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DISC REVIEW

東京ポルノ

さめざめ

東京ポルノ

東京で生きる様々な女性のドキュメンタリーをコンセプトにした6曲入りミニ・アルバム。笛田さおりもインタビューで語ったとおり、彼女や彼女の周りの女性たちのリアリティが綴られており、歌詞、楽曲、ヴォーカル、それぞれの面でこれまでにやってこなかったことにも多々挑戦している。"女の子が普段言えない気持ち"や"性"というテーマは変えずに、様々な表現方法を追求する姿勢には感服するばかりだ。シティ・ポップの要素を取り入れたTrack.2は女子の恋愛のみならず、東京で暮らす人々の暮らしを通して"幸せってなんだろう?"と問い掛けるような優しい哀愁が漂う。言葉遊びがユーモラスなTrack.4、攻撃性の高いTrack.5など、巧妙にリンクした濃密な短編小説集を読んでいるようだ。

きみが死ぬとき思い出す女の子になりたいep

さめざめ

きみが死ぬとき思い出す女の子になりたいep

昨年11月にミニ・アルバム『HのつぎはI』でインディーズに回帰したさめざめがライヴ音源を含む4曲入りEPをリリース。表題曲のTrack.1は迫真のタイトルとは裏腹に、自身初となる夏が似合うキュートなポップ・チューン。甘い歌声の辿るちょっぴり切ないメロディ、様々な展開を見せる演奏が、色鮮やかにすぐ過ぎ去ってしまう夏の空気と合致する。恋する女性が抱えがちな感情や、ついついやってしまう痛いことをキャッチーに聴かせるところはさすが。お笑い芸人"カナリア"の出囃子のために作ったという軽快なバンド・サウンドが印象的なお祭りソングTrack.2、ピアノでしっとりと歌い上げられる永遠に報われない不倫ソングTrack.3と、それぞれで異なる趣の熱量を感じることができる。

H のつぎは I

さめざめ

H のつぎは I

独特の恋愛描写が注目を集める、笛田さおりのソロ・プロジェクト"さめざめ"のインディーズ回帰作。YouTubeで公開されたMVには放送規制音が挿入されたりと、ストッパーがはずれたような歌詞の突き抜け具合ももちろんのこと、インディーズ時代の布陣のバンド・メンバーでスタジオに入ってアレンジを組んだことも影響して、バンド・サウンドならではの迫力が気持ちいい。笛田の色気とキュートさを持ち合わせたヴォーカルも生き生きと輝き、自身の音楽を心の底から楽しむ気持ちが全曲に通う。攻撃的でひりついたテクニカルな「進撃」は間違いなく新機軸。叩きつけるような叫びや心情吐露など、さめざめの恋愛観以外の気魄が非常に刺激的で新鮮だ。ラストを飾る壮大なロック・バラードも切なく美しい。

さめざめ白書

さめざめ

さめざめ白書

女が胸の中に隠している本音を赤裸々に書き綴った歌詞が話題を集める、笛田さおりのプロジェクト、さめざめが満を持してメジャー初フル・アルバムをリリース。その歌詞の過激さからそこに注目が集まりがちだが、それと同じくしてサウンド・メイクやヴォーカルから滲む彼女のポップ・センスも衝撃的だ。彼女の音楽はすべてロックの範疇に収まりきらない、異端で異形で過剰なJ-POPである。時にはギターがノイジーに響き、時には歌謡曲的なメロディで歌い上げ、またある時はジャジーなピアノ・バラードで聴かせる。その音像が歌詞と見事に合致するのだ。盲目的かつ不可抗力で恋に焦がれつづける欲望を、ここまでキュートに夢いっぱいに描くとは。恋は魔法、なんていうが、彼女の音楽こそ魔法なのかもしれない。

月と花束

さユり

月と花束

白砂糖ではないし、三温糖でもなければ、パームシュガーとも違う。この独特であとを引く甘さが持つ感覚は、喩えるならマヌカ蜂蜜のように舌へねっとりしっとりとまとわりつくものだと言えようか。2.5次元パラレル・シンガー・ソングライターの異名も持つ酸欠少女さユりは、2015年に19歳でデビューしたのち、昨年発表したアルバム『ミカヅキの航海』をもって自らの居場所を見いだすことに成功したアーティスト。6thシングルとなる今作はTVアニメ"Fate/EXTRA Last Encore"のED曲であり、その内容は登場人物であるセイバーからハクノへの想いと、さユりの内にある精神世界を重ね合わせたものになるという。蠱惑的な甘みをもたらしながら彼女の生み出す新世界は、ここで第2幕を開けたのかもしれない。

The Fragments Of Resurrection

サヨナライツカ

The Fragments Of Resurrection

2012年1月に結成された、青森県弘前市を拠点に活動する5人組インスト・ロック・バンド、サヨナライツカ。辻仁成の小説タイトルから取られたであろうバンド名も目を引く彼らの初全国流通作品。1曲の中での展開はスピード感のあるカット割の映画を見ているように鮮やかで目まぐるしく、2本のギターは会話をするように呼応する。テクニカルなドラムは曲に彩りを添え、激しさの中に佇む叙情的な空気は胸をかきむしるような焦燥感を募らせる。入り組んだサウンド構成となっているが、音と音の隙間はしっかりあって、その風通しの良さゆえ独特の浮遊感を作り出しているところも興味深い。バンド名を冠したTrack.6は、彼らの代表曲になるに相応しい、静と動を巧みに操る繊細な楽曲だ。

Runaway

Runaway

"ドコモショップスタッフ応対コンテスト"と連動した動画タイアップ・オーディションだけに、誠実に頑張る人を応援するこの「Runaway」がグランプリを獲得したのは納得。新しいことに挑戦するときや社会に出て行くタイミングにおいて、大声の応援歌より、心情に寄り添ってくれる彼女の歌は、この時代にマッチしているように思う。歌詞がさりげなくリアルで、明るいギター・ロックが気分を前進させるので、春から初夏の時期、新しい環境に身を置くあらゆる人に聴いてほしい。そして「gravity」ではラウド系の要素もあるパワフルなサウンドに乗せ、隠した心を自分で掘り起こして進めと鼓舞し、「BLUE」には最もパーソナルなムードが漂い、ソングライターとしての多彩さが窺える。名刺代わりのシングルだ。

FEARLESS

FEARLESS

札幌出身のシンガー・ソングライター、爽(読み:さわ)による約3年ぶりの全国流通盤。サウンド面は前作から一転、打ち込みと生のバンド・サウンドが調和するようなトラックに変化。その上に乗る歌声は美しく、凛とした姿勢で佇んでいるかのようだ。また、歌詞に関しても彼女の思うことが色濃く反映されている様子。人と人の別れや物事の終わりに焦点を当てた曲が多い一方、終盤に行くにつれて、諦めることなく希望を手繰り寄せていく一人称像が浮かび上がってくるのだ。そんな本作のタイトルは"FEARLESS"、つまり恐れ知らず。苦しい経験すらも音楽に昇華し、聴き手と一緒に歩いていく道を彼女は選んだということだろう。暗闇を知った人の歌う光には、確かな説得力が宿るものだ。

ロスタイム / 春風 / ドライフラワー / life goes on

メメタァ

ロスタイム / 春風 / ドライフラワー / life goes on

2021年4~7月にリリースされた、4ヶ月連続配信シングル。疾走感も青春感も抜群、今を鳴らすバンドとしての情熱を宿すのは、メメタァの新王道「ロスタイム」。シンプルなビートとリフで展開する、"卒業"がテーマのミドル・ナンバーは「春風」。カントリー調で温かみのある「ドライフラワー」は、死生観を感じさせる歌詞とのコントラストが鮮やかだ。そして"君らしくなんかなくても良いから生きてておくれよ"と伝えるのが「life goes on」。真摯なメッセージに胸を打たれるとともに、壮大なバンド・サウンドに新しさを感じた。――といった具合に彩り豊かな楽曲が揃っている。ファンはもちろん、これからメメタァを知っていく人にも入門編としておすすめしたい。

SoundOrion Memorial BEST!!!!

サンドリオン

SoundOrion Memorial BEST!!!!

2016年春に始動したスターダストプロモーション声優部のオーディションで、約5,000人の中から選ばれた黒木ほの香、小峯愛未、小山百代、汐入あすかの4名からなる声優ユニット"サンドリオン"。残念ながら彼女たちは2024年12月25日をもって解散してしまうことになっているが、最後に約8年間の活動の集大成となるオールタイム・ベスト・アルバムを遺してくれた。本作はオーバーチュアを含めて全36曲の大ボリュームで、挙げ始めればキリがないが、その制作陣の豪華さには改めて驚かされる。1枚を通して感じさせる、約8年間の成長の軌跡とも言うべき声と歌唱力の変化には、ドリオンズならグッと来るものがあるはずだ。

ぜいたく

在日ファンク

ぜいたく

メジャー・デビュー時の宣誓"金を湯水のごとく使う"を実践するかのような"ぜいたく"が極まったシングル。なにしろTVアニメ/ドラマ主題歌2曲に加え、Track.3には『笑うな』記念ツアーから「笑うな」「根にもってます」等のライヴ音源をなんと1トラックにして収録。ライヴの熱気を疑似体験できるものとなっているが、それだけで55分程あり、総収録時間は60分以上。シングルにしてこのボリューム、さらにジャケットは"食の軍師"原作の泉昌之の描き下ろし作品。これを"ぜいたく"と言わずしてなんという。ワン・ワードで心情を吐露してファンクの力でポジティヴに変換していくお家芸はこの作品でも健在。

笑うな

在日ファンク

笑うな

3rdアルバムにして待望のメジャー・デビュー・アルバム。もちろん在日ファンク及びハマケンこと浜野謙太の存在感は、これまでの活動ですでに充分メジャー感たっぷりだが、今作をリリースするにあたり原点回帰、"ほぼ100%"ハマケン節で埋め尽くされたブ厚い名刺代わりの特濃ファンク・アルバムだ。前作『連絡』で聴かせた洗練されたメロウな楽曲もいいが、「ちっちゃい」「パラシュート」「百年」など1ワードで押し切るファンクのベーシックたる部分こそが彼らの真骨頂。かといって記号的な言葉が並ぶわけではなく、「根にもってます」のようなチマチマした感情をエネルギーに作品にしてしまうところは彼らが日本随一のファンク・バンドとして愛される理由のひとつだろう。

爆弾こわい 岡村靖幸REMIX

在日ファンク

爆弾こわい 岡村靖幸REMIX

映画『モテキ』へのバンド出演、ハマケンは『笑っていいとも!』にも出演、昨年9月にリリースされたアルバム『爆弾こわい』も現在もロング・ヒット中。文字通り“こわい”ほど絶好調な中、在日ファンクは新年早々更なる“こわい”旋風を巻き起こす。いじられてなんぼの真正マゾヒスト浜野謙太率いる在日ファンク。そして、ロマンティシズム溢れる言葉のセンスとエロティシズムをグルーヴに転換させる音作りによって、ロマンスすらもドロリと描き、全ての美をオーヴァーに演出していく音楽サディスト岡村靖幸。物事の加減を知らないド変態同士の夢のドッキングが実現したのだ。岡村ちゃんの手にかかった、バンドのキラー・チューン「爆弾こわい」は、ダサいと気持ち良いのすれすれを、豪快に横断出来る超絶ドライビング・テクニックによって、冒頭からギア全開でかっ飛ばす、スリリングかつダンサブルなファンク・チューンへと生まれ変わっている。これぞ、神業。

爆弾こわい

在日ファンク

爆弾こわい

注意。もしもあなたが浜野謙太を知らないのならば、まずは彼という存在を知るところから始めましょう。そうでなければ、あなたは本作の真の理解者には成り得ないのだから。SAKEROCKのメンバー、ハマケンこと浜野謙太率いるファンク・バンド、在日ファンクの最新作。ファンクとは"エロの音楽"であるのならば、これは浜野謙太にとってのエロティシズムであり、ここに流れるのは"ハマケン流ファンクネス"。リリックから、グルーヴまで、美味しいところは全てハマケンに持っていかれる。そして、彼のキャラクターとしての才分は勿論、それのみならず、直感とグルーヴとユーモアをここまで気持ちよく音楽に落とし込むリリックのセンスには脱帽。これこそウザかっこいい、ウザ気持ち良い、最高のファンク・アルバム!

在日ファンク

在日ファンク

在日ファンク

日本に在りながら、JB(James Brown)スタイルを継承したファンクにこだわり、SAKEROCKのトロンボーン奏者・浜野謙太がヴォーカルをとる在日ファンク。まさにJBスタイルのまくしたてるヴォーカルとキレのあるホーン・セクション、腰にグルーヴを叩きつけてくるリズム隊。ほとんど無意味で、少しだけ意味を持つような言葉も、まずはリズムと語感ありき。「ダンボール・肉まん」とか、絶対に語呂と面白さだけで選んでるもんね。ニヤリとしてしまうほどJBスタイルに忠実なのだが、やはり日本人の感性がそこかしこから滲みでる。海の外にまで日本産ファンク・バンドだと宣言するようなバンド名も納得の出来。そのヴィジュアルも含め、暑苦しさと野暮ったさを内包するファンクの面白さを示してくれる。

SUPER HITS

ザ・チャレンジ

SUPER HITS

メジャーを卒業し、2016年からフリーランス・バンドとして活動をスタートしたザチャレが、ライヴ会場限定で販売してきた全6作をまとめたミニ・アルバムをリリース。原点回帰的にスタジオに集まってサウンドを練り上げたという楽曲は、「そんなことより踊ろうぜ」や「会いたい夜はどうすればいい?」、「東京レコード」など、ブラック・ミュージックの雰囲気をさりげなく纏い、東京のミクスチャーな風に吹かれた、明るくもセンチメンタルな曲から、これぞザチャレたる熱い"節"が冴えた曲が揃った。それぞれの音楽的な素地を生かし、より日常や誰かの生活に寄り添う歌をと磨き上げた曲で、メロディは心地いい平熱感も湛えている。現在は活動休止中で会えない彼らからの、ラヴ・レター的作品だ。

ザ・チャレンジランド

ザ・チャレンジ

ザ・チャレンジランド

アルバム・タイトルにもあるように、ザ・チャレンジというバンドの国、エンターテイメント性たっぷりの遊園地を作ろうという作品。インタビューでは、"心配性だから楽しませようとなると過剰にサービスしてしまう"とフロントマンの沢田チャレンジが語っていたが、それは各メンバーもまたそうなんだろう。みんなで歌えるキャッチーな曲はどこまでもフレンドリーに、パーティー・チューンはとことんにぎやかに、そしてセンチメンタルな曲では切なさとともにほんのり笑顔にするようなユーモアも練り込み、エンターテイナーとして、作品のホストとして猛烈に汗をかいて奮闘している。完璧で隙のない世界観ではなく、奮闘するその姿が曲から垣間見える(見せている)のも、バンドの愛嬌のひとつになっているし、歌謡性の高い"ベタな良さ"で真面目に遊んでいる大人の戯れもいい。

銀河絶叫

挫・人間

銀河絶叫

下川リヲ(Vo/Gt)、マジル声児(Ba/Cho)の体制となり、昨年は「下川くんにであえてよかった」や「夏・天使」などの配信リリース、ライヴを行ってきた挫・人間。精力的な活動やクリエイティヴの充実のその先にあるのが、7thアルバム『銀河絶叫』。その絶叫は冒頭から凄まじい。配信時とは別Verの「セイント・ギロチン(Scream Ver.)」の耳をつんざく大絶叫で始まって、今作は鋭利な凶器のようなリフやビートがアルバム中を縦横無尽に駆け巡り、ヒリヒリとした緊張感が露わになっている。アレンジの妙味や、キャッチーさと人を食ったような毒が混じるポップ性といったならではの部分も持ちながら、さらにひとつ、またひとつとリミッターを解除して、脈打つ衝動をやその鮮烈さを突きつける。その生々しさにまず打ちのめされる。

メンバー募集"1"でワンマンTOUR

挫・人間

メンバー募集"1"でワンマンTOUR

2022年まで9年間在籍したギタリスト 夏目創太のラスト・ツアーより、渋谷CLUB QUATTRO公演を収めた本作。夏目最後のクアトロ公演を見届けようと集ったファンで会場はソールド・アウト、熱気でレンズが曇ってしまいそうなほど、その熱狂ぶりもひとしおだ。キレッキレの演奏(とダンス)が光るオールタイム・ベスト的セットリストで、メンバーの脱退という現実に悲しむ隙も与えずアッパー・チューンを次々に投下。目まぐるしい展開に瞬時に反応していくフロアも一体感抜群だ。ラストを飾った「マジメと云う」では、応援歌のようなシンガロングとギター・ソロの応酬に胸が熱くなること間違いなし。泣きのギターがエモーショナルに鳴り響くも、終始涙を吹き飛ばすほど笑いに溢れていた、臨場感たっぷりの濃密な137分間は必見。

このままでいたい

挫・人間

このままでいたい

22年7月に脱退した夏目創太(Gt/Cho)が参加した最後の作品となったシングル。どんなに前向きな別れでも、その気持ちの奥底で誰しもが思い浮かべるひと言をタイトルにした表題曲は、ロマンチックでノスタルジックなポップ・ソングであることに加え、リスナーを笑わせる要素が一切ないという意味でも異色曲と言えそうだ。その一方でともに挫・人間流のディスコ・サウンドに乗せて、現代社会を斬るブラック・ユーモア満載の「人類終了のおしらせ」、モテない男のリビドーを歌った「B・S・S~ボクが先に好きだったのに~」は、まさに"最後のナゴムの遺伝子"と謳われる彼らの真骨頂。初回限定盤はそんな3曲に21年8月4日の渋谷CLUB QUATTROワンマン公演を完全収録したDVDをカップリング。

散漫

挫・人間

散漫

快作『ブラクラ』から1年5ヶ月ぶりのアルバム。ハイテンションな高速デジタル・ハードコア「I LOVE YOU」で幕を開けることが、今作のバンドのモードを物語っている。陽気な南国サウンドのはずが恐怖の人喰いサウナに変貌にする「デスサウナ」、湘南乃風のタオル回しを彷彿とさせる「アイオワの風」など、ノリと勢いで完成させた楽曲たちからはコロナ禍の憂うつなど微塵も感じさせない。相次ぐメンバーの脱退、加入を経て、過剰なまでに詰め込んだ情報量の中に、バンドのロマンチシズムがこれまで以上に滲み出た。きっと誰かのためにこのバンドは存在する。そんな下川リヲ(Vo/Gt)の自覚が顕在化した「誰かを救える歌」は、負け犬の味方であろうとするバンドが放つ熱い援護射撃だ。

ブラクラ

挫・人間

ブラクラ

4thアルバム『OSジャンクション』から約1年4ヶ月ぶりとなる5thアルバム。バンドの特色のひとつであるミクスチャー・カオスを見事痛快にアップデートした「ソモサン・セッパ」から、甘酸っぱいメロディとポップネス、ロマンチシズム溢れる「一生のお願い」、豊かなギターの音色が優しく包み込む「電球」、妖しく鋭い緊迫感で禍々しい存在感を放つ初期曲「あてのない女の子」など、音楽性という概念にとらわれることのないバラエティに富んだ楽曲が揃う。各曲まったく異なる個性を放つのにどの曲もバンドの本質が詰まっていて、作品トータルで"挫・人間"を体現するという、非常に理想的な作品。怒濤の伏線回収とも言うべき、洗練された異端が作り出す正統派ロックを体感してほしい。

OSジャンクション

挫・人間

OSジャンクション

挫・人間の4thアルバム。1曲目「webザコ」では激しくアグレッシヴな曲かと思わせておいて、まさかのキラキラ・ポップ・チューンへ急旋回するさまに"なんでだよ(笑)"と突っ込ませつつも聴き手をグッと作品に引き込む。そのほかにも挫・人間らしいクレイジーで変化球的な曲たちが存分に楽しませてくれるが、一方でストレートなロック・サウンドに青臭い歌詞を乗せたラヴ・ソング「恋の奴隷」でバンドの底の深さを見せつけるあたりがニクい。そして筋肉少女帯の影響を色濃く感じさせる「ダンス・スタンス・レボリューション」は、サウンドやリリック、語りの口調だけでなく、80年代後半の"匂い"までも曲に閉じ込めたような、"最後のナゴムの遺伝子"という看板に偽りなしの1曲だ。

品がねえ 萎え

挫・人間

品がねえ 萎え

全国流通盤としては初のシングル。シングルと言いつつも表題曲は3曲目で、3曲すべて方向性や音楽ジャンルが異なるところなど、挫・人間がこれまでのアルバム制作で培ってきたスキルやポリシーを感じられる。打ち込みと生楽器を織り交ぜたダンス・ミュージックはバンドにとっても新機軸。世間への怒りをユーモラスにぶちまけた歌詞とのコントラストもアクセントになっている。ラストに逆転ホームラン劇的な謎の高揚感を持つSEX MACHINEGUNSばりに突飛なメタル・ナンバー、短尺で駆け抜けるロマンチックでほのかに切ないポップ・ソングと、これまでにないアプローチをしながら自分たちの好きなものをはち切れんばかりに詰め込んだ楽曲を生み出し続けている彼らのポテンシャルの高さには毎度感服だ。

もょもと

挫・人間

もょもと

約1年ぶりの新作となる3rdフル・アルバムは、下川リヲ(Vo/Gt)いわく"ギター、ベース、ドラムというバンド・セットにこだわって制作した"もの。バンド・サウンドでもって渾身のストレートを投げる作品だ。ゆえにロック、ファンク、ダンス・ナンバー、アコースティック、渋谷系、バラードなど音楽性の幅の広さや、各プレイヤーのスキルの高さが以前よりも明確に。特にソウル・ナンバーTrack.9のサウンドの完成度の高さには舌を巻く。とはいえ挫・人間のアルバム、当たり障りのないものになるわけがない。どの楽曲も大真面目でいびつでユーモラスで、もがきながら生きている人間の姿がある。下川が高校時代に作ったピュアな楽曲で締めくくるラストも美しい。笑えるのに感傷的で泣ける、挫・人間の真骨頂。

非現実派宣言

挫・人間

非現実派宣言

1stフルの内向性と2ndフルのポップな外向性や現代性を掛け合わせたような作品。美少女アイドルになりたいという思いで作ったTrack.3、三味線風のギター・リフとピコピコシンセに合いの手が特徴的なTrack.1など、とうとう頭のネジが全部抜けてしまったか? と思うほどの過剰さやヤケクソ感がある曲が目立つが、ちゃんと向き合うとそのドギツさはしっかりエンターテイメントとして昇華されていることを実感できるだろう。現実より非現実の方が身近だというソングライターでありフロントマン 下川リオの人間性や趣味嗜好も明確に表れ、非現実の素晴らしさを説くようでもある。非現実と現実の狭間で揺れる心情が感傷的な、メロウなヒップホップ×ファンクのリード曲は秀逸。

テレポート・ミュージック

挫・人間

テレポート・ミュージック

自分に対する根拠のない自信と他人からの冷笑は決して100対100じゃないことはバカじゃないからわかる。そのうえで両極に振り切ったり、ないまぜになった感情を過剰なポップとして鳴らせるのがロックンロール・バンドだと思う自分にとって挫・人間は暑苦しいほどそれそのものだ。NHK Eテレの"念力家族"のテーマ・ソングに抜擢され書き下ろした「念力が欲しい!!!!!~念力家族のテーマ」は、高速四つ打ち~スラッシュ・メタル~ファンクを3分以内に押し込めた狂気の沙汰ナンバーだが、"情報量が多い"こと自体がポップなご時世を逆手にとった感もあるし、洒落たアレンジが渋谷系を思わせる曲もあれば、フロントマン下川vs世間の構図を自分自身で脚色したり。クレバーだけど俯瞰しないスタンスがそのまんまアルバムになっている。

苺苺苺苺苺

挫・人間

苺苺苺苺苺

AV監督、IGGY COEN作のMV「人類」を見ている分には、いわゆるメンヘラ、ネット住民、非リア充をエンタメとして受け取れたりするのだが、ここはぜひ音源でこのバンド、そして稀有な両性具有感と現実にはどうしようもなく男子な下川というヴォーカリストの才能にダイレクトにやられてほしい。音作りもアレンジも過剰なまでに衝動的で構造はベタだったりするのだが、それぐらい濃くないと下川の逸脱した歌と拮抗できないのだ。単にルサンチマンのはけ口としての表現ではないことは、恐ろしく冷徹にも取れるリリックや、高いスキルを持つトーキング・スタイルの歌唱、何より下川の少年少女と大人、下衆と天使を否応なく行き来する存在感が証明している。でもホントに"閃光ライオット"出身なの?(ホントですが)

すきぴホリック

シイナナルミ

すきぴホリック

シイナナルミが、作詞者としても、歌手としても、飛び抜けた才能を持っているということが伝わってくる2ndシングル。頭の中でエンドレス・リピートしそうな、小気味いいリフと軽やかなコーラスから始まったかと思いきや、"「恋は盲目なんてバカらしくない?」/そんな言葉だけで 片付けないで"とピシャリと宣戦布告する。時には"友達は辞めました"など過激な言葉も交えながら、純粋な恋愛をポップに歌う。すべてのバランスが絶妙で、それこそシイナナルミに盲目な恋をしてしまうリスナーも出てきそうな、彼女にしか表現できない楽曲だと思った。2曲目の「好きな人の好きな人になりたい人生」も、爽やかなストリングスと切ないメロディ、女の子の本音を言語化した歌詞が起こす化学変化が見事だ。

浮き名

椎名林檎

浮き名

椎名林檎デビュー15周年企画の一環として、ライヴ・ベスト・アルバム『蜜月抄』と同時リリースされるコラボレーション・ベスト・アルバム。客演した他アーティストの作品より椎名林檎自らが編纂し、更にCAPSULEの中田ヤスタカとの初コラボレーションによる新曲「熱愛発覚中」、Burt Bacharachが提供した「IT WAS YOU」を含む全16曲。やはり椎名本人が編纂しているだけあり、曲の繋ぎやアルバムとしての流れも鮮やか。そして個性豊かなアーティストとの共演で魅せる、シンガーとしての彼女が秀でているのは、己の個性を残しつつも相手の音楽に寄り添い、そのカラーに見事に染まるところだ。様々な衣装を着こなし変身する様は女優のようでもある。改めて彼女のエンターテイナーとしての器を再確認した。

蜜月抄

椎名林檎

蜜月抄

椎名林檎デビュー15周年企画の一環として、コラボレーション・ベスト・アルバム『浮き名』と同時リリースされるライヴ・ベスト・アルバム。ヘヴィ・ユーザーに人気の高い楽曲を中心に選曲しており、デビュー以来のツアーより厳選した音源に加え、2009年に放送されたNHK「SONGS」でのスタジオ・ライヴ音源も初収録している。この15年をリアルタイムで知っている筆者は聴きながら"これはあの会場であの衣装を着ていたときのライヴだ"と記憶が鮮やかに蘇った。それだけ彼女が会場や衣装選び、演奏者の編成などにアイディアを盛り込み、個性的な実演を行い続けていたことを痛感する。ライヴでしか聴くことのできない彼女の息遣いや歌唱、楽曲アレンジを堪能できる、15周年記念に相応しいアイテムだ。

yadokari

栞寧

yadokari

北海道在住シンガー・ソングライター、栞寧によるミニ・アルバム。アコースティック・ギターを抱え、弾き語りでライヴをしているという栞寧だが、今作ではスッとまっすぐに伸びていくヴォーカルを生かした「maru。」での、シンプルなギター・サウンドから、終わった恋愛や相手の影をクールに払うグルーヴィな「関係ない人」、春に向かう今の季節に似合うピアノやストリングスが歌を縁取る「桜風」や「魔法の言葉」など、様々なタッチでその歌を響かせる。自分が思うこと、感じることを歌にしたい、その思いはクセのない凜としたヴォーカルの背骨となって力強く伸びている。「大人になると」では、そのまっすぐだからこその不器用さや割り切れなさが曲に滲んでいるけれど、人間臭く、若い今だから見える景色を歌っているのがいい。

reflect memory on sphere

シキサイパズル

reflect memory on sphere

2枚目となるミニ・アルバムには、"記憶"をテーマに紡がれた7編のストーリーが収録された。導入となるインスト曲「recall」から、美しくファンタジックなサウンドで淡い夢のような場所や、静かな物思いの時間へ、すっと滑り込ませていく感覚がある。Ayako Urano(Vo/Key)の歌声はわずかにメランコリーを帯びていて、そのトーンがポップなメロディを引き立ててもいる。様々な光を束ねたような鍵盤やストリングスも入ったシューゲイズ・サウンドと、ポップで歌心のあるメロディとのハーモニーがとても心地よい。身体の中を曲が駆け巡り、新鮮な空気で満たしていってくれる感覚も味わえるのではと思う。アルバムを締めくくる「predawn」の終盤、景色が色づいていて多幸感で満ちていくアンサンブルがとても美しい。

prismatic telescope

シキサイパズル

prismatic telescope

都内のライヴハウス・シーンで着実に知名度を上げている次世代アート・バンド、シキサイパズル。早耳リスナーから注目を浴びる彼らの初となる全国流通作品は、エレクトロニカやポスト・ロックの要素を取り入れた色彩豊かなバンド・サウンドと、美しい鍵盤の旋律、賛美歌を思わせるようなayako urano(Vo/Pf)の瑞々しく透った歌声とが絡み合い、耽美な世界観を描き出した傑作。これでもかというほどリバーブを効かせ、うっとりと陶酔してしまうほどに幻想的且つ壮大な仕上がりになっているのは、asobiusを手掛けるエンジニア、岩本夏来を起用していることも影響しているのだろうか。収録されている7曲ともにどこか涼しげで、残暑から秋に差し掛かるこれからの季節にぴったりな1枚。

NO SIGNAL

シグナレス

NO SIGNAL

コラボ・ユニット『ゆーきゃん meets あらかじめ決められた恋人たち』改め『シグナレス』の1stアルバム。なにより見事なのはそのディテールの描き方。直接的な言葉なくして、ふと匂い立つ感傷や焦躁。街の喧騒とざわめきの中の寂しさ。物語の一編のごとく秀逸な歌詞が、淡く響くヴォーカルと、無機質だがメロウで優しい電子音によって楽曲へと具現化され耳を通り過ぎていく。その工程がとてもスムーズでスマートなので、音の川を流れる思想のごとく、言葉は脳内になだれ込んでくる。この背中に気配を感じるような種類の感傷は、フォークとしてはいささか無表情だが、ダンス・ミュージックとしては、鮮やかな水彩画のごとく瑞々しい心理と情景が飛び込んでくる情緒的な躍動感に溢れていてとても心地良い。

揺ら揺ら

獅子志司

揺ら揺ら

音楽家としてのスタートラインに立ったばかりだからこそ、その迷いを挑戦的にパッケージできる。そんな獅子志司の1stミニ・アルバムだ。最新のヒップホップを大胆に取り入れた「忘憂」や「らんだ」をはじめ、より自分自身の表現の枠を押し広げることになった今作には、決して平等ではない社会で自分のやりたいことで認めさせるという想いが、くっきりと浮かび上がる。下げたくもない頭を下げながら虎視眈々と下克上を狙う「鬣犬新書」を皮切りに、ないもねだりの「忘憂」を経て、「橙一点」や「日進月光」で光の在り処へと向かう。音楽的なアウトプットの取捨選択に迷いはあれど、獅子志司が音楽をやる意味には明確な答えがあるのだろう。それは、今生きる人の味方であるということだ。

有夜無夜

獅子志司

有夜無夜

2018年からニコニコ動画を中心にボカロP、歌い手としての活動をスタートさせた獅子志司による初のフル・アルバム。Choisauce名義で投稿された初期曲「有象無象も踊る夢」をはじめ、ニコ動の殿堂入りを果たした「絶え間なく藍色」、人気クリエイター しまぐち ニケを迎えたフル・アニメーションのMVが海外のネット・ユーザーから高い評価を得た「永遠甚だしい」といった既存曲に加えて、新曲を3曲収録。作詞、作曲、編曲のすべてを自ら手掛ける楽曲たちは、ダンス・ミュージックの高揚感に哀愁漂うメロディが独自の感性で融合され、韻を多用する言葉選びにもセンスが光る。自分の弱さを認めながら、なんとかそれに抗い、現状を打破しようとするリアルな歌詞には獅子志司の人間味が詰まっている。

カフカナイズ

シシド・カフカ

カフカナイズ

モデルなどでも活躍するドラム・ヴォーカリスト、シシド・カフカが1stアルバムを完成させた。シングル曲やc/wなどの既発曲を含め全16曲というボリュームで、新曲を9曲収録している。これまではクールなキメ曲が多かった彼女だが、今回はアルバムということもあり、今までの彼女のイメージをぶち壊すようなブチ上げパーティー・チューン「ラヴコリーダ」「100年ビール」を筆頭にミディアム・テンポの楽曲からポップなナンバーまでバラエティに富んだ遊び心に溢れた内容となっている。パワーのある彼女のヴォーカルはドラムのようにリズムを刻み、ドラムはヴォーカルのようにメロディアスに響く。やはり“叩きながら歌う”のはただ叩く、歌うだけでは成し得ないものを表現出来る強い武器だ。

music

シシド・カフカ

music

昨年メジャー・デビューしたドラム・ヴォーカリスト、シシド・カフカの2ndシングル。タイトルにも"音楽"と掲げられた表題曲は、内なる激情を匂わすクールな楽曲だ。低音ヴォイスで幕を開ける序盤からサビに繋がるメロディの駆け上がりはとてもしなやかで、彼女のヴォーカリストとしての新たな顔を覗くことができる。ドラムは歌うように生き生きと螺旋を描くように響き渡り、彼女が"ドラムは自分の武器"と言うのも納得だ。c/w「リカバリー」は日本的な歌謡メロと遊び心溢れるヴォーカルがクールに響き、クラップの入ったキャッチーな「無敵のロックスター」は彼女のキュートな表情を切り取るような華やかなナンバー。作品をリリースするごとに確実にテリトリーを広げていることを証明するシングルだ。

超才開Twinkる

ザ・シスターズハイ

超才開Twinkる

奇をてらった作品タイトルに独特なワード・センスを駆使した歌詞、狂気じみたMVなどエキセントリックな魅力を放つネオ・パンク・ロック・バンド、ザ・シスターズハイ。新体制初のCD作品となる今作は、オニザワマシロ(超☆社会的サンダル/Gt/Vo)による女声コーラスがバンドの新たな扉を開いた「eんパす・iん・tHe・ルーむ」、聴く者を無条件に躍らすサビでライヴハウスを沸かせている「絶望MAQUIA」と既出の2曲に加え、轟音ギター・ソロが炸裂する中毒性抜群の「リ・ルミナスのじゅもん」、夜道を照らす街灯のような温かさが灯る「デスラブ」、詩的な歌詞に散りばめた突飛な癖強ワードが彼ららしい「エピローグなわたしちゃん」の全5曲が収められた。奇抜でありながらキャッチーで、芯のピュアな部分も見え隠れする絶妙なバランスが面白い。