Japanese
空想委員会
Skream! マガジン 2016年03月号掲載
2016.02.05 @TSUTAYA O-EAST
Writer 沖 さやこ
"20公演分のパワーをすべてぶち込みます"と開演前の影アナでギターの佐々木直也が言っていたが、20公演分どころか2015年の夏からこの日までの活動で培ってきたパワーすべてをぶち込むようなワンマン・ツアー・ファイナルだった。
1曲目は『GPS』の1曲目でもある「劇的夏革命」。バンドに楽曲がしっかりと馴染んだ安定感のある演奏と歌で会場の空気を一気に掴む。続いての「不純の歌」では佐々木とベースの岡田典之のコーラスが、ギター・ヴォーカル三浦隆一の歌を手堅くサポート。メンバー3人と事務所の社長でありサポート・ドラムを務めるテディとのグルーヴはライヴを重ねるごとに上がっている。三浦と佐々木が交互に音を鳴らす「忙殺のすゝめ」のイントロは見た目も華やかだ。
『GPS』をリリースしてからの空想委員会は夏のワンマン・ツアーに多数のイベント出演やプロモーション活動、シングル『僕が雪を嫌うわけ/私が雪を待つ理由』と2月10日にリリースの2ndフル・アルバム『ダウトの行進』の制作、そしてこの21公演に及ぶワンマン・ツアーと、休む間もなく動いてきた。音楽漬けの生活は彼らをかなりタフにさせていた。『GPS』収録曲を畳みかけるとメジャー・デビュー・アルバム『種の起源』から「八方塞がり美人」。三浦のカッティングも以前以上にキレが増し、過去の楽曲も更新していることが窺える。
「ラブトレーダー」のあと、三浦が"ここからは、あなたの歌を探すコーナーです"と言う。彼曰く、ここからのセットリストは歌詞でも音でも"ハッ!"と思う曲が必ずあるはずだ、とのこと。こういうMCひとつで観客に新たな楽しみを与えるところも空想委員会流だ。ミディアム・テンポのエモーショナルなバラード「エリクサー中毒患者」は歌に寄り添う佐々木のギターも感傷的で美しい。大サビの三浦の裏声も切なく、金色の逆光で見るステージも趣きがあった。アレンジもパワー・アップし、曲が育っていることを実感する。そこから「マフラー少女」へ颯爽と繋ぎ、透明感のある強かな音像で北国の青春の1ページを描いた。
"眼鏡着用者に捧げます"と「美女眼鏡」。今こうしてじっくりインディーズ時代の楽曲である同曲の歌詞に耳を傾けると、綴られているのは可愛い女子を探し出し、とにかくひたすらガン見することで広がっていく壮大な世界。自己完結で成り立った歌詞を書いていた人が『GPS』では"自分"と"空想委員会の曲を聴いているあなた"のことを歌いたいと思うようになったんだな、と非常に感慨深くなった。バンドも演奏力が当時よりも上がっているため、歌詞と音のギャップがさらに際立っているところはなんともシュールで、思わず笑ってしまった。
MCでは2016年一発目のライヴで岡田がライヴの最終曲をジャンプで締めようとして着地で綺麗に転んでしまったエピソードなど、ツアー中のおもしろエピソードをまったりと語る。後半戦、正統派ギター・ロック「僕が雪を嫌うわけ」でクールに決めると、観客との"合奏の時間"を設ける「悪天ロックフェスティバル」。佐々木が仕切り、三浦が男子チームのリーダー、岡田が女子チームのリーダーを務めて手拍子とかけ声で演奏に参加するという夏のツアー"ヒートアイランド"でも導入されていた催しも、当時より自由度が増していた。三浦は"今日は全員の顔を見て帰る"という冒頭の発言に違わず、前から後ろ、右から左、2階席までもじっくり笑顔で見渡していた。佐々木が岡田を三浦と間違えて呼んでしまったミスをすかさず三浦と岡田が掬って(且つ救って)笑いにした瞬間はお見事。様々なことを共に乗り越えてきた3人だからこその結束が非常に微笑ましく輝かしかった。
「春恋、覚醒」、「波動砲ガールフレンド」で会場のテンションを最高潮に持っていったあと、三浦が口を開いた。"『GPS』というCDを出して本当によかったと思っています。このCD1枚のおかげで僕はだいぶ変わりました。今までは自信がなかったんですけど、今はみんなの前で堂々と歌い、喋ることができるようになりました"――彼の表情はとても明るかった。ラストに演奏された「拝啓、我執」は彼から彼に宛てた手紙。三浦隆一という人間はだいぶ変わったかもしれないが、今までの自分も常に彼の心の中にいる。この曲を聴いていて、空想委員会には後ろ向きな曲がないことに気づいた。何があっても前進してきた三浦の強さは、空想委員会の核の部分なのかもしれない。
居残り(アンコール)では「私が雪を待つ理由」を演奏すると、三浦が"僕は音楽に救われてここまできました。空想委員会の曲がみなさんにとってそういうものになればと思いながら歌います"と言い、ニュー・アルバム『ダウトの行進』から「ミュージック」を披露した。"ラストはダンシング・タイムにしたいと思います。踊れる準備はできてますか?"と三浦が、"残りの体力全部置いていけよ!"と佐々木が煽り「空想ディスコ」。曲中でPerfumeの「チョコレイト・ディスコ」を混ぜ込み、佐々木が背面弾きギター・ソロで魅せ、会場全体を巻き込んだ。締めは会場全員で高くジャンプ。岡田のジャンプも今回はきれいに決まり、フロアも沸いた。この日の空想委員会はこの場にいる全員を満面の笑みにしたと言ってもいいのではないだろうか。劇的な夏革命と雪の季節を超えた彼らは、新しい季節、春へと歩み出す。これから彼らはどんな花を咲かすのか。それは4月の東名阪ツアーで明らかになるはずだ。
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