Japanese
キタニタツヤ
Skream! マガジン 2023年05月号掲載
2023.03.31 @Zepp DiverCity(TOKYO)
Writer : 山田 いつき Photographer:西槇太一、山川哲矢
キタニタツヤが、東名阪を回る対バン・ツアー[TATSUYA KITANI Presents "Hugs Vol.5 Tour"]のファイナル公演をZepp DiverCity(TOKYO)にて開催した。大阪公演にindigo la End、名古屋公演にヒトリエを迎えた本ツアーのラストに登場したのは、ASIAN KUNG-FU GENERATION。かねてからキタニが音楽の原点と語るバンドとのツーマンは、ただツーマンをするという事実以上に大きな意味を持っていた。
SEもなく登場したアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のライヴは名曲「ソラニン」からスタート。待ってましたと言わんばかりにフロアから歓声と拍手が沸き起こる。今年2月にリリースされたばかりの新曲「宿縁」、また「Re:Re:」や「リライト」といった定番のキラーチューンで会場を盛り上げる一方で、「君の街まで」や「転がる岩、君に朝が降る」などじっくり聴かせる楽曲も響かせていく。最後のMCで、ツアーに呼んでくれたキタニに感謝を述べ、"たぶんその昔、僕らがキタニ君に渡したバトンがあって、循環するというか、今日僕たちが何かを彼から貰って、巡っていけるのが音楽の良さというかね。そうやって転がっていけたらいいなと思います"と語った後藤正文(Vo/Gt)。約40分に及んだステージのラストを、今の季節にぴったりのナンバー「海岸通り」で締めくくった。
そして熱いバトンを受け継いだ、キタニタツヤのステージへ。サイレンを彷彿とさせるSEが鳴り響くなかサポート・メンバーに続いてキタニが登場。いきなりアグレッシヴなロック・ナンバー「聖者の行進」でフロアを焚きつけると、次ぐ「PINK」では繊細な所作とヴォーカルで妖艶な雰囲気を醸成、気迫に満ちたステージングで観る者を魅了していく。MCでは、"この「Hugs」っていうイベントは友達になりたいなっていう人と対バン・ライヴをして、仲良くなって抱擁を交わそうというイベントなんだけど......なんと俺の音楽のすべての始まりだよ! このバンドと対バンすることができました。ありがとうございます!"と喜びを噛み締めながら挨拶。先ほどまでフロアを支配していたキタニの表情が、いつの間にか少年のような笑顔に変わっていることに気づく。子供の頃にアジカンの音楽に出会っていなかったら、ロックという形で音楽を聴いたり作ったりする人生では絶対になかったと言い、だからこそアジカンとそれを応援し続けたファンには、どんな言葉でも感謝が言い切れないと感慨深げに語った。
そして、大好きなアルバムだというアジカンが2006年に発表した3rdアルバム『ファンクラブ』の中から、「バタフライ」のカバーを披露。マニアックな選曲に会場がどよめいていたが、この曲はキタニにとって音楽が救いや導きになり得ることを初めて知った曲だそう。原曲の持つシリアスな空気感とバンド・アンサンブルの切迫感が見事に表現されたこのカバーは、キタニのアジカン愛が決して伊達じゃないことを証明していた。そのあとは、雄大なロック・チューン「Rapport」、一転して「プラネテス」、「ちはる」といった柔らかな質感のナンバーを立て続けにパフォーマンス。ちなみにこの日の公演はアンコールなし。ラストを締めくくる「スカー」では、キタニがエレキ・ギターを躍動感たっぷりにかき鳴らし、大歓声に包まれながらステージをあとにした。
公演中にキタニが大好きなアルバムとして挙げたアジカンの3rdアルバム『ファンクラブ』は、後藤正文の内面にフォーカスしたシリアス且つ精神性の強い作品であると同時に、この音楽に共感した誰かの心に訴え掛け、その人の人生の一部になることを目指したアルバムだった。そんな作品に人生を変えられたキタニとアジカンによる音楽での抱擁。奇跡というよりも、何かに導かれるような必然性がそこにはあった。
[Setlist]
■ASIAN KUNG-FU GENERATION
1. ソラニン
2. 宿縁
3. Re:Re:
4. リライト
5. 君の街まで
6. 荒野を歩け
7. 転がる岩、君に朝が降る
8. 海岸通り
■キタニタツヤ
1. 聖者の行進
2. PINK
3. 永遠
4. 悪魔の踊り方
5. パノプティコン
6. 化け猫
7. バタフライ(ASIAN KUNG-FU GENERATIONカバー)
8. Rapport
9. プラネテス
10. ちはる
11. 夜警
12. トリガーハッピー
13. スカー
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全33曲の歴代シングルが紡がれ、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが日本のロック史に残してきた功績を改めて体感することができる、メジャー・デビュー20周年記念盤。再録された「遥か彼方」で幕を開け、地を這うようなイントロのベース・ラインがノスタルジアと高揚感を運んでくる。20年経っても歌い続けるバンドの熱量が確かな軌跡として反映されている一方で、リスナーは各楽曲の歌詞に登場する"君"に当時の自分や大切な人を投影させ、懐かしさに浸るだろう。暗いムードが漂う情勢や、やるせない日常からも目を逸らさず、今を生きて、愛を鳴らし続けてきたアジカン。これからも変わらない4人だけの音を世界中に響かせてほしい。(山本 剛久之)
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アジカン×アニメ"NARUTO-ナルト-"シリーズとしては、「ブラッドサーキュレーター」に続く3弾目。ここで"前世からの因縁"を意味する"宿縁"というキーワードを挙げたのは、今の自分の行動があとの世代に与える影響や人間のいい意味での変化について、後藤正文(Vo/Gt)が懲りずに希望を託しているからだと思う。王道ギター・ロック・チューンだが、コードがロング・トーンであることで降りしきる雨=現在の世界を思わせるのはリアルだ。また、後藤&喜多建介(Gt/Vo)の共作で喜多Voの「ウェザーリポート」は、近さを感じるミックスが離れていくふたりという珍しいテーマを自然に聴かせ、『サーフ ブンガク カマクラ』の続編という「日坂ダウンヒル」は、ローファイ・ヒップホップ調。各々今年のアジカンの動向を示唆しているのかも。(石角 友香)
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1年2ヶ月ぶりの新作は、両A面シングル。「ダイアローグ」も「触れたい 確かめたい」も、このコロナ禍による社会を映したような曲で、今改めて大事なものを突きつけられる感覚があるが、実は昨年行った欧州ツアーの際に、ロンドンでレコーディングをした曲だという。ダイアローグ=対話や、人や社会の礎になるものを童話のように、また詩的に描いた「ダイアローグ」。シンプルなメッセージが、細やかなディテールを含んだふくよかなギター・サウンドで織り成され、普遍的なダイナミズムを放つ。また「触れたい 確かめたい」では、塩塚モエカ(羊文学)がゲストVoで参加。後藤正文との歌のアンサンブルで、センチメンタルな記憶や残像を刺激する曲になった。またCD版のみリモート制作による「ネクスト」を収録。(吉羽 さおり)
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3年半ぶりのオリジナル・アルバムは、シンプルなバンド・アンサンブルの魅力と底力が発揮されたパワー・ポップが満載。驚くのは、バンドのルーツのひとつでもあるWEEZERのRivers Cuomo(Vo/Gt)が2曲作曲していること。だが、Riversの曲も消化し、むしろバンドのDNAを感じさせながら、全体的にグッとBPMを落とし、各楽器の音の鳴りや音場の豊かさで全編に一貫性を持たせていることが、アルバムであることの意義を実感させる。表題曲や「ボーイズ&ガールズ」に代表される、ここからもう一度歩き出そうとする意志とそれを表現するサウンドの親和性を存分に味わいたい。ホリエアツシ(ストレイテナー/Vo/Gt/Pf)らが手掛けた曲を含むEPも合わせた15曲すべてをぜひ聴いてほしい。(石角 友香)
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「生者のマーチ」もそうだったが、今回の「ボーイズ&ガールズ」も徹底して、4人の音しか鳴っていない。それは立ち止まるとか振り返るとかではなく、歩きながら自分の中身を見つめるよう背中を押してくれる。情報量過多で"衝撃"という引っかき傷を作る音楽の真逆にあるのではなく、アジカンの新曲は自発的な発電を促しているのだ。サウンドはWEEZERなど初期の影響源を再解釈しているようでもあり、でも曖昧さはなく、ビートもグルーヴもリフもしっかり地に足をつけているのが新鮮。2曲目の「祝日」はシャッフルのリズムが珍しくアジカンを"男っぽいバンド"という形容で表したくなった。それはギター・アンサンブルの特異性にある。深呼吸して、しぶとく生きよう。そんな後藤正文(Vo/Gt)の声が聴こえるようだ。(石角 友香)
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ゴッチがブログに"震災後、2度目の人生を生きている心持ち"という意味のことをときどき書いているが、現実の音像、そして作品に昇華されたのが今作なのだと思う。シングル『Easter』同様、FOO FIGHTERSのプライベート・スタジオで全曲レコーディングされたこのアルバムの重量とソリッドさが矛盾なく存在するどでかい音像は、イヤフォンで聴いてもつま先まで痺れるようだ。まず肉体に訴えかけてくる。そしてもはや対岸の火事ではなくなった人間同士の断絶などの現実を冷静に描く歌詞の多さ。しかしアルバム・タイトルが示唆するように未来は"ワンダー・フューチャー"なのだ。楽観も絶望もない、励ましもセンチメントもない。ただ生きる意思を鳴らしたらこうなんだ、そんな潔さに満ちている。(石角 友香)
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このコンピの充実度は毎年計り知れないが、今回はASIANKUNG-FU GENERATIONの新曲「スタンダード」を聴くだけでも相当、価値ある1枚。ゴッチ自身が"これは先の都知事選についての歌"と明言しているが、何も変わらないと諦めたら非難の対象と同化してしまう。愚直なまでに続けること、そしてバンドのイメージを引き受けるとはどういうことか?まで応えた1曲だ。文字数の半分をAKG新曲に費やしてしまったが、今年はユニコーンやスカパラなどベテランから、KANA-BOON、グッドモーニングアメリカら新鋭、くるりやストレイテナーらAKG同世代まで縦横無尽な出演者が揃うわけで、このコンピも自ずとその厚みや充実感を体感できる。お得感で言えばくるりの未音源化楽曲や、ストレイテナーの新曲収録も嬉しい。(石角 友香)
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シングルのカップリングやアルバム未収録曲の編集盤である『フィードバックファイル』第2弾。アルバムやシングルの表題が音楽的なイノベーションを前向きに背負う位置づけにあるとすれば、このシリーズは必然的に普遍的で無防備な楽曲が揃うことになるのではないだろうか。中でも今回、胸に深く刻まれるのは震災直後、やむにやまれぬ心情でゴッチが命を削りだして書いた曲。記号にしてはいけない3.11、アーカイヴできないあの頃の気持ちが否応なしに思い出される「ひかり」や、この2年のライヴの重要曲「夜を越えて」の存在感。また、昨年のハマスタ・ライヴ日に配信された新曲「ローリングストーン」「スローダウン」に窺える11年目への姿勢。移ろう日々の中でも常に携えていたい気持ちを呼び起こす名盤だ。(石角 友香)
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1曲目の「遙か彼方」での太いベース・ラインが鳴った瞬間の臨場感たるや!メンバー4人での緊張感のあるテイクには、初期のナンバーが持つ心の底から奮い立つようなアジカンならではの音楽の駆動力が、今のアレンジで鳴らされている。また、三原重夫(Perc)、上田禎(Key/Gt)、岩崎愛(Cho)を迎えた7人編成での「新世紀のラブソング」など、オリジナル録音の再現ではない新たな解釈は、合奏の歓びが(もちろん、シビアさも含めて)横溢。奇しくも最新曲「今を生きて」のタイトルが象徴的だが、ライヴ・レコーディングとはまさにそれ。そしてその臨場感を削がず、美化せず、ただクオリティの高い音像として定着してくれたことに感謝したい。メンバーはもちろん、楽器やアンプやエフェクターの息遣いが聴こえる。(石角 友香)
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ASIAN KUNG-FU GENERATIONが主催するNANO-MUGEN CIRCUIT 2013に出演する全アーティストの楽曲を収録したコンピレーション・アルバムがリリース。アジカンの楽曲「Loser」は、BECKの同名曲の日本語カヴァーだ。歌詞は日本語訳ではなく、原曲が綴る"負け犬"を、後藤正文が2012年の日本版として新たに描いている。その中には"海辺で燃え続ける夢の切り札""膨張する正義"など、最初から最後まで意味深なワードが並ぶ。後藤のポエトリー・リーディング風のラップはそれを軽やかに届けるが、内にこもる怒りはBECKのそれを彷彿させる。全15アーティストの提示したい色が明瞭に出た楽曲たち。現代の日本に鳴り響く芯のある音楽を、この1枚で楽しめるはずだ。 (沖 さやこ)
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アジカン企画&主催の夏フェス"NANO-MUGEN FES."も今回で9回目(ツアー形式だった「NANO-MUGEN CIRCUIT2010」を含めると10回目)。WEEZERやMANIC STREET PREACHERSをヘッドライナーに、BOOM BOOM SATELLITES、the HIATUS、若手注目バンドねごと、モーモールルギャバンなど、洋邦共に相変わらずの豪華ラインナップ。出演バンドの楽曲が1曲ずつ収録されているコンピレーション・アルバムは、今作で5作目。そして、今回収録されているアジカンの新曲は2曲。チャットモンチーの橋本絵莉子(Vo&Gt)を迎えた「All right part2」は、後藤と橋本の気だるい歌い方と熱が迸る歌詞のコントラストが鮮やかで、高揚感に溢れたギター・リフとメロディも力強く鳴り響く。ユーモラスなあいうえお作文、男性の言葉で歌う橋本の艶とレア感も思わずニヤついてしまう。東日本大震災時の東京を描いた「ひかり」は、人間の醜い部分や絶望感にも目を逸らさず、物語が淡々と綴られている。言葉をなぞる後藤の歌に込められた優しさと強さは、当時の東京を克明に呼び起こしてゆく。生きることが困難な時もあるだろう。だが"オーライ"と口ずさめば、ほんの少し救われる気がする。音楽の持つ力を信じたい――改めて強くそう思った。(沖 さやこ)
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