DISC REVIEW
カ
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快速東京
ウィーアーザワールド
2013年、RISING SUN ROCK FESTIVALやBAYCAMPを始めとした大型フェスの数々で大暴れ、さらにはあのGoogleのキャンペーンに起用されるなど、世界規模で注目を集めている快速東京が、約1年半ぶりとなる待望のニュー・アルバムをリリース。世の中を薮睨みしているのかと思える程に一見意味のない様な歌詞ばかりだが、深く読み解くと実は物事の本質をプスリと射抜く福田哲丸のユニークな世界観が詰まっている。エッジーなギター・リフにタイトなリズム、キャッチーな展開がなんとも爽快だ。オープニングからエンディングまで一気に駆け抜けるようなファスト・チューンが魅力的。メンバー自らがグラフィック・デザインを手掛けたジャケット・アートワークにも注目したい。
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快速東京
ロックインジャパン
全曲ほぼ1分台(全16曲の中で2分を超えるのはたった1曲だけ)で駆け抜ける、ショート・ハード・ロック・バンドの快速東京、待望の2ndアルバム。プロデューサーに元NUMBER GIRLの中尾憲太郎を迎えて制作された本作は、前作『ミュージックステーション』から、よりパワー・アップしたエネルギッシュなサウンドを聴かせてくれる。ハードコアやパンクとは違う、ポップでダイナミックな展開は不思議な魅力を解き放つ。強力なギター・リフや疾走感の中に、“妙に気になる音”があり、何度も繰り返し聴きたくなる中毒性を持っている。ラッパーとしても有名な、やけのはらを迎えた楽曲も抜群のキャッチーさと完成度。話題性を含め、今年を代表する1枚になるのは間違いないだろう。
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鏡トナリ
First Culmination
洋楽でも邦楽でもない、ここにしかない音――とレーベルが謳っているとおり、煌びやかなシンセやダンス・ビートも取り入れたエモ以降を思わせる演奏とJ-POP~アニソン風の歌のハイブリッドは、まさに唯一無二。ヘヴィなリフを奏でるTrack.2「Diver」、バラードと思いきやテンポ・アップして2ビートになるTrack.6「From here」を始め、曲ごとに趣向を凝らしながら、前へ前へという全体の印象は現在のバンドの勢いが反映されているからだ。そこにバンドの芯がしっかりと感じられるところがいい。ライヴ・シーンで育ってきたバンドなのだろう。サウンド・プロデューサーはfadeのrui。最近、本当にいい仕事が多いです。個人的にはギターの音色が80年代のUKニュー・ウェーヴっぽいTrack.5「Shine down」がツボ。
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カコイミク
RAFT
それでも桜は咲きました。あたりまえの日常が変化する2011年、穏やかな木漏れ日に包まれながら眺める春の景色に、これまでとは違う愛おしさを噛みしめたのでは?そんなやさしい時間を歌にコンパイルしたような、ハートフルなポップ・ソングがここに。カコイミクのメジャー1stフル・アルバム、一聴すれば虜になるだろう、まるでUAと吉田美和の中間を射抜いたような、スモーキーながら柔らかい歌声の力に圧倒される。この才能を遺憾なく活かすは、大橋トリオをはじめとした豪華なプロデューサー陣。ジャズやファンク、エレクトロニカを上品にアレンジし、心地良いメロディを構築している。もう散ってしまったかもしれないが、彼女の音楽はいつでもあなたの情景をサクラ色に染め上げる、普遍の暖かみを宿している。
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カコイミク
Doodle
大橋トリオプロデュースの前作『DIGIDIGI LALA』から9ヵ月ぶりとなる2ndアルバム。本作はSaigenji、キマグレンのトラックプロデュース等を行っているGira Mundo(ジーラ・ムンド)がプロデュースを手がけている。いずれも力の抜けたナチュラルなポップ・ソング、耳に優しく美しい音色を作り上げるプロデューサーを起用しているが、彼女の声は、彼らが作るそういった世界がよく似合う。たおやかで女性的なやわらかさを持つ声は、爽やかで明るいポップ・ソングでは少女のように曲中を跳ねまわるし、しっとりとしたミディアム・ナンバーでは、よりしなやかな大人の女性へと変化し、切なさを帯びる。どんな色にも染まる無色で自然体な声だが、もちろん曲の主役を演じられる確かな存在感を持っている。そして、聴く者の想像力を刺激する独創的な歌詞も魅力的。
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かせきさいだぁ
ミスターシティポップ
2009年にかせきさいだぁとしての活動を再始動し、昨年は13年振りとなる3rdアルバム『SOUND BURGUR PLANET』をリリース。そして早くも新作が完成。『ミスターシティポップ』というタイトル通りシティ・ポップ感満載の今作は、オープニングから瑞々しくそしてスマートなナンバーが並ぶ。バック・バンドであるハグトーンズのご機嫌な演奏は、山下達郎を彷彿とさせる穏やかで滑らかなバンド・サウンド。そこにかせきさいだぁらしいユーモアも加えられとても素敵な作品になっている。そして今作は川島小鳥撮影による写真集付きの豪華仕様。そちらも合わせて楽しめる作品だ。
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かせきさいだぁ
SOUND BURGER PLANET
きたきた! 夏がやってきたと思ったら、かせきさいだぁが13年という時を経て待望のニュー・アルバムを発表!! イラストを描いたり、マンガを描いたりと音楽以外のフィールドでも多忙を極めている彼だが、今作は渡辺俊美、川辺ヒロシ(TOKYO No.1 SOUL SET)、Bose、SHINCO(スチャダラパー)など盟友のゲストミュージシャンも参加。中でもPVには大人計画所属の女優・平岩紙が出演しているM-3「CIDERが止まらない」は、さわやかな甘酸っぱさにニヤニヤがとまらんです。これからの季節にぴったりな1枚でしょう。ラップという手段をもってポップスを極めたこのアルバム。体が自然と揺れだすサウンドとそれぞれの情景が浮かびあがるリリックは、記憶の奥底にある“あの頃”にいつだって連れて行ってくれる。
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カタオカセブン
フォークとロック
楽器も言葉も、表現というものは、扱う人間の心次第でまったく違うものになる。エフェクターという機械を使わなくても、様々な音色を鳴らすカタオカセブンのアコースティック・ギター。それは彼が歩んできた30年の人生の軌跡なくしては辿り着けないものだ。今作『フォークとロック』は、解散したLONELY↑Dを含め、彼の作品の中で1番素直に自分を出した作品と言ってもいい。どの曲も心情吐露だけではない、その先の"夢"を歌う。そして夢を見ることすら難しいこの時代、それを現実にすべく音に集中力を注ぎ込みかき鳴らす。バンド・サウンドとアコースティック・サウンドを巧みに使い分けたサウンドは、彼の熱い想いと優しさをとてもクリアに届けてくれた。10曲すべて、彼と会話しているような感覚になる。
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片平里菜
HEY! Darling EP
表題の2曲に小品と言える「星空」、「水の中で泳ぐ太陽」、さらに「Darling」の"acoustic guitar mix"と「HEY!」のスタジオ・ライヴによる"acoustic ver."を加えた6曲を収録。"伝える"をテーマに作ったそうだ。リスナーに直接伝えることができない今、改めてその大切さについて考えたのだと思うが、テーマに対する様々なアプローチがメッセージ・ソング「HEY!」、ラヴ・ソング「Darling」に結実。共にバンド・サウンドながら、前者のカントリー・タッチ、後者のR&Bとサウンド面のアプローチも聴き逃せない。小品と表現した2曲の楽器の使い方や歌の生々しさが際立つ「Darling」の"acoustic guitar mix"からは、EPならではの遊び心も。その試みが今後どう生かされるか楽しみだ。
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片平里菜
愛のせい
様々なアーティストを迎えて制作した2ndアルバムとは異なりサウンド・プロデューサーを統一したことや、「なまえ」、「結露」を弾き語りで収録していることも象徴的だが、全11曲はバリエーション豊かながらも、彼女のヴォーカルとギターを中心に据えたオーガニックなアレンジに。歌がまっすぐに入ってくるため、ライヴ活動によって鍛えられた表現力に魅せられる場面も多く、歌詞の内容もより深く刺さってくる。先発シングルの時点でかなり赤裸々だったため覚悟してはいたが、約2年ぶりにリリースされるフル・アルバムは、これまでで最も彼女自身の、そして聴き手自身の内面に迫るような作品。"愛してしまえば 裸になる"と彼女は歌うが、いや、裸にさせられたのはこっちの方である。
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片平里菜
なまえ
1年ぶりのリリースとなるシングルは、片平里菜が自分自身のこと、家族のこと、ルーツとなる"なまえ"について綴られた、とてもプライベートで、彼女の故郷の風景や記憶が描かれた曲である。それでも、この歌からは懐かしく甘酸っぱく、またセンチメンタルな、自分の記憶も引っ張りだされる曲となった。自身のアルバムをめくるような感覚だ。フォーク・ソング的な素朴さと、鼻歌のような軽やかさを持ったメロディと、控えめながら歌の景色をほんのり照らすアレンジが、心地よい。今回はトレードマークのアコギを封印し、鍵盤やストリングス、エレキ・ギターを中心にしたサウンドという、挑戦もある。これから自分が何を歌えばいいか。そんな問いの中で立ち上がってきた曲だけに、ここから生まれていく作品も楽しみになる。
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片平里菜
結露
ひとりになったときに、ぷつっと緊張の糸が途切れて、心の声がため息と一緒にこぼれてしまったような、囁くようなヴォーカルと爪弾くアコースティック・ギターで始まる「結露」。強がったり、斜に構えるばかりで、自分の本当の心の在り処すらも見失ってしまう、そんな本当の孤独に触れたときに上げる悲鳴が、ぽつりぽつりとした言葉と音になった曲だ。アコギ、あたたかみのあるオルガンの音色、ささやかだけれど確かなバンド・サウンドの鼓動感、そんな最小限のアンサンブルから成る曲は、華やかな派手さはないけれど、心に深く浸透してその余韻がいつまでもリフレインする。ときによっては鋭くえぐるように響き、あるときには涙を拭ってくれるあたたかさがある。淡々とした音と言葉とシンプルな歌の中から、じわりと様々な温度が立ち上ってくる滋味溢れる1曲だ。
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片平里菜
最高の仕打ち
アレンジャーに多彩なアーティストを迎え制作された2ndフル・アルバム。アルバムの幕を開けるのは、伊澤一葉による「この空を上手に飛ぶには」で、鍵盤とアコギを基調に、片平里菜の繊細にして力強い、物語を感じさせる歌声が、すっと空に昇っていくように響き渡って美しい。このしなやかなファンファーレから、アルバムが一気に広がっていく。SCANDALとのパンキッシュな「Party」、cinema staffとの「大人になれなくて」では、バンドのヴォーカリストとしてサウンドを背負い、ミト(クラムボン)との「Love Takes Time」ではニュー・ミュージック的なサウンドに凛とした歌声がはまる。どんなサウンドにもフィットしながら、聴くものをハッと振り向かせる歌声が胸に刺さる。それも気づけばかなり深く、その声が突き刺さっているのが片平里菜のすごさだ。
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カトキット
みずみずしい日々
ただ日常にある当たり前の景色を見たときに、ふと揺れ動く感情。それを繊細な言葉ですくいとるのがカトキットの音楽だ。気だるい夏の夜に蘇る幼き日の思い出(「神様のはからい」)、ストーブがフル稼働する部屋の中で考える生と死(「怒鳴りつける命」)。喜怒哀楽では決して分類することができない複雑な心模様を、エレクトロなポップ・サウンドに乗せることで、モノクロームな日常をカラフルに変えていく。"好き"も"さよなら"も言わずに恋の終わりを歌う「枕元の短編集」も、夢も希望も語らずに明日を生きようとする意志を伝える「喪失」も、その楽曲と丁寧に向き合うほど底の見えない魅力を感じさせてくれる。バンド名の由来は"過渡期"から。この場所を通過してバンドがどこへ向かうのかも楽しみだ。
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門脇更紗
君がいるから
親友との信頼関係やその理由を描くことに関して、オリジナルな言葉選びをしてきた門脇更紗。そのスタンスはアニメへの書き下ろしでも変わることはない。今回、TVアニメ"『BIRDIE WING -Golf Girls' Story-』Season 2"エンディング主題歌として、境遇の異なる主人公ふたりとゴルフという難しいテーマを、ひとりが奏でるメロディも複数重なればハーモニーになる、という彼女らしい昇華の仕方を見せており、「きれいだ」や「ねぇバディ」で聴くことができた心強い存在への視線やシスターフッドをこの曲でも感じさせてくれる。春という別れと出会いの季節に、変わらずにいてほしい、でも互いに成長もしていきたい、そんな気持ちを乗せて共有したい1曲。アレンジはこれまでの作品でも馴染みの佐伯youthKが手掛けている。
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門脇更紗
ファウンテンブルーに染まって
自身のバースデー・カラーを冠したメジャー1stアルバム。デビュー曲の「トリハダ」や、橋口洋平(wacci/Vo/Gt)の歌詞も話題になった切なすぎる「私にして」、シンガー・ソングライターとして生きていく覚悟を歌った「東京は」の弾き語り一発録りバージョンも収録している。R&Bやトレンドのポップスも歌える表現力を持ちつつ、技巧に走らない素直な歌唱は、特にSasanomalyがアレンジを担当したスケール感のある打ち込みサウンドの「きれいだ」や、「わたしが好き」に顕著に感じる。傷つきながらも前進する対象の頼もしさに、"悲しくて寂しくてとても嬉しいの"というリアリティを当ててみるなど(「きれいだ」)、ヴィヴィッドな感情を昇華する作詞センスも際立ってきた。
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門脇更紗
トリハダ
叫びを上げるようなフィードバック・ノイズからスタートするBPM早めのロック・チューン。ギターもピアノも躍動するアレンジのなかで、切なさも儚さも感じさせながら芯に強さのある声が、飛び立つ=チャレンジ直前の武者震いの感覚をリアルなものにする。闇雲に強く歌うというより、声の重ねなども使って、重層的な聴きごたえのある仕上がりになっているのも新鮮。"落ちていく羽たちが/また新しく生まれる"という歌詞に感じられる、期待と不安を伴う成長、"優しさを振り払って/ギリギリに立ってる足が震えても"という決意も、音像と相まって体感できる。2020年に連続リリースした「さよならトワイライト」、「いいやん」、「ばいばい」と続いてきた架空の主人公の物語の連作としても楽しめる構造になっている。
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カナタ
藍のうた
例えば、夜、世界に取り残されてひとりぼっちになったような気分のとき。明日が来るのがこわくて、朝なんて来なければいいのにって本気で思ったとき。そんなとき、聴いて欲しいのが『藍のうた』。広島発の空間系ギター・ロック・バンド、カナタの初の全国流通盤となる今作には、過去の音源や再録を含む、全8曲が収録されている。様々なエフェクトが用いられた幻想的なサウンドは、歌詞に描かれた景色を美しく彩り、真っ暗な夜に光を灯す。力強くしなやかなドラムと、ノイズの中を漂い歌うようなベース・ラインも心地よく、アン(Vo/Gt)の伸びやかで真っ直ぐな歌声はずっと遠くまで響き渡り、夜の静寂を包み込む。青より深い藍で染まったカナタの音楽は、あなたの心の1番奥にゆっくりゆっくり近づいて、優しくそっと、寄り添ってくれるだろう。
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カネコアヤノ
祝祭
未流通盤のリリース&即完を連発しているカネコアヤノが、1年ぶりの新作全国流通盤をリリース。本作には、今回のために制作された新曲と未流通盤収録曲のリアレンジ版を収録しており、その内10曲がバンド・アレンジで3曲が弾き語りである。耳馴染みのいいフォーキーなメロディ・ラインを歌う飾り気のない歌声が、理屈の外側をいくように進む様子は、ギターに林 宏敏(ex-踊ってばかりの国)、ベースに本村拓磨(Gateballers)、ドラムにBob(HAPPY)を迎えたバンド・サウンドによってさらにエスカレート。しかし、その愛すべき歪さは彼女が元来持っているものなのだということは、弾き語り曲を聴くとよくわかるだろう。平熱の生活、それと隣り合わせの狂気が詰まった作品。
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カネコアヤノ
ひかれあい
少年のような歌声で混じり気のないメロディを奏でるカネコアヤノ。そんな彼女が、信念の強さを表現した2nd EP『ひかれあい』をリリース。リード曲「とがる」は、とにかく強い感情で溢れているが、曲調は春を匂わせるほど穏やか。ラストの"とがる!とがる!/とがってるかなりね/わかるだろ"というフレーズは曲の前半ではまったく想像できなかったため、胸がざわついた。それと対比して、ポップ性がよく出ているロック・チューン「天使とスーパーカー」。そして、「朝になって夢からさめて」。どこか人懐っこく柔らかい声で歌った"うたって いつまでも"のラスト・フレーズでは、カネコアヤノの突き進んでいく未来を想像させた。彼女の純真さと自然体で生み出す音楽は、この先も変わらず愛されていくに違いない。
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カネコアヤノ
さよーならあなた
前作よりわずか7ヶ月というスパンでリリースとなるシンガー・ソングライター"カネコアヤノ"による1st EPが到着した。今作は、ギターに林 宏敏(ex-踊ってばかりの国)、ベースに本村拓磨(Gateballers)、ドラムに濱野泰政というメンバーを迎えて録音された表題曲や、今泉力哉監督の最新映画"退屈な日々にさようならを"の主題歌起用をきっかけに再録されたTrack.3、同映画挿入歌となったローファイな音が耳を惹くボーナス・トラックなど、舌足らずで甘えるような声で歌う彼女の魅力を最大限に詰め込み、改めて印刷したような名刺代わりの1枚。"いつかさよーならしてしまうあなたとの今を大切にしたい"という想いを歌う表題曲を始め、明日死ぬかもしれない毎日を生きるカネコアヤノなりの"今"を綴っている。
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カフカ
あいなきせかい
作品のリリースを重ねるごとにコンセプトを変えるカフカが6thアルバムで取り組んだテーマは"愛"だ。夏の苦い思い出をえぐる「Ice Candy」、夜の街で愛の虚しさに涙する「No bad」を始め、夜のクラブから、退屈なオフィス、青春の日々まで。描かれるすべての愛があくまで生活に根づいていることが、今作は間違いなく前作『Tokyo 9 Stories』のカフカとも地続きであることを意識させる。いくつもの愛を経て、ラストを飾るバラード曲「あいなきせかい」を聴き終えたとき、愛とは許すことであり、生きることだという明確なメッセージが浮かび上がる。一貫した愛のテーマを歌うからこそ、あえて明るくカラフルに彩ったサウンドメイクが悲しげに響くのもカフカらしい。
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カフカ
Tokyo 9 Stories
"3.11以降"の世界を、バンドの再生に重ねあわせ、ファンタジックに描いた前作『Rebirth』から約1年半。世田谷を拠点にしている4人組、カフカが今回、歌うのは東京で起こる9つの物語とエピローグ。前作の延長にあるエレクトロなビートとシンセも使ったインディー・ダンスな80'sニュー・ウェイヴ調ロック・サウンドが、多くの人が憧れるブライト・ライツなビッグ・シティを輝きとともに描き出しながら、ストーリーテリングはその現実の姿に迫るという構成が秀逸。"こんなくだらない世界"(歌詞の一節)で、ささやかな幸せを見つける一方で、軽やかなカフカ流ディスコ・サウンドに乗せ、"ニンゲンフシン"と歌いながらシニカルなユーモア・センスを印象づけるビター・スウィートな味わいに惹かれる。
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カフカ
Rebirth
新たにギタリストをメンバーに迎え、トリオから4人編成になったカフカが2枚同時リリースだったミニ・アルバムから6ヶ月、早くも完成させた4作目のアルバム。テーマは再生。前作から基本編成にこだわらない音作りに取り組みはじめた彼らが今回挑んだエレクトロなビートやシンセの導入は、海外のシーンに共鳴するインディー・ダンスなロック・サウンドをアピールしながら、それでもなおカフカらしいと言えるナイーヴな歌の数々に結実。震災以降の日本で毎日を生きることを歌ったと思しき全13曲(そこに1つの世界観というか物語を読み取ることも可能だ)。若干うつむき加減ながらも、"美しく醜い"世界を見据えたその眼差しからは再生を繰り返しながら20年後も自分でいたいと願う力強い意思が感じられる。
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カフカ
呼吸-inhale-
ミウラウチュウ(Gt)加入後、初のリリースとなる今作は“呼吸”をテーマにしたミニ・アルバム。ツイン・ギターとなり重厚感を増したバンド・サウンドは、「Alice Breaks Stories」から爽やかに疾走すると、次第とテンポを落としゆったりと鳴り始める。日常が明るく楽しくなるようなポップ・チューンが詰まった作品となった。また、カフカは8月7日に『呼吸-exhale-』をリリース。本作の“inhale=吸う”に続き、“exhale=吐く”という、“呼吸”の意味を持つツイン・ミニ・アルバムになることがわかった。この世に生を受けてから、いま、この一瞬も絶えなく続けている呼吸。ぜひ自身の呼吸を感じながら聴いてみてほしい。何気ない日常が少し違って見えてくるはずだ。
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カフカ
空を継ぐものたち
ドイツ語作家Franz Kafkaの名前を冠する3ピース・バンドのタワレコ限定1stミニ・アルバム。Kafkaの代表作“変身”からイメージするような病的さはあまり感じられないが、日常を再構成して創り出される非日常の物語はまさに“カフカ”である。抒情的なメロディと繊細なギターのアルペジオが、どこかで聞いたような話だという既視感を煽るのだが、そこに在るのは何かが決定的に違う。「アルジャーノンに札束を」に至っては誰もが知る有名作を発想源に、シニカルな物語を新たに創り上げた大胆不敵さが面白い。1枚のアルバムというより1冊の短編集を読んでいるような文学的な今作。音楽は大好きだけど文学にはあまり馴染みがないという方も、アフタヌーン・ティーと共にゆったり楽しんでみてはいかがだろうか。
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カフカ
fantasy
90年代のJ-POP、ロックは、永遠に色褪せることのない真っすぐな魅力を持っていた。しかし、21世紀も10年が経過した今、難解な歌詞で着飾るバンドが少なくない。そんな中でカフカは、美しく広がるサウンドスケープと無垢な言葉で現実を切り取る稀有な存在だ。実存主義のフランツ・カフカのごとく、彼らもまた、現実に存在する自分と奥に息づく世界との対峙を描く。お伽話に仕立て上げた感傷と、落胆の先にあるわずかな希望。決して後ろ向きではない言葉、それこそが現代に生きる象徴なのだ。だからこそ聴き手は、柔らかくするりと突き刺さる言葉をすくい上げて、咀嚼して自分自身を同化させずにはいられない。“大嫌いだ”と言いながも、矛盾と狂気に満ちたこの世界をみな愛して止まないのだ。
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金田康平
NATSUMI
今、目の前で起こっていることを歌うこと。今、頭の中で思っていることを歌うこと。それは"フォーク"のあるべき姿であり、そして"歌"という表現形態が持つ無限の可能性へのトライアルでもある。THEラブ人間のライヴCD&DVDと同時にリリースされる、金田康平の3年ぶりとなるソロ・アルバム。全17曲、すべてが金田のベッドルームで録音された、赤裸々な歌、歌、歌。愛しい人への想いも歌えば、膨らみ続ける妄想も歌えば、苛立ちや怒りも歌う。弾き語りもあればパンクもあれば打ち込みもある。すべてが生々し過ぎるほどにローファイで、愛おしくなるほどに温かく、触れられないほど冷たい瞬間もある。でも人とは、歌とは本来そういうものなのだ。こんな歌を毎日、紡ぎ続ける金田康平という才能に震えずにはいられない、傑作。
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カネヨリマサル
わたしのノクターン
青春ロックを追い続ける3人組ガールズ・バンドが、ついにメジャー・デビューを果たす。本作には、恋人への思いを不器用に綴った「二人」、"毎日コンテニュー"して新しい日々を生きていく「ゲームオーバー」、オール英語詞のサビが新鮮な、過去の恋愛を吹っ切るアップ・チューン「I was」、ピアノのまっすぐな音色に乗せて"君の事が好き"と歌う初のバラード「ピアノのうた」、"涙を死ぬ程流して歌う"大きな失恋を描いた「26」など、思いに耽る夜に綴られた日記のような11曲を収録。青春の甘酸っぱさを纏ったピュアな歌声と歌詞、心の変化を丁寧に描く表情豊かなバンド・サウンドに、胸の奥がぎゅっとなる。大切な誰かに思いを馳せる夜、明日への不安を抱きしめて眠る夜、そんな夜に寄り添い背中を押す彼女たちなりの"夜想曲"だ。
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カネヨリマサル
心は洗濯機のなか
映画や小説のようにさまにならない、ありふれた青春すらも特別なものとして輝かせてくれたバンドはこれまでもたくさんいるが、そこにまた新たなバンドが加わった。それも女の子の視点で、恋や夢や憧れについてパワー・コードと力強いビートで感情を爆発させて、怒ったりくよくよとセンチになったり、時に大人びて愛や人生の哲学を語ってくれる。青臭くロマンチストで、でもそれを隠すようなクールさと混じり合う歪みが、青春期のナイーヴなところや、記憶に触れる、そんなバンドがカネヨリマサルだ。昨年ミニ・アルバム『かけがえなくなりたい』でデビューした大阪発の3ピース・バンドによる、2作目のミニ・アルバム。後悔も眩しいほどの希望も抱えて、毎日を並走してくれるアルバムは、ぜひ女の子に聴いてほしい。
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カノエラナ
ぼっち3
これまでライヴ会場限定だった『ぼっち』シリーズが第3弾で全国流通盤になった。"ひとりぼっち"での最小限の制作で最大限曲の感情をブーストさせる今作は、彼女の魅力を知るのにぴったりだ。バンド・サウンドによるマジカルな作品も素敵だが、今作はアコースティックによるシンプルだが奥深いサウンドで、歌のドラマを赤裸々に浮かび上がらせている。言葉や音の遊びがふんだんな「コンクリィとジャンゴォ」や、歌声やコード感が情緒豊かな「my friend」、また過去の曲での物語を違う視点から覗き新たなドラマを描いた「あの子のダーリン」や、主人公の時の経過を描いた「サブドミナント」など、どの人物もリアルな鼓動を持ち、その光景がありありと浮かぶ。カノエ監督による脳内オムニバス劇といった内容だ。
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カノエラナ
「尊い」~解き放たれし二次元歌集~
2ndアルバム『盾と矛』は、相反する思いが同居をしていたり、ついひねくれたり、ひとひねりして物事をひっくり返したくなってしまう彼女の頭の中を、ポップに表現したアルバムで、カノエラナのキャラクターが窺えた作品だったが、今回はそんな彼女を培ってきたものへのリスペクトを込めた作品になった。初のカバー・アルバムにしてオール・アニソンで、物心ついたときから最近の曲まで8曲をセレクト。初カバーゆえ、マニアックな曲は残念ながら見送ったそうで、コアなアニメ・ファンでなくとも馴染みがあり、かと思えばこれ選ぶ!? というアニメ"しましまとらのしまじろう"からの選曲もありと"らしさ"は健在だ。アレンジャー、浅野尚志と共に仕上げた洒落っ気たっぷりのロックなアレンジが楽しい。
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カノエラナ
盾と矛
1stアルバム『「キョウカイセン」』から1年と10ヶ月。この間に自身の音楽世界や、その想像力や独自の視点が生きた歌の世界を、鮮やかに立体化するサウンド面に重点的にアプローチし、『ダンストゥダンス』など試みのあるシングルを発表してきたが、今作はその集大成だ。1曲目「1113344449990」から、カノエラナの脳内のその奥へと誘われていく密やかでスリリングな曲が次々と並ぶ。キュートなポップさあり、郷愁や切なさの琴線に触れるような歌や狂気に触れる瞬間もありと、気持ちは揺さぶられ続ける。こちらの好奇心をくすぐるように隙を突く鋭さがあって、でも、もっと覗き込もうとするとスンっとシャットアウトされてしまう。そんな"盾と矛"の天邪鬼さで気になる存在感を強めていく作品だ。
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カノエラナ
セミ
自身の感情をリアルに、また目で見た光景を生々しく、気持ちのままにデッサンしていったシングル「セミ」は、カノエラナの作品の中でも異色の、しかしこれからにとっても大事な1曲となった。前シングルに続いてアレンジも手掛けており、瀕死の状態でもがき、アリの餌食となっていくセミの痛々しい姿に自分の心境を重ね、心の淵に立って、死生観、人生観を見つめて、自分の心の内で何かが大きく変わろうとしていく瞬間の湧き上がるエネルギーを、バンド・サウンドにも映した。いわゆるオチとなるその答えは出ないが、クレッシェンドしていく叫びには痛切さに晴れやかさも混じる。アコギ片手に、ユニークな視点で曲を生み出していくカノエラナの、ソングライターとしての心意気と挑戦が詰まった1枚。
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カノエラナ
ダンストゥダンス
カノエラナの表情豊かな歌声が堪能できる2曲を収録した1stシングル『ダンストゥダンス』。慌ただしい東京の街を彼女らしい視点で歌っている表題曲は、自らが作詞作曲、編曲を手掛けた。昭和歌謡っぽいメロディの中で跳ねるピアノの音色をはじめ、いろいろな音が散りばめられており、"これなんの音?"と考えるのも楽しい。また、まさかの猫目線で描かれたカップリングでは、彼女の引き出しの幅広さにただただ驚かされる。"猫の逆襲"と物騒なタイトルが付けられているものの、内容は超がつくほど平和なポップ・チューン。「ねこふんじゃった」に対し"ふざけんな!"と返すところは思わず笑ってしまった。いずれも非常にキャッチーな楽曲で合いの手も面白いので、ライヴで盛り上がること間違いなし。
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カノエラナ
「カノエ上等。」
"Twitter30秒弾き語り動画の女王"の異名を持つ佐賀県出身のシンガー・ソングライターのメジャー2ndミニ・アルバムは、30秒楽曲を30曲収録した『30秒~カノエの楽しい歌日記~』とのWリリース。アルバム・タイトルのとおりヤンキー気質(?)な攻めた楽曲が揃っている。酒に溺れる青年を皮肉ったTrack.2は彼女のアコギを効果的に使ったバンド・アレンジ。ハード・ロックばりのギターにキャッチーなシンセが重なるTrack.3、疾走感のある荒々しい和メロのギター・ロックTrack.4と、サウンドに負けないパワフルな彼女の歌声はライヴで培われてきたものだろうか。アコギの豊かな音色とともに男性目線で歌われるTrack.6など、ジャンルにとらわれないアプローチで6編の物語を生き生きと描く。
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カノエラナ
ヒトミシリ。
初のワンマン・ライヴを渋谷CLUB QUATTROで開催することを記念してリリースされる、20歳のシンガー・ソングライターの2ndミニ・アルバム。タイトル・トラックのTrack.1は彼女自身の人間性を反映させた"あるあるソング"。人見知りというテーマに反して噛みつくような気概に溢れた歌詞の言い回しとパワフルなヴォーカルがキャッチーな意外性を生んでおり、このギミックは彼女の武器のひとつだ。歌謡曲テイストのアレンジに現代風のシンセと四つ打ちを入れたTrack.2、疾走感のあるピアノ・ロック・ナンバーのTrack.3と、全曲まったく異なる歌を聴かせる。特にアコースティック・ギター1本で20歳になった心情を切々と歌うミドル・テンポのTrack.4は息遣いも含めて迫力あり。
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彼女 IN THE DISPLAY
GOLD EXPERIENCE REQUIEM
福岡を拠点に活動を続ける5人組ロック・バンド 彼女 IN THE DISPLAYの新作は、ジョジョファンならばピンとくるはずの、2013年にリリースした1stフル・ベスト・アルバム『GOLD EXPERIENCE』を受けてのタイトルとなった。その"進化"を如実に感じさせる楽曲が「Let's get the party!!!」。これまでになく煌びやかな鍵盤とダンサブルなリズムによる、時代の空気をキャッチしたアーバン・サウンドを聴くことができる。このあたりは、いきものがかりらの楽曲のアレンジを手掛ける江口 亮氏をプロデューサーに迎えた効果が出ているようだ。ラウドとともにポップな面もクローズアップされた1枚だが、そのぶん楽曲の持つメッセージ性がすんなり入ってくる。ライヴでバンドと一緒に歌い踊りつつ、CDではじっくり聴き込みたくなるであろう1枚だ。
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彼女 IN THE DISPLAY
THE ROOTS
福岡を拠点に活動する5人組ロック・バンド、彼女 IN THE DISPLAYが、Ryosuke(Vo)の喉の療養による活動休止期間を経てリリースした1年5ヶ月ぶりの新作。"OZZFEST JAPAN 2015"のO.A.など、大舞台を経験したことも影響しているのか、爆発力満点の「LET IT DIE -Hail 2 U-」、スケール感のある「Overdrive Journey」など、キレのいい迫力ある曲が楽しめる作品となっている。怒涛のサウンドの中にあり、清涼感を与えるピアノの存在が特徴的だ。Ryosukeの書く歌詞は、自分の内面を吐露していたり、フロントマンとして堂々とバンドの姿勢を宣言していたりと、とても正直な印象。「COLOR」はそのメロディとメッセージ性を前に出すために歌を支える演奏になっているのが明確で、彼らの友情からなるバンドらしさを感じさせる。
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KFK(ex.カフカ)
ラブソングフォーディストピアシティトーキョー
カフカから"KFK"に改名した4人組が完成させたアルバム。改名は決してきまぐれじゃない。ちゃんと意味がある。オルタナティヴなギター・ロックに回帰しながらもアーバンなサウンドにも急接近していた志向が、以前から追求していたエレクトロなサウンドとともに今作で一気に開花。収録された全6曲は、EDMとヒップホップを掛け合わせた「せたがや・とわいらいと」をはじめ、なかなか幅広い。Kouta Kaneko(Vo/Gt)は大半の曲でポエトリー・リーディング・ラップを披露している。"カフカ"という名前から解き放たれ、彼らはここからもっと自由になっていくのだろう。そんなことを思いながら、不意に聴こえる"らしい"言葉遣いや節回しに懐かしさを感じたりもした。それもまたひとつの聴きどころだ。
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