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LIVE REPORT

Japanese

ゲスの極み乙女。

Skream! マガジン 2015年11月号掲載

2015.10.14 @横浜アリーナ

Writer 沖 さやこ

全国3都市を回ったゲスの極み乙女。のアリーナ・ツアー。ファイナルの横浜アリーナ公演は満員御礼、12,000人もの人が集まった。ライヴ・キッズから中学生グループ、親子連れまで、老若男女問わず様々な世代の人で溢れる客席を見て、改めてゲスの極み乙女。がお茶の間に浸透していることを肌で感じた。この大舞台で彼らはどんなライヴをするのか? そんな筆者のドキドキをよそに、ステージに現れた彼らは今まで通りだった。これまでのライヴでお馴染みの光景が12,000人の観客の前でいくつも広がり、だからこそ彼らの歴史を思い返すことも多かった。だがもちろん根っこの精神性が変わらないだけで、様々な成長はあるし、何よりこの日のステージには、楽しそうに音楽とはしゃぐ4人が過去最高のキャパシティを前に堂々と立っていたことが誇らしかった。
 
ステージの前に張られた真白の紗幕に、「無垢な季節」のMV映像、ピアノ&ストリングス・アレンジが施された同曲のインスト、川谷絵音(Vo/Gt)の語りで構成されたオープニング・ムービーが流れると、1曲目は「無垢な季節」。紗幕が落ちた瞬間に客席からは大きな歓声が起こる。川谷はハンドマイクで上手下手に伸びたステージを広々と歩く。休日課長(Ba)の太く地響きのようなベースで始まる「星降る夜に花束を」は、ちゃんMARI(Key)のピアノがなめらかに響き、川谷のソフトなラップが心地いい。続いて川谷がギターを持ち、ほな・いこか(Dr)のドラム・ソロから「パラレルスペック(funky ver.)」。ギターのカッティングひとつにも切れ味があり、川谷の演奏力の向上を感じる。ライティングは華やかでステージは大きく、巨大モニターにメンバーの表情が映し出されたりはしているが、序盤からここまで、ステージ・セットが大きく動いたり派手な映像演出があるわけではない。ゆえに彼らの立ち姿や演奏力に集中できた。4人の堂々としたプレイが大会場を圧倒する。
 
MCではちゃんMARIによるお馴染みの"コポゥ!"のコール&レスポンスと4人のゆるゆるトークと、12,000人を前にしてもやはり普段と変わらない。川谷が"まだまだいけますか、みなさん"と声をかけるとキーボードに両手を置き、「ロマンスがありあまる」。最初からそこまで緊張は感じなかったが、ここにきてさらに音に広がりが出てきた。軽やかなピアノで幕を開ける「だけど僕は」で、音のノリがしなやかに。かつては本編ラストなどで演奏されることが多かった「スレッドダンス」は、やはりいつも通り川谷、ちゃんMARI、課長がひとりずつ演奏中に袖へとはけて、最後はいこかのソロで締めた。彼女が演奏し終えると、場内は暗転。上手と下手にあるモニターに"もしもHEROのバーをゲスの極み乙女。がやっていたら"と題された、ゲス乙女流のゆるゆるコントVTRが流れる。そこで川谷が"会場のみなさんにプレゼントがあるよ"と言うと、YouTubeでショート・バージョンが公開されていた「無垢な季節」のMVが、初めてフル公開された。

すると"まだまだいけますか?"という川谷の声で、衣装チェンジをしたメンバーが登場。和装のような洋服で、その華やかな装いは楽曲ともよく合っている。ステージの背景にも4つの正方形のモニターが現れ、さらにステージは煌やかに。いこかの"そろそろゲスの4箇条が聴きたいんじゃないの?"の口上で「ホワイトワルツ」。"ゲスの4箇条"の読み上げで川谷と課長が大きなカードを掲げる、ライヴハウス時代からの演出だ。そのあとのMCでは課長がサラリーマンをしながらバンドをやっていたインディーズ時代のエピソードを川谷が語り、"なんの話してたんだっけ。まあ、ここまで来ましたってことです"と彼らしく淡白にまとめると、客席から大きな拍手が起こった。「Ink」はダイナミックなサウンドスケープで魅了。シリアスなシンセ、唸る歪んだギター、力強いリズム隊。音に入り込んでギターを弾く川谷の姿は非常に美しい。完全にロック・バンドとして着火したゲスの極み乙女。は、「餅ガール」でさらに衝動的に。心が走るままに演奏していく4人のモードはとても爽快で、キャノン砲がそのムードを高めた。恒例の餅まきを終えると変拍子を取り入れた「アソビ」、キラー・チューン「キラーボール」で本編を締める。特に「キラーボール」はバンドの成長とともに艶も増している印象だ。ライヴハウスで培ってきた生身で勝負する姿勢は非常に勇敢である。ラストに川谷は"横アリ最高! ありがとう!"と高らかに叫んだ。
 
アンコールではまず未発表の新曲を初披露。川谷といこかの掛け合いがあり、メロディも少し歌謡曲のテイストも感じさせる。これまで川谷の作るメロディには洋メロのニュアンスが強いので、今までのゲスの極み乙女。とは少々異なる表情を見ることができた。「ノーマルアタマ」のあとライヴが終了するかと思いきや、ダブル・アンコールとして初の全国流通盤である『ドレスの脱ぎ方』を完全再現するというサプライズ! 「ぶらっくパレード」は川谷の歌が情感豊かになり、心に迫る。「モニエは悲しむ」は躍動感のある演奏で魅せ、音には喜びを止められないような感触もあった。筆者がメジャー・デビュー時に川谷にインタビューをしたとき、『ドレスの脱ぎ方』リリース当時のことを語ってくれたが、そのときの状況を考えると今のゲスの極み乙女。を取り巻く環境は予想できない。この大舞台でこの時代の楽曲を立て続けに演奏することの感慨深さが、音に顕著に表れていた。作中ではインタールード的な役割を果たすひりついた空気が印象的な「ゲスの極み」もライヴで初披露すると、川谷は"アリーナでやる曲じゃないんだけど(笑)"と言いながら、ここで演奏できたことを喜ぶ。"初めて作った作品なので、末永く愛されたらいいなと思って今やっています"と語ると、Nabowaのギタリスト、景山 奏をゲストに招き「momoe」を披露。ラストの「ドレスを脱げ」ではちゃんMARIが満面の笑みで後頭部や額でキーボードを弾くなど、メンバー全員が歓喜をあらわにした。最後客席には"ゲス札"が降り注ぎ、祝祭感がもたらす熱は終演後もなかなか冷めやらなかった。

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