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DISC REVIEW

ONE

うみくん

ONE

チャンネル登録者数45万人超の人気YouTuberであり(※2021年7月現在)、歌い手としても活動するうみくんがRhythmic Toy Worldを迎えた初のコラボ・シングル。"Umikun Creative Project 2021"と銘打ち、1年間で4作品を発表するプロジェクトの第2弾となる今作は、疾走感あふれるピアノ・ロックだ。作詞作曲は内田直孝(Rhythmic Toy World/Vo/Gt)が担当。YouTubeを主戦場に歌を届けるうみくんの心情に寄り添い、"前人未到を超えたその先へ"とストレートに前進の意志を綴った。力強さだけではなく、弱さを吐露し、反骨精神が滲むラップ・パートも盛り込むことで、うみくんの変幻自在な歌唱スタイルが存分に生きた1曲。

21st CENTURY SOUNDTRACK

うみのて

21st CENTURY SOUNDTRACK

太平洋不知火楽団や笹口騒音ハーモニカ、笹口騒音オーケストラ......などなど、幅広く活動する笹口騒音だが、その中でもひときわ異彩を放っているのが"うみのて"だ。ゆらゆら帝国の作品で知られる中村宗一郎が、レコーディング~ミックス~マスタリングまで、音に関わるすべてを手掛けたという今作のタイトルは、"21世紀のサウンドトラック"。その名の通り、笹口騒音は、混沌としたこの世界の希望と絶望を、純粋に、シニカルに歌う。センチメンタルでありながら時折暴力的に鳴らされるギター、繊細且つ大胆なグロッケン、機械的な中に肉体性を併せ持ったリズム・セクション――対極ともいえる二面性をもった世界観は、常人には理解できないかもしれない。だが、それでいいのだ。天才とはそういうものだから。

bluebell

ウルトラタワー

bluebell

タイトルの『bluebell』とは花の名。その清廉で、凛としたブルーの花はイギリスを中心に欧州で愛され、"変わらぬ心"や"深い思い"といった花言葉があるという。今回の作品が、彼ら自身のルーツである英国ロック/ポップスの影響や色合いが感じられるものになったこと、そしてバンドとしてはここからどんどん前に進んでいくけれども、歌を生みだす思いや熱、衝動は普遍だという気持ちがこもっている。インタビュー中とにかく楽しそうで、早く聴いてもらいたいと前のめりになって話していた4人だが、今回、何か掴んだものがあったのだろう。キャッチーなメロディでリスナーの耳を開かせるその速度、どこか懐かしさを帯びて記憶と結びつくような心地好いデジャヴ感が、4人のバンド・サウンドで表現されている。毎日のすぐそばにある、あたたかな音楽だ。

太陽と月の塔

ウルトラタワー

太陽と月の塔

爽やかで疾走感のある「RUBY SPARKS」や「星降る街」は、"ザ"ギター・ロック。憂いを蹴飛ばしていくパワーだったり、強くなるという意志を音に宿した曲だが、一方でじっくりと歌の物語やメロディを伝える曲も多い。ミディアム・テンポで、ドラマティックなストリングス・アレンジも施しながら、移り変わっていく気持ちや情景のグラデーションを音で染め上げ、メロディを引き立たせていく。ストリングスなども入ってはいるものの、とてもシンプルで空気感のあるサウンドゆえ、日常に静かに馴染む音楽だ。「暇な夜、雨が降る」では、学校や街に流れるチャイムのような音階が印象的にループしていたりと、フレーズなども郷愁感を誘う。いつのまにか、この音楽のビート感に自分のリズムが重なっていくような心地好いシンクロがある。

NEWS

エドガー・サリヴァン

NEWS

2019年4月より佐々木 萌(Vo)と坂本 遥(Gt/ex-THEラブ人間)のふたり体制となり、新世代型エレクトロ・ポップ・ユニットとして新たに動き出したエドガー・サリヴァンが、メジャー第1弾EP『NEWS』をリリースする。TVアニメ"みだらな青ちゃんは勉強ができない"のために書き下ろされた「WONDERFUL WONDER」は、ユニークでハイセンスなトラックメイクと、中毒性の高いメロディが特徴的なダンス・ポップ・チューン。ラップ・パートで見せる佐々木のクールな表情も新鮮だ。そのほかにも、煌びやかなネオンの光を放つようなエレクトロ・サウンドや、オルタナティヴなギター・ロック・ナンバーなども収録され、彼らの多様な音楽性が窺える。新生エドガー・サリヴァンに要注目。

トーキョー・ネイチャー

エドガー・サリヴァン

トーキョー・ネイチャー

シンガー・ソングライターの佐々木 萌(Uta)、THEラブ人間の坂本遥(Gt)、無礼メンの高木祥太(Ba)によるバンドの1stミニ・アルバム。佐々木の繊細な歌声と電子音による浮遊感あるサウンドが特徴的だが、終盤に向かうにつれ、彼女の歌声がどんどん熱を帯び、バンドの音もどんどん生っぽくなっていくような構成に胸が熱くなる。喧騒の中で自我を見失わずにいたいという願いと、その裏にある危うさ。"都会の人間は冷たい"とか"ネオンが眩しすぎて星空が見えない"とか揶揄されがちなこの街だけど、内なる炎を燃やしながら懸命に生きている人がたくさんいるのだということ。ガラスのような鋭利さと透明感を持つバンド・サウンドと若者ならではの純粋な視点で、東京の表情を捉えた作品だ。

エミ・マイヤーと永井聖一

エミ・マイヤーと永井聖一

エミ・マイヤーと永井聖一

日米で活躍するシンガー・ソングライター、エミ・マイヤーと、相対性理論のギタリストであり、それ以外にも様々な幅広い活動を行う永井聖一がユニットを結成。全編日本語詞のアルバムを完成させた。制作期間は約2年。作詞と作曲はそれぞれが書いたものもあれば2人の共作もあり、Track.6はたむらぱんが作詞で参加していたりと、シンガーとしてのエミをよりじっくりと解き放ったポップ・ミュージック集だ。肩肘張らないリラックスしたバンド・サウンドに、英語と日本語両方の感触を与えるエミのヴォーカル。永井のギターは曲の雰囲気にあわせて変幻自在にアプローチをするも、どの曲でも音の魅力を存分に引き出すシンプル且つ印象強いフレーズを奏でる。エミの新たな表情を見られる楽しみと同時に、永井のギタリストの才能に恐れ入った。

rebirth

エルフリーデ

rebirth

4人組ガールズ・バンド、エルフリーデのメジャー1stミニ・アルバム。本作には、シングルとして先行配信されている2曲のリード・トラック「Break Heart」、「栄光へのエール」を筆頭に、タイトルの"rebirth"="再生"が意味する通りの生命力を感じさせる6曲が揃った。エルフリーデらしいキャッチーなサビメロや、ロックとポップスとの卓越したバランス感はそのままに、遊び心を感じるゲーム風サウンドがアクセントになった「ハルユメ」や、ラップ・パートを取り入れた「未来 is future」など、随所に意欲的な姿勢を窺うことができる。着実にライヴ動員を増やし、7月にはバンドが目標としていた恵比寿LIQUIDROOMでのワンマン・ライヴが決定。彼女たちの行く末が楽しみだ。

real-Ize

エルフリーデ

real-Ize

結成から約1年半という短期間でメジャー・デビューを発表した4人組ガールズ・バンド、エルフリーデのメジャー・デビュー・フル・アルバム『real-Ize』が到着。キュートなヴィジュアルながらも本格的なバンド・サウンドを鳴らしており、また幅広い層に支持されるであろうポップスとロックの絶妙なバランス感覚、そして一度聴いたらすぐに口ずさめるキャッチーなメロディが彼女たちエルフリーデの強みと言えるだろう。エモーショナルで透明感のある歌声が聴き手の感情に訴え掛けるリード曲「Orange」や、ラウドロックのエッセンスを感じさせる「MONSTER」、力強く疾走感のある「Empty」を始め、一曲一曲、楽曲の持つ表情が異なっており、彼女たちの色とりどりの魅力を堪能することができる。

Get Olde / Second Wind

CRYING

Get Olde / Second Wind

アンニュイ女子ヴォーカル×チップチューンという相性バツグンの組み合わせのデビュー・アルバムを届けるニューヨークの3人組。今作は、シューゲイザーやパワー・ポップを通過したキャッチーさと耽美性の入り混じる正統派USインディー・ポップとしての強度を保ちつつ、日本人好みのテイストに仕上がった。おそらくそれは彼女らがKateBushとPerfumeを同等にリスペクトしているがゆえ、と言えそうである。どこかセンチメンタルな趣きのある Track.7、アンニュイなヴォーカルとグッド・メロディというシンプルな魅力の光るミディアム・ナンバーのTrack.13など、全14曲収録。疾走感ある00年代のシューゲイザー/ドリーム・ポップをベースに、チップチューンを絶妙に取り入れた高純度のポップ・ソング集。

eyes

おいしくるメロンパン

eyes

3ピースのせめぎ合いに果てしない可能性を感じるおいしくるメロンパンが、『cubism』、『answer』で開かれた表現によってオーディエンスから受け取ったフィードバックは、今作で、ソリッド且つフィジカルに訴えるサウンドやアレンジとして結実した。ミニ・アルバムの軸を成す1曲目の「五つ目の季節」の怒濤のアンサンブルで迫るイントロが新しいタームを象徴すると同時に、過ぎ去ってしまった季節を思わせる歌詞は全編でどこか共通している。ひとつの季節の中で交わることのないふたりを思わせる「シンメトリー」、珍しく世間も自分も断罪しているような「空腹な動物のための」、淡々と情景が動いていく映画的な「ドクダミ」、そして1曲の中に異なるジャンル感が混在する「黄昏のレシピ」。新たなコマンドが並ぶ強い作品だ。

answer

おいしくるメロンパン

answer

聴き手への届きやすさという意味で節目になった前ミニ・アルバム『cubism』のさらにその先にある7thミニ・アルバム。先行配信曲「マテリアル」にある、触れられるものの有限さとそれが記憶になったとき永遠を信じられるという気づきなど、ナカシマ(Vo/Gt)の生の捉え方もグッと力強くなった印象だ。アレンジの風通しの良さは、1曲目の「ベルベット」での愚直なまでにストロークで疾走させていく痛快さ、マーチング・リズムが印象的な「波打ち際のマーチ」の音数が少ないがゆえにアンサンブルの意図が明解に伝わるあたりに顕著。さらにそのことでポップになったメロディがスッと耳に入る。ナカシマの書くどこか孤高な君と僕の物語も情景と心情を高い解像度で掬い出し、瑞々しいまま届けてくれる。3ピースの豊かさのひとつの到達点。

cubism

おいしくるメロンパン

cubism

"初めて開けたこの目で/全部 全部 選び直すよ"。そんなふうに歌われる「Utopia」が象徴するように、今作『cubism』の全5曲に漂うのは、人は何度でも生まれ変わるということ、それは断絶ではなく地続きなものであるというような死生観だ。誰もが経験する"別れ"を様々な角度から――まさにタイトルが表すとおり、キュビズム的に描いた今作は、作詞作曲を手掛けるナカシマ(Vo/Gt)の人生哲学がくっきりと浮かび上がってくる。歌詞にバンドの変わらない個性を貫きつつ、これまで以上に広いリスナーに届きやすいサウンド・アプローチに振り切ったことが今作の大きな挑戦だろう。シンプルに歌を極めた「蒲公英」は珠玉。のちにバンドの分岐点がここだったと言えるような1枚になった。

BRAVE SOULS

大阪☆春夏秋冬

BRAVE SOULS

大阪発のダンス&ヴォーカル・グループによる新作は、90年代インディーズ・パンク/ロック/ミクスチャー好きにはたまらない仕上がりだ。ミニ・アルバムに続きmasasucksがサウンド・プロデュースを務め、作曲/演奏はアイニ(SMORGAS)、津田紀昭(KEMURI)、MASUO(BACK DROP BOMB)、SUNE(GOOD4NOTHING)などその筋のプロフェッショナルが集い、アイドルとストリート音楽がクロスオーバーした攻撃的な曲調が勢揃い。怒濤のスケートコア「AxMxMxRx to The End」、SLAYERを彷彿させるスラッシーな「Get up for your right」、SUNSHINE DUB「SUNSHINE LOVE」のカバーも収録。

四季織々

太田家

四季織々

作品名にも刻まれている通り、春夏秋冬のお題を掲げた初のコンセプト作となった2ndアルバムがここに到着。前アルバム『愛読書』の完成度にも驚いたが、今作はそれ以上の出来と言えるかもしれない。GReeeeNの「キセキ」、卒業ソングの定番曲「旅立ちの日に」のカバーは太田家テイストに染めつつ、GEEKS/月蝕會議のエンドウ.が作詞作曲を手掛けた「赤赤」は、ミクスチャー・ロック調の展開で魅せ、藍坊主の藤森真一(Ba)が作詞作曲した「イデア」の歌謡メロディっぷりも絶品。オリジナル曲も充実しており特に後半に登場する「哀秋に詠う」、「スノーグローブ」、「四季とカスミソウ」は太田彩華のポップ性に長けた歌メロが素晴らしい。また太田エリカ様(Gt)作によるインスト曲「HIGHER GROUND」も熱い!

愛読書

太田家

愛読書

声優/歌手として活躍する太田彩華率いる太田家の1stアルバムが素晴らしい。このバンドの面白さは00年代の青春パンクが音楽的土台になっているものの、懐古的な色合いで終わらない新しさも同時に感じさせるところだ。そこは表現力豊かな女性ヴォーカルの存在が大きく、パンク、ロック、アニメ、声優など幅広いファン層を取り込める間口の広さを持っている。また、THE BOOGIE JACK、ザ・マスミサイル、太陽族のメンバーによる提供曲はどれも最高だし、↑THE HIGH-LOWS↓、ガガガSP、MONGOL800のカバーも原曲に勝るとも劣らない出色の出来映え。プレイヤビリティの高さを魅せつけるインスト曲「Sky-雲外蒼天-」、バンド紹介曲「太田家」は早く現場で聴きたいシンガロング・ナンバーだ。

名もなき少年の 名もなき青春

太田家

名もなき少年の 名もなき青春

太田彩華(Vo/Ba)が10代から青春パンクに憧れてきた理由が、ぎゅっと詰まったような配信第1弾リリース。激しさ、切なさ、ロマンチシズム......歌詞にも曲にもアレンジにも、そういった青春パンクの魅力が凝縮されている。作曲やアレンジの肝を握る太田ひさおくん(Key)も"青春パンク時代の様々なエッセンスを取り入れマッシュアップしつつ、太田家サウンドに昇華するイメージでアレンジしています。"、"楽曲を通して、太田彩華さんの爽やかな歌声と、暑苦しい男声シャウトの対比によるギャップ萌えもポイントです"というコメントを寄せているが、特にこの楽曲はそれが頷ける。声優ならではの表現力と、ストレートなバンド・サウンド、きらりと光る文学性が合わさった名刺代わりのナンバー。

スター街道

大塚紗英

スター街道

この人の頭の中はいったいどうなっているんだろうか。"BanG Dream!(バンドリ!)"のPoppin'Partyで花園たえ役としても活躍する大塚紗英が、2ndミニ・アルバムを完成させた――のだが、冒頭の疑問が浮かぶほどに独特すぎるタイトルや歌詞のセンスに、一発でノックアウトさせられた。彼女の頭の中から生まれる歌詞はテーマや着眼点が非凡で、ひと癖もふた癖もあるような人物の心情は、きっと同じ気持ちを抱いている誰かの心を代弁してくれているはず。特筆すべきは、言葉に関する才能だけではなく、メロディ・メイカーとしても並外れた才能を発揮しているということ。天才、鬼才っぷりを存分に発揮した本作のタイトルが"スター街道"と強気に出ていることも、決して大言壮語ではない。

カラタチの夢

大橋トリオ

カラタチの夢

今年1月にデビュー15周年を締めくくるコラボ・ベスト・アルバムをリリースした大橋トリオの新作EPは、人気ドラマ"きのう何食べた? season2"OPテーマの「カラタチの夢」をはじめ、ドラマやテレビ番組など映像世界を音楽で彩った楽曲が揃う。ストリングス以外はすべて大橋の演奏による"ひとりグルーヴ"が近い聴感を与え、表題曲ではカントリー調の温かなニュアンスの中で、今を生きることのかけがえのなさが歌われる。アメリカン・フォークを想起させる「黄昏メロウ」(BS-TBS"美しい日本に出会う旅"OPテーマ)の旅情、「7番通りの曲がり角で」でのコラボも記憶に新しいkojikojiが作詞で参加した愛おしいグッド・ミュージック「小さな種たち」や先行配信曲を収録した、現代に深く沁みる名曲集。

ohashiTrio collaboration best -off White-

大橋トリオ

ohashiTrio collaboration best -off White-

デビュー15周年を迎えた大橋トリオが12のアーティストと共演した曲を収めたコラボ・ベスト・アルバム。JQ from Nulbarichがフィーチャリング参加だけでなくプロデュースも務めた「La La La」は、これまでの大橋トリオの素朴で温かな印象とは違う独特の浮遊感と開放感があるし、新鋭SSW りりあ。らの起用も彼の探求心が窺える。斉藤和義、矢野顕子などの参加ナンバーをはじめ、コラボ相手のらしさも感じさせつつ、オリジナル曲とは違う魅力に溢れていて、それぞれが参加する意味と向き合ったことが想像できるような、気合の入ったナンバーがずらり。個人的にはBONNIE PINKとのジャジーなラスト曲が新鮮でお気に入りだ。繊細な音づくりが詰まった本作。ぜひいい音質で隅々まで楽しもう。

光を描く人

おおはた雄一

光を描く人

国内外のミュージシャンからも高い支持を集めるSSWおおはた雄一の新作は、前作に引き続き、Jesse HarrisとRichard Julianの共同プロデュースのもと、NYにてレコーディング。トロピカルやラテン、ブルースなど様々なスタイルを取り入れたフォーク・サウンドの柔らかく上質な演奏とおおはた雄一の伸びやかで優しい歌声が描き出す美しいポップ・ミュージック集。そのサウンドと一人の世界に向かう歌詞世界がとにかく新鮮。「おれと奴等の間に/太い太い線を引こう」(決別の旗)と始まるにも関わらず、決して奇抜な音楽でも閉じた作品でもない。現地のミュージシャンと生み出されたこの作品には、地にしっかりと根をはった静かな自信が漲っている。劇場で上質な舞台を観ているようなポップ・ミュージック。

それだけでいい

大原櫻子

それだけでいい

主演舞台に始まりピアノ、ヴァイオリンとの3人編成によるツアー"大原櫻子 Premium Concert 2022 「For You~あなたが作る櫻子Live~」"で2022年をスタートした大原櫻子。このツアーでも披露され、2022年第1弾シングルが今作だ。柔らかでジェントルな歌声で、"君"がいつでも素顔でいられる場所でありたいと語り掛ける表題曲は、ストリングスとピアノを中心に優しく紡ぎあげるバラードとなった。美しくも、日常に馴染むアレンジと歌心を大事にしており、そこに自身が書いた言葉が乗る。まだ不安な日々が続くからこそ、シンプルで大らかなスタンダードの趣がさえる。c/w曲「笑顔の種」はどこか「それだけでいい」と呼応するようで、ソウルを下地にしたサウンドに歌声がチアフルに響く。

ポッピンラブ!/Greatest Gift

大原櫻子

ポッピンラブ!/Greatest Gift

とびっきりポップに、恋に高鳴り、今にも溢れそうにはじける気持ちを歌った「ポッピンラブ!」は、大原櫻子自身が主演を務めるドラマ"つまり好きって言いたいんだけど、"主題歌。MVやドラマのエンディングでもキュートにダンスを披露しているが、まさに手を叩いて身体を揺らしたくなる心躍るナンバーだ。キャッチーさを前面に押し出しながら、多めのキメやその後ろでアクセント的に響くギター、ドラム、ピアノの音色がハラハラドキドキ感を演出。対照的に、もう1曲のタイトル・トラック「Greatest Gift」は、ぐっと成熟した歌唱で恋人たちの別れを描くピアノ・バラードだ。MISIAなどに楽曲を提供するMayu Wakisakaが作詞作曲に参加し映し出す、包容力と精悍さを兼ね備えた女性像も、今の彼女にハマる。

l(エル)

大原櫻子

l(エル)

容易に遠くにいる友達に会えなくなったり、近くにいる存在のメンタルの変化に気づいたり。ネガティヴに感じがちだということは、つまりそれだけ対象への想いが深いのだと気づかせてくれるような、切なさと前向きさがないまぜになったリアルな作品だ。シングルで話題になった一青窈作詞の「#やっぱもっと」は、壮大なピアノ・バラードにリアレンジ。アレンジが静謐な空気を醸す「同級生」の心強さ。初の本人作詞作曲の「チューリップ」は、誰もが大切な人にとっての"太陽や水"になれることを示唆しているし、柔らかで温かみのあるアンビエントな聴感で包み込む「Love Letter」では、凛とした大人っぽさを増した大原の歌唱がしみる。会えないあなたや君に贈りたい心の栄養的名盤。

光を浴びて

碧海祐人

光を浴びて

「秋霖」(2019年)で初めてサブスクに音源を解禁してからの碧海の音楽のイメージは、ローファイ・ヒップホップからネオ・ソウルに至るまで、ブラック・ミュージック・フィールと容易く理解できない心象風景が描かれた歌詞が特徴的だった。また、DTMで作られる作品に生音が加わったのはアルバム『表象の庭で』の何曲かに石若 駿が参加したことが発端だ。が、この新曲ではオルタナティヴなフォーク・ロック、ギター・サウンドの端々にはうっすらシューゲイザーの匂いすらある新しい世界を創出している。ドラムにex-Yogee New Wavesの粕谷哲司、ベースにジャズ・シーンやシンリズムのサポートなども行う今野颯平、パーカッションにエクスペリメンタル・クラシック・バンド Khamai Leonの赤瀬楓雅が参加していることに膝を打つ仕上がり。

PERSONA #1

大森靖子

PERSONA #1

メジャー・デビュー7周年を記念した初のセルフ・カバー・アルバム。様々な世代のアーティストへの提供曲だからこそ表現し得た、大森靖子の多彩なペルソナが飲み込める。敬愛する道重さゆみへの提供曲のカバーが最も多く、女性アスリートなど、著名な存在の何にシンパシーを感じるのかが綴られた「WHO IS BABY」ほか3曲。相坂優歌へ提供した「瞬間最大me」は、神聖かまってちゃんのの子(Vo/Gt)をゲストに迎えたハイパーポップがふたりらしい。提供曲でも女性、人間、愛、命という主題を突き詰めていることに驚嘆。また、昨今の時世を映すYouTube番組"街録ch-あなたの人生、教えてください"の主題歌に書き下ろした「Rude」の、荘厳なアレンジと歌唱に圧倒される。尊厳とは何かを自分の心に問う作品。

Kintsugi

大森靖子

Kintsugi

割れたり欠けたりした陶器などを接着し、継ぎ目を金で飾る修復方法を"金継ぎ"という。ばらばらになった気持ちや絆を痛みながらサヴァイヴする人に対し、もとあったものを生かしつつ前よりも美しくしたい、そんな想いで制作された本作。特に印象的だったのは英語詞(!)で先行配信された「NIGHT ON THE PLANET」(本作には日本語で収録)。大沢伸一(MONDO GROSSO)編曲によるシンセを軸とした壮大で重心の低い音作り、"夜のどん底"から遠い星を仰ぐような世界観に、憑りつかれる感覚を覚えた。心の澱を叩きつける声色のみならず、虚無感を孕んだファルセットの威力もすごい。さらに彼女を慕う橋本 愛が熱を持った歌で参加した「堕教師」も注目で、多様な作編曲陣のカラーも映えた渾身の作となった。

Re: Re: Love

大森靖子

Re: Re: Love

今年メジャー・デビュー5周年を迎えた大森靖子による5つの記念企画の第3弾。彼女の人生を変え、彼女を成型した道重さゆみに続いて、今回は峯田和伸(銀杏BOYZ)を迎えての「Re: Re: Love」。これは大森から峯田へのラヴ・レターでもあり、究極を言えば、歌う他に生きるすべのないふたりのアーティストの生き方を、このふたりにしかできない命の燃やし方で表明したロックンロールでもある。"運命の人によって生き延びた命"がこのタイトルの意味するところではないだろうか。c/wには、アニメ"ブラッククローバー"OPテーマで、ソリッド且つヒリヒリする感覚をキャッチーに落とし込んだ「JUSTadICE」、"推しに対する愛ってこんな感じでは?"と思しき弾き語り曲「めっかわ」を収録。

洗脳

大森靖子

洗脳

大森靖子の表現にはライヴと音源で乖離がある。"人間の業と性を炙り出す叫び"という根本は同じだが、それを全身全霊で体現するライヴと違い、音源の場合、世界を変革せんとする扇動者としての側面から、彼女はその叫びをかなり戦略的にまとめ上げている。メジャー進出以降、この乖離はより大きくなった。メジャー1stフルとなる本作において、彼女の本領が最も発揮される弾き語りの楽曲がほぼ封印されている点から見ても、それは明らかだ。彼女の才能があれば、その"役割"から降りることで、本作より数倍すさまじい音楽作品を作ることは可能だろう。いち音楽好きとして、そこに歯がゆさを感じていないと言えば嘘になる。しかし、僕は賭けたい。この時代に"本質"を背負おうとする、彼女の孤独な優しさに、賭けてみたい。

きゅるきゅる

大森靖子

きゅるきゅる

圧倒的な熱量と圧力を持ったシンセ・ポップ・サウンドの「きゅるきゅる」、聴き手を翻弄するかのようにコロコロと曲調を変えていくアクロバティックな打ち込み主体の「私は面白い絶対面白いたぶん」、ヒリヒリとした生々しい弾き語りの「裏」。3曲全てにおいて、1音1音がはっきりとした自我を持った"個"であるかのようにぶつかり合い、擦れ合いながら歪なノイズとポップなメロディを奇跡的なバランスで構築している。そのすべてを統制する大森靖子の歌は相変わらず哀しみと怒りと自嘲と慈愛をない交ぜにした響きをもって耳に届く。すべてが混沌としながら、しかし迷いはない。このメジャー・デビュー・シングルで大森は、人々の感情の集積地としての"ポップ・ミュージック"の役割を受け入れながら、不敵な笑みを浮かべている。

絶対少女

大森靖子

絶対少女

衝撃的な傑作1stから9ヶ月という短いスパンで放たれる2nd。大森個人の内面から漏れ出す自我が多彩な音楽性と様々な記号を触媒にして赤裸々にぶちまけられた1stに対し、本作にはひとつの大きな指針がある。それは極端に言えば"みんなの大森靖子"たらんとすること。本作で大森はその普遍的なソングライティングと独創的なストーリーテリングの才を駆使しながら様々な情景、心情を映し出す。ここにあるのは大森ひとりの歌ではなく、街の歌であり社会の歌であり、あなたの歌なのだ。前作同様エレクトロ、バンド、弾き語りと多ジャンルを横断するが、プロデュースを担当したカーネーションの直枝政広は大森の表現者としての獰猛な野生を見事に生かしながら、そこに洗練と鋭さを与えている。すべてが圧倒的。傑作と言い切る。

OT WORKS Ⅲ

岡崎体育

OT WORKS Ⅲ

今作のトラックリストを見て、"知らず知らずのうちに、こんなにもお茶の間で岡崎体育の楽曲を聴いていたのか!"と思う人も多いかもしれない。こんなにも幅広いジャンルの楽曲を、ひとつひとつのジャンルにリスペクトを込めながら、彼らしいウィットに富んだ解釈と、音楽や対象に向けた研鑽を積むことで、岡崎体育のハンコを捺すように仕上げていくスキルにも舌を巻く。そのリスペクトは対峙するタイアップ先やコラボレートするアーティスト、そして子供たちも含めた年齢も趣向も問わないリスナーにも向いており、しかも上から目線でも下手に出るでもなく、常に同じ目線。だからこそ、彼の楽曲はタイアップが多くても、オマージュが感じられても、いやらしくないし、むしろ求められるのだと思う。

Knock Out

岡崎体育

Knock Out

岡崎体育の新曲はアニメ"マッシュル-MASHLE-"OPテーマ。筋肉×魔法をテーマとし、友情やバトルとギャグが入り交じるというアニメのユニークな世界観に、岡崎体育×Paleduskの組み合わせがマッチしている。そう、編曲はDAIDAI(Paledusk/Gt)が務め(MVではメンバー全員出演)、そのサウンドはヘヴィでスピード感、アタック感のある本格メタルコア・サウンドだが、リリックは"みぞおち入ったら「ウッ」ってなるグーパンお見舞い"など、岡崎体育節が効いていていい意味でのギャップが"ならでは"の仕上がりなのだ。CDのc/wにはテクノ感マシマシでこれはこれでアガる同曲と、名曲「なにをやってもあかんわ」がポップにキュートになったセルフ・リミックスVer.他も収録されている。

FIGHT CLUB

岡崎体育

FIGHT CLUB

4枚目のフル・アルバム。目標に掲げていたさいたまスーパーアリーナ公演を大成功に収め、音楽人生の新たな一歩となる今作は、岡崎自身が"デビュー当時を彷彿とさせる原点回帰のアルバム"と公言する1枚。岡崎体育の名前を広く知らしめたあるある系のネタ曲「MUSIC VIDEO」の2021年版とも言える「Quick Report」をはじめ、持ち前の発想力と遊び心を全開にした楽曲がパワーアップして復活したことに、今の岡崎体育の吹っ切れたモードを感じる。年を重ねることの悲哀と希望を綴った「おっさん」や「Hospital」、たわいない日常を歌ったポップ・ソング「普通の日」など、同じ時代を生きる人とファイティング・ポーズをとるような今作は、32歳になった岡崎体育の等身大が泥臭く刻まれている。

OT WORKS Ⅱ

岡崎体育

OT WORKS Ⅱ

『OT WORKS』以来、約3年ぶりのコンセプト・アルバム。前作にはタイアップ楽曲が収録されていたが、今作の全12曲の中にはMONKEY MAJIK、KEITA、鈴木雅之、サンボマスター、ビッケブランカという、多彩なアーティストとのコラボレーション・ソングやカバー・ソングも加えられている。そして、タイアップとひと口に言っても、彼の場合はアニメや映画だけではなく、朝の子供向け番組からお昼の情報番組、さらには教育番組からお酒のCMまで、非常に幅広い。老若男女の様々なシチュエーションに寄り添える楽曲を、岡崎体育カラーは決して薄めることなく提供するスキルは、もっと評価されるべきだと思う。ほとんどが初CD化/初音源化の楽曲という意味でも、見逃せない1枚だ。

「劇場版ポケットモンスター ココ」テーマソング集

岡崎体育

「劇場版ポケットモンスター ココ」テーマソング集

©Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku
©Pokémon ©2020 ピカチュウプロジェクト

大のポケモン好きを公言する岡崎体育が、"劇場版ポケットモンスター ココ"のメイン・テーマを含む劇中曲全6曲をプロデュース。それらとTVシリーズに提供した4曲をまとめたコラボ・アルバムが本作だ。岡崎体育以外にもBeverly、木村カエラ、SiMら豪華アーティストや、東京都日野市立七生緑小学校合唱団がヴォーカルに参加しているのだが、子供向けだと侮るなかれ。難解な言葉はおそらくあえて使わずに、それでいて遊びや奥深さも孕んだ歌詞。ポケモンに森で育てられた少年がテーマの映画のストーリーに沿った、壮大で野性的で不思議でワクワクするサウンド。中でもトータス松本(ウルフルズ)を迎えた父親目線の主題歌「ふしぎなふしぎな生きもの」は、大人にこそ沁みる。作品への愛が滲む1枚はどの世代も楽しめるはず。

化かしHOUR NIGHT

ビッケブランカ VS 岡崎体育

化かしHOUR NIGHT

互いにソロのシンガー・ソングライター同士によるコラボ曲。ミュージシャンの前にゲーム好きという趣味を通じて仲が深まったふたりだが、その他にも物事の着眼点や視点のずらし方、その表現方法などシンパシーを抱くところも多かったのだろう。今作は、自身をきつね(ビッケブランカ)とたぬき(岡崎体育)に見立て、遊び心とちょっとした反逆心を胸に、ポップでキャッチーな化かし合い(バカし合いとも)で、リスナーや世の中を色づける音楽を生み出した。ミックス・エンジニアにJosh Cumbeeを迎え、キレのいい明快なEDMチューンに乗せて、憂いを帯びつつも、どこか飄々と脱力したシニカルなメロディ・ラインとふたりのヴォーカルという、いろんな風味が溶け合った味わいが心地いい。

SAITAMA

岡崎体育

SAITAMA

MVのあるあるをMVで見せて大ブレイクした「MUSIC VIDEO」、ストイックなヘヴィ・ロックにほとんど意味のない歌詞を乗せた「感情のピクセル」といった本人も"ネタ曲"とハッキリ話すユーモア溢れる曲がきっかけで、一躍現在のポップ音楽シーンの顔となった岡崎体育のメジャー3rdアルバム。なんと今回はそんな"ネタ曲"一切なし。ミニマリズムを追求した「弱者」や「確実に2分で眠れる睡眠音楽 (Interlude)」を挟んだ後半の自由で奔放で美しさすら放つサウンドスケープは、意外と言えば意外。しかし、ネタを排除しても同じ人間の作るもの。彼の持つユーモアや生活感が新たなフェーズで輝く、そのパフォーマンス性が厚みを増した作品だと言っていいだろう。

XXL

岡崎体育

XXL

明確なメッセージに嘘がないならいい、でも音楽を手段に使うにはなんか違うし、そもそもいい音楽ならなんでも好きだし、だからといって真顔でかっこ良さげなことを歌うのは自分に嘘をつくことになる――岡崎体育の思いを妄想するとこんな感じだ。先行してMVが公開された「感情のピクセル」はタイトルも秀逸だが、最高に好きでイケてると思うサウンドの上で自分なら何を共振させられるのか? を突き詰めるとこうなるのだろう。スキルフルなエレクトロ・ファンクに英語にしか聞こえない発音の日本語詞が乗る「Natural Lips」、妬みもなぜかピュアに聞こえる王道ギター・ロック「鴨川等間隔」、USのラッパーのごとく独自のフロウを聴かせる「Snack」など、常軌を逸した音楽の深堀りと楽しい着地点にこの人の生き方を見る。

潮風

岡崎体育

潮風

"ミュージック・ビデオあるある"を題材にした「MUSIC VIDEO」など数々の"バズ"を生み出し、2016年最注目の若手アーティストと言っても過言ではない岡崎体育の1stシングルの表題曲は、アニメ"舟を編む"のオープニング・テーマ書き下ろし。対極な性格を持つ同作の主人公ふたりの"人間的対義性"を描いた歌詞は対義語がリズム良く並び、まさに言葉を編んでいくような描写と、それを軽快且つキャッチーなメロディの波に乗せる手腕に、彼のソングライティング・センスの高さが窺える。カップリングの「チューリップ」は初の生音録音で、ピアノやヴァイオリンをフィーチャーした流麗なサウンドやシリアスなムードを纏ったナンバー。冒頭に書いたようなネタ曲で知ったリスナーは意外に感じるだろうが、それはあくまで入り口。彼の真価は間違いなくその音楽にある。