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FEATURE

Japanese

ゲスの極み乙女。

2018年08月号掲載

ゲスの極み乙女。

Writer 沖 さやこ

川谷絵音(Vo/Gt)と初めて会話をしたのは彼のメジャー・デビュー時、indigo la Endの3rdミニ・アルバム『あの街レコード』とゲスの極み乙女。の3rdミニ・アルバム『みんなノーマル』の同時リリースに際するインタビュー(※2014年4月号掲載)だった。その対話の中で彼は、冗談なのか本気なのかはわからなかったが、"会社を作りたい"とこぼしていた。それ以降、インタビュー前に、メンバーの衣装について彼がスタイリストと1対1で話し合っているシーンなどをしばしば見かけた。彼は自分自身にまつわる表現においてすべての自分の理想をかたちにしたい人であり、いい意味で他人任せにはしない人間なのだろうと思った。そしてそれを成し遂げる手腕もある。だからこそ"会社を作りたい"という発言も、indigo la Endとゲスの極み乙女。としての活動に加え、DADARAYのプロデュース、ジェニーハイのプロデューサー&ギターを務め、インストゥルメンタル・バンド ichikoroの活動、俳優デビューと、様々なプロジェクトに携わることもすべてが腑に落ちた。

そんな川谷がとうとう、会社とまでは言わないが、これまで所属していたunBORDEと同じワーナーミュージック・ジャパン内に、ニュー・レーベル"TACO RECORDS"を立ち上げた。その記念すべき第1弾作品が、ゲスの極み乙女。の4thフル・アルバム『好きなら問わない』。ゲスの極み乙女。はunBORDEを卒業し、"TACO RECORDS"所属アーティストとして活動をしていく。

『好きなら問わない』は前作『達磨林檎』から約1年3ヶ月ぶりのリリース。この期間のゲスの極み乙女。の活動を振り返ると、まず『達磨林檎』のリリース直後である2017年5月に、約5ヶ月ぶりのライヴ活動復帰を果たす。同月には川谷と休日課長(Ba)によるVOCALOIDクリエイター・ユニット、"学生気分"が初のオリジナル楽曲「恋のこと」を発表。10月には配信シングル『あなたには負けない』をリリースし、約1ヶ月半の期間で22公演にわたるワンマン・ツアー"ッアーーー!!!"を行った。このツアーでは会場限定の6曲入り音源『マレリ』がリリースされている。12月にはZepp Tokyoにて川谷の誕生日である3日にゲスの極み乙女。とindigo la Endとお笑い芸人が出演した"エノンの日"を、23日には沖縄ナムラホールにてゲスの極み乙女。とindigo la EndとDADARAYによる"絵音の誕生日から20日たったぜ♡Go!Go!Go!"といった自主企画を開催。復活劇を遂げてから、ゲスの極み乙女。はライヴと楽曲制作に明け暮れていた。

2018年もその勢いは止まることはなかった。1月24日にはアクション・ゲーム"クラッシュ・ロワイヤル"CMソングを表題にしたシングル『戦ってしまうよ』をリリース。TVはもちろん街の中でも頻繁に放映されていたため、復活以降ライヴハウスで精力的な活動を続けていたゲスの極み乙女。というバンドがお茶の間に戻ってきたと強く印象づけたタイアップとなっただろう。


2月には同作のリリース・イベント"ゲスの極み乙女。久しくシングル出してなかったから何かシングル出す時の感覚忘れちゃったし、ワンマンするのも何だから仲間を呼んだぜ! あんまライブ無いから来てくれよな!PARTY"を新木場STUDIO COASTで行い、3月には"MTV Unplugged"に出演した。"MTV Unplugged"は世界中のトップ・アーティストが出演し、独創的で個性溢れるアコースティック・ライヴの源流としてその歴史を刻んできた、MTVが誇る大人気企画。管楽器や弦楽器隊も参加し、ちゃんMARI(Key)はグランド・ピアノ、休日課長はウッド・ベースを扱うなど、普段とは違うアレンジでゲスの極み乙女。の真髄とも言えるメロディを生かしたパフォーマンスを行った。『好きなら問わない』の楽曲にはその要素や経験も、効果的に随所に盛り込まれている。

結成6周年記念日である2018年5月12日に、新曲「もう切ないとは言わせない」(※『好きなら問わない』収録曲)をリリース。RADWIMPS、くるり、Polaris、ハナレグミなど、様々なアーティストのレコーディングやライヴでサポートを務めてきたチェリスト、徳澤青弦率いるカルテットがレコーディングに参加している。「ユレルカレル」、「スレッドダンス」などに代表される、切なく繊細でありながらも失われないポップネスが瑞々しい、ゲスの極み乙女。の十八番的楽曲である。だがストリングスの音色やジャズ・テイストの間奏などの洗練されたサウンド・アプローチと、優雅さを保ちつつエモーショナルに突き抜けるロック・バンド的アプローチのふたつを1曲に同居させたのは新鮮だった。このコントラストによりドラマ性も増している。また、"もう切ないとは言わせない"という川谷のキャッチコピー的......というよりは、ロマンチシズムも擁している点ではある種決め台詞的と言った方が正しいだろうか。ワード・センスも冴えている。まさにゲスの極み乙女。の6年の旨味を総動員した楽曲と言っていいだろう。


6月22日には東京NHKホールにて結成6周年を祝したワンマン・ライヴ"6th Anniversary live「乙女は変わる」"を開催。『好きなら問わない』収録の「オンナは変わる」を初披露したことも記憶に新しい。同曲は6月23日から配信が開始。ギターのカッティングやスラップ・ベース、ほな・いこか(Dr)の細やかであり迫力のあるドラミングなど、ゲスの極み乙女。の強みのひとつであるリズムを効果的に構築させている。ベートーヴェンの"運命"を引用したピアノ・ソロもスリリングだ。


このバンドのポップネスの秘密は違和感にあり


J-POPには難解な演奏を難解に聴こえないようにして耳心地のよさを追求する手法も多いが、ゲスの極み乙女。の場合は演奏が難解であることも明確でありながら、ポップスとして成立させる力がある。それはメロディとリズムが大きな要因であるが、ここにもうひとつつけ加えたい。それは"違和感"である。ゲスの極み乙女。では当たり前の男女の掛け合いも、ある意味種類が違うものが交わる"違和感"だ。ゲスの極み乙女。は表現すべて、ユーモア・センスと知性でもってそれを効果的に操っている。それこそ彼らのポップネスの真髄と言ってもいいだろう。メジャー・デビュー時のインタビューで川谷は"ポップと狂気は紙一重"と言っていたが、この常人外れのセンスは狂気の沙汰だ。

indigo la Endは自分の深層心理を掘り返すようなサウンドスケープや言葉選びをし、音と言葉の親和性で情景を描いているが、ゲスの極み乙女。はこの6年間常にアレンジメントや音使いはもちろん、言葉の操り方も先進的で、先述の違和感がフックを作り出している。たとえばグランジ感のある「招かれないからよ」では、飄々と歌う川谷のヴォーカルやメンバーによるコールと不穏な歪んだギターが作り出すコントラストが、不気味なのにもかかわらずくすりと笑ってしまいそうになる。『好きなら問わない』にはほかにも様々な違和感が宝石のように散りばめられており、その精度は過去最高だ。歌詞の内容も生活と密接なもの、素朴な思考を綴ったものから意味深なものまで、決め台詞的なワード・センスで様々な情景や心象を描いている。結成7年目に突入し、バンドとしても脂の乗るゲスの極み乙女。による違和感の魔法。それに翻弄されるも良し、興じて楽しむも良し、だ。ただしこの魔法、一度かかってしまったら最後。それを解くのはなかなか難しいほど中毒性が高いとだけはお伝えしておこう。



▼リリース情報
ゲスの極み乙女。
4th FULL ALBUM
『好きなら問わない』
[TACO RECORDS]
2018.08.29 ON SALE

gesu_JKT_ltd.jpg
【初回限定盤】CD+DVD
WPZL-31488〜9/¥4,500(税別)
amazon TOWER RECORDS HMV



【通常盤】CD
WPCL-12913/¥3,000(税別)
amazon TOWER RECORDS HMV

[CD]
1. オンナは変わる
2. はしゃぎすぎた街の中で僕は一人遠回りした
3. イメージセンリャク
4. もう切ないとは言わせない
5. 戦ってしまうよ
6. sad but sweet
7. 僕は芸能人じゃない
8. 颯爽と走るトネガワ君
9. ゲンゲ
10. 私以外私じゃないの
(Remix by PARKGOLF)
11. 招かれないからよ
12. ホワイトワルツ(adult ver.)
13. アオミ

[DVD]
"MTV Unplugged: Gesu no Kiwami Otome."ライヴ映像

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