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LIVE REPORT

Japanese

CIVILIAN

Skream! マガジン 2021年09月号掲載

2021.07.18 @渋谷TSUTAYA O-EAST

Writer 秦 理絵 Photo by 高田 真希子

生きることにつきまとう苦悩や葛藤を徹底的に表現することで、その真逆にある生への執着と希望を痛烈に炙り出した最新アルバム『灯命』。その世界観を完全に再現したライヴだった。今年、改名5周年を迎えたCIVILIANが東京TSUTAYA O-EASTで開催したワンマン・ライヴ[CIVILIAN 5th Anniversary Live "FIVE" -灯命、透明、答鳴-]だ。
MCはなし。1曲目から14曲目まで、アルバムの曲順どおりに披露したこの日のライヴは、音源で聴く以上に胸を打つ感動が確かにあった。その理由は、スクリーン映像やライティングといった演出の効果も少なくはないだろう。だが何よりも、レコーディング音源を高純度で再現できるメンバーの演奏力、その一曲一曲に全力を注ぎ込んだ熱量の高いパフォーマンスによって、成し得たものだったと思う。その最後には『灯命』のメッセージを拡張する物語もつけ加えられていた。それは、まさにアルバムを超える完全再現ライヴだった。

泡沫のような儚いピアノが会場に響きわたるなか、全身真っ白の衣装で身を包んだコヤマヒデカズ(Vo/Gt)がひとりでステージに現れた。アルバムのオープニングを飾ったポエトリー・リーディング「遙か先の君へ」が始まる。今から3,000年後の世界に訪れた地球滅亡の日。そこに瀕した主人公の絶望と哀願を、スタンドマイクの前に立つコヤマは淡々と紡いでいく。その傍らで有田清幸(Dr)と純市(Ba)もスタンバイ。加わったバンド・サウンドはやがて激しさを増していき、地球滅亡の物語もまた、今私たちが直面するコロナ禍の感情と重なっていった。1曲目から圧倒的な没入感だ。続く「ぜんぶあんたのせい」では、CIVILIANの強靭なロック・サウンドが爆発した。間髪入れずに畳み掛けた「何度でも」では、ステージ際まで歩み出た純市が地面を這うようなベースを轟かせた。序盤で投げ掛けるのは、あなたの人生の責任はどこにあるのか、そんなメッセージだ。

生きることを罰のように吐き捨てる「懲役85年」では、打ち込みを効果的に取り入れたバンド・サウンドに、コヤマの早口のラップが転がった。ここからは、『灯命』というアルバムで大胆な進化を遂げたCIVILIANの多彩な音楽が花開いてゆく。二胡や琴といった中国の楽器を取り入れた「千夜想歌」、艶やかな和のサウンドと、アート書家 純子堂を迎えた趣のあるミュージック・ビデオの映像がリンクした「導」、コヤマがピアノを弾き、大きな弧を描くような美しいメロディがたゆたうロック・バラード「本当」。それぞれに異なる景色を描きながら、そこには一貫して他者との繋がりを懸命に求める人の想いがあった。雑踏に紛れた不気味なジングル・ベルをきっかけに、歌謡調のメロディで歌った「人間だもの」では、その繋がりを求めるがゆえの呪いのような情念が浮かび上がった。 アルバム『灯命』は、曲同士が連鎖し、数珠のように連なり合うことで深い意味を帯びていく。今回、彼らが"完全再現ライヴ"というかたちを選んだのは、そういったアルバムの意図をライヴでも体感してほしかったからだろう。

ブルーの光がステージを染めるなか、累々と降り積もる後悔を鬼気迫るバンド・サウンドで表現した「残火」。そこで加速したエナジーは、続く「夢の奴隷」と「正解不正解」にも引き継がれていった。強い照明の光を浴び、有田が長髪を振り乱しながら強靭な8ビートを刻んだ「夢の奴隷」も、純市がアグレッシヴな動きを見せた「正解不正解」も、絶望の先にある光へと手を伸ばしていく曲たちだ。最初は、コヤマがたったひとりでステージに登場して幕を開けたライヴだったが、この瞬間はコヤマ、純市、有田の3人がひとつの塊のような一体感でバンドの意志を伝えていた。

ライヴがクライマックスに差しかかる頃、無秩序に散りばめられたノイジーな音が会場の空気をがらりと変えた。「フランケンシュタイナー」だ。もし、自分の中の嫌なところをすべて取り除くことができたとしたら、果たしてそれは本当の自分なのだろうか。コヤマが語り掛けるように届けたその歌は穏やかな曲調でありながら、深く、鋭く、胸を打つ名演だった。孤独な人間同士の繋がりを力強く肯定する開放的なギター・ロック「世界の果て」を経て、ライヴを締めくくったのは「灯命」だった。コヤマが生み出す音楽に絶対の信頼を寄せる純市と有田が、そのヴォーカルに優しく寄り添いながら作り上げた神秘的でドラマチックなサウンド。最後に伝えたのは、どんなに絶望に打ちひしがれようと、人は希望を願い、生きることを望むという心の深い場所にある本音だった。

アルバムはここで終わるが、ライヴではメンバーが退場したあと、1曲目「遙か先の君へ」の続編の物語が、声優 鈴木達央の声で語られた。どんなに人生に悲観しようとも、未来への希望を勝手に握らせてしまう。せいぜい希望を持って生きていくことにしよう、と。どこか投げやりでやけくそな口調にも感じるが、それがCIVILIANの希望の描き方なのだと思う。熱血漢に"頑張れ"とも、"生き抜け"とも言わないが、誰もが本能的に持っているはずの"生きたい"という感情に揺さぶりを掛けてくる。人は、それぞれの"残り時間"を全うするために生き続けるのだ。それが、この日、CIVILIANが鳴らした答え="答鳴"だった。

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