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FEATURE

Japanese

ASIAN KUNG-FU GENERATION

2016年07月号掲載

ASIAN KUNG-FU GENERATION

Writer 石角 友香

今年のアジカンは、"アジカンとは何か"を20年のキャリアを背負ったうえで、更新し再定義する表現を意識的に行っている。そのひとつの軸として、今年冬にリリース予定の、2004年リリースの2ndアルバム『ソルファ』のセルフ・カバー作の制作がある。
 
今年に入ってから、映画"ピンクとグレー"の主題歌「Right Now」、アニメ"僕だけがいない街"のオープニング・テーマとして既発曲を新たに蘇らせた「Re:Re:」をシングルで発表。そして今回はアニメ"NARUTO-ナルト-疾風伝"オープニング・テーマへの書き下ろし曲を表題にした『ブラッドサーキュレーター』をリリースする。バンドがファン以外、もっと言えば普段ロック・ミュージックにさほど接していない層にまでリーチする機会がシングルであり、しかも大きな話題を呼ぶタイアップばかりである。非常に自覚的にこれらのシングル・ナンバーの制作を行っていることは自明なのだ。そして、そこで鳴らされているのは目下の最新アルバムである『Wonder Future』で獲得したスタジアム・バンド級の強い肉体性と普遍性を持った屈強なアンサンブルであり、且つそれこそ『ソルファ』リリース・タイミングに前後してアジカンの名前と音が圧倒的に一致した「リライト」などで感じられる後藤正文ならではの汎アジア的なメロディであり、疾走するビート感だ。後藤は今年の年頭、日記に『ソルファ』の再録の理由として、近年、ひとつのアルバムをあまりにも早く消費してしまうことへの懸念を挙げていた。たしかに今、あらゆるアーティストの作品が情報として右から左に流れていくような、音楽を内在化する前に訳知り顔で新しいものをつまみ食いしているような罪悪感にかられることもしばしばある。そこで、そんな事実も踏まえたうえで、今年のアジカンは"じゃあ俺ららしさってなんなんだろうね"という具体物を今の筋力で表現しているのだと思う。
 
加えてオフィシャル・コメントでも後藤が書いているように、昨年のワールド・ツアー、特に初めて訪れた中南米のオーディエンスによる「遥か彼方」への大きなリアクションに、地球の真裏まで自分たちの音楽が届いていることを実感し素直に歓喜したという。バンドを続ける大きなモチベーションになったのは間違いない。そして彼の地に音楽が届いたきっかけはアニメ"NARUTO-ナルト-"。こうした事実をひとつずつ肯定して前進するのは、バンドにとって非常に健康的なことだ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONという決して小さくない船の舵をとるメンバーにとって、実感に基づいて今年の結成20周年を迎えられたことは幸運でもあるし、必然でもあっただろう。
 
「ブラッドサーキュレーター」はアジカンのキャリアの中でも屈指と言えるほど、リスナーの誰ひとりも置き去りにしない曲だ。そして、リスナーを信じている曲だ。バンドの音楽をどう自分のパワーに変換するかは人それぞれ自由だけれど、結局、自分は何に心を痛めたり、何を許せなかったり、興奮したり、感動したりするのか? まだその心が、心臓が拍動しているのなら、頭でっかちになったり、シニカルになったりする前に君自身が動き出したいんじゃないのか? と、ただ隣にいる友人のように力になってくれる曲だ。音像もメッセージとともにグルーヴするようにたくましい。しかも後藤の歌詞は韻を踏んでいたり、言葉の意味を超えてリズミカルだったりして、ことさら拳を握りつぶすような力みはない。
 
アジカンとは何か。そして未知だった世界の裏側のファンとの出会いを作ってくれたことへの感謝。大きく言えばそのふたつが原動力になっている今回のシングル。確実にその存在意義をシングルごとに提示しつつ、結成20周年を一望するときの重要なピースがひとつひとつ揃ってきたような印象もある。そしてそれは、バンドだけでは完成しない。今という時代を形成しているのは他でもない、君たちひとりひとりなんだよ――そんな当たり前のことを思い出させてくれる作品でもある。
 


 

ASIAN KUNG-FU GENERATION
ニュー・シングル
『ブラッドサーキュレーター』

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1. ブラッドサーキュレーター
2. 八景

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