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LIVE REPORT

Japanese

Lucky Kilimanjaro

Skream! マガジン 2024年05月号掲載

2024.04.21 @日比谷公園大音楽堂

Writer : 稲垣 遥 Photographer:田中聖太郎

"思い出の舞台"。熊木幸丸(Vo)がそうコメントした日比谷公園大音楽堂にLucky Kilimanjaroが帰って来た。遡ること3年。2021年にも同じく"YAON DANCERS"と銘打って開催した日比谷野音ワンマンは、おそらく彼らにとって、"自分たちのスタイルはこれなんだ"と目指すべきラッキリ(Lucky Kilimanjaro)の方向性を定めるきっかけになったライヴだったのではないだろうか。

しかし、当時はまだコロナ禍で、ソールド・アウトだったものの動員にも人数制限があったのが心残りだった。3年ぶりの今回は、もちろん人数制限はなし。直前には関係者エリアも開放され、正真正銘のソールド・アウトで迎えた当日。あの日のような雨がパラつく曇り空のもとに、多くの男女が集っていた。

今回は、前回のリベンジ的な想いも込めて、この3年間で鋭く磨き上げた鉄板のダンス・チューンを中心にお見舞いしてくれるのだろうかと思っていたが、それだけではなかった。バンド結成10周年の幕開けとして、結成時のナンバーから、リリース前(公演時)の新曲までなんと32曲(!)の史上最長セットリストでオーディエンスを踊らせ続けた一夜となったのだった。

SEが鳴りメンバーが位置につく。シンセサイザーがリズムを刻むと自然に生じるクラップ。そこに熊木がラフな感じでEP『FULLCOLOR』収録曲「Super Star」の一節を歌いながら登場するオープニングだ。"ダンスは自由です。自由に踊れますか?"と曲中いつも通り問い掛けた熊木への観客の反応も良好。すでに準備万端の様子の会場だが、この曲のアウトロに"ハッピーヒマラヤみたいなバンドを聴く"と次の曲のフレーズがループして重なり、「350ml Galaxy」へ突入するといった、ラッキリ名物のシームレスな繋ぎが繰り出されるごとに、より輪を掛けて観る者の気持ちを昂らせていく。"やけ酒じゃなくて、うまい酒がよなよな飲みたい"と歌いながらジョッキを掲げる熊木と一緒にフロア中で掲げられたドリンクを持った手の数々。一気に祝祭感が広がった。
柴田昌輝(Dr)のダイナミックなドラム・ソロからロマンチックで陶酔的な「楽園」、ソウルフルで少しコミカルさもある「ZUBUZUBULOVE」と前回の野音後に生まれたカラフルなナンバーに続いては2018年のメジャー1st EP『HUG』から日常に潜んだ幸せを描いた「Sweet Supermarket」と、まさに新旧どこからくるかわからない選曲で、イントロやインタールードでフレーズが聴こえてきた瞬間の喝采から、ファンがそのドキドキを楽しんでいるのが伝わってきた。

また時間の経過と共に照明の演出が際立ってくるという変化も味わえるのがこの野音だが、「またね」ではブルーとピンクの光が、春の儚さと美しさがない交ぜになった曲の世界観を際立たせたし、山浦聖司(Ba)がキレのあるスラップ・ベースで盛り上げてから、カラフルなライトをバックに届けたフィルター・ハウス「後光」の迫力も格別で、野音が揺れていると錯覚するような、前半のハイライトと言える出来だった。
熊木のファルセットによるアプローチが新鮮なこの2曲は、その抜けの気持ち良さのおかげでなんとも爽やかで洒脱。しかしラッキリのオーディエンスはゆるく揺れるのではない。熊木は自身のライヴで解放的に踊る観客の姿を思い「後光」を作ったと言うが、まさに"本来光はステージじゃなくてみんなを照らすべき、バンドはみんなの後光"というこの曲のメッセージを体現するような、エネルギーに満ちたダンサブルなフロアがどこまでも広がっていたのだった。

浮遊感のある印象的なシンセサイザーのリフが響くと「Magical Gravity」へ。レアな選曲にどよめきにも似た声が沸いた。初期の曲はよりシンセサイザーが大胆に押し出され、バンド感も強く、ジーコこと松崎浩二(Gt)や大瀧真央(Syn)の見せ場にも大いに盛り上がってゆく。
そんな新鮮さも感じさせてから、近年TikTokでのバズをきっかけに新たな若いリスナーを引き込んだ1曲「Burning Friday Night」に突入。"踊ろう 涙忘れて"と思わず一緒に声を上げて歌ってから、"あれ? ラッキリってこんなふうにシンガロングするバンドだったっけ?"と気づく。そういえば「Drawing!」、「後光」などで曲中のボルテージの上昇と共に、自然発生的に上がった自由な歓声も、これまでのワンマンで感じた以上のものだった。コロナ禍が明けたという変化だけではない、参加しているファンの熱量の増加というのをひしひしと実感した場面だった。

また、何も考えず楽しく踊ることも必要だが、"楽しい"だけでない様々な感情を胸に抱え日々を生きている我々が、それを表出する術としてのダンス・ミュージックというのも、近年のラッキリが大切にしていること。それがより押し出されたのが後半戦だったように思う。
シリアスに聴き手を鼓舞するメッセージが刺さるソリッドな「KIDS」で一段階温度を上げてから、ラミ(Perc)のパーカッションと柴田のドラムによるヒリついたインタールードを挟み、"自分の意思を決めたら/それを信じるまでだ"という力強い歌が大きなリズムに乗って歌われる「Do Do Do」。そこから一転ビートや低音をグッと削ったアプローチに切り替わっての、優しさがテーマのナンバー「SAUNA SONG」の流れが涙腺を刺激する。そのうえ畳み掛けるように、より音数を削り、部屋でぽっと灯りをともすようなミニマルでスロウで温かなラヴ・ソング「咲まう」を熊木がステージに腰掛けたりしながらそっと歌うと、ファンタジックなストリングスが彩る「MOONLIGHT」では3年前の絶景をもう一度。ステージ上の大きなミラーボールがキラキラと輝き、それをさらに雨粒が反射して光の粒が会場に降り注いだのだった。

得も言われぬ感動的なムードが野音を包み込み大きな拍手が送られたあと、"ここから、てっぺんまで踊り切りたいと思います。登れますか「YAON DANCERS」!?"と熊木が笑うともう笑みが零れるような声で応えるオーディエンス。"ワン、トゥー、スリー!"の合図で「Kimochy」からいっぺんにダンス・フロアのできあがりだ。珠玉の強力ダンス・チューンの波になだれ込んだのだが、中でもボサノヴァのリズムの「踊りの合図」で端から端まで両手が挙がり祭りの様相になってからの、より民族的に"踊る"ことに振り切った「でんでん」の狂騒的な雰囲気は圧巻で、あとでジーコが形容したが"トんでる"と言いたくなるのもわかる熱狂ぶりだった。無我夢中で踊りまくらせたところで、"必要ない日々も/愛の過程だと信じている"と歌う新曲「実感」を投下したのもなんだか意義深い。新曲でもクラップの勢いが落ちることがないのも最高だ。
"これまで10年、一緒に踊ってくれてありがとうございました! これからも10年、一緒に踊ってくれますか? 最後の曲です!"(熊木)と「ひとりの夜を抜け」を全力でやり切ったメンバーたちは、見事本編28曲をほぼノンストップで駆け抜けた。

"ありがとうー!"の叫びが客席から沸くなか、歓呼に応えたアンコールは、3年前の"YAON DANCERS"のオープニングを彷彿させる、トライバルなSEからの「太陽」でスタート。そして、"雨でも踊りたいっすよね?"と、「雨が降るなら踊ればいいじゃない」へ(聞くとやはり天候に合わせて用意されたものということでニクい)。3年前の野音公演も雨だったので、今年は雨もリベンジできれば......なんて思っていた人も、もう雨も慣れっこ、どころか"ラッキリらしい"、"かかってこい"くらいになっていたんじゃなかろうか。そう思うくらいの、翌日が月曜にもかかわらずびしょ濡れで踊るタフなオーディエンスが愛おしい。
"初心に返って最初のEPからもう1曲。知ってる人も知らない人も自由に踊ってください"ととっておきのレア曲「Call Me Baby」をプレゼントしたフィナーレでは、"来年2025年2月16日幕張メッセでライヴをします!"と熊木からサプライズ発表も! そうして熊木以外のメンバーそれぞれからも感謝の言葉とこれからもよろしくといった約束が交わされたあと、"僕が言いたいのはひとつです――明日からも踊ってください。この10年もそうしてきたでしょ? あと10年一緒に踊りましょうよ。みんなが踊れるために音楽をやってます。毎日を楽しく過ごすために音楽をやってます。Lucky Kilimanjaroでした"(熊木)とバンドのアンセム「君が踊り出すのを待ってる」で大団円。
幕張メッセという大舞台へ向けて、彼らはまた踊りながら挑戦を続けてゆく。


[Setlist]
1. Super Star
2. 350ml Galaxy
3. 風になる
4. 楽園
5. ZUBUZUBULOVE
6. Sweet Supermarket
7. またね
8. Favorite Fantasy
9. Drawing!
10. Fire
11. 後光
12. Magical Gravity
13. Burning Friday Night
14. 春はもうすぐそこ
15. エモめの夏
16. KIDS
17. Do Do Do
18. SAUNA SONG
19. 咲まう
20. MOONLIGHT
21. Kimochy
22. 果てることないダンス
23. 踊りの合図
24. でんでん
25. 実感
26. 無限さ
27. HOUSE
28. ひとりの夜を抜け
En1. 太陽
En2. 雨が降るなら踊ればいいじゃない
En3. Call Me Baby
En4. 君が踊り出すのを待ってる

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