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LIVE REPORT

Japanese

ヒトリエ

Skream! マガジン 2015年02月号掲載

2015.01.17 @赤坂BLITZ

Writer 沖 さやこ

このバンドの急成長には目を見張るものがある。確かにwowaka、シノダ、イガラシ、ゆーまおの4人は、ヒトリエを結成する前からそれぞれの環境で培ったキャリアがある強者揃いなので、バンドがどんどん良くなっていくのは当然のことだ、という人もいるだろう。だが個々のスキルとバンドとしてのパワーが必ずしもイコールになるとは限らない。それぞれの過去やプレイ・スタイルを知っているからこそ、わたしはこのバンドが成立していることが奇跡的だとも思う。

ヒトリエは昨年4月に開催された東名阪ワンマン・ツアーで、バンドとしての結束を一気に強めた。だからこそメイン・ソングライターのwowakaのスランプ(※詳細はインタビューを読んでいただきたい)を4人で乗り越え、フル・アルバム『WONDER and WONDER』の完成に至ることができた。それをやり遂げたヒトリエがどんなライヴをするのか――あの4人のことだ、もちろんいいライヴにしてくるに決まっているじゃないか。

SEと共に、緑色のレーザーがステージの背景にランダムに線を描いていくと、それが徐々にヒトリエのロゴマークになってゆく。その電子バックドロップを背負い、舞台上に現れたメンバー、まずシノダが笑顔でギターを鳴らすと、それを合図にするように4人が音をぶつけてくる。1曲目は「終着点」。音のひとつひとつから高揚が溢れる。音が不敵な笑みを浮かべているようだ。何にも臆さない、寧ろこちらから仕掛けてやるという攻めの姿勢にぞくぞくする。「インパーフェクション」では色とりどりのレーザーが交錯。まるで同曲のMVや、アルバムのジャケットの世界の中にいるような感覚だ。筆者が彼らのライヴを観るのはLIQUIDROOMのワンマン以来。シノダのギターは以前よりも線が太くなり強力に。そしてバンドをしっかりと支えていたイガラシのベースが、サウンドを引っ掻き回すように低音を鳴らす。なぜ彼がこんなふうに立ち回れているのか、シノダのパワー・アップも理由のひとつだろうが、ゆーまおのドラムの影響も大きいのではないだろうか。速くて難解なリズムを正確に叩き出すゆーまおは、竿隊3人の音色を掌握し、コントロールするようでもある。ひとつ崩れたら瓦解しそうな危ういバランスがもたらすスリルが不思議と心地よい。

音に合わせてwowakaが踊るように体を動かした「ワールズエンド・ダンスホール」。シノダは手なずけられない狂犬のように感情的にギターを鳴らし声を上げる。誰にも止めることができないが、その様子をwowakaも楽しんでいるように見える。バンドの結束やグルーヴを、美しい球体だけではなく、いびつにしたり尖らせたりと様々な形にして提示できるようになったのは、バンドに余裕が生まれたということだ。"ほんとに変なバンドだなあ、ほんとにWONDER and WONDERだなあ"と自然と笑いが零れてきた。「ボートマン」はwowakaの高音も美しく出る。彼のような声をしたヴォーカリストは実はあまりいないし、何より彼の歌は心と直結していて、そのときそのときの瞬間の感情がすべて込められているので、彼は1度たりとも同じ歌を歌わない。だからわたしは、このバンドに強い魅力を感じてしまうのだ。

「るらるら」のようなインディーズ時代の楽曲も勢いだけではなく緩急による色気も生まれ、感傷的な導入のイントロから繋ぐ「5カウントハロー」はイガラシとシノダの衝動的なパフォーマンスにも目を見張る。「なぜなぜ」はwowakaがトレード・マークの赤いストラトを置いてハンドマイクで歌う場面も。ライヴ中盤からアグレッシヴなだけではないグルーヴが生まれ、メロディの活きるサウンド展開になっていく。特に「ピューパ・シネマ」のそれは見事だった。"僕もみんなももやもやしたエネルギーをみんな持っていると思うんだけど。でも、音楽はそれをどうにかできる力を持っていると僕は思ってる。だから今日この場は、世界一楽しい場所にしていきましょう"とwowakaが語り"バンドを始めて初めて作った、ヒトリエそのもののような曲"と続け演奏された「カラノワレモノ」は、wowakaの言葉に賛同するように音を力強く繊細に重ねる3人の音色と、彼の心が溢れだす美しい歌に魅了され、自然と涙腺が緩んだ。

後半戦もバンドはそのバランスを崩さない。「ゴーストロール」と「踊るマネキン、唄う阿呆」はイガラシのテクニカルなベースに彼の本領発揮を強く感じた。4人の主張の強さがありながらもアンサンブルが成立しているのは、ヒトリエがロック・バンドとして逞しくなっていることの証明だ。そして『WONDER and WONDER』を経たことで、wowakaが以前以上に3人にいろんなことを委ねられるようになってきた。彼の歌は"このバンドで歌えていることが楽しくて仕方がないんだ!"と言わんばかりに輝いている。メジャー・デビューから約1年。たった1年でこれまで変貌を遂げるとは......と書いてはみたが、1年前から彼らならそれをやってくれるはずだと思っていた。だからこそ、このバンドがもっともっと上に行けると信じてやまないのだ。また半年後、いや、3ヶ月後くらいには全然違う景色を見せてくれるかもしれない。最後ゆーまおがステージから去るとき、マイクを通さず"今年も1年よろしくお願いします。精一杯やるから、ついてこい!"と叫んだ。その言葉に大きな説得性を持たすツアー・ファイナルだった。

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