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DISC REVIEW

T

contrast

TK from 凛として時雨

contrast

ソロ名義初となるEPは、凛として時雨もソロも含めこれまでで最もTKの歌(声)と対峙する作品だ。元々、時雨の轟音と怒涛のアンサンブルに埋もれないメロディを突出させる手段として生まれたハイトーン・ヴォイスは、今や彼の歌の表現のスタンダードであることをこれほど表明した作品はなかった。日向秀和(Ba)、BOBO(Dr)とのセッション的なスリルに満ちたアンサンブルを基盤に、ピアノと弦楽カルテットがこれまでになく開放的なパースペクティヴを表現するタイトル・チューン「contrast」をはじめとする3曲もおのおの違う個性が屹立。しかしなんといっても今回の聴きどころは、時雨の「illusion is mine」のTKのエレピとシンセのみのミニマルなライヴテイクや初恋の嵐のアコギ弾き語りカヴァーに尽きる。

ニホンバシ

toitoitoi

ニホンバシ

1曲目こそ華やかだが、それ以降、曲数を重ねるごとにどんどん柔らかく、優しいものになっていく。"ちっぽけな僕らの魔法だ セイハロー"という投げかけに始まり、"貫くだけが強いわけじゃない"で閉じる本作では、"私は私であなたはあなた"という事実と、そんななかで自分よりも大切な存在ができたときにどうやって自分の人生を歩んでいくべきなのかを考えるためのヒントが詰まっている。ふたりだからできることにこだわってきた彼らだからこそ相手の生き方も肯定できるし、それこそが自分たちの表現なのだとわかったからこそ今回このような作品を生んだのだろう。日常をワントーン明るくしてくれる音楽に抱きしめられたとき、私たちはもう一度上を向いて歩き始めることができる。

××

toitoitoi

××

アコースティックやバンドという概念も、ロックやポップをも覆す、千葉からハミ出した2人組がTOWER RECORDS限定で2作目をリリース。前作から地続きで"メンバーがふたりである強み"を最大限に生かして制作された今作は、バンドを求めて10年以上活動していたふたりの"ふたりで音楽を作る"という覚悟がもたらした、toitoitoiの完成形第1弾と言っていい。生楽器とコーラス・ワークを主役に、サンプリングや打ち込みなどを取り入れ、既存の楽器の使い方にとらわれない様々なアプローチで魅せる。強いメッセージをアート性のある言葉に溶かして発する岸川の歌と、ピアノ線のように鋭く美しい村越真史のギター。互いを認め合い、高め合うその音は、身を委ねたくなるほど優しくあたたかく、包容力に溢れる。

J.U.M.P.

THE TOKYO

J.U.M.P.

"懐かしいのに、なんか新しい。"を掲げる、ロック・バンド THE TOKYOの1stフル・アルバムが到着した。その看板に偽りなく、ロックとフォークと歌謡曲の融合を思わせる彼らの音楽からは、メロディや音の質感に懐かしさを感じるのだが、それでいて新鮮で刺激的なところが魅力。既発曲5曲の再録に、ライヴ人気曲の初音源化、配信曲のリマスタリング・バージョンと、ファンにとってたまらない作品であるとともに、まだ彼らの音楽に触れたことのない読者にもお勧めしたい現在のベスト的な1枚でもある。今回、完全新曲として収録されたのは「恋(エレジー)」。"恋"と書いて"エレジー"と読む、なんとも切なすぎる歌詞を歌い上げるコダマアツシの歌謡曲然とした歌唱は、老若男女の心に染み入るのではないだろうか。

what happened in yesterday

tokyo blue weeps

what happened in yesterday

小木戸 利光、小木戸 寛の兄弟によるポスト・ロック・バンドのtokyo blue weepsは昨年、震災後にアルバム『incarnations』をリリースし、その繊細で優しくも美しい旋律が震災後の悲惨な状況と対照的で疲れた心を癒してくれた。そして、あの震災から1年が過ぎ、世の中もみんなの意識も少しだけでも変わった気がする。彼らが感じた2011年が詰まった今作。“hello”と何度も呼びかける「You」が特に印象的に響く。心の隙間、あるいは天と地と満たし命を繋いでいく羊水のような音。もう戻らない昨日をしっかり受け止めて彼らは希望を見出した。今年産み落とされたこのアルバムは世にも美しい現在の世界の音記録。昨日とは違う世界が広がっていて、それはとても輝かしいのだ。

LYCORisALIVE

TOKYOてふてふ

LYCORisALIVE

前シングル『ash.』から約1年ぶりのニュー・シングル。レーベルメイト、かわぐちじゅんた(じゅんちゃい/Made in Me./Cho/Gt/Syn)作曲によるエネルギッシュなバンド・サウンドは勢いがあって、キャッチーなメロディとポエトリー、ラップなどドラマチックに歌い紡がれていく構成は時にカオティックな心模様を覗かせつつも、これまでにも増して感情を露にした5人のヴォーカルは透徹した意志の強さを感じさせる。メランコリーを帯びた儚さ、美しさが繊細に表現されていたTOKYOてふてふ作品だったが、今回は現実世界に1歩踏み出て、能動的に歩んでいく確かさが声に、歌に乗っている。2021年1月にデビューし、コロナ禍を暗中模索で進んできた約2年。その軌跡と、先に見据える未来が繋がっていることを感じる1曲になっている。

impure

TOKYOてふてふ

impure

今年1月、1st配信シングル「innocence soar」をリリースし、事務所の先輩KAQRIYOTERRORのツアーに同行して、ステージ・デビューも果たしたTOKYOてふてふ。ぜんぶ君のせいだ。などレーベルメイト同様に、キュートなポップスからラウドに暴れ回る音まで内包したオルタナティヴなサウンドで、心情を露わにする歌を歌う6人組だ。そのメロディは時に苦しい胸の痛みに泣き叫ぶようにハイトーンで、不安定さを醸し出す。焦燥感に満ちた「effect pain spiral」や、感情を爆発させる「double」があるかと思うと、「rainy milk」では低体温気味の日々をもドリーミーに歌い上げる。素直になれず、自分の心すらも掴み損ねてしまう不器用さに自分を重ねられる人も多いのでは。

KIERTOTIE

told

KIERTOTIE

arko lemmingのインタビューでベースの有島コレスケは、このアルバムになかなか着手できなかった苛立ちを語っているが、前作『Early Morning』から1年半ぶり。それぐらい録って出したい空気がバンドにあったということなのだろう。ジャンル名になる前の"オルタナティヴ"ロックを平熱と諦観と焦燥の間で鳴らすようなtoldのロックはかけがえがない。今回は山梨にあるというピラミッド型のスタジオでの臨場感溢れるサウンドそのものがアルバムのカラーになった印象だ。ギター・サウンドの洪水が押し寄せる、その名も「Early Morning Ⅱ」、重いが乾いた音像が彼ららしい「Target」、コード展開によってセンチメントとドライさという感情の揺れを誘発する「Distress of Casual boy」など答えのない日常を鮮やかに映す全10曲。

Early Morning

told

Early Morning

3年前、彼らの「POOL」という曲のMVを見る機会があった。明でもなく暗でもない、エモーショナルなのにどこか淡々としている音と、素朴なメロディに乗る凛とした日本語の佇まいが妙に耳に残り続けた。前身バンドからメンバー・チェンジをせず10年間活動している彼らが、1stフル・アルバムをリリース。2012年のシングル『FLAG』、『TAG』の流れを汲み進化した、ひとつの集大成とも言える作品だ。前半はオルタナティヴでエモなサウンドを短尺で畳みかけ、豊満なメロディも華やぐ。中盤から音像はディープに。思考をも奪う抒情性、憂い、無邪気さ、切実さ――多彩な表情を全て清廉な激情で描いてゆく。その景色のなんと眩しいことか。強く結びついた4人の鋭利な意思の成せる業だ。

Tommy Sparks

TOMMY SPARKS

Tommy Sparks

ipod touchの最新CM に「She's Got Me Dancing」が起用され、LADY GAGAやWHITE LIESのシングルのリミックスも手がける、スウェーデン出身のTOMMY SPARKSによるデビュー・アルバム。一見するとエレ・ポップ・アルバムなのかな?だとしたら、もうそろそろ飽きちゃった・・・と思っていたのだが、これがいい意味で予想を裏切られた。TOMMY SPARKSの音楽の根底にあるのは、ロックであり、ポップだ。バラエティーに富んだ1曲1曲はとても丁寧に緻密に作られており、聴いているといい塩梅になってしまうキャッチーなメロディーが詰まっている。正に捨て曲なし!派手さには欠けるかもしれないが、MGMTやFRANZ FERDINANDが好きな人に是非オススメしたい。いいアルバムです。

BEST3

TOMOVSKY

BEST3

今年12月には50歳になるTOMOVSKY。1993年の初ソロ作品はカセット・テープだった。そこから20年以上、短編小説家みたく――星新一とかに近い感覚で、しかし飽くまでノンフィクションで"日々の精神と気持ちの健康に役立つ"曲を量産してきたわけだ。それで今回は2007~2012年の作品からベストな14曲をチョイス。しかも13曲は新たに録音。いい曲認定決定!なピアノ・ロック「我に返るスキマを埋めろ」は実は自分でいるために無駄な情報を入れるなと歌ってるようだし、明るい曲調で、下手に動いてもダメそうな日は寝てろと、甘美な誘惑とともに勇気さえ沸く「ねる日」、夜が明ける直前の空がくれるなんとも名状しがたいパワーを思わせる「いい星じゃんか」など。直感と本心、そして継続が生む表現は強くて無駄がない。

Leisure Seizure

Tom Vek

Leisure Seizure

ロンドン出身の奇才Tom Vekより、デビュー・アルバム『We Have Sound』から実に6年ぶりとなるニュー・アルバムが到着!当時はBeckがツアーのSEで使用したり、The RaptureやLCD Soundsystemと比較されるなど、業界内での注目度が高かった彼。当時の映像を見直してみたのだが、全て独学で学んだマルチ・プレイヤーというだけあり、引きこもって一人遊びばかりしていた少年が、成長し青年となり、そのまま世間に出てきてしまったような、ちぐはぐな世界観は今尚新鮮であった。そこらへんも、デビュー時はローファイを通り越してへっぽこだったBeckとかぶるのだが、最新作は、その完全独自主義を貫いた一人遊びの延長戦上のような世界はそのままに、きちんと2011年版に整理されスタイリッシュになっていることに驚くばかり。ちゃんと時代にフィットしてます。

Welcome To The Madhouse

TONES AND I

Welcome To The Madhouse

2019年発表の「Dance Monkey」が70億回再生を突破するバイラル・ヒットを記録し、オーストラリアの路上ライヴから世界を舞台に活躍するようになったTONES AND I。そんな彼女の1stアルバムは、活動当初のバンで寝泊まりしていた日々や、ロックダウン中の生活、そして親友"T"の死など、自身にまつわる様々な事柄を題材にした楽曲を収録。ピアノの旋律が耳を惹くポップ・サウンドを軸に、一度聴いたら虜になる持ち前の歌声を深化させ、より幅広い表現を聴かせている。脱力したビートで"成功"後の変化を皮肉るTrack.4、コーラスを従え伸びやかに歌い上げるTrack.5、心躍るサウンドで前向きなメッセージを伝えるTrack.11など、彼女の世界観をまるごと詰め込んだような1枚。

The Kids Are Coming

TONES AND I

The Kids Are Coming

シンプルだが印象的なピアノ・イントロに、一度聴いたら耳から離れない強烈な歌声――「Dance Monkey」が30ヶ国以上のシングル・チャートで1位を獲得し、YouTubeではMVが7億回再生を超えるなど大ヒットを記録している、シンガー・ソングライター Toni Watsonのソロ・プロジェクト TONES AND I。彼女のデビューEPは、その歌声を存分に堪能できる内容に仕上がっている。しっとりと歌い上げるTrack.3、5や、軽快なリズムが心地よいTrack.4など、楽曲ごとに多彩な表情を見せるヴォーカルは、オーストラリアの路上から1年で世界的なスターへと上り詰めた実力を証明している。日本盤には「Dance Monkey」のピアノ弾き語りバージョンも収録。

Whatever happens happens

THE TON-UP MOTORS

Whatever happens happens

上杉周大(Vo)、井上仁志(Gt)がそれぞれソロ・アルバムをリリースし、ツアーを行うなど、個々の活動が目立っていたTHE TON-UP MOTORSの約1年半ぶりとなる今作は、全6曲を収録。これまでのアルバムでも冒頭の曲でバンドの意気込みを表現してきた彼らだが、今作の1曲目「TONight!」ではハードなブギに乗せて"難しいのいらない 細かいの必要ない"と宣言。その言葉のとおり、余計なものを削ぎ落としたぶっとくて黒いサウンドが印象的な作品となっている。それは4人が持っている個々の音楽性を素直に残らず出し合った結果なのかもしれない。セカンド・ラインからこみ上げるメロディがサビへと導く「青い季節」や最高にキャッチーな「スロウモーション」など、一緒に口ずさみたくなる良い曲が揃った傑作。

KEEP ON STANDING!!

THE TON-UP MOTORS

KEEP ON STANDING!!

2013年にメジャー・デビューを果たしたソウル・ロック・バンド、THE TON-UP MOTORSの約1年ぶりのリリースとなる2ndアルバム。威勢良くオープニングを飾る「不死身のこころ」、TON-UP流にEDMへ接近したかのような「DANCE DANCE DANCE」のキレのいいサウンドも聴きどころだが、2014年を通して行われた前代未聞のライヴ・ツアー"北海道179市町村ツアー"で北海道全土を周り地域に密着した活動をしてきたことが色濃く反映されたような「働く男」「俺の生活」「さらば!怠け者」など生活感のあるリアルな言葉で綴られた楽曲が目立つ。R&Bやブルースをルーツに持つ日本のバンドにとって"何を歌うか"はとても大事だと思うし、現実的な心情や景色を描くことで個人の心に訴えかける距離感こそが彼らの魅力だと思う。

Tender Opposites

TOPS

Tender Opposites

GRIMESを輩出したトロントのレーベルARBUTUS RECORDSから、再び癖のあるガールズ・ヴォーカル・バンドがデビュー。同レーベルに所属していたSILLY KISSERSから派生したTOPSは、以前のようなファンタジック・シンセ・ポップから正統派ポップへと変化を遂げた。しばし、ARIEL PINK’SやTWIN SISTERと比べられることが多い彼らであるが、紅一点Jane Pennyの気だるくセンチメンタルな歌声と、80年代のラジオから流れてきそうなレトロ・ポップなサウンド、さらに乾いた打楽器の音や時より現れるオルガンの音色など、センスの良さはずば抜けている。彼らがトロントの代表バンドとなる将来も、そう遠くない。

Outer Peace

TORO Y MOI

Outer Peace

2010年のデビュー時には、チルウェーヴ、エレクトロ・シーンのパイオニアとして注目を集めたTORO Y MOI。これまでにサイケやアンビエント、R&Bやファンク、ソウルなどを取り入れながらその音楽性を深く、広いものへと更新してきた。今作は約1年半ぶり6枚目のアルバムとなるが、ダンス/ディスコ・ミュージックを基調とした別名義、LES SINSでの活動の影響が色濃く反映されており、また先述した多岐に渡るジャンルを回遊しながらも、ダンサブルなシンセ・ポップでまとめ上げられた作品となっている。その中でも異彩を放っているのは、ダーク・アンビエントでアジアン・テイストな「Miss Me (Feat. ABRA)」。アルバムのアクセントとして機能し緊張感を与える楽曲だ。いい意味でらしくない今作の白眉。

Michael

LES SINS

Michael

ロック~クラブ・ファンまで絶大な人気を誇り、単独での来日公演はもちろん、FUJI ROCK FESTIVALやTAICOCLUBなどへの出演も果たしているTORO Y MOIことChaz Bundickが新名義、"LES SINS"として始動させたダンス・プロジェクト。"Carpark"傘下に立ち上げた自身主宰のレーベル"Company Records"からリリースされる1stアルバムでは、ムーディなクラシック・ハウスからUKベース・ミュージック、グルーヴィ且つスモーキーなビートまで、ポップ・ミュージックのルーツを辿るかのように多彩な音楽性を繰り出している。TORO Y MOIの持つダンサブルな要素を突き詰め、彼の様々なモードを楽しむことができる作品。

Underneath The Pine

TORO Y MOI

Underneath The Pine

コロンビア出身のChaz Bundickによるソロ・プロジェクト、TORO Y MOI。彼の描く音はチル・アウトでありながらもアンビエントという枠では収まりきらない。極めて純度が高いにも関わらず、光が水面を通過した瞬間に屈折して見えるように、TOROY MOIの音像を正確につかむことは難しい。交わることのない音像を重ね合わせ、それぞれに意識が分断されてしまう居心地の悪さを生み出しているのだ。しかし、ふわふわとした浮遊感の空気の中、伸縮し破裂する音が誘発剤となり、不思議と中毒性の高い音楽に引き込まれていく。まるで、夢を体験している自分を観察する自分自身として認識しているあの奇妙な感覚のように、音楽の中に飲み込まれている自分を見ることになるだろう。THE MORNING BENDERSやVAMPIRE WEEKENDが快活な"昼"の音楽であるのに対し、TORO Y MOIのそれは夢に落ちる瞬間の無秩序で混沌とした"夜"の音楽だ。

Trademarks01

V.A.

Trademarks01

最新で最旬の新世代インディ・アーティストを詰め込んだ好企画盤。NEON INDIAN、WASHED OUT、YES GIANTESS、DUCKTAILS、TORO Y MOIなど、これからが楽しみなアーティストばかり。エレクトロ、インディ・ロック、ポップまで実験的なメロディとリズムを満喫できる1枚。個人的には、NY出身4人組THE AMPLIFETESの「It's My Life」のベースとエレクトロの挑戦的なリズムサウンドがクセになりそう。そしてスペインはマドリードを拠点とする4人組DELOREANの爽快感溢れるポップ・ナンバー「Deli」はなんとも清々しい。全体的に様々な音が沢山詰まっていて、おもちゃ箱をひっくり返したような感じだ。

Long Way Home

LAPSLEY

Long Way Home

超名門インディー・レーベル"XL Recordings"が放つ2016年最初の超大型新人、LAPSLEY。ポスト・ダブステップの文脈でソフィスティケイトされた最先端のレディ・ソウルを聴かせる彼女のデビュー作を多くの人はこう形容するだろう――"James Blake meets Adele"。アトモスフェリックなシンセ・サウンドが醸成する濃密な空気と、彼女の哀しくも強かな歌声が胸に迫る「Hurt Me」の説得力たるや凄まじく、ひとつひとつのビートにまで細やかな洗練が宿る。しかし一方で、"そのつもりなんだったら、もっと傷つけたらどう?"と失われた恋を前に歌われる心模様は紛れもなく19歳の乙女のそれと言える。プロデューサーにTHE XX、DAUGHTERらも手掛けるRodaidh McDonaldを迎えたこの作品が世を席巻するのは間違いないだろう。

Toy

TOY

Toy

元JOE LEAN & THE JING JANG JONGのメンバーを中心に構成されたUKの5人組TOYのデビュー・アルバム。今年のSUMMER SONICに出演していたので一足早く彼らのパフォーマンスを生で観られた方も多いのではないだろうか。ダークでサイケデリックだが柔らかさや温かみのある音なのでとても聴きやすく、心地が良い。アルバム全編を通してまとまりがあり、中盤に置かれたインスト曲もずっと聴いていたいほどクセになる仕上がり。ヘヴィーなギターに珠玉のメロディが乗り、壮大なドリーム・ポップから疾走感のあるヘヴィ・ロックまで見事に独自の世界観を作り上げている。よく引き合いに出されるTHE HORRORS、S.C.U.M等のメロディックなサイケデリック・ロック好きなリスナーには自信を持ってオススメできる一枚。

Tinsel & Lights

Tracey Thorn

Tinsel & Lights

90年代オルタナティヴ・ポップ・シーンを中心に活躍したEVERYTHING BUT THE GIRLのフロントマンTRACEY THORNの2年ぶりとなるフル・アルバム。今作は本人が制作を切望していたというクリスマスの名曲をカヴァーしたコンセプト・アルバムとなっており、その優しくも甘い歌声を存分に楽しめる内容に仕上がっている。加えて待望のオリジナル曲「Tincel&Lights」「Joy」も収録。またクラシックなナンバーだけではなくTHE WHITE STRIPESなどのロック・アーティストをセレクトするところにも心憎いセンスを感じさせる。クリスマスという神聖なテーマと、彼の癒しともいえる魅力と世界観が見事に合わさった至高の一作。

A Girl A Bottle A Boat

TRAIN

A Girl A Bottle A Boat

グラミー賞を三度受賞するなど、20年以上の活動を誇るアメリカのバンド TRAINによる8thアルバム。昨年は敬愛するLED ZEPPELINのカバー・アルバムをリリースし、紆余曲折のあった長い活動歴の原点に立ち返った。今作には、そんな歴史と原点回帰をフレッシュなサウンドで総括した楽曲が満載。1938年にLarry Clintonがヒットさせた「Heart And Soul」のメロディを引用したTrack.2「Play That Song」など、音楽史をサイクルさせていくスタイルも今の彼らにはピッタリ。ブラスやパーカッションも含めたレゲエ色の濃いTrack.10「Lost And Found」もバンドの柔軟な一面を表している。海でも山でも街中でも、場所を問わずに聴ける楽曲たち。この夏、プレイリストに入れておくことをオススメします。

One of the Timeless

TRASH AUDIO

One of the Timeless

北の大地で熱っぽい音楽を鳴らす4ピース・ロック・バンドTRASH AUDIOが、いよいよその熱をミニ・アルバムに封じ込め全国へ放つ。今作には、"あなたがいるから僕は歌える"という気持ちを軸に、自身の葛藤や気づきを絵に喩えた「ONE」、涙する"君"に飾らないまっすぐな言葉でエールを送る「解き放って」など、渾身のメッセージ・ソング6曲を収録。彼らの何よりの武器は、"伝えること"を最優先に考えているがゆえのキャッチーなメロディ、耳馴染みの良い言葉。さらに、ギター・ヒーロー然としたアグレッシヴなギター・サウンドを筆頭に、各パートが鮮明な色を見せるタイトな演奏が、より楽曲に説得力を持たせている。きっと何年経っても色褪せないであろう、普遍のポップネスがここに。

L.A. Times

TRAVIS

L.A. Times

2022年には名盤『The Invisible Band』の再現ライヴで来日し、変わらぬ人気ぶりを示したTRAVIS。10作目のアルバムは、フロントマンのFran Healy(Vo/Gt)が生活の拠点を置くロサンゼルスをタイトルに掲げた作品となった。彼が通ったNYのバーを騒々しく偲ぶTrack.2「Raze The Bar」、別れた妻に捧げるTrack.3「Live It All Again」、友人との死別を反映し生きる意味を改めて見つめ直すTrack.5「Alive」などパーソナルな内容だが、彼ららしい美しいメロディと優しくも切ないアンサンブルに昇華されたメッセージは、リスナーの心にも染み入ることだろう。ラップ調のVoを取り入れたTrack.10「L.A. Times」や、DX版のアコースティック音源も妙味がある。

ドラゴンタトゥーの女 オリジナル・サウンドトラック

TRENT REZNOR & ATTICUS ROSS

ドラゴンタトゥーの女 オリジナル・サウンドトラック

世界的ベスト・セラーを誇るスウェーデン発のミステリー小説 “ドラゴンタトゥーの女”。それを、「SEVEN」や「FIGHT CLUB」、最近だと「THE SOCIAL NETWORK」を手掛けたヒット・メイカーDavid Fincherが映画化。その「THE SOCIAL NETWORK」でもコンビを組んだTrent ReznorとAtticus Rossが今回も音楽を担当することに。前作でアカデミー作曲賞を受賞したコンビだけに、独特の世界感とサウンドには聴き入ってしまう。特に話題なのはYEAH YEAH YEAHSのKaren Oをヴォーカルに迎えた「移民の歌」のカヴァー。NINE INCH NAILSを彷彿とさせるノイジーで凶暴な仕上がりになっている。TrentはNINE INCH NAILSとしてのアルバム制作に取りかかっているとのことで、そちらも楽しみだ。

jack-in-the-box

TRI4TH

jack-in-the-box

結成14年目のアカデミックなジャズのバックボーンを持つバンドが、メンタリティでも実際の曲調でもロックやパンク、スカを消化する新鮮さが溢れ出た1枚。どの曲もほぼ3分以内で美味しいフレーズやリフを凝縮し、ホーンやピアノのメロディも覚えやすいうえ、アジテーター 伊藤隆郎(Dr)は歌も歌う。アルバム全体の流れも時間を感じさせるもので、1曲目の「Wake up」で文字通り目覚め、RANCIDのカバー「Time Bomb」でスカのビートに乗り、ロカビリー調の「Go Your Way」、夕暮れに向かうようなメロウな「Landscape」、高速ホーン・リフが盛り上がる「Hasty Rag」、そしてアイリッシュ・テイストな「Sing Along Tonight」の大団円。生身の人間の気迫や笑顔がジャンルを超越する。

Wish To Scream

TRIBES

Wish To Scream

代表曲「We Were Children」が同郷のMYSTERY JETSにカヴァーされるなど、登場時に何かと話題を呼んだロンドン、カムデン出身のインディー・ロック・バンド。そのシンプルでメロディ・オリエンテッドな音楽性がむしろイマドキのバンドにはない王道感を漂わせてはいるものの、本人たちは純粋にグッド・ルーツ・ミュージックが好きで演奏したいのではなかろうか。この2ndもピアノとアコギがトラディショナルな印象のナンバーや、古くはTHE ROLLING STONES、90年代にブルースやソウルに傾倒した頃のPRIMAL SCREAM、そしてTHE BEATLESからOASISまで綿々と続くザ・英国な美メロを想起させる曲が並ぶ。時代性を強調するようなトピックはない。でも懐古趣味でもない。今の人間の体温と血の通った太文字のロックだ。

Baby

TRIBES

Baby

2011年のUK音楽シーンの顔はJames BlakeやAdele に代表される様に、インディ・ロックは元気が無かったように感じる。そんな中、THE VACCINESやARCTIC MONKEYSといったバンドが気を吐いたが、勢いは続かず、下半期にはロンドン暴動での喪失と虚しさが残った。そんなシーンを救う者としてイギリスで大きく話題にあがっているのがこのTRIBESだ。THE LIBERTINES、THE KOOKS、THE VIEWといったブリティッシュ・ロック直系の遺伝子を感じるメロディ・センスに、「Sappho」「We Were Children」で聴けるシンガロングなフック……UKロックの復権はTRIBESが担うことだろう。

Adrian Thaws

Tricky

Adrian Thaws

MASSIVE ATTACKとともにトリップホップ/ブリストル・サウンドの立役者と謳われるTrickyがロンドンで完成させた11作目のアルバム。多くの女性シンガーを迎えたヒップホップとポスト・パンク、そしてレゲエ/ダブのミクスチャーという基本路線は変わらないものの、ラヴァーズ・ロックの代名詞とも言えるJanet Kayによる1979年のヒット・ナンバー「Silly Games」の意表を突いたカヴァーが、息が詰まるような緊張感に終始しがちなTrickyの作風に風通しの良さを加えている。その一方ではイスラエルによるガザ地区空爆に対する抗議とも言える「My Palestine Girl」のようなプロテスト・ソングも歌い、あいかわらずの硬派ぶりも印象づける。現代のブルース・シンガーを名乗るTrickyの面目躍如と言える1枚だ。

DEAD

中嶋イッキュウ

DEAD

女性の持つ執着心や独占欲などを時にホラー寸前、時にとても甘やかに描く、中嶋イッキュウの作家性が際立つソロ作。ドロドロした愛憎や欲望が軸にありつつ、どこか潔いまでに突き詰めた音楽性がテーマを陳腐化させないのは参加メンバーである山本幹宗(Gt/好芻)、佐藤征史(Ba/くるり)、あらきゆうこ(Dr)、新垣 隆(Pf/ジェニーハイ)の曲への深い理解とスキルのなせる技だろう。甘くレイジーなムードのオルタナ・ナンバー「DEAD」に始まり、in the blue shirtのリミックスがアンビエントなムードの「甘口 -DEAD remix-」、ナイヤビンギ風のトラックが新鮮な「哀願」、新垣の狂おしいピアノの旋律がドラマチックな「マンション」、シンプルで哀切なメロディと厚いアンサンブルの「MILK」と、いずれも中嶋の作家性と声の表現力を存分に満喫できる。

不出来

tricot

不出来

昨年末にアルバム『上出来』をリリースし、国内の他、久々のワールド・ツアーも行い制作されたメジャー4thアルバム『不出来』。今作は、収録曲全曲のインストゥルメンタルも収められている。肉体的なアンサンブルは、ライヴでの体感や熱量をぶつけ合う衝動感と爆発感とが生かされたのだろうか。グルーヴィで、トランシーで、且つプログレッシヴなインストはそれだけで十分に成立する面白さ。いったいそれぞれの曲にどう歌が乗るのだろう? となるが歌、メロディが重なることで曲の雰囲気、質感が変化して化学反応を起こしていく。堂々巡りの白昼夢のようなシュールなポップさ、また詩的でいて鋭く胸を射抜くスピード感のある歌が乗り、多面的でマジカルなtricotの世界が展開されていくのがスリリングだ。

10

tricot

10

前作から9ヶ月での発表となるメジャー2ndアルバム。次のtricotへという思いと、コロナ禍の制作でセッションでの曲作りがリモートになった手法の違いも重なって、新たな発想に勢い良く飛び込んだ作品だ。中嶋イッキュウ(Vo/Gt)、キダ モティフォ(Gt/Cho)、ヒロミ・ヒロヒロ(Ba/Cho)のヴォーカルでリズミカルに繋ぎグルーヴを生む「サマーナイトタウン」、パーカッションを多用したポリリズムと歌が誘う不可思議な時の歪みが心地いい「箱」、1フレーズの歌詞のループと爆発的に展開していくアンサンブルに引き寄せられる「あげない」、「體」のスリリングなインプロ感など、刺激的な曲が並ぶ。とはいえ奇を衒った色づけでない、どの展開も心を奪い癖になるキャッチーさ、ポップさに磨きが掛かっている。

A N D

tricot

A N D

昨春、オリジナル・メンバー3人で活動を再開してからのtricotの進化と、ドラマーがいないことを逆手にとって、BOBOら5人の辣腕を招いたことがさらに音楽の自由度を上げた印象の2ndアルバム。10代のころ、自分の生き方を決心したときを想起させる「Noradrenaline」、緩急のダイナミズムの最高値を叩きだした「E」、フュージョン系のコード進行に乗る女心のリアルな描写の融合が新鮮な「神戸ナンバー」、H ZETT Mの超絶ピアノも加わり"競技感"さえある「ぱい~ん A N D ver.」のスリルには息を飲み、ライヴでおなじみの「消える」がついに音源化されたのも嬉しい。轟音と静寂の緩急や、抜き差しの緊張感は変わらずにありつつ、聴き手に対してオープンな仕上がりが今後のジャンプ・アップを期待させる。

E

tricot

E

3月に2ndフル・アルバムのリリースも決定しているtricotから、最新のテンションとスキルとエモーションが詰まった3曲入りシングルが到着。レコーディング・メンバーとしてドラムをBOBOが叩いているからだけではないであろう、4つの楽器と中嶋イッキュウのヴォーカルとキダ モティフォ、ヒロミ・ヒロヒロのコーラスのなんと分離のいいこと!ブレスまで聴こえてきそうなスリリングな抜き差しは、マス・ロックというスタイルのためにあるわけじゃないことぐらい、これまでのtricotの音楽は証明していたけれど、無駄な残響も轟音もない。そこまで削ぎ落としたからこそ際立つイッキュウの体温のある声が意志を持って響くのだ。Track.3の「ダイバー」は初のヒロミ・ヒロヒロによる作詞作曲。揺らぎがなんとも心地いい。

99.974℃

tricot

99.974℃

進化を続ける4人組バンドtricotの1stシングルは、タイトル・チューンの「99.974℃」と、約24分におよぶライヴ音源のメドレーが収録。「99.974℃」は、スリリングに疾走する激情のロック・チューンだ。持ち味の変拍子を生かし、メリハリのある展開、メロディアスなサビが胸をくすぐる。カップリングのメドレーは、昨年末に開催したバンド主催のイベント"爆祭 vol.6"の現在入手不可の「爆裂パニエさん」や未発表の音源「初耳」も収録されている。軽やかに刻まれる変拍子のリズムにうねりまくりの骨太ベース、切れ味抜群のシャープなギター、熱っぽくしなやかな歌声。ライヴの臨場感も堪能できる、シングルにしてtricotの熱量が伝わってくる男前で太っ腹な作品だ。必聴!

小学生と宇宙

tricot

小学生と宇宙

1stミニ・アルバム『爆裂トリコさん』が全国流通無しで凄まじい勢いで話題になり、2011年のRISING SUN ROCK FESTIVALでは新人枠での出演ながらアンコールが起こるなど、業界内外を問わず各地を騒がせていたバンドtricot初の全国流通音源。前作では切り裂くようなギターとうねるグルーヴの衝動をぶちまけたようなオルタナティヴ・ロックを展開していたが、今作ではその狂気を内包したまま1曲目の「G.N.S」では静と動のコントラストがより鋭く表現され、浮遊感漂うヴォーカルが神秘的な印象すら抱かせる。この作品でtricotに出会う人も決して少なくはないと思うが、その卓越したセンスとロックの持つダイナミズムを感じて欲しい。

Trouble Books & Mark Mcguire

TROUBLE BOOKS & Mark Mcguire

Trouble Books & Mark Mcguire

Mark Mcguireと、男女デュオのKeith FreundとLinda LejsovkaによるTROUBLE BOOKSのコラボレーション・アルバム。限定250枚のみのアナログという超限定でリリースされており、日本では入手困難だった作品にボーナス・トラックを1曲加えリリース。今作は真夏の蒸し暑い夜にリヴィングでのセッションによって作り上げられていったとのこと。TROUBLE BOOKSによる優しいギター・サウンド、男女のツイン・ヴォーカル、Mark Mcguireの暖かく柔らかな質感のエレクトロニクスが絡み合うアンビエントなベッド・ルーム・ソングが非常に心地良い。深い夏の夜にそっと寄り添う大人のポップ・ミュージック。