sleepy.ab「二度寝する奴ぁ三度寝る」【第17回】
2014年01月号掲載
小さい頃、祖父の家にいることが多かった。片親だったので看護師の母が病院に泊まり(準夜、深夜)なんかの時は祖父の家に預けられていた。
祖父の家は昔、成山商店という店だった。一世を風靡したとか、しないとか。何を売ってたかというと豆や切手だ。全くピンと来ない。豆か。とりあえずは何でも売っていた気がする。洗剤やシャンプーの生活用品も売ってたし、花や球根の肥料、スコップなんかも売ってた、ジュースも売ってたし、パンも売ってた、クランキーチョコだって売ってた(勝手によく食べてた)。昔の商店って何でも売ってたよなそういえば。
あと、ここから私事で誠に勝手ながら祖父って呼び方言いなれない事もあり、おじいちゃんという書き方に変えようと思います。だっておじいちゃんって書いて一旦消してから、また祖父って書き直すことのほうが多いんですもの、ごめんあそばせ。
と、ここまで話は進んでいるのだからさすがに成山商店とおじいちゃんの話と思いきや今回はなぜかお風呂にまつわるお話。知られざる成山商店のお話はまた後日。だって思い返してみてもそんなに憶えてないしこれといってネタがないんだもの。店の片隅で勝手にキン消し(キン肉マンの超人を型どった消しゴム)を売ってめっちゃ怒られたことくらいしか。段ボールで作った看板付きでラーメンマンがなんと300円!!みたいな。ね。ちなみに一個も売れなかったYo!
てなわけでやっとお風呂の話をしようと思う。おじいちゃんの家のお風呂は古くて、寒かった。石炭とかだった気がする。それもあってかおじいちゃんの家のお風呂に入るのが好きじゃなかった。
ある日いつものように、おじいちゃんとお風呂に嫌々入る。おじいちゃんと一緒に入るお風呂は例の如くめちゃくちゃ熱い。修行かってくらい熱い。そして、べたなやり取りだけどお湯を上がる前は100を数えさせられる。そしていち早くその地獄釜から出たいので走り気味に数字を一心不乱に叫ぶ。頭がぼーっとする。きっと、これはもはや軍かなんかの訓練なんだろうと思う事にしていたはずだ。1、2、3、、、24くらいまではかぞえたであろうか、、そのあたりまでの記憶しかない。そう、そのあとその火あぶり釜地獄の刑で気を失い風呂桶の中で溺れたのだ。この地獄釜事件で死にかけてトラウマになった。
ある日おじいちゃんの家のお風呂が壊れた。奇跡が起きた!と喜んだのもつかの間銭湯とかいう場所に連れて行かれた。しかしここのお湯は地獄釜ではなかった。まるで温水プールだ(盛)。なんなら泳げる。。その日からしばらく銭湯通いが続く。みなと湯という名前の銭湯だった。夢のような日々だった。いつものおでんの具になってるみたいなあれは何だったんだ。こんな毎日がずっと続けばいいのにと本気で願った。その後、また地獄釜生活に戻ったはずなんだけど不思議とその後のことはあまり憶えてない。あの楽しかった銭湯の思い出を糧に辛い事を塗り替えて乗り越えていったのであろう。偉いぞ!成山少年。
と、そこから5年後の小学校3年生の時の話だ。その頃はもう一人で留守番が出来る年頃になりおじいちゃんの家に預けられることもなくなっていた。ここでまた誠に恐縮で勝手な話なんですが35歳にもなっておじいちゃん、おじいちゃんと連発している自分が恥ずかしくなってきたので祖父という呼び方に戻させていただきます。年相応というか、ね。
話を戻そう。家では、母、妹、自分と三人暮らしだった。周りにいる親戚も祖父以外はみんな女性ばかりだった。だからなのか男としての自覚というものがいまいちかけていたように思う。小さい頃はよく女の子に間違われた。
ある日、家のお風呂が壊れた。そう、あの夢にまでみた銭湯生活が再び始まるのだ。そして三人で夢の世界、みなと湯へ。ローマ字で書くと『minatoyu』だ。特に意味は無い。またここに戻ってくる事ができるとはと感慨深い気持ちになった。その感傷に浸っていた時間は次の瞬間、突きつけられた現実の中であっけなく消えていく。くどいようだが我が家は女2人、男1人、なのだ。必要ないだろうことは承知で詳しく書こう。女湯2人、男湯1人だ。これは紛れもない現実であり、揺るぎようのない事実だ。この時だけは、なぜ母は自分を女に産んでくれなかったのかと恨んだ。(本当にこの時だけだけど)母も1人で男湯は心配なのか女湯に連れて行こうとする。確かに小学校3年生といえども見た目は身長もクラスで一番低く小学校1年生くらいにしか見えなかった。確かに一人で男湯に入るなんて難易度の高いミッションをこなすなんて無理なのは自分でもわかっていた。しかしそこは『女湯』なのだ。そこの敷居を跨いで本当に良いのだろうかという葛藤はあった。入らないという選択もあるだろう。いや、ないだろう。だってすぐには家のお風呂は直らないのだから。そうこうしているうちに寒いからと母に無理矢理引っ張っていかれた。なんて人生とは非情なんでしょう。ついにそこへ足を踏み入れてしまった。女として生きる決心もつかないままに(盛)。番頭のおじさんのようなおばさんも全く気付いていない。二重生活(性活?はさすがに卑猥だな。)を今まさに目の当たりにしているというのに。
不思議なほどすんなり流れ作業のように事なきを得た。葛藤していた自分が馬鹿みたいなほどに。案外そんなものかといったように。女湯にいる。別にいいじゃないか。男だけど一人で男湯は入れないしまして女になるわけじゃないし、怪我とかしたらあれだし。溺れたりするかもしれないしねと思うようになってきていた。
そんな女湯にいるという現実を忘れかけた10日くらい経った頃に必然的に事件は起きた。起こるべくしてそれは起こった。今考えるとなぜそれを考えなかったという自分に腹がたつ。もうここでわかった方もいるであろう。その日は母の仕事が遅くなりいつもより遅い時間に銭湯に着いた。もうすでに慣れた感じで脱衣所で服を脱ぎ自然に浴室に入る。
その時だ。あれ?この人知っている、、とその時思った。頭が真っ白になった。そう、同じクラスの女の子がその銭湯に来ていたのである。彼女の家は公営住宅で風呂が家になく毎日銭湯に来ているのであった。今まで会わなかったのことのほうが偶然だった。
小学校3年生といえ女の子を意識しはじめる時期でもある。自分にも好きな人がいるというはっきりとした自覚が芽生えた頃だった。しかも運悪く彼女はよく先生に何かにつけてすぐチクったりする感じの子だった。終わったと思った。
人生こんな早く躓くとは、と。これは完全に明日学校で血祭りになるであろうことは容易に予想できた。しかしだ、彼女はそのことを誰にも言わなかった。
その真意はわからない。真意はわからない。ただ単に言うに足らないだけだったのかもしれない。その次の日から一人で男湯に入る事を決意した。
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