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COLUMN

黒猫チェルシーの「開拓!ネコロンブス」【第8回】

2017年03月号掲載

黒猫チェルシーの「開拓!ネコロンブス」【第8回】

黒猫チェルシーの開拓!ネコロンブス 第8回 <岡本啓佑(Dr)>

第8回を迎える「開拓!ネコロンブス」今回はドラムの岡本が喫茶店のアイドル、クリームソーダについてお話ししたいと思う。

僕の思い出のクリームソーダは神戸元町にある元町サントスのクリームソーダだ。中学生の頃、兄から「海文堂書店で買った本を片手にサントスでコーヒーを啜るのがステータスだ」と教えられていたが、僕はこのお店の窓際の席で街行く人を眺めながらクリームソーダを飲むのが好きだった。おじいちゃんと、友達と、恋人と、何度も通った。なんてことはない丸いアイスの乗った緑のクリームソーダだけど、僕には特別な一つだった。

そんな僕も上京し、東京に来てからもたくさんのクリームソーダを飲んできたが、ついに究極のクリームソーダと出会ってしまった。

吉祥寺にある喫茶店、近江屋のクリームソーダだ。このクリームソーダを目の前にして街行く人を眺めている暇などない。

まずは何と言ってもアイス。
鋭角に刺さっている。
クリームソーダのアイスといえば丸かったりソフトクリームタイプであったりを想像するだろうが、これは何と形容しようか。
「アイスクリームのメロンソーダ添え」とも言えるそのアイスの存在感が視覚を刺激する。

次はソーダ。ここはスタンダードに緑だ。赤青黄色、最近では健康に気遣った色の薄いオーガニックなものにも出会ってきたが、驚くほど普通の緑だ。しかし普通には終わらないのが近江屋。シロップの濃厚さと炭酸の強さが両立されている。通常どちらかが犠牲になるものである。素晴らしい配分、撹拌具合でどんなメロンソーダのプロフェッショナルがいるのかと思えば、作っているのはバンドマン風情のロン毛のあんちゃんだ。

そしてトッピングは、無い。
チェリーだとかレモンだとかのトッピングはこのクリームソーダには必要がないのだ。これ以上に彩る理由が見当たらない。

いざ実食となれば手に持ったスプーンは一旦置かなければならない。アイスが飛び出し過ぎてスプーンでは制御できない。周りの目を気にせずかぶりつくのみ。
ああ、あなたにこのバニラビーンズが見えますか。
ああ、このバニラアイスは何者ですかと叫びたい気持ちを抑えソーダを飲めば
ああ、このソーダと出会うために生まれてきたのだと確信する。
ああ、あれは1902年。かの有名な資生堂パーラーがアイスクリームとソーダを出会わせたという。ありがとう資生堂パーラー。

そんなクリームソーダの歴史に思いを馳せつつも、クリームソーダの賞味期限は秒で進んでいる。ソーダをアイスで濁さずに食べ進めるのが僕の流儀だ。時間はない。
一心不乱に食べ進めれば、アイスは唇を濡らし、ソーダは口中を緑に染めあげる。
啓佑、ソーダ濁さず。綺麗な緑のままのソーダをズズッと吸い上げれば、完飲完食。

ごちそうさまでした。