Japanese
"恋せよ男子2024" 後半戦
Skream! マガジン 2024年02月号掲載
2024.01.21 @下北沢7会場
Writer : 西平 歩由 Photographer:Ayaka.、若奈
GANGDEMICやRisky Melodyなどを観ている間に、パラパラと降っていた雨も上がり、サーキット・イベント日和の天候に。晴れやかな気分に足取りも軽くなり、様々な巡り会いがあった後半戦の様子をお届けする。
会場を切り裂くような激しいSEと共にMOSAiCにはFinallyが登場。「Trash Talk」でMegが"上に跳べ!"と煽ると、その声に応えてオーディエンスが一斉にジャンプし、フロア全体が揺れるのを感じる。イベント・タイトルである"恋せよ男子"にちなんで披露された「淡恋」は、夏の恋を綴った歌詞と爽やかなサウンドに胸キュン必至なサマー・チューン。サビでタオルを回し、フロアと一体になって楽しむメンバーは、今が冬であることや外の寒さまですっかり忘れさせてくれる、まるで真夏の太陽のようにキラキラと輝いていた。
続いて向かったRéGでは、この日が新体制になってから初のライヴとなったsajou no hanaが、疾走感のある楽曲に透き通った歌声を乗せ、一瞬で会場をエモーショナルな雰囲気に染め上げていく。"久しぶりに私の原点の曲をお届けしようと思います"と繊細な息遣いで歌い上げられた「星絵」、「グレイ」からは、sanaの音楽に対するまっすぐな想いが伝わってきて目頭が熱くなる。妖しくジャジーなサウンドが心地よい「ニューサンス」を大人っぽく艶やかに歌う姿には思わずドキッとさせられ、同性ながらひと目惚れしてしまうほど魅力的だった。
再びMOSAiCへ戻ると、SEの"おーRAY!"という掛け声から流れ出した「Overture」と、オーディエンスのクラップに迎えられ、RAYのライヴがスタート。ノンストップで繰り広げられるステージからは一瞬たりとも目が離せない。儚く胸を締めつける「マテリエ」から「GENERATION」のラストで変顔をキメるギャップや、愛らしい無邪気な笑顔、何事にも全力な姿勢と個性豊かな5人のパフォーマンスに心を掴まれる。
まだまだ5人が創り出す世界に浸っていたかったという気持ちを堪え、WAVERへ急ぐと、塩入冬湖(FINLANDS/Vo/Gt)の、少しハスキーで柔らかな歌声が全身をゆったりと癒してくれる。"リビングにいるような気持ちで見てもらえたら"とオーディエンスひとりひとりに語り掛けるように歌う姿も印象的だ。彼女の奏でる音楽に身を委ねリラックスした様子のフロアは、最後に歌われた「アポロ」の"夢の中よりも夢のよう"というフレーズさながらだった。
近松の扉を開くと凄まじい熱気が頬をかすめ、ステージに目を向けるとALMONDotがヘヴィながらもキャッチーなインダストリアル・サウンドを鳴らし、会場中をカオスの渦に巻き込んでいた。苑茜 Ensen(Philosopher/Rapper)と蒼来Sorai(Vo/Gt)が、ライヴ中盤でグダグダになってしまうから、と考えてきたトーク・テーマを発表すると、フロアから温かな笑い声や歓声が上がる場面も。"みんなに伝えたいのは、ありがとう"と蒼来Soraiのストレートな想いをぶつけてスタートした「I'll go first, sorry」からは、彼女たちがこの先突き進んでいく明るい未来を感じ、込み上げるものがあった。
門脇更紗を観るべくWAVERへ戻ると、ピュアな歌声と日頃のモヤモヤとした気持ちを晴らしてくれるような歌詞に心がほぐされていく。"私の初恋は小3やったなぁ"とはにかむ姿や、「スワンボート」で描かれたキュートで淡い恋模様にときめき、上京して生活するなかでのもどかしさや葛藤、つい強がってしまう心情を歌った「東京は」の力強さに勇気づけられ、イベントもいよいよ終盤に突入。
MOSAiCのトリを飾ったのはインナージャーニー。炭酸が弾けるみたいにポップで爽快な「クリームソーダ」で会場のボルテージを上げると、ファンキーなビートとシニカルな歌詞が小粋な「PIP」へ。カモシタサラ(Gt/Vo)のギターの弦が切れてしまうハプニングもあったが、本人たちも言っていたように"めちゃくちゃ気合が入っている"というのが窺える。アンコールで披露された「ラストソング」が終わる頃、目を合わせて天真爛漫に笑うメンバーの姿が私の心にしっかりと深く刻まれた。
女性アーティストにフォーカスし、バンドやシンガー・ソングライター、アイドル、声優、DJと、様々なジャンルの垣根を越えて開催された"恋せよ男子"。イベント・タイトルには"男子"と付いているけれど、老若男女問わず楽しむオーディエンスを見ることができたのも嬉しかった。新たな音楽と出会うことの素晴らしさや、ドキドキする気持ちをいつまで経っても忘れたくないなと改めて感じられたイベントだったのではないかと思う。これから先もたくさんのときめきを届けてくれる、そんな"出会いの場"として開催されることを祈っている。
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FINLANDSとしての活動10周年を2022年に迎え、その先の2023年にベスト・アルバムではなく、初期楽曲や前身バンド THE VITRIOLの楽曲も包摂して再録するのは塩入冬湖(Vo/Gt)にとって、初期衝動にとどまらない音楽の普遍性を自ら実感したからなのだと思う。サポート・メンバーの変遷はあれど、現在の研ぎ澄まされたアンサンブルにブラッシュアップできている彼らとのアレンジが音源で聴けるのは嬉しい限りだ。若さゆえの残酷さが大人な音像でむしろ際立つ「あそぶ」や、情景や温度が喚起される「April」など、原曲の色褪せなさが証明されるし、ライヴで演奏され続けてきた「ゴードン」がリアルタイムの演奏で聴ける嬉しさも。さらに新曲「SHUTTLE」は過去と現在を接続するようなテイストなのも聴きどころだ。(石角 友香)
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コロナ禍の中、ツアー途中でファイナルの東京公演のみが延期となり、約5ヶ月待ったファンの前で開催されたライヴである。配信もされたが、塩入冬湖(Vo/Gt)が『FLASH』がひとつの区切りになったことや、例年と違いすぎる2021年を記録しておきたかったのではないだろうか。現場で観ていた者としてはギミックも何もないクリアな映像は驚きでもあり、覚悟も感じ取れた。『FLASH』収録曲を軸にライヴの人気曲も挟みながら本編のみ18曲を完走するスタンスは、映像で観ると、よりその無駄のなさが際立つ。新作からの楽曲に関するMCもこのライヴでしか聴けない/観られないもので、曲に対する愛着が深まった。平穏な日常に感謝しながらも、閃きにもまた抗えない。この時代を生きる自分の気持ちを確認できる貴重なドキュメントだ。(石角 友香)
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コロナ禍の影響もあり、延期になっていた新作が約2年ぶりに到着。その間の塩入冬湖(Vo/Gt)ソロの表現も、2021年にオルタナティヴ・ギター・ロック・バンドであることの必然も、通底していることを実感する作品だ。この特異な時世を音楽に持ち込みたくないという気持ちと、偶然にせよコロナ以前から書いていた「まどか」(配信とは別Ver.で収録)から連なる、当たり前に続いていた日常や理想の唐突な断絶に対する怒りと弔いにも似た感情。逆に恒常的に彼女が抱えている"自分"を構成している要素と他者との関わりへの熱望と懐疑。音楽的には速めのハチロクの「HOW」、巨大なグルーヴを巻き起こす「ナイトハイ」、ヒップホップ・テイストもある「ランデヴー」、和なコード進行がダークな「Balk」など新たな側面も。(石角 友香)
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ゲスト・ベーシストにジョーザキJAPAN(ミスタニスタ/ZOOZ)、合月 亨(Ao/オトノエ)、コシミズカヨ(ex-FINLANDS)を迎えた以外は、すべて塩入冬湖の歌とアコースティック・ギター、ピアノ、デジタル音源によって完成した宅録作品。訥々とした弾き語りがタイトルの"恋のままで"のあとに続く希望を各々の心に問い掛けるような1曲目から始まり、ピアノや無機質なビート、背景音のSEが愛らしい「timer」、エレクトロニックなポップ感に恋愛の破滅的な側面という一見ミスマッチな取り合わせがユニークな「パール」、これまでも歌ってきた「雪に咲く朝の花」を音源ならではのうっすらと聴こえるオルガンの音などで、空気感や温度感を閉じ込めているのも新鮮。パーソナルさがむしろ普遍性を生んでいる。 (石角 友香)
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初のEPは昨年秋のツアー後に制作された新曲2曲に初期曲の再録、昨年10月に無料配信された楽曲を収録した4曲入り。新曲は両曲ともポップネスを持ちながら、ソングライターである塩入冬湖(Vo/Gt)の相反する孤独観が反映されており、「UTOPIA」はナチュラルなミッド・テンポのサウンドで刹那的快楽を甘く切なく歌う。「call end」はエッジーなギターと感情的なヴォーカルが作り出すスピード感と焦燥性が生々しい。「衛星」と「天涯」もそれぞれで孤独を想起させるサウンドスケープや言葉が散見されていることからも、塩入が元来持っていた、孤独の概念やひとりの世界が抽出された楽曲が揃ったと言っていいのでは。人間が持つ複雑な感情を混じり気なく落とし込んだ音、言葉、歌はほろ苦くも温かい。(沖 さやこ)
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BALLOND'ORとのスプリット盤も記憶に新しいFINLANDSによる、オリジナル作品としては1年ぶりの2ndフル・アルバム。タイトルの"BI"は"ふたつの"という意味がある言葉。フロントマン/ソングライター、塩入冬湖(Vo/Gt)の音楽家としての自分と、女性としての自分という"BI"を基盤として、12曲で様々な"BI"が入り組みながらも軽やかに展開していく。ハイ・テンポでインパクトのある楽曲の威力や、ポップ・ソング、ダンス・ロック、気だるいグランジなど、多岐にわたるサウンド・アプローチのなかでもひと際存在感を放つのは、中盤とラストに控える計4曲のミディアム・ナンバー&バラード。塩入の憂いのあるヴォーカルと優しい楽器の音色は、聴き手へ物思いにふける心の余裕を与える。(沖 さやこ)
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サウンドや曲調は違えど、恋愛や失恋やもどかしさ、生きていくうえでの憤懣やるかたない思いを音楽へ昇華する部分では共通する2バンド。初スプリットは、互いの途中作業をまったく知らずに進行したという。BALLOND'ORの「リトルダンサー」は、MJM(Vo/Gt)の映像的な歌詞とその内容を純度の高いヴォーカルで表現したことに加え、どこか少年性を残す内容にマッチした†NANCY†(Syn)のコーラスもいい。「WULFMAN2」は動物的な鳴き声(遠吠え?)が彼らならでは。FINLANDSは日本の女の子ならではのグランジ感と棘のような歌詞が絶妙で、BALLOND'ORのカバー「心臓に咲く薔薇」もまるで彼女たちのオリジナルと聴き紛う仕上がり。歌詞とメロディの良さをカバーで再認識するリスナーも多いはず。(石角 友香)
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FINLANDSの新作は、数ヶ月に及ぶプリプロ期間で曲を練り、アルバム・タイトル"LOVE"に込められた思いをメンバー全員で共有することでよりバンドの結束力を強固にして、北海道札幌市にある芸森スタジオでの合宿で録音を行ったという力作。何より曲がいい。すでに昨年のワンマン・ライヴでも披露された「カルト」、ドラマチックでキャッチーな「フライデー」の他、メロウな「Back to girl」など、塩入冬湖(Vo/Gt)が書くメロディに寄り添いつつ主張も忘れない楽器陣の演奏も表現力豊か。特に今回、コシミズカヨのベース・プレイと粒立ちのいいサウンドは大きく作品に貢献している。「恋の前」、「サービスナンバー」といった歌詞の意味を読み取りながら聴くのも楽しい。現在の彼女たちの創作意欲が見事に結実した傑作。 (岡本 貴之)
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ギミックなしの4ピース・バンドの大らかさはそのままに、様々な時代のロックのエッセンスを曲作りやアレンジに投影した新章を感じさせる3rd EP。ソウルフルなギターカッティングやビートにモータウン・ポップを感じさせる「PIP」は面倒なことから目を背ける"君"は自分でもあるのでは? という歌詞の鋭さとの掛け合わせが新鮮。本多 秀(Gt)初作曲楽曲「ステップ」ではカモシタサラ(Vo/Gt)の第三者目線の歌詞も楽しめる。代表曲「グッバイ来世でまた会おう」にカモシタ自ら異議もしくは違う視点で生きる姿勢を書いた「手の鳴る方へ」も興味深い。大きなグルーヴで進んでいく旅の匂いのある「夜が明けたら私たち」、UKロック的なメロディも聴こえてくる「ラストソング」と多彩な全5曲。1曲ごとに異なる情景が立ち上がる歌唱もじっくり聴きたい。(石角 友香)
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