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DISC REVIEW

BIPOLAR

キタニタツヤ

BIPOLAR

タイトルの"BIPOLAR"は双極性を意味する。"消えてしまいたいと願う朝が/生きていてよかったと咽ぶ夜に塗り潰され"と歌う、オープニングの壮大なロック・バラード「振り子の上で」が象徴するように、今作は、日々の生活の中で激しく浮き沈みする人間の心の変化や、美しさと醜さ、希望と絶望という世界の二面性を対称的な曲構成で浮き彫りにする1枚だ。キタニタツヤの真骨頂となるファンキーなロック・ナンバー「PINK」や、初めてニュー・ウェイヴのアプローチを取り入れた「夜警」など、アルバムの新録曲にエッジを残しつつ、より歌を大切にした大衆的なポップ・ミュージックとして突き詰めたところに、キタニの覚悟を感じた。ドラマ主題歌に書き下ろした「プラネテス」は普遍性の高い名曲。

愛のけだもの

神はサイコロを振らない × キタニタツヤ

愛のけだもの

7月にリリースされたn-buna(ヨルシカ/Gt/Composer)とアユニ・D(BiSH/PEDRO)を迎えたコラボ曲「初恋」に続き、フィーチャリング第2弾として、神サイがキタニタツヤとタッグを組んだ配信シングル。ファンキー且つポップなサウンドに乗せて、恋愛における醜くも美しい感情を生々しく描いた今作は、まさに2組の"らしさ"が溶け合ったコラボレーションになった。優しく包容力のある柳田周作とまろやかで鋭いキタニタツヤという、声質の異なるふたりのヴォーカリストの味が際立つほか、全プレイヤーが主役になるアレンジの展開も痛快。神サイに新たなグルーヴをもたらした今作の経験を血肉にしてゆくことで、このフィーチャリングはバンドにとってより意義深いものになっていくはず。

聖者の行進

キタニタツヤ

聖者の行進

"ノイタミナ"枠のTVアニメ"平穏世代の韋駄天達"のOPテーマとして、キタニタツヤが初めてタイアップに書き下ろしたニュー・シングル。無感情に列をなす不穏なパレードを想像させるダークなサウンドにのせて、無慈悲に生かされる人間の弱さと、それでも"幸福の種"に縋りたい儚さを鋭い言葉で歌い上げる。デビューから一貫して、厭世的に世界を捉え、そこでいかに生きるかを歌い続けてきたキタニのクリエイティヴが、アニメ・タイアップという機会を得て強い訴求力を伴って結実した。カップリングには、今年配信リリースされ、ALIがアレンジを手掛けた「Ghost!?」をキタニ自身がリアレンジした、"Bad Mood Junkie ver."などを収録。全3曲でキタニタツヤという才能を多面的に伝える1枚。

DEMAGOG

キタニタツヤ

DEMAGOG

先行公開曲「ハイドアンドシーク」を含む3枚目のアルバム。前作『Seven Girls' H(e)avens』で獲得したシンセ・ポップのアプローチを、自身の原点であるオルタナティヴ・ロックと融合させることで、新たなキタニサウンドを確立した。全曲のマスタリングに世界的エンジニア、John Greenhamを起用して完成させた統一感のある音質はコンセプチュアルな作風との相性もいい。タイトルに掲げる"デマゴーグ"とは、扇動者の意味。新型コロナの流行という先の見えない混沌の中で、祈るように光へと導いていく作品になった。相互監視社会や悪意といった人間の嫌な部分を掘り下げながら、それでも愚かで孤独な人間そのものを愛せずにはいられない、そんなキタニタツヤの思想に救われる。

Seven Girls' H(e)avens

キタニタツヤ

Seven Girls' H(e)avens

ネット発のソロ・アーティストとして、高いクリエイティヴ・センスを印象づけた前作フル・アルバムから、1年ぶりにリリースされるキタニタツヤの1stミニ・アルバム。前作『I DO (NOT) LOVE YOU.』は、プログラミングからギター、ベースまでひとりで完成させたが、今回は、一部の楽曲でサポート・ミュージシャンを迎えた他、作風もオルタナティヴなロック・サウンドから一転して、メロウなポップ・ナンバーを多数収録した。歌詞のテーマは、"逃げ場所"。身体を差し出すことで孤独を満たす女性を描いた「Sad Girl」を始め、アルコールに逃げる「Stoned Child」や、銃を乱射することで恍惚を得る「トリガーハッピー」など、どこかに逃げることで心の安寧を得る人間の姿を描く。

I DO (NOT) LOVE YOU.

キタニタツヤ

I DO (NOT) LOVE YOU.

「芥の部屋は錆色に沈む」など、自己嫌悪を滲ませた楽曲がネット・シーンで注目を集めるシンガー・ソングライター、キタニタツヤの1stフル・アルバム。左右のスピーカーに音を振る不穏なイントロに始まり、承認欲求に取り憑かれた人間の愚かさを辛辣な言葉で描いた「悪魔の踊り方」に始まり、転生や死生観をテーマにした「波に名前をつけること、僕らの呼吸に終わりがあること。」など、人間の心を抉るような筆致で綴る13曲を収録した。素晴らしいのは"I DO LOVE YOU."と"I DO NOT LOVE YOU."という真逆のタイトルを付けたラスト2曲。人を強く愛することと、憎むこと。その間を激しく行き来する感情の揺らぎを歌わずにはいられなかった。それが今作の衝動の源だと思う。

キツネノナミダ

キツネツキ

キツネノナミダ

9mm Parabellum Bulletで作詞を担う菅原卓郎と作曲担当の滝 善充を軸に、ライヴごとに様々なゲスト・ミュージシャンが出入りできる空間を作ってきたキツネツキ。演奏する人やそのアレンジで曲が変化することを楽しんでいる様子だ。今回参加した"取り憑かれ"メンバーは東出真緒(BIGMAMA)、下上貴弘(アルカラ)、爲川裕也(folca)、渡部宏生(heaven in her arms/SZKN)。「まなつのなみだ2019」は和テイストとアフリカン・ビートがユニーク(滝のドラムがさらに進化!)だし、「てんぐです2019」は歌謡感が増幅した。インストの新曲「四川省」はタイトルを解釈したのか? 各人のセンスが溢れる。童謡カバーは違和感なしのポップ・パンクに(!)。

桜が咲く前に

きのこ帝国

桜が咲く前に

桜に思いを馳せるのは日本人特有だろうか。"どうしても叶えたい夢"を抱いた少女は"守れない約束なんてしないよ"と強い決意のもとに桜が咲く前に上京する。前作『フェイクワールドワンダーランド』で大きな広がりを見せたきのこ帝国が、メジャー・デビューというタイミングで10年前を紐解いた。彼女たちの代表曲「東京」の10年前を描いたという「桜が咲く前に」では、ますますクリアになっていくサウンドの中で佐藤千亜妃(Gt/Vo)が故郷である盛岡を離れる覚悟が鮮明に描かれる。そして彼女は柔らかなビートに乗せて未来への淡い期待へ焦がれていく。金切り声を上げるようなラストのギター・ソロには痺れた。カップリングの「Donut」や「スピカ」の優しいメロディも、すべてきのこ帝国の新たな1歩となっていく。

渦になる

きのこ帝国

渦になる

轟音と静寂の中から湧き出るトラディショナルなメロディ。きのこ帝国という名前に違和感を感じるのはこの作品が最初で最後だろう。2007年に大学で結成されたという同バンド。シューゲイザーやポスト・ロックの影響を感じさせる非常に耳ざわりの良いノイズの中を泳ぐ佐藤(Gt&Vo)の声。前述したような音楽の影響を感じさせるロック・バンドは決して少なくは無い中、きのこ帝国が図抜けた存在感を放っているのは、この作品全てにおいて弾き語りでも成立するほどの"歌"が芯にあるからだろう。そしてその歌を一人歩きさせないどこか日本情緒すら感じさせる甘美なバンドの旋律、このバランス感覚たるや非常に末恐ろしい。

マリアンヌの奥儀

キノコホテル

マリアンヌの奥儀

創業13年目となるキノコホテルは、全館改築ではなく今このタイミングでもとから館内にあったバンケット・ルームを大幅に改装し、新たにモダンで粋なダンス・クラブをオープンしたようだ。ここまで、長きにわたって中心人物であるマリアンヌ東雲(歌と電気オルガン)がセルフ・プロデュースを貫いてきたわけだが、今作ではジャニーズやAKBグループなどへの楽曲提供やサウンド・プロデュースも手掛ける敏腕クリエイター 島崎貴光を共同プロデューサーとして起用し、ダンス・ミュージックの要素を大胆に取り込みながらバンドとしての奥儀をいよいよ発動することに。キノコらしい味わいはより洗練され、いっそうブーストされた印象であるし、何より徹頭徹尾まるで隙がない。キノコならではの菌糸活性化がよくわかる1枚である。

飼い慣らされない女たち~実況録音盤

キノコホテル

飼い慣らされない女たち~実況録音盤

2017年に"創業10周年"を記念して行われた"キノコホテル創業10周年記念大実演会ツアー<サロン・ド・キノコ~飼い慣らされない女たち>"から、創業記念日である6月24日に赤坂BLITZで開催された実演会を2CD+DVDで計約174分の大ボリュームでパッケージしたライヴ作品。「おねだりストレンジ・ラヴ」、「還らざる海」をはじめとするメロディアスでキャッチーな曲もあれば、アヴァンギャルドな演奏が楽しめる「球体関節」、「ゴーゴー・キノコホテル」、従業員を紹介しながらバンドがエクスタシーに向かっていく「#84」など、熱狂の実演会の模様を余すところなく伝えている。まずCDを聴いて妄想を膨らませてからDVDで映像を観ることをおすすめしたい。初回生産分は写真集がセットになった豪華盤。

プレイガール大魔境

キノコホテル

プレイガール大魔境

キノコホテルの"創業10周年記念作品"は、これまでの新作アルバム・シリーズ『マリアンヌの~』とは違うことをジャケットやタイトルで明確に表した作品となった。10周年を迎えるにあたり、しばらくライヴでも演奏していなかったという過去の隠れた名曲たちを中心に選曲、今のマリアンヌ東雲の感性によるアレンジを施してレコーディングされている。そのアプローチの仕方は、「球体関節」でJoe Meekばりの宇宙サウンドを聴かせてみたり、前アルバム収録曲「おねだりストレンジ・ラヴ」にオリエンタルなイントロを加えたり、"ウッハッ"と「ジンギスカン」を大胆にフィーチャーした「悪魔なファズ」があったりと、ユニークなもの。ジャム・バンドとしての側面を長尺で聴かせる「風景」など、ひと癖もふた癖もある曲たちで世界中を駆け巡るような1枚だ。

マリアンヌの革命

キノコホテル

マリアンヌの革命

約2年ぶり5枚目のフル・アルバムはイメージを覆すアートワークに目が留まるが、その内容もこれまでになくカラフルなもの。マリアンヌ東雲が"最初で最後なんじゃないかっていうくらいのポップ・チューン"と自ら評するTrack.9「流浪ギャンブル(メカ仕様)」では、オートチューンを使ったヴォーカルを披露。一緒に口ずさみたくなるサビメロはとてもキャッチーで、これをきっかけにキノコホテルの音楽の世界に足を踏み入れるリスナーも出てくるのではないだろうか。かと思えばTrack.8「赤ノ牢獄」では延々と続きそうな不気味なループで陶酔的な世界を構築しており、Track.10「月よ常しえに」では美しいバラードで締めくくるなど、聴き応え満載の作品となっている。

マリアンヌの恍惚

キノコホテル

マリアンヌの恍惚

歌謡曲、プログレ、ロックン・ロール、ガレージ......音楽のジャンルなんて作詞作曲&プロデュースを担当するマリアンヌ東雲(歌、電気オルガン、パーカッション)の前では何の意味も持たないのかもしれない。だってそんな概念は五感を鈍くするだけ! 強烈なビジュアルが先行しがちだが、美空ひばりさんのように聴く者の心を動かすヴォーカル、哀愁あるサウンドに安定感あるリズム。どれをとっても完璧でギュッと掴まれるメロディ・センスはさすが。レトロな雰囲気はあるけれど、決して過去の焼き直しではなく、未来的要素、サイケデリックも含んだ物語のような曲構成。女子であることを武器に女子であることを誇りに、そんなエネルギーが詰まっております。

マリアンヌの休日

キノコホテル

マリアンヌの休日

「憂鬱」から「休日」へ。キノコホテルのメジャー第2弾リリースは、「ひらめき」で決めたというマニアックかつカルトな選曲のカバー・アルバム。このようなバンドには、どうしても強烈なコンセプトに囚われてしまい、終始イロモノとして敬遠してしまいそうだが、" ひらめき"とはいえ細部にまで拘り徹底された音作りを体感すると、インパクト重視のそれとは一線を画す、純粋な憧憬と愛情、そして、したたかな知性を感じる。マリアンヌ東雲の色気と愁いが混じり合ったアダルティな歌声にイザベル=ケメ鴨川のうねるファズ・ギターと、圧倒的なオリジナリティが刷新した魅力を醸す......と言いながら原型を知っている若者はどれだけいるんだろう?と疑問が浮かぶ。ググって聴き比べをするのも面白いだろう。

また明日

木下百花

また明日

様々な楽器が賑やかに重なる自由なバンド・サウンドに、束縛からの解放を求める木下百花の気だるげなヴォーカルが揺れる。前作『家出』から半年ぶりとなる今作では、木下自身が作詞、作曲、編曲まで手掛けた。脱力系インディー・ロックがエモーショナルに加速してゆく「家出」。キュートな歌声が映える切ないポップスかと思いきや、チンドン屋風の展開で意表を突く「グリルパインベーコンブルーチーズアボカド」。混沌としたシューゲイザー・サウンドに月下の儚い心情を綴った「月が見える」。ジャンルの境界線など存在しないかのように、自らが好む音を追求した今作は、アイドルからシンガー・ソングライターへ、存在そのものの境界を軽やかに飛び越えた木下だから作れる世界なのかもしれない。

家出

木下百花

家出

冷徹に回り続ける世界の片隅で、自分を変えたいともがき、愛されたいと苦しみながら、それでも美しく生きることを願う。そんな叫びのようなアルバムだった。元NMB48の木下百花が本名名義でリリースする初のフル・アルバムだ。レコーディングには伊東真一(Gt/HINTO/SPARTA LOCALS)、岡部晴彦(Ba)、吉澤 響(Dr/セカイイチ)といったロック・シーンで広く活躍する盤石のメンバーが参加。70年代ニュー・ウェーヴの匂いを漂わせつつ、木下が作詞作曲を手掛けた楽曲の世界観に寄り添った表情豊かなアレンジで、そのヒリついた歌を支える。アイドルの光と闇を痛烈に綴った「アイドルに殺される」など、本心を曝け出した全11曲。最後に置いたスロー・ナンバー「ひかる」に宿る静かな生命力が鮮烈だった。

覚醒ミライ

キミトサイン

覚醒ミライ

ギター・ヴォーカルの白石ひでのりが、ひめキュンフルーツ缶に楽曲提供をするなど、都内を中心に広く活動を行うキミトサインの2ndシングル。収録された4曲すべてが、生きることをテーマにしており、エモーショナルなサウンドもその言葉を後押しする。力強く疾走する弦楽隊と打楽器の中で、メロディに寄り添い、曲のか細い側面を引き出すのは鍵盤の音色。ピアノとシンセを巧みに操り、楽曲の表情に多面性を持たせている。ギターのアルペジオも印象深いミディアム・ナンバーなど、まっすぐでひたむきな気持ちが詰め込まれたシングルだ。ちなみにひめキュンフルーツ缶も9月9日に同曲を表題曲にした同名シングルをリリース。同作の初回限定盤と通常盤でキミトサインの『覚醒ミライ』4曲と同じ楽曲を収録しており、違いを楽しむのも一興である。

この耳鳴りに出会うまでのすべて

THE君に話すよ

この耳鳴りに出会うまでのすべて

都内を中心にライヴ活動するロック・バンド"THE君に話すよ"の1stフル・アルバム。過去曲に"僕のサンボマスター"というタイトルがあるように、サンボマスターやTHE BLUE HEARTSからの影響が大きいという彼ら。その共通点は、決まりきったロック言葉じゃない、自分の中から湧き出る言葉を使って歌っていること。その言葉たちをパンキッシュだったりモータウン調だったりカントリー・タッチだったりと、巧みなアレンジで聴かせている。レコーディング時期、参加メンバーはバラバラのようだが、中村宗一郎が手掛けたマスタリングで統一感のある1枚にまとまっている印象。意識的かどうかはともかく、彼らが出会ってきた日本のロック="耳鳴り"を、聴く者に繋いでいく役割を果たしていってくれそうな気がする。

この世界に花束を

キミノオルフェ

この世界に花束を

丁寧に綴られてゆく一方で、甘美なだけでなく、時には切れ味のいい鋭さまでをも垣間見せるこの歌声からあなたは何を感じるだろうか。蟻(ex-蟲ふるう夜に/Vo)のソロ・プロジェクトとしてスタートしたキミノオルフェが、"ポエトリー・ポップ"なる独自の世界を確立させてからすでに久しいが、今作で聴ける蟻のポエトリー・リーディングと表情豊かなヴォーカリゼーションが、唯一無比で秀逸なものとなっていることは間違いない。"キミ"の物語を紡ぐ吟遊詩人を意味するアーティスト名が、今ここでアニメ作品とのコラボレーションを果たしながら完成させた、この深いイマジネーションを誘う音。それはまさに普遍性と時代性と共に呼応しながら響いていくアンセム――つまりは祝福の歌なのかもしれない。

君が息を吸い、僕がそれを吐いて

キミノオルフェ

君が息を吸い、僕がそれを吐いて

2016年2月に活動終了したバンド"蟲ふるう夜に"のヴォーカリスト、蟻によるソロ・プロジェクト"キミノオルフェ"。配信リリースされる1stアルバムは、ディレクターに椎名林檎、RADWIMPSなどの楽曲プロデュースも手掛ける山口一樹ほか、気鋭のトラックメーカーを多数迎え制作された。軽やかで凛とした歌声と透明感のあるサウンドメイキングが特徴的な本作。ここで歌われているのは、誰かが決めた枠組みにとらわれる必要はないということと、自由ゆえに行きたい方向がわからなくなっても、その悩みをも尊重してほしいのだということだ。蟻自身の原体験と重なる曲もあるように、その葛藤はかつての彼女が抱えていたもの。壁を乗り越えてきた人の歌だからこそ、聴き手に寄り添うことができるのだろう。

VOYAGE

君ノトナリ

VOYAGE

YouTubeでの歌ってみた動画などでseiza名義でも活動する鈴木穂高(Vo/Gt/Key)と、末永優磨(Ba)による君ノトナリのニュー・ミニ・アルバム。"自分自身も誰かの暗闇を照らす光になれる"というテーマが掲げられた今作は、タイトル"VOYAGE"="航海、船旅、宇宙飛行 etc."の通り、煌びやかな星空や夜の海が広がる情景を浮かばせるような音像も多く、君ノトナリが得意としているコンセプトがブラッシュアップされて、より垢ぬけた印象がある。プロローグ的なインスト「Voyager」から物語の幕開けを予感させ、起承転結とも捉えられそうなトラックリストもいい。一音一音へのこだわりが見えるドラマチックなアレンジと、豊かなメロディは聴きごたえ十分。

GOLDEN RECORD

君ノトナリ

GOLDEN RECORD

君ノトナリの1stフル・アルバムが到着。ファンタジックなサウンドと美しい言葉選びというバンドが元来持っていたカラーに加え、佐野森吾(LAST ALLIANCE)とタッグを組んだことにより、彼らの潜在能力が引き出されたようだ。開放感のある「彗星」、あえてワンコーラスに想いを込めた「夜光声」の他、疾走感のある「繚乱レトロニカ」、ポップに振り切った「真夏のオリオン」もキャッチーでいいアクセント。「北極星に魅せられて」は壮大なサウンドの中、鈴木穂高(Vo/Gt/Key)の澄んだ声による詩の朗読で締めくくり、聴き手に余韻を残す。4人体制では最後の作品となったが、すでに彼らは前を向き、悲しみも糧にして動き始めているということで、逞しく歩みを進める彼らの今後には期待しかない。

未完星ドラマチック

君ノトナリ

未完星ドラマチック

誰も楽器なんて持ってないけど、バンド組もうって声をかけたら集まれてしまう、学生の好奇心と勢いってめちゃくちゃ素敵だと思う。"君ノトナリ"も、そんなノリで結成された中学の同級生4人組。彼らのデビュー作となる今作は、バンド名でもある"君の隣"をテーマに、エレクトロな要素もとり入れたギター・ロック・サウンドと抜群のメロディ・センスで紡がれた珠玉の6曲を収録。特に、被災地に足を運んだ際の想いを歌ったTrack.2「311号室」や、親を亡くした友達に電話越しで即興で歌ったTrack.6「きれいごと」など、人の痛みや悲しみに目を背けず、隣で寄り添うことを選んだ彼らの強さと優しさには思わず胸が熱くなる。弱冠19歳、まだまだ"未完の星"である彼らだが、今後その輝きはどんどん増していくに違いない。

アリスとテレス

天才バンド

アリスとテレス

奇妙礼太郎を擁する"天才バンド"が2ndアルバムにしてメジャー・デビュー作をリリース。今作では、Sundayカミデ(Cho/Pf)がソングライティングしている9曲と、スタジオ・ジャム・セッションの6曲で構成したボリューム満点の15曲を収録。前半では、"えぇ、酸いも甘いもすべて味わって参りました"とでも言っているかのようなイイ感じの年齢3人によるラヴ・ソングの攻撃。Track.3においては、サビの"好きだよ"のあとに1小節の"間"があることで、この楽曲の素晴らしさ(むず痒さ)が際立つ。いつかの思い出を美しい記憶に留めておきたいTrack.5や、誰かと行った海を眺めに行っちゃうTrack.6など、どれも男の本音をハッキリと表現したストレートな楽曲ばかり。秋の夜長に聴きたい哀愁漂う大人のロックンロールな1枚だ。後半では、子供のようにはしゃぐ姿が容易に想像できるジャム・セッションで、一緒に踊り狂えます。

アインとシュタイン

天才バンド

アインとシュタイン

さまざまな形態で活動するヴォーカリスト、奇妙礼太郎が新たに結成したトリオ・バンドの1stアルバム。ギターは奇妙が担当し、ピアノにはこれまでもライヴ、作品で共演してきたSundayカミデ、ドラムにトラベルスイング楽団で活動を共にするテシマコージを配している。3人によるリズム主体の演奏は、もしかしたら1番彼に合っている編成なのではないだろうか?と思わせるほど見事にマッチしており、Track.1「天王寺ガール」からいきなり心を鷲掴みにされてしまった。ライヴでの人気曲「君が誰かの彼女になりくさっても」の再演も感動的に胸に響く。シンプルなピアノとドラムが運ぶ美しい旋律が力強くも押しつけがましくない奇妙の歌声でより際立っている。2014年の名盤リストに早速入れておきたい1枚、素晴らしいです。

GOLDEN TIME

奇妙礼太郎

GOLDEN TIME

関西を中心とした旺盛なライヴ活動で昨年より注目を集め始めた奇妙礼太郎トラベルスイング楽団。その中心人物となる奇妙礼太郎の一風変わった1stソロ・アルバムがお目見えだ。このアルバムには、自身の弾き語りとバンド・サウンドを交えたソロ・サイド、そして彼の率いる奇妙礼太郎トラベルスイング楽団・サイドの2枚組構成で、彼の魅力を楽しめる作りになっている。シャンソンの名曲「オー・シャンゼリゼ」やユーミンの「ルージュの伝言」などといったカヴァー曲が彼の持つ歌の世界観に溶け込んでいるのも驚きだが、こうした明るくも悲しげな人生賛歌に素っ頓狂に温かくも柔らかな彼の歌声が乗ると、乾いた僕たちの心にどこまでも沁みるのだ。時代錯誤?いいや、これこそ今聴かれるべきシティ・ポップ!

キャンボリズム

Theキャンプ

キャンボリズム

地元名古屋で開催された"SAKAE SP-RING 2013"ではCLUB QUATTROで入場規制、大阪"見放題2013"においても入場規制を記録するなど、早耳リスナーを魅了する注目の4人組バンド、Theキャンプの初全国流通盤。前作『フェスティバル』から4年ぶりとなる今作は、とことんハッピーなメロディや、優しく歌い上げるバラード、さらにはサンバ調のリズムまで駆使した音楽性の幅広さが伺える作品。しなやかに真っ直ぐと伸びる伊藤洋平(Vo)の歌声は、アレンジに凝った楽器隊の緻密なアンサンブルに乗せて力強く響く。ヨウヘイコバヤシ(Ba)の生み出す騒がしい程バイタリティに富んだ楽曲と、穏やかな歌が楽しめる伊藤作曲の楽曲が同居した、お祭りの1日のような作品。

出現!鼠浄土

キュウソネコカミ

出現!鼠浄土

10年前、"ビクター"への所属を発表し、当時の音楽シーンを揶揄した「ビビった」では"メジャーに行って1、2年で消えるバンド多過ぎクソワロタ"なんて歌っていたキュウソも、メジャー・デビュー10周年。随所に出てくる同曲へのセルフ・オマージュに思わずニヤリとしながらも、共に歩んできたファンへ向けたやけに素直な歌詞にうるっとくる「ネコカミたい」を筆頭に10曲が収録された。世相を斬る「わや」や「正義マン」の秀逸な皮肉には痺れるが、「一喜一憂」や「やってみようぜヒーロー」の心を救うような温かなポジティヴィティも印象的。同棲相手やペットとの別れの描き方もあまりにまっすぐだ。鋭い着眼点はそのままに、ひねくれたシニカルさよりも大切なものへの愛が際立つ。

モルモットラボ

キュウソネコカミ

モルモットラボ

前作『ハリネズミズム』と一対のミニ・アルバムとなる今作。オープニングを飾る「3minutes」はこの時代ならではな"三密"をテーマにしており、どんな状況でもプラスに転換して音楽を続けていく確固たる意志を感じる。バンド結成10周年を迎えた2020年はライヴが思うようにできない歯痒さがあったと思うが、それをサウンドで跳ね返すようなキュウソ節が鳴り響く。また、情報が溢れるインターネット社会に喝を入れる、オカザワ カズマ(Gt)プロデュースの「囚」や、センチメンタルなメロディが印象的なカワクボ タクロウ(Ba)作詞/プロデュースのミドル・ナンバー「薄皮」も収録。"挑戦"と"実験"を絶やさず、バンドのスケールを拡大させ続ける彼らに2021年も期待をせずにはいられない。

ハリネズミズム

キュウソネコカミ

ハリネズミズム

結成10周年&ねずみ年という、キュウソにとってWメモリアル・イヤーの幕開けとなる1枚が到着した。今作には新曲に加え、現在は手に入らない1stデモ収録のレアな2曲の再録版も収録。"10年経っても世界は継続"(「適当には生きていけない」)という言葉の重みが増しているものの、スピリットは当時のままであることを示している。そしてリード曲「冷めない夢」からは、彼らにとっての冷めない夢が"キュウソネコカミ"なのだろうと実感。この曲をラストに置くことは、どうしても周囲と比べてしまいがちなSNS世代の心を震わせることに奏功するだろう。今年は"SXSW"出演も発表されているが、ジャケットのハリネズミのように、バチバチと火花を散らし、アメリカでの刺激と戦う姿が目に浮かぶ。

ギリ平成

キュウソネコカミ

ギリ平成

愚直に自らを振り返り、キュウソというバンドの生き様を曝け出した前シングルの2曲や、"クボタ LOVE米プロジェクト"への書き下ろし曲「米米米米」を含む新アルバム。お馴染みの"こういう人いるよね"とディスを吐くナンバーもあるが、変拍子も挟むスタイリッシュな音像の「遊泳」、青春パンク感のある「真面目に」などは、サウンド面ではキーボードの使い方がこれまでとは違って新鮮でありつつ、歌詞の方はヤマサキセイヤ(Vo/Gt)個人の心の内を映す叫びにも聴こえて、より血が滾った要素が増えていると感じた。その流れを汲むと「推しのいる生活」も"推される"側のバンドマンからのメッセージにも聴こえてくる。リアリティの路線が少しずつ変わってきている過渡期の作品ではないだろうか。

越えていけ/The band

キュウソネコカミ

越えていけ/The band

新曲発表のたびに、今回は世の中のどこに焦点を当てて噛みつくのだろう、と思うのもキュウソの魅力のひとつだが、この新作はこれまでとはひと味違う一面が窺えるものだった。アニメ"メジャーセカンド"OP曲の「越えていけ」は、世の中に噛みつくのではなく、自分自身と戦い今の自分を"越えていこう"という、かつてないほどにシンプルな応援歌。そして「The band」では、"楽しさだけ"を求められることが多いキュウソというロック・バンドの生き様をその鋭い目線から描いている。過去最高にストレートにバンドの苦悩や本当にやりたいことを曝け出すからこそ、真に迫る凄まじさがそこにある。5人と"リアルタイムで出会えた"からこそ、彼らの音楽に笑った人は今こそ共に"楽しい"の先へ行くときだ。

にゅ~うぇいぶ

キュウソネコカミ

にゅ~うぇいぶ

すっかり邦ロック・シーンに欠かせない存在となったキュウソの新作。これまで数々のエッジーでダンサブルな楽曲に不平不満を乗せてボヤき散らしてきた彼らだが、まだまだ言いたいことは収まらず、今作では"詐欺写真"、"メンヘラ"、"おじさん好き女子"などに現実を突きつける。そんななか、ぽつりと収録されていた「TOSHI-LOWさん」には笑ってしまった(もちろんあの"鬼"への愛が込められた楽曲)。だが、ただ現代を俯瞰的に面白おかしく皮肉るだけではなく、「5RATS」、「わかってんだよ」では彼らの中に今沸々と湧く闘争心や野心をむき出しにする。結成から8年、"バズらせ系バンド"先駆者として邦ロック界における確固たる地位を築いてきたと言えるキュウソ。5人が目指す、さらなる高みに期待。

人生はまだまだ続く

キュウソネコカミ

人生はまだまだ続く

"2ndフル・アルバム『大事なお知らせ』をブラッシュアップさせたもの"というコンセプトで作られた今作は、この3年でバンドがスキル・アップし、許容範囲が拡大したことを感じさせる。エッジーなギターとシンセが疾走する"THEキュウソ"な楽曲はもちろん、キュートで人懐っこいリフも印象的な「NEKOSAMA」、ピアノの音色とエフェクティヴなギターが和メロを引き立てる「春になっても」など、フル・アルバムだからこそ収録できる楽曲の存在は作中で大きなアクセントだ。歌詞も単なるディスではなく、成長や味わいを感じさせるものが多いが、「ヤブ医者」は"うるせぇバーカ!!"と初期のように全力で不平不満をまき散らす。今も過去も全部詰めこんだエネルギッシュな作品、非常に痛快だ。

DMCC-REAL ONEMAN TOUR- ~ドコまでもチョコチョコ~ Live in STUDIO COAST

キュウソネコカミ

DMCC-REAL ONEMAN TOUR- ~ドコまでもチョコチョコ~ Live in STUDIO COAST

今年1月24日のライヴを早くも映像化。成長期真っ盛りなバンドの記録をリアルタイムなものにするために極短スパンでリリースする必要があったのだろう。この作品は言うなれば成長痛の記録だ。フロアの人波に揉まれるスタッフ目線やクレーン・カメラによるカットなど、20台超のカメラによる映像は会場の熱狂をダイナミックに映し出すと同時に、葛藤の最中でもがくバンドの姿をも浮き彫りにした。"楽しみながら多くの人を巻き込んでいきたい""でもファン全員に楽しんでもらうためにはやりたい放題では済まない"――つんざくような葛藤の中から手を伸ばし、キュウソは如何にして歓喜を掴んでいくのか。どんなエンターテインメントを描いていくのか。泣き笑いに満ちた過程の熱さがヒシヒシと伝わってくる。

大事なお知らせ

キュウソネコカミ

大事なお知らせ

前作『10代で出したかった』が一部のインディー・ロック好きの間で話題になり、最近ではライヴの動員も急上昇中。共感できるような気もするし、そんなこともないような、知らんがなとツッコミたくなるような歌詞とやたらとキャッチーなダンス・ロック、衝撃的なライヴ・パフォーマンスで今やネクスト・ブレイカーの一角に挙げられることも多い彼らの2ndアルバム。前作から曲の構成力は格段に増し、各パートの輪郭が顕著になり、メリハリのついたサウンドに悔しいけど体が揺れる。ツイン・ヴォーカルの必然性も一段と増し、しっかりとキャラクター分けができており、お互いが曲のアクセントとなっている。もっと、見るからにストイックに魂を削ってます感溢れるバンドが売れるシーンが望ましいのかもしれないが仕方ない、彼らは面白い。

10代で出したかった

キュウソネコカミ

10代で出したかった

約束しよう、この音源を聴き終え、特に予定も無く街を歩いている時にふと"ヤーンキーこーわいー"と口ずさんでしまう事を。日本のインディー・ロック・シーンにありがちなダンス・ロック・サウンドと彼らは全く違う、彼らは段違いに"面白い"。コミカルな詞の世界観、凄まじい熱量でそれを体現するライヴ・パフォーマンス、そしてMC、全てが1つのエンターテイメントとなって笑えるのは間違いないのだが、彼らは決してコミック・バンドに収まらない音楽的IQの高さを持っている。全てが計算なのか偶然の産物なのかは正直わからない。しかし多様な音楽を吸収するというよりは貪り食っているかの如く超展開していく彼らの音が非凡であるという事は、このアルバムを聴いていただければ伝わるはずだ。

BOYFRIEND EP

清 竜人25

BOYFRIEND EP

清 竜人が"今までで一番好き"と話すナンバー「KARESHIいるんだって」収録のEPが到着した。ブラスやウォーキング・ベースを取り入れミュージカルっぽくもジャジーにも聴こえる華やかな印象に加え、こなれ感もある技ありの同曲。編曲はSUKISHAで前回に続き抜かりない人選に唸る(清 竜人の振り切り方に破顔必至のMVも注目)。また原曲とガラリと雰囲気を変えた新録版「アバンチュールしようよ」には驚き! キラキラした'90s風のムードを纏いつつ細かなアクセントが光る新感覚な耳心地が楽しい。その他、彼等の代名詞"多幸感"満載の人気曲「LOVE&WIFE&PEACE」も現夫人たちの声で味わえ、ZOMBIE-CHANGとDJ DISKによるユニークな既出曲のリミックスもパッケージ。

青春しちゃっていいじゃん / Will you marry me ?

清 竜人25

青春しちゃっていいじゃん / Will you marry me ?

清 竜人がプロデューサー兼メンバーで、一夫多妻制アイドルで、7年ぶりの復活で......とトピックだらけの彼らだが、その魅力の軸は曲だと言いたい。SSW活動に加え、数々のアーティストにも魔法をかけるように、世界観を底上げする曲提供をしてきた清 竜人。「青春しちゃっていいじゃん」はキャッチーで楽しくありつつ、手を叩いて横揺れしたい洒脱な仕上がり(編曲はTENDRE)。夫人たちのハイトーンと"竜人くん"の耳心地の良いスモーキー・ヴォイスで、甘さと色気をたっぷり届ける。また10年前のデビュー曲でリアレンジし配信していた「Will you marry me ?」も収録。幸福感を湛えた可憐な物語の1ページ目に、恋の始まりのようにドキドキしっぱなし。