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COLUMN

オワリカラ : タカハシヒョウリの「火星から来た漫読家」【第1回】

2011年05月号掲載

オワリカラ : タカハシヒョウリの「火星から来た漫読家」【第1回】

どうも、はじめまして!オワリカラというバンドのタカハシヒョウリです。ギターボーカルです、って言うのもいよいよ飽きてきたので、無責任にフロントマン、って言ってみます。前男と。こうやって和訳すると、フロントマンって男前にちょっと近いニュアンスで構成されてるんだってわかりますね。

そんなことよりマンガが好きだーー!!!と、スクリームらしく突然叫んでみました。今日から1500字のこの欄を使って、マンガに対する偏愛を吐露します!夏目房之助とデビッド・ボウイを足して2で割ったようなグラムな漫読家(マンガ読む人。造語。)を目指している身としては、この機会を待ってました!約2千冊の秘蔵マンガ棚の中から繰り出されるこのコラムには、ためになる情報だけは一切無い、ということだけは確かです。先に約束しておきます!嘘は嫌いだから!あとから怒られても困るから!

記念すべき第一回となると、なかなか作品選びも難しいです。つかみとして、誰もが知っている作品を選ぶべきか…、と悩みつつ手に取ったのは徳南晴一郎の「人間時計」ってマンガです。
 ↓ ↓

「知らねーよ!バカ!」いや、これでも90年代に再発されたりしてるんだって。
「見たことねーよ!ヘボ前男!」いや、古本屋に結構あるから!探してみて!
「人間椅子じゃなくて?」え、イカ天世代?

「人間時計」という、ものすごいタイトルのこのマンガは、自分が高校生の時に再発されていたのを読んで交通事故にあったような衝撃を受けた(珍しい比喩を使おうと思って失敗した例)狂気とシュールの狭間でゆれるカルト怪奇マンガなのです。
このマンガ自体は、1960年代にひっそり出版されて消えて行った貸マンガでした。これが1979年に450部限定で復刻され、ごく一部で幻のカルトマンガの極めつけとして認知されました。450部って、オワリカラの自主制作時代の最初のCDより少ないですよ。その後、90年代に太田出版から再発されて一般の書店にも並びました。
さてさて、まずこのマンガ、とにかく怖いくらいデッサンが歪んでるんですよね。一目見て何が起きてるのかが、本当にまったくわからない。そこに生理的な恐怖と焦燥感を感じるんです。崩壊したデザインや震えているような線が純粋な狂気をはらんでいるのです。

肝心の内容は、主人公の不登校少年声タダシ(!)の家に時計の顔をした家庭教師がやってきて、体が時計に変えられていき、ネズミに食い殺されるというストーリーです。

…あなた、意味わかりました?ちなみに僕はまったくわかりません。しかしこのマンガのすごい所は、この不条理なバッド・トリップっぷりに作為的なところが無いってことです。ナチュラルでこのマンガがドバドバあふれ出して来たんだな、とわかる。そこにこのマンガがシュールを狙った他のマンガとは違う、この作者の逃れられない因果を垣間見せるのです。ちなみに作者の暗雲に満ちたマンガ家時代を振り返った自伝『孤客』も合わせて読むと、さらにクラクラできます。
徳南晴一郎は2009年のクリスマスイブにひっそりとこの世を去りました。
僕はこのマンガに出会って、ただ待っているだけでは出会えない世界にとてつもなく面白い物があるのだと知りました。今までの価値観をぶち壊してくれたのです。だから、僕はこのマンガに感謝しています。僕も、このコラムも、どこかの誰かのそんな存在になれる日を密かに夢見て垂れ流し書きつづっていきたいと思います。
最後に、この徳南のもう一つの怪奇マンガ「猫の喪服」の主人公の名前は、指地図夫。僕はいつか息子が出来た日には地図夫と名付けようという小さな野望があるのです。

追伸。この『人間時計』、今はネット上のレンタルサイトで読むこともできます。
古本屋で見つからなかったら、こちらからどうぞ!
https://renta.papy.co.jp/renta/sc/frm/item/576/

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