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LIVE REPORT

Japanese

Lucky Kilimanjaro

Skream! マガジン 2023年08月号掲載

2023.07.02 @豊洲PIT

Writer : 石角 友香 Photographer:石井亜希(田中聖太郎写真事務所)

4月リリースのニュー・アルバム『Kimochy Season』を携えたツアーのファイナルである豊洲PIT 2デイズはソールド・アウト。今回は2日目の模様をお届けする。楽しいだけじゃない、切なさも含む"気持ちで踊れる"アルバムであり、四季の移ろいも表現したアルバム『Kimochy Season』が主軸になるとは思っていたものの、結論を言うとアルバムの13曲の倍のボリュームで本編を構成するというフル・ボリューム且つ既発曲との接続もなんら違和感のないライヴを完遂してみせたのだ。

メンバーが登場して大瀧真央(Syn)のフレーズに続いて柴田昌輝のフル・ボリュームのドラムが響く。音作りもバックライトでステージ上のメンバーが見えないのも、この場所がすべてダンス・フロアというメッセージに思える。「光はわたしのなか」でスタートし、早くも人力でビルドする構成にフロアは歓喜。冒頭からレイヴっぽいモードに突入して熊木幸丸(Vo)の"踊れますか!"の呼び掛けからアルバムのタイトル・チューン「Kimochy」へ。エレクトロ・ファンクのニュアンスに祝祭感が伴う。弾むビートをラミのパーカッションがアクセントをつけて痛快だ。いったん流れにブレイクを入れてエンディングでさらに盛り上げるのもフロア仕様。イントロから大きなクラップが起きた「果てることないダンス」では柴田のスネアの連打でビルドし、ドロップと共にファンのジャンプもより高くなる。ぐっと温度感がクールになる「Heat」の想像の冬から「ひとりの夜を抜け」の繋がりはまさに冷たい孤独な夜を抜けてきた感情にフィットする、ナイスな繋がりだった。

収縮するシンセの鼓動と人力ハイハットの精緻さにツボを押される「Drawing!」。個人的な感慨なのだが、豊洲PITでこんなに音のいいライヴは初めてかもしれない。自然と首でリズムを刻んでしまう。冬のタームの中でも日常的だが実はとても切ない「掃除の機運」を挟み、ミディアム・チューン「越冬」へ。悔しさも愛しさも生きているからこそ感じることで、他者との繋がりを希求する思いもまさに"越冬"なのかもしれないと思った。

「MOONLIGHT」のロマンチックなストリングスが季節の移り変わりを告げるような効果を上げ、不安げな歌い出しの「地獄の踊り場」へ。生音と同期で作り上げるドラムンベース、そしてラップ・パートへとダイナミックに変遷するこの曲の個性はツアーを経てさらにソリッドになったようだ。対照的に土臭いソウル感すらあるバラード「咲まう」では生身のバンド感が際立ち、これからどんなことがあってもぽっと咲くような笑顔に癒される――そんな穏やかな心持ちが美しいメロディや熊木と大瀧のデュエット、松崎浩二の生な音色のギターによって胸に迫るものになっていた。
しっとりと優しい気持ちになったあとはホリデー・モード。「Burning Friday Night」では松崎が前に歩み出てソロを弾き、山浦聖司(Ba)のさりげないスラップもフロアをグルーヴさせる。「週休8日」では"リラックス"で声を合わせ、"みなさん、今日ここは夏です"という熊木のひと言とタイトル・コールで突入した「エモめの夏」のシンセの煌めきとホワイト・アウトしそうな照明のミックスは実際の季節感を追い越していく。

熊木の芝居めいたアクションだけでなく、メンバー全員少し劇団っぽい佇まいを見せたのは「千鳥足でゆけ」。"豊洲PIT、そんなもんじゃないでしょー!"という熊木の煽りに応えて、サビの"Hey, Catch me"のリフレインもジャンプも凄まじいテンションになった「KIDS」。コロナ禍でもフィジカルの自由さを決して奪われなかったLucky Kilimanjaroのライヴにシンガロングや声援が解除されたファンの発するエネルギーは明らかにステージを鼓舞している。「KIDS」で立ち上がったナイーヴな心象は「闇明かし」にスムーズに繋がる。今回のセットリストの中で唯一シリアスなムードが漂うこの流れは歓喜のジャンプとはまた違う、自分を見つめながら身体を揺らすことのかけがえのなさを具現化していたと思う。

再びフロアに着火するように「太陽」を投下し、季節は少しずつ夏後半の様相を呈し、さらにその感覚を「ファジーサマー」の切なさが掻き立てる。一転、"生ビール乾杯"が恒例の「350ml Galaxy」の演奏時には客席でも見知らぬ同士の乾杯が行われていた。ライヴハウスならではのムードでもあるし、ファンに余裕がある感じなのが居心地いい。終盤に向けて、まだまだ盛り上がるステージ。「HOUSE」のサビではスモークの特効もあり、パーティー・ムードが加速する。同じBPMで繋いだ「辻」のピアノ・ハウスも大人っぽい味わい。再び恋に落ちていく歌の主人公は新しい季節に歩みを進めるようで、新旧の楽曲からなる構成がしっかり季節と心情の変化を盛り上げていることにちょっと感動してしまった。

平熱に戻るような「またね」のラストで熊木は"我々、「またね」、まだしたくないですよ。みなさんいかがですか?"と問い掛け、歓声で応えるファンにサンバのリズムの「踊りの合図」で、もうひと盛り上がり作ることを知らせる。"めちゃくちゃ気持ちいい夜でした。みんなありがとう"と熊木が謝辞を述べると、ニュー・アルバムの1曲目で、今作が示した"踊ることの意味"をある意味シリアスに綴った「一筋差す」を披露。そして本編ラストはアルバム同様「山粧う」。熊木の弾くアコギも有機的なグルーヴにひと役買っていて、生バンドの洒脱な演奏にこのバンドの新鮮な側面を見た締めくくりだった。加えて、季節の移り変わりはもちろん、少年期から青年期への変化、孤独な時間も愛する人との穏やかな時間のどちらも知ったうえでの成長、そうしたものをファンと共有する場になっていたことがとても美しかった。

鳴り止まないアンコールに応えて、シャッフルするビートに自ずとハンド・クラップも大きくなる「人生踊れば丸儲け」で応えたあと、熊木は"ダンス・ミュージックはみんなが踊って歌って楽しんでるのを見るのが楽しい。だから今回のツアーはやって良かった。最高! バンドやってきて良かった"と、素直な心情を吐露。来年は結成10周年なので楽しみにしていいという発言や秋から始まるツアーの発表もあり、熱しきったフロアがさらに熱くなる。ツアーをやり遂げ、ここからまた始まる挑戦を歌うようにラストの「君が踊り出すのを待ってる」は喜びに溢れていた。

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