太陽は人を照らすが、では太陽を誰が照らしてくれるのだろうか。人は母なる海へと帰っていくが、では海はどこへ帰ればいいのか。星空は僕らの哀しみを癒すが、星々の涙は誰が拭うのか。大きいものはそれだけで優しくて、だからこそ孤独でもある。SEBASTIAN Xの永原真夏という人は、そんな大きなものの孤独と哀しみを知っているからこそ、ステージの上であれだけ強く美しく輝いていられるのかもしれないと、この工藤歩里とのユニット=音沙汰の初音源を聴いていると思う。ここには、歌とピアノというシンプルな編成によって紡がれた、まるで太陽や海や星空のように大きくて優しくて孤独な曲が並んでいる。帰る場所を持たない子供たちと、届くことのない"I love you"のための音楽。「ホームレス銀河」とSuiseiNoboAzの名曲「64」のカバーが特に素晴らしい。
SEBASTIAN X初のフィジカル・シングル・リリースとなる本作。タイトル曲「ヒバリオペラ」の主人公は、男の子に恋に落ち、まだ恋人関係になる前にもかかわらずベッドを共にし、<本気になるつもりじゃなかったの>と心の中で呟いてみせる、どこにでもいるような女の子だ。しかし、そんな女の子の中に、SEBASTIAN Xは生命の輝きを見出してみせる。机上の空論よりも、若者たちのリアルな生活の中にある喜びと悲しみを何よりも敏感に感知し、そこに向けて歌ってきたバンドだからこその説得力。去年のミニ・アルバム『ひなぎくと怪獣』を経て、SEBASTIAN Xは自分たちの届けるべき音と言葉を見定め始めたのだろう。自分の輝き方は自分自身で決めることができるのだということを、この曲はとても鮮やかに伝えている。
08年結成の男女4人組 SEBASTIAN Xの2ndミニ・アルバム。"ぼくらのファンタジー"とは、あくまでも永原真夏(Vo)の"ぼくら"であり、このファンタジーに足を踏み入れることは、彼女の世界に触れることを意味する。それほどに、作中の彼女の存在は圧倒的だ。笛とアコーディオンの音が印象的なアイリッシュ調の冒頭曲「フェスティバル」で、"音楽は続くだろう" と高らかに歌い上げ、冒険の幕開けを告げる。船出したその先にあるのは、アコーディオン、ホーン隊、バイオリン、スティールパン、多くの楽器を鳴らした、まるでカーニバルのような賑やかな世界。その中心にはやはり彼女がいる。自由気ままに、踊るように歌いながら、ひとつひとつの音に命を与えてまわっていくその姿、音と言葉を解放していくその様は、まさにファンタジーだ。