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LIVE REPORT

Japanese

ゲスの極み乙女。

Skream! マガジン 2014年08月号掲載

2014.07.06 @ LIQUIDROOM ebisu

Writer 天野 史彬

川谷絵音はいつだって、全てを諦めた顔をしている。それと同時に、彼はいつだって、全てを信じている顔をしている。何故か。それは彼が、全てのコミュニケーションの根本にあるのはディスコミュニケーションであることを知っているからだ。コミュニケーション=ディスコミュニケーション。これは一切矛盾しない。だって僕らは"繋がれない"という事実のもとでしか繋がれないし、"触れられない"という事実のもとでしか触れられないし、"届かない"という事実のもとでしか届けられないから。だから川谷絵音は、世界から切り離された孤高の場所で、全てを諦め、全てに期待している。彼の内面的な心象を深く描いているのはindigo la Endだが、より表象的な、人と人とが交じり合う"対社会"の軋轢(ディスコミュニケーション)の中で生まれる哀しみと喜びが生々しく表出しているのは、ゲスの極み乙女。だ。

ゲスの極み乙女。の"ゲスにノーマル TOUR"、恵比寿LIQUIDROOM 2デイズの2日目に行ってきた。もちろん大入り満員状態で行われたこの日のライヴ、1曲目は「モニエは悲しむ」。ファンキーにノせていきながらも、どこか冷静にオーディエンスとの距離感を計っていくような印象を受けるスタート。しかし、そこからちゃんMARIの"いくぞー!"のかけ声と共に始まった「餅ガール」で、一気にバンドもオーディエンスもバースト。皆、拳を突き上げ、ハンド・クラップも巻き起こる。続く「市民野郎」では、もちろんオーディエンスも一緒に"うぉーおうぉおうぉー!"と合唱。だが、ゲスのライヴを観る度に気になるのは、こうした熱狂を生み出す中心にいながら、常に半分は居心地の悪さを感じているような川谷絵音のどこか醒めた佇まい。"みんな~!""ノーマルじゃない!"というコール&レスポンスから始まった、『みんなノーマル』のキー・トラックである「ノーマルアタマ」では頭に箱を被ったダンサー2人もステージに登場。フロア一体となって盛り上がる熱気に包まれたが、そうした熱狂の渦の中で"何でだろ こんなんじゃきっと 頭がおかしくなる"、"集団心理の世間の声は簡単に脅かされるのに/いつまで経っても全然気付かない君が怖い"と歌う川谷の目には、拳を突き上げながら踊る人々で満ちたフロアの熱狂はどう映っているのだろうか?

中盤にはドラマ"アラサーちゃん 無修正"の主題歌となったニュー・シングルのタイトル・トラック「猟奇的なキスを私にして」も披露。突きぬけたポップさが際立った1曲だ。その後メロディアスな名曲「ハツミ」を聴かせた後のMCでは川谷が、祖父にバンドの名前を覚えてもらえたことや地元新聞で紹介された喜びを語り、"次はもっとデカいところでやるから"と、より多くの層へ届ける決意を語った......かと思えば、続く「サカナの心」で"どう歌っても どう愛しても 僕の声は あなたじゃなく魚まで"と、絶対に届かない想いを歌う。チケット整理番号の抽選で選ばれた観客2人をステージ上に上げるというオーディエンスを巻き込んだサプライズ企画からの「いこかなでしこ」~「jajaumasan」の流れでは、エンターテイメント性に富んだ楽曲とステージングでフロアを盛り上げながらも、本編ラストを飾った「キラーボール」では、高速ダンス・ビートの上で"踊ることをやめなければ誰も傷つかないんだって"と、同調圧力や集団心理に踊らされる昨今のバンド・シーン、あるいは現代社会に対して鋭い批評性を見せつける――このアンビバレンス。やはりゲスの極み乙女。の音楽やパフォーマンスには、人と人とがそれぞれの"ディスコミュニケーション能力"を持ち寄りながら、それで他者と摩擦し合いながら繋がってしまうような、そんなカタルシスがある。最初にも書いたが、川谷絵音の表情には全てに対する諦めと期待がある。きっと彼は、誰かに想いを"届けたい"という願望を人一倍持ちながらも、自分の気持ちが100パーセント完全な形で他者に伝わるなんてことはあり得ないんだ、というシビアな現実認識も持っている。僕らは"わかり合う"ことではなく"わかり合えない"ことでしか繋がれない。その絶望と喜びを目一杯噛み締めているからこそ、ゲスの音楽は、今、とても多くの人を突き放すのと同じくらいの強度で抱きしめているのだろう。この日の演奏を観ながら、そんなことを強く感じた。

アンコールではしっとりと聴かせる新曲「ラスカ」も披露。そしてオーラスの「ドレスを脱げ」では"ドレスを!""脱げ!"のコール&レスポンス、そして"ラララーラララーラララー"の大合唱で会場は大盛り上がり。この日、LIQUIDROOMに集った人々ひとりひとりが抱える、絶対に繋がれない歪な孤独ひとつひとつを巻き込みながら、繋いでいた。

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