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COLUMN

黒猫チェルシーの「開拓!ネコロンブス」【第5回】

2016年09月号掲載

黒猫チェルシーの「開拓!ネコロンブス」【第5回】

黒猫チェルシーの開拓!ネコロンブス 第5回 <渡辺大知(Vo)>

やってきました「開拓ネコロンブス」、第5回は一周回ってボーカル渡辺です。今回はぼくの永遠の憧れであるアメリカンニューシネマについて掘り下げたいと思う。

アメリカンニューシネマってのがなにかというと、1960年代後半から70年代にかけてアメリカで制作された反体制的な映画たちのことである。この時代のアメリカはケネディ暗殺事件が起こった直後で、それまで戦後の好景気により浮かれていた若者たちの中から、反体制派が生まれてきた頃だった。音楽ではアメリカもビートルズ全盛、ストーンズやキンクスなどのロックンロールや、スプリームス、サイモン&ガーファンクルが流行った時代。

そんな中誕生したのが『俺たちに明日はない』という映画である。1967年に作られたこの映画は、犯罪者ふたりが出会って死ぬまでを描いた作品で、製作チームの予想を覆す大ヒットを記録。それまでハッピーエンドやヒーローが勝つのが当たり前だったアメリカ映画界において、主人公の悲惨な最後で幕を降ろす、つまりバッドエンドな映画が衝撃だった。みんな社会から逃げる二人の生き様に釘づけにされたのだ。ここから「アンチヒーロー」の感覚が生まれる革命が起こるわけである!

アンチヒーローとは、それまでの主人公像である「正しい」や「強い」という型から外れた主人公のこと。つまり、「普通の人」が主人公になれる時代がきたわけで。これが革命なわけです。ぼくもアメリカンニューシネマのこの感覚に虜になってしまった。

その後も『卒業』や『明日に向って撃て!』、『イージー・ライダー』などの名作を生み出したニューシネマ。しかし、そのアメリカンニューシネマの時代にも終わりが来てしまう。『ロッキー』の誕生により、努力して強敵を倒す、「アメリカンドリーム」の時代が返り咲いたのだ。やはり反体制の映画には限界があった。さらに調べてみると、どうやら『ロッキー』だけでなく、『スター・ウォーズ』や『ジョーズ』の登場も絡んでくるそうだ。大迫力やスペクタクル、そして強い主人公が再び人気となっていった。最後のアメリカンニューシネマと言われているのが『断絶』といういわくつきの映画で、文字通りニューシネマは断絶に向かった。

ただ、やはりすごいのは、ムーブメントとしては断絶したけれども、その「アンチヒーロー像」や「バッドエンド」の感覚は現在においても受け継がれ、ニューシネマの影響はいまもあらゆる映画や音楽に与えられているということなのだ。実際、90年代初頭に台湾で台湾ニューシネマと言われるムーブメントも起きた。台湾社会を掘り下げるテーマで、街を生きる若者を中心に作られた映画たちである。

まだまだ映画の歴史は深いが、時代背景も知れるとまた奥深く感じることが出来るものだ。
ちなみにぼくの好きなニューシネマの映画は、『ミーン・ストリート』、『さらば冬のかもめ』、『スケアクロウ』など。観てみて!