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FEATURE

Japanese

ゲスの極み乙女。

2014年08月号掲載

ゲスの極み乙女。

Writer 沖 さやこ

"猟奇的"。それは"奇怪、異常なものを捜し求めるさま。また、そういう気持ちを満足させるようなさま"を言う。もともとこの言葉を世間的に浸透させたきっかけとなったのは、韓国映画の"猟奇的な彼女"だろうか。あの映画は暴力的で強引な、だけど少々ワケアリで実は根は優しい彼女と、それに振り回される男子学生を描いたものだった。それゆえに猟奇的という言葉には、攻撃的やら荒々しいイメージをお持ちのかたも多いかもしれない。でもわたしはこう思う。女はひとつひとつに対してやたらと喜怒哀楽が強いというだけで、それゆえにひとつひとつに特別な刺激を求めている。そういう意味で、女は誰しも猟奇的なのではないか。そう肯定的に捉えているのは、わたしが女だからだろうか?

今年は様々な地上波番組に出演し、メンバーそれぞれのキャラクターの濃さも影響して、お茶の間にも少しずつ認知度を高めているゲスの極み乙女。。彼らがこの夏リリースするメジャー1stシングル『猟奇的なキスを私にして/アソビ』、Track.1「猟奇的なキスを私にして」は、峰なゆか原作、壇蜜主演のTVドラマ"アラサーちゃん 無修正"のオープニング・テーマとして、バンドのフロントマンでありキーマンの川谷絵音が書き下ろしたものだ。"アラサーちゃん 無修正"はアラサー世代の日常を通し男女の恋愛や性に関する本音を赤裸々に描く連続ドラマ。原作コミックは同世代から絶大な人気を誇り、累計22万部を突破している。この書き下ろし曲に関して、川谷絵音は"アラサーちゃん(の原作)を読んで僕が思った女性のゲスな部分を主に女性目線で書いた曲"だと言い"僕は女性でもなければアラサーでもないんですが、だからこそ書ける歌詞だと思っています"と続ける。アラサーちゃんに対して"猟奇的"だと感じた川谷が、その彼女に歌わせた言葉はこうだ。"猟奇的なキスを私にして/最後まで離さないで"。

猟奇的なアラサーちゃんは、相手の男性にも同じくらいの愛情を求めている。でも彼女は"やっぱり今日も愛を探して/泣いた空を見上げて目を開けた"。満たされない切なさ、繋がれない歯痒さ。そんな自分を隠す、素直になりきれない、強さと弱さの間でゆれる乙女心――どこかすかした空気感のギターやドラムや、めりはりが効いた低音は、そんなひとりの女性の肩にやわらかく手を置くように優しい。母性的な包容力を持つキーボードの音色は、そんな女性のゲスな部分こそ色気にもなるのだということを示すようでもあった。

川谷絵音はアラサーちゃんの気持ちをわかろうとして、アラサーちゃんになりきってこの曲を書いたわけではない。この曲は、川谷絵音が男性として、アラサーちゃんの想いを汲んだものである。個人的な意見で恐縮だが、わたしは自分以外の人の気持ちを100%理解するなんて不可能だと思うし、"僕は君のことを理解してる"と言われたらひねくれアラサーちゃんとしては"わたしの何を知ってるの、おこがましい!こっちは伊達に四半世紀以上生きてないの、あなたが思うほどそんなに簡単じゃないから"なんて思ってしまう。だが、その相手が何を考え、感じているのかを知ろうとできる限り歩み寄ること、その人の心に寄り添うことはできる。それこそとても健全で美しいコミュニケーションではないだろうか。だからこのポップでキャッチーで、ちょっぴり切なさが漂う「猟奇的なキスを私にして」という曲には、他者への愛情と思いやりが満ちているのだ。

そしてauオリジナル・スマートフォン"isai FL"TV-CMソングのTrack.2「アソビ」は、その名の通り遊び心が爆発したプログレ的な展開が小気味よく、川谷の早口ポエトリーリーディング風のラップもエッジが効いた、ゲス流ロックを示した感情的且つ知性的な曲。軽やかなピアノの音色がサウンドを牽引するTrack.3「だけど僕は」は美しいメロディと、"怖い""孤独""不安"というワードのコントラストが絶妙で、何度も"だけど僕は"と歌う川谷の歌声には等身大の一念発起を感じられる。9月には初のZeppワンマンを控えるゲスの極み乙女。は、このシングルを機に更にその名を世間へと広め、より多くの人々の生活に彼らの音楽が鳴り響くことになるだろう。そのタイミングで届けられるのがこの3曲というのは、とても意味深く、誇らしいことだ。


▼リリース情報

ゲスの極み乙女。
『猟奇的なキスを私にして/アソビ』
[unBORDE]
2014.8.6 ON SALE
WPCL-11928 ¥1,200(税別)
[amazon] [TOWER RECORDS] [HMV]

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