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INTERVIEW

Japanese

0.8秒と衝撃。

2013年11月号掲載

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Member:塔山 忠臣 (唄とソングライター ) J.M. (唄とモデル)

Interviewer:天野 史彬

うーん、やはりこのバンドは一筋縄ではいきません、0.8秒と衝撃。彼らが9ヶ月という短いスパンで新作『NEW GERMAN WAVE4』を完成させたのだが、これが前作『電子音楽の守護神』とはある意味、真逆のベクトルを持つアルバム。現に、この取材で久々に会った塔山は、筆者が"最高傑作!"と騒ぎ立てたあの『電子音楽~』も"クリムゾンで言うところの『Lizard』的な存在"と一蹴。いや、ちょっと面食らいました。しかし、これも彼らの旺盛な創作意欲の証。何より、『NEW GERMAN WAVE4』は再び抜本的変化を果たした傑作に仕上がっているのだから、ほんと参ります。

 

-アルバム、素晴らしかったです。前作『電子音楽の守護神』からのスパンの短さに最初は驚いたんですけど、音楽的にも、0.8秒と衝撃。の表現という点でも、凄く深いところまで掘っていった作品になったんじゃないかと思います。まず、どういう経緯で前作から間を空けずに出すことにしたんですか?

塔山:作品ごとに反省点っていうのはないんですよ。もうちょっとこうしたいなっていうのは、ものを作ってれば残るものですから。ただ、前回の作品はプロセスがあまり好きではなかったんですね。期間も短すぎて、その時にライヴが詰めっ詰めで入ってたから、ライヴやってひとりでスタジオ入ってっていうのの繰り返しだったんですね。基本的には僕ひとりで全工程の骨組みをやってるもんだから、スタジオで引き篭もる気持ちとライヴでオープンにやる気持ちを分けないといけなかったんです。なので、もっと落とし込みたいな、集中したいなって思っても、それができずに作業を進めていく感じになってしまってて。結局アルバムが出来上がった時、もっと1曲ずつに落とし込みたい、1曲ずつに酔いたいなっていう感覚が残ったんです。そういう過程が自分的にあまり好きな感じじゃなかったので、そこをもういっぺん取り戻したいなっていう、その自分の気持ちのために作り始めましたね。

-『電子音楽の守護神』は凄くいいアルバムだと思うんですけど、制作的には不満が残るものだったんですね。

塔山:嫌いなアルバムじゃないですけどね。でも、そういうのって何枚も作ってたら感覚的にあるものなんだと思います。前にKING CRIMSONのインタビューを読んだんですけど、Robert Frippは『Lizard』っていうアルバムがあまり好きじゃないんですって。それは別にマイナスな意味だけじゃなくて、いろんなことが重なって結構大変だった時の苦心して作ったアルバムだったかららしいんですよ。だから、ライヴでもセトリに(『Lizard』の曲は)絶対に入れないらしくて(笑)。僕らはそこまでではないですけど、感覚的に、僕の中で『電子音楽の守護神』は苦しかった時のアルバムだから、『Lizard』的な位置に置きたいんですよね。なので今回は早く作りたいなって。アルバムを早く出したいというよりも、早く作り始めたかった。で、作り始めたら年内中に出せたっていう感じですね。『電子音楽の守護神』でしんどいプロセスを経てる分、そこを反省して面白くしようと思ってやってるから、制作は楽しかったですね。楽でしたし。目的がはっきりしてたというか。前回とは全然違う感覚でスタートしましたね。

-J.M.さん的には、塔山さんがこうやってすぐに制作モードに入っていったのはすんなりいきましたか?

J.M.:単純に、音源はバンドの強みなので。今は出し時だなっていうのは感じていたので、私もすぐ出したいなっていうのはありました。で、(塔山さんが)アルバム出すって言ってたので、いいじゃんって。

塔山:ガンガン曲を書きたい時期なんでね、今は。だから自然に作ったら出せたっていう感じですよね。

-なるほど。で、実際のこの音源なんですけど、今までとまったく音の質感が違いますよね。まずそこに驚いたんです。今までにない厚みのある音になってますけど、この音にはどんなこだわりがあったんでしょうか?

塔山:まずね、機材は今までのやつを一新したんですよ。今までもドラムマシンは使ってたんですけど、それも違うやつにして。前にYMOの映像を観た時に坂本龍一が言ってたんですけど、坂本龍一は、弾こうと思ったら上手いからめっちゃ速く弾けるじゃないですか。でも、同じフレーズを5回繰り返すってなったらどっかで絶対ズレが出てくるんですよね。そこを機械で打ち込んでシーケンスで流せば、100回でもズレずにループできる。それの魅力を伝えてて、それいいなって思ったんですよね。俺も今までは自分で弾いたりしてたんですけど、思いついたフレーズでも、テクニック的に行けない部分があったんです。そういう時にシーケンサーを使えば、自分の感覚とセンスさえあれば、打ち込むことによってそのフレーズを何回でも出すことができる。そうやって、演奏の鍛錬を10年20年もするぐらいだったら、イマジネーションでやってしまえばいいじゃないかっていうのをYMOの映像で観て。それがすげえいいなって思ったんです。だから、俺は今まではドラムマシンまでしか行ってなかったんですけど、今回、シーケンサーを使うっていうところまでいったんですよね。今までは自分で録ったものに対して自分でジャムっていってたんですけど、自分の頭の中である程度作ったものを1回機械に詰め込んで、ジャムらせていったんです。だから、音色とかが今までと全然違うんです。そこを言われると凄い嬉しいですね。

-自分の頭の中にある音を忠実に再現していくために作り方から変えていった、と。

塔山:不安もありましたけどね。機材が変わると音が変わるんですけど、悪く変わる場合もありますから。しっかり腹決めてやらないと、ただ単に派手にしようとする感じでやると危険なんです。やっぱり、ロックのおいしいところは押さえたいなっていうのはあるんで。まぁ、パソコンでやってもいいんですけど、パソコンだとシンセの音色から何から全部決まってくるというか。誰が作ってもそれっぽくなったりするんですよ。車のCMとかで流れてるのってそうじゃないですか。誰が作ってもSKRILLEXみたいになる(笑)。それよりも、YMOとか初期の電気グルーヴみたいな感じで、いい意味でチープな感じも入れたかったんですよね。"今日びそれでやんの?"って感じですけど、それもrei harakamiチックでいいじゃないですか。

-タイトルの"NEW GERMAN WAVE"という言葉は、今塔山さんがおっしゃった音楽的な変化に対して何かしら指針になるような言葉だったんでしょうか?

塔山:そうですね。この作品を作り始めるに当たって、1番最初にいいなって思ったのが(石野)卓球さんの『BERLIN TRAX』だったんです。そういう時ってほんま偶然なんですけど、古本を拾ったんですよ。それがちょうど、『BERLIN TRAX』を作った時の卓球さんのインタビューが載ってるサンレコで。その制作過程とかを見たら、凄い楽しくて。まぁまず、そのCDの音がカッコいいですからね。で、その時に卓球さんが聴いてた作品っていうのが、ドイツで"Neue Deutche Welle"と呼ばれていたような人たちの作品――Liaisons Dangereusesとか、俺もあんまり聴いたことないような人たちの作品で。それを調べたんですけど、なかなか手に入らないんですよね。廃盤になってたりするから。で、それをファンに言ったら、凄いマニアックなファンの奴がおって、そいつが全部貸してくれたんです(笑)。しかも、その人は結婚してて、それ旦那さんのものなんですけど、嫁さんが隠れて俺に貸してくれて、ちょっとした不倫みたいな感じで(笑)。

-凄い音楽的な不倫ですね(笑)。

塔山:こっそり送ってきてくれたんですよ(笑)。で、そのあたりを聴いていったんです。そしたらね、凄い機能的なんですよ。機械的なものの使い方が全然イギリスやアメリカと違うんですよね。歌としては同じことをドイツ語で叫んでるだけだけど、音色とか、"ここでこんな音入れるか?"っていう発見があったり、聴いてて凄い勉強になる。今回のアルバムって、キックとか今までに比べて粘っこい感じなんですけど、それもドイツっぽい感じを意識してて。その辺の人たちが"Neue Deutche Welle"、つまり"NEW GERMAN WAVE"っていう呼ばれ方で括られてたんですよね。で、この言葉カッコいいなと思ってタイトルにして。あとは、自分らの4枚目のアルバムなので、"4"ってつけて。

-今回、全9曲中7曲に「Mad Drumming」というタイトルが冠せられてますけど、これはどういったとこから来てるんでしょうか?

塔山:今回は自分がいいチャンネルになってる時のやけくそ感でスタートしてるので、ほんとは9曲全部の曲名一緒にしたろと思ったぐらいなんですけどね。前回インストアをやった時に、バンドの先輩が来てくれて、その人がCD探してるっていうから一緒に探しに行ったんですよ。ニューエイジとか現代音楽のコーナーで、Steve Reichっているじゃないですか。先輩はそれのアルバムを買ったんですけど、なんか流れ的に、俺も買って交換しなきゃいけない感じになって(笑)。で、まぁそんな高いもんじゃないから買ったんですけど、その時買ったアルバムのタイトルが『Drumming』だったんです。しかも、それも曲名にPart Ⅰ、Part Ⅱ、Part Ⅲ、Part Ⅳって振ってあるだけで、こいつも適当なんですよ(笑)。でも、それがなんかカッコよくて。プログレとかでも多いじゃないですか、パート1、パート2って振ってるやつって。交響曲じゃないですけど、ああいう並びのものを出したいなって思って、この題名になったんですよね。

-塔山さんの音楽探究心って、それこそ前のアルバム・タイトルで使った"電子音楽"っていう言葉のルーツを辿っていくような部分があるなって思っていて。その歴史探求、文脈探求っていうのが、古いものも新しいものも並列に聴くことができる今の音楽のあり方に対して凄く批評的だなって思うんですよね。

塔山:あぁ、ありがたいです。あんまり意識はしてないんですけどね。意識せんぐらい周りが気にならないというか。それよりも、自分が興味あるもの、カッコいいなって思ったものに影響されたものをただただ作りたいというだけですね。たとえばTHE SMITHSで俺が好きだったのは、Johnny Marrは周りが70年代のパンク――THE JAMだ、THE CLASHだって騒いでる時に、彼はオールディーズとか聴いてたわけじゃないですか。その感覚が好きなんですよね。"それを回顧主義と言われてもいい"って当時Johnny Marrは言ってましたから。そのセンスがカッコいいなって思って。誰もが見落として見過ごしていってるんだけど、実はいいものって残ってたりするじゃないですか。"まだこれ出汁とれんで"っていう肉が転がってるわけですよ。それに対して、周りに気づけよとも思わないんですけどね。俺が気づいて、やりたいだけだから。そういうのを上手く吸収しつつ、新しいものをみんなに聴かせたいなっていうのがあります。