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LIVE REPORT

Japanese

amazarashi

Skream! マガジン 2018年12月号掲載

2018.11.16 @日本武道館

Writer 沖 さやこ

amazarashiは自身の心情を混じり気なく表現に落とし込み、その精度を高め続けてきた音楽家である。サポート・メンバー、アレンジャー、映像作家などamazarashiの表現に携わる人々もまた、彼らの表現を最大限に引き出せる方法を思案し、実行に移してきた。日本武道館公演は、これまでamazarashiが積み重ねてきたことをすべて持ち寄ったうえで、どんな新しいことができるかの"実験"だった。流行やセオリーとは違う文脈で着実にリスナーを増やしてきたamazarashiが、インディーズ・デビューから約10年半で辿り着いた日本武道館――それだけで物語として充分美しい。だがそれに留まらない表現空間を成し得ようとするバイタリティと決意こそ、amazarashiの音楽が進化し続けてきた大きな理由だろう。

この公演は秋田ひろむ(Vo/Gt)が書き下ろした小説"新言語秩序"を軸に展開された。作中に綴られている"抵抗活動"にリスナーが参加するという手法が取られ、事前に"新言語秩序"をテーマにしたシングル『リビングデッド』をリリースし、"検閲済み"のミュージック・ビデオをYouTube上にアップ、オリジナル・アプリの発表、物語とリンクしたポップアップ・ショップのオープンなど、リスナーたちの生活に"新言語秩序"という仮想空間が少しずつ溶け込んでいった。そして迎えた公演当日。日本武道館の中央に、LEDスクリーンで四角に囲われた要塞のようなステージがそびえ立つ。ステージを360度で取り囲んだ観客たちがアプリを起動させると、プログラムが作動して画面やライトが自動的に切り替わった。"新言語秩序の抵抗活動"の始まりである。

秋田ひろむは小説など物語を書く際、現代社会に対して思うことや感じることを仮想世界に落とし込み、問題提起をすると同時に自身の気持ちの置きどころや居場所を作ってきた人間だと思う。"言語を検閲し統制する組織と、それに抵抗する言葉ゾンビによる言葉のディストピア物語"は、強い言葉を放ち続けている彼にとって核心的な題材とも言えるだろう。"新言語秩序"に「ムカデ」、「カルマ」などの初期曲が組み込まれることで、彼の中にある"言葉と音楽の関係性"や"音楽においての言葉の在り方"も、この11年でだいぶ変化していることが窺えた。

秋田による"新言語秩序"の朗読とバンド演奏で物語は進んでいく。すべての楽曲で、歌詞と"新言語秩序"にリンクする映像が流れた。映像の題材になっていたのはSNS、動画サイト、道路や街などの看板、雑誌、履歴書、ライヴハウスのポスターやフライヤー、TV画面、デモのプラカードなど。この国はどこを見渡しても言葉や文字まみれであることを改めて実感させられた。秋田のヴォーカルは優しく鋭利でしなやかで、その気魄からも命を懸けて言葉を歌に乗せていることは明白だった。壮大な物語の背景には、彼らの生活と心が常に存在するのだ。1曲目の「ワードプロセッサー」から音と声を通じて、演奏者たちの高揚が朝焼けのように煌々と突き刺さってきた。

秋田が最後の曲の直前に読み上げた"新言語秩序"第4章のストーリーは、アプリで事前に公開された内容とは異なっていた。そこから間髪いれずに披露されたのは、CD収録時に"検閲済み"だった「独白」。検閲が解除された同曲は、秋田の言葉に対する思想が素直に、情熱的に覚悟を持って綴られていた。スクリーンの向こう側にいる秋田は、全身の力を振り絞って"言葉を取り戻せ"と叫び続ける。それは言葉の力を信じたいという強い願いのようにも思えた。その想いを全身に受け、自分が許されるような感覚になると同時に、なんとしてでもこの時代を生き抜きたいという意志がかき立てられ、気づけば自分の目からは涙が流れていた。アウトロの残響に観客の拍手と歓声が重なる。歓喜や歓迎、称賛、喝采で満たされた、壮観のエンドロール。amazarashiの成す表現の真髄を全身で体感する実験空間、実に見事だった。


[Setlist]
1. ワードプロセッサー
2. リビングデッド
3. 空洞空洞
4. 季節は次々死んでいく
5. 自虐家のアリー
6. フィロソフィー
7. ナモナキヒト
8. 命にふさわしい
9. ムカデ
10. 月が綺麗
11. 吐きそうだ
12. しらふ
13. 僕が死のうと思ったのは
14. 性善説
15. 空っぽの空に潰される
16. カルマ
17. 独白

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