,Hobo/Gt/Vo)との寸劇を交えたことで、怒りとユーモアの緩急による爆発力を作った。

最新シングル曲「品がねえ 萎え」のあとの「明日、俺はAxSxEになる......」では、下川が歌詞を引用しながら"これが俺たちの「逆張りの行方」の景色か! 美しい......!"と感慨深く叫ぶ。「クズとリンゴ」の落ちサビではバンドの情熱に感化されたフロアから合唱が自然発生し、本編ラストの「サラバ17才」は全員が楽器に集中してすべてを懸けて音を鳴らす――これを正統派ロック・バンドと言わずなんと言うべきか。

アンコール1曲目は夏目がセンター・マイクでステージを動き回りながらパフォーマンスする「Tee-Poφwy」。インタビューでは"捨て曲"なんて言われていた曲だが、夏目のヴォーカルもフロアとのコール&レスポンスやシンガロングも、ライヴを重ねるごとに着々に育っている。ラストは下川が初恋の人への想いを"除霊"することでお馴染みの「下川最強伝説」。下川が喉を枯らして"お前らは絶望しっぱなしだが、それと同時に希望を得ることができるとすれば、俺はダメ人間の希望を歌っていきたいと思うわけよ! それを俺は全力で歌って帰る!"と叫ぶと、バンドは最後の力を振り絞り演奏する。曲の終盤でフロアを見回した下川は"立派な人間合格だ!"と叫び、最後は会場が一体となり"羽ばたきたい"と歌い上げライヴは終了。最後にステージ前方センターで、繋いだ手を振り上げた4人の笑顔が今も脳裏に焼きついている。


[Setlist]
1. チャーハンたべたい
2. 多重星
3. お兄ちゃんだぁいすき
4. 人類
5. 人生地獄絵図
6. 念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ~
7. セルアウト禅問答
8. 絶望シネマで臨死
9. ダンス・スタンス・レボリューション
10. ☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆
11. 天国
12. ゲームボーイズメモリー
13. ピカデリーナ受精
14. 品がねえ 萎え
15. 明日、俺はAxSxEになる......
16. クズとリンゴ
17. サラバ17才
en. Tee-Poφwy
wen. 下川最強伝説

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