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LIVE REPORT

Japanese

0.8秒と衝撃。

Skream! マガジン 2014年03月号掲載

2014.02.09 @渋谷CLUB QUATTRO

Writer 天野 史彬

前日には13年ぶりに大雪警報が発令され、当日は都知事選の投票日で......と、何かと東京全体が騒がしかった2月9日、しかし、1番騒がしかったのは渋谷CLUB QUATTROだろう。何故ならこの日は、0.8秒と衝撃。の、アルバム『NEW GERMAN WAVE 4』リリース・ツアー"N.G.W4 Tour"のファイナル公演。そりゃ、雪も溶かすほどに、お上の声もかき消すほどに騒がなければならない。楽しまなければならない。

ライヴは、いきなり『NEW GERMAN~』収録曲の「Mad Drumming」6連発でスタート。順番は、「Mad Drumming 1」、「~3」、「~6」、「~7」、「~4」、「~2」。これが相当にヤバかった。バンドの出す爆音が塊となって作り出す、うねるようなグルーヴ。それに合わせて序盤からフロアは狂騒状態。人々がフロア前方に押し寄せ、もみくちゃになりながら、踊る踊る踊る。"休憩はいらんよなー!?"とオーディエンスを煽る塔山忠臣の言葉通り、ノンストップで、このカオティックな宴は駆け抜ける。塔山とJ.M.に加え、ベースに野菜くん、シンセとギターにクッキー、ギターにユータテレキャスター、ドラムに有島コレスケを加えた最強布陣による、まるで0.8秒と衝撃。というひとつの巨大な爆弾がずっと爆発し続けているような凄みのある演奏を聴きながら、『NEW GERMAN WAVE 4』というアルバムの真価を目の当たりにさせられる気分になった。

ハチゲキが去年リリースした、『電子音楽の守護神』と『NEW GERMAN~』という2枚のアルバム。この2枚はどちらも素晴らしい作品だが、それぞれが真逆のベクトルを向いているようなアルバムだった。音楽的にも精神的にもバンドのルーツを辿りながら、聴き手に開かれたメッセージ性を持った『電子音楽~』。対して、シーケンサーの導入などにより、一層、塔山の脳内世界が忠実に具現化され、音質もグルーヴも、より密室的かつ狂気的な破壊力を持った『NEW GERMAN~』。どちらもハチゲキの"本質"を具現化した作品ではあったが、『NEW GERMAN~』は、より内面的な濃度が濃かった分、それが6人のバンドのサウンドで再現され、オーディエンスに触れた時、そこにどんな化学反応が起こるのかは未知数だった。だが、この日、渋谷QUATTROに巻き起こった蠢くような熱狂を見て、これこそが『NEW GERMAN~』というアルバムの本領なのだと舌をまいた。あの音源のビート感が、有島と野菜くんによってバンドに血肉化される瞬間。ユータのギターがノイジーにうねり、クッキーのシンセが不穏に鳴り響く瞬間。そして、それがオーディエンスに届く瞬間。そこで巻き起こったのは、まるで個人と個人がその脳みその中を開陳しながらぶつかっていくような生々しいコミュニケーション、そして、人と世界が擦れ合う時に生まれる摩擦熱のようなものだった。きっと、かつてのPRIMAL SCREAMやNINE INCH NAILSもそうだったのだろう。アーティストが、理性も本能も妄想も希望も絶望も、そのディープな内面世界のすべてを音楽に直接変換し、世界へと突きたてていくことによってこそ辿り着ける境地。ハチゲキが『NEW GERMAN~』で辿り着いたのは、そういう場所だったのだ。人が裸になればなるほど、世界との摩擦もより熱くなる。この日の渋谷QUATTROの盛り上がりは、単なる表面的な一体感などではなく、裸になった人と人が、歪な心と心が、傷つけ合いながら抱きしめあうような、そんな熱狂だった。

中盤には、「この世で一番美しい病気」や「タナトス号に乗って」など、メロウな楽曲も披露。特に名曲「この世で一番美しい病気」は、塔山の歌声に重なるJ.M.の、まるで無垢な少年のようにエモーショナルな歌声がとても感動的で、こんなにも美しい曲なのに"叫び"を感じさせる凄まじさがあった。そして、「ビートニクキラーズ」で再び会場を狂騒状態へと巻き込み、そこからは過去作品からの代表曲のオンパレード。「Brian Eno」や「POSTMAN JOHN」でフリーキーに駆け抜けたかと思えば、「黒猫のコーラ」でしっとりと聴かせる。この緩急のついた絶妙な流れのセットリストには、まるでハチゲキが描く映画や物語を見ているような鮮やかさがあった。ダブル・アンコールまで含めた全23曲、序盤の「Mad Drumming」で見せた獰猛さ、緊迫感は維持しながら、様々な景色に色づき、駆け抜けていく。元々、ハチゲキは本質的にリスナーに対する優しさとサービス精神に溢れながら、音楽には一切の妥協や馴れ合いを求めないバンドである。そんな彼らが自分たちの奥底にあるものを開陳し、描き、ぶつけ、それにオーディエンスも応えていく――そんな空間が生まれていく様は、感動的ですらあった。MCで塔山が"これ以降のライヴが決まってない!"と訴えていたが、今のハチゲキのライヴの冴えは本当に凄いので、より多くの人の目に留まるべきだ。この日生まれたうねりが、はみ出し、浸食して、より巨大な渦になってほしい。いや、なるべきだ。そう確信させるに足る圧倒的な興奮に満ちた夜だった。

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