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LIVE REPORT

Japanese

ASIAN KUNG-FU GENERATION

2013.09.15 @横浜スタジアム

Writer 石角 友香

“音楽ってよくしたもんでさ、おまえだけは聴くなよってならないから”“ありがとう、ホントにありがとう。俺らの音楽を見つけてくれて”。事前のインタビューではメジャー・デビュー10周年はレーベルにとってはメモリアルだし、自分たちとしても嬉しくないことはないけど……と、らしい発言をしていたゴッチこと後藤正文だが、2003年のシングル『遥か彼方』でのメジャー・デビューから10年、結成から18年の歳月をともに過ごしてきたメンバー、スタッフ、ともに切磋琢磨してきたバンド仲間、ファン、そして音楽に対する感謝は、どうしたって横溢していた。もちろん、言葉以上にその演奏によって今とこれからのアジカンを表現していたのは言うまでもない。

公式サイトでのリクエスト投票をもとにした1日目とは趣向を変えて、直近の“ランドマーク・ツアー”のラインナップであるサポート・メンバーを迎えた編成、そしてゲストを迎えた2日目の“オールスター感謝祭”。列島を縦断する台風18号による豪雨と暴風は、開演前には暗雲こそ立ち込めてはいるものの、回復し、既にいい予感しかない。

スコア・ボードを彩る公式サイトと同様の10周年を祝う、過去の全作品のアートワーク、左右に配置された太陽光パネルが目に入るステージに、ほぼ定刻通りにサポート・メンバーを含む7人が歓声に迎えられて登場。「All right part 2」でスタートしたライヴはまさに“今”のアジカンだ。トライヴァルな伊地知潔のドラミングと三原重夫のパーカッション、ゴッチのアクションを交えたヴォーカルがツアー時以上に深化した印象の「AとZ」、心の中で拳を上げてしまう「新世紀のラブソング」の暗雲を払いのけるような力強さ。タイトル・コールに大きく湧いた「ラストダンスは悲しみを乗せて」はアジカン流のソウルファンクの色合いを見せ、メッセージも音楽もシリアスに深堀りしながら、同時に感覚として楽しいものしか彼らのふるいには残らないことを証明するような「1980」。7人体制がスタンダード化した感の8曲だが、全体から見ればまだ序盤。

続くブロックはゲストを迎えての共演。1番手はストレイテナーのホリエアツシ。やんやの歓声に照れなのか彼らしいセンスで“いかにも出そうじゃない?暇だし”と笑いをとると“やめてよ、悪態つくの、雨降るから”とゴッチが釘を刺す。お互いのレパートリーを共演することはアナウンスされていたが、ホリエのチョイスは曰く“カラオケの十八番”という「無限グライダー」!ゴッチとふたりで歌う姿は、時代をサヴァイブしてきた同士でもあり、音楽好きの同級生感さえさらけ出す。そしてアジカン・セレクトはテナーの「KILLER TUNE」で、なんとこの日最初の分かりやすい盛り上がりを見せるという、オーディエンスのロック・ファンっぷりが、彼ららしい記念ライヴの色を濃くしていく。

そしてやおらゴッチが肩にかけたのは懐かしのマローダー。そう、次なるゲストはTHE RENTALSで元WEEZERのMatt Sharpが通訳の女性を連れて登場。ここでのMattのスピーチが感動的だった。“成功するってことはたくさんお金を稼ぐことでも、Twitterでどれだけたくさんのフォロワーを持っているということではなく、どれだけみんなとハッピーになれるか?ということだと思います”とミュージシャンにとって最大級の賛辞をプレゼント。特にゴッチが“世界で1番好きな曲。WEEZERの曲です。僕のレーベルの名前にもなっているこの曲のアウトロをこのギターで弾くのはひとつの夢だった”と演奏した「only in dreams」は、Mattのシンプルなベースのフレーズに合わせていつまでも続くアウトロが、アジカンのスタート地点と現在を時を越えて繋いでいるようだった。

ゲスト・タイムのシメはthe HIATUSの細美武士。“上の兄弟がいないから、俺は勝手に兄貴だと思ってる”とゴッチが水を向けると“俺は助さん格さんだと思ってるよ?”と細美。アジカン・セレクトによる「Insomnia」は、上田禎の鍵盤の効果もあり、かなりオリジナルに近いアレンジに挑戦。細美セレクトによる「遥か彼方」では特大のシンガロングが沸き起こり、ステージの左右袖まで疾走する細美。日本語詞の意味がわかる伸びやかさが心にダイレクトに入ってくるのも貴重だ。ゴッチが思わず“ロックスターだよね”と率直にこぼせるのも“あんまり会わなくても安心できるっていうか。音楽的にも尊敬してるし、人間的にはうーん、ちょっと尊敬できないとこもあるけど(笑)でもとても大好きな人達”と冗談混じりで本音を吐露できるのも信頼があってこそ、だ。

“今度は僕が脇まで行きます”とハンド・マイク&ダンスで披露したBECKのカヴァー「Loser」をこの日のセットに導入したのも今とこれからを象徴する一場面。そして1部の終盤は“誰にもバカにしたりされたりせずに音楽が鳴る場所にしたい。音楽やダンスは生きる力だよ”と、現状の窮屈さも思い出させながら、だからこそ打破しようとするメッセージとともに鳴らされた「踵で愛を打ち鳴らせ」。そして「今を生きて」で自然に沸き起こるシンガロングやハンド・クラップは、ファン自らも祝福するような、気持ちの交歓が美しかった。休憩を挟んでの2部はグラウンド後方の小さなステージにゴッチがひとりでアコギを携えて登場。1曲目は震災直後の無力感と音楽を届け続けるしかない当時の現在地を歌った「ひかり」が、今のアジカンの通奏低音として流れていることを受け止め、熱いものがこみ上げる。

さて、そこにさらなるシークレット・ゲストとしてストレイテナーのナカヤマシンペイがカホンを携え参加!“出会った頃の俺とシンペイちゃんと(ART-SCHOOLの)木下理樹の生きていけなそうな感じ?1番暗かった中のふたりがここに立ってるんだから(音楽は)夢があるよ”というゴッチの告白は、細美やホリエとのセッションとはまた違う切なさと温かさに満ちていて、「転がる岩、君に朝が降る」というささやかで本物のエールが真に迫った。

そしてステージには新たなゲスト、フジファブリックの金澤ダイスケを迎えて、ゴッチ以外の3人とともに「嘘とワンダーランド」が『マジックディスク』ツアーという音楽的充実を果たした重要な時期をさらにアップデートして表現。さらにゴッチもステージに戻ってのこのブロックは、超レアな「架空生物のブルース」が金澤のユーフォリックなシンセも相まって、この5人で見た新たなアジカン像を描き出し、高らかではないからこそリアルなアンセム「さよならロストジェネレイション」に滲む決意も素晴らしかった。

いよいよ終盤、ロックンロール・バンド・アジカンのタフネスを「センスレス」「惑星」と畳み掛けたあとは、毒舌(ほぼ)なしでメンバーへの感謝を述べるゴッチ。バンド存続の危機にも“続けるべきだ”と常に励ましてきた山田貴洋への信頼、アジカンのセンスを担うリーダー喜多建介への信頼、プレイヤーとして、また音楽的な相談を最もしているという伊地知潔への信頼。ゴッチのこんな感謝の言葉を聞くことは今後あるのだろうか?と思うほど逆説的に言えば、継続は容易ではないし、同時にバンドでしか見られない夢の力に嫉妬さえしてしまう。大団円の前に金澤たってのリクエストでプレイした「江ノ島エスカー」にグラウンド全体に笑顔が溢れ、メンバー4人のみの編成での「リライト」「君という花」が不変の曲の強さと演奏の深化を同時に見せつけるという堂々たるエンディングに4人の強い意志を見た。

本編30曲を共有してきたハマスタはお祭り騒ぎというよりファンそれぞれのうちに熱いものが燃えているような確かな繋がりが発生。アンコールに応えて再び7人編成で登場した彼らが届けてくれたのは、伊知地のトライヴァル・ビートが特徴的かつ、ニュートラルなイメージもある新曲「スローダウン」。そして最後に辿り着いたのは、叫びとも祈りともとれる“Too Late”のリフレインがせつない「アネモネの咲く春に」。諦めかけたり、自嘲したりしてしまうかもしれない。でもまだ自分たちは音楽の旅の途中にいる。この曲はアジカンの現在地からの手紙だ。それは受け取り手にとっても新たな10年、15年と続く旅を示唆していた。絆とか繋がりとか信頼とか、そういったものはアジカンの音楽の中にこそある。どこまでも意地っ張りで素晴らしいロック・バンドだ。かくして休憩込で約4時間のライヴは終演。台風の晴れ間も去ることながら、あと10何秒でハマスタの音止めだったことも、ミラクルとして語り継いでいいんじゃないだろうか。

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