sleepy.ab「二度寝する奴ぁ三度寝る」【第9回】
2013年05月号掲載
前回はgt山内の女々しさについて思う存分書かせてもらいましたところ反響が大きかったです。『山内さんのあれ見ましたよ山内さんってほんと面白いひとですよね!』とみんなが言う。こちらは彼を少しだけ貶めたつもりが彼の人気は上がるばかり。
しゃくなので1、2回彼には触れないことにしようと思う。
さて今回は好き嫌いについての話をしよう。
幼い頃食べられるものが多くなかった。野菜という野菜はほとんど食べられなかった。ポパイというアニメの影響でほうれん草だけ唯一食べられた。
しかも北海道根室市という港に生まれたにも関わらず魚介類も食べられなかった。完全なる肉食少年だった。なので学生の頃この世で一番憂鬱だったのは給食の時間だった。
給食の献立というものはすごく子供の健康のことを考えられていて栄養素がバランスよく配分されている。と同時に食べられないものも毎日のようにもれなくバランスよく配分されていた。月の終わりに配られる献立表を見てため息をついていた子供でありました。なぜこんなに給食の時間が嫌だったかというとその当時給食を残してはいけないというルールに対しての先生の気合いが今とは違ったように思える。担任の先生にもよるのだけど自分が給食に関わる9年間のほぼ全員が給食に関してはなぜか特に厳しい先生方だった。そのなかでも一番厳しかったのが小学校3、4年の担任だった。すごく奇麗でけどおっとりしたやわらかい雰囲気のある女性だった。この先生はやっぱり思ったとおりに優しくて休み時間もみんなと遊んでくれたり友達のような距離感でみんなすぐに先生のことが好きになった。平和に何日か時間が経っていったころある事件が起こった。その日の献立は酢豚だった。まずいと思った。
酢豚には椎茸、ピーマン、にんじん、タケノコなどが入った難易度が高めなボス的な献立だ。例に漏れずキノコ類も全滅。なかでも椎茸が特に苦手だった。
何とかここまでいい雰囲気なまま新学期をスタートしてきたのにと思いながらもあの先生ならもしかして優しいからきっと残すことを許してくれるのではないかと淡い期待を抱いた。給食の時間が始まりそして終わりの時間が迫ってくる。案の定、食べられなかったので先生に残していいか聞きにいく。もう少しがんばれないかと問われる。席に戻る。机の上の酢豚を目前にしてうつむく。
昼休みに入っても酢豚を下げさせてはくれなかった。
昼休みなので1人、また1人思い思いに体育館やグランドやらに遊びに向かう。
教室には先生とあと何人かの生徒がいるだけになった。
そして次第に1人、また1人教室へと戻ってくる。結局その長い昼休みの間は酢豚を見つめて過ごした。初めこそ周知の目にさらされていたものの5時間目が中頃まで進む頃には少しみんなも慣れてきたのか飽きてきたのかみんな授業に集中していく。そしてここから急に切なくなりだす。食べられない事には変わりはない。そして食べれない理由や嫌いな理由が絶対にあるという確信のもと食べる事を拒んだ。しかしこの時間は永遠に続く。もうどちらも引くに引けないところまできてしまっている。まして今更食べようとスプーンに手をやったところで一瞬にして冷やかしの視線はこちらにむけられるであろう。この作られた緊張感の中食べたところで授業に簡単に戻ることは多分無理だろう。食べられない意味がもう違ってきているのです。
その葛藤をこの永遠と思われる時間の中でただ繰り返す。そして遂にその時が来た。一斉に机と椅子が教室の後ろに下げられる。掃除の時間だ。
心が折れる。ゴミが舞うこの教室の中。泣いて終了。
そこにはもうあの優しかった先生の顔はなかった。あくまで給食の時間のときだったけれど。女の人は怖い。彼女は完全なるデレツンだ。
このように毎回椎茸が出る度に泣いた。しかも椎茸というのはこれでもかというくらいよく出た。よく泣く子であった。小学生の頃は365日あったら300日は泣いていた。教科書をみんなの前で読めと言われれば泣き、ちょっかいかけて反撃されては泣き、斜め横断した事を女子にチクられては泣き、図工の凧が作れないと泣いていた。そんなよく泣く子であった。
今ではすっかり食べられる物が増えている。魚も実家を出てから食べれるようになった。実にもったいない。今は大好きな蟹やら牡蠣やらさんまやら雲丹やらを全部妹に譲って生きてきた事が悔やまれる。
今食べれない物といえば椎茸とキュウリくらいと人並みのレベルまで来た。
しかし先日椎茸を食べてみるというタイミングがやってきて口にした時のことだ。割とすんなり食べれてしまった。決して好きではない。けど食べれてしまった。これはすごくショックだった。かなり動揺したし悲しかった。
これは間違った見解なのはわかっているので重々承知で聞いてほしい。
椎茸を食べれたとき何故こんなに落ち込んだかというと今までこだわってきた時間がなんだったのかというのと同時に麻痺してきていると思った。
あんなに敏感に働いていたセンサーが反応しなくなったと。
大人の階段を登ってしまったと。そしてこれは老いであると。
誤解がないように言うなら好き嫌いがない人が鈍感なんだと言ってるわけじゃないんです。好きな物が多い方がいいに決まってますし。
ただこちらが変わってるのだということが前提にあるんですが。。
それからというものしばらくはぽっかりと穴があいたかのようでした。
今まで体に入る事がなかった椎茸にしかない栄養素が蓄えられているんだなと思うと誇らしい部分はあった。人より大幅に椎茸とキュウリのな何らかが欠落した人間だと劣等感を持っていたので少しは楽になったというか、ましになったというか。しかしそれを引き換えにしてもその敏感なセンサーをなくす事は怖いなと考えてしまいます。食べ物の好き嫌いに限らず好き嫌いというものは良かれ悪かれその人を形成する一つの要素でもあるから。正しいか悪いかという判断と別に好きか嫌いかという判断も同じくらい大切にしていきたいということです。
*今編集部に送ろうと読み直しましたが、俺は一体何を書いてるんだろう。。
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