前作から約2年の間にリリースされたシングル5作分が収録された3rdアルバム。美しいミディアム・チューン「calling」からブラスが空を舞うアッパー・チューン「青空のラプソディ」まで、曲調から、BPM、テンション、感情まで幅広いレンジの曲が揃っているが、その間をグラデーション的に埋める全14曲となった。できあがった1枚の地図には、音楽的な冒険者であるfhánaが精緻に彩った世界が描かれている。エヴァーグリーンなメロディを引き立てるソウル・フィーリングな曲、渋谷系タッチのミクスチャー精神が生きたラップ曲、またラスト曲は「It's a Popular Song」と名付けてfhánaのポップネスを凝縮し、ゆったりと大団円を迎える"みんなの歌"へ。陽性の余韻がさらに続いていく旅のはなむけとなっている。
キャッチーなのにプログレッシヴという、相反する音楽性や感覚を高次元でブレンドした、これぞfhánaというユニークさが炸裂している表題曲。EDM的なエフェクティヴなビートやシンセを隠し味のように使いつつ、曲の構成などはクラシック風で、快楽的なダンス・ミュージックには落とし込まずドラマチックに聴かせ、圧倒する曲になっている。アニメの主題歌でもあり、アーティスト盤とアニメ盤でカップリングの異なる形態となっているが、カップリングでも突き抜けた面白さを発揮。アニメ盤の「reaching for the cities」ではtowana(Vo)がラップを、アーティスト盤の「君の住む街」はグルーヴィで、BEN FOLDS FIVEを彷彿とさせる、テクニカルでユーモラスなピアノのロック・アンサンブルで聴かせる。多面的で自由度の高いシングルだ。
fhánaというバンドは変幻自在だ。2ndアルバム『What a Wonderful World Line』でも、4人それぞれのポテンシャルの高さを改めて思い知ったが、そこに続くこのシングルでもまたクリエイティヴでポップ偏差値の高い、それでいて普遍的なポップスとなりえるキャッチーな共通言語を備えた曲を、ポンと手渡してくれる。カップリング曲違いで、ふた通りの仕様(アーティスト盤/アニメ盤)でのリリースとなるが、アニメ盤のカップリング「アネモネの花」は、生音を重視したエアリーで、立体的なアンサンブルが新鮮な曲。情報量の多い、高密度の音で聴き手をどっぷり浸していくのとはまた違う、風のように、そっと包む感覚が心地いい。アーティスト盤には、アルバムでは英語詞だった「Relief」が日本語詞で収録され、言語を問わず鮮やかに聴かせる曲の魅力を再認識させられる。
グレーの単色の世界から、カラフルに色づいて躍動していく。その昂揚感を持った「The Color to Gray World」に始まり、全14曲、うつむく顔を引っ張り上げる曲が並ぶ2ndアルバム。細やかなアレンジが施され、ときにオーケストラのように、鍵盤とエレクトロ的な音響とバンド・サウンドが重厚に絡み合い、壮大なポップ・ワールドを生み出しているのはfhánaらしいところ。内省的な、心の陰りに寄り添う繊細さがあり、同時にとても爽やかに外へと飛び出し、風を浴びる感触も強い。towanaのハイトーン・ヴォイスも、風に乗る心地よいスピード感と晴れやかさが増している。ポジティヴな輝きを増した歌で、上手さよりもエモーショナルで高い温度が、今作では引き立っている。バンドとして、アクセルを踏み込んでリスナーの心に飛び込んでいくアルバムだ。
爽快でスピード感のあるサウンドと、towanaの抜けが良くエモーショナルなヴォーカルにつられ、叫びをあげて表へと駆け出したくなる。そんな衝動に駆られるエネルギーがこもった表題曲。曲の終盤になるにつれ、讃美歌のようなコーラスが入ってきて、その昂揚感もまたサウンドをドラマティックに彩る。テクニカルな音作りと構築的なアンサンブルによるハイパーなポップ・サウンドを生み出す4人だが、今回はよりバンドの高い熱量も露わだ。またデリケートな詩を紡ぐような「コスモスのように」での味わい深い余韻や、「c.a.t.」の軽やかに世界を旅するような音響感(ゲストで参加したthe band apartの原昌和による図太いベースも肝)にも、随所にこだわりがある。互いのアイディアを掛け算する彼らのアプローチがよく見える1枚。
"ビジュアル・ノベル""アニメ""インターネット"を共通項に持つ3名の男性サウンド・プロデューサーと、女性ヴォーカリストによる4人組、fhána。iTunesのNEW ARTIST 2014にも選出されるなど注目を集める彼らが、とうとう1stフル・アルバムをリリースする。それぞれのプロデューサーの価値観がぶつかり合うように、そして協調するように展開するサウンド・メイクは、ギターやキーボード、シンセだけではなく、プログラミングやストリングスなどまで、打ち上げ花火のようなインパクト。そしてポップスの王道と思いきや随所ではずしにかかる不安定なメロディが、強く可憐なヴォーカルと相まって、敏感な少女の感情そのもののようだ。全14曲、果敢にエネルギッシュに駆け抜ける。