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INTERVIEW

Japanese

パスピエ

2016年08月号掲載

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Member:大胡田 なつき(Vo) 成田 ハネダ(Key)

Interviewer:秦 理絵

-「永すぎた春」でいう"春"は何を象徴して書いたものですか?

大胡田:これはもともと小説のタイトルなんですね。成田君が三島由紀夫さんの小説の"永すぎた春"(1956年発行)というタイトルをアイディアとして持ってきてくれたんです。で、私は三島由紀夫さんがすごく好きで、よく読んでたんですけど、この"永すぎた春"だけは読んでなくて。それが逆にちょうどいいだろうって持ってきてくれたんです。「永すぎた春」の"春"は、人生の4分の1ぐらいの長さにある青春や恋愛にうつつを抜かす時期だとか、人それぞれの春があると思うんですけど。その時期について書いています。

-どうして成田さんは"永すぎた春"をアイディアに持ってきたんですか?

成田:大胡田が三島由紀夫さんの作品を好きっていうのと、響きがキレイだなと思ったからですね。僕は歌詞を書かないんですけど、音にハマる言葉は気にしてるんです。それで今回も和のメロディがあるので、それが伝わるようなサビになったらいいなと思って。"永すぎた春"は日本人にしか書けない、英語では表現できない言葉だと思うんです。

-小説の"永すぎた春"と、楽曲とがリンクする部分はあるんですか?

成田:三島さんの作品ってダーク。サイドな部分にフォーカスが当たることが多いと思うんですけど、"永すぎた春"は学生時代の色恋沙汰の日常みたいな話なんです。ただただ日常を綴った作品なんですけど、どの登場人物に感情移入をするかで見え方が全然違ってくるんです。で、パスピエの作品もこの曲は楽しいとか、悲しいとか、人によって違っていてほしいんですね。感情の余白を残したいと常に思ってるので。そういう考え方とそのもとになった小説と両方を見比べて、リンクするところを探してほしいなと思います。

-今回はジャケット写真にも「永すぎた春」の歌詞がデザインされてるんですけど、それも言葉を大切にする作品だったからですか?

大胡田:これだけ文字を表に出すのは、そういう気持ちがあったんじゃないかと思います。私は映画も良いなとは思うんですけど、自分の想像で補われて完成する活字が好きなんです。だからパスピエの曲でもそれを味わってもらいたいなって思います。

-両A面のTrack.2「ハイパーリアリスト」というのは、またタイトルに"なんだ?"って思わせるインパクトがありますね。

大胡田:"ハイパーリアリスト"っていう言葉があるかはわからないんですけど、"ハイパー・リアリズム"っていう絵のジャンルがあるんです。この曲ではリアルを描くっていうことに焦点を当てたので、その名前をもらいました。で、パスピエもそうですけど、人ってハイパー・リアリズム的なところがあるなぁと思っていて――私はパスピエです。大胡田なつきでもあって、偽物を見せてるわけじゃないんですけど、本当は自分の生活があって――みたいな。それがハイパー・リアリズムの作品を見ているときの感覚と似ているな思って、前々から気になってたんです。

-ちょっと難しいけど、生身の人間じゃなくて偶像として見られてるような?

大胡田:あ、それが近いですね。本当の人間だったら"○○さん"って呼ばれたりするけど、大胡田なつきって呼び捨てなんですよ。なんか記号っぽいなっていう。そういうことを考えてタイトルは名付けたんです。

-歌詞の内容は過去から未来の自分への手紙のような形式ですね。

大胡田:これも活字に興味が出てたので、気づいたらこういう感じで書いてましたね。

-パスピエの歌詞はずっと大胡田さんが書いてきたと思うんですけど、今改めて活字、言葉というものに興味が向いたのはなぜですか?

大胡田:"音"は一瞬のものですけど、"文字"はずっとそこに留まるものじゃないですか。音楽はその一瞬の時間を一緒に体験するものですけど、それが文字と一緒にあるのが不思議だと思ったんです。多分、別々の違うものが合わさるのって好きなんですよ。バンドもそういう部分があると思いますし。そうやって面白いものができていくんでしょうね。

-歌詞はサウンドのイメージから膨らませて書くんですか?

成田:99%そうですね。

大胡田:この曲はサウンドというよりメロディだったりもしますけど。最近はバンドの音からイメージを膨らませて書くことが多かったです。前から書きたかったこととか、そのときに伝えたい言葉から書いていくので、あんまり必勝法みたいなのがないんです。

-必勝法がないと不安じゃないですか? こうやってやったら、ある程度書けるっていうものがある方がラクなのかなと思いますけど。

大胡田:ああ、どうなんでしょう......その必勝法を持ってたとして、それが"あ、できない"ってなったときに、どうなっちゃうんだろう?って考えるんですよ。だから、安心できないほうが安心なんです。やり方が決まっちゃうと面白くないかもしれないですね。それは曲を作るうえでも同じだと思うんですけど。

-成田さんの曲作りの必勝法はあるんですか?

成田:うーん、必勝法......思いついてから1週間、2週間経っても頭の中に残ってるフレーズは強いなって思いますよね。なので結果的にそういう曲がパスピエの中でシングルになったりすることが多いかもしれないです。

-ちなみに「ハイパーリアリスト」はファミコン時代のゲーム音楽みたいなピコピコ音がユニークですね。

成田:この曲を作ってから"ゲームとかやってたんですか?"って聞かれるんですけど、僕は全然ゲームとかやってなかったんです。

大胡田:アニメとかゲームは疎いんだよね。

成田:だからこの曲もお客さんの期待をいい意味で裏切るにはどうすればいいかっていうポイントで作ったんです。サビとイントロのメロディをリンクさせた作りになってるから、何の変哲もない音でやると、普通の曲になったんですよ。そこに違和感を持たせるためにああいうピコピコ音で始めたらいいんじゃないかなと思ったんです。