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INTERVIEW

Japanese

Lucky Kilimanjaro

 

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Member:: 熊木 幸丸(Vo)

Interviewer:蜂須賀 ちなみ

Lucky Kilimanjaroがシングル『無限さ』を本日10月18日に配信リリースした。7月にリリースした『後光』が夏の開放的な空気を感じさせるシングルだったのに対し、今回はもっと内省的なテンション。"楽しい"だけがダンス・ミュージックではない、私たちが生きる中で抱く様々な感情に寄り添ってくれるのがダンス・ミュージックなのだと発信し続ける彼ららしいシングルと言えるだろう。全国ツアー[Lucky Kilimanjaro presents. TOUR "YAMAODORI 2023"]出発前に、バンドの姿勢を改めて提示しようという意図もあったそうだ。この2曲について、そしてリリースから8年を経てリバイバル・ヒットした「Burning Friday Night」(2015年リリースの1stミニ・アルバム『FULLCOLOR』収録)について、作詞作曲の熊木幸丸に話を訊いた。


誰かと繋がることに幸福を見いだす感覚をちゃんと表現したくなった――一方で、人から何か言われて"うるさい!"と思うときもある(笑)


-シングルの話に入る前に、前回のインタビュー(※2023年8月WEB掲載)でも少し話題に上がった、「Burning Friday Night」がバズった件について聞かせてください。自分たちの曲に振付がつき、広まっていく様子を見て、どんな感想を持ちましたか?

世界は広いなと思いました。TikTokを普段から使っている人が「Burning Friday Night」という曲とパッと出会ったときに、これまでLucky Kilimanjaroのライヴに来ていた人とは違う文脈であの曲を解釈して、ああいう振付をつけて......「Burning Friday Night」の世界線がまたひとつ拡張された感じがして、とても面白いなと。そういう意味で驚きがありましたし、みんなの在り方の幅広さみたいなものを感じました。

-TikTokはある意味ダンスが溢れている場ではありますが、そもそも熊木さんはTikTokをどのように見ていますか? Lucky Kilimanjaroが掲げる"ダンス"と同じものとして捉えているのか、違うものとして捉えているのか。

TikTokをやっている人は何か表現したいことがあって動画を上げていると思うので、そこには絶対に自分自身が出るじゃないですか。なので、たとえ同じ振付でも"私は本当に金曜日を楽しみたいんだよ"という想いが乗っていれば、それはすべて創作だし、いいんじゃないかと思います。僕が求めているのは、"自分の曲を正しく理解し、消費してほしい"ということではなく、"その先にあるあなたたちを見せてください"ということなので、かなりポジティヴな気持ちでいます。一方で、消費のされ方はまったくコントロールできないものなんだなと感じました。"俺はこういうふうに音楽を楽しんでいるよ"と伝えても、そことは違うところで消費されることもあるよね、という。

-2015年リリースの曲に光が当てられたということに関してはいかがですか? おっしゃる通り、消費のされ方はコントロールできないし、それはどの曲がどのようにヒットするのかコントロールできないということでもあると思います。一方でバンドを続けるなかで、バンドの演奏やソングライティングの技術は年々上がっているはずだし、ミュージシャンとしてそう在りたいという気持ちがみなさんの中にはあるんじゃないかと。

まぁ、みんなの人生ですからね。別に「Burning Friday Night」だけがずっと好きでもいいですし、"やっぱりラッキリ(Lucky Kilimanjaro)は古い曲のほうが好きだな"という人がいてもいいと思います。僕自身、"この作者は最新作が一番カッコいい"と思えないこともありますし、そこは"まぁ、いいんじゃない?"という感じです(笑)。僕は今自分が一番いいと思う曲を常にリリースしていますけど、それをみんなが好きになるかどうかは別だと思うんです。もちろん、新しい曲を好きになってもらえたら嬉しいですけど、それは"僕は音楽的に新しいことができて面白かった。それに共鳴してくれる人がいて嬉しかった"という話でしかない。"好き"という感情は、その人がこれまでどんな生き方をしてきて、どんな考えの持ち主で、今たまたまこの曲と出会って......という化学反応の結果だと思うので、そこには干渉しなくてもいいかなと。ライヴでは、過去の曲もいかに今のスタイルで表現しようかと考えながら作っていますけど、お客さんの聴き方に関しては"どうぞご自由に"というスタンスでいます。今回の「Burning Friday Night」に関しては、2015年にリリースされた曲と2023年を生きている若い人たちの人生が繋がったということで、"面白かったな"という感じです。

-よくわかりました、ありがとうございます。ではシングルの話を。そういえばLucky Kilimanjaroは配信シングルの場合、2曲一緒にリリースするケースがほとんどですよね。アーティストによっては1曲のみという人もいますが。

"2曲ぶん枠があるなら、曲いっぱいできているし、まぁ出すよな"という軽い気持ちからではあるんですが、僕の場合、ストックしておいた曲を次のタイミングに出すことがあまりないんです。過去に思いついたアイディアに、時間が経ってからリベンジするということはありますけど、"そうだ、あのとき作った曲を出そう"という発想になることはないです。自分の技術も、環境も、歌いたい内容も変わっていくから、(昔作った曲は)メンバーとの選曲会議の中で一度候補に上がったとしても、最終的には"なんか違うよね"、"ちょっと古い感じがする"という話になるんです。そのときに作った曲はそのときに出したいという性格なので、2曲出せるのは非常にいい。それに、今自分が思っていることをふたつの面から表現することでより立体的に伝えられるし、お客さんにも楽しんでいただけるのかなと。

-前回のシングルの「後光」は、今年5~7月のツアー[Lucky Kilimanjaro presents. TOUR "Kimochy Season"]で全国を回っていた時期に書いた曲でした。今回の2曲はいつ書きましたか?

どちらも8月中に書いた曲です。いくつかの夏フェスへの出演を終えてから、改めて"今の自分の気持ちはなんだろう?"と落ち着いて考えながら作り始めたと記憶しています。

-前回のシングルは"夏の開放感の中で踊る"といったテンションでしたが、今回はもう少しベクトルが内に向いているというか、自分の心の機微に目を向けている感じがしますね。

そうなんです。やはり僕の中には"こういう表現でこそめちゃくちゃ踊りたい"という想いが強くありますから。ありがたいことに、今年はいろいろな夏フェスに出させていただいて、ステージのトリなど、重要なポジションもたくさん務めさせていただきました。そのなかで"みんなとすごく楽しく踊れたな"という感触も得つつ、一方で自分はダンス・ミュージックの"気持ちを繊細に乗せられる"という部分をすごく大事にしているから、そこのバランスは取っていきたいなと。この2曲はおそらく、10月29日から始まるツアー[Lucky Kilimanjaro presents. TOUR "YAMAODORI 2023"]で演奏すると思うのですが、ツアー前に自分たちの姿勢をしっかりと曲にしておきたいという気持ちもありました。あとは僕自身、日々の生活や制作の中でモヤモヤすることや苦しむことがあったので、"悲しみといかに並走するか"という観点から曲を書きたいというふうに、自然となっていきました。

-ずっとバランスを取り続けている感じはありますよね。"楽しい"に振り切れそうになったら、ちゃんと悲しみを曲にするし、その逆も然り。

そうですね。やはり"楽しけりゃいい"と思いながら生きてはいないですし、かといって、はしゃぐことを否定しながら生きているわけでもないので。僕の生活には両輪があると思うので、その両輪をそのまま自分の楽曲に出力している感覚があります。

-1曲目の「無限さ」では、人と人との支え合いについて歌っていますね。"僕の心がこぼれたら/君はそのすきま 手を置く"という歌詞が印象的です。

誰かと支え合う感覚をダンス・ミュージックで歌うことに注力した曲です。僕はずっと"個人"という存在をいかに頑丈にさせるかを考えながら楽曲を作ってきたような気がしているんですけど、一方で僕らは個だけで存在していなくて。関係性の中で自分も相手も変化し続けるという、ある種不安定な状態にずっとある――という感覚が、活動を重ねていくなかでどんどん芽生えていったんです。

-そうなんですね。

はい。たぶん、いろいろな影響があると思います。読んでいる本の影響もそうですし、そもそもLucky Kilimanjaroはバンドであるし。バンド以上に、チーム、コミュニティという感覚です。お客さんも含め、みんなでひとつのライヴを作るという、ある種の繋がりの中で音楽が機能しているので。今年に入ってから「Burning Friday Night」という曲がいろいろな人に聴かれるようになって、コミュニティが大きくなっていっている実感もあったので、Lucky Kilimanjaroが、僕という存在がどのように外と繋がっているのか、ということについて考える機会がすごく多かったんだと思います。この曲では、誰かと繋がることに自分の幸福を見いだす感覚を"無限"と表現していて。"このコミュニティが成立しているのは僕個人の力ではない"、"みんなとの繋がりの中でダンス・ミュージックのカタルシスが生まれている"という実感があったので、その繋がりをしっかりと表現したくなったんです。

-そのテーマに向き合ったときに出てきたのが"無限"というワードだったと。

もともと、"これはずっと聴いていられるな"という曲を集めた"無限さ"というタイトルのプレイリストを作っていたんです。

-そのプレイリストにはどんな曲を入れていたんですか?

Tom MischがやっているSUPERSHYというダンス・ミュージック・プロジェクトが今年リリースした「Feel Like Makin' Love (feat. Roberta Flack)」という曲などです。「無限さ」は「Feel Like Makin' Love」から音楽的に影響を受けているわけではないのですが、楽曲のメッセージはここから派生していったものだと思います。"自分が「無限」だと思える状態はなんだろう?"と考え、"想いを共有できる他人がいて、繋がることで新しいことに挑戦できたり、面白いことをやれたりしている状態のことだろう"と思いながら作った曲ではあるので。