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INTERVIEW

Japanese

挫・人間

2021年08月号掲載

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Member:下川 リヲ(Vo/Gt)

Interviewer:秦 理絵

挫・人間の6枚目となるアルバム『散漫』は、相次ぐメンバー・チェンジを経て、ゼロからバンドを再構築させながら完成させた1枚だ。今作には、下川リヲ、夏目創太、マジル声児という現メンバーのほか、今年4月に脱退したスローセックス石島を含む体制で発表した3枚の配信シングルからの曲もアルバム用に再編集して収録。コロナ禍の暗澹たるムードとは切り離され、ぶっ飛んだアイディアが詰め込まれた全11曲には、バンドはなんのために存在するのか? という問いに対する答えが明確に歌われている。今までの挫・人間の総括であり、殻を破り、次に進むことをテーマにしたという『散漫』は、どのように生まれたのか。下川リヲに話を訊いた。

-昨年の挫・人間は激動でした。10年、一緒に活動をしていたベースのアベ(マコト)さんが脱退するという。

本当に言い方が悪いかもしれないですけど、やめるってなって、"これでまた新しいことができる"って思ったんですよね。アベのベースは印象的で、楽曲を占めるパーセンテージが大きかったんですけど、それがなくなって別のものを作れるとなるのは、あんまりネガティヴではないです。逆に言うと、僕はアベ以外のベーシストとバンドを組んだことがなくて。他のバンドの曲を聴いてて、"あ、こういうベースがあるんだ"みたいに思っていたので。そういう景色の広がりがあるんじゃないかっていうのはありましたね。

-もちろん寂しい気持ちもあったとは思いますけど、そんなに落ち込まずに切り替えられたというか。フレッシュな気持ちで続けられている?

そうですね。実は『ブラクラ』(2020年リリースの5thアルバム)を作り終えたあと、"こっからどうしていこうかな?"って迷っていたんです。だから、アベから抜けるっていう話があったときに、"よし来た!"ぐらいの気持ちでした。アベには申しわけなくて言えないですけど(笑)。

-そのあと、昨年11月に新メンバーとして、マジル声児(Ba/Cho)さんとスローセックス石島(Dr)さんが加入しました。わずか半年弱で石島さんは脱退してしまいましたけども。声児さんは、どういう経緯で加入することになったんですか?

もともと声児は友達だったんですよ。中華一番っていう極悪のラップ・クルーとか、SAMURAIMANZ GROOVEっていうバンドをやっているんですけど。その前から、チカチイロっていうUSパンク・バンドだっけな、あと、中華一番っていう名前でthe hatchのメンバーと一緒にバンドもやってて。どこで見ても、声児の印象は良かったんですね。

-挫・人間と対バンもしてたんですか?

いや、実は対バンはしたことがなかったんです。爆弾ジョニーから中華一番と繋がって知り合って。中華一番はかなり危険人物の集まりなんです(笑)。僕はみんな好きですけど、その中で声児はマインドの部分で近しいところがあって。

-どういうところが近しいと感じていたんですか?

意外と......礼儀正しいところ(笑)。めちゃくちゃおかしいところに突っ込むこともできるんですけど、意外と引っ込み思案だったり、音楽的には真面目だったり。これ本人に言ったら嫌がるかもしれないですけど、爆弾ジョニーが復活したときに、クアトロ(渋谷CLUB QUATTRO)の復活一発目のライヴを観に行ったら、声児がすぐ真横にいて。すごくいいライヴだったんですけど、終わったときにパッて見たら、静かに泣いてるんですよ。

-あぁ、それは下川さんと合いそう。

こいつ、いいやつだなと思いました(笑)。キュンときて。ま、そういうのもあって、ベーシストとして素晴らしいとも思っていたので。アベが抜けたときに、最初に話が出たのが声児だったんです。で、声児に話したら"(自分が)挫・人間に入るって、ウケるね"みたいな感じで引き受けてくれました。

-"ウケるね"(笑)。

だいたいウケるか、ウケないかで僕らも判断してるので。その頃、声児は家がなかったんですけど。

-......え?

2年間ぐらいホームレスだったんですよ。ベースだけ持って、(北海道から)上京してきて。家もお金もないのに、"なんとかなるべ"とか言って、友達の家に泊めてもらったりしていたんです。それも、めちゃくちゃ面白いって思ってましたね。

-今は家はあるんですか?

今はあります。友達と......それも中華一番のメンバーなんですけど、ライトノベル作家の山塚リキマルってやつと一緒に住んでます。最近、携帯もゲットしました。

-それまで持ってなかったんですね(笑)。その声児さんと石島さんを含めて、一時期は6年ぶりに4人体制で活動できた時期もありました。下川さんの中では、バンドをやるなら4人体制が理想ではあるんですか?

やっぱり4人がいいんですよね。ギター、ベース、ドラムでバンドをやるのが、僕の夢だったので。その夢も3ヶ月ぐらいで終わりましたけど(笑)。

-そのあと、ドラマー募集をするも、応募が0件。今も募集はしてるんですか?

してます。まったくこないです。たぶん"この人たちと話すことはなさそう"みたいに思われているんですよ。オタクっぽい。僕なんかはアキバ系だし......これ、死語ですよね(笑)。

-久々に聞きました(笑)。

そもそも同じアキバ系の人は(性格的に)ここに入ってくるのはハードルが高いと思うんです。逆に、"ロック・バンドがやりたいんです"っていうまっすぐな気持ちを持ってる人たちからしても、かなり邪道のバンドなので。

-アキバ系のサブカル感とパンク・ロックの精神を両方持ってるバンドですからね。

そうなってくると、かなり入れる人が限られてくるなっていうのはあるんですよね。早くドラマーが欲しいとは思っているんですけど。

-引き続き募集中です。ということで、今回のアルバムの話になるんですけど。じゃあ、サポート・ドラムの方と一緒に作っていくことになったんですか?

そうですね。でも、半分ぐらいの曲は石島さんが叩いているんですよ。「マンガよみたい」、「さよならベイベー」、あと「大バカもののうた」かな。それと「誰かを救える歌」、「オタルの光」と「アイオワの風」もですね。

-すでに配信シングルで発表されてたり、タイアップでオンエアされている曲ですね。

その途中で石島さんがやめることになったんです。最初にアルバムを作るテーマとしては、ギター、ベース、ドラムで、バンドっぽいアルバムにしようって言ってたんですけど。それが潰えてしまったから、もう打ち込みで曲を作るしかないっていう流れにもなっていって。これは呪いだと思いました。

-なんの呪いですか?

お前の思い通りには絶対にさせないっていうなんらかの意志が働いているなって(笑)。

-アルバムに収録されてる「人間やめますか?」は、そのあたりの脱退加入の一連の出来事の中で思うことを書いた曲ですよね?

数々のメンバーがやめていきましたから。それを歌にしました。これは、演奏だけが先にできあがっていたんです。久しぶりにロックっぽい激しい感じで、怒ってるぽいなっていう曲で。これは自分の想いをぶつける感じかな、と思ったんです。で、今俺が一番思ってることは、みんなやめていったなっていうことだったので。

-でも単純にやめた人たちのことを歌ってるだけじゃないし、それでも"奏でつづけようじゃないか"っていう、バンドの決意みたいなものも歌われてますね。

"人間やめますか?"っていうタイトルで曲を作るなら、バンド・メンバーのことをだけ歌っても芸がないかなって。人類的な、ホモサピエンス的なことも絡めました。バンド活動って、僕の社会復帰的なところがあるので。社会との繋がりがバンドぐらいしかないから、バンドをやめるのは、人間をやめるに近いところがある。そういう曲ですね。

-少し話が逸れますけど、下川さんはバンドをやめたいと思ったことはあるんですか?

めちゃくちゃありますね。アルバムを作るたびに、もうやめたーいと思いますよ(笑)。特に『ブラクラ』を録り終えたときは、決定的にやめるときが来たなと感じてたんです。

-毎回思うけど、そのときは本気だった。

そうなんですよね。思い通りにやれてないことが増えたりして。具体的に言うことは難しいんですけど、しっくりきてなかったというか。作品が悪いとかじゃないし、なんとなくですよね。飽き性なんですよ。今まで何をやっても続かない。バンドだけが不思議と続いているんです。そのなかで、『ブラクラ』を作ったときに、次のアルバムも同じようなものになる可能性があるなっていうのが嫌だったんだと思います。これはもう解散だぞと思ったら、アベが脱退したので。だったらサウンドが変わるな。やろうかな、みたいな。

-結果、内省的な部分も表現した『ブラクラ』とは違うものになっていったわけですね。すごくハイテンションだし、ちょっと頭のネジが吹っ飛んだぐらいの感じで。

そうですね。『ブラクラ』は、初期の頃のような暗い部分も出していこうかな、みたいなのがあったんですけど。今回は、まず声児が入って嬉しかったんですよ。で、はしゃいだ。はしゃぐと頭のネジが外れるんです(笑)。"きっとアイツはこういうことをやったら喜ぶだろうな"みたいなことを思いながら作ると、どんどん外れていっちゃう。今回は今までのアルバムで一番メンバーと話し合うことが多かったかもしれないです。

-どういうことを話し合ったんですか?

声児の得意分野はこれなんじゃないかとか、逆にこういうのが苦手で、とか。俺はこういう曲は嫌だな、とか。今までそういうのを話さなすぎたのかもしれなくて。

-もうツーカーでわかり合えていたからでしょうね。声児さんの得意分野って、収録曲だと、どのあたりですか? 「大人の事情」のベースとか、かっこいいなと思いましたけど。

あ、「大人の事情」はアベがベースを弾いてるんですよ。

-え、そうなんですか?

レコーディングの最後のタイミングで声児が骨折して。アベを召喚するっていう。

-いろいろなことがありましたね......。

本当ですよね。声児はなんでもできるんですよ。バキバキにスラップするのが得意だと思うんですけど、僕的には「大バカもののうた」みたいな味のあるプレイがいいなと思ってて。

-「大バカもののうた」って、歌謡曲を通り越して、演歌ぐらい時代を遡ってますよね。

最近、戦前の曲をよく聴いていたんです。古賀政男さんとか。そういうのをバンドに落とし込めたら、面白いかなと思って作った曲ですね。最初にせーので合わせた瞬間から、声児のベースは良かったんですよ。心がある感じがしますね。

-メンバーと密に話し合ったからこそ、できあがった曲はどのあたりですか?

「デスサウナ」とか 「アイオワの風」ですね。話し合った結果、どんどんふざけが加速していった、みたいな。

-「デスサウナ」の発想がすごいですよね。

これは夏目(Gt/Cho)ですね。たしか風呂に入ってるときに作ったんですよ。"デスサウナ"っていうタイトルだけ思いついて、"サウナで天然トリップ"って鼻唄で歌ってるところが、曲になっていった感じだと思います。

-普通にサウナで整う歌だったはずが、人喰いサウナの曲になるっていう。

なんでこうなるんですかね。

-それはこっちが聞きたいです(笑)。南国っぽく始まるけど、一気に地獄に叩き落されるサウンドも遊び心がありすぎる。

最初に夏目がこれを作ってきたとき、"真面目にやってくれよ"と思いましたけど、本人だけは真面目だったみたいで。僕は、"下川サウナパークへようこそ"っていうマスコット・キャラクターみたいな声をやっているんですけど、あれ、台本がないんです。喋ることはだいたいあるんですけど。録ってるとき、みんな爆笑してました。夏目とか声児もアドリブで会話してるから、それもすごいですよね。みんな、相手より面白いことを言おうとするので、そうなると、こうなっていくんですよね。

-「アイオワの風」も、そういうノリで完成していったんですか?

これはサビ以外のデモがかっこ良すぎたんですよ。あまりにも自分たちに似合わないことをやってるというか、背伸びしちゃってる感じで。

-スロー・ファンクというか。お洒落なサウンドですよね。

これがこのまま曲になったら、俺、恥ずかしくて立てないなって(笑)。壊したくなっちゃったんです。

-で、湘南乃風みたいなサビになった。

ああいうサビの展開をつけたら、なぜかそれがオッケーされました。僕ひとりだったら、あんな曲は絶対に作らないと思いますけどね。