Japanese
cinema staff
2021年07月号掲載
Member:辻 友貴(Gt) 飯田 瑞規(Vo/Gt) 三島 想平(Ba) 久野 洋平(Dr)
Interviewer:秦 理絵
「白夜」は、過去を背負って進んでいこうぜっていうことを歌ってるんです。それがこの1年間コロナで思ったことと合致したなって
-そこから今作に向けての話が出てきたのはいつぐらいだったんですか?
三島:10月の打ち合わせのタイミングかな。実は「3.28」(2020年4月配信リリース)と「TOKYO DISCORDER」(2020年11月配信リリース)を作ったときに、自分のディレクションがうまくいってない感じがしてて。外部のディレクター、プロデューサーを立てて作るっていうのをやらせてくれって言ったんです。で、今回、竹内(亮太郎/ex-the storefront)さんが入ってくれたんですよ。僕とはアイドルの(楽曲提供の)仕事もやってたし、ツーカーの状態になってたから。今まで作品や録音のケアを、何から何まで自分でやりすぎてたんですよね。それがバンドにとってあんまりいい作用になってなかった気がしていて。やりたくてやってたんですけど。それを一度全部第三者に任せて、健康的な制作を目標にして、それで作ってみてダメだったらもうダメでいっか、っていう開き直りがあったんです。
-初めはアルバムの予定だったのが、最終的にEPで出すことにしたのは、どういう経緯だったんですか?
久野:昔のボツ曲や、作ったけどアルバムに入らなかったデモがあるから、それを集めた盤を出したら面白いよねっていう話をしたんです。コロナ禍で、今は新しい曲を作るモチベーションが定まってないから、次の制作の話をしにくいところがあって。で、三島からプロデューサーを入れて新曲を録りたいっていう話が出たときに、じゃあ両方やるかという話になったんです。最初、新曲2曲とボーナス・トラック10曲の作品にするつもりで、とにかく過去曲を再録しまくる方向で動いてたんですけど。洗い直してみたら"この曲って本当に出したいかな?"っていうのもあって。
-無理矢理捻り出してやるよりは、本当にやりたい曲だけやったほうがいいかなって。
久野:そうですね。竹さん(竹内)と一緒にやるのも、シネマとしては初めてだったので、いきなりアルバムよりは、EPで感じを掴むのがいいのかなっていうのもありましたね。
-音源を聴かせてもらうと、ライヴの話と同じで、今までのシネマのクオリティに上乗せして、"なんかかっこいい"って思わせるものになってるんですよね。
三島:ピッチ感が全然違いますね。細かい部分ですが、今まで楽器のチューニングの微妙なズレが気になって仕方なかったんですよ。特に「斜陽」(『BEST OF THE SUPER CINEMA 2008-2011/2012-2019』収録曲)の頃から気になってたんです。例えば、スピッツを聴くとそういう違和感が一切ないんですよ。精査してやってる。でも、俺はレコーディングのテンションで、プレイが良ければいいっていうところにかまけてちょっとルーズに見てたんです。それが外部の人を立てたかった理由でもあります。竹さんは細かいところに厳しいんですよ。例えばギターのミュートが甘いところに対してちゃんと"しっかりやろう"って言ってくれる。そういうものの積み重ねで、丁寧な仕事になってると思います。
久野:竹さんはプレイヤーとしても素晴らしいんですよね。アルカラとたくさんライヴをしてきて。アルカラって、いいライヴをしなかったときがない。最強のライヴ・バンドなんで。プレイヤーとしても尊敬してるし、レコーディングの空気がすごく良かったし。いい曲を録るために前向きに仕事をできる現場を作ってくれたんです。
-先日、三島さんはTwitterで、"我々の音は基本的に大衆芸術であり、リスナーに寄り添った表現でないとだめなのだ"って書いてましたよね。それも、今回のレコーディングの根底にある想いなのかなと思ったんですけど、いかがでしょう?
三島:やるべきことを丁寧にやるっていう意識を研ぎ澄ませていきたいんですよね。ライヴをやってない時期に、ちょくちょく昔のライヴ映像の配信をやってたんですよ。そのときに、改めて自分たちの演奏の下手さに嫌な気持ちになったんです。ピッチ悪いし。これはプロとして駄目だなって。ロック・バンドだからって曖昧にしてきたものを全部なくしたいと思ったんです。ステージに立つ以上はエンターテイナーであり、聴いた人が元気になるものじゃなくちゃいけない。やってることが難しいことなのか、簡単なことか、とかは関係なくて。自分たちの表現としては好きなことをやるけど、それを、どうですか? かっこいいですか? っていうときに、聴く人を突き放しちゃいけないと思ってるんです。そのために、ちゃんとピッチを整理したり、MCを丁寧にやったり。そういうレベルのことを、今は疎かにせずちゃんとやらないとなっていう意識があります。
-ライヴができない時期のロック・バンドって、いろいろな活動の在り方があったと思うんですよ。配信ライヴ然り、新しいコミュニケーションの在り方を考える人たちもいた。そのなかでひたすら音を磨くことだけを考えていたっていうのは、cinema staffらしいですよね。もちろん何が正しい、正しくないの話じゃないんですけど。
三島:そういう新しいやり方も必要だとは思いますけどね(笑)。でもそれで本質である音楽が疎かになるのはおかしいですから。
-「極夜」と「白夜」は対になるような曲ですけど、どちらを先に作ったんですか?
三島:「極夜」ですね。
久野:"極夜"に決まったのは、「白夜」のタイトルが決まってからで。
三島:歌詞もあとからつけていきましたね。
-「極夜」は、どういう想いで作ったんですか?
三島:2020年までは、意識的に前向きなものを作ってきたんですね。でも歌詞に関してはそれを1回取っ払って、暗くてもいいから、今の自分を出せればっていうところはありました。曲に関しては、久々にあんまり何も考えずに作ってて。演奏でもっていけるものにしようっていうことぐらいですかね。「白夜」はストレートな展開の曲になりそうだったので。
-この時期に曲を発表するにあたっては、前向きに書かなくてはいけないっていうような使命感みたいなものも最初はあったんですか?
三島:ありましたね。例えば「3.28」では未来への希望を書いたんです。でも、暗い気分のときに暗い曲で救われることもあるよな、とも思うんですよ。改めて自分の中で、とことん暗いものを解放してみようっていうチャレンジをしてみた感じですね。
-たしかに暗い曲ではあるけど、そのなかで必死にもがいてるようなところが希望にも感じるんですよね。飯田さんは、この曲をどう解釈して歌っていますか?
飯田:今三島が言ったこと以外に、この曲について聞いたこともあるんですけど......たぶん言わないほうがいいかな。僕はこの曲を聴いて、人との繋がりを感じたんです。ちょうど自分でも人との繋がりについて考える時期だったから、それを三島が歌にしてくれた感じがして。あんまり直接的には言ってないのが三島らしいですよね。
三島:この曲では、かつてあり得なかったこともあり得ることになりうる、っていうのを言いたかったんですよね。もう絡まってるメビウスの輪がさらに絡まるわけですよ。見えないはずのオーロラが見える。何が起きてもおかしくないっていう世界ですよね。
飯田:それをちゃんと詩的にする言葉を三島は持ってるから、毎回すごいなと思うんです。改めて。まだ底がないなって。
-辻さん、久野さんは、この楽曲とはどう向き合いましたか?
辻:もともと「first song(at the terminal)」(2018年リリースのcinema staff×アルカラのスプリットEP『undivided E.P.』収録曲)とか、ああいう雰囲気を突き詰めた曲をって言ってたんですよ。結果的にそれとは全然違うんですけど。自分の感覚としては近いところでやれて。デモから最高だなと思ってたので、それを広げていった感じですね。
久野:ほぼバンドの完成形でデモを作ってきてくれたんです。正直その前までは、曲よりも自分が面白いと思うかを重視してたんですけど。最近は打ち込みの譜面を見てフレーズを決めたりするようになってきて。曲全体のために、ここにキックが置いてあったほうがいいなって、そういう考え方でフレーズを作るのが楽しくなってますね。
-「白夜」のほうは、2019年にアニメ"進撃の巨人"のエンディング・テーマに書き下ろした「Name of Love」(2019年リリースのシングル表題曲)の制作タームで作っていた曲だそうですね。
三島:もう3年前にはちゃんとした形があった曲ですね。
久野:当時、"進撃の巨人"のために、三島がめちゃくちゃ曲を作ってたんですよ。アルバム1枚分ぐらいデモがあって、その中の1曲です。これ、言っていいかわからないけど、当時、メンバー的には「Name of Love」よりも「白夜」を推してたんです。
三島:「OCEAN」(『Name of Love』収録曲)か「白夜」がいいって言ってたよね。
-このタイミングで収録を決めたのは、この曲のメッセージが今のメンタリティと合致したから、だそうですけど。具体的にどういうことですか?
三島:この曲はポジティヴですよね。ちゃんと過去があって、これからがあるというか。その時点までに何があったかをちゃんと背負って、進んでいこうぜっていうことを歌ってます。それがこの1年間コロナで思ったことと合致したなって。フラストレーションも、嫌なことも消化したうえで、ワンランク上の世界に行きたいよねっていう感じがしたんです。"巻き起こる全ては1つに繋がってる"とも言ってますし。
飯田:"今が過去に変わる前に/歩き出せ"っていうのが、本当に今の時代だからこそですよね。三島って、時間の書き方が面白いなと思うんです。「海について」(2011年リリースの1stフル・アルバム『cinema staff』収録)って曲では、"いつか未来は今になるから。"という、未来が今になるって表現があるんですけど。「白夜」は、今が過去に変わるって書いてて。先行きがめちゃくちゃ不安だけど、今の状況に引っ張られてしまったら、結局前に進めなくて終わると思うんです。だから、今が過去になる前に踏み出すんだよっていう時間の表現の仕方が面白いなって。この曲はそこが肝だなと思いましたね。
-時間軸のどこに視点を向けるかによって、今の見え方が変わるんですよね。
三島:そういう考え方が好きなんですよ。「白夜」は、"進撃(進撃の巨人)"のあるシーンを書いてるんですけど、未来がバッて変わるような瞬間があるんです。そこを飯田がそういうふうに捉えてくれてるのは嬉しいですね。
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