DISC REVIEW
サ
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ジラフポット
Breathe and breathe again
バンド・サウンドといっても様々なジャンルがあるが、ジラフポットというバンドもまたひと言でいい表すのは難しい。ギター・ロックというにはハードでエモーショナルだし、パンクというにはメランコリック。多数の顔を持ちながらもどの表情も等しく輝くという確固たる個性に翻弄されてばかりだ。このアルバムの制作はロックなアルバムを作りたいという発想からスタートしているゆえ、端々に彼らのルーツが。すべての音が溢れだすように爆発していた1stミニ・アルバムに比べると音に凹凸や緩急があり、そこから浮き上がる陰影が感情の機微とリンクして鮮やかだ。ライヴ向きのアッパー・チューンから弾き語りスタートのソウルフルなミディアム・ナンバーまで、多彩な楽曲群すべてに豊潤なコーラス・ワークが映える。
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ジラフポット
Last Man Standing
昨夏、新木場STUDIO COASTにて開催されたandropとFear, and Loathing in Las Vegasの2マン・ライヴで、オープニング・アクトを務めるなど大活躍を見せた関西発の3ピース、ジラフポット。3月に東阪で行われるワンマン・ライヴもソールド・アウトと、勢い止まぬ彼らの最新EPには、中野大輔(Gt/Vo)の痛烈な叫び声で始まる「Black designer」から、美しいファルセットが印象的なバラード・ナンバー「ラストソング」まで、変幻自在な4曲を収録。数々のライヴ経験が生きたのであろう、これまで以上にグルーヴ感が増し、前作『Hydro human』でもみせた抜群のメロディ・センスも健在。彼らの未来を期待させる、逞しくも儚い珠玉の4曲をご堪能あれ。
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ジラフポット
Hydro human
2009年に大阪で結成された3ピースバンドの1stミニ・アルバム。KANA-BOONやコンテンポラリーな生活、オトワラシと共に"ゆとり"という名のイベントを行っていたようだが、このイベント名は世代感を象徴したものなのだろうか。だとしたら、このアルバム全体にたぎっている激情は、世代の叫びか。急展開するグルーヴ感の強い曲構成、ドラマティックなメロディと艶のあるヴォーカル、そのすべてがとにかく繊細でエモーショナル。Track.1「HECTOR-G」の"やってーらんねーな"という叫びに象徴される、怒りと苛立ちと後悔を投げやりにぶちまける荒くれっぷりと、Track.3「明日のない花はない」のような、聴き手に優しく手を差し伸べるスケール感の大きなメッセージ性の対比が面白い。この激情の果てにどこに行き着くのか、気になる。
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じん
アレゴリーズ
創作家の、あるいはこの時代を生きる人間の生々しい叫び声が聞こえるような作品になった。"アレゴリーズ"=寓話集というタイトルを名付けた、マルチ・クリエイター じんによる初の全曲歌唱アルバムだ。死にたいと生きたいの狭間を行き来するような「消えろ」をはじめ、圧倒的な情報量の多さで駆け抜ける狂騒的なロック・ナンバー「ZIGI」、アレンジャーにeijun(菅波栄純/THE BACK HORN/Gt)を迎えたエキゾチックなフォークトロニカ「VANGUARD」など、1曲ごとに別世界を旅していくような本編全9曲。自身の半生を綴った「後日譚」に象徴されるように、文筆家であり、音楽家でもあるという出自ならではの研ぎ澄まされた言葉たちは、まだ誰も表現していない何かを探し求めている。
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すぃすぃず
アゲアシトリ
すぃすぃず、不思議な名前を背負う4人組による初の全国流通盤『アゲアシトリ』。まず、斉藤騎一(Vo/Gt)の不思議な歌声と独特のメロディに耳を奪われる、どうしても奪われてしまうのだが、そこで歌われる言葉に耳を貸してみて欲しい。とにかくストーリーテリングな歌詞が印象的なTrack.3「手紙」にはっとさせられるはずだ。構築されるストーリーの奥深さと綴られる言葉の美しさが両立し、それにストレンジ且つポップなメロディが絡み合う。続く表題曲「アゲアシトリ」はメロウなミドル・テンポのナンバー。ここではしりとりを取り入れつつ一遍の物語が綴られる、この器用さにはもうお手上げだ。どこか飄々としたところを感じさせるが、確かなロックンロールの微熱を帯びた作品。
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水中スピカ
Lux
タッピングしながらポップ且つ美麗なメロディを紡いでいくギター・ヴォーカル 千愛を擁する、京都発の男女混成4人組バンドによる3rdアルバム。かねてよりポストロック/マス・ロックを基調とした透明感のある楽曲を送り出してきていたが、シューゲイザー要素のある「iki」や、凄まじい生命力が漲る「恐竜も人間も飲む水は同じ」、アグレッシヴな音を走らせる「MIYAKO」、そして深遠なインスト・ナンバー「Fathom」から繋がっていく7分超えの大作「Spica」等、全8曲を収録。新たな表情を垣間見せながらも、水中スピカの軸であり、信念は全く揺らぐことなく存在していて、圧倒的なまでの進化を感じさせる。間違いなく多くの支持者を獲得する大傑作だ。
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詩羽
うたうように、ほがらかに
水曜日のカンパネラの2代目主演/歌唱担当 詩羽がソロ名義で初のアルバムをリリース。水カンとは一味違う、詩羽の感情がギュッと濃縮された本作は、毒々しさとキュートさが混同する色とりどりなポップネスが全8曲それぞれで発揮される。自身が手掛けたという歌詞では、皮肉めいた独特なフレーズをちりばめたり、画一的な解釈を避けるように表現の幅を利かせたりと、アップテンポで明るいサウンドとは対象的に、白黒付けたがる世の中への疑問が潜む。ソロ・プロジェクト始動の意思と呼応する力強さや、丸みを帯びた優しさが聴こえる自己紹介的アルバムでありながら、要所に仕込まれたポップ且つロックな淡い毒にハッとさせられる1枚。
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水曜日のカンパネラ
ガラパゴス
2017年デジタル・リリースされた「メロス」、「ピカソ」の2曲に加え、コムアイも出演している映画"猫は抱くもの"の劇中歌「キイロのうた」を含む新曲6曲の計8曲を収録したニューEP。ケンモチヒデフミが作り上げるエキゾチックでトリッキーなトラックと、変幻自在でエキセントリックなコムアイの歌声が織り成す唯一無二の水カンの音楽は、ますます表現の幅を広げ、聴けば聴くほどにその音世界に呑み込まれていくような感覚に陥る。ミックス・エンジニアのzAkによる、タイト且つ奥行きのあるミックスも見事だ。「マトリョーシカ」ではフランスのポップ・バンド、MOODOÏDとコラボ。輪廻転生の思想をいくつもの層になっているマトリョーシカで表現し、さらに般若心経を歌詞に取り入れてしまうという発想に驚かされる。
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水曜日のカンパネラ
UMA
これまでもコムアイという演者が立つ舞台の"脚本"としてのエレクトロ・ハウスをケンモチヒデフミがクリエイトしてきた"水カン"だが、メジャー・デビュー作がこんなにドープで大丈夫なのか?と一瞬たじろぐ。踊れるのは「チュパカブラ」ぐらいなのでは、と。"未確認動物"を意味するアルバム・タイトルどおり、収録曲は「ユニコ」、「バク」、「フェニックス」だったりするのだが、ケンモチお得意のオリエンタリズムとも仏教調とも言える世界観が、これまで以上に物語や心情から凄まじい飛距離のリリックで綴られ、こんな"書き割り"に立てるのはやはりコムアイしかいないのだ。作曲にドイツのテクノ・ユニット BRANDT BRAUER FRICKやFLYING LOTUS主宰レーベル"Brainfeeder"所属のMATTHEWDAVIDを迎え、制作。視野はもはや世界!
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水曜日のカンパネラ
トライアスロン
彼女の名前を聞いたことある人は多いのではないだろうか。きゃりーぱみゅぱみゅがTwitterで呟いたことによってその範囲はますます拡大したはず。しかしその興味は名前だけで止まっていないだろうか? バンド? ソロ・プロジェクト? なんかゆるい女の子が歌ってるんだよね?......と言った具合だろうか。テクノ、ハウス、ヒップホップをひと口で飲み込んだヴォーカル、コムアイのゆるふわヴォイスが耳から離れなくなるこの音楽ユニット。今作では、以前から親交があったというオオルタイチとOBKR(from N.O.R.K.)を迎えてこれまで以上にハウス・ミュージック色が強くなっているが、1度聴いたら頭の中でエンドレス・リピートされてしまうようなポップな一面も健在。この不思議な魅力がクセになる。
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スカイピース
Grateful For
4月に初の武道館ワンマンを成功に収めたスカイピースによる約2年ぶりのアルバム。YouTube登録者数だけでなく、ライヴの現場の集客も増やした彼らの新作は"感謝"をタイトルに掲げた表題曲から、とことん聴き手へのメッセージに溢れている。また、音楽的には☆イニ☆(じん)が影響を受けたというFUNKY MONKEY BABYSに通ずる、ラップを織り交ぜた彼ららしいポップなナンバーはもちろん、音数を絞ったチルでスタイリッシュなヒップホップや、ピコピコサウンド、オートチューンを使用したスペーシーな曲など、"中高生に人気のYouTuberユニット"と聞いただけではイメージできないほど実に幅広い。ファンを飽きさせない、且つ新たなリスナーを獲得していくパワーのあるエンターテイナーぶりが窺える。
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スカート
駆ける/標識の影・鉄塔の影
今年で活動10年目を迎える、澤部 渡によるソロ・プロジェクト、スカートの両A面シングル。サッポロビール"第96回箱根駅伝用オリジナルCM"テーマ・ソング「駆ける」と、テレビ東京系ドラマ25"絶メシロード"主題歌として書き下ろされた「標識の影・鉄塔の影」というダブル・タイアップ作品であるが、そんな事情を知らずとも思わず聴き入ってしまう求心力を確かに感じられる。「駆ける」のシンプルな構成だからこそ際立つサウンドのメリハリと展開の美しさ、サビへ流れる"泣きのメロディ"の巧みさもさることながら、コンパクトでかわいらしい印象の「標識の影・鉄塔の影」の歌詞に輝く、慈しみ深い情景描写には目を見張る。2曲それぞれに聴く者の日常に可憐な花を添えるような、静かなドラマチックさが満ちている。
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スカートの中
ちこたん
ミニにタコが……失礼しました。なんともユニークというか恐ろしいというか良い意味でイタい新鋭が現れた。高校の軽音楽部で結成された、まだまだ花も恥じらう(で、あってほしい)19~20歳の女子4人組、スカートの中。もう1回言うが、“スカートの中”、だ。このネーミング・センスに象徴されるが、下ネタありシュールな笑いあり情緒不安定で欲求不満な愉快痛快妄想ワールド全開の世界観が。まるであふりらんぽとつしまみれと日本マドンナのミクスチャー。その中は美しき秘密の花園ではなく、血塗れの情念が渦巻いているのだ。初の全国流通音源となる本作のタイトルが『ちこたん』って、あのメタファーでOK?ガールズ・バンド→“けいおん”っぽいね→あずにゃんペロペロ……なんて言ってる場合じゃねえよ男子。
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KID ASTRAY
Home Before The Dark
最先端且つ良質なインディー・ミュージックを発信し続けるレーベル"FLAKE SOUNDS"が放つ、ノルウェーはオスロ出身の男女混合6人組KID ASTRAYの待望の1stフル・アルバムにして日本上陸盤。北欧産インディー・ポップ好きならまず間違いない1枚。肝心な中身はというと、耳馴染みの良いヴォーカルと丁寧に折り重なるシンセとギター、タテにもヨコにもノれる軽快なリズム・セクションという地に足の着いたポップ・ソングが立ち並ぶ。このバンドは何より、オーガニックなギター・ポップの質感と洗練されたシンセ・ポップ的な響きが共存しているのが面白い。やはり特筆すべきは北欧マナーな男女ツイン・ヴォーカルを聴かせるアーバン・ディスコ風のTrack.2だろう。この完成度で全員20歳そこそこなのだから今後の活躍が大いに期待できる。
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スガシカオ
FUNKASTiC
今年デビュー13周年を迎えるスガシカオ9枚目となるアルバムはタイトル通りファンク・ミュージックに焦点が当てられたとても刺激的で新鮮な作品だ。デビュー以来リリースしたすべてのアルバムがTOP 10にランクインするという男性ソロ・アーティストとしては歴代1位の記録を持つアーティストがこんなに瑞々しい作品をリリースする事自体凄いことだし、常に新たな挑戦を続けているということでもあるのだろう。もちろんそんな話抜きにこのアルバムは素晴らしい。「ファンク」というキーワードから紡ぎ出される12の楽曲はバラエティに富んでいながらどれもスガシカオの世界にしっくりと収まっている。今まで距離を置いていた方にもぜひ聴いてもらいたい。
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スキッツォイドマン
必殺!地獄逝き!!
関西を拠点に活動、2016年にバンド・コンテスト"エマージェンザ大阪大会"で優勝してドイツの"Taubertal Festival"に出演、東京・大阪で初のワンマン・ライヴを行うなど、知名度を上げている3人組"地獄スーパーバンド"の1stミニ・アルバム。表題曲「必殺!地獄逝き!!」を聴いてみると、その不気味な風貌からはちょっと想像がつかない洒落たコード・ワークとジャジーなアンサンブルが流れてきて意表を突かれる。かと思えば「地獄はどっちだ」ではラップ/ヒップホップ、ファンクと目まぐるしく変化する。疾走感のある「ビーバップ!I wanna be your 心霊現象」、ポップなメロディが鮮烈な「赤い地獄」など、卓越した演奏による聴きどころが多い。それにしてもタイトルがいちいち良い。"猛烈!?死に装束を脱がさないで"って。
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空きっ腹に酒
粋る
これまでの空きっ腹に酒の延長上にしっかりとありながら、どう聴いても一線を画すレベルでクオリティを上げていて、完全にしてやられた。まず、どの曲もとにかくリフのインパクトが強烈すぎる。繰り出される音はどれもがオリジナリティの塊だし、奇想天外なフレーズの数々は未知との遭遇的体験。しっとりムーディに奏でられる「雨」、ホーン・アレンジを前面に押し出した「グル」などは新境地と言えるだろう。しかし特筆すべきはサウンドだけではない。生きにくい世の中に対する嘆きを鋭いリリックで垂れ流しながらも、それをイキりながらあくまで自らがクールだと思う音楽として提示する。そういう彼らのスタンスが、最高に刺激的でかっこいいのだ。結成10周年を迎え、6枚目のフル・アルバムにして、言いたいことも鳴らしたい音楽もまだまだ底が見えない。
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空きっ腹に酒
しあわせ
彼らが作風を意図的に大きくシフトすることはないが、1年前のシンディ(Ba)加入を機に、作り出す音楽のアップデートと表現の幅の拡張ぶりは顕著となっている。今作では楽器隊もラップもバチバチにせめぎ合い、個々のサウンドが冴え渡ることで生まれる強力なグルーヴを筆頭に、空きっ腹に酒の得意技が炸裂。さらに、パンキッシュなサビ&超王道のギター・ソロが遊び心全開な「青にかまけて」や、レゲエの要素を自己流に落とし込んだ「トラッシュ」など変化球も飛び出してくるからたまらない。歌う内容に合わせて表情を変える田中幸輝(Vo)のフロウも、楽曲をよりユーモラス且つ説得力のあるものに仕上げるのに大いに加担。前作からたった4ヶ月でこんなに濃厚なフル・アルバムを完成させてしまう、その底知れない表現欲に今後も期待せずにはいられない。
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空きっ腹に酒
愛と哲学
空きっ腹に酒の4thフル・アルバムに収録されているのは、2014年9月から2015年6月にかけて行われた10ヶ月連続企画"10カウント"にて、毎月1曲ずつ披露された新曲10曲。キレキレのカッティングで初っ端から脳内をブチ抜く「BOOOOM」では、"薄っぺらいブームなんかくそくらえ"とでも言うように、田中幸輝(Vo)による鋭いリリックが駆け抜ける。マシンガンのようにぶっ放された言葉たちは遊び心も満載で、今作でも衝動的なサウンドとシニカルな視点は健在。かと思えば、「愛されたいピーポー」や「in my room」、「スマイル」などで垣間見えるセンチメンタルな一面も。6月に正式加入したシンディによるベースの音色も空きっ腹サウンドにドンピシャで、"新生 空きっ腹に酒"の活躍に期待が高まるばかりだ。
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空きっ腹に酒
踊れ細胞
ここ最近盛り上がりを見せている関西のバンド・シーンの中でも抜群の存在感を示す4人組、空きっ腹に酒の3rdアルバム。初っぱなからファンキーなミクスチャー・サウンドをぶっ放し、ちょっとハズした田中幸輝(Vo)のハイセンスな日本語ラップが駆け抜ける。なんだ、この中毒性は。RED HOT CHILI PEPPERSからの影響を感じるリズミカルなグルーヴに耳を傾けていると、聴こえてきたのは"グーチョキパーで何つくる?""Power To The People"など聴き馴染みのあるフレーズの数々。そんな誰もが知っているあの楽曲をあっという間に自分たちのものにしてしまうなんて、そんじょそこらのバンドにはできることじゃない。とにかく何度でもリピートして、踊れ細胞。
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鈴
ベランダのその先へ
現役大学生シンガー・ソングライター、鈴。まずは、そのヴォーカルに圧倒される。ハイトーンの女性シンガーが多い中では、ひと際目立つだろう張りのあるアルトの音域が力強い。ちょっと哀愁も混じったブルージーな歌声は、年を重ねていったらさらに貫禄ある深みを増しそうで、この先も楽しみだ。この声で、ちょっとした恨み節を歌われるとゾクッとするような情念が耳に纏わり、でも天邪鬼な女心や切ない想いを歌うとナイーヴなかわいらしさが滲み出る。20代前半の(ちょっぴり内気な女の子の)等身大の思い、悩みや葛藤を素直に描いた歌を、アコースティック・ギターの弾き語りや、鈴バンドによるワイルドなロックンロール・サウンドにぶつける鮮烈な1stアルバムの完成だ。
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鈴木みのり
BROKEN IDENTITY
"生きて生きて 生き尽くせ"――そう歌う鈴木みのりの力強い歌唱が、再生ボタンを押した瞬間に耳へ飛び込んでくる。TVアニメ"勇者、辞めます"OPテーマに起用された6thシングル表題曲「BROKEN IDENTITY」だ。前作『サイハテ』でロックな新境地を見せた彼女が、さらにロック色を濃くして打ち出した本楽曲。ツーバス仕様の強靭なロック・サウンドにゴージャスなストリングス、それらに負けない鈴木みのりの抜群の歌唱力には舌を巻いた。カップリングには、ボカロP すりぃが提供した官能的で刺激的な「リップ」と、80年代風のサウンド・アレンジを得意とする無果汁団による「ときめきの時空と林檎」を収録。どれもがリード曲になり得るポテンシャルと個性を秘めた、カラフルな1枚に仕上がった。
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鈴木みのり
サイハテ
TVアニメ"マクロスΔ"のフレイア・ヴィオン役で声優としての活動をスタートし、同作内ユニット"ワルキューレ"ではエース・ヴォーカルとして活躍中の声優/シンガー 鈴木みのりの5thシングル。TVアニメ"海賊王女"エンディング・テーマの表題曲「サイハテ」は、これまでポップスを中心的に歌ってきた彼女にとって新機軸となるシリアスなロック・ナンバーだ。原作の世界観にフィットした歌詞ながらも、実はアニメのために書き下ろした曲ではないというあたりに、何か運命的なものを感じさせる。カップリングは、鈴木みのりが初めて作曲にも携わった「リナリア」。明るく活発な彼女のイメージをいい意味で壊す切ない失恋ソングは、新たな女性ファンを獲得するきっかけになりそうな予感を抱かせる。
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須田景凪
Billow
2019年のメジャー・デビュー以降初のフル・アルバム。収録曲数15曲というボリュームに活動の充実ぶりが表れているほか、サビとそれ以外で音像を大胆に変える「Vanilla」、ジャズ由来のアプローチがアクセントとなる「刹那の渦」、ドープな「メメント」や「風の姿」......と、クリエイティヴィティの光る曲が揃っている。メジャー・デビュー以降の須田は、タイアップ曲も多数手掛け、他者と交わることでどんどん開けていった。その一方で深く潜る=振り切ったサウンドを鳴らすことにも、思い切り挑戦できるようになったのだろう。平衡感覚を失った心地にさせられる不思議で仄暗いサウンドは、正しくいられずとも懸命に生きる者を肯定するかのよう。ヴォーカルの独特な膨らみも際立たせる。
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須田景凪
teeter
「シャルル」で一世を風靡したボカロP"バルーン"が、須田景凪としてunBORDEより1st EP『teeter』をリリースする。ダンロップのプロモーション・アニメ動画"ROAD TO YOU ~星降る丘の約束~"の主題歌に起用された「レソロジカ」、YouTubeで先行公開され100万回再生を突破し話題の「Dolly」、切ないバラード「浮花」など全6曲を収録。中毒性のある計算し尽くされたメロディは何度も聴きたくなるし、危なげな歌詞も一言一句聴き逃したくない。そのソングライティングのセンスが抜群なのはもちろんのこと、楽曲の魅力を引き立たせる歌声の存在感が際立つ1枚。才能溢れる須田景凪が、これからの日本のポップ・ミュージック・シーンに新しい風を吹かせるに違いない。
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ストレイテナー
Braver
昨年10月より、バンド結成20周年/メジャー・デビュー15周年のアニバーサリー・イヤーとして、リリースやツアーなど様々な形で精力的に発信してきたストレイテナー。そんな彼らが、7月より放送開始したTVアニメ"アンゴルモア元寇合戦記"のOPテーマを書き下ろした。その名も"Braver"。大陸の覇者であるモンゴル帝国の襲来に立ち向かう、対馬の兵士を描いた物語に相応しく、前向きで力強いナンバーだ。エモーショナルなピアノの旋律からは、根底にある悲哀や乗り越えてきた涙が見えるし、ズシリとくるリズム・パートは歩みを止めない勇気、あるいは命の音か。ホリエアツシ(Vo/Gt/Pf)が長崎出身ということもあり、同作と自身のバンドとしての闘いを重ね合わせた、その絶妙な化学反応が深い世界観を示している。
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ストレイテナー
Future Soundtrack
結成20周年、メジャー・デビュー15周年、現在の4人になって10年。閉塞感や同調圧力に押しつぶされそうな現在に、ニヒリズムの欠片もなく、人間の心根にある愛を呼び覚ますような作品を完成させたことに感謝したい。序盤、スローなBPMと選び抜かれた少ない音数の「Future Dance」、歌詞の符割りやビートにダブステップからのリファレンスを感じる「タイムリープ」などで新鮮なリズムへのアプローチを実感。暖かくて身近な恋愛や、他者への感情が瑞々しい「Boy Friend」、秦 基博との共作「灯り」や「もうすぐきみの名前を呼ぶ」の心洗われる響きも、今の彼らだからリラックスして表現できる内容なのかもしれない。キャリアを重ねるほど音楽的な自由を獲得し柔軟になる。日本のバンドが切り拓く新境地。
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V.A.
PAUSE~STRAIGHTENER Tribute Album~
すでにiTunesチャート1位を獲得するなど、各所で高い評価を得ている本作。ASIANKUNG-FU GENERATION、ACIDMAN、THE BACK HORN、MONOEYESら、同世代で約20年をともに戦い抜いてきたバンドはオリジナルに近いアレンジで消化。また後輩であるgo!go!vanillasは定番曲「KILLER TUNE」をカントリー&ロカなニュアンスでガラッと変貌させ、原曲の持つ色気をヴォーカルの牧 達弥が表現しているのが頼もしいし、My Hair is Badもこれまた定番曲「REMINDER」のBPMを高速化し、Aメロの歌詞に椎木知仁(Gt/Vo)お得意の吐き出すような言葉の弾丸を歌詞として追加し、成立させているのも見事。テナーのファンであるほど、参加者の愛情を感じられる素晴らしい解釈の集合体だ。
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ストレイテナー
COLD DISC
結成18年目を迎えるストレイテナー、シングル4曲を含めた9枚目。アコースティック・アルバム、ベスト盤を経た前作『Behind The Scene』を踏まえ、辿り着いた今作は、"どんなアプローチでも自分の音楽になる"という自負を携えた、闇や悩みのない快活な曲が揃った。「原色」、「シーグラス」の冒頭2曲に代表される"ホリエ印"とも言える地底から突き上げるようなメロディには、現体制になって初のアルバムである『NEXUS』(2009年リリース)を思わせる全方位に向けた強度がある。一方で現代ディスコ・サウンドのフォーマットに則った「Alternative Dancer」や、ラストの「覚星」ではチルウェイヴ/ドリーム・ポップへの視座を見せるなど、新たな一面も十分だが、すべて日本のロック・バンドとして耐久性のあるサウンドへ帰着させている点が頼もしい。
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ストレイテナー
Behind The Scene
幕開きから新たなフェイズに思いっきり覚醒させられる。"悲しくも美しい世界"から"クソったれ新世界"(「Asshole New World」)の中をタフに生きる今のストレイテナーの狼煙が上がる。そして高いスキルとアンサンブルを高め、研ぎ澄ませながらも難解さを纏わないのはこのバンドの意志とも受け取れる。パッと聴き90年代から続くオルタナティヴ・バンドのベーシックなコード感やアレンジでありながら、そこここに未来を感じさせる高等戦術こそがストレイテナーの本懐なのだろう。「The World Record」など序盤で疾走し、架空の都市にワープするような曲群を経て、ホリエアツシのメロディのイマジネーションが際立つ「翌る日のピエロ」など聴き手の深いところへ降りてゆく楽曲まで。豊富になった語彙が紡ぐSF的な世界観にも注目。
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V.A.
NANO-MUGEN COMPILATION 2014
このコンピの充実度は毎年計り知れないが、今回はASIANKUNG-FU GENERATIONの新曲「スタンダード」を聴くだけでも相当、価値ある1枚。ゴッチ自身が"これは先の都知事選についての歌"と明言しているが、何も変わらないと諦めたら非難の対象と同化してしまう。愚直なまでに続けること、そしてバンドのイメージを引き受けるとはどういうことか?まで応えた1曲だ。文字数の半分をAKG新曲に費やしてしまったが、今年はユニコーンやスカパラなどベテランから、KANA-BOON、グッドモーニングアメリカら新鋭、くるりやストレイテナーらAKG同世代まで縦横無尽な出演者が揃うわけで、このコンピも自ずとその厚みや充実感を体感できる。お得感で言えばくるりの未音源化楽曲や、ストレイテナーの新曲収録も嬉しい。
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ストレイテナー
ETERNAL ROCK BAND -21st CENTURY ROCK BAND TOUR 2013-
2013年にメジャー・デビュー10周年を記念して開催された47都道府県ツアー"21st CENTURY ROCK BAND TOUR"のライヴ&ドキュメンタリーDVD。メンバーが撮影した映像も多く含まれ、約7ヶ月に渡る全52公演の様子が2枚のディスクで堪能できる。ライヴ映像だけでなく楽屋やその土地土地での観光の様子、ツアーの合間に行われたMV撮影の様子なども収録しており、見ている側もバンドのクルーになり共に旅をしているような感覚だ。セミ・ファイナル新木場STUDIO COASTでの選りすぐりのライヴ映像は、熟練した硬派なパフォーマンスに魅了される。日本全国どの箇所でも4人を迎えたのは、満面の笑みのファンたち。バンドが強く愛され続けていることを再確認した。
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ストレイテナー
Resplendent
デビュー10周年の全都道府県ツアーを折り返したストレイテナーから届いた新しい作品には、タイトルが意味する"輝き、まばゆさ"を、2013年の今、解釈した音像やテーマが溢れている。ギター・リフとベース・ラインがチェイスするイントロが、旅の最中にいるような「シンデレラソング」。未だ真夏の季節にあって厳冬の風に向かうような音像が彼ららしい。他にもテナー節炸裂なアンサンブルに、間接的な表現だが、まだ何も解決していない3.11以降の現実をなきものにしようとする風潮への怒りが滲む「SCARLET STARLET」、ホリエのトーキング・スタイルのヴォーカルや日向のスラップも新しい骨組みで構築され、架空の民族のトライヴァル・ミュージックを想起させる「BLACK DYED」など全5曲。タフに目を開けて空想するテナーの新境地。
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ストレイテナー
SOFT
ストレイテナー初となるアコースティック・アルバム。2012年3月に行ったライヴ・レコーディング楽曲に加え、スタジオ録音の楽曲を収録している。テナーをずっと聴き続けてきたコアなファンはもちろん、そうではないライトなリスナーにも聴きやすいシンプルなアレンジに仕上がっている。アコースティックになって更に際立つのはやはり透き通って伸びやかなホリエアツシの歌声だ。わざわざ素晴らしい彼の声については特記しなくてもとも思うのだが、やっぱり聴いてしまったら書かずにはいられない。リリース順に並べられた楽曲。最前線で活動し続けてきたバンドだからこそのライヴ・レコーディングとは思えないほどのクオリティ。デビュー10周年を目前にして築き上げられた、もう1つのテナーの歴史を楽しんでほしい。
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スピッツ
とげまる
これこそまさにオールA のポップ・ソング集。3 年ぶりに届けられた13 枚目となる今作は、今までの彼らの作品の中でも特に色彩豊かなものとなった。青いメロディと卓越したバンド・アンサンブルが魅力な「ビギナー」、スピッツ的シューゲイザーで美しいサイケデリアを展開する「新月」、小刻みなギターが心地よいハネ感を生んでいるカントリー調の「花の写真」などと様々な曲が並ぶが、草野正宗の伸びのあるヴォーカルが全曲に芯を通してアルバム全体に統一感をだしている。またひとつひとつの曲がその曲独自の音像を作り上げる彼らの裁量には脱帽。本当に、スピッツはぶれない。来年で20 周年を迎えるが、時流に翻弄されることなく、才能とスタンスの絶妙なバランスで彼らはいまだに誰の手も届かないところにいる。
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スピラ・スピカ
Re:RISE -e.p.-
"機動戦士ガンダム"放送開始から40周年という節目の2019年に、スピラ・スピカがファンだけでなく、ガンダム・フリークをも唸らせるシングルをリリース。ガンダム最新作のOPテーマ「リライズ」は、バンド名に込められている"誰かの希望になりたい、背中を押したい"という思いが表れた1曲に。アニメにリンクした歌詞と、幹葉(Vo)の明るくも繊細な歌声に注目だ。さらに、ガンダム・シリーズのカバー曲2曲も収録。特に「STAND UP TO THE VICTORY ~トゥ・ザ・ヴィクトリー~」は、原曲の良さを残しつつ、間奏など要所を現代風のサウンドへアップデートさせ、爽やかで青春感溢れる楽曲へと変化。今までもガンダムにゆかりがあった、彼女たちだからこそできた大胆なアレンジだ。
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スピラ・スピカ
恋はミラクル
ピュア・ポップ・ロック・バンド、スピラ・スピカがTVアニメ"みだらな青ちゃんは勉強ができない"のエンディング・テーマを表題に据えた3rdシングルをリリースした。表題曲「恋はミラクル」は、弾けるような清涼感が溢れるギター・ポップ・ナンバー。純愛ラブコメの世界観に寄り添い、甘酸っぱい初恋の気持ちを綴った歌詞もかわいらしい。カップリングの「ハピパピ」は、キラキラとしたシンセのサウンドが効いたまさに"ハッピー"なエレクトロ・チューン。サビの"スピハピラ・スピパピカ"は、つい一緒に歌って踊りたくなってしまうようなフレーズだ。また、元気いっぱいの雰囲気から一転して、大切な人に向けたバラード曲「君に伝えたいことがあるんだ」で見せる優しくまっすぐな幹葉の歌声も魅力的。
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スピラ・スピカ
小さな勇気
TVアニメ"ガンダムビルドダイバーズ"EDテーマで華々しくメジャー・デビューしたピュア・ポップ・ロック・バンド、スピラ・スピカから2ndシングルが到着した。表題曲はこの季節にぴったりの、新たな世界へ一歩を踏み出す瞬間の希望と寂しさを併せ持つ1曲。アップテンポで爽やかでありながら、実はバンドの危機も乗り越えてきた3人だからこその、確かな説得力を持った応援歌となった。c/wにはインディーズ時代の人気曲をリライトした、パワフルでライヴでも映えそうな「星降る夜に」、自身初のラヴ・ソング「桜が咲く頃」を収録。幹葉の緩急をつけた伸びやかなヴォーカルには揺るぎなさも生まれ、単なるキラキラ・ポップで終わらせない、これまでの道のりで得てきたバンドとしての厚みも見せる1枚だ。
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スピラ・スピカ
スタートダッシュ
スピラ・スピカ(ex-スノーマン)のメジャー・デビュー・シングルは、TVアニメ"ガンダムビルドダイバーズ"後期EDテーマである「スタートダッシュ」を皮切りに、色とりどりの3曲が詰め込まれた。表題曲では、幹葉が高橋久美子(ex-チャットモンチー)と共作し、アニメと自分たちを重ね合わせて書き上げた歌詞が矢継ぎ早に飛び出す。これからスピードを上げて走り出す彼らにぴったりな、ポップで強いキラー・チューンだ。さらに、1週間を歌う歌詞を爽やかなピアノが輝かせる「想い描いたら」、老若男女が楽しめるじゃんけんをテーマにしながらも、演奏にはロック魂が光る「じゃんけんキング」も収録。まさにバンド名の如く、聴く人の心に希望の星をきらめかせる存在となる可能性を秘めた1枚だ。
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スピラ・スピカ
雪と星と僕ら
2016年には"MASH A&R"のオーディションでファイナリストに選出され、関西で名を広げていた3ピース・バンド"スノーマン"が今年1月"スピラ・スピカ"に改名。そして今回初の全国流通盤をリリースする。収録曲は、新曲「僕らなら」+自主制作時代からの楽曲という内容になっているが、転調を巧みに用いながら始まりや転機について歌った歌を冒頭に連続させているのは再スタートの意味を込めてのことだろうか。ヴォーカルのまっすぐな声質が生かされている曲も多く、クスリと笑えるユーモアの効いた曲も。フル・アルバムのボリュームを活用しながら様々なジャンルに挑戦しているが、サウンドの厚さが増せばもっと聴き応えが出てきそうな予感。そのあたりは今後の作品に期待したい。
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